【3241】 ○ 相米 慎二 (原作:村上政彦) 「あ、春 (1998/12 松竹) ★★★★

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山崎努が演じる"父"老人が破天荒で人間臭く面白い。死して後に何かを遺した?

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あの頃映画 「あ、春」 [DVD]」佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴

「あ、春」02.jpg 一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)は、ずっと自分は幼い時に父親と死に別れたという母親の言葉を信じて生きてきた。ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。ほとんど浮浪者としか見えないその男・笹一(山崎努)を、俄かには父親だと信じられない紘。だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。しかも、実家の母親・公代(富司純子)に相談すると、笹一はど「あ、春」04.jpgうしようもない男で、自分は彼を死んだものと思うようにしていたと言う。笹一が父親だと知った紘は、無碍に彼を追い出すわけにもいかず、同居する妻の母親・郁子(藤村志「あ、春」 8.jpg保)に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマン(木下ほうか)に暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れてきてしまう。図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは休まることがない。そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の実家の母・公代が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だと告白する。その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。医師(塚本晋也)の診断では、末期の肝硬変。笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。しばらくして、ついに紘の会社が倒産する―。

「ナイスボール」.jpg「あ、春」06.jpg '98年公開の相米慎二(1948-2001/享年53)監督のホームドラマ的作品で、第73回(1999年度)「キネマ旬報ベストテン」第1位、第49回ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作品。原作は村上政彦『ナイスボール』('91年/福武書店)。証券会社勤務のサラリーマン(佐藤浩市)で、良家の娘(斉藤由貴)と結婚し、一人息子をもうけ、義母(藤村志保)と同居する、そんな主人公の家庭に、5歳の時に死別したと母(富司純子)から聞かされていた父(山崎努)が突然の闖入者としてやって来たという話です。

「あ、春」山崎1.jpg この、山崎努が演じる"父"老人がなかなか破天荒で人間臭く面白いです。末期の肝硬変だとわかって入院生活を余儀なくされた彼と佐藤浩市演じる息子が、病院の屋上で船乗りの歌を歌って親子であることを感じるシーンは、美しかったです。結局、母親・郁子(藤村志保)の証言によれば、血は繋がっていないが、5歳まで一緒にいたため幼児記憶がある、つまり「心の父親」であるということでしょう。

「あ、春」山崎2.jpg その「心の父親」笹一が息を引き取り、紘(佐藤浩市)は死に目に会うことは叶いませんでしたが、笹一のお腹に、彼がこっそり温めて孵化したチャボの雛を見つけます(雛の孵化に失敗するというシチュエーションも用意されていたそうだが、それだと、「あ、春」というタイトルにならないのでは)。紘の会社は倒産しますが(1997年11月に自主廃業した山一証券がモデルか)、紘は既に、笹一のように強く生きていける自信を彼から授かったように見えます。

 ラストの笹一の遺体を荼毘に付した紘たちが、彼の遺灰を故郷の海に船に乗って撒くシーンも良かったです。妻・瑞穂(斉藤由貴)、義母・郁子(藤村志保)、母・公代(富司純子)、笹一の愛人・三林京子の4人の女性が、強風の中、髪を振り乱して散骨している様はなぜか仄々(ほのぼの)とした気持ちにさせられ、ユーモラスでもあります。何となく亡くなった笹一が、紘に限らず後の人々に何かを遺したことが感じられるラストでした。

「あ、春」05.jpg「あ、春」03.jpg「あ、春」富士d.jpg「あ、春」●制作年:1998年●監督:相米慎二●製作:中川滋弘●脚本:中島丈博●撮影:長沼六男●音楽:大友良英●原作:村上政彦「ナイスボール」●時間:100分●出演:佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴/藤村志保/富司純子/三浦友和/三林京子/岡田慶太/村田雄浩/原知佐子/笑福亭鶴瓶/塚本晋也/河合美智子/寺田農/木下ほうか/掛田誠●公開:1998/12●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-02-12)(評価:★★★★)

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This page contains a single entry by wada published on 2023年3月12日 06:18.

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