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岩下志麻主演の2作。一人二役がいい「古都」。酔っ払いシーンが見ものの「暖春」。

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<あの頃映画> 古都 [DVD]
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「談春」
「古都」01.jpg 京都平安神宮の咲いたしだれ桜の下で、佐田千重子(岩下志麻)は幼な友達の水木真一(早川保)に突然「あたしは捨子どしたんえ」と言う。呉服問屋の一人娘として何不自由なく育ったが、自分は店の前の弁柄格子の下に捨てられていたのだと...。とは言え、親娘の愛は細やかだった。父の太吉郎(宮口精二)は名人気質の人で、ひとり嵯峨にこもって下絵に凝っていた。西陣の織屋の息子・大友秀男(長門裕之)は秘かに千重子を慕っており、見事な帯を織り上げて太吉郎を驚かした。ある日千重「古都」02.jpg子は、清滝川に沿って奥へ入った北山杉のある村を訪ねた。そして杉の丸太を磨いている女達の中に自分そっくりの顔を見い出す。夏が来た。祇園祭の谷山に賑う四条通を歩いていた千重子は北山杉の娘・苗子(岩下志麻、二役)に出会った。娘は「あんた姉さんや」と声をふるわせた。千重子と苗子は双子の姉妹だった。しかし父も母もすでにこの世にはいない、と告げると苗子は身分の違うことを思い雑踏に姿を消した。「古都」03.jpgその苗子を見た秀男が千重子と間違えて、帯を織らせてくれと頼む。一方自分の数奇な運命に沈む千重子は、四条大橋の上で真一に声をかけられ兄の竜助(吉田輝雄)を紹介された。8月の末、千重子は苗子を訪ねた。俄か「古都」05s.jpg雨の中で抱きあった二人の身体の中に姉妹の実感がひしひしと迫ってきた。秋が訪れる頃、秀男は千重子に約束した帯を苗子のもとに届け、時代祭の日に再会した苗子に結婚を申し込む。しかし、苗子は秀男が自分の中に千重子の面影を求めていることを知っていた。冬のある日、以前から千重子を愛していた竜助が太吉郎を訪ねて求婚し、翌日から経営の思わしくない店を手伝い始めた。その夜、苗子が泊りに来た。二階に並べた床の中で千重子は言う。「二人はどっちの幻でもあらしまへん、好きやったら結婚おしやす。私も結婚します」と―。

『古都』新潮文庫.jpg「古都」スチル.jpg 中村登(1913-1981/67歳没)監督の1963(昭和38)年公開作で、川端康成の同名小説を忠実に映画化した文芸ロマンス。原作は川端康成が「朝日新聞」に1961(昭和36)年10月から翌1962(昭和37年)年1月まで107回にわたって連載したもので、1962年6月新潮社刊。京都各地の名所や史蹟、年中行事が盛り込まれた作品で、国内より海外での評価が高く、ノーベル文学賞の授賞対象作とされる作品です。(1968(昭和43)年、川端康成は日本人として初めてノーベル文学賞を受賞する。しかしその当時、受賞対象の作品名は発表されず、50年間非公開となっていた。ようやく2016(平成28)年に受賞作品が公開され、スウェーデンアカデミーは、受賞対象は「古都」(The Old Capital)であり、「まさに傑作と呼ぶにふさわしい」と絶賛した。(2017.1.4 日本経済新聞))

「古都」川端康成.jpg「古都」二役.jpg 映画化に際し、原作者の川端康成が撮影現場に足を運び、指導監修を手掛けており、その結果、静謐で繊細、情緒的な川端の世界を忠実に再現した作品になっています。映画の方も四季折々の美しい風景や京都の伝統を背景に、当時21歳の岩下志麻が二人の姉妹の二役を好演し、彼女の一人二役は自然かつ美しいと思いました。原作(読んだのはかなり前だが)の良さを(おそらく)損なっておらず、中村登監督の職人的な技量が感じられます。この作品は第36回米国「アカデミー賞外国語映画賞」にノミネートされています(後に1980年に市川崑監督、山口百恵主演で、2016年には Yuki Saito監督、松雪泰子主演でリメイク作品が撮られている)。

「古都」vhs.png 実は双子の姉妹だった千重子と苗子の生い立ちを比べると、千重子は呉服問屋の一人娘として何不自由なく育てられたお嬢さんで、一方の苗子は早くから北山杉の木場(製材所)における労働力として勤しみ苦労してきたはずなのに、二人が出会ってからずっと苗子の方が千重子に対して何か済まないような気持ちは抱いているのは、最初は身分差を感じて苗子が自分を卑下しているのかなと思ったりしましたが(確かに最初自ら千重子に会わないようにしたのはそのためだったが)、根っこのところでは、実親に捨てられたのが千重子の方で、実親の元に残されたのが自分だったからということだったのだなあ。

「古都」06w.jpg しっかり者の苗子に対して、お嬢さん育ちでおっとり気味の千重子でしたが、竜助(吉田輝雄)に店の番頭(田中春男)が不正を働いているのではと指摘され、少し変化が見られます。そして最後はしっかり番頭を問い詰めますが、この時の岩下志麻はちょっと「極妻」っぽかった、と言うか、それに繋がる雰囲気があり(当時まだ22)、「お嬢さん」と「強い女」の両方を演じられるところが、岩下志麻の強みと言うか、魅力だと思いました(一人二役だが、三役演じているみたい)。


「暖春」p.jpg 京都東山南禅寺に小料理屋「小笹」を出す佐々木せい(森光子)には、24歳になる娘・千鶴(岩下志麻)がいた。せいは、日頃親しくする西陣の織元・梅垣のぼん(長門裕之)との縁談を望んでいたが、千鶴は何か吹っ切れぬものを感じていた。そんな時、かつてせいが祇園の舞妓だった頃、せいのファンであった山口信吉(山形勲)が小笹を訪れた。大学教授だという山口を、格好の脱出先とみた千鶴は、母親の愚知を無視して、山口に連れられ上京した。途中、千鶴を連れて箱根に立寄った山口は、千鶴の亡父らと京大三人組と呼ばれた実業家の緒方(有島一郎)を紹介した。そこで緒方の秘書・長谷川一郎(川崎敬三)に紹介された千鶴は、洗錬された長谷川に好感を持つ。その晩千鶴のお酌で、学生時代に返った二人は、せいが千鶴の父と結婚した時に、既にせいのお腹の中には千鶴がおり、三人の内の誰の子供か判らないと冗談まじりに話した。その話は千鶴に秘かな母への不審を抱かせた。上京した千鶴は、山口や緒方の家に泊り、銀座で長谷川と飲み明かし、ますます長谷川に魅かれていった。ある日、結婚して上京している親友・金子三枝子(桑野みゆき)を訪れた千鶴は、ちょうど遊びに来ていたOLでかつての級友・長嶋節子(倍賞千恵子)に会って懐しい一日を過した。二人が自分の生活の範囲で、楽しく暮らしているのを知った千鶴は急に長谷川に会いたくなり、電話をしたが、長谷川にはすでに同棲している恋人・京子(宗方奈美)がいることを知り、千鶴はすっかり失望した。また緒方の浮気を目撃した千鶴は、東京でのめまぐるしい生活から、京都が懐しく思い出された。せいの心臓病発作で急拠京都へ帰った千鶴は、梅垣のぼんが店をきりもりする姿に、急に親しみを感じた。その夜、ぼんと結婚を決意した千鶴は、せいから出生の秘密を確かめると、初めて母娘の情愛が交流するのを感じた。大安吉日、千鶴は美しい花嫁姿でせいの前に立った―。

「暖春」01.jpg 中村登監督の1965年作で、里見弴と小津安二郎の原作を中村登が脚色・監督した青春もの。撮影は「夜の片鱗」の成島東一郎。岩下志麻が、嫁入り前の娘の心の揺らぎを演じており、中村登版「秋刀魚の味」('62年/松竹)といったところでしょうか

 里見弴と小津安二郎の原作だと、後期の小津作品の「嫁に行く・行かない」と似たような話にどうしてもなってしまうのだなあ。ヒロイン・千鶴の父親とその友人たちも、小津映画が「東大三人組」ならばこちらは「京大三人組」で状況設定がよく似ています。「秋刀魚の味」は笠智衆・中村伸郎・北竜二がかつて中学の同級だったという設定でしたが、こちらはヒロインの父親はすでに亡くなっていて、後の二人は山形勲と有島一郎です。

 森光子演じる千鶴の母親は元・祇園の芸妓で、千鶴を妊娠した頃「三人組」のいずれとも行き来があったらしく、千鶴は自分の本当の父親は誰なのか知りたく思い、結構彼女としては思い切った行動に出たりしますが、最後は「誰だっていいじゃない」ということでした。

「暖春」022.jpg 当時24歳の岩下志麻がキュートに酔っ払ってるシーンは見もの。考えてみれば岩下志麻は銀座生まれの吉祥寺育ちで、東京っ子の彼女が、京言葉をこなしてお御転婆な京娘を演じているわけで、やはりこの頃から演技力がありました。

倍賞千恵子/桑野みゆき/岩下志麻
 
 
 

岩下志麻(呉服問屋丸太屋の一人娘・佐田千重子(北山杉の村娘・苗子と一人二役))/長門裕之(帯織職人の息子・大友秀男)
「古都」p.jpg「古都」岩下 長門.jpg「古都」●制作年:1963年●監督・脚色:中村登●製作:桑田良太郎●脚本:権藤利英●撮影:成島東一郎●音楽:武満徹●原作:川端康成●時間:106 分●出演:岩下志麻/宮口精二「古都」sb.jpg/中村芳子/吉田輝雄/柳永二郎/長門裕之/環三千世/東野英治郎/浪花千栄子/田中春男/千之赫子●公開:1963/01●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-06-27)(評価:★★★★)
「古都」スチル2.jpg「古都」岩下・宮口.jpg 岩下志麻/宮口精二(呉服問屋丸太屋の主人・佐田太吉郎)
 
 
 
「暖春」●英題:SPRINGTIME●制作年:1965 年●監督・脚色:中村登●製作:佐々木孟●撮影:成島東一郎●音楽:山本直純●原作:里見弴/小津安二郎●時間:93分●出演:森光子/岩下志麻/山形勲/三宅邦子/太田博之/有島一郎/乙羽信子/早川保/桑野みゆき/倍賞千恵子/川崎敬三/宗方奈美/長門裕之/三ツ矢歌子/呉恵美子/岸洋子/志賀真津子●公開:1965 /12●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-08-19)(評価:★★★)

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映画的終わり方にしてしまい小説に比べインパクトが弱かったが、傑作には違いない。

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あの頃映画 「事件」 [DVD]」「あの頃映画 the Best 松竹ブルーレイ・コレクション 事件 [Blu-ray]

「事件」 キャスト.jpg 神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、一年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子(松坂慶子)だった。数日後、警察は19歳の造船所工員・上田宏(永島敏行)を犯人として逮捕する。宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。警察の調べによると、宏はハツ子の妹・ヨシ子(大竹しのぶ)と恋仲であり、彼女はすでに妊娠3ヵ月であった。宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、二十歳になってから結婚しようと計画していた。しかし、ハツ子はこの秘密を知り、子供を中絶するようにと二人に迫った。ハツ子は宏を愛し、ヨシ子に嫉妬していた。その頃ハツ子には宮内(渡瀬恒彦)というやくざのヒモがいた。彼女は宮内と別れて、宏と結婚し、自分を立ち直らせたいと思っていたのだった。ハツ子が親に言いつけると宏に迫った時、彼はとっさに登山ナイフをかまえて彼女を威嚇した。宏が一瞬の悪夢から覚めて気がついた時、ハツ子は血まみれになって倒れていた。上田宏は逮捕され、検察側の殺人、死体遺棄の冒頭陳述から裁判が開始された―。

「事件」02.jpg 大岡昇平による原作を野村芳太郎監督、新藤兼人脚本で映画した1978年公開作。日本アカデミー賞「作品賞」、毎日映画コンクール「日本映画大賞」、「文化庁芸術選奨」(野村芳太郎、「鬼畜」とセット受賞)受賞。

 進行する裁判のシーンに回想が断片的に挿入され真実が明らかになると同時に、事件に潜む人間の虚実や姉妹の葛藤を浮き彫りにしていくという構図。ただし、奇を衒うような実験的表現は無く、いい意味で大衆目線の作り方になっています。

「事件」松坂・渡瀬.jpg「事件」渡瀬.jpg 清楚なイメージが定着していた松坂慶子が汚れ役に挑戦しているほ「事件」佐分利.jpgか、野村芳太郎監督をして天才と言わしめた大竹しのぶの演技も見もの(同年のドラマ版(1978/04 NHK)で同じ役を演じていた)。ヒモ男を演じた渡瀬恒彦や、そのほかの演技陣も充実しており、弁護人の丹波哲郎の、証言台に立つ北林谷栄や森繁久彌といった芸達者との掛け合いも愉しめます。その丹波哲郎演じる弁護士と芦田伸介演じる検事を前に、裁判長としての威厳と貫録を見せた佐分利信の演技はさすがでした。

 原作も映画も、つまりは「殺人」か「傷害致死」かを争うだけの話なので、裁判ものと言っても、E.S.ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズ及びそのドラマ化作品のようなミステリとはまったく趣を異にしますが、原作にはラストで思わぬ被告人の告白、言わば「大どんでん返し」があります(これは大岡昇平がラストを当初の構想から変えたことにより生まれたという)。

 映画は映像表現なので、「殺人」か「傷害致死」かということについてはどちらともとれる見せ方になっています。そして、ラスト。原作と同じく、永島敏行演じる元被告人はある告白をしますが、丹波哲郎演じる弁護士はそれを「罪悪感からくる思い込み」とあっさり片付けてしまっています。これは所謂「映画的」「検閲的」修正なのでしょうか。ここの所が原作の肝(キモ)ではなかったかと思うのですが。

 新藤兼人(1912年生まれ)は自分の脚本を勝手に直されると怒る脚本家として有名でしたが、野村芳太郎(1919年生まれ)だけには任せていたようです。よって、最後の丹波哲郎の軽いあしらい方はどちらの考えなのか分かりません。こうした終わり方となっているため、小説に比べインパクトが弱かったですが、映画としても傑作であるには違いないと思います。

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「事件」●制作年:1978年●監督: 野村芳太郎●製作:野村芳太郎/織田明●脚本:新藤兼人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●原作:大岡昇平●時間:138分●出演:丹波哲郎/芦田伸介/大竹しのぶ/「事件」クレジット.jpg永島敏行/サスペンスな女たち.jpg松坂慶子/渡瀬恒彦/山本圭/夏純子/佐野浅夫/北林谷栄/乙羽信子/西村晃/佐分利信/森繁久彌/中野誠也/磯部勉/浜田寅彦/丹古母鬼馬二/早川雄二/穂積隆信/山本一郎●公開:1978/06●配給:松竹●最初に観た場所(再見):神田・神保町シアター(23-06-30)(評価:★★★★) 

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恐るべき内容ながらも、抑制の効いた知的で簡潔・骨太の文体。男性的な印象を受けた。

海神丸 野上.jpg海神丸3.JPG海神丸 野上弥生子.jpg  「人間」1962.jpg
岩波文庫旧版/『海神丸―付・「海神丸」後日物語 (岩波文庫)』新藤兼人監督「人間 [DVD]」(原作『海神丸』)
野上弥生子(1885-1985/享年99)
野上彌生子集 河出書房 市民文庫 昭和28年初版 野上弥生子.jpg野上弥生子.jpg 1916(大正5)年12月25日早朝、「船長」ら男4人を乗せ、大分県の下の江港から宮崎県の日向寄りの海に散在している島々に向け出航した小帆船〈海神丸〉は、折からの強風に晒され遭難、漂流すること数十日に及ぶに至る。飢えた2人の船頭「八蔵」と「五郎助」は、船長の目を盗んで船長の17​歳の甥「三吉」を殺し、その肉を喰おうと企てる―。

野上彌生子集 河出書房 市民文庫 昭和28年初版(「海神丸」「名月」「狐」所収)

『海神丸』.JPG 1922(大正11)年に野上弥生子(1885-1985/享年99)が発表した自身初の長編小説で、作者の地元で実際にあった海難事故に取材しており、本当の船の名は「高吉丸」、但し、57日に及ぶ漂流の末、ミッドウエー付近で日本の貨物船に救助されたというのは事実であり、その他この小説に書かれていることの殆どは事実に即しているとのことです。

 救出された乗組員は3人で、あとの1人は漂流中に"病死"したため水葬に附したというのが乗組員の当時の証言ですが、何故作者が、そこに隠蔽された忌まわしい出来事について知ることが出来たかというと、物語における船長のモデルとなった船頭が、たまたま作者の生家に度々訪ねてくるような間柄で、実家の弟が彼の口から聞いた話を基に、この物語が出来上がったとのことです。

 岩波文庫の「海神丸」に「『海神丸』後日物語」という話が附されていて、作品発表から半世紀の後、海神丸を救助した貨物船の元船員と偶然にも巡り合った経緯が書かれている共に、救出の際の事実がより明確に特定され、更には、船長らの後日譚も書いていますが(作者と船長はこの時点では知己となっている)、この作品を書く前の事件の真相の情報経路は明かしていません(本編を読んでいる間中に疑問に思ったことがもう1つ。この小説が発表されたのは、救出劇から5年ぐらいしか経っていない時であり、殺人事件として世間や警察の間で問題にならなかったのだろうか)。

 大岡昇平の『野火』より四半世紀も前に"人肉食"をテーマとして扱い、恐るべき内容でありながらも(この物語が「少年少女日本文学館」(講談社)に収められているというのもスゴイが)、終始抑制の効いた、知的で、簡潔且つ骨太の文体。作者は造り酒屋の蔵元のお嬢さん育ちだったはずですが、まるで吉村昭の漂流小説を読んでいるような男性的な印象を受けました。

 「大切なのは、美しいのは、貴重なのは知性のみである」とは、作者が、この作品の発表の翌年から、亡くなる半月前まで60年以上に渡って書き続けた日記の中にある言葉であり、作者の冷徹な知性は、「『海神丸』後日物語」において、"人肉食"が実際に行われた可能性を必ずしも否定していません。
 
海神丸 野上弥生子 新藤兼人「人間」.jpg 尚、この作品を原作として、新藤兼人監督が「人間」('62年/ATG)という作品を撮っています(新藤監督初のATG作品である)。

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人間 [DVD]
乙羽信子/山本圭/殿山泰司/佐藤慶
  
「人間」山本圭(三吉)/殿山泰司(船長・亀五郎)/佐藤慶(八蔵)/乙羽信子(五郎助)
「人間」 殿山泰司山本圭.jpg「人間」 乙羽信子/佐藤慶.jpg 主要な登場人物は遭難した4人ですが、殿山泰司(船長・亀五郎)、乙羽信子(五郎助)、佐藤慶(八蔵)、山本圭(三吉)、という配役で、「三吉」を殺し、その肉を喰おうと企てる「五郎助」が女性に置き換えられ、それを乙羽信子が演じ人間 (映画) 2.jpgています(乙羽信子の役は海女という設定)。それ以外は基本的に原作に忠実ですが、最後に原作にはない結末があり、五郎助と八蔵が精神的に崩壊をきたしたような終わり方でした(罪と罰、因果応報という感じか)。名わき役・殿ninngen  1962.jpg山泰司の数少ない主演作であり、殿山泰司と乙羽信子の演技が光っているように思いました(殿山泰司は好演、乙羽信子は怪演!)。この時のロケ撮影の様子は、名エッセイストでもある殿山泰司が『三文役者あなあきい伝〈part 2〉』('80年/講談社文庫)で触れていてますが、これがなかなか興味深いです(その後、『殿山泰司ベスト・エッセイ』('18年/ちくま文庫)にも収められた(p146))
   
人間 (映画) 1962.jpg「人間」●制作年:1962年●監督・脚本・美術:新藤兼人●製作:絲屋寿雄/能登節雄/湊保/松浦栄策●撮影:黒田清巳●音楽:林光0人間 佐藤慶.png人間 (映画)1.jpg●原作:野上弥生子「海神丸」●時間:100分●出演:乙羽信子/殿山泰司佐藤慶/山本圭/渡辺美佐子/佐々木すみ江/観世栄夫/浜村純/加地健太郎/村山知義●公開:1962/11●配給:ATG(評価:★★★★)

【1929年文庫化・1970年改版[岩波文庫]/1962年再文庫化[角川文庫]】

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森田作品は出来にムラあり(?)。80年代前半の松田優作と秋吉久美子がいい。

家族ゲーム(ポスター).jpg 家族ゲーム.jpg   森田 芳光 「それから」.jpg  の・ようなもの.jpg   ウィークエンド・シャッフル.png
「家族ゲーム」チラシ/「家族ゲーム [DVD]」「それから [DVD]」 「の・ようなもの [DVD]」「映画パンフレット 「ウィークエンド・シャッフル」監督 中村幻児 出演 秋吉久美子/泉しげる/風間舞子/池波志乃/秋川リサ/渡辺えり子

家族ゲーム1.jpg「家族ゲーム」2.jpg「家族ゲーム」1.jpg 森田芳光(1950-2011)監督・脚本の「家族ゲーム」('83年/ATG)は、家族が食卓に横一列に並んで食事するシーンなど凝ったカットの多い作品でしたが、個人的には、川沿いの団地へ松田優作(1949‐1989/享年40)が演じる家庭教師が小舟に乗って赴く冒頭シーンと、教え子が無事に志望校に合格した後の家族全員の食事の席で、その家庭教師が食卓をぐちゃぐちゃにしてしまうラストが印象的でした。
Kazoku gêmu (1983)
Kazoku gêmu (1983) .jpg 冒頭シーンはアクション映画のパロディ(?)。ラストはかなり唐突な気もしましたが、おそらく家族が一緒に後かたずけをすることを余儀なくされ、その結果初めて家族が一体となる―という、ある意味、カタストロフィではなくハッピーエンドと見るべきなのかもしれません。全体を通して、松田優作のぼそぼそっと小声で早口で話す演技は、映画の家庭教師の特異なキャラクターとよくマッチしていたように思います(第57回「キネマ旬報ベスト・テン」第1位作。第5回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作。森田芳光監督は、その演出・脚色に対して「芸術選奨新人賞」を受賞)。

探偵物語 松田優作.jpg 松田優作は、翻訳家でハードボイルド作家でもある小鷹信光(1936-2015)の原案によるNTV系ドラマ「探偵物語」や、作家赤川次郎薬師丸ひろ子のために書き下ろした小説探偵物語 パンフレット.jpg探偵物語.jpgが原作である根岸吉太郎監督の映画「探偵物語」('83年/角川春樹事務所)で見せたような、コミカルな面のある軽めのキャラクターがハマっていたように思い、また彼自身、自然体でそうした役柄を演じているように感じました。

 映画「探偵物語」('83年)予告/音楽:加藤和彦(主題歌:薬師丸ひろ子)
探偵物語 松田優作 薬師丸ひろ子11.pngtantei-thumb-240x131-8361.jpg 「探偵物語」はTV版に比べて映画の方のストーリーはイマイチで(TV版「探偵物語」とは全く別物の話。先にも述べたように、テレビは小鷹信光が原案者、映画は赤川次郎原作なので違って当然だが)、恋愛ドラマ的要素が入る分、薬師丸ひろ子の演技力不足が痛く、澤井信一郎監督の 「Wの悲劇」('84年/角川春樹事務所)より前の彼女の演技は素人並Wの悲劇.jpgみではなかったでしょうか。「セーラー服と機関銃」('82年/角川春樹事務所)では相米慎二(1948-2001)監督の魔術的演出に救われていましたが、「探偵物語」では、岸田今日子のような演技達者を起用して脇を固めようとしてはいるものの、そんな演技未熟の薬師丸ひろ子を相手に演技している松田優作の苦闘ぶりが目につきました。玉川大学文学部就学のため一時芸能活動を休止していた薬師丸ひろ子の復帰第一弾を角川事務所が企画した作品であり、あくまでも薬師丸ひろ子が主人公の探偵(ごっこ)物語であって、脇だけ固めても主役があまりに未熟では...。それでも映画はヒットし、ラストの新東京国際空港での松田優作と薬師丸ひろ子の"身長差30センチ"キスシーンは当時話題となったのは、彼女がアイドルとしていかに人気があったかということでしょう。松田優作に関して言えば、TV版の方がハードボイルド・ヒーローでありながらずっこけたような面があるという点で、より"優作らしい"演技だったと言えるかも。

Wの悲劇 薬師丸 三田.jpg 薬師丸ひろ子が舞台女優を目指す劇団員を演じた「Wの悲劇」は、夏樹静子(1938- 2016)の原作は劇中劇として用いられているだけで、ストーリーは別物です("原作者"の夏樹静子氏は、劇場にこの作品を観に行って初めてそのことを知り、唖然としたという)。劇団の演出家蜷川幸雄.jpg役で蜷川幸雄(1935-2016)が出演し、実際に劇中劇の演出も担当しています。三田佳子がベテランらしい渋い演技を見せ(日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞)、薬師丸ひろ子もそれに触発されwの悲劇 高木美保.jpg演技開眼したのか、そう悪くない演技でした(高木美保の映画デビュー作でもあり、主人公を陥れようとする敵役だった)。夏樹静子の原作は、その後、テレビドラマとしてそれそれアレンジされながら繰り返し作られることとなります('83年TBS(秋吉久美子主演)、'86年フジテレビ(高峰三枝子主演)、'01年テレビ東京(名取裕子主演)、'10年TBS(菅野美穂主演)、'12年テレビ朝日(武井咲主演))。

時をかける少女 1983 併映.jpg 因みに、「探偵物語」と「Wの悲劇」の併映作品はそれぞれ「時をかける少女」('83年/角川春樹事務時をかける少女 1983 2.jpg所)、「天国にいちばん近い島」('84年/角川春樹事務所)でした。共に大林宣彦監督、原田知世主演で、「時をかける少女」は、原作は筒井康隆が学習研究社の「中三コース」1965(昭和40)年11月号にて連載開始し、「高一コース」1966(昭和41)年5月号まで全7回掲載したものであり、原田知世の映画デビュー作でした。 筒井康隆「時をかける少女」長尾みのる.jpg配役発表の時点では原田知世は当時圧倒的人気を誇っていた薬師丸ひろ子「時をかける少女」図1.jpgのアテ馬的存在でしたが、「時をかける少女」一作で薬師丸ひろ子と共に角川映画の二枚看板の一つになっていきます。「時をかける少女」は筒井康隆の原作の舞台を尾道に移して、大林監督の「尾道三部作」(他の2作は「転校生」「さびしんぼう」)の第2作目という位置づけになっていますが、後に「SFジュブナイルの最高傑作」とまで言われるようになった原作に対し、原田知世の可憐さだけでもっている感じの映画になってしまった印象がなくもない作品でした。

「時をかける少女」主題歌作詞・作曲:松任谷由実/筒井康隆『時をかける少女』('72年/鶴書房盛光社・SFベストセラーズ)カバー:長尾みのる/挿絵:谷俊彦/解説:福島正実

大林宣彦 転校生8.jpg「転校生」vhs.jpg 「尾道三部作」の中でいちばんの秀作と思われる「転校生」('82年/松竹)に比べるとやや落ちるでしょうか。「転校生」は、原作は山中恒(この人も「高一コース」とかにちょっとエッチな青春小説を連載していた)の『おれがあいおれがあいつであいつがおれで.jpgつであいつがおれで』で、旺文社の「小6時代」に1979年4月号から1980年3月号まで連載されたもの。男の子と女の子が0転校生 1982.jpg神社の階段から転げ落ち、そのはずみで心と身体が入れ替わってしまう話ですが、二人が入れ替わるまでをモノ田中小実昌 .jpgクロで、入れ替わってからはカラーで描き分け、また8ミリ映像も効果的に挿入しながら、古き良き町・尾道を魅力的に活写していました。この作品にはまだ、自主制作映画のようなテイストがあったなあ。第4回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作(田中小実昌(1925-2000)が「喜劇映画ベスト10」に選んでいたことがある)。
山中 恒『おれがあいつであいつがおれで (旺文社創作児童文学)』['80年/旺文社]

 「転校生」は公開当時はそれほど注目されませんでしたが、「時をかける少女」の方は、角川の「探偵物語」との抱き合わせでの宣伝活動もあってヒットし、角川では'97年に白黒映画でリメイク作品が作られましたが個人的には未見、'06年には細田守監督によるアニメ映画も作られました。細田守監督のアニメ「時をかける少女」は、原作の出来事から約20年後を舞台に、原作の主人公であった芳山和子の姪である紺野真琴が主人公として繰り広げる青春ドラマになっています(原作:筒井康隆となっているが中身は別物と言っていい)。筒井康隆は「新しく付け加えられたシチュエーションというのは、突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める」としながらも、「本当の意味での二代目」とコメントしています。また、富野由悠季は「演出が優れており、実写より上手くまとまっている」としながらも、「高校生しか出てこないのでただの風俗映画に見える、キャラクターが活かしき時をかける少女 (2006).jpg時をかける少女 2006 2.jpgれていない」としていますが、(昨年['08年]7月にCXで2度目のテレビ放映されたのを観た)個人的感想は筒井氏の前者と富野氏の後者に近いでしょうか。主人公たちの「告白したい!」という台詞が「SEXしたい!」と自分には聞こえるとまで富野由悠季は言い切りましたが、鋭い指摘だと思います('10年に更にそのアニメの実写版のリメイクが作られている(主演はアニメ版の主人公の声を務めた仲里依紗)。'16年に日本テレビでテレビドラマ化された「時をかける少女」はまたオリジナルに戻っている(主演は黒島結菜)。テレビドラマ化はこれが5回目になる)
時をかける少女 限定版 [DVD]

天国にいちばん近い島 Wの悲劇s.jpg天国に一番近い島 2.jpg 「Wの悲劇」の併映作品だった「天国にいちばん近い島」は、個人的にはイマイチもの足りない映画でしたがこれもヒットし、舞台となったニューカレドニアに初森村桂.jpgめてリゾート・ホテルが建ったとか(バブルの頃で、日本人観光客がわっと押しかけた)。原作者・森村桂(1940-2004)が行った頃はリゾート・ホテルなど無かったようです。舞台は美しいけれど、バブルは崩壊したし、原作者が自殺したということもあって、今となってはちょっと侘しいイメージもつきまとってしまいます(森村桂の自殺の原因はうつ病とされている)。

「それから」松田優作/小林薫
それから [DVD].jpgそれから 松田優作/小林薫.jpg 「家族ゲーム」の後、松田優作が森田芳光監督と再び組んだ「それから」('85年/東映)は、評論家の評価は高かったですが(松田優作は文芸作品はこれが初めてではなく、「家族ゲーム」「探偵物語」の前年、泉鏡花原作、鈴木清順監督の「陽炎座」('81年/日本ヘラルド映画)で文芸作品デビューを果たしており、既に高い評価を得ていた)、個人的にはミスキャストだったように思え(何だか肩に力入り過ぎ)、松田優作や小林薫のロボットのような独特のエロキューションもちょっと違和感が感じられたし、作品自体も漱石の原作のイメージ(勝手に自分が抱いているイメージだが)とやや食い違ったものになってしまったような気がします。

 

「の・ようなもの」(1981 ヘラルド).jpgの・ようなもの1.jpg 森田芳光監督には、「の・ようなもの」('81年/N.E.W.S.コーポレーション)というある若手の落語家の日常と恋を描いた劇場用映画デビュー作があり、映画のつくりそのものはやや荒削りな面もありましたが、落語家の世界の描写に関しては丹念な取材の跡がみてとれ(森田監督は日大落研出身)、落語家志望の青年に扮する伊藤克信のとぼけた個性もいいし、彼が通うソープ嬢エリザベス役の秋吉久美子も"軽め"のしっとりした演技で好演しています(第3回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作)。

愛と平成の色男/.jpg愛と平成の色男.png 愛と平成の色男/バカヤロー2.jpg「愛と平成の色男/バカヤロー!2 幸せになりたい。」
財前直見 写真集「とってもいいよ!」.jpg武田久美子 1989 .bmp 結局、森田芳光という監督の演出力はよくわかりません。監督の力量なのか役者のお陰なのか...。「愛と平成の色男」('89年/松竹)などは、ストーリーもどうしょうもないし(石田純一にぴったりとも言えるが)、役者もみんな下手くそなのに、結果として、当時はグラビアアイドルで、役者としては殆ど新人に近かった鈴木保奈美、財前直美、鈴木京香、武田久美子の4人を女優としていっぺんに発掘したことになっているし...映画初出演だった鈴木京香などは、この映画の出演を機にNHKの朝の連ドラに抜擢されています。
とってもいいよ!―財前直見写真集』(1988/11)/『マイディア ステファニー―武田久美子写真集』(1989/09)
鈴木保奈美/鈴木京香
鈴木保奈美.jpg鈴木京香2.jpg 鈴木保奈美はカネボウのCMモデル、財前直美は東亜国内航空の沖縄キャンペーンガール、鈴木京香はカネボウの水着キャンペーンガール出身。少女モデルから歌手になった武田久美子は中学生時代の1981年11月、東大駒場祭「第2回東大生が選ぶアイドルコンテスト'81」に自身で応募し、総数1263人の中で優勝、「東大生が選んだアイドル」として一時人気を博し、後に「逆噴射家族」('84年/Aシャッフル 1983.jpgTG)を撮る石井聰亙監督の34分の短編映画「シャッフル」('81年/ATG)にヒロインとして映画初出演(製作は'81年12月、一般劇場公開は'83年秋)したりしたものの、やがてマイナーに(「シャッフル」は大友克洋の短編漫画「RUN」の映画化で、自分を裏切った女を殺したチンピラと、彼を追う刑事の話で、日本版43才でもなぜ武田久美子でいられるのか.jpg「タクシードライバー」とも言われたが、個人的にはよくわからなくてイマイチ)。それが、昭和が終わったこの年に刊行された"貝殻ビキニ"の写真集が売れに売れて人気復活。この頃は、CMもグラビアも撮影と言えば3泊4日でハワイでというのが当たり前のバブル期でした。時の流れを感じますが、武田久美子だけ今もって肉体派路線を継続中? 「シャッフル [DVD]
43才でもなぜ武田久美子でいられるのか: 美ホルモンをアップして更年期を迎え撃つ』['11年]

 因みに、「愛と平成の色男」と併映の「バカヤロー!2 幸せになりたい。」('89年/松竹)は、森田監督の製作総指揮・脚本による4人の若手監督によるオムニバスで、岩松了監督(第3話)のチェッカーズの藤井郁弥が、山のようなレコードを抱え、CD全盛の世に取り残された男に扮する「新しさについていけない」と、成田裕介バカヤロー2 幸せになりたい 新しさについていけない.jpgバカヤロー2 幸せになりたい 女だけがトシとるなんて.jpg監督(第4話)の山田邦子が再就職に苦戦するハイミスに扮した「女だけがトシとるなんて」が良かったように思います。あとの2話は、本田昌広監督(第1話)の小バカヤロー2 幸せになりたい 小林.jpg林稔侍が家族のためにとったニューカレドニア旅行のチケットを会社から顧客に回すように言われた旅行代店社員を演じた「パパの立場もわかれ」と、堤真一が深夜のバカヤロー!2 堤.jpgコンビニでバイトしてお客の扱いで頭を悩ますうちに妄想ノイローゼになっていく男を演じた鈴木元監督(第二話)の「こわいお客様がイヤだ」(堤真一にとっては初主演映画。他に爆笑問題の太田光・田中裕二が映画初出演、太田光は後に「バカヤロー!4」('91年)の第1話を監督している)でした。

ウィークエンド・シャッフル 秋吉久美子.jpgウィークエンド・シャッフル(1982) ぴあ.gif 秋吉久美子は柳町光男監督の「さらば愛しき大地」('82年/プロダクション群狼)のような重い作品でその演技力を見せつける一方、ピンク映画出身の中村幻児監督の「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)では、「の・ようなもの」以上に軽いノリで演じています。強盗(泉谷しげる)が主婦らに児童誘拐犯と間違えられ、さらに主婦(秋吉久美子)の偽夫の役回りを演じさせられるというハチャメチャなストーリーの原作は筒井康隆で、秋吉久美子、池波志乃、秋川リサら女ウィークエンド・シャッフル 秋吉久美子 泉谷しげる.jpgウィークエンド・シャッフル スチール.jpg優陣が惜しげもなく脱いでいますが、スラップスティク・コメディ調であるためにベタベタした現実感がなく、さらっと乾いた感じの作品に仕上がっています(ただ、原作のシュールな雰囲気までは出し切れていないか)。秋吉久美子って「70年代」というイメージのある女優ですが、80年代の作品を観ても、演技の幅が広かったなあと改めて思わされます。
「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)(秋吉久美子/泉谷しげる) 
「ウィークエンド・シャッフル」9.jpg「ウィークエンド・シャッフル」T.jpg
 

「家族ゲーム」12.jpg「家族ゲーム」●制作年:1983年●監督・脚本:森田芳光●製作:佐々木志郎/岡田裕/佐々木史朗●撮影:前田米造●原作:本間洋平「家族ゲーム」●時間:106分●出演:松田優作伊丹十三/由紀さおり/宮川一朗太/辻田順一/松金よね子/岡本かおり/鶴田忍/戸川純/白川和子/佐々木志郎/伊藤克信/加藤善博/土井浩一郎/植村拓也/前川麻子/渡辺知美/松野真由子/中森いづみ/佐藤真弓/小川隆宏●公開:1983/06●配吉祥寺パーキングプラザ.jpgテアトル吉祥寺.jpg吉祥寺ピカデリー.jpg給:ATG●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (84-02-11)(評価:★★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)
テアトル吉祥寺 (1999年〜吉祥寺ピカデリー) 1979年、吉祥寺パーキングプラザ(右写真・現)地下1階にオープン。2000(平成12)年5月22日閉館

探偵物語38.jpg探偵物語 松田優作 dvd.jpg「探偵物語」(TVドラマ)●演出:村川透/西村潔/澤田幸弘/長谷部安春/加藤彰/小澤啓一/小池要之助●制作:伊藤亮爾/紫垣達郎/山口剛●脚本:丸山昇一/那須真知子/佐治乾/柏原寛司/宮田雪●音楽:鈴木清司●原案:小鷹信光●出演:松田優作/成田探偵物語 松田優作2.jpg探偵物語 倍賞美津子.jpg三樹夫/山西道広/竹田かほり/ナンシー・チェニー/平田弘美/橘雪子/重松収/倍賞美津子/佐藤蛾次郎/中島ゆたか/片桐竜次/草薙幸二郎/清水宏/広京子/川村京子/三原玲奈/真辺了子/戸浦六宏/熊谷美由紀(松田美由紀)●放映:1979/09~1980/04(全27回)●放送局:日本テレビ

左から竹田かほり、倍賞美津子、松田優作、ナンシー・チェニー

探偵物語 熊谷美由紀.jpg
第1話「聖女が街にやって来た」 松田優作/熊谷美由紀(松田美由紀)

岸田今日子/秋川リサ
探偵物語 .jpg探偵物語 松田優作 薬師丸ひろ子ru1.jpg探偵物語 長谷沼君江/岸田今日子1.jpg秋川リサ2.jpg 「探偵物語」●制作年:1983年●監督:根岸吉太郎●製作:角川春樹●脚本:鎌田敏夫●撮影:「探偵物語」岸田.jpg仙元誠三●音楽:加藤和彦(主題歌:薬師丸ひろ子)●原作:赤川次郎●時間:106分●出演:薬師丸ひろ子/松田優作/秋川リサ/岸田今日子/北詰友樹/坂上味和/藤田進/中村晃子/鹿内孝/荒井注/蟹江敬三/財津一郎/三谷昇/林家木久蔵/ストロング金剛/山西道広/清水昭博/榎木兵衛/加藤善博/草薙良一/清水宏●公開:1983/07●配給:角川春樹事務所●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★☆)●併映:「時をかける少女」(大林宣甦れ!東急名画座3.jpg甦れ!東急名画座1.jpg東急文化会館.jpg東急名画座 1.jpg彦) 東急名画座 (東急文化会館6F、1956年12月1日オープン、1986年〜渋谷東急2) 2003(平成15)年6月30日閉館
 
 
 
Wの悲劇 [DVD].jpg「Wの悲劇」●制作年:1984年●監督:澤井信一郎●製作:角川春樹●脚本:荒井晴彦/澤井信一郎●撮影:仙元誠三●音楽:久石譲(主題歌:薬師丸ひろ子)●原作:夏樹静子●時間:108分●出演:薬師丸ひろ子/三田佳高木美保 Wの悲劇.jpg子/世良公則/三田村邦彦/仲谷昇/高木美保/蜷川幸雄/清水浩治/内田稔/草薙二郎/南美江/絵沢萠子/藤原釜足/香野百合子/志方亜紀子/幸日野道夫/西田健/堀越大史/渕野俊太/渡瀬ゆき●公開:1984/12●配給:東映/角川春樹事務所●最初に観た場所:新宿武蔵野館 (85-01-15)(評価:★★★★)●併映:「天国にいちばん近い島」(大林宣彦)
新宿武蔵野館(2019(令和元)年5月)
新宿武蔵野館42.JPG新宿 武蔵野館(1936年).jpg旧・新宿武蔵野館 (1920年武蔵野館オープン、1928年に現在の「新宿武蔵野館」の地に新築移転(モノクロ写真:新宿 武蔵野館(1936年))。1968年、武蔵野ビルを改装し7階に「新宿武蔵野館」として再オープン。1994年には同一ビルの3階にミニシアターとして「シネマ・カリテ(中黒あり)1・2・3」がオープン。2002年「新宿武蔵野館」を「新宿武蔵野館1」に改称し、同時に「シネマ・カリテ1・2・3」を「新宿武蔵野館2・3・4」に改称。2003(平成15)年9月30日「新宿武蔵野館1」閉館。それに伴い3階の「新宿武蔵野館2・3・4」を「新宿武蔵野館1・2・3」に改称し4館体制から3館体制となる。(2012年12月22日、武蔵野興業により新宿NOWAビル地下1階に2スクリーンの「シネマカリテ」がオープン)

岸部一徳 in「時をかける少女」
「時をかける少女」岸部2.jpg時をかける少女 原田c47.jpg「時をかける少女」●制作年:1983年●監督:大林宣彦●製作:角川春樹●脚本:剣持亘●撮影:前田米造●音楽:松任谷正隆(主題歌:原田知世(作詞・作曲:松任谷由実))●原作:筒井康隆●時間:104分●出演:原田時をかける少女 dvd.jpg時をかける少女 1983 3.jpg東急名画座 1.jpg知世/高柳良一/尾美としのり/津田ゆかり/岸部一徳/根岸季衣/内藤誠/入江若葉/高林陽一/きたむらあきこ/上原謙/入江たか子●公開:1983/07●配給:東映●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★★)●併映:「探偵物語」(根岸吉太郎)
時をかける少女 [DVD]」入江たか子 /上原謙
「時をかける少女」上原・入0.jpg「時をかける少女」上原・入江.jpg


転校生 [DVD]
転校生 1982 .jpg転校生 1982ド.jpg転校生 1982 01.jpg「転校生」●制作年:1982年●監督:大林宣彦●製作:森岡道夫/大林恭子/多賀祥介●脚本:剣持亘●撮影:阪本善尚●原作:山中恒「おれがあいつであいつがおれで」●時間:112分●出演:尾美としのり/小林聡美/佐藤允/樹木希林/宍戸錠/入江若葉/中川勝彦/井上浩一/岩本宗規/大転校生 1982 02.jpg山大介/斎藤孝弘/柿崎澄子/山中康仁/林優枝/早乙女朋子/秋田真貴/石橋小大林宣彦 転校生ド.jpg百合/伊藤美穂子/加藤春哉/鴨志田和夫/鶴田忍/人見きよし/志穂美悦子●公開:1982/04●配給:松竹●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (83-07-17)●2回目:テアトル吉祥寺 (84-02-11)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「の・ようなもの」(森田芳光)/「ウィークエンド・シャッフル」(中村幻児)●併映(2回目):「家族ゲーム」(森田芳光)

「転校生」志穂美悦子/小林聡美
 
時をかける少女 文庫.jpg時をかける少女2006 1.jpg「時をかける少女(アニメ)」●制作年:2006年●監督:細田守●製作:渡邊隆史/齋藤優一郎●脚本:奥寺佐渡子●音楽:吉田潔●原作:筒井康隆●時間:98分●声の出演:仲里依紗/石田卓也/板倉光隆/原沙知絵/谷村美月/垣内彩未/関戸優希子●公開:2006/07●配給:角川ヘラルド映画(評価:★★☆)
        
天国に一番近い島 lp.jpg天国に一番近い島 dvd.jpg「天国にいちばん近い島」●制作年:1984年●監督:大林宣彦●製作:角川春樹●脚本:剣持亘●撮影:阪本善尚●音楽:朝川朋之(主題歌:原田知世)●原作:森村桂●時間:102分●出演:原田知世/高柳良一/朝川朋之/赤座美代子/泉谷しげる/高橋幸宏/小林稔侍/小河麻衣子/入江若葉/室田日出男/高橋幸宏/松尾嘉代/乙羽信子●公開:1984/12●配給:東映●最初に観た場所:新宿武蔵野館 (85-01-15)(評価:★★☆)●併映:「Wの悲劇」(澤井信一郎) 「天国にいちばん近い島 デジタル・リマスター版 [DVD]
乙羽信子(夫がニューカレドニアの海で戦死した戦争未亡人・石川貞)
乙羽「天国にいちばん近い島」.jpg

高橋幸宏(1952-2023/70歳没)in「天国にいちばん近い島」(1984)/坂本龍一(1952-2023/71歳没)in「戦場のメリークリスマス」(1983)/細野晴臣(1947- )in「居酒屋兆治」(1983)
天国にいちばん近い島 高橋幸宏.jpg戦場のメリークリスマス 6.jpg居酒屋兆冶 細野.jpg


藤谷美和子 それから.jpgそれから 笠智衆.jpegそれから.jpg「それから」●制作年:1985年●監督:森田芳光●製作:黒沢満/藤峰貞利樹●脚本:筒井ともみ●撮影:前田米造●音楽:梅林茂●原作:夏目漱石●時間:130分●出演:松田優作藤谷美和子/小林薫/笠智衆/中村嘉葎雄/草笛光子/風間杜夫/美保純/イッ「それから」1985年.jpgセー尾形/森尾由美/羽賀研二/それから 笠智衆.jpg川上麻衣子/遠藤京子/泉じゅん/一の宮あつ子/小林勝彦/佐原健二/加藤和夫/水島弘/小林トシエ/佐藤恒治/伊藤洋三郎●公開:1985/07●配給:東映●最初に観た場所:新宿ミラノ座 (85-11-17)(評価:★★☆)
 

の・ようなもの3.gifの・ようなもの2.jpg「の・ようなもの」●制作年:1981年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:渡部眞●音楽:塩村宰●原作:本間洋平●時間:103分●出演:秋吉久美子/伊藤克信/尾藤イサオ/でんでん/小林まさひろ/大野貴保/麻生えりか/五十嵐知子/風間かおる/直井理奈/入船亭扇橋/内海好江/鷲尾真知子/吉沢由起/小宮久美子/三遊亭大井武蔵野館・大井ロマン.jpg大井武蔵野館 地図.jpg楽太郎/芹沢博文/加藤治子/春風亭柳朝/黒木まや●公開:1981/09●配給:N.E.W.S.コーポレーション=日本へラルド映画●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「ウィークエンド・シャッフル」(中村幻児)
大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)
大井武蔵野館(閉館日)(1999年1月/ぼうすの小部屋・おでかけ写真展より)
大井武蔵野館 閉館日2.jpg
大井武蔵野館2.jpg大井武蔵野館.jpg大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館。
                                              
                         
 
                                                                                                   
鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香
鈴木保奈美.jpg財前直美.jpg武田久美子.jpg鈴木京香.jpg「愛と平成の色男」●制作年:1989年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:仙元誠三●音楽:野力奏一●時間:96分●出演:石田純一/鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香/久保京子/桂三木助/佐藤恒治●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(89-07-15)(評価:★☆)●併映:「バカヤロー!2」(本田昌広/鈴木元/岩松了/成田裕介、製作総指揮・脚本:森田芳光)
渋谷松竹1.jpg渋谷松竹sibuyatoei1.jpg渋谷東映・松竹・全線座shibuya.jpg渋谷松竹 1938年、前身の松竹系「東京映画劇場」オープン。1990(平成2)年9月16日、隣接の「渋谷東映」と共に閉館 (1985年道玄坂「ザ・プライム」6Fにオープンしていた渋谷松竹セントラル(2003年~「渋谷ピカデリー」)が後継館となる(2009(平成21)年1月30日「渋谷ピカデリー」閉館))(⑦渋谷東映/⑨渋谷松竹/⑬全線座(1977年閉館))


p映画シャッフル.jpg91syahhuru.jpg「シャッフル」●制作年:1981年大井武蔵野館・大井ロマン2.jpg●監督・脚本:石井聰亙(石井岳龍)●製作:秋田光彦●撮影:笠松則通●音楽:ヒカシュー●原作:大友克洋●時間:34分●出演:中島陽典/森達也/室井滋/武田久美子●公開:1981/12(1983)●配給:ATG●最初に観た場所:大井ロマン(89-07-15)(評価:★★☆)●併映:「レッドゾーン」(神有介)

第2話「こわいお客様がイヤだ」堤真一/第3話「新しさについていけない」竹中直人
バカヤロー2 幸せになりたい こわいお客様がイヤだ.jpgバカヤロー2 幸せになりたい 竹中.jpg「バカヤロー!2 幸せになりたい。」●制作年:1989年●製「バカヤロー!2 幸せになりたい。」2.jpg作総指揮・脚本:森田芳光●監督:本田昌広(第1話「パパの立場もわかれ」)/鈴木元(第2話「こわいお客様がイヤだ」)/岩松了(第3話「新しさについて「バカヤロー!2 幸せになりたい。」.jpgいけない」)/成田裕介(第4話「女だけがトシとるなんて」)●製作:鈴木光●撮影:栢原直樹/浜田毅●音楽:土方隆行●時間:98分●出演:(第1話)小林稔侍/風吹ジュン/高橋祐子/橋爪功/(第2話堤真一/金子美香/イッセー尾形/太田光/田中裕二/金田明夫/島崎俊郎/銀粉蝶/ベンガル/宮田早苗(第3話)藤井郁弥/荻野目慶子/尾「バカヤロー2」橋本2.jpg美としのり/柄本明/佐藤恒治/竹中直人/広岡由「バカヤロー2」柄本.jpg里子/(第4話)山田邦子/香坂みゆき/辻村真人/水野久美/加藤善博/桜金造●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(89-07-15)(評価:★★★)●併映:「愛と平成の色男」(森田芳光)

第1話「パパの立場もわかれ」小林稔侍(旅行代理店社員・岡田良介(パパ))/橋爪功(部長・笠松好司)

第3話「新しさについていけない」柄本明(電器屋・寄貝やすし)

池波志乃/秋川リサ/渡辺えり子/泉谷しげる
「ウィークエンド・シャッフル」スチール.jpgウィークエンド・シャッフル ビデオカバー.jpg「ウィークエンド・シャッフル」●制作年:1982年●監督:中村幻児●製作:渡辺正憲●脚本:中村幻児/吉本昌弘●撮影:鈴木史郎●音楽:山下洋輔(主題歌:ジューシィ・フルーツ)●原作:筒井康隆「ウィークエンド・シャッフル」●時間:104分●出演:秋吉久美子/伊大井武蔵野館 閉館日.jpg大井武蔵野館.jpg武雅刀/泉谷しげる/池波志乃/渡辺えり子/秋川リサ/新井康弘/村上不二夫/尾口康生/永井英里/野上正義/芦川誠/春風亭小朝/美保純●公開:1982/10●配給:幻児プロ=らんだむはうす●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「の・ようなもの」(森田芳光) 大井武蔵野館 閉館日(1999(平成11)年1月31日)


さらば愛しき大地3.jpgさらば愛しき大地 poster.jpg「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三/松山政路/奥村公延/草薙幸二郎/小林稔侍/中島葵/白川和子/佐々木すみ江/岡本麗/志方亜紀子/日高シネマスクエアとうきゅうMILANO2L.jpgシネマスクエアとうきゆう.jpgシネマスクウエアとうきゅう 内部.jpg澄子●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウェア東急(82-07-10)(評価:★★★★☆)
シネマスクエアとうきゅう 1981年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン。2014年12月31日閉館。

《読書MEMO》
筒井康隆『時をかける少女』
『時をかける少女 (ジュニアSF)』(1967年3月20日/鶴書房盛光社)(時をかける少女/悪夢の真相/果てしなき多元宇宙)/『時をかける少女 (SFベストセラーズ)』(1972年/鶴書房盛光社)/『時をかける少女』(1976年/角川文庫)
『時をかける少女』図2.jpg 時をかける少女 (SFベストセラーズ).jpg  時をかける少女 (角川文庫).jpg
『時をかける少女 (SFベストセラーズ)』奥付・目次(併録:「悪夢の真相」)
時をかける少女 目次2.jpg.png.jpg

筒井康隆『ウィークエンド・シャッフル』
『「ウィークエンド・シャッフル」』単行本.jpg『「ウィークエンド・シャッフル」』講談社文庫.jpg『「ウィークエンド・シャッフル」』角川.jpgウィークエンド・シャッフル (1974年9月24日)』(装幀:下田一貴)(佇むひと/如菩薩団/「蝶」の硫黄島/ジャップ鳥/旗色不鮮明/弁天さま/モダン・シュニッツラー/その情報は暗号/生きている脳/碧い底/犬の町/さなぎ/ウィークエンド・シャッフル)/『ウィークエンド シャッフル (講談社文庫) 』/『ウィークエンド・シャッフル (角川文庫)』(カバーイラスト:山藤 章二


田中小実昌 .jpg田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
大林宣彦 転校生ロード.jpg○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
○カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
○幕末太陽傳('57年、川島雄三)
転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)


●【文化庁メディア芸術祭アニメ部門シンポジウム】
リメーク映画の金字塔「時をかける少女」が大賞受賞
細田守監督が富野由悠季監督と公開"辛口"トーク
富野由悠季:細田守.jpg富野「僕が細田監督の『時かけ』の嫌な点は、現代の高校生を安易に描いているんじゃないのかと。主人公たちの『告白したい!』という台詞が『SEXしたい!』と僕には聞こえるんです。ただの風俗映画になっているんじゃないかという危うさを感じるんです。アニメという実写映画以上に記号的なものを使って、映画的構造の中で単に風俗映画にしてしまうのはもったいないぞと。作品としてスタイリッシュな分、若者たちが無批判で受け入れてしまう可能性があるわけです。ウラジミール・ナブコフの小説を原作にした『ロリータ』('62)や文化革命を背景にした『小さな中国のお針子』(2002)といった素晴らしい作品があります。映画をつくる人間は、これぐらいの社会的視野を持っていて欲しいんです。その点、奥寺さん脚本の『時かけ』は高校生しか出てこないのが不満なんです。せっかく叔母さんという面白いキャラクターがいるのに、活かしきれてなくもったいない。もっと社会性があってよかったと思います。演出力が優れているだけに残念です」

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母を亡くした心の穴とその埋まり具合、父子の絆を浮き立たせる計算された構成。40年ぶりに刊行の『おかあさんのばか』。
おかあさんのばか.jpgおかあさんのばか1 - コピー.jpgおかあさんのばか1 - コピー (2).jpg  たったひとつのたからもの1.jpg
おかあさんのばか―細江英公人間写真集』(24.2 x 18.8 x 1.4 cm) 加藤 浩美『たったひとつのたからもの

薔薇刑.jpg 三島由紀夫を被写体にした『薔薇刑』('63年)など、独特の感性で撮り下ろす前衛的な作品で知られる現代写真家・細江英公(えいこう)が、ある日突然母親を亡くした小学6年生の女の子と残された家族を続けた写真集で、写真もいいけれども、古田幸(みゆき)というその子の詩が多く挿入されており、これも胸を打ちます。
薔薇刑―細江英公写真集』('63年)

おかあさんのばかpos.jpgおかあさんのばか55.jpg 雑誌に連載され、水川淳三監督、乙羽信子主演による映画「おかあさんのばか」('64年/松竹)にもなり(個人的には小学校の課外授業で観たのだが、DVD化されておらずその後観る機会がないため、評価はやや曖昧)、彼女の詩をもとにした「おかあさんのばか」という合唱曲まで出来ましたが、写真集としては、'65年に英語版("Why, Mother, Why?")で海外で刊行されました。映画では、彼女の母親が水泳大会おかあさんのばか 初版.pngで泳ぎ切ったあと脳出血で倒れて亡くなる前の、成長期の娘と母親のふれあいが描かれているのに対し、40年を経て刊行されたこの写真集は、母親の死後1ヵ月、家族にぽっかり「大きな穴」があいたところから始まります。

細江英公 写真集「 Why,Mother,Why 」1965年 初版 カバー

 『薔薇刑』の写真家がどうしてこんなセンチなテーマをと思わないでもありませんが、細江英公はデビュー当時から、前衛写真とは別にヒューマンな作品を取り続けていて、また最近は、『死の灰』('07年)など社会性の高い作品もあります。

 但し、ジャンルを問わず共通して言えるのは、その計算された構成で、この写真集は、1枚1枚の写真を見ただけで家族に空いた「大きな穴」が感じられ、それが少しずつ埋まっていくのを優しく見守りながらも、その"埋まり具合"と"どうしても埋まらない部分"を測りながら撮っている感じがしました。

「おじかあさんのバカ」図2.jpg 幸さんの詩も、最初は亡き母へ怒りにも似た想い、そして生活をしなければという現実感、さらに父親や世間への眼差しと、少しずつ変化していますが、個人的には、教師をしている父親(所々で短い本人コメントが入っている)の娘へのこころ遣いがすごく感じられ、それは写真そのもからのものでもありました。写真家が娘を撮っているのに、それが時として父親の眼になっていて、今は故人となった父の娘への想いが伝わってくるのを感じました(一番感じているのは、今は結婚して子供もいるという幸さんだろう)。
  
「たったひとつのたからもの」.jpg「たったひとつのたからもの」.jpgたったひとつのたからもの.jpg 重度ダウン症の息子を母親が撮った『たったひとつのたからもの』('03年)という写真集で、最後にある父親が息子を抱きしめている海を背景にした写真は感動的でしたが、あの写真集も、最後の写真に限らず、母親が写真を撮っていることで、かえって父親の息子への想いが浮き彫りにされているような気がしました。

 あの写真集の写真を撮った加藤浩美さんという人も、ある意味、写真家であったように思います。写真作品が明治生命(現在の明治安田生命)のコマーシャルに採用されたのが出版の契機となり、'04年には松田聖子、船越栄一郎主演でドラマ化(単発)されました(ドラマ平均視聴率 30.1%)。
加藤 浩美『たったひとつのたからもの』['03年]
ドラマ「たったひとつのたからもの」(2004年・日本テレビ)松田聖子・船越英一郎主演
たったひとつのたからもの ドラマ.jpg

おかあさんのばか(水川淳三監督1964年).jpgおかあさんのばか 映画.jpg「おかあさんのばか」●制作年:1964年●監督:水川淳三●製作:樋口清●脚本:水川淳三/南豊太郎●撮影:堂脇博●音楽:真鍋理一郎●時間:87分●出演:下絛正巳/乙羽信子/深堀義一/加納『おかあさんのばか』spポスタ-.jpg美栄子/高野真二/加代キミ子/織賀邦江/榊ひろみ/長門勇/中村雅子/城戸卓/藤本三重子/朝海日出男/秩父晴子/中新井俊介/林家珍平●公開:1964/06●配給:松竹(評価:★★★☆)

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迷宮「玉の井」を三重構造で描くことで、作品自体を迷宮化している。

ぼく東綺譚.jpg 濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)_.jpg 東綺譚.jpg 「墨東綺譚」の挿画(木村荘八).jpg
ぼく東綺譚 (新潮文庫)』『濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)』『墨東綺譚 (角川文庫)』朝日新聞連載の『濹東綺譚』の挿画(木村荘八)/[下]『濹東綺譚』昭和12年初版(装幀:永井荷風/挿画:木村荘八)
『濹東綺譚』1937 2.jpg濹東綺譚(ぼくとうきだん) 永井荷風.jpg 1937(昭和12)年に発表された永井荷風(1879‐1959)58歳の頃の作品で(朝日新聞連載)、向島玉の井の私娼街に取材に行った58歳の作家〈わたくし〉大江匡と、26歳の娼婦・お雪の出会いから別れまでの短い期間の出来事を描いています。

『濹東綺譚』.JPG永井 荷風.gif 昭和初期の下町情緒たっぷりで、浅草から向島まで散策する主人公を(よく歩く!)、地図で追いながら読むのもいいですが、「吉原」ではなく「玉の井」だから「濹東」なのだと理解しつつも、「玉の井」と名のつくものが地図上から殆ど抹消されているためわかりにくいかも知れません。でも、土地勘が無くとも、流麗な筆致の描写を通して、梅雨から秋にかけての江戸名残りの季節風物が堪能できます。

 〈わたくし〉は、種田という男を主人公に玉の井を舞台にした小説を書いているところという設定なっていて、その小説が劇中劇のような形で進行していき、では〈わたくし〉=〈作者(荷風)〉かと言うと必ずしもそうではなく、時に〈わたくし〉が小説論を述べたかと思うと、今度は〈作者〉が小説論的注釈をしたりと、〈作者(荷風)〉―〈わたくし(大江)〉―〈書きかけ小説の主人公(種田)〉という三重構造になっており、加えて、文末に「作者贅言(ぜいげん)」というエッセイ風の文章(「贅言」の「贅」は贅肉の贅であり、要するに作者の無駄口という意味なのだが、辛辣な社会批評となっている)が付いているからややこしいと言えばややこしいかもしれません(「〈わたくし(大江)」としたが、大江が驟雨がきっかけで偶然お雪と知り合ったという設定にコメントしている「わたくし」は明らかに永井荷風自身ではないか)。

「濹東綺譚」.jpg濹東綺譚 映画49.jpg 1960年に豊田四郎(「夫婦善哉」('55年))監督、山本富士子(「彼岸花」('58年))、芥川比呂志(「」('53年))主演で映画化されていますが、「濹東綺譚」を軸に「失踪」と「荷風日記」を組合せて八住利雄が脚色しています。〈大江〉濹東綺譚 豊田四郎監督.jpgが〈種田〉とほぼ同一化されていて(主人公は種田)、種田はお雪の求婚に対して返事を曖昧にし、やがて「女優魂」.jpgそうこうしているうちにお雪は病気になって死を待つばかりとなります。お雪のキャラクターが明るいものになっているため、結末が却って切ないものとなっています。白黒映画で玉の井のセットがよくできていて、途中に芥川比呂志による原作の朗読が入り、ラストでは〈荷風〉と思しき人物が玉の井を散策(徘徊?)しています。この(荷風〉と思しき人は、主人公・種田の行く芳造(宮口精二)のおでん屋にもいました。しいて言えば、これが原作における〈大江〉乃至〈作者(荷風)〉に当たるということでしょうか。」(●2023年、15年ぶりに神保町シアター「女優魂」特集で再見。観ていて辛いストーリーだが、山本富士子が演じるお雪はやはりいい。改めてこれは山本富士子の映画だと思った。)
中村芝鶴(N散人(永井荷風らしき人物))
00「濹東綺譚」kahu.jpg
豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)芥川比呂志/山本富士子/中村伸郎        岸田今日子/山本富士子
「濹東綺譚」岸田.jpg01濹東綺譚 1960  .jpg
東野英治郎/新珠三千代   
02濹東綺譚 1960 1.jpg

新藤兼人監督「濹東綺譚」(1992)津川雅彦/墨田ユキ
映画濹東綺譚.jpg04映画濹東綺譚 (2).jpg 更に1992年に新藤兼人監督、墨田ユキ、津川雅彦出演で映画化されていますが、こちらは未見。やはり、〈作者〉-〈大江〉-〈種田〉のややこしい三重構造を映像化するのは無理と考えたのか、津川雅彦演じる主人公が〈荷風〉そのものになっているようで、〈荷風〉はお雪と結婚の約束をするが、東京大空襲で生き別れになる―といった結末のようです。

 荷風は外国語学校除籍という学歴しか無かったものの慶應義塾大学の教授を務めたりして、素養的にはインテリですが、この小説では衒学的記述は少なく、むしろ「玉の井」をラビラント(迷宮)として描くと同時に小説の構成も迷宮的にしているというアナロジイに、独特のインテリジェンスを感じます。

 高級官僚の子に生まれながらドロップアウトし、外遊先でも娼館に通ったというのも面白いですが、この"色街小説"は日華事変の年に新聞連載しているわけで、私小説批判で知られた中村光夫も、一見単なる私小説にも見えるこの作品を、「時勢の勢いに対する痛烈な批判者の立場を終始くずさぬ作者の姿勢が、圧政のなかで口を封じられた知識階級の読者に、一脈の清涼感を与えた」と評価しています。「作者贅言」では、そうした全体主義的ムードを批判する反骨精神とともに、「玉の井」への〈江戸風情〉的愛着と急変する「銀座」界隈への文化的失望が直接的に表わされています。

京成白髭線 玉ノ井駅.jpg京成白髭線 玉ノ井駅s.jpg 作品中に、前年廃止された京成白髭線の玉ノ井駅の記述がありますが、「玉の井」も今はほとんどその痕跡がありません。また、荷風が中年期を過ごした麻布の家(『断腸亭日乗』に出てくる「偏奇偏奇館.jpg館」)も、現在の地下鉄「六本木一丁目」駅前の「泉ガーデンタワー」裏手に当たり、当然のことながら家跡どころか当時の街の面影もまったくありません(一応、こじんまりとした石碑はある)。

濹東綺譚 岩波文庫 挿画16.jpg濹東綺譚 岩波文庫 挿画6.jpg 因みに、この作品は個人的には今回「新潮文庫」版で読み返しましたが、木村荘八の挿画が50葉以上掲載されている「岩波文庫」版が改版されて読み易くなったので、そちらがお奨めです。

挿画:木村荘八


濹東綺譚on.jpg濹東綺譚 映画49.jpg濹東綺譚 映画 1960 00.jpg濹東綺譚 00.jpg濹東綺譚 映画 1960ド.jpg「濹東綺譚」●制作年:1960年●監督:豊田四郎●製作:佐藤一郎●脚本:八住利雄●撮影:玉井正夫●音楽:團伊玖磨●原作:永井荷風「濹東綺譚」「失踪」「荷風日記」●時間:120分●出演:山本富士子/芥川比呂志/新珠三千代/織田新太郎/東野英治郎/乙羽信子/織田政雄/若宮忠三郎/三戸部スエ/戸川暁子/宮口精二/賀原夏子/松村達雄/淡路恵子/高友子/日高澄子/原知佐子/岸田今日子/塩沢くるみ/長岡輝子/北城真記子/中村伸郎/須永康夫/田辺元/田中志幸/中原成男/名古屋章/守田比呂也/加藤寿八/黒岩竜彦/瀬良明/中村芝鶴●公開:1960/08●配給:東宝●最初に観た場所(再見):神保町シアター(08-08-30)●2回目:神保町シアター(23-02-17)(評価:★★★★)

豊田四郎と東宝文芸映画.jpg神保町シアター.jpg神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
   
   
     
   
 
 
 
 
 
 
    
(下)新珠三千代/芥川比呂志  東野英治郎/乙羽信子/新珠三千代  山本富士子/芥川比呂志
『墨東綺譚』スチル02.jpg 『墨東綺譚』スチル01.jpg 『墨東綺譚』スチル03.jpg
  
新藤兼人監督「濹東綺譚」(1992)墨田ユキ・津川雅彦
濹東綺譚_11.jpg  

山本富士子:渡辺邦男監督「忠臣蔵」(1958)/小津安二郎監督「彼岸花」(1958)/豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)/市川昆監督「黒い十人の女」(1961)/市川昆監督「私は二歳」(1962)
山本富士子『忠臣蔵(1958).jpg 彼岸花 映画 浪花.jpg 濹東綺譚 映画 1960 01.jpg 黒い十人の女 山本富士子.jpg 私は二歳 映画 .jpg
『濹東綺譚』['47年/岩波文庫]/['50年/六興出版]
「濹東綺譚」・永井荷風著(岩波文庫).jpg 永井荷風『墨東綺譚』1950年.jpg 

濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫) 200_.jpg墨東綺譚 (角川文庫)0_.jpgぼく東綺譚 新潮文庫.jpg 【1947年文庫化・1991年改版[岩波文庫]/1951年再文庫化・1978年改版[新潮文庫]/1959年再文庫化・1992年改版[角川文庫]/1977年再文庫化[旺文社文庫(『濹東綺譚・ひかげの花』)]/1991年・2001年復刻版[岩波書店]/2009年再文庫化年改版[角川文庫]】
ぼく東綺譚 (新潮文庫)』(新カバー版)
墨東綺譚 (角川文庫)』(新解説・新装版)
濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)』(木村荘八挿画入り)

《読書MEMO》
●「濹東綺譚」...1937(昭和12)年発表

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佐野周二主演では川島雄三監督の「とんかつ大将」と同じくらい泣けたかも。

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大阪の宿 [DVD]
「大阪の宿」0.jpg 東京の保険会社に勤める独身の三田(佐野周二)は、組合側に加担して重役を殴り、大阪に左遷された。彼が首にならなかったのは、親友の田原(細川俊夫)が多額な保険金を契約しているからであった。三田が下宿した安旅館「酔月荘」にはおりか(水戸光子)、おつぎ(川崎弘子)、お米(左幸子)という三人の女中がいた。甲斐性のない亭主を持つおりかは、同宿人「大阪の宿」2.jpgの金を盗み酔月荘を追放されるが、三田は就職等いろいろ面倒をみてやった。おつぎは忙しく働かされて一人息子に会う暇もない。十四の時から男を知っているというお米は、三田を口説きにかかるが、とっつき難さに愛想をつかす。毎夜遅くまで内職の飜訳をしている三田の許へ南地の芸者うわばみ(乙羽信子)が訪ねてきて、大酒を飲む。田原に誘われて飲みに行って以来の知り合いで、彼女は三田を愛していた。しかし二人の関係は友「大阪の宿」3.jpg人以上には発展しない。三田には秘めた片想いの恋人がいたのだ。通勤の途中、御堂筋のポストの所で必ず会う女事務員である。彼女・井元貴美子(恵ミチ子)は田原の先輩で大洋々行を経営する井元(北沢彪)の娘である事をつきとめるが、井元は三田の会社の支店長に浮貸を取立てられて自殺し、大洋々行も閉鎖したので、貴美子も行方知れずとなった。憤慨したうわばみは或る酒席でこれを暴露し、三田は再び支店長と喧嘩して東京の本社へ追放されることとなる。酔月荘も時流に抗しきれず、おかみは温泉マークの連れ込み宿に改造する決心をし、おつぎは迫出され、お米は女中とも商売女ともつかず働く。止宿人も宿変えを迫られる。三田は商業都市・大阪の生んだ不幸な庶民、おつぎ、おりか、うわばみ等に見送られながら、感慨をこめて大阪を後にする―。

「大阪の宿」8.jpg 五所平之助監督の1954年公開作で、原作は水上滝太郎。同じ三田派の久保田万太郎が監修し、八住利雄と監督の五所平之助の共同脚本作です。

 東京から大阪に左遷された佐野周二演じる主人公の会社員・三田が下宿する「酔月荘」という安旅館で働く3人の女中(演じるのは水戸光子・川崎弘子と当時23歳と若い左幸子)が良く、"うわばみ"というあだ名の大酒飲みの芸者を演じた乙羽信子も当然のことながらいいです。

 三田が突き付けられる"貧困"の現実は厳しいですが、リアリズムと並行して、女性たちの喜怒哀楽が、慈しみのこもったタッチで描かれているは、五所平之助監督のきめ細い演出の賜物です。監督の戦後の作品の中でも秀作とされているようです。

「大阪の宿」6.jpg「大阪の宿」7.jpg 佐野周二が演じる三田は、女性たちの生き方を描く際の狂言回し的な位置づけですが、悪くないです。「今の世の中、カネ、カネ、カネだ。一体「人」はどこへ行ってしまったんだろう」と嘆き、本当に彼女たちが困っている時は助けますが、どちらかというとそう積極的に行動を起こす方ではなく、最後には乙羽信子演じるうわばみに対しても「君とは住む世界が違う」と言ってしまいます。言われた方は傷つくだろうなあ(この辺りに反発を抱き、この映画を評価しない人もいるようだ)。

「大阪の宿」5.jpg それでも、三田が東京に戻ることになった前夜の送別会には女たちが集い(まさに彼が皆から愛されていた証拠!)、盟友であり、正論を主張して重役を首になった田原も相席して、「月が~出た出た~月が~出た~三池炭鉱の~上に出た~」と皆で歌うシーンには涙腺が緩みます。

「大阪の宿」4.jpg その席に一つだけ座る者の居ない座布団があって、来なかったのは当時19歳の安西郷子演じる薄幸の少女です。でも、彼女も缶工場で活き活きと働いている姿があって良かった! ただ1つ欠けていたピースを最後に嵌めたという感じしょうか。その工場の傍を三田が乗っていると思われる列車が駆け抜けていくラストが旨いです。

 佐野周二主演では川島雄三監督の「とんかつ大将」('52年/松竹)と同じくらい泣けたかもしれません(この2作、エリートから見た庶民という点で、少し似ている面がある)。

藤原釜足(おっちゃん)
「大阪の宿」ポスター.jpg「大阪の宿」f.jpg「大阪の宿」●制作年:1954年●監督:五所平之助●監修:久保田万太郎●脚本:八住利雄/五所平之助●撮影:小原譲治●音楽:団伊玖磨●原作:水上滝太郎●時間:122分●出演:佐野周二/細川俊夫/乙羽信子/恵ミチ子/水戸光子/川崎弘子/左幸子/三好栄子/藤原釜足/安西郷子/多々良純/北沢彪/十朱久雄/中村彰/水上貴夫/若宮清子/城実穂●公開:1954/04●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★★)<.font>


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単なるメロドラマになってしまった「愛情の系譜」。岡田茉莉子はやはり「香華」か。

「愛情の系譜」00.jpg
「愛情の系譜」(1961/11 松竹)
「「香華(こうげ)」.jpg 香華 1964.jpg 香華 木下 00.jpg 香華 木下 01.jpg
「香華」(1964/05 松竹)
「愛情の系譜」01.jpg 米国留学を終えた吉見藍子(岡田茉莉子)は、帰国してから国際社会福祉協会に勤め社会事業に打ちこんでいた。その関係から彼女は、旋盤工の兼藤良晴(宗方勝巳)を補導しながらその更生を願っていたが、良晴は彼女に一途な思いを寄せていた。しかし藍子には、米国で結ばれた電力会社の有能な技師・立花研一(三橋達也)という恋人があった。藍子の母・克代(乙羽信子)は家政婦紹介所を営み、妹の紅子(桑野みゆき)は高校に通っていた。勝気な克代は子供達に父親は戦死したといっているが、夫の周三(山村聡)は杉電気の社長として実業界の大立物であった。藍子と紅子はふとしたことから父のことを知った。二十年前、克代の父に望まれ彼女と結婚して吉見農場の養子となった周三は、老人の死後、老母や兄夫婦の冷たい仕打ちに家を飛び出してしまった。杉を愛する克代は彼を追って復縁を迫ったが断わられ、克代は無理心中を図った。だが、二人とも生命をとりとめたのであった。藍子は自分の体の中に母と同じ血が流れていることを知った。その頃、立花には縁談が進められていた、化粧品会社を経営する未亡人・香月藤尾(高峰三枝子)の一人娘・苑子(牧紀子)との話である。ある日良晴は、藍子が自分に寄せる好意を、男女の愛情と勘違いして藍子に迫るが、藍子に突放されてしまう。それからの良晴の生活は荒れ、遂には夜の女を殺害するという事態に陥る。一方、立花は苑子との結婚のために藍子との関係を清算しようとしていた。立花のアパートを訪れた藍子は、眠っている立花の枕元からの手紙でそのことを知り、立花を殺そうとするが、どうしても殺すことができなかった。傷心の藍子は、父のところに飛び込む。翌朝、杉の知らせで克代も駆けつけて来た―。

『愛情の系譜』1.jpg 五所平之助監督の1961年11月公開作で、原作は円地文子の『愛情の系譜』('61年5月刊/新潮社)。原作を比較的忠実に映像化していますが、結果として「てんこ盛り」的になったという感じです。原作のイメージを視覚的に確認するのにはいいですが、ややストーリー全体のテンポが鈍くなってしまいました(例えば、原作では、藍子が父親の存命や母親との過去の経緯を知るのは前半部分のかなり早い段階だが、映画では後半に入ってから)。

『愛情の系譜』['61年]『愛情の系譜 (1966年) (角川文庫)

 原作のテーマは、文庫解説の竹西寛子が指摘しているように、形而上学的なものなのですが(敢えて言えば、「エゴイスティックな愛」を超えた「博愛」のようなもの)、そうした観念を振りかざさずことをせず、皮膚感覚的な面も含め、描写を通して読者に接しているところに、原作の「独自性」があります。映画の方は、その表象のみを描いたため、ちょっと単なるメロドラマになってしまった感じで、「愛情の系譜」の何たるかは分からなくもないですが、主人公がそれを乗り越えたという実感がイマイチでした。

「愛情の系譜」p.jpg 映画は、主人公・藍子が外人のガイドをして鷺山を見学している場面から始まり、そこへ、鷺を撮影している一人の中年の男性が話しかけます。藍子はガイド以外に罪を犯した青少年を更生させたりする仕事もしていて、その仕事に生き甲斐を感じていますが、結婚直前まで進んでいる恋人の立花はあまり評価していない様子。妹の紅子は最近派手な行動が目立ってきて母・克代は心配していますが、実は紅子が会っていたのは死んだと聞いていた父で、今は杉周三という名で事業を成功させおり、それが、藍子が鷺山で出会った紳士でした。杉は北海道で克代と結婚していたものの確執があり、克代からは離れようとした際に克代が杉をナイフで刺して怪我を負わせてしまい、克代は今も杉を恨み関わることを嫌っています。一方、立花は取引先の実業家の娘との縁談が持ち上がり、はっきり藍子に話せずにいて、藍子の方は、面倒を見ていた不良少年が殺人を犯してしまい、原因は藍子にそっけなくされて自暴自棄になったためらしい―と、やっぱり今一度振り返っても"盛り沢山"過ぎます(笑)。

 最後、藍子は立花を殺そうとガスの元栓を開けますが、すんでのところで留まって立花との別れを決心するのも、母・克代が父・杉周三を訪ね和解するのも原作と同じ。ただし、藍子が殺人を犯した良晴を諭して自首しに行くのに付き添うところで映画は終わりますが、原作はその前に、妹・紅子の恋人の法学生・叶正彦(園井啓介)が良晴を諭して自首しに行くのに付き添います。

 多分、正彦の役どころを映画で藍子に置き換えたのは、テーマを浮かび上がらせるためだったと思いますが、結果的に、正彦って何のためにいるのか分からない存在になってしまいました。原作では、良晴のメンター的存在であることが窺えます。映画では、紅子が自分の部屋に泊りに来ても手を出さない聖人君子みたいな描かれ方ですが、原作では正彦の内面での葛藤が描かれています。やはり、原作を読んでしまったから物足りなさを感じるのでしょうか。

「香華」3.jpg 同じく乙羽信子が母親、岡田茉莉子が娘を演じた映画に、木下惠介監督の「香華」('64年/松竹)があり、原作は有吉佐和子ですが、こちらの方が良かったです(原作を読んでいないせいか)。母娘の確執を描いたものでは、最近でも湊かなえ原作、廣木隆一 監督の「母性」('22年)などがありますが、そうした類の映画ではベストの部類ではないかと思います。二部構成で、木下惠介作品では最長の3時間超(204分)の長さですが、冗長は感じませんでした。

「香華」2.jpg 乙羽信子演じる母・郁代が実に身勝手そのものの性格で、その淫蕩な生活がたたって岡田茉莉子演じる娘・朋子は芸者に売られることになりますが、それから暫くして借金苦のため、郁代自身も芸者となり、芸者として成功する娘に対して母の方はすっかり落ちぶれ、それでもあれやこれやで娘に迷惑をかけるという展開の話です(同じ置屋に母と娘がいるというのが凄まじい)。

 岡田茉莉子は 吉田喜重監督の「秋津温泉」('62年)で温泉旅館の娘・新子の17歳から34歳までを演じましたが、この「香華」では娘・朋子の17歳から63歳までを演じています。個人的には彼女の代表作であり、最高傑作の部類だと思います。

 木下惠介監督はこの作品で、1964(昭和39年)年度・第15「芸術選奨(映画部門)」を受賞していますが、世間ではあまり評価されているように思えない作品で、原因としては、「原作を忠実に映画化しただけではないか」との評価があるためのようです。

 原作を読むと、そういった評価になってしまうのでしょうか。「香華」の原作も「婦人公論読者賞」や「小説新潮賞」を受賞しており、今回の自分が原作を読んでしまった(それで映画化作品に物足りななさを感じた)「愛憎の系譜」との関係で、ちょっと考えさられてしまいました。


「愛情の系譜」神保町.jpg「愛情の系譜」●制作年:1961年●監督:五所平之助●製作:月森仙之助/五所平之助●脚本:八住利雄●撮影:木塚誠一●音楽:芥川也寸志●原作:円地文子●時間:108分●出演:岡田茉莉子/三橋達也/桑野みゆき/山村聡/園井啓介/牧紀子/乙羽信子/高峰三枝子/宗方勝巳/市川翠扇/千石規子/殿山泰司/陶隆/十朱久雄●公開:1961/11●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★)<.font>

神保町シアター

岡田茉莉子/桑野みゆき/山村聡/高峰三枝子/殿山泰司

「香華」4.jpg「香華」1964.jpg「香華(こうげ)」●制作年:1964年●監督・脚本:木下惠介●製作:白井昌夫/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:有吉佐和子●時間:201分●出演:岡田茉莉子/乙羽信子/田中絹代/北村和夫/岡田英次/宇佐美淳也/加藤剛/三木のり平/村上冬樹/桂小金治/柳永二郎/市川翠扇/杉村春子/菅原文太/内藤武敏/奈良岡朋子/岩崎加根子●公開:1964/05●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-27)(評価:★★★★☆)
木下惠介生誕100年「香華〈前篇/後篇〉」 [DVD]

岡田茉莉子 (朋子)
岡田英次 (野沢)
乙羽信子 (郁代)
杉村春子 (太郎丸)
菅原文太 (杉浦)
奈良岡朋子(江崎の妻)


●「香華」あらすじ
〈吾亦紅の章〉明治37年紀州の片田舎で朋子は父を亡くした。3歳の時のことだ。母の郁代(乙羽信子)は小地主・須永つな(田中絹代)の一人娘であったが、大地主・田沢の一人息子と、須永家を継ぐことを条件に結婚したのだった。郁代は二十歳で後家になると、その美貌を見込まれて朋子をつなの手に残すと、高坂敬助(北村和夫)の後妻となった。母のつなは、そんな娘を身勝手な親不孝とののしった。が幼い朋子には、母の花嫁姿が美しく映った。朋子が母・郁代のもとに引きとられたのは、祖母つなが亡くなった後のことであった。敬助の親と合わない郁代が、二人の間に出来た安子を連れて、貧しい生活に口喧嘩の絶えない頃だった。そのため小学生の朋子は静岡の遊廓叶楼に半玉として売られた。悧発で負けず嫌いを買われた朋子は、芸事にめきめき腕を上げた。朋子が13歳になったある日、郁代が敬助に捨てられ、九重花魁として叶楼に現れた。朋子は"お母さん"と呼ぶことも口止めされ美貌で衣裳道楽で男を享楽する母をみつめて暮した。17歳になった朋子(岡田茉莉子)は、赤坂で神波伯爵(宇佐美淳也)に水揚げされ、養女先の津川家の肩入れもあって小牡丹という名で一本立ちとなった。朋子が、士官学校の生徒・江崎武「香華」5.jpg文(加藤剛)を知ったのは、この頃のことだった。一本気で真面目な朋子と江崎の恋は、許されぬ環境の中で激しく燃えた。江崎の「芸者をやめて欲しい」という言葉に、朋子は自分を賭けてやがて神波伯爵の世話で"花津川"という芸者の置屋を始め独立した。
〈三椏の章〉関東大震災を経て、年号も昭和と変わった頃、朋子は25歳で、築地に旅館"波奈家(はなのや)"を開業していた。朋子の頭の中には、江崎と結婚する夢だけがあった。母の郁代は、そんな朋子の真意も知らぬ気に、昔の家の下男・八郎(三木のり平)との年がいもない恋に身をやつしていた。そんな時、神波伯爵の訃報が知らされた。悲しみに沈む朋子に、追い打ちをかけるように、突然訪れた江崎は、結婚出来ぬ旨告げて去った。郁代が女郎であったことが原因していた。朋子の全ての希望は崩れ去った。この頃44歳になった母・郁代は、年下の八郎と結婚したいと朋子に告げた。多くの男性遍歴をして、今また結婚するという母に対し、母のため女の幸せを掴めない自分に、朋子は狐独を感じた。終戦を迎えた昭和20年、廃虚の中で、八郎と別れて帰って来た郁代に戸惑いながらも、必死に生きようとする朋子は"花の家"を再建した。それから3年、新聞に江崎の絞首刑の記事を見つけた朋子は、一目会いたいと巣鴨通いを始めた。村田事務官(内藤武敏)の好意で金網越しに会った江崎は、三椏の咲く2月、十三階段に消えていった。病気で入院中の朋子を訪ねる郁代が、交通事故で死んだのは朋子の52歳の時だった。波乱に富んだ人生に、死に顔もみせず終止符を打った母を朋子は、何か懐かしく思い出した。母の死後、子供の常治を連れて花の家に妹の安子(岩崎加根子)が帰って来た。朋子は幼い常治の成長に唯一の楽しみを求めた。昭和39年、63歳の朋子は、常治を連れて郁代のかつての願いであった田沢の墓に骨を納めに帰った。しかしそこで待っていたのは親戚の冷たい目であった。怒りに震えながらも朋子は、郁代と自分の墓をみつけることを考えながら、和歌の浦の波の音を聞くのだった―。

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