【2460】 ○ 川島 雄三 (原作:富田常雄) 「とんかつ大将 (1952/02 松竹) ★★★★

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鉄板の人情話、王道のストーリー。30代前半でこうした作品を撮る川島雄三という人はスゴイ。

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とんかつ大将 SYK119S [DVD]」津島恵子/佐野周二/角梨枝子

とんかつ大将 1952年1.jpg 長屋に住む青年医師・荒木勇作(佐野周二)は「とんかつ大将」と呼ばれみんなに親しまれていた。艶歌師・吟月(三井弘次)と兄弟のようにして同居していたが、吟月は、浅草裏の飲み屋「一直」の女主人・菊江(角梨枝子)に惚れて、一夜勇作を誘って飲みに行った。折も折、菊江の弟・周二(高橋貞二)が喧嘩でゲガして帰って来たので、勇作はその手当をし、近くの病院へかつぎ込む。ところがその病院の女医が、昼間、勇作が自動車にぶつけられた老人・太平(坂本武)に代わって、さんざん油を絞ってやった自動車の主・真弓(津島恵子)だった。てきばきと手術をする勇作の姿に、菊江も真弓も惹きつけられる。やがて傷の直った周二も勇作に諭され、不良から足を洗うべく自主する。勇作には学徒出陣の時未来を約束した多美(幾野道子)という恋人があったが、終戦で復員して帰ると、その多美は彼の親友・丹羽(徳大寺伸)と結婚して利春(設楽幸嗣)という息子もいた。しかも生活の苦しさから、つい多美が百貨店で万引きをして捕らえられたのを勇作が救ってやったことを、丹羽は逆に怨みの眼で見る。一方真弓の病院では、悪徳弁護士・大岩(北竜二)の勧めで、勇作たちの住む長屋を取り壊す計画を進めていたが、勇作は長屋の人々を想って反対運動を起こす。大岩方でも、丹羽たちを使って勇作が元大臣の父の選挙運動のために長屋の連中を利用しているのだと中傷したため、長屋の人々の心は勇作から離れて行く。がある日、急病の利春を勇作が長屋の火事をよそに、手術の手を尽くし救ってやったことから、丹羽の心が解け、やがて長屋の跡にキャバレーを建てようとする大岩の悪計も真弓父娘に知られた。長屋には再び長閑な春が訪れたが、父の急病の報に、勇作は馴染み深い長屋を去って行かなければならなかった―。

とんかつ大将-10.jpg 川島雄三(1918-1963/享年45)が富田常雄の原作を脚色・監督した1952年2月公開作。"鉄板の人情話"或いは"王道のストーリー"と言っていい作品ですが、30代前半でこうした作品を撮ってしまう川島雄という人の才覚は、何か不思議なものさえ感じます。因みに、「とんかつ大将」というのは、主人公の好物がとんかつであることに由来する主人公の愛称です(主人公は「とんかつ屋」ではなく医師である)。
   
 青年医師・勇作を演じる佐野周二は、長屋の住人から好かれる庶民派の正義漢で、また、3人の女性から想いを寄せられる二枚目でもあるこの役が嵌っていました。いつも前向きな主人公ですが、それでも悪徳弁護士らの陰謀で長屋の人たちの心が自分から離れかけた時にはさずがに気持ちが参ってしまい、吟月とウサ晴らしに飲みに行ったけれど、その後、酒を飲もうと火事の中だろうと手術をこなしてしまう様はやっぱりスーパー・ヒーローでした。最後、盲目の少女(小園蓉子)の眼まで見とんかつ大将 00s.jpgえるように治してしまい、ちょっと出来過ぎの印象もなくもなく、実は大物政治家の息子だったということで、では何のために長屋に住んでいたのか、そもそも勤務医なのか開業医なのかもよく分からんと、突っ込みどころは少なからずありますが、そうしたことは後から考えれば思うことであって、観ている間はそう不自然に感じないのは、やはり佐野周二という俳優が本質的に二枚目であるということなのでしょうか(まあ、元々"映画を観て泣きたい人を泣かせる映画"であって、"粗探し"的に観ていては楽しめないタイプの映画ではあるのだが)。

角梨枝子
とんかつ大将 1952年14.jpg角梨枝子 とんかつ大将.jpgとんかつ大将 角梨枝子.2.jpeg 勇作を取り巻く菊江(角梨枝子)、真弓(津島恵子)、多美(幾野道子)の3人の女性がそれぞれ、行きつけの飲み屋の女主人であると同時に親友・吟月の想い人幾野道子 とんかつ大将.jpgでもある女性(菊江)、最近ある事件で見知ることになったプライドの高い同業の医師である女性(真弓)、かつての許婚で今は旧友の妻となっているが貧困と夫の家庭内暴力に苦しんでいる女性(多美)、と三者三様であり、勇作は最後、彼女たちとどうするのかと気を持たせるところが、脚本の妙と言うべきでしょうか。津島恵子が主役級と言えますが、演技面では角梨枝子、リアルな状況設定という面では幾野道子の方が印象に残ったかもしれません。

三井弘次
とんかつ大将o.jpg 男優では、清水宏監督の「大学の若旦那」('33年)や「東京の英雄」('35年)、小津安二郎監督の「非常線の女」('33年)に出ていた三井弘次が、この頃は不良になる不肖の弟といったこの映画で高橋貞二が演じている菊江の弟・周二のような役ばかりだったのが、人のいい艶歌師・吟月を演じていい味を出しており、同じく清水宏監督の「按摩と女」('38年)でお客に淡い恋をする按摩の徳市を演じた徳大寺伸が、主人公のかつての許婚を妻にしている飲んだくれのDV夫を、後に「彼岸花」('58年)、「秋日和」('60年)など小津安二郎映画で笠智衆や佐分利信の同級生仲間を演じることが多くなる北竜二が、長屋を取り壊して病院ならぬキャバレーにしようと画策する悪徳弁護士を演じているなど、各々それまでやその後の定番的な役柄と真逆の役柄を演じているのが興味深く、その外、「出来ごころ」('34年)、「浮草物語」('34年)、「東京の宿」('35年)など小津映画の数々の初期作品に主演した坂本武や、「彼岸花」('58年)で佐田啓二の後輩を演じた高橋貞二(1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死)、子役ですが同じく小津映画「お早よう」('59年)にも出ることになる設楽幸嗣(後に、音大を卒業して俳優業から音楽の道に転身)なども目にとまりました。

とんかつ大将 vhs.jpgとんかつ大将  003.jpg 長屋の人々が活き活きとして感じで描けていました。その点は、山中貞雄監督の「人情紙風船」('37年)と双璧ではないでしょうか。

「とんかつ大将」●制作年:1952年●監督・脚本:川島雄三●製作:山口松三郎●撮影:西川亨●音楽:木下忠司●原作:富田常雄●時間:95分●出演:佐野周二/美山悦子/長尾敏之助/津島恵子/角梨枝子/高橋貞二/三井弘次/徳大寺伸/幾野道子/設楽幸嗣/坂本武/小園蓉/北龍二(北竜二)●公開:1952/02●配給:松竹(評価:★★★★)

津島恵子 in「魔像」(1952.05/松竹)/「お茶漬の味」(1952.10/松竹)
魔像  1952.jpg  お茶漬の味 パチンコ.jpg

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