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カウンセラーの数だけ手法があるということを実感。スピリチュアル系に偏り過ぎ?

もういやだ!この疲れた心を休め、甦らせてくれる心の専門家50人.jpg 『もういやだ!この疲れた心を休め、甦らせてくれる心の専門家50人』 ['09年/三楽舎]

 全国の心理カウンセラー50名の、1人1人のプロフィールや得意とする相談内容、手法、料金、連絡先など紹介した本で、心理療法やカウンセリングというのはカウンセラーの数だけそのやり方があるということを実感させられました。

 とりわけ最初の約10人のカウンセラーについて、インタビュー取材を中心としてかなり詳しく紹介されていて、冒頭の日本催眠心理研究所の米倉一哉氏の話などは、カウンセリング事例としても興味深く、また、心理療法の現場の雰囲気が伝わってくるものでした。

 前の方で紹介されているカウンセラーは催眠療法を主としている人が多いようですが、その中にも、ロシア軍が開発した高度健康チェックシステムを導入しているとか、退行催眠療法だけでなく「前世療法」もやっているとか、いろいろな人がいるなあと。

 その後にも、「チャネリング」とか「遠隔ヒーリング」を得意とする人が多く登場し、ソウルヒーリングやインターチャイルド、レイキといった用語が出てくるし(こうした用語については冒頭に用語集で解説されていて、その点は親切)、クライアントのオーラーが見えるとか霊感が強いとか、結構スピリチュアル系の人が多いように思いましたが、実際にカウンセラーとして開業している人たちにはこうした人が多いのでしょうか。

 透視鑑定とか自然療法まで出てきて、どこまでを心理療法と呼ぶかということもありますが、相談に訪れる人がいる限り、絵画セラピーであろうとフラワーセラピーであろうとセラピーなのだろうなあ。後は、カウンセラーを選ぶ側の自己責任の問題であって。

 カウンセラーのパブリシティ記事を集めたような本かなとも最初は思い、実際、インタビューではなく本人の自己PR形式のものも一部にあったものの、全体としては、「薬に頼らず、じっくり相談者の話を聴いてくれる先生を取り上げよう」という取材班の意向は反映されているように思いました(価格1,000円も良心的)。

 紹介されている心理カウンセラーの前職は様々ですが、その多くが、かつて自分自身が「心の病」を抱えた相談者の立場だったというのが興味深かったです。

 あまり偏見を持つのもよくないけれど、やはりどうしても、スピリチュアル系に偏り過ぎているように思えるのが残念。

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「相づち以外はしゃべらないこと」が第一歩。実生活でも役に立つ本。

プロカウンセラーの聞く技術.jpg『プロカウンセラーの聞く技術』.JPG   higashiyama.jpg 東山 紘久 氏(経歴下記)
プロカウンセラーの聞く技術』('00年/創元社)

 来談者中心療法の権威である著者が一般向けに書いた、人の話を「聞く技術」の本ですが、来談者中心療法の実生活での応用編ともとれ、カウウセラーを目指す人にも技法面で大いに参考になるのではないかと思います。

 久しぶりに友人と会食することになり、何か相談ごとでもあるのかなと思って行ったけれども、ついつい会った途端に自分の話ばかりしてしまい、その時は楽しかったけれども、ウチに帰った後で相手の話はあまり聞かなかったことに気付き、しゃべり過ぎたと後悔する...。
 そうした経験をよくする人にはお薦めです。
 本書の31章の中から、自分にとってのチェックポイントに線を引き、人に会う前にもう一度なぞっておく。
 そういうことを繰り返していくうちに、本書の効用を実感することがあるかと思います。
 そうした意味では、実生活でも大いに役に立つ本と言えるかも。

 因みに第1章の中に「相づち以外はしゃべらないこと」とあり、これがこの本の第1段階ですが、このことを実行するだけでも結構たいへんかも知れませんし、その難しさを意識することで、自分の未熟さに対し謙虚な気持ちにもなれます。

 他人から"頭のいい"人と思われたければ、"頭のいい話し方"の本を読む前に、まずこの本を読んでみてはどうでしょうか。

《読書MEMO》
●相づち以外はしゃべらないこと(11p)
●「なるほど」「なあるほど」「なるほどね」「なるほどねえ」「なるほどなあ」と「なるほど」だけでも使い分ける(26p)
●相手の話したことを繰り返すのは、すばらしい相づち効果(29p)
●悪口を言うからこそ我々は悪くならないですんでいる(48p)
●相手の思いのままに聞き、自分の思いは胸にしまっておく(101p)
●プロは相手の話の内容よりも、なぜその話をするのかに関心」ある(158p)
●聞きだそうとしない(193p)


「労政時報」3773号(10.5.14) "人事のプロ"が薦める15冊
『プロカウンセラーの聞く技術』(東山 紘久 著/創元社 2000年)
■ 聞き上手になるためには
 本書は、プロのカウンセラーである著者が、聞き上手になるための技術を解説したものである。著者によれば、ほとんどの人は、話を聞くよりも話をする方が好きで、たとえ話すのが苦手だという人でも、リラックスして話せる相手にめぐりあえると、とどまることを知らないほど話したりするものだという。
 では、聞き上手になるにはどうすればよいか。それには、相手の話したいという気持ちを負担に感じず、また、こちらからは話したくならないような訓練が必要であるという。本書は、聞く技術を習得するための31項目のキーフレーズを掲げ、それらを順に解説している。  
■ 相づち以外はしゃべらない
 第1項「聞き上手は話さない」には、「とにかく、まずは、相づち以外はしゃべらないこと」とあり、第4項「相づちの種類は豊かに」では、プロのカウンセラーは、「なるほど」という相づちだけでも「なるほど」「なあるほど」「なるほどね」「なるほどねえ」「なるほどなあ」と使い分けるとある。また、「相手の話したことを繰り返すのは、すばらしい相づち効果」になるともある。だだし、相手のどの言葉がキーワードかを判断しつつ、それをしなければ逆効果になるため、これは高等技術である。
 また、第8項に「自分のことは話さない」とあり、第10項に「聞かれたことしか話さない」とあるが、これは、「聞き手モード」を意識的にキープしないと、ついつい「話し手モード」になってしまうということである。
 第12項に「情報以外の助言は無効」とあり、助言として自分の体験を話す人がいるが、こうした話が相手の心に響くことはまれであるという。聞き手は話し手より偉くないことを自覚しているべきであって、第15項にあるように、「素直に聞くのが極意」であり、「相手の思いのままに聞き、自分の思いは相手が聞くまで胸にしまって」おくのが、その「素直」ということである。
■ どのような姿勢で相手の話を聞くか
 中には、相手の話に共感しようとするあまり、相手に同情し、相手の問題を自分の問題と混同してしまう人もいる。第19項には、「相手の話は相手のこと」と考えるとある。もちろん、温かい気持ちでそれができるためには、相手に対する理解が必要であり、相手の気持ちになって、しかも相手と自分を混同しないことが肝要なのである。
 また、第22項にある、「LISTENせよ、ASKするな」とは、相手の話を「聞く」のであって、「たずねる(質問する)」のではないということである。「たずねる」と「聞く」の大きな差は、「たずねる」のが質問者の意図にそっているのに対して、「聞く」のは話し手の意図にそっていることである。さらに、第29項には、「聞きだそうとしない」とあり、相手の話を聞く態度で、「聞きだす」というのは、さしさわりがあるとしている。
 どの項も、どのように相手の話を聞くべきかということを、深く教えてくれているように思える。
■ 「聞く技術」の効力
 人はだれでも、信頼しあえる人間関係を持ちたいと思っている。それは、職場においても同じである。仮に自分が人事部にいるとして、会社の考えを社員に伝えるのが使命であって、そのためには社員から嫌われてもしかたがないというのは、あまりにも後ろ向きである。といって、社員ひとりひとりから嫌われないようにすることに腐心していては、仕事にならない。社員の何人かは、自分の考えや不満を会社に聞いてもらいたいという気持ちを強く抱いている。そうした際に、窓口となる人事部の人間が、しっかりとその気持ちを受けとめてくれるかどうかが、人事部と社員の信頼関係、しいては会社と社員の信頼関係の構築において、ひとつの大きな要素になるのではないか。
 コンサルティングの場でも同様である。一方的に自らの考えを顧客に押しつけるコンサルタントは、たとえその知識や理論が洗練されたものであっても、心底からの顧客の信頼を得ることは難しい。経営者は、誰にも言えないでいる悩みを抱えていることが少なくない。まず、その悩みを、相手があたかも自分自身のことであるように聞いてくれたという顧客の実感が、両者の関係を次のステップに導く。信頼関係が構築されていない場合は、制度やシステムの完成間近になって、それまで見えなかった齟齬が次々と顕在化してくる。
 「聞く技術」は、こうした仕事場面において効果を発揮するばかりでなく、家庭生活や友人・恋人との交流においても応用が可能であると考えられる。
■ ベースにあるカウンセリング技法
 本書のベースにあるのは「来談者中心療法」のカウンセリング技法である。一般に来談者中心療法はカール・ロジャーズによって開発され、ロジャーズ理論とイコールとされているが、厳密にいえばそれは正しくはない。なぜならば、ロジャーズが提唱した「純粋性」(カウンセラーがありのままの自分になること)、「受容」(すべてをクライエントの感情に立って受け入れ、積極的に尊重すること)、「共感的理解」(クライエントの内的世界において理解する態度)という概念は、カウンセラーがクライエントに向かう態度を示したものであり、彼自身は技法論を提唱していないからである(東山紘久『来談者中心療法』(2003年 ミネルヴァ書房))。
 来談者中心療法の技法は、ロジャーズの弟子たちが開発・体系化したもので、著者自身も30代に、ちょうど河合隼雄がスイスのユング研究所で学んだように、米国のカール・ロジャーズ研究所で学んだ人である。本書は、来談者中心療法の実生活での応用編ともとれ、カウウセラーを目指す人には技法面で参考になるのだろう。
 ただし、本書には、難解な用語はいっさい出てこない。それどころか、来談者中心療法という言葉さえ出てこない。これを啓蒙書と読もうと技術書として読もうと、それは読者の自由であるが、読み進むにつれて、双方の視点は統合されてくるように思う。
■ 遅々たる"成長"過程ではあるが
 本書の31項は、"31段階"ともとらえられる。「相づち以外はしゃべらないこと」というのが"第1段階"ということになり、実践してみればわかることだが、このことだけでも容易ではない。
 本書全体を400m走にたとえれば、自分自身はまだ、第1コーナーあたりを迷走している。最初に読んでから何年にもなるのに情けない話ではあるが、これは鍛錬の足りなさによる。そうした本を、「私を作った"成長"本」とするのはおこがましい気もする。しかし、本書の内容のうち、自分にとってのチェックポイントに線を引き、人に会う前に再度なぞっておく―そういうことを繰り返していくうちに、本書の効用を実感することが今まで何度もあり、あえて本書を選んだ次第である。

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東山 紘久 (臨床心理士・京都大学副学長)
昭和17年、大阪市に生まれる。
昭和40年、京都大学教育学部卒業。
昭和48年、カール・ロジャース研究所へ留学。教育学博士、臨床心理士。
現在は京都大学大学院教授。専攻は臨床心理学。
著書には、『遊技両方の世界』創元社、『教育カウンセリングの実際』培風館、『愛・孤独・出会い』福村出版、『子育て』(共著)創元社、『母親と教師がなおす登校拒否――母親ノート法のすすめ』創元社、『カウンセラーへの道』創元社 他

《読書MEMO》
2023.9.14 池袋東武・旭屋書店にて
『プロカウンセラーの聞く技術』8.jpg

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「不完全な人間が、不完全性を認めながらもがんばりつづける」という姿勢が大事であると。

『カウンセリングの話 [新版]』.JPGカウンセリングの話.jpg 『新版 カウンセリングの話』 (2004/01 朝日選書)

ca_img02.jpg カウンセリングの入門書ですが、カウセリングの働きが、カウンセラー自身にとっての深い意味の発見であることを示唆する本となっています。

 まずカウンセリングの定義や理論前提を充分に解説し、続いてX理論・Y理論やマズローなどのカウンセリングに関する「人間観」と、来談者中心療法や論理療法などの「理論」を、それぞれバランスよく網羅しています。

 読者の理解を深めるために突っ込んだ説明もなされていますが、著者の考えを述べている部分はその旨を明記していて、入門書として適切でそれでいて内容の薄っぺらさはありません。

 最終章では著者のカウンセリング観、カウンセラーに求められる資質などが述べられていますが、「不完全な人間が、不完全性を認めながらもがんばりつづける」そういう姿が身についたとき、カウンセラーは真の援助者になれるのではないか、というその考えに頷かされます。

《読書MEMO》
●マグレガーのX理論(人間なまけもの論)・Y理論(人間信頼論)
●マズローのD(dificiency=欠乏)心理学とB(being=人間存在)心理学(29p)
 欲求五段階説(31p)
 1.生理的欲求/2.安全の欲求/3.所属と愛の欲求/4.承認の欲求/5.自己実現の欲求
●カウンセリングの理論
1.精神分析
2.特性因子理論 (F・パーソンズ.)
3.来談者中心療法 (C・ロジャーズ)
4.行動療法(系統的脱感作)
5.論理療法 (A・エリス)
6.ゲシュタルト療法 (F・パールズ)
7.TA(交流分析)(エリック・バーン)

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「原因究明」型のトラウマ理論より「解決志向」を説く。

立ち直るための心理療法.jpg  『立ち直るための心理療法』ちくま新書 〔'02年〕 矢幡 洋1.jpg 矢幡洋 氏 (臨床心理士)

ca_img01.jpg 本書ではまず、「心の病気」を、
 1.精神病(うつ病・精神分裂病)
 2.心身症
 3.神経症
 4.依存症
 5.適応上の問題
 の5つに区部し、それぞれについてわかりやすく解説しています(この区分はほぼ国際的な基準に沿ったものである)。例えば神経症の解説についても、「森田神経症」や「退却神経症」などもフォローするなど、行き届いた感じがしました。
 さらに、それらに該当する場合、「精神科医」に診てもらうべきか、「カウンセラー」に診てもらうべきかを述べていますので、専門家の支援が必要な人にとっては良い"助け"になるかと思います。またそれは、カウンセラーにとっても、同じことが言えるかもしれません。

 最近は「心の病気」を「アダルト・チルドレン」や「PTSD」といった概念で説明することが流行っていますが、著者はこうしたトラウマ理論はぶっとばせ!と言っています。こうした"原因究明"は治療とは直結せず、新たな問題を増やす恐れさえあるという著者の言説には、説得力を感じます。どうやって「立ち直る」かが問題なのだと―。

 この考え方は、後半部分の心理療法の実際についての説明にも表れていて、「解決志向セラピー」や「ナラティブ・セラピー」というものに代表される「ポストモダンセラピー」に、特に頁を割いて説明しています。この他にも、諸外国で行われているセラピーを紹介していますが、大方が自らの体験に基づいた記述なので、どのようなものかをイメージしやすいと思います。

 著者は精神科医ではなく臨床心理士ですが、精神病院や精神科クリニックなどでの勤務経験が豊富で、自らをカウンセラーとしては精神科医寄りかも知れないと言っています。本書には良い意味で、その特色が出ていると言えます。

《読書MEMO》
●心理療法の種類
 ・言語によるアプローチ(精神分析、クラエアント中心療法、ポストモダンセラピー)
 ・変性意識状態による治療法(自律訓練法、トランスパーソナル心理学、イメージ療法)
 ・ボディワーク(センサリー・アウェアネス、フェルデンクライシス身体訓練法、オーセンティック・ヌーブメント他)
 ・芸術療法(アートセラピー、音楽療法他)

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語られているのは、"技法"よりもクライエントに向かうときの"姿勢"の話。

心理療法個人授業.jpg心理療法個人授業』〔'02年〕 心理療法個人授業2.jpg心理療法個人授業 (新潮文庫)』〔'04年〕

 南伸坊氏が"生徒"になって各界の専門家の授業を受けるというスタイルのシリーズ第4弾で、"先生"は河合隼雄氏。
 
解剖学個人授業.jpg 同じこのシリーズの、養老孟司氏が先生役の『解剖学個人授業』('98年/新潮社)を読んでいたので、南伸坊という言わば"素人"さんを介在して、一般読者の入りやすい切り口から学問の特定分野の世界を紹介し、読者により身近に感じてもらおうというのがこのシリーズの狙いであって、必ずしも体系的に○○学とは何かを述べているものではないということはわかっていました。本書も大体はそうしたコンセプトに沿ったものですが、基本的にはわかりやすい言葉で書かれているものの、内容的には奥が深いと思います。
解剖学個人授業 (新潮文庫)』 

 「授業」というタイトルにつられて知識や技法論を求め過ぎて本書を読むと、思惑違いということになるのではないかと思います。この本で述べられているのは主として"技法"以前の話、つまりクライエントに向かうときの姿勢についてであり、そちらの方が"技法"そのもよりずっと大事なのだと思いました。

 個人的には、来談者中心療法の祖とされるカール・ロジャーズが、セラピストの人格とクライエントに向かう態度を強調する一方で、技法論そのものはあえて提唱しなかったこととの共通性を、河合隼雄氏に見出した思いがしました。心理療法というのは、心理療法家個人が人間として先ずどう在るのかに依存するところが大きいのではないかと。

 【2004年文庫化[新潮文庫]】

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心理療法における問題を扱うと同時に、著者のエッセンスが随所に。

人の心はどこまでわかるか.jpg人の心はどこまでわかるか2.jpg 0人の心はどこまでわかるか』.jpg  河合 隼雄.jpg
人の心はどこまでわかるか』講談社+α新書 〔'00年〕

 河合隼雄氏が、心理療法家として活躍している中堅の方々との対談を通して、対談の後に個別に寄せられた質問に答える形をとりながら、その中で自分がどうして心理療法家になったか、心理療法を通して何が見えてきて何が難しいと感じたかなども含めまとめたものです。西洋人の父性原理を通してみる日本人の心の問題や、氏にとってのユングの存在についてなど、"河合隼雄"のエッセンスが詰まっています。

人の心はどこまでわかるか5.JPG 結局のところ人の心はわからないのであって、そのことを認識した上で努力を重ねる、その姿勢が大切なのだということでしょう。著者の言を借りれば、いかにわからないかを骨身にしみてわかった者が「心の専門家」であると―。特に、事例研究の重要性を説いていたのが印象に残りました。

エトルリヤの壷.jpg 西洋人の父性原理につて述べた部分では、その象徴的な話として紹介されている、村の掟を破った自分の息子を父親が銃殺するというプロスペル・メリメの「マテオ・ファルコーネ」という小説の話が印象的で、この父親の感覚は日本人には理解しがたいものでしょう。

 理解しがたいということは、カウンセラーとしての父性・母性のバランスを考える場合、それだけ日本人の場合、父性の役割をもっと意識した方がいいというのが、河合氏の考えのようです。この辺りは『母性社会日本の病理』('76年/中央公論新社、'97年/講談社+α文庫)で河合氏が展開した、日本は母性社会であるという比比較文化論的な流れを引いていると言えるかと思います。

 しかしながら、全体として心理療法において専門職であるところのセラピストが直面する諸問題を扱った本書が、発刊後すぐに10万部突破の売れ行きを示したのは、編集部がつけたというタイトルのうまさ、著者のネームヴァリュー、「講談社+α新書」の創刊ご祝儀的要素などいろいろあるにしても、やはり日常社会の人間関係などを難しく感じている人が多い時代だということなのでしょうか。

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カウンセリングの入門書であり名著。ゆっくり読みたい。

カウンセリングを語る7.JPGカウンセリングを語る 上.jpg カウンセリングを語る 下.jpg
カウンセリングを語る〈上〉〈下〉』講談社+α文庫['99年](表紙絵:安野光雅
カウンセリングを語る (下).jpgカウンセリングを語る 単行本.jpg
 本書は、著者がかつて四天王寺人生相談所(お寺の付属機関)で毎年カウンセリングの話をした、その通算20回の講義内容がベースになっています。
 元本(単行本)は'85(昭和60)年に出版されたものですが、それまでに長年にわたって話した内容が全体として一貫性を持ち、しかも章を追うごとに深化していくのは見事です。入門書であり、名著でもあると思います。

 上巻では、学校や家庭での身近な問題から説きおこし、心を聴くとは? カウンセラーの人間観とは? 治るとは? カウンセリングの限界とは? 危険性は?といった切り口で、カウンセリングとは何かを語っています。
 さらに下巻では、カウンセリングにはなぜ「××派」などがあるのかという話からその多様な視点と日本的カウセリングを考察し、カウセリングを行う際の実際問題とその対し方を述べ、最後は死生観や人生観にまで突っ込んだ話となっています。

 著者はカウンセリングが宗教に通じるものがあることを肯定していますが、この本自体が"法話"のような趣があります。
 本書を読むことは、〈知識的〉読書というより〈体験的〉読書とでも言うべきでしょうか。
 文庫上・下巻で600ページを超えますが、ゆっくり読みたい本です。

 【1985年単行本[創元社 (上・下)]/1999年文庫化[講談社+α文庫 (上・下)]】

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