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ビジュアル天文学史。天文学と美術の合体。半分「美術書」? しかし文章も良い。
『宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人 世界があこがれた空の地図』['20年]Edward Brooke-Hitching
主な著者に『世界をまどわせた地図』『世界をおどらせた地図』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある、英国王立地理学協会フェローにして「不治の域に達した地図偏愛家」であるという著者が、今度は、星図、観測機、絵画、古文書などの美しい図版で天文学の歴史を解説しています。ビジュアル天文学史といったところでしょうか。
もともと古美術コレクターである著者が、博物館やコレクターが所蔵する数々の美麗な図版を紹介しながら、古代から現代までの天文学の歴史を「古代の空」「中世の空」「科学の空」「近代の空」の4章にわたって語っていきますが、著者は天文学者ではないため専門上どうなのかなと最初は思いましたが、読んでいくうちに引き込まれました。
解説そのものは内容的にはオーソドックスですが、天空図をはじめ図説と並行した解説に特徴があり、また、読ませる文章でした。翻訳も良かったのかもしれません(原著タイトルは「The Sky Atlas(「空の地図」)」(サブタイトル「The Greatest Maps, Myths and Discoveries of the Universe」)であり、それを「宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人」をタイトルとし、サブタイトルとして「空の地図」の前に「世界があこがれた」と入れたわけだ)。
『The Sky Atlas: The Greatest Maps, Myths and Discoveries of the Universe』['19年]
「古代の空」では、先史時代の天文学から始まって、古代バビロニア、古代中国、古代エジプト、古代ギリシャのそれぞれの天文学を解説した上で、天球説やプトレマイオスの宇宙論に入っていきます(普通の本は空想に満ちた古代の宇宙論は回避し、あるいは軽く触れただけで、ここから始まるのが多いが)。
「中世の空」では、イスラム天文学が台頭し、それがヨーロッパの天文学の土台となったことが分かりやすく解説されています。また、ここでも、「天上の海」など当時の人々が思い描いた様々な宇宙像を図説で紹介しています(本書の表紙に使われる16世紀のフレスコ画などもその1つ)。
「科学の空」では、コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ヨハネス・ケプラー、ガリレオ・ガリレイといった現代天文学の礎を築いた超有名な先人たちが登場する一方、月の地図を作ったヨハネス・ヘヴェリウスの業績なども紹介されていて、「空の地図」というテーマに沿ったものとなっています。
「近代の空」では、観測の鉄人ウィリアム・ハーシェルが登場しますが、彼を支えた妹のカロリン・ハーシェルのことは初めて知りました。その息子ジョン・ハーシェルは、月の生命体がいると確信していたのかあ。これも初めて知ったし、パーシヴァル・ローウェルという人は火星人の存在を信じていたようです。こうした真実と異なる方向に行ってしまった先人も取り上げているのも、本書の特徴です。海王星や冥王星の発見の話は、物語的で面白いです。
そして、アインシュタイン、ルメートル、ハッブルが登場しますが、ハッブルが宇宙膨張の概念を発表する2年前に、ルメートルが提唱し、さらに、今で言うビッグバン理論に当たる「原始的原子の仮説」も提唱しています、このことは多くの天文学入門書でも書かれていて、先に読んだ物理学者の三田一郎氏(素粒子物理学)の 『科学者はなぜ神を信じるのか―コペルニクスからホーキングまで』('18年/講談社ブルーバックス)でも触れていました(ルメートルは名声に頓着しなかった。ルメートルも三田一郎氏も聖職者である)。
全体を通して、〈天文学と美術の合体〉とでも言うか、大袈裟に言えば半分「美術書」といっても差し支えないような本です。でも、文章も良い(少なくとも難しくはない)ので、是非読んでみてほしいと思います。
《読書MEMO》
●目次
はじめに
古代の空 先史時代の天文学/古代バビロニア/古代中国の天文観測/古代エジプトの天文学/古代ギリシャ/天球説の登場/プトレマイオスの宇宙論/ジャイナ教の宇宙観
中世の空 イスラム天文学の台頭/アストロラーベの発明/イスラム天文学がヨーロッパに広まる/ヨーロッパの天文学/天文学の新時代/天上の海/宇宙をこの手に:ぜんまい仕掛けと印刷技術/天文現象:その1 メソアメリカ
科学の空 コペルニクスが起こした革命/ティコ・ブラーエ/ヨハネス・ケプラー/ガリレオ・ガリレイ/デカルトの渦動説/月の地図を作ったヨハネス・ヘヴェリウス/ニュートンの物理学/ハレー彗星
近代の空 ウィリアム・ハーシェルとカロリン・ハーシェル/小惑星の名付け親/ジョン・ハーシェルと月の生命体/海王星の発見/まぼろしの惑星ヴァルカン/分光法と宇宙物理学の幕開け/天文現象:その2 パーシヴァル・ローウェルが火星の生命を探る/惑星Xの探索と冥王星の発見/星の分類で活躍したピッカリングの女性チーム/新たな宇宙像:アインシュタイン、ルメートル、ハッブル/20世紀の画期的大発見と未来
あとがき/主な参考文献/索引/謝辞/図版・地図クレジット