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ビジュアル天文学史。天文学と美術の合体。半分「美術書」? しかし文章も良い。

宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人.jpg 宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人 .jpg ブルック゠ヒッチング.jpg
宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人 世界があこがれた空の地図』['20年]Edward Brooke-Hitching

宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人1.jpg 主な著者に『世界をまどわせた地図』『世界をおどらせた地図』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある、英国王立地理学協会フェローにして「不治の域に達した地図偏愛家」であるという著者が、今度は、星図、観測機、絵画、古文書などの美しい図版で天文学の歴史を解説しています。ビジュアル天文学史といったところでしょうか。

 もともと古美術コレクターである著者が、博物館やコレクターが所蔵する数々の美麗な図版を紹介しながら、古代から現代までの天文学の歴史を「古代の空」「中世の空」「科学の空」「近代の空」の4章にわたって語っていきますが、著者は天文学者ではないため専門上どうThe Sky Atlas.jpgなのかなと最初は思いましたが、読んでいくうちに引き込まれました。

 解説そのものは内容的にはオーソドックスですが、天空図をはじめ図説と並行した解説に特徴があり、また、読ませる文章でした。翻訳も良かったのかもしれません(原著タイトルは「The Sky Atlas(「空の地図」)」(サブタイトル「The Greatest Maps, Myths and Discoveries of the Universe」)であり、それを「宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人」をタイトルとし、サブタイトルとして「空の地図」の前に「世界があこがれた」と入れたわけだ)。
The Sky Atlas: The Greatest Maps, Myths and Discoveries of the Universe』['19年]

宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人11.jpg宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人1-2.jpg 「古代の空」では、先史時代の天文学から始まって、古代バビロニア、古代中国、古代エジプト、古代ギリシャのそれぞれの天文学を解説した上で、天球説やプトレマイオスの宇宙論に入っていきます(普通の本は空想に満ちた古代の宇宙論は回避し、あるいは軽く触れただけで、ここから始まるのが多いが)。

宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人1-3.jpg 「中世の空」では、イスラム天文学が台頭し、それがヨーロッパの天文学の土台となったことが分かりやすく解説されています。また、ここでも、「天上の海」など当時の人々が思い描いた様々な宇宙像を図説で紹介しています(本書の表紙に使われる16世紀のフレスコ画などもその1つ)。

宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人2-1.jpg 「科学の空」では、コペルニクス、ティコ・ブラーエ、ヨハネス・ケプラー、ガリレオ・ガリレイといった現代天文学の礎を築いた超有名な先人たちが登場する一方、月の地図を作ったヨハネス・ヘヴェリウスの業績なども紹介されていて、「空の地図」というテーマに沿ったものとなっています。

宇宙を回す天使、月を飛び回る怪人2-3.jpg 「近代の空」では、観測の鉄人ウィリアム・ハーシェルが登場しますが、彼を支えた妹のカロリン・ハーシェルのことは初めて知りました。その息子ジョン・ハーシェルは、月の生命体がいると確信していたのかあ。これも初めて知ったし、パーシヴァル・ローウェルという人は火星人の存在を信じていたようです。こうした真実と異なる方向に行ってしまった先人も取り上げているのも、本書の特徴です。海王星や冥王星の発見の話は、物語的で面白いです。

 そして、アインシュタイン、ルメートル、ハッブルが登場しますが、ハッブルが宇宙膨張の概念を発表する2年前に、ルメートルが提唱し、さらに、今で言うビッグバン理論に当たる「原始的原子の仮説」も提唱しています、このことは多くの天文学入門書でも書かれていて、先に読んだ物理学者の三田一郎氏(素粒子物理学)の 『科学者はなぜ神を信じるのか―コペルニクスからホーキングまで』('18年/講談社ブルーバックス)でも触れていました(ルメートルは名声に頓着しなかった。ルメートルも三田一郎氏も聖職者である)。

 全体を通して、〈天文学と美術の合体〉とでも言うか、大袈裟に言えば半分「美術書」といっても差し支えないような本です。でも、文章も良い(少なくとも難しくはない)ので、是非読んでみてほしいと思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
古代の空 先史時代の天文学/古代バビロニア/古代中国の天文観測/古代エジプトの天文学/古代ギリシャ/天球説の登場/プトレマイオスの宇宙論/ジャイナ教の宇宙観
中世の空 イスラム天文学の台頭/アストロラーベの発明/イスラム天文学がヨーロッパに広まる/ヨーロッパの天文学/天文学の新時代/天上の海/宇宙をこの手に:ぜんまい仕掛けと印刷技術/天文現象:その1 メソアメリカ
科学の空 コペルニクスが起こした革命/ティコ・ブラーエ/ヨハネス・ケプラー/ガリレオ・ガリレイ/デカルトの渦動説/月の地図を作ったヨハネス・ヘヴェリウス/ニュートンの物理学/ハレー彗星
近代の空 ウィリアム・ハーシェルとカロリン・ハーシェル/小惑星の名付け親/ジョン・ハーシェルと月の生命体/海王星の発見/まぼろしの惑星ヴァルカン/分光法と宇宙物理学の幕開け/天文現象:その2 パーシヴァル・ローウェルが火星の生命を探る/惑星Xの探索と冥王星の発見/星の分類で活躍したピッカリングの女性チーム/新たな宇宙像:アインシュタイン、ルメートル、ハッブル/20世紀の画期的大発見と未来
あとがき/主な参考文献/索引/謝辞/図版・地図クレジット

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今読み返しても色褪せていない。壮大なスケールの話を愉しめた。

一万年後 (カッパ・ブックス).jpg一万年後.jpg
一万年後 上 宇宙に移住する人類 (カッパ・ブックス)』『一万年後 下 惑星を改造する科学 (カッパ・ブックス)』['75年]カバーイラスト:石岡瑛子(西武美術館『ヌバ』展(1980)/「MISHIMA:A LIFE IN FOUR CHAPTERS」(1985))

一万年後3.jpg一万年後2.jpg 1万年後、人類はこの地球上に無事生存しているか? しているとすれば、科学、テクノロジーはどのような変貌を遂げているか? 人類が滅びることはないのか? こうした疑問に科学ジャーナリストが答えた本。原著・訳書とも'75(昭和50)年の刊行で、当時結構売れた本ですが、今読み返しても色褪せていません。

一万年後4.jpg 上巻の第1章では、いきなり「地球は滅びるか」で、人類は宇宙に飛び立つ前に内部から崩壊してしまうのではないかとの疑問に対する著者の結論は「滅びない」です(ただし、核戦争や環境破壊でいったん滅んで復活するというシナリオも)。原著・翻訳とも'75'(昭和50)年刊行で、すでに核戦争の不安が眼前に立ち現われていた時代ですが、核戦争が起きて大きな被害があっても40年程度で復興し、仮にそれが400年や4000年であっても、地球の寿命に比べればごく短い時間であると。さらに、男女50人の人類が生き残れば、文明は50万年という短期間で復興し、猿が生き残れば、数百万年後には文明社会ができるだろうとしています。

 第2章「限りない宇宙開発計画」から宇宙開拓の話に入っていきます。ここでは宇宙開発は、「月に始まり月に戻る」「人類は月面に永久基地を建設するだろうとしています('75年にアポロ計画が終わったことを踏まえながらも)。
一万年後5.jpg

 第3章「月の植民地」、第4章「月の住民たち」では、月世界での工場建設や生活の話をしています。酸化鉄や酸化チタンをタンクに入れて太陽を当てると、空気のない環境で高温を発し、酸化鉄・チタンから酸素が分離できて、後は地球から運んだ水素をくっつければ、水ができるとのこと。酸素と水があれば、後はエネルギーで、液体窒素をタンクに入れ、太陽光を当てて気化させ、それで、タービンを回し発電可能で、気化した窒素は冷めて、また液体窒素に戻ると。

 第5章「金星改造計画」で話は金星に。金星は原始地球と似た大気を持つと言われ、二酸化炭素が濃密で、温室効果により480℃の高温、100気圧の高圧の地獄のような状態ですが、金星も人間が住める環境に改造できるとのこと。二酸化炭素を分解するには光合成のできる生物を入れればよく、ただし、高温高圧に耐えうる生物であることが条件ですが、らん藻植物という単細胞植物は高温にも低温にも耐えて繁殖力も強いため、金星の環境に耐える種類を捜し、ロケットで金星大気中に打ち込めば、らん藻植物が光合成で二酸化炭素を酸素に変え、2~3年の内には、温室効果が少しずつ弱まり、雨が降って地表の温度が下がり、さらに多くの動植物を地球から移し、環境を改造していくことが可能だとしています。

『人類は宇宙のどこまで旅できるのか』.jpg 第6章「新天体を求めて」、下巻の第7章「ゆがんだ四次元空間」、第8章「亜空間飛行」では、所謂「恒星間飛行」を扱っており、四次元空間の利用、亜空間飛行も含め検討している点は、最近のレス・ジョンソン著『人類は宇宙のどこまで旅できるのか―これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー』('24年/東洋経済新報社)に通じるものがあったように思います(『一万年後』の方が半世紀早いが)。

 第9章「機械を生む機械」、第10章「空飛ぶ宇宙都市」では、今で言うところのAIや、未来小説に出てくる宇宙コロニーのような話になっています(小惑星などを分解して、地球と火星軌道の中間あたりに、太陽の周りをまわるように作る所謂「ダイソン環」)。ただ、「宇宙都市は21世紀までに建設されているだろう」としており、この点は現実においてはやや遅れているようにも思います(近未来予測については、本書全般に先走った傾向が見られる)。

一万年後7.jpg 第11章は「木星破壊計画」。小惑星だけでは「ダイソン環」の材料が足らなければ、木星を分解して、ダイソン環の材料にすればよいのだということ。小松左京の「さよならジュピター」の元ネタ(?)とも思える話ですが、これが本書の中では最もユニークな提案で、それで最後にもってきたのかもしれません(因みに、ダイソン環(球)自体は1960年にアメリカの物理学者フリーマン・ダイソンが提唱したものである)。

 結論として、終章で、人間の発展は無限であり、1万年後には、人間が銀河系の勝利者となっているだろうとしています。
 
 1975年頃と言えば、前年の1974年にインドが初めて核実験を実施しており、また、日本でも石油危機の煽りを受けて1974年には経済成長率は一気に落ち込み、戦後初のマイナス(-1.2%)を記録しています。こうした「未来予測本」が結構売れた背景には、そうした社会情勢への不安もあったのかも。ただし、読んでみればまだまだ先のことなので、しかも、人類が滅びることはないという楽観主義的貴重であるため、安心し、純粋に科学的好奇心から壮大なスケールの話を愉しめた本ではないかったでしょうか。

《読書MEMO》
●上巻の「著者の言葉」
わたしたちの文明を地球だけに限る必要はなく、太陽系のうちに押し込めておく必要もない。ローマ人が、かつて大西洋の広大さを見て恐れたように、われわれはこの恒星間の広大さを恐れることはないのだ。むしろ、銀河系にある数万にも及ぶ他の太陽系を、人類が支配できると考えよう。
●下巻の「著者の言葉」
この本のなかで予測された事件、あるいは、予測されたように見える重大な事柄は、遅かれ早かれ実現するであろう。数年というような短い単位の予測ではないから、それがいつ起きるか、正確には述べることができない。しかし、絶対の確信をもって、それが起こることだけは、断定できるのである」
●目次
序 章 文明は宇宙にひろがる
 第1章 地球は滅びるか
 第2章 限りない宇宙開発計画
 第3章 月の植民地
 第4章 月の住民たち
 第5章 金星改造計画
 第6章 新天体を求めて
 第7章 ゆがんだ四次元空間
 第8章 亜空間飛行
 第9章 機械を生む機械
 第10章 空飛ぶ宇宙都市
 第11章 木製破壊計画
 終 章 銀河系の勝利者

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最新の知見をわかりやすく(易しく)解説。併せ読むことで多角的・相互補完的に理解できる。

最強に面白い! ! 宇宙の終わり.jpg最強に面白い 宇宙の終わり.jpg   文系のための東大の先生が教える 宇宙の終わり.jpg
ニュートン式 超図解 最強に面白い! ! 宇宙の終わり』['22年]『ニュートン超図解新書 最強に面白い 宇宙の終わり』['24年]/『やさしくわかる! 文系のための東大の先生が教える 宇宙の終わり (文系シリーズ) 』['23年]

 2冊とも「宇宙の終わり」についてわかりやすく(と言うより易しく)解説した本で、監修者が同じであるため、ほぼ似たような流れと結論になっており、イラストを多く入れたり、対話形式で分りやすかったりするので、読みながら相互に知識を補完し合うとよいと思いました(『ニュートン式 超図解 最強に面白い! ! 宇宙の終わり』の方は今年['24年]「ニュートン超図解新書」('23年創刊)にて新書化された)。

最強に面白い! ! 宇宙の終わり2.jpg 『ニュートン式 超図解 最強に面白い! ! 宇宙の終わり』の方の流れで行くと、まず第1章で、「地球と太陽の死」について述べています(いきなりという感じだが)。60億年後に太陽は膨張を開始し、今の170倍の「赤色巨星」になりますが、その時太陽に飲み込まれるのは水星と金星までで、現在の地球の軌道までくるものの地球の軌道もその頃は大きくなっているため、その時には地球は飲み込まれないと。ただし、太陽はいったん現在の10倍程度の大きさまで戻った後、82年億後に太陽が再膨張し、現在の200倍から600倍の大きさになって、今度は地球も飲み込まれるとのことです。そして太陽もやがて小さくなって白色矮星となり、あとはゆっくり冷えて輝きを失った残骸となると。

 第2章では、「天体の時代の終わり」について述べています。天の川銀河は39億年後にアンドロメダ銀河と合体して1つの楕円銀河になり、これら銀河団に属する銀河は数百億年から1000億年以内に1つに纏まって球状の巨大天体になると。ただし、宇宙が膨張を続けるためその巨大天体は宇宙の中で孤立し、やがて新しい星も生まれなくなって10兆年後には銀河は暗くなり、宇宙は輝きを失うと。ただ、ブラックホールや中性子星はまだ残っていて、10の20乗年後に銀河の中心のブラックホールが巨大化し、すべての天体を飲み込むと。そのブラックホールも、10の100乗年後には飲み込むものが無くなって「蒸発」してしまうとのことです。

 第3章では、「宇宙の終わりと生まれ変わり」について述べています。宇宙の未来を決めるのはダークエネルギーですが、そのダークエネルギーがよく分かってないらしいです。宇宙の未来も不確定で、緩やかな膨張、膨張から収縮へ転じる、膨張がこれまでより加速する、の3パターンが考えられると。第2章までは「緩やかな膨張」を前提に書かれていて、これだと最後には宇宙は素粒子だけが飛び交うだけの世界になり、その素粒子も、ブラックホールが蒸発した10の100乗年後には密度がゼロに近づくと(「10の100乗年後」というのがなかなかイメージしづらいが)。そこから後は、宇宙が生まれ変わるとの説を主張する研究者もいるようです。以下、宇宙が収縮に転じた場合、膨張がこれまでより加速した場合についても予測していますが、いずれも終末を迎えるシナリオのようです。

 第4章では、宇宙が長い年月を経て終末を迎えるのではなく、「突然死」する可能性についてもみていきます。それは、10の数百乗年に1回の確率で起こると言われる「真空崩壊」という現象によるもので、このあたりになると完全に理論物理学の世界で、イメージするのも難しいです。解説自体は数式など使わず易しい言葉で書かれているのですが(笑)。


 『やさしくわかる! 文系のための東大の先生が教える 宇宙の終わり』の方は、先生と生徒の授業(対話)形式で進められ、第1章(1時間目)では宇宙の「はじまり」から説き起こしていますが、第2章(2時間目)で「天体時代の終わり」(「地球と太陽の死」を含む)、第3章(3時間目)で「宇宙の終わり」を扱い、流れとしてはほぼ同じで、第3章で真空崩壊まで解説しています。

ざっくりわかる宇宙論 s.jpg 先にも述べたように、流れは同じですが、それぞれ違った表現や図・イラストを用いているため、併せ読むことで多角的・相互補完的に理解できる取り合わせかと思います。個人的には、宇宙の終焉に関しては、竹内 薫 著『ざっくりわかる宇宙論』('12年/ちくま新書)以来の久しぶりの復習になりました(同書の宇宙の終焉の予測は宇宙が「加速膨張」する前提に立っているが、本書の「緩やかな膨張」論も「緩やかに加速膨張する」ことを意味しており、結末は基本的には本書と同じである)。

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「星間旅行」「系外惑星移住」。宇宙と人類の叡智に思いを馳せるロマン本。

『人類は宇宙のどこまで旅できるのか.jpg『人類は宇宙のどこまで旅できるのか』.jpg スペースシップ.jpg 恒星間宇宙船イメージ図
人類は宇宙のどこまで旅できるのか: これからの「遠い恒星への旅」の科学とテクノロジー』['24年]
「宇宙トラベルガイド」.jpg『人類は宇宙のどこまで旅できるのか』0.jpg 未来の「星間旅行」はどのようなものとなるのかをNASAテクノロジストの物理学者が考察した本です(原題は「宇宙トラベルガイド」)。読んでみて、星間旅は想像以上に困難だと思いましたが、想像しなければ実現もできないということでしょう。
Les Johnson『A Traveler's Guide to the Stars』['22年]

『人類は宇宙のどこまで旅できるのか』2.jpg まず、宇宙は想像以上に大きいことを思い知らされます。最も近い恒星ケンタウルス座アル『人類は宇宙のどこまで旅できるのか』1.jpgファ星に行くのに、高速の10分の1のスピードで行っても40年かかります(「距離」問題)。したがって「星間旅行」は数十年から数百年かかるミッションとならざるを得ず、そのことによって様々な課題が浮上します。電源をどう確保するか、通信手段はどうするか、といった問題もあると指摘しています。さらには、推力を得るためのエネルギーはどうするか(「エネルギー」問題)。星間旅行にかかる時間が人の一生よりはるかに長いという問題もあります(「時間」問題)。ただし、NASAの研究者グループの間では、星間旅行は「奇説」ではなくなっているとのことです。

 もう1つ、宇宙探査や星間旅行において浮上するのが倫理的な問題で、例えば、地球での人類の生存が危ぶまれる状況になって、自分たちの"ゆりかご"を地球外に拡げるにしても、そこで太陽以外の恒星を公転する系外惑星を見つけ、そこに開拓地を作ることは、その星に生息するすべての生物を支配することにもなりかねず、果たしてそうしたことが許されるのかという問題もあるとのことです(大航海時代の帝国の植民地支配に喩えられている)。

恒星間宇宙船.jpg 星間旅行はロボットに旅させる手もあるが、やはり人間が行かないと本来の目的は達成できない。そうすると巨大な「ワールドシップ宇宙船」での生活はどのようなものになるのか。1回の移住は1万人が妥当ではないかとしています。ワールドシップは円筒形で大きさは直径500~600メートル、長さは3~5キロメートル程度になると(もやっとした話ではなく、とことん具体的であるのが本書の良さ)。ただし、ワールドシップ内で生まれた子どもの権利の問題にも触れています(倫理で簡単に白黒つけられる問題ではないとしているが)。

 先に挙げた幾つかの問題の内、ロケットのエネルギーの問題はかなり大きな問題のようで、核エネルギー(分裂・融合)、電磁エネルギー、光子ロケットなど、さらには「反物質」まで、様々な可能性を探っています。例えば、太陽帆で推進する宇宙船というのは実現可能ですが、太陽からエネルギーを得る静電セイルなども同じですが、太陽から離れすぎるとやはり使えません。星間宇宙船の設計に関しても、先に挙げた電源確保や通信の問題、放射線被曝問題、水・酸素、食糧、重力など様々な問題があるとのことです。

 そこで、ここから先はSF的にもなりますが、「スター・トレック」みたいに(日本で言えば「宇宙戦艦ヤマト」みたいに)光より早く移動する(時空をワープする)「ワープ航法」というものも検討の俎上に上げています。コレ、数学的には可能だが物理学的にはわからないそうです。ワームホールを抜けていくというSF的な話も出てきますが、これも、物理学者である著者によれば、理論的には単純なことのようです(でも、それが可能かどうかは分かっていない)。

スペースコロニーのイメージ図(Wikipediaより)
スペースコロニーの概念図.jpg 本書の予測によれば、星間旅行をする最初の有人宇宙船を我々が打ち上げるのは西暦3000年以降になり、宇宙船1機が目的地に達するのに約500年かかるとすると(凍結した胎児を大量に搭載し、目的地に着いて解凍するということも考えられるという)、人間が近隣の多くの恒星系(系外惑星)に移住しているのは西暦10000年頃のことだろうと。ただし、これは、銀河の歴史からすれば"一瞬"であるとしています。

 最後に、宇宙人(地球外知的生命体)が地球に来ているとして、どうしてそれを発見できないかという疑問については、地球が進化し続けた46憶年のうち、我々が宇宙船を開発してまだ100年も経っておらず、相手にも同じことが言えるわけで、相手が先に星間宇宙船で地球に来ていたとしても、6500万年間栄えた恐竜の時代と、それに比べ極々短い人類繁栄の時代のどの時期に地球に辿り着くかという確率の比較からすると、今現在、異星人が地球に来ている可能性は低いとしています(この説は以前にもどこかで読んで納得した覚えがある)。

ざっくりわかる宇宙論 s.jpg ともあれ、面白かったです。宇宙のスケールの大きさや、人類の叡智の可能性に思いを馳せることができる、ロマンに満ちた本でした。以前読んだ、竹内 薫 著『ざっくりわかる宇宙論』('12年/ちくま新書)では、最も近いケンタウルス座アルファ星域に行くにしても光速で4年、マッハ30の宇宙船で光速の3万倍、12万年もかかるため、ワームホールでも見つけない限り難しいのではないかとしていましたが、NASAにはこうしたことを真剣に考えている(マッドではない)サイエンティストがいるのだなあ。

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科学的見地から地球外生命の可能性を考察。先人たちが宇宙人についてどう考えたかが詳しい。
仮説宇宙人99の謎_5442.JPG  四つの目2.jpg 四つの目0.JPG
仮説宇宙人99の謎―宇宙は生命にあふれている (1978年) (サンポウ・ブックス)』 草下 英明 in「四つの目」)

仮説宇宙人99の謎_5443.JPG 本書の著者・草下英明(1924-1991)は誠文堂新光社など出版社勤務を経て独立した科学解説者、科学ジャーナリストで、「現代教養文庫」の宇宙科学関係のラインアップに、『星座の楽しみ』('67年)、『星座手帖』('69年、写真:藤井旭)、『星の百科』('71年)、『星の神話伝説集』('82年)などこの人の著書が多くありました( 保育社の「カラーブックス」の中にもあった)。その中でも、『星座の楽しみ』『星座手帖』『星の神話伝説集』は2000年に再版され、版元の社会思想社の倒産後は、2004年に文元社から「教養ワイドコレクション」としてオン・デマンド出版されています(版元が倒産しても本が出るのは内容がしっかりしているからということか)。

四つの目1.jpg また、「四つの目」という、NHKで1966(昭和41)年から1972(昭和47)年まで放送された小学生向けの科学をテーマにした番組の解説も務めていたので"視覚的"にも馴染みのある人です。「四つの目」とは、通常の撮影による「肉眼の目」、高速・微速度撮影による「時間の目」、顕微鏡・望遠鏡などによる「拡大の目」ウルトラアイ NHK.jpgガッテン!.jpg、Ⅹ線撮影による「透視の目」を意味し、物事を様々な「目」で科学的に分析するというもので、この番組スタイルは、後番組の「レンズはさぐる」('72年~'78年)を経て(草下英明はこの番組にも出ていた)、より生活に密着したテーマを扱う「ウルトラアイ」('78年~'86年)、「トライ&トライ」('86年~'91年)へと受け継がれ(共に司会は局アナの山川静夫)、「ためしてガッテン」('95年~'16年)や現在の「ガッテン!」('16年~)はその系譜になります。

 ということで、本書はトンデモ科学本などではなく、極めて真面目に、宇宙人の可能性について解説した本です。まえがきでUFOの存在をはっきり否定し、自身が遭遇したUFOと間違えそうな4つの経験を挙げ、すべてその正体を明かすなどして、UFO=宇宙人という考えの非科学性を説いています。その上で、科学的見地から地球外生命の可能性を考察しています。ただし、著者はSFにも詳しこともあり、地球外生命について先人たちはどのように考え、イメージを膨らませてきたかなどについても紹介していて、そのため堅苦しささは無く、楽しく読めるものとなっています。

 本書は全8章から成り、その章立ては、
  第1章「想像の宇宙人―人類はなにを夢見たか」、
  第2章「宇宙と生命―なにが宇宙人なのか」、
  第3章「地球と生命―環境はなにを決定するか」、
  第4章「惑星と生命―太陽系内生命の可能性を推理する」、
  第5章「恒星と生命―きらめく星の彼方になにがあるか」、
  第6章「宇宙人逮捕―宇宙人とどう交信するか」、
  第7章「宇宙と文明―ホモ・サピエンスはどこまで進化するか」、
  第8章「夢の宇宙人―どこまで宇宙人にせまれるか」、
 となっていて、その中に99の問いが設けられていますが、1つの章の中で各問いに連続性があるため、読みやすく、また理解しやすいです。

 特に先人たちが宇宙人についてどう考えたかが詳しく、第1章では、シラノ・ド・ベルジュラックの『月両世界旅行記』(1649)、ジュール・ベルヌの『地球から月へ』(1865)、H・G・ウェルズの『月世界の最初の人間』、コンスタンチン・ツィオルコフスキーの『月の上で』などにおいて作者が生み出した宇宙人が紹介されており(ツィオルコフスキーは「宇宙飛行の父」と呼ばれる学者であるともにSF作家でもある)、第8章では、ロバート・ハインラインの『人形使い』('51年発表)やハル・クレメントの『重力の使命』('54年発表)、アイザック・アシモフの『もの言う石』、ジヤック・フィニイの『盗まれた街』などに出てくる宇宙人が紹介されていて、更には、フレッド・ホイルの『暗黒星雲』にあらわれる星雲生命やClose Encounters.jpg、アルフレッド・E・バン・ボクトの『宇宙船ビーグル号の航海(航海)』('50年発表)の超生命なども紹介されています。また最後の〈問99〉「未知の宇宙人との遭遇は、どうなされるか」では、著者が本書を書き終えようとしていた頃に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」('77年)にも言及しています(高く評価している)。
「未知との遭遇」('77年)

 尤も、本論は第2章から第7章の間にあるわけで、宇宙人とは何かという定義から始まって、太陽系内の惑星を1つずつ生命が住めるか検証し、さらにそれを恒星宇宙に広げていき、さらに宇宙人との交信方法や人類の未来について考察していますが、その中においても、先人たちはどう考えたのが随所に紹介されていて、興味を持って読めます。地球外生命論については、立花隆、佐藤勝彦ほか著の『地球外生命 9の論点―存在可能性を最新研究から考える』('12年/講談社ブルーバックス)などもありますが、本書が"経年劣化"しているとはまだ言えず、単著で纏まりがあるという点で、本書は自分の好みです。

 因みに、〈問1〉「世界で最初に宇宙人を想像したのはだれか」によると、世界で一番古い宇宙旅行小説(SFの元祖)は、紀元前二世紀頃にギリシャのルキアノスが "イカロスの翼"伝説に触発されてメニッポスという実在の哲学者を主人公にして書いた『イカロメニッポス』というものだそうで、そのあらすじがまた面白かったです。

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「●岩波ジュニア新書」の インデックッスへ

知識のブラッシュアップだけでなく「おさらい」という意味で分かりやすい良書。

新・天文学入門 カラー版.jpg新・天文学入門 カラー版3.jpg新・天文学入門 カラー版2.jpg 天文学入門 カラー版.jpg
新・天文学入門 カラー版 (岩波ジュニア新書)』['15年]/『天文学入門―カラー版 (岩波ジュニア新書 (512))』['05年]

 わたしたち人間は、どこからやって来たのだろう。ルーツを探しに、宇宙の旅に出かけよう。地球から太陽系、天の川銀河、そして宇宙のはじまりへ。美しい写真と図版をたどりながら、惑星・恒星・銀河の成り立ちや、わたしたちと宇宙とのつながりが学べます。(裏表紙口上より)

 『天文学入門 カラー版』('05年/岩波ジュニア新書)を10年ぶりに大幅改訂したものです。初版にはあった「星・銀河とわたしたち」というサブタイトルが外れていますが、「わたしたちのつながりから宇宙をながめる」というコンセプトは継承されています。

 初版については、入門書とはいえ、近年の天文学はどうなっているのか、ある程度の予備知識がないと難しいのではないかとも思われましたが、その分、ジュニア向けに限らず、普通に大人が読んでも満足が得られる内容であったとも言え、結局、著者らによれば好評を博した(つまりよく売れた)とのことです。

 改訂版は、探査機の成果や系外惑星の発見、ダークマターやダークエネルギーなど、最新の研究を取り入れ、新しい写真・図版も多数掲載したとのことで、写真が奇麗なのと図版が分かりやすいのが本書の特徴ですが、カラー版の特性をよく活かしているように思いました。

 思えば、年を追うごとにいろいろな発見やそれに伴う天文学のトレンドの変化があるなあと。例えば、第2章の太陽系の説明のところにでてくる冥王星は本書にあるとおり、初版刊行の翌年(2006年)の国際天文学連合総会で惑星ではないと決められ、冥王星型天体(準惑星=ドワーフ・プラネット)と呼ばれるようになっています。余談ながら、ミッキーマウスのペットの犬・プルートの名前の由来にもなったように、唯一アメリカ人が発見した「惑星」でした(冥王星が「惑星」の座から陥落した当時、ディズニーは「(プルートは)白雪姫の『七人の小人(ドワーフ)』たちとともに頑張る」との声明を出した)。

 太陽系外惑星も、1995年の最初の発見から本書刊行時の2005年までの20年間で2000個以上発見されたというからスゴいことです。中には太陽系に似た太陽系外惑星系も見つかっているとして、その構成が紹介されています(ホントに似ている!)。アメリカの天体観測衛星ケプラーは、すでに3000個以上の形骸惑星候補を発見しているとのことで、この辺りは今最も新発見の続く分野かもしれません(そう言えば、ダイヤモンドが豊富に含まれている可能性がある惑星が見つかったという話や、表面に液体の水が存在し得る、或いはハビタブルゾーン内に位置していると思われる惑星が見つかったという話があったなあ。星ごとダイヤモンドだったらスゴイが、取り敢えずはダイヤより水と空気が大事か)。

 このように、宇宙そのものはそんな急には変わらないのでしょうが、人類が宇宙についての新たな知識を獲得していくスピードがなにぶん速いため、時々知識をブラッシュアップすることも大事かもしれません。本書自体も今年['19年]で刊行からもう4年経っていますが、知識のブラッシュアップだけでなく「おさらい」という意味で分かりやすい良書だと思います。

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宇宙論の歴史と今現在をわかり易く説く。宇宙の未来予測が興味深かった。

ざっくりわかる宇宙論.jpg
竹内 薫.jpg 竹内 薫 氏 竹内薫 サイエンスZERO.jpg Eテレ「サイエンスZERO」
ざっくりわかる宇宙論 (ちくま新書)

 宇宙はどう始まったのか? 宇宙は将来どうなるのか? 宇宙に果てはあるのか? といった宇宙の謎を巡って、過去、現在、未来と宇宙論の変遷、並びに、今日明らかになっている宇宙論の全容を分かり易く説いています。

 パート①「クラシックな宇宙論」では、コペルニクス、ケプラー、ニュートンから始まって、アインシュタインと20世紀の宇宙論の集大成であるビッグバンまで宇宙論の歴史を概観し、パート②「モダンな宇宙論」では、20世紀末の科学革命と加速膨張する宇宙について、更に、宇宙の過去と未来へ思いを馳せ、パート③「SFのような宇宙論」では、ブラックホールやブレーンといった、物理学的に予想される「物体(モノ)」について述べています。

 宇宙論は20世紀末から現在にかけてかなり進化しており、それが今どうなっているのかを知るのに手頃な本です。基本的には数式等を使わず、一般人、文系人間でも分かるように書かれている一方、部分的には(著者が重要と考える点は)かなり突っ込んだ説明もなされており、個人的にも、必ずしも初めから終わりまですらすら読めたわけではありませんでした。

 でも、説明が上手いなあと思いました。まえがきで自身のことを、科学書の書き手の多くがそうである「プロ科学者〈兼〉アマチュア作家」とは違って、「アマチュア科学者〈兼〉プロ作家」であると言っており、科学好きの一般読者のために、宇宙論の現状をサイエンス作家の視点からざっくりまとめたとしています。

 東京大学理学部物理学科卒業し、米名門のマギル大学大学院博士課程(高エネルギー物理学理論専攻)を修了していることから、「プロ科学者〈兼〉アマチュア作家」ではないかという気もしていたのですが、最近の共著も含めた著作ラッシュやテレビ出演の多さなどをみると、やはり作家の方が"本業"だったのでしょうか? 確か推理小説も書いているしなあ。但し、小説やエッセイ的な著者よりも、こうした解説書・入門書的な著書の方が力を発揮するような印象があり、本書はその好例のようにも思います(Eテレの「サイエンスZERO」のナビゲーターはハマっているが(2011年に放映された"爆発迫るぺテルギウス"の話題を本書コラムで扱っている)、ワイドショーとかのコメンテーターとかはイマイチという印象とパラレル?)。

 「作家」としての自由さからというわけはないでしょうが、仮説段階の理論や考え方も一部取り上げ(著者に言わせれば、「科学は全部『仮説にすぎない』」(『99・9%は仮説』('06年/光文社新書))ということになるのだろうが)、結果的に、宇宙論の"全容"により迫るものとなっているように思いました。

 印象に残ったのは、パート②の後半にある宇宙の終焉と未来予測で、太陽の寿命はあと50億年くらい続くとされ、太陽がエネルギーを使い果たして赤色巨星になると地球は呑みこまれるというのが一般論ですが、その前に太陽は軽くなって、その分地球を引っ張る力が弱まり、地球の軌道が大きくなって実際には呑みこまれないかもしれないとのこと。

 それで安心した―というのは、逆に50億年という時間の長さを認識できていないからかもしれず、6500万年前にユカタン半島に落下し恐竜を絶滅させたと言われるのと同規模の隕石が地球に落下すれば、今度は人類が滅ぶ可能性もあるとのことです。仮に地球が太陽に呑みこまれる頃にまで人類が生き延びていたとして、火星に移住するのはやがて火星も呑みこまれるからあまり意味が無いとし(これ、個人的には一番現実的だと思ったのだが)、と言って、他の星へ移住するとなると、最も近いケンタウルス座アルファ星域に行くにしても光速で4年、マッハ30の宇宙船で光速の3万倍、12万年もかかるため、ワームホールでも見つけない限り難しいのではないかとしており、確かにそうかもしれないなあと思いました(冥王星に移住っていうのはどう?―と考えても、その前に人類は滅んでいる可能性が高いだろうけれど、つい、こういう提案をしたくなる)。

 著者は更に宇宙の未来に思いを馳せ、このまま宇宙の加速膨張が進めば、空間の広がりが光速を超え、1000億年後には真っ暗な宇宙になるだろうと(その宇宙を観る地球ももう無いのだが)。更に、宇宙の年齢137億年を約100億年とし、ゼロが10個つくのでこれを「10宇宙年」とすると、12宇宙年から、宇宙の加速膨張のために、遠くの銀河は超光速で遠ざかるようになって、まばらに近くの銀河や星だけが見えるようになり、14宇宙年から40宇宙年の間に宇宙が「縮退の時代」を迎え、40宇宙年になると陽子が全て崩壊して原子核も無くなり、光子や電子のような素粒子に生まれ変わり、要するにモノと呼べるものは宇宙から全て消えると。そして、40宇宙年から100宇宙年の間、宇宙は「ブラックホールの時代」となり、100宇宙年になるとブラックホールも消えて「暗黒の時代」を迎えるそうです。イメージしにくいけれど、理論上はそうなる公算が高いのだろうか。

 「未来永劫」などとよく言いますが、宇宙論における「未来」というのは、我々が通常イメージする「未来」と100桁ぐらい差があるということなのでしょう。

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個々のテーマについて掘り下げて書かれているのはいいが、横の繋がりが今一つという気も。

地球外生命 9の論点 (ブルーバックス).jpg地球外生命 9の論点 (ブルーバックス)』['12年]

 少し以前までは、学者が地球外生命を論じるのは科学的でないとしてタブー視されていたようですが、どちらかと言うとよりこのテーマに近い専門家である生物学者らの、地球に生命が誕生したのは奇跡であって、地球以外では生命の発生はあり得ないとする《悲観論》が、宇宙のどこかには地球の生命とは別の生命が存在するのではないかという宇宙学における《楽観論》を凌駕してきたということもあったかもしれません。

 それが近年、系外惑星が候補も含め3千個以上発見されているとか、太陽系内にも水がある衛星やかつて水があった惑星がある可能性があるといった天文学者の指摘や、隕石や宇宙空間から有機物が発見されているという新事実から、生物学者の中にも生命の生成が地球外でもあり得るとの仮説を検証しようという動きが出てきたように思われます。

 そうした意味では、生物学者、物理学者らが、それぞれの専門的視点から地球外生命の存在を考察している本書は、学際的な切り口として大変興味深いものがあります。

 9人の専門家(加えて、立花隆氏と宇宙物理学者の佐藤勝彦氏が寄稿)が考察する9つの論点は次の通り。
  1.極限生物に見る地球外生命の可能性 (長沼毅)
  2.光合成に見る地球の生命の絶妙さ (皆川純)
  3.RNAワールド仮説が意味するもの (菅裕明)
  4.生命は意外に簡単に誕生した (山岸明彦)
  5.共生なくしてわれわれはなかった (重信秀治)
  6.生命の材料は宇宙からきたのか (小林憲正)
  7.世界初の星間アミノ酸検出への課題 (大石雅寿)
  8.太陽系内に生命の可能性を探す (佐々木晶)
  9.宇宙には「地球」がたくさんある (田村元秀)

 う~ん。もう、これまで地球外生命の存在に慎重だった生物学者側の方も、今や《楽観論》が主流になりつつあるのかな。
 
 かつて水があった惑星の最有力候補は火星であり、こうなると、地球生命の起源は火星にあるのかも知れないと―(彗星や隕石が火星の有機物を地球に運んできた)。

 但し、本書によれば、海底の熱水噴出孔近くなどの特異な環境で生きる生物の実態が近年少しずつ分かってきており、こうなると、まず地球単独で生命を生み出す条件を揃えていることになったりもして、火星から有機物をわざわざ持ってこなくともいいわけです。

 もちろん、太陽系内で液体の水や火山活動など生命が存在しうる環境が見つかってきていることも、大いに関心は持たれますが、一方、太陽系外となると、生命存在の可能性はあっても、地球に到達する可能性という面で厳しそうだなあと。
 ましてや、知的生命体との遭遇なると、本書にも出てくる「ドレイク方程式」でよく問題にされる「生命進化に必要な時間」と「高度な文明が存在する時間の長さ」がネックになるかなあと。

 まあ、この辺りは不可知論からロマンはいつまでもロマンのままであって欲しいという情緒論に行ってしまいがちですが、これ、一般人に限らず、本書に寄稿している学者の中にもそうした傾向が見られたりするのが興味深いです(やっぱり、自分が生きている間にどれぐらいのことが分かるか―というのが一つの基準になっているのだろうなあ)。

 個々のテーマについて掘り下げて書かれているのはいいけれど、横の繋がりが今一つという気もしました(本当の意味での"学際的"状況になっていない?長沼毅氏以外は、専ら研究者であり、一般向けの本をあまり書いていないということもあるのか)。結局、まだ学問のフィールドとして市民権を得ていないということなんでしょうね。でも、各々のフィールドでの研究は着々と進んでいる印象を受けました。
 
 「自然科学研究機構」というのは、国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所の5研究機関から構成される大学共同利用機関法人で(大学院もある)、「異なる分野間の垣根を越えた先端的な新領域を開拓することにより、21世紀の新しい学問を創造し、社会へ貢献することを目指して」いる団体とのことで、こうしたコラボを継続していくのでしょうね。現機構長である佐藤勝彦氏に期待したいところ。

ロズウェル .jpg 個人的には、ロマンはいつまでもロマンのままであって欲しいという思いは否定するものではなく、自分自身、そうした思いがあるかも。そう言えば、かつて「ロズウェル・星の恋人たち」という海外ドラマがあり、地球にやって来たエイリアンたちが高校で学園生活を送っており、SFがバックボーンではあるが(彼らはFBIに疑いを掛けられている)、恋愛・友情ドラマという色合いが強かったなあ。仕舞いには地球人との間に子どもまでできてしまう(笑)。日本でもNHKで放映されていましたが、本国の方の視聴率が伸びず打ち切りになり、それでも、シーズン3までで全61話作られました。ちょっと懐かしいです。

ロズウェル/星の恋人たち (字幕版)」[Prime Video]

「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)

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「宇宙論」の現在を知る上で初学者にとっては分かり易い本(「多元宇宙」論の解説はやや駆け足気味)。

村山斉 『宇宙は本当にひとつなのか』.jpg宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』  宇宙は何でできているのか3.jpg宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

 分かりづらい「多元宇宙」論について、前著『宇宙は何でできているのか』('10年/幻冬舎新書)がその分かり易さにおいて好評だった著者の本を読んでみようと思い手に取った次第ですが、語り口がやさしく、内容については一部やや難しいところもありましたが(一応、科学系新書のブルーバックスだから、その辺りは心しておくべきだった?)、全体としては分かり良かったという印象。

 全8章の前半部分(第1章~第4章)は主に「暗黒物質」についての解説で、近年の研究成果を反映させつつ、丁寧に解説されており、「よく分かっていないもの」を、現在分かっている範囲で分かり易く解き明かそうとする著者の配慮は、前著同様に感じられました。

 第5章で、宇宙の運命と併せて「暗黒エネルギー」(これもまだ分かっていない部分が多い)について解説した後、第6章、第7章で「多次元宇宙」「異次元」について解説、それらを踏まえて第8章で「宇宙は本当にひとつなのか」を論じていて、前著『宇宙は何でできているのか』が素粒子論中心だったのに対し、こちらはより「宇宙論」的な内容となってはいるものの、タイトルにその通り応えている部分は終りの方だけだったのか、という気もしないでもなかったです。

 その終りの方になると、「超ひも理論」やら何やら出てきて急速に難解になり、量子論と宇宙論は不即不離であるため仕方がないことではあると思いますが、図説が少なくなって解説が駆け足になり、タイトルテーマを一定の紙数内に収めようとするあまり、著者の解説の分かり易さという持ち味が、終盤はやや出しきれていない印象も受けました。

 ただ、章末にそれぞれ各章の内容を復習・補足するような形で「質疑応答」を入れており、これがたいへん分かり易く、トータルでみれば、「宇宙論」の現在を知る上で初学者にとっては分かり易い(バランスのとれた)本と言えるかも。
「多元宇宙」論についても、「多次元宇宙」と「多元宇宙」という捉え方があることを整理して、それぞれを解説しているなど、バランスはとれているように思われました。

 因に、全ての素粒子に質量を持たせるヒッグス粒子は、存在が予想されているが未発見であると本書にありますが、本書刊行後半年も経たない'11年12月に、ヒッグス粒子を見つけたという報道がありました(この世界、日進月歩か?)。

《読書MEMO》
質問:暗黒物質の分布は、なんとなく球に見えるのですが、円盤形とかにはならないのですか?
村山:実は、重力で引き合って、円盤の形を保つというのは難しいことなのです。(中略)銀河で円盤がグルグルまわっていられるのは、暗黒物質が球状に分布していて全体的に球形になっているからなのです(62p)
質問:宇宙の年齢というのは137億年なので、宇宙が光の速さで広がったとすると、差し渡し300億光年は越えないのではないでしょうか。なぜ300億光年先の銀河が見えるのですか?
村山:(前略)光源がその場にずっといてくれれば137億光年より先の宇宙はないのですが、光源が離れていっていますので、137億光年より先の宇宙があるのです(74p)(宇宙の膨張速度は光速を越えているということの補足説明が必要?)
質問:暗黒エネルギーについては、エネルギー保存の法則や物質の保存の法則は成り立たないということでしょうか?
村山:物質保存の法則は実はもう成り立っていません。核反応や加速器を使った実験をおこないますと、反応の前後で物質の量が増えたり減ったりすることがありまので、物質だけでは保存しないことがわかっています。しかし、エネルギー全体としては保存しているはずだというのが、普通に考えられるわけです。ところが(中略)膨張している宇宙ではエネルギー保存の法則は成り立たないということになります(127p)
●ミクロの世界で粒子を短い時間観測するととても大きなエネルギーをもっているように見えます。ほんの少しの時間であれば、他からエネルギーを借りてくるようなことができます。量子力学ではエネルギー保存の法則が破られているように見えます(181p)
●この宇宙はうまくできすぎているのです。たくさんの条件をもった宇宙がランダムに作られていったと考えるにはできすぎているとうところから考えられたのが、人間原理です。人間原理によると、人間が存在できるように宇宙の条件がそろえられているのは当たり前のことなのです。人間が存在できる条件を満たしていないと、人間が生まれません。人間が生まれないということは、観測されないわけなので存在しないのと同じなのです。たくさん生まれた宇宙の中で、ごく稀に条件がそろった宇宙に人間が生まれ、そのような特殊な宇宙だけが科学の対象となり、私たちが見ることができるという理論になっています(191P)

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「超新星爆発」の本。爆発メカニズムや「加速膨張」宇宙発見の契機になったことが分かる。

野本 陽代 ベテルギウスの超新星爆発.jpg  ペテルギウス.jpg  宇宙は何でできているのか3.jpg
ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見 (幻冬舎新書)』/村山斉『宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見2.jpg この著者の本は分かり易くて何冊か読んでいるのですが、本書に関してはネットのブックレヴューで、標題の「ベテルギウスの超新星爆発」について述べているのは冒頭だけで、後は一般的な宇宙論の入門書である、といったコメントがあり、ああ、編集部の方でつけたアイキャッチ的なタイトルなのかなあと思いましたが、読んでみたら必ずしもそうでもなかったように思います。

 本書刊行と同時期にNHK-Eテレの「サイエンスZERO」でベテルギウスの超新星爆発に特化した番組(「爆発が迫る!?赤色超巨星・ベテルギウス」(2011年11月26日 放送))をやっていたから、そうしたものが期待されたというのもあるのかも知れません。

 「冬の大三角形」の一角を成し、オリオン座の左上部に位置するベテルギウスは、大きさは太陽の1000倍、地球から距離は640光年。「ベテルギウスが2012年に超新星爆発を起こすかもしれない」という噂が天文ファンの間で囁かれた「2012年」という言葉が出てきたのは2011年1月のことで、オーストラリアの物理学者が、「もし超新星爆発が起きたら、少なくとも二週間は二つの太陽が見られることになり、その間は夜はなくなるだろう」「場合によってはもっと先かもしれないが、2012年に見られる可能性がある」と言ったことに起因しているそうです。

ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見3.jpg サイエンスライターである著者によれば、超新星爆発を起こした星は太陽の何億倍、何十億倍の明るさで輝くけれども、ベテルギウスとの640光年という距離からすると、一番明るくなったときでも満月より明るくなることはないと。また、ベテルギウスが超新星爆発の兆候を示していることは確かだが、それは明日かもしれないし、10万年後かもしれないとのこと。また、近年、過去15年間でベテルギウスの大きさは15%縮小したという海外の研究発表があり、これを聞くと「いよいよか」と思ってしまうけれど、日本の研究者によれば、ベテルギウスの表面のガス状の部分の変動は近年大きいものの、核の部分の大きさの変化は見られないとのこと。

 赤色巨星であるベテルギウスが爆発すると、色は青くなって、1時間後にはリゲル、2時間後にはシリウスより明るくなり、3時間後には半月ぐらいの明るさになって、明るさのピークに達するのは7日目、その後、ほぼ同じ明るさが3ヵ月続くということなので、見てみたいことは見てみたいけれどね(向こう10万年以内ということは、あと10年内に起きる可能性は1万分の1?)。

 「サイエンスZERO」では爆発3時間後に満月の100倍のまぶしさになると言っていたけれど(この番組にはサイエンスライターで自身が物理学者でもある竹内薫氏が出演していた)、結局、取材先(学者)によって諸説あるということなのかな。

「サイエンスZERO」

 第2章で星の誕生と進化について、第3章で星の終末について解説していますが、随所にベテルギウスにテーマを絡め、超新星爆発が起こる際のメカニズムを素粒子物理学の観点から詳しく解説しているのもタイトルに沿っていると言えるのでは(サブタイトル「素粒子物理学で解く宇宙の謎」との対応も含め)。

 第4章で、人間は宇宙の謎をどのように解き明かしてきたかを、第5章で、その結果、今現在において宇宙はどこまで分かっているかを解説し、この辺りの分かり易い解説は著者の得意と言えば得意とするところ、定番と言えば定番。

 但し、第6章で「加速膨張する宇宙の発見」にフォーカスしていて、これはベストセラーとなった村山斉氏の『宇宙は何でできているのか-素粒子物理学で解く宇宙の謎』('10年/幻冬舎新書)でも注目すべき近年の発見とされていましたが(それまでは減速膨張論が宇宙物理学の一般的解釈だった)、超新星がその発見の鍵となったことを、村山氏の著書以上に詳しく書いています。

 超新星爆発には、Ⅰ型(小質量星の核爆発)とⅡ型(大質量星の重力崩壊)があるとされてきましたが、その後更に細かく分類されるようになり、連星系の白色矮星の爆発をⅠa型と呼ぶそうですが、このⅠa型の超新星の明るさが予測データより暗かったことから、何だかわからないものが宇宙をどんどん拡げているらしいという結論に達したとのこと(発見者3名は2011年のノーベル物理学書を受賞した)。

 宇宙論を解説しながら、最後、ちゃんと「超新星爆発」オチになっている...。

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分かれば分かるほど、分からないことが増える。「宇宙論」って奥が深い。

宇宙は何でできているのか1.jpg宇宙は何でできているのか2.jpg 宇宙は何でできているのか3.jpg  野本 陽代 ベテルギウスの超新星爆発.jpg  宇宙論入門 佐藤勝彦.jpg
宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)』 野本 陽代 『ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見 (幻冬舎新書)』 佐藤 勝彦 『宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)

 村山斉氏の『宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎』は、「宇宙はどう始まったのか」「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」という誰もが抱く素朴な疑問を、素粒子物理学者が現代宇宙物理学の世界で解明出来ている範囲で分かり易く解説したもので、本も売れたし、2011年の第4回「新書大賞」の第1位(大賞)にも輝きました。

 分かり易さの素は「朝日カルチャーセンター」での講義が下敷きになっているというのがあるのでしょう。但し、最初は「岩波ジュニア新書」みたいなトーンで、それが章が進むにつれて、「ラザフォード実験」とか「クォークの3世代」とかの説明に入ったくらいから素粒子物理学の中核に入っていき(小林・益川理論の基本を理解するにはいい本)、結構突っ込んだ解説がされています。

 その辺りの踏み込み具合も、読者の知的好奇心に十分応えるものとして、高い評価に繋がったのではないかと思われますが、一般には聞きなれない言葉が出てくると、「やけに難しそうな専門用語が出てきましたが」と前フリして、「喩えて言えば次のようなことなのです」みたいな解説の仕方をしているところが、読者を難解さにめげさせることなく、最後まで引っ張るのだろうなあと。

 本書によれば、原子以外のものが宇宙の96%を占めているというのが分かったのが2003年。「暗黒物質」が23%で「暗黒エネルギー」が73%というところまで分かっているが、暗黒物質はまだ謎が多いし、暗黒エネルギーについては全く「正体不明」で、「ある」ことだけが分かっていると―。

 分からないのはそれらだけでなく、物質の質量を生み出すと考えられている「ヒグス粒子」というものがあると予言されていて、予想される量は宇宙全体のエネルギーの10%の62乗―著者は「意味がさっぱり分かりませんね」と読者に寄り添い、今のところ、それが何であるか全て謎だとしています。

 しかしながらつい最近、報道で「ヒッグス粒子」(表記が撥音になっている)の存在が確認されたとあり、早くも今世紀最大の発見と言われていて、この世界、日進月歩なのだなあと。

 小林・益川理論は粒子と反粒子のPC対称性の破れを理論的に明らかにしたもので、それがどうしたと思いたくもなりますが、物質が宇宙に存在するのは、宇宙生成の最初の段階で反物質よりも物質の方が10億分の2だけ多かったためで、このことが無ければ宇宙には「物質」そのものが存在しなかったわけです(但し、それがなぜ「10億分の2」なのかは、小林・益川理論でも説明できていないという)。

 本書はどちらかというと「宇宙」よりも「素粒子」の方にウェイトが置かれていますが(著者の次著『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』('11年)の方が全体としてはより"宇宙論"的)、最後はまた宇宙の話に戻って、宇宙はこれからどうなるかを述べています。

 それによると、10年ばかり前までは、減速しながらも膨張し続けているという考えが主流だったのが(その中でも、膨張がストップすると収縮が始まる、減速しながらも永遠に膨張が続く、「永遠のちょっと手前」で膨張が止まり収縮もしない、という3通りの考えがあった)、宇宙膨張は減速せず、加速し続けていることが10年前に明らかになり、そのことが分かったのは超新星の観測からだといいます(この辺りの経緯は、野本陽代氏の『ベテルギウスの超新星爆発-加速膨張する宇宙の発見』('11年/幻冬舎新書)にも書かれている)。

 加速膨張しているということは、膨張しているのにエネルギーが薄まっていないということで、この不思議なエネルギー(宇宙の膨張を後押ししているエネルギー)が「暗黒エネルギー」であり、その正体は何も分かっていないので、宇宙の将来を巡る仮説は、今は「何でもアリ」の状況だそうです。

 分かれば分かるほど、分からないことが増える―それも、細部においてと言うより、全体が―。「宇宙論」って奥が深いね(当然と言えば当然なのかもしれないけれど)。

 そこで、更に、著者が言うところのこの「何でもアリ」の宇宙論が今どうなっているかについて書かれたものはと言うと、本書の2年前に刊行された、佐藤勝彦氏の『宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)』('08年)があります。

佐藤 勝彦.jpg この本では、素粒子論にも触れていますが(『宇宙は何でできているのか』の冒頭に出てくる、自分の尻尾を飲み込もうとしている蛇の図「ウロボロスのたとえ」は、『宇宙論入門』第2章「素粒子と宇宙」の冒頭にも同じ図がある)、どちらかというとタイトル通り、宇宙論そのものに比重がかかっており、その中で、著者自身が提唱した宇宙の始まりにおける「インフレーション理論」などもより詳しく紹介されており、個人的にも、本書により、インフレーション理論が幾つかのパターンに改変されものが近年提唱されていることを知りました(著者は「加速的宇宙膨張理論の研究」で、2010年に第100回日本学士院賞を受賞)。
佐藤 勝彦

  第4章「宇宙の未来」では、星の一生をたどる中で「超新星爆発」についても解説されており、最後の第5章「マルチバースと生命」では、多元宇宙論と宇宙における生命の存在を扱っており、このテーマは、村山斉氏の『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門』とも重なるものとなっています(佐藤氏自身、『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった (PHP文庫)』('01年)という著者もある)。

 『宇宙論入門』は、『宇宙は何でできているのか』よりやや難解な部分もありますが、宇宙論の歴史から始まって幅広く宇宙論の現況を開設しており、現時点でのオーソドックスな宇宙論入門書と言えるのではないかと思います。

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「宇宙塵」を通して宇宙や星、地球などの誕生の謎に迫り、更には生命誕生の謎にも。

星のかけらを採りにいく.jpg    矢野 創.bmp 矢野 創・慶應義塾大学院特別招聘准教授
星のかけらを採りにいく――宇宙塵と小惑星探査 (岩波ジュニア新書)』['12年]

 ある意味、2010(平成22)年6月に地球に大気圏再突入した「はやぶさ」の"偉業"達成効果の流れで刊行された本であり、著者自身「はやぶさ」プロジェクトにおいてカプセル回収・科学輸送斑の責任者であったわけですが、「プロジェクトX」風の本が多い中、本書は、宇宙のチリである「宇宙塵」とういうものを通して、そこに秘められた宇宙や星、更に地球などの誕生の謎に迫ることができることを解説した科学入門書に近い内容。

 その上で、「星のかけら」を採りにいくことの意義を改めて理解させてくれる本でもあり、ジュニア新書らしい切り口ですが、内容のレベル的には大人向けと言っていいかも(まあ、知識欲旺盛な中高校生もいれば、そうでない大人もいるが)。

 「宇宙塵」というものは日々地球に降り注いでいるわけで、でも大気圏通過の際に変質したり、地球に到達してからもやはり地球の大気などの影響で変質したりするし、そもそもどこから来たものかが殆どの場合不明であるから、結局、オリジナルを星に獲りにいくのがいいわけなんだなあと。

 今まで探査機が訪れた小惑星は幾つもあるようですが、2011年にNASAが到達したヴェスタは直径530km、それに対し「はやぶさ」が到達したイトカワは最大直径0.5kmと、1000倍以上の大きさの差があるとのこと。日本は随分小さな小惑星をターゲットに選んだものですが、これは打ち上げスケジュール上の地球とのその時点での小惑星の位置関係の問題などもあったのでしょう。

 本書で興味深かったのは、「生命前駆物質」である有機物や水が、宇宙塵に乗って地球に降ってきて、それが地球における生命誕生の始まりとなった可能性も考えられるということで、地球に到達する宇宙塵には火星などからのものも相当あるとのことで、そうなると、地球生命の起源はもしかして火星にあったりして...。

 火星の地質探査などが今話題になっていますが、一番の注目はそこに有機物の痕跡があるかどうかということ(かつて水があったことは、今世紀に入ってほぼ明らかになっている)―それが何億年も前の地球生命のルーツかも。

 火星の筋状の表面から運河を空想し、知的生命がいるかも知れないとのイマジネーションのもとSF『宇宙戦争』を書いたのがH・G・ウェルズですが、まあ90年代後半にアメリカが火星に送った「マーズ・パスファインダー」の探査車(マーズ・ローバー)は運河も火星人も映し出さなかった―でも、「有機物の痕跡」となると、可能性はゼロではないかもしれません(X線分光計でデータを地球に送るよりは、試料を直接持ち帰った方がいいのだろうけれど、アメリカの場合、それが出来るのであれば、いっそのこと火星旅行(有人飛行)ということになるんだろうなあ)。

 本書を読むと、宇宙探査には①フライバイ、②ランデブー/オービタ、③着陸、④ローバー、⑤サンプルリターンの5種類があり、①から⑤まで全て無人探査機でできて、最も難しくハイリスク・ハイリターンなのが⑤の試料を地球に持ち帰るサンプルリターン。日本の「はやぶさ」プロジェクトは、だからこそサンプルリターンにこだわったということがよく分かりました。

 各章末に、著者自身の生育史、研究者としての歩みがエッセイ風に織り込まれていて、著者の人となりなども窺え、親近感が持てました。

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突っ込んだ科学的解説だがカラー図説で分かりやすく、当事者ドキメントとしてのシズル感も味わえる。

カラー版 小惑星探査機はやぶさ.jpg   小惑星探査機はやぶさ.jpg はやぶさ/小惑星イトカワ     川口淳一郎『「はやぶさ」式思考法』.jpg
カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた (中公新書)』['10年] 『「はやぶさ」式思考法 日本を復活させる24の提言』['11年]

 2003(平成15)年5月に打ち上げられ、2005(平成17)年夏に小惑星イトカワに到達し、2010(平成22)年6月に地球に大気圏再突入した小惑星探査機「はやぶさ」の企画、研究開発から帰還までをドキュメント風に追ったもので、著者は「はやぶさ」計画のプロジェクトマネージャーを務めていた人。

 「はやぶさ」の偉業のスゴさが脚光を浴び、世間に浸透するにつれ、その技術解説、宣伝・広報の「顔」的な存在となり、その後も『「はやぶさ」式思考法-日本を復活させる24の提言』('11年2月/飛鳥新社)など著者の名の下に多くの本が刊行されていますが(今年('12年)とうとうJAXAの事務局に異動になった?)、そうした中では最も早く刊行された部類の本であるとともに、「中公新書」らしく、新書にしてはある程度の専門レベルにまで踏み込んだ内容かと思われます(一般向け新書の中で科学・技術面の解説が最も詳しくなされているのは、著者監修の『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術―プロジェクト立ち上げから帰還までの全記録』('11年3月/講談社ブルーバックス))。

 本書は、手抜きしていない分やや難しかった面もありましたが、カラー版ということで、図説や写真も多く、素人でもシズル感を感じつつ読み進むことができ、また、著者の「はやぶさ」への思い入れが随所に滲み出ているというか、目一杯表されている点でも、自ずと感情移入しながら読めました(本書の後に多く出された「はやぶさ」関連本は、上記2冊を含め著者による「監修本」が殆どだが、本書は純粋に著者の「単著」と言える)。

 著者によれば、人類の作ったものが地球の引力圏外まで行って着陸し、再び戻ってきたのは、「はやぶさ」が有史以来初とのこと。アポロ司令船は月面着陸したのではなく、40万キロメートル先まで行って戻ってきただけで、一方、「はやぶさ」カプセルは、イトカワの表面に着陸し、片道30億キロ、往復60億キロの旅をして戻ってきたわけだなあ。読んでみて、とにかくトラブル続きで不測事態の連続だったことを改めて知りました。

 以前、アイザック・アシモフの本で、「冥王星に直接行こうとすれば47年かかるが、木星経由だと25年ですむ」(宇宙船が木星の引力で加速される)というのを読みましたが、これが「スウィングバイ」の原理。本書の前の方にその解説がありますが、著者は、科学衛星ミッションにおけるスウィングバイのスペシャリストであるともに、「はやぶさ」ミッションにおいて電気(プラズマ)推進の特性を生かした航法を考案したのも著者。こうした複数の専門性を有する人がやはりリーダーになるのでしょう。

 「はやぶさ」は、当然のことながら、打ち上げに成功してから命名されたわけですが、「イトカワ」は、さらにその後に命名されたとは知りませんでした。

 ラッコに似た形のイトカワに目鼻を書き加えて「イトカワラッコ」と呼んだり、帰還する「はやぶさ」がカプセルを切り離した後、本体は大気圏再突入の際に燃え尽きてしまうことについて「はやぶさ、そうまでして君は」という文章を寄せるなど、思い入れたっぷりですが、これだけの長期に渡って一つのプロジェクトに携わり、しかもその過程が平坦なもので無いとすれば、こうした著者の思い入れも分かろうというもの。

 サンプルリターンにこだわり抜いて「玉手箱」を開けたら見た目はカラだったため、キュレーション(試料取り出し・分配・保管)担当が真っ青になったというのは分かるなあ(微粒子レベルでの試料採取に成功していたことが分かったのは帰還の翌月)。

 因みに、この「はやぶさ」帰還の物語は、「はやぶさ/HAYABUSA」('11年・20世紀フォックス/竹内結子主演)、「はやぶさ 遥かなる帰還」('12年・東映/渡辺謙主演)、「おかえり、はやぶさ」('12年・松竹/藤原竜也)と立て続けに3本の映画になりましたが、観客動員数は今一つ伸びなかったみたい...。やはり、似たようなのが3作もあるとなあ。

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宇宙論諸論の発展過程を丹念に追い、一般読者に解り易く解説した良書。

宇宙に果てはあるか.jpg 『宇宙に果てはあるか (新潮選書)』 ['07年]  吉田伸夫.jpg 吉田 伸夫 氏(略歴下記)

 宇宙論が現代まで発展した過程を、大銀河説と島宇宙説の間の"大論争"び始まり、アインシュタインの宇宙モデル、ハッブルの法則、背景放射の発見から、インフレーション宇宙論やブラックホールのエントロピーに至るまで、12の話題に沿って解説したもの。

 第1の特長として、様々な理論提唱や論争を取り上げる中で、結局は誤りであったもの、後に修正を余儀なくされたものについても、科学者が何故そのように考え、どこが間違っていたのかが分かり易く解説されているほか、後に主流となった学説についても、誰がどのように提唱し、どのように補完され、どのように実証されたかが示されていて、いまだ検証されていない仮説段階のものについては、その仮説性の度合いをきっちり示していることが挙げられます。

 その流れとして、第2に、超弦理論やM理論などに基づく宇宙論は、「いまだに実験や観測によって検証されておらず、理論として練りあげられているわけではない」とし、「シャドーボクシングはやたらと威勢がよいが、一度も実戦に出場していないボクサーのようなもの」を「殿堂入りしたチャンピオンたちと同列に論じるわけにはいかない」として詳しくは取り扱われておらず、結果として、量子宇宙論にはほとんど触れられていませんが、この明快な"切り分け"姿勢は、個人的には気に入りました(ホーキングらの原論文を引きながらも、その「虚数の時間」論などについては、「試みは斬新で尊敬に値するが、この理論を頭から信じている物理学者はほとんどいないだろう」と)。

 第3の特長は、1つ1つのテーマについてかなり丁寧に踏み込んで解説し、初学者のやや上位レベルにある読者の知的関心に応えながらも、相対論的宇宙論や動的宇宙論など、もともとの歴史的経緯において数式論が先行したようなものについても数式に依らず言葉できちんと解説し、専門性の高いものについては意図的に(節度をもって)解説を簡略なものにしている点で、お陰で初学者でも最後まで読み切るのが苦にならないという意味で「入門書」としての要件を保っていて、且つ、スリリングな謎解きのプロセスが楽しめるという点でしょうか。

 終わりの方で、地球外文明の存在可能性について、有名な「ドレイクの式」の各項を検討していますが、そうした場合にも複数の論文を検証し、幅を持たせた見方をしていて、こうした点にも著者の"節度"を感じました。
 
光の場、電子の海.gif 著者は、素粒子論(量子色力学)が専門ですが( 量子論については、同じ新潮選書に『光の場、電子の海-量子場理論への道』('08年)という著作がある)、科学哲学や科学史にも造詣が深く、また、著者のホームページ「科学と技術の諸相」も質的に充実したもので、質問コ-ナーなどもあったりし、自然科学の広い問題を扱うだけでなく、社会学的な問題に言及したコラムもあります。

光の場、電子の海―量子場理論への道 (新潮選書)

 大学で非常勤講師をしながらも教授職には就かず、所謂"学者バカ"の対極にあるような人であるように思われ、自らの専門分野(というより、本書で扱っている分野)については、どのように説明すれば一般読者に解りよいかということが、経験的に分かっている人のように思いました。
_________________________________________________
吉田伸夫
1956年、三重県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。東海大学、明海大学で非常勤講師をつとめながら、科学哲学や科学史をはじめ幅ひろい分野で研究を行なっている。著書に『宇宙に果てはあるか』『光の場、電子の海―量子場理論への道』『思考の飛躍―アインシュタインの頭脳』(何れも新潮選書)などがある。

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分かり易い解説で甦ったハッブル宇宙望遠鏡の宇宙遺産を伝える。新書スペースをフルに使った写真が美しい。

カラー版ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む.gif
         カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産.jpg  『カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 (岩波新書)』['04年]
カラー版ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む (講談社現代新書)』['09年]

 サイエンスライターの野本氏は、多くの著書でハッブル宇宙望遠鏡の成果を我々に紹介していますが、新たに著者が出されると、写真の美しさをあって、ついついまた買ってしまいます。但し、そこには、ハッブル望遠鏡から送られてきた、前著には無かった新しい写真が掲載されているので、宇宙学についての分かり易い解説を、そうした最新の写真を楽しみながら復習できるというメリットがあり、買って後悔することはまずありません。

オリオン座。左上の明るい星がベテルギウス.jpgベテルギウスの表面.jpg 本書は、講談社現代新書としては珍しい(?)カラー版で、同氏の『カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産』('04年/岩波新書)と内容的にかぶるのではないかとも思ったのですが、読んでみて、或いは写真を見て、今回も期待を裏切るものではありませんでした。 

 「星の誕生と死」などについての著者の解説は、いつもながらに分かり易いものですが、そう言えば、'09年1月6日にNASAが、オリオン座のベテルギウス(木星の軌道よりも巨大な赤色超巨星)に超新星爆発へ向かうと見られる兆候が観測されたと発表したばかりです。

ベテルギウスの表面[NASA・パリ天文台提供]と位置(オリオン座の左上の星)[沼沢茂美氏撮影]

 さすがにそのことまでは載っていないものの、入門書としての解説と併せて、岩波新書の前著から5年間の間の新たな研究成果がふんだんに織り込まれていて、著者が毎回丹念に書き下ろしているということが窺えます。

エリダヌス座エプシロン星の惑星(イラスト).jpg 老朽化しつつあるハッブル宇宙望遠鏡について、NASAが、国際宇宙ステーションの軌道外にハッブル宇宙望遠鏡があることから、予算難に加えて宇宙飛行士の安全を確保出来ないことを理由に修理見送りの決定を下したため、著者が前著で、"人類遺産"の対語として命名された"宇宙遺産"だが、ハッブル宇宙望遠鏡そのものの"遺産"ということになってしまうのかと嘆いていたのを覚えています。

 それが、宇宙に関心を寄せる多くの一般ピープルの要望で、NASAの決定が覆り、'09年5月に新たなサービスミッションによる補修作業が行われ、以前より性能はアップし、また、後継の宇宙望遠鏡である"ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)"の打ち上げ計画('13年予定)も着々と進んでいるいうのは、たいへん喜ばしいし、楽しみなことだと思います。   エリダヌス座エプシロン星の惑星(イラスト)

 本書は特に、新書版のスペースをフルに使った写真が美しく、個人的には、銀河同士の衝突の写真(銀河団同士の衝突を捉えたものもある)に特に関心がそそられ、今世紀に入り発見数が著しく伸びている系外惑星の写真や想像イメージ(イラスト)にも、ロマンを掻き立てられました。

衝突する銀河 (本書より)
衝突する銀河.jpg

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電磁波についての解説が詳しい。「天文学」も宇宙論の話に行き着くのかなあと。

宇宙を読む.jpg 『カラー版 宇宙を読む (中公新書)』 ['06年]

 著者が天文学者であるため、まえがきで「天文」の語源の説明("空の文様")から入り、著者なりに、それを「天からの文(ふみ)」と解しているのはロマンチックですが、カラー版と言っても内容的には、文章をしっかり読ませる中公新書らしい"かっちり"したもので、中級者向けの入門書と言えるのではないでしょうか

 肉眼で見える星について、太陽、月、惑星、星(恒星)、星団、星座、星雲、銀河、流星、彗星、新星(超新星)の順に概説した上で、星が放つ光は、赤外線や紫外線など、全ての波長帯の電磁波に及ぶため、可視光線だけではなく、それらをも読み解くことが、宇宙の謎に迫ることに繋がるとしています(電磁波についての解説と併せて、「エックス線宇宙天文台」や「赤外線宇宙天文台」といったものも写真で紹介されている)。

 その上で改めて、太陽から始まって惑星、星(恒星)、星雲、銀河等について、天体物理学的な視点も織り交ぜながら解説し、ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた様々な天体写真も併せて掲載しています。

 最終章で、宇宙の歴史について、星や惑星がどのように誕生したかというところから始めて、最後にビッグバンについての解説や、ダークマター、ダークエネルギーの話が出てくるといった流れで、一般的な「宇宙学」の入門書と解説の順番が少し異なる(近くから遠くへ、近い過去から遠い過去へ)のが興味深いですが、結局は「天文学」も宇宙論の話に行き着くのかなあと。

 宇宙や天体から送られてくる放射線のスペクトル分析など電磁波についての解説が詳しく、この部分が"中級者向け"と言えばそういうことになるのかも。
 天文学者って今はこうした研究(目に見えない電磁波の分析)を主にしているのかと認識を新たにさせられ、また「宇宙を読む」という本書のタイトルの意味を改めて理解しましたが、本書については「宇宙学」の一般的な入門書の内容も一通り網羅しているように思いました。

 カラー写真の点数は多いのですが、基本的には文章の解説を補足するものとなっています。
 それぞれがやや小さく、結果として情報量としては"詰まった"内容となっているのですが、ビジュアルを楽しみたいと思った読者には、やや物足りないかも。

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岩石惑星・ガス惑星・氷惑星の区分で同類型とされる惑星同士でも、それぞれに違いがあることがよく分かった。

ここまでわかった新・太陽系.jpg ここまでわかった新・太陽系 カバー無し.jpg 『ここまでわかった新・太陽系 太陽も地球も月も同じときにできてるの?銀河系に地球型惑星はどれだけあるの? (サイエンス・アイ新書)』 ['09年]
ここまでわかった新・太陽系 図.jpg
 同じソフトバンククリエイティブの"サイエンス・アイ新書"の『宇宙の新常識100―宇宙の姿からその進化、宇宙論、宇宙開発まで、あなたの常識をリフレッシュ!』('08年)(こちらもサブタイトルが長い!)を先に読んで、その中でも特に、太陽系に関しては近年いろいろなことが判ってきたということ(例えば、太陽系の大きさは、従来考えられていたより100倍から1000倍大きいことが分かったとか)を知り、本書を手にしました。

 このシリーズ、思わず"ジャケ買い"してしまいそうな表紙のものが多いのですが、この"宇宙モノ"は『宇宙の新常識100』もそうでしたが、図版のグラフィックがNASAの専属CGグラフィック・アーティストのものを多く掲載していて綺麗で、しかも、中身も充実しています。

ここまでわかった新・太陽系2.jpg 太陽系の惑星は、岩石惑星(地球・水星・金星・火星)とガス惑星(木星・土星)、氷惑星(天王星・海王星)に分類されますが、同類型とされる惑星でもそれぞれに違いがあることがよく分かり、また小惑星や彗星、外縁天体、衛星など惑星以外の天体もそれぞれに"個性的"であるなあと、何だか不思議な気持ちに。

 さらに解説は太陽系以外の惑星系にまで及び、太陽系では太陽から近い順に小型の岩石惑星、巨大なガス惑星、中型の氷惑星と並びますが、太陽系以外の惑星系の中には、"ホットジュピター"と呼ばれる、巨大惑星でありながら「水星」より小さな軌道で中心星の周りを回っている惑星もあるとのこと。
 また、"エキセントリック・プラネット"という、丁度、太陽系における「彗星」のような、中心星に一番近い時と遠い時で30倍も距離が変わる楕円軌道の惑星もあるとのこと。
 こうしたユニークな系外惑星は比較的最近に発見されたようですが、これらがまた、惑星系の誕生の秘密を解く鍵になるようです。

 サイエンスライターによって書かれた『宇宙の新常識100』に比べると、こちらは専門家2人の共著であり、テーマを太陽系に絞っていることもあって、やや専門性が高くなっているように感じられ("噛み砕き度"が若干劣る?)、解説を読んでも咀嚼するまでに時間を要する箇所もありましたが、文章自体は読み易く、またビジュアルの助けもあって、ストレスにはなりませんでした。
 
カラー版ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む.gif人類が生まれるための12の偶然.jpg 但し、サブタイトルの「銀河系に地球型惑星はどれだけあるの?」といった地球外生命の存在の可能性に対する問いや太陽系外の惑星の発見状況については、眞淳平氏の『人類が生まれるための12の偶然』('09年/岩波ジュニア新書)野本陽代氏の『カラー版 ハッブル望遠鏡 宇宙の謎に挑む』('09年/講談社現代新書)などの方が、丁寧に答えているように思いました。

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自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本。

人類が生まれるための12の偶然.jpg  『人類が生まれるための12の偶然 (岩波ジュニア新書 626)』 ['09年]

 「人類が生まれるためにはどのぐらいの偶然の要素が重なったのか」というテーマは自分としても関心事でしたが、宇宙誌、生物誌(生命誌・進化誌)に関する本の中で個々にそうしたことは触れられていることは多いものの、それらを通して考察した本はあまり無く、そうした意味では待望の本でした。

 宇宙の誕生から始まり、量子物理学的な話が冒頭に来ますが、「ジュニア新書」ということで、大変解り易く書かれていて、しかも、宇宙誌と生物誌の間に地球誌があり、更に、生命の誕生・進化にとりわけ大きな役割を果たした「水」についても解説されています(水の比熱が小さいこと、固体状態(氷)の方が液体状態(水)より軽いということ、等々が生命の誕生・進化に影響している)。

 本書で抽出されている「12の偶然」の中には、「太陽から地球までの距離が適切なものだったこと」など、今まで聞いたことのある話もありましたが、「木星、土星という2つの巨大惑星があったこと」など、知らなかったことの方が多かったです(巨大惑星が1つでも3つでもダメだったとのこと)。

 その他にも、太陽の寿命は90億年で現在46億歳、終末は膨張して地球を呑みこむ(蒸発させる)とうことはよく知られていますが、太陽が外に放出する光度のエネルギーが増え続けるため、あと10億年後には地球は灼熱地獄になり、すべての生物は生きられなくなるというのは、初めて知りました。

 最後に、気候変動の危機を説いていますが、環境問題を考える際によく言われる「地球に優しく」などいう表現に対して、人類が仮に核戦争などで死に絶えたとしても、生き残った生物が進化して新たな生態系が生まれることは、過去の恐竜が隕石衝突により(その可能性が高いとされている)絶滅したお陰で哺乳類が進化発展を遂げた経緯を見てもわかることであり、「私たちや今の生態系が滅びないために」と言うべきであると。

 ナルホド、「宇宙は偶然こうなった」のか、「神が今のような姿にすべて決めた」のか「何らかのメカニズムによって必然的にこうなった」のかは永遠の謎ではあるかも知れませんが、仮に地球が生命を求めているとしても、地球にとって人類の替わりはいくらでもいるわけだなあ。

 監修の松井孝典博士は、日本における惑星科学の先駆者で、幅広い視野と斬新な発想を兼ね備えた、日本では珍しいタイプの研究者であるとのこと(『凍った地球』('09年/新潮選書)の田近英一博士によると)。最新の研究成果までも織り込まれた本であると同時に(しかし、まだ解っていないことも多い)、自分が今、この時空に生きていることの不思議さ、有難さに思いを馳せることが出来る本です。

《読書MEMO》
偶然1 宇宙を決定する「自然定数」が、現在の値になったこと(自然定数=重力、電磁気力、中性子や陽子の質量)
偶然2 太陽の大きさが大きすぎなかったこと (太陽がもし今の2倍に質量だと寿命は約15億年しかない)
偶然3 太陽から地球までの距離が適切なものだったこと (現在の85%だと海は蒸発、120%だと凍結)
偶然4 木星、土星という2つの巨大惑星があったこと (1つだと地球に落下する隕石は1000倍、3つだと地球は太陽に落下するか太陽系の圏外に放り出される)
偶然5 月という衛星が地球のそばを回っていたこと (月が無ければ地球の自転は早まり、1日は8時間、1年中強風が吹き荒れる)
偶然6 地球が適度な大きさであったこと (火星ほどの大きさだと大気は逃げていた)
偶然7 二酸化炭素を必要に応じて減らす仕組みがあったこと (プレート移動や大陸の誕生、海などがCO2を削減)
偶然8 地磁気が存在したこと (磁場が宇宙線や太陽風などの放射線を防ぐ働きをしている)
偶然9 オゾン層が存在していたこと (紫外線から生物を守っている)
偶然10 地球に豊富な液体の水が存在したこと (水が液体でいられる0〜100℃という狭い温度範囲に地球環境があったこと)
偶然11 生物の大絶滅が起きたこと (恐竜の繁栄もその後の哺乳類の繁栄も、その前にいた生物の大絶滅のお陰)
偶然12 定住と農業を始める時期に、温暖で安定した気候となったこと (65万年前から寒冷期が続いたが、約1万年前に突然、今のように温暖安定化)

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イラストによるビジュアル教材だが、解説は大人の好奇心をも満たすレベル。

スペース 宇宙.jpg 『スペース 宇宙 (insidersビジュアル博物館)』 (2008/01 昭文社)
(26.8 x 24.6 x 1.2 cm)

 米国 Weldon Owen社による国際的出版プロジェクト"insiders"シリーズの日本語版で、このシリーズ、テーマは歴史、考古学、自然、生物・生命、技術に渡り、世界各国で出版されているそうですが、日本でよく見かけるのは生物や恐竜関係ではないでしょうか。そうした中、本書のテーマは「宇宙」。

 全64ページ、オールカラーの見開きイラストで、「宇宙」と言っても幅広いですが、ビッグバンから始まって太陽系の星々を地質学的な観点から解説し、「宇宙の雪だるま」現象や恒星、星雲、銀河について、さらに宇宙探査についての解説までが前半で、後半に太陽系や恒星と銀河の一般的な解説をもう一度もってきているという変わった構成です。

 最近は日本の図鑑などでも、教科書的な順番でなく、こうしたテーマ主義的な構成のものがありますが、まずテーマと大迫力のイラストで惹きつけて、更に関心がある学習者のために、その知的好奇心を満たすだけの詳細な解説がされているというところでしょうか。
 基本的には青少年向け教材らしいのですが、解説部分には結構"大人の好奇心"を満たす専門的なことが書いてあるように感じました。

 全ページに渡る見開きイラストは確かに迫力はありますが、NASAの専属イラストレーターなどが描いたCGと比較すると、やや"絵"的と言うか、"解説"に比重を置いたものになっている気がし、星雲や惑星のイラストはクラシカルな感じさえするものもあります。
 但し、宇宙探査に関する部分(宇宙探査機、月面基地、国際宇宙ステーションなど)はよく描かれていて、解説も詳細です。

 その他に写真も多く使用されていますが、それらはあくまでも解説の一環としてで、サイズも小さく、やはりメインはイラストによるビジュアル―中でも最も"豪華版"なのは、宇宙飛行士を描いた表紙かな(表紙がレリーフになっている!)。

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人間は宇宙についてほんの一部しか知りえていないことを痛感。

宇宙の新常識100 宇宙の姿からその進化、宇宙論、宇宙開発まで、あなたの常識をリフレッシュ! (サイエンス・アイ新書 75).jpg 『宇宙の新常識100 宇宙の姿からその進化、宇宙論、宇宙開発まで、あなたの常識をリフレッシュ! (サイエンス・アイ新書 75)』 ['08年]

Black Hole.jpg ソフトバンククリエイティブの"サイエンス・アイ新書"の1冊で、ただ「宇宙の新常識」を100項目並べるのではなく、宇宙の生成、ダークマターとダークエネルギー、素粒子論と宇宙、最近の観測技術の進歩、太陽系について、宇宙飛行・宇宙開発のなど、テーマを大括りにして、それぞれについて、今までにわかっていることから、今後究明していく課題まで体系的に書かれているため、単なる「100問100答」というより1冊の入門書として読め、更に、直近の研究成果がふんだんに盛り込まれているほか、写真やグラフィックが各ページにあって、見た目にも充実しているという本。

伴星からガスを吸い込むブラックホール [NASA]

 NASAから提供された写真やグラフィックが多くあり、それらがとりわけ美しく、NASAが写真だけでなく、イメージ・グラフィックスも上質のものを多く所有していることに感心させられました。

 著者は科学者ではなく科学ライターですが、宇宙の生成や素粒子論の解説において、理論物理・原子物理・量子物理のエッセンス部分をわかり易く織り込んでいるように思えました。

リング状に分布するダークマター(写真)とダークマターの3次元マップ(CG) [NASA]
a huge ring of dark matter.jpgDark Matter Image.jpg でも、宇宙がどんなものでできているのかというのは、今のところ宇宙全体の4%ぐらいしかわからなくて、あとはダークマターが23%、ダークエネルギーが73%を占めるという―、ダークマターの構造などは推論されていますが、宇宙の4分の3近くを占めるダークエネルギーについては、質量を持っていないということぐらいしか判っておらず、人間は宇宙に関して、まだほんの一部しか知りえていないということを痛感させられます。

宇宙の新常識100 2.jpg 一方で、太陽系に関しては近年いろいろなことが判ってきたようで、その大きさで言えば、当初は太陽から地球までの距離の100倍くらいだと思われていたのが、今では1兆5000億〜15兆kmと推論されているとのことで、太陽から地球までの距離の1万倍から10万倍ということかとビックリ(当初考えられていたより100倍から1000倍大きいことになるが、このことには冥王星が正式の「惑星」の定義から外れたことも関係している)。
 太陽の起源についても、星雲の中から生まれ、散開星団(プレアデス星団などが典型例)の一員を経て今のような単独の恒星になっているとのことですが、同じ星団にいた兄弟の星が今何処にいるかということまでは、さすがに知りようがないみたいです。でも、どこかにあるんだろうなあ、太陽の兄弟だった星が。

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読み易く味わいのある文章。今でも充分に入門書として通用する。

宇宙と星2977.JPG宇宙と星.gif  畑中 武夫.jpg  畑中 武夫 (1914-1963/享年49)
宇宙と星 (岩波新書 青版 247)』 ['56年]

 著者の畑中武夫は理論天体物理学者で、萩原雄祐(1897-1979)門下で小尾信彌氏(東大名誉教授)などの兄弟子に当たる人、若くして日本の天文学界のリーダーになりましたが49歳で亡くなり、和歌山県新宮市の出身ということで、同じく夭折した中上健次(1946-1992)らと共に、新宮市の名誉市民になっています。(下図は「新宮市」ホームページより)

 本書は'56年の刊行で、岩波新書の宇宙学関係では超ロングセラーであり、宇宙物理学者の池内了氏(名大教授)なども「私が宇宙に研究を志すきっかけとなった本」と言っています。

 我々に馴染みの深い星座の話から説き起こして、太陽(恒星)と銀河系を語り、最後に、星の生涯や宇宙の生成と進化について天体物理学的な観点から解説しており、星の光度や距離をどのように決定するのかといったことや、恒星のHR図(星の光度と表面温度の相関図)からの星の来歴の読み取りなどがわかり易く解説されていて、今でも充分に入門書として読めるし、構成的にも文章そのものも読み易いように思います。

 細かい数字はともかくとして、「脈打つ星」(パルサー)の原理や、太陽および銀河系の構造、超新生爆発または白色矮星で終わる星の生涯のことなど、この頃もう既にここまで判っていたのだなあと思わせる記述が多い一方で、「惑星を伴う恒星」の存在など推論段階のものもあり(現在は200個以上発見されている)、宇宙の始まりを50億年前と推定しています(現在は137億年前とされている)。

 40代前半で書かれたわりには、エッセイ風の味わいのある記述もあり、「オリオンの名は、球団や、映画館や、またいくつかの商品の名にも使われていて、われわれに親しみ深い」などいう記述にぶつかると、ちょっとタイムスリップした感じで嬉しくなってしまいます(因みに、スペースシャトル引退後の後継機の名は「オリオン」に決定している)。

 同著者の、毎日出版文化賞を受賞した『宇宙空間への道』('64年/岩波新書)もお奨めです。

畑中武夫(新宮市出身).jpg

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著者の本でジュニア向けで1冊と言えば、今('08年)はこれか。

宇宙はきらめく.jpg 『宇宙はきらめく カラー版 (岩波ジュニア新書 579)』 ['07年] 見えてきた宇宙の神秘.jpg カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産.jpg見えてきた宇宙の神秘』['99年/草思社]/ 『カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 (岩波新書)』〔'04年〕

わし星雲M16(へび座)「象の鼻」.jpg 天体写真に解説文章を添えた野本陽代氏の本は、最初、単行本(『見えてきた宇宙の神秘』('99年/草思社)など)からはいって、その後、岩波新書の「カラー版ハッブル望遠鏡が見た宇宙」シリーズの3冊を読みましたが、ハッブル宇宙望遠鏡が映した天体写真などは、最近ではかなりインターネット上のウェブサイトでも見ることができるようになりました。

わし星雲M16(へび座)の「象の鼻」(本書第3章「夏は天の川」より)

 ただ、美しい天体写真もさることながら、この人の解説のわかり易さはピカイチであると個人的には思っていて(全くの素人でも読める)、今回は「岩波ジュニア新書」ですが、特に今までと文調を変えておらず、要するに、元々、大多数の人が読んですんなり頭に入る書き方がされていたということの証しかもしれないと思いました。

 特に今回工夫しているのは構成の方で、四季に合わせて章立てし、章の頭に季節ごとの全天恒星図をもってきて、写真との連関を番号で示しており、実際の天体観望に役立つものとなっています。

超新星残骸N 63A(大マゼラン星雲).jpg ハッブル宇宙望遠鏡による星や星雲の写真がメインであるという点では、岩波新書のカラー版シリーズの第3冊『ハッブル望遠鏡の宇宙遺産』('04年)に内容的には最も近いかも知れませんが、こちらは太陽系まで含まれていて、(単行本の版元も潰れたりしているので)今、ジュニア向けで1冊買うとするならば、本書がお薦めと言えるのではないでしょうか、天文ファンの中にも、本書を薦める人は多いようです。

 俗事にかまける日々ですが、時に悠久の宇宙に思いを馳せるのもいいのでは。
 
超新星残骸N63A (大マゼラン星雲)(本書第5章「南天はマゼラン雲」より)

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全編カラーのマンガでわかり易く解説。写真も豊富で、且つコンパクトな点がいい。

宇宙に行くニャ!.jpg 『カラー版 宇宙に行くニャ! (岩波ジュニア新書)』 ['06年]

 何だかふざけたようなタイトルですが、これ、意外とアタリで、親子で楽しめるものになっています(子供の方は小学校高学年または中学生以上向けといったところか)。

 "全頁フルカラー"マンガで、「物知りネコ」のビーフンと、「面白いけどなぜ?」のタンメンの2匹の猫クンの「宇宙への旅」の話ですが、かけあい漫才のような両者(両猫)のやりとりが楽しいばかりでなく(ギャーギャー少しうるさくもあるが、これはまあ賑やかしということで)、説明が大変わかり易いです。

野菜ロケット.jpg 最初の「彗星」に関する説明などは、自分も初めて知ることも多く、日食や月食の起きる仕組みからロケットが飛ぶ原理やその構造まで、色々と宇宙に関する下調べも丹念で(宇宙飛行士が打ち上げと帰還のときだけ橙色の宇宙服を着るのはなぜか、なんてことも初めて知った)、また、擂りおろしニンジンとオキシドールで飛ばす「野菜ロケット」などといった簡単な科学実験の方法まで書いてあり、「自由研究」のテキスト的要素もあります。

 野菜ロケット(from JAXAクラブ)

 いざ宇宙に飛び出してからも、宇宙服を着ないで宇宙に出たらどうなるかといった素朴な疑問に丁寧に答えるなどしていて、一瞬にして血液が沸騰し、数秒から10秒ぐらいでミイラのような状態になる-という回答はちょっと怖いけれども、試した人がいないので「と考えられている」だけであるとフォローしているのは、確かにそうだなあと。

 いっぱい色んなことを説明し、間にギャグも入るため、2匹の猫クンの宇宙旅行の方は、月に行った後は、火星と土星と冥王星に行っておしまい、「残りページが少ないのギャ」ということで、この辺りの大雑把さ、いい加減さも一見「岩波」らしくないけれど、新書でコンパクトに纏めるということを主眼にしたのでしょう。

 所謂"学習マンガ"の類ということになるのかも知れませんが、携帯に便利なのが良く、また、コンパクトながらも写真が充実していて、コマのバックに天体写真を用いている箇所が数多くあり、その写真がどれも美しい。

 彗星や流星雨、火星の表面や水をたたえたクレーター、土星や地球のオーロラの写真には引き込まれるものがあり、本全体として、図書館によく置いてあるような一般的な"学習マンガ"に比べると、紙質も良く、構成もかなり垢抜けていると言えるのでは。

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新書版だが、「恒星宇宙」にテーマを絞っているため、「わかり易くて専門的」といった感じ。

『恒星宇宙99の謎.jpg 衝突する宇宙.jpg
『恒星宇宙99の謎―天文学最前線からのレポート』['77年/サンポウ・ブックス]/『衝突する宇宙』 レッド・ホイル(鈴木敬信訳)['51年]
東日本初のプラネタリウム・有楽町の東日天文館(毎日天文館)で解説する鈴木敬信(33歳)(1938年)(東京日日新聞)
鈴木敬信.jpg
 産報ジャーナルというところから刊行されていた「サンポウ・ブックス」は、「歴史と文明シリーズ」と「自然科学シリーズ」がありましたが、とりわけ"古代文明"と"宇宙"が「強かった」のではないでしょうか。

鈴木敬信2.jpg 本書は後者の1冊で、当時の天文学の権威で、フレッド・ホイルの日本への紹介やイマヌエル・ヴェリコフスキー『衝突する宇宙』の翻訳('51年)などでも知られる鈴木敬信(すずき・けいしん、1905-1993/享年87)が、一般読者向けに書き下ろしたものです(上の写真当時は東京科学博物館理学部主任。後に、海軍水路部技師などを経て東京学芸大名誉教授)。多くの入門書を著し、児童向けの科学書などの監修もしている著者ですが、本書に関して言えば、テーマを「恒星宇宙」に絞っているため、入門書でありながらかなり専門的なことも書かれています。

ダークマター.jpg 見開き各1問のQ&A形式で、「美しい星座はいつ崩れるか」「太陽にはどんな未来があるか」「光の墓場、ブラックールとは何か」「月より小さな中性子星とは何か」「宇宙の黒幕、暗黒星雲とは何か」「天の窓、散光星雲とは何か」「宇宙はどこへ膨張していくか」といった問いに、読者の興味を引くようにわかり易く、且つ詳しく解説がされています(この頃のこうした一般向け新書は1ページあたりの字数が多いような気がする。それに比べ最近の新書は字がスカスカのものが目立つ)。

衝突する銀河団 (NASA)

「恒星宇宙99の謎」鈴木敬信.jpg 「天文学最前線からのレポート」と副題にありますが、'77年の刊行ですので、本自体は古書の類となるものです(Amazonのマーケット・プレイスでも、『衝突する宇宙』は扱っているが、本書は扱っていないみたい。但し、個人的には思い入れがある本)。

 '60年に発見されたクエーサー(表記は"クアサール"になっているが、「"クエーサー"と発音する人もいる」と書いてある)や、'67年に発見されたパルサー(これ、女子学生が発見した)などについても、かなり専門的なことまで書かれていて、超新星爆発の際に残った中性子星がパルサーの正体であることはこの頃にはわかっていたわけですが、X線パルサーが連星系の中で生まれることを図入りで詳説していたりし、わかり易くて専門的といった感じでしょうか。

 興味深いのは、「生命を宿す惑星をもつ星はどれだけあるか」という問いを設け、銀河系の星を3千億個、その内、高熱の青白色、白色、淡黄色の星を除いて太陽のような黄色〜赤色の星に限り、かつ重力の安定しない連星を除くと1千億、更に、恒星の温度と惑星の恒星からの距離において、生命許容空間に惑星を有する可能性のある恒星は2百億、更に、哺乳動物のような高等生命を宿す惑星を有する恒星の数を「20億ぐらい」と試算していることで、よく言われる「ドレークの公式」(この式も「全宇宙」ではなく「銀河系」を対象としている)と途中までの考え方は大体同じだけれど、生物進化や文明盛衰の所要時間の概念が入っていないせいか、"哺乳動物のような高等生命"との限定付きで考えた場合には、ちょっとこの数字は多過ぎるような気もしました。

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望遠鏡の修理打ち切り? 本当にこれらの写真は"ハッブルの遺産"になってしまうのか。

カラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産.jpgカラー版 ハッブル望遠鏡の宇宙遺産 (岩波新書)swap.gif

 岩波新書の「カラー版ハッブル望遠鏡が見た宇宙」シリーズの3冊目ですが、美しい天体写真の数々には、ついにここまできたかと思わせられる一方、この宇宙望遠鏡が使えなくなるかも知れないというのは本当に残念に思います。

 「ハッブル・ヘリテッジ」は"地球遺産"に対する"宇宙遺産"という意味合いでのNASAのネーミングですが、著者の指摘のように、この宇宙望遠鏡が使えなくなれば、これらの写真は"ハッブルの遺産"になるという意味にもとれます。

 なぜハッブル望遠鏡が存亡の危機にあるのかは、本書の4章にこの望遠鏡の歴史と併せて述べられています。
 つまり、宇宙望遠鏡の軌道と国際宇宙ステーションの軌道が一致していないため、望遠鏡の修理保全がたいへんであるとのこと。
 今までこの望遠鏡を守るために何人もの宇宙飛行士が命を賭けてきたことに感動するとともに、長期間に及び、その間に不測の事態がまま起こる宇宙計画の難しさというものを知りました。
 
 ただし、本書出版後しばらくして('04年12月)、全米科学アカデミーは、老朽化が進むハッブル宇宙望遠鏡の改修をめぐり、「スペースシャトルで飛行士を送って改修するのがベスト」という報告書をまとめています。 
 ロボットによる改修構想もあったようですが、「技術面で確実性に欠ける」とし、「ハッブル望遠鏡の価値を考えると、有人飛行による改修はリスクを負うに値する」と結論づけています。

 全米科学アカデミーはNASAに勧告する立場にあり、ハッブル望遠鏡の部品を交換しないと望遠鏡は3,4年後に使えなくなるとしていますが、その補修のためには国際宇宙ステーション向けとは別にスペースシャトルを打ち上げなければならないというのは、本書の内容とも符号するところで、こうなると人命問題だけだなく、費用問題、政治問題など色々絡んでくるなあ(素人目にもハッブル望遠鏡は国際宇宙ステーションよりは軍事的効果はないように思えるし)。

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2人の物理学者の興味深い考察が随所に。

宇宙はすべてを教えてくれる.jpg 『宇宙はすべてを教えてくれる―未知なる「知」への探求 タイムマシーンから地球外生命体まで』 〔'03年〕

 佐治晴夫(理論物理学)、佐藤勝彦(宇宙物理学)両氏の対談形式ですが、宇宙論から始まって、教育論、進化論、知性の意味、時間論と話題は駆けめぐり、最後にまた宇宙へ。自らの専門に固執しない自由な対談は、「知」への探究意欲を感じます。

 と言っても、佐藤氏の「インフレーション理論」や佐治氏の「f分に1ゆらぎ理論」の話に多少の説明を要しているぐらいで、メガネ屋でどうして鏡に映った逆向きの顔を見て納得しているのか? 快晴の空はなぜ気持ちがいいのか?といった素朴かつ身近な切り口から、認知論や進化心理学などを語っています。

 時間が循環しているとしたら人間の自由意志はどうなるかとか、ETと遭遇しないのは高度な知的生命体は短い期間に滅びるからではないかとか(何となく納得)、興味深い考察やうんちくが随所に。

 宇宙について知ることは、単に知識として知ることでなく、鳥瞰的に自分の位置づけを知ることだという両者の考えに共鳴しました。

《読書MEMO》
●【佐治】眼鏡屋にいって鏡に映る顔は、他人が見る顔ではない-顔をデジカメで撮ってパソコン上でフレームわかける合成画像方式の店がある(25p)
●【佐治】鳥の目【佐藤】宇宙について知ることは、単に知識として知ることではない(28p)
●「ミトコンドリア・イブ」...10万年前のアフリカに(44p)
●【佐藤】量子論ではタイムマシンは可能、親殺しのパラドックスは、その時点で別の宇宙が分離いしていくと考える(別の宇宙へ行って別のお母さんを殺しただけ)(55p)
●【佐藤】インフレーション理論...空間自体の真空のエネルギーでミクロの極小宇宙が急激に膨張、インフレーションが終わると真空エネルギーが熱エネルギーに変わり、火の玉宇宙、ビッグバンへ(64p)
●【佐治】ドーキンスによると戦争の原因は集団帰属意識【佐藤】長谷川訳書によると殺人原因の最多は酒場の口論(雄の虚勢←メスの獲得)(102ー104p)
●【佐藤】快晴の青空がいい訳を進化心理学で説明(144p)
●【佐治】f分の1ゆらぎ...半分は予測できて半分は予測できない変化の度合い(153p)
●【佐藤】因果のループ...時間が循環しているとする場合、人間の自由意思はどう説明?(自由意思と思っているものも何かに決められている、または時間が枝別れする(165p)
●【佐治】本川達雄の動物の時間論(179p)
●【佐藤】カミオカンデ゙の目的は陽子崩壊の確認(187p)
●【佐藤】高度な知的生命体は100か〜1000年程度で滅びる?(201p)

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"天才"物理者が淡々と語る自らの少年時代や研究と交友の歩み。

宇宙物理への道.jpg 『宇宙物理への道―宇宙線・ブラックホール・ビッグバン』  岩波ジュニア新書 〔'02年〕 佐藤 文隆.jpg

 日本を代表する宇宙物理学者であり、一般相対性理論の研究者としても知られる著者が、自らの半生を振り返ったもの。

 山形の片田舎に生まれ、小学校卒の両親のもとで普通に少年らしく暮らし、湯川秀樹のノーベル賞受賞に刺激されて、学校で勉強しているのだから家で勉強しなくてもいいと親に言われながらも勉学に励んだ―、 
 たまたま人の勧めで京大を受験してあっさり合格し、そのつもりはなかったが大学院に進み、自らの関心に沿って宇宙線やブラックホールの研究を続け、やがてアインシュタインの重力方程式の新たな解を発見する―という、"痛快"とでも言うか、こういう人には何か資質的な"天才"を感じないわけにはいきません。

 しかし中高生向けに書かれた本書には、自らの才能を誇示する風も、科学者としての尖がった感じも、はたまた聖人君主めいた感じもまったくなく、淡々と語る研究の歩みや仲間との交流の話、科学の将来展望と若い人へ寄せる期待などは、著者の人柄を感じさせるものです。

 宇宙物理学の歩みが、ホーキング博士や多くのノーベル賞科学者の業績とともに紹介されていて、彼らの多くと著者が交流や繋がりがあるのがスゴイ。
 
 また、解があるかないかも分からないような問題に取り組む際のカン処の話や、ノーベル賞を受賞した小柴昌俊教授のカミオカンデの成果がある種の幸運によるものであったように、偶然から次の展開が見えてくることもあるという話など、科学者の研究の裏側も少し覗けたような気持ちになりました。

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宇宙の生成の「インフレーション」理論がわかりやすく解説されている。

立花 隆 『脳とビッグバン.jpg脳とビッグバン.jpg 『脳とビッグバン―生命の謎・宇宙の謎』 (2000/06 朝日新聞社)

 科学の最前線で活躍する科学者とその「現場」を立花隆氏が取材するという科学誌『サイアス』の連載をまとめたもので、本書はシリーズ3冊目。
 ビッグバン研究の最前線からの報告をはじめとする宇宙編と、脳や生命活動についての新発見を紹介する生命編の2部構成になっています。

 第1部のビッグバン研究の最前線は、東大の佐藤勝彦教授の研究室を取材していますが、佐藤教授の宇宙の生成における「インフレーション」理論が、立花氏によってわかりやすく、かつ興味深く紹介されています。
 このあたりの一般人の驚きを喚起するような氏の伝達技術はうまい。
 宇宙の謎を解く研究をしている現場ってどんなのだろうという素人の興味にも応えていると思います(これがまた意外と質素・貧弱で雑然としている研究室なのです)。

 第2部の「生命の謎を探る」では、子どもの脳にしかないと思われていた神経幹細胞が成人の脳にもあったことを発見した慶応大学医学部の岡野栄之研究室の「現場」などを取材していますが、科学誌に連載されたものであるためか、やや専門的です。

 こうして単行本になったとき、この2つのテーマの双方に関心を持ち、その内容を理解する読者がどのくらいいるのかとも思いましたが、しっかり文庫化されているのは「立花本」ゆえでしょうか。

 【2004年文庫化[朝日文庫]】

《読書MEMO》
【宇宙の生成過程】
宇宙は生まれたとき、素粒子より小さかった
●1.インフレーション以前...宇宙誕生後10の-44乗秒後にインフレーションが始まった
●2.インフレーション期...1秒の1/1兆の1/1兆の1/10億の間に、10兆倍の10兆倍の1億倍の大きさに(10の-33乗秒後に1センチぐらいの大きさに)
●3.火の玉宇宙期(ビッグバン期)(誕生から30万年まで)
●4.ポスト火の玉期(〜現在)
※ここでいう宇宙は光の到達範囲内(=観測的宇宙=100億光年内)。宇宙自体の膨張は、光速が最速といういうアインシュタインの理論の制限を受けない。

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美しい写真とわかりやすい解説。ヒトは星から出来ているのだ。

見えてきた宇宙の神秘.jpg見えてきた宇宙の神秘 Eye of Hubble

 ハッブル望遠鏡によるものを含む天体カラー写真と、太陽系や銀河系、宇宙についての解説で構成されています。
 写真が美しい。カラフルで立体感があるのです。写真で毛や米粒や煙柱にしか見えないようなものが、長さ何千光年とか、この中に銀河がいくつもあるとか、気の遠くなるような話。

 野本陽代さんの解説も一通り天体物理学の基本を押さえて、かつわかりやすい。「すべての星の一生は重力との戦い」とか「太陽の八倍以上の質量を持つ星の一生は駆け足」とか、なるほどという感じ。

 もしこの世に超新星というものが無ければ、新元素も誕生していなっかたので、われわれは生まれてこなかったとも。
 ヒトは星から出来ているのだ。

(本書より)
らせん星雲.jpg 馬頭星雲.jpg

《読書MEMO》
●すべての星の一生は重力との戦いである(自らの重みと水素を燃やすことによる内部圧力とのバランス)。中心部が燃え尽きると、星は太る(赤色巨星)。あるところまで膨らむと、太陽のような小さな星の場合、外部のガスを放出して(惑星状星雲)中心部がむき出しになる(白色矮星)(172p)
●太陽の八倍以上の質量を持つ星の一生は駆け足。赤色巨星となった後、大爆発を起こす(超新星・「客星」)。カニ星雲は超新星の名残り(179p)
●1987年、大マゼラン星雲に超新星が出現した(182p)400年ぶりの超新星爆発
●もしこの世に超新星が存在しなければ、そもそも私たちが生まれてくることはなかっただろう(新元素を作った)(187p)
●謎の天体クエーサーは、大きさは太陽系程度で明るさは銀河系の100〜1000倍。何がクエーサーのエネルギー源になっているのか。ブラックホールである(214p)

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世界中の科学者を丹念に取材。宇宙はまだわからない課題が多い。

宇宙の果てにせまる.jpg 『宇宙の果てにせまる』 岩波新書 〔'98年〕

 同じ岩波新書の「カラー版ハッブル望遠鏡が見た宇宙」シリーズの著者である科学ジャーナリスト野本陽代さんが、シリーズ1冊目の後に書いたもの。

 宇宙論の現況とこれまでの展開、そしてハッブル宇宙望遠鏡の登場などによる新発見、新理論と、新たな謎に迫る科学者たちの活躍を書いています。

ngc3370.jpg どうして宇宙の年齢や星までの距離、絶対光度がわかるのかといったことから、最新の宇宙論に至るまでをわかりやすく解説するとともに、現在活躍中の世界中の宇宙物理学者を数多く丹念に取材し、彼らの考え方を、その人となりと併せて生の声で伝えています。

 宇宙に関する研究成果が多くの科学者の洞察と努力や工夫によるものであり、そこには様々な競争や運があったということ、宇宙にはまだわからない課題が多くあるということがわかる1冊です。

多数のセファイド型変光星が観測されたしし座の銀河NGC3370 (NASA)

《読書MEMO》
●セファイド型変光星(56p)...変光の周期によって絶対光度がわかる
●余分な運動...宇宙は膨張しているが、個々の天体は特異運動の影響を受ける(86p)
●銀河系・アンドロメダを含む銀河群はおとめ座銀河団の方へ
●光速の70%で遠ざかるクエーサーから2つの光が届く(重力レンズ)(110p)
●1987年カミオカンデが大マゼラン雲の超新星からのニュートリノ検出(140p)
●ビックバン(1/1)から最初の天体形成(1/20)までの間のことがわかっていない(160p)

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科学者の思考と一般の人のイメージの違いが面白い。

1僕がアインシュタインになる日.png僕がアインシュタインになる日.jpg 『僕がアインシュタインになる日―相対性理論講義』 朝日レクチャーブックス 〔'81年〕

佐藤 文隆/光瀬 龍.jpg 「朝日レクチャーブックス」(朝日出版社)の1冊で、SF作家の光瀬 龍 (1928-1999/享年71)が日本を代表する一般相対性理論の研究者である宇宙物理学者・佐藤文隆(1938-)に相対性理論や宇宙論について話を聞くスタイル。1981年刊。

 要するに、対談形式を通しての相対性理論・宇宙論の入門書であるのですが、個人的にはすごく面白かった1冊です。光瀬龍の質問は簡潔ですが、言葉で理解できてもイメージとして理解できないところは(それは一般読者とほぼ一致するはず)何度でも突っ込んで聞いています。この姿勢が実にいいです。

 宇宙論に入ると、ますます物理学者の考え方と一般人のそれとの違いが浮き彫りになります。
 膨張宇宙論において、「では宇宙の外側には何があるのか」と聞く光瀬龍に、佐藤先生は「外側はない」、今見えている領域を "宇宙"と規定しているのであって、まだ光が届いていないその先は論じないと。

 "素粒子崩壊"のイメージなどについても、光瀬は粘り強く聞いて、ここも本書の"読みどころ"となっています。
 今は亡き光瀬龍の、"素人"としての疑問に飽くまでもこだわり、簡単には納得しない姿勢のお陰で、本書は興味深く読めました。

宇宙との対話.jpg 尚、本書はSF作家が宇宙物理学者に話を訊くというスタイルをとっているわけですが、同じ朝日レクチャーブックスの中には、同じくSF作家(半村良(1933‐2002/享年78))が、天体物理学者(小尾信彌(1925‐))に話を訊くという『宇宙との対話-現代宇宙論講義』('79年/朝日出版社)というのもあり、こちらもお奨めです。

宇宙との対話―現代宇宙論講義 (1979年) (Lecture books)

《読書MEMO》
●《特殊相対性理論》 光の速さは一定である(光速度一定の仮定)=光を光の速さで追いかけても、光の速さで逃げていく(40-43p)
●運動していると時計がゆっくり進むー飛行機の時間(飛行機に積んだ原子時計の遅れで確認済み)(93-98p)
●コップ1個の内臓している物質エネルギーは広島型原爆ぐらい
●宇宙が1センチより小さかったときがあった

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"文系人間"のための物理入門書。"物質と反物質の対生成"などの説明が詳しい。

宇宙の始まりの小さな卵.jpg  『宇宙の始まりの小さな卵―ビッグバンからDNAへの旅』 (2002/03 文春ネスコ )

 帯に「数式なしでも宇宙はわかる!」とあるように、"文系人間"のための物理入門書で、話は原子物理学から熱力学、宇宙学、生命学にまで及んでいますが、語りかけるような口調でやさしく書かれています。

 タイトルにも繋がる宇宙の原初における"物質と反物質の対生成"などはかなり詳しく書かれていますが、しかしそこでも、宇宙空間の真空をゴルフボールが敷きつめられたグリーンに喩え、
 「何もない空間ではなく、実は、隙間なく粒子がつまっているようなものなのです。そこから電子をはぎとると、穴があきます。その穴は、ちょうど電子の反対の性質をもった粒子としてふるまいます」
 といった感じの説明の仕方で、わかりやすいです。

 今から何十億年後に太陽が現在より大きくなったときに、「小惑星」を地球のそばを通過させ地球の軌道を太陽から離す―そんな人類延命策を今から考えている人がいるなんて、ちょっと面白い。

 著者は芥川賞作家ですが、相対性理論や仏教の入門書を書いていたり、『パパは塾長さん』('88年/河出書房新社)などという中学受験本も書いていて、「芥川賞作家って何」と言いたくなったりもしますが、小説もちゃんと書いています(本書の中に、著者の小説を想起させるような文体や言い回しがところどころ見られるのが面白い)。

 ジャーナリスト的素養もある人と見るべきか。あるときはサイエンス・ライターで、あるときは受験ジャーナリストになる...。

《読書MEMO》
●地球は、ウランが発する熱が鉄流動を起こし、磁気を発生させている(144p)
●宇宙背景放射により晴れ上がり(ビッグバン後50万年)が観測できる(166p)
●ゼロ時間から0.01秒の間に何が起きたか=陽子・中性子の生成前(166p)
●電子と陽電子が真空から対生成した、というのが宇宙の始まり。電子と陽電子は宇宙のゆらぎで消滅、そこにクオーク・反クオークの対生成が起き、陽電子はクオーク・反クオークに囲まれてⅩ粒子を経て陽子になった...(189p)

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