【1800】 ○ 村山 斉 『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門』 (2011/07 講談社ブルーバックス) ★★★★

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「宇宙論」の現在を知る上で初学者にとっては分かり易い本(「多元宇宙」論の解説はやや駆け足気味)。

村山斉 『宇宙は本当にひとつなのか』.jpg宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』  宇宙は何でできているのか3.jpg宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)

 分かりづらい「多元宇宙」論について、前著『宇宙は何でできているのか』('10年/幻冬舎新書)がその分かり易さにおいて好評だった著者の本を読んでみようと思い手に取った次第ですが、語り口がやさしく、内容については一部やや難しいところもありましたが(一応、科学系新書のブルーバックスだから、その辺りは心しておくべきだった?)、全体としては分かり良かったという印象。

 全8章の前半部分(第1章~第4章)は主に「暗黒物質」についての解説で、近年の研究成果を反映させつつ、丁寧に解説されており、「よく分かっていないもの」を、現在分かっている範囲で分かり易く解き明かそうとする著者の配慮は、前著同様に感じられました。

 第5章で、宇宙の運命と併せて「暗黒エネルギー」(これもまだ分かっていない部分が多い)について解説した後、第6章、第7章で「多次元宇宙」「異次元」について解説、それらを踏まえて第8章で「宇宙は本当にひとつなのか」を論じていて、前著『宇宙は何でできているのか』が素粒子論中心だったのに対し、こちらはより「宇宙論」的な内容となってはいるものの、タイトルにその通り応えている部分は終りの方だけだったのか、という気もしないでもなかったです。

 その終りの方になると、「超ひも理論」やら何やら出てきて急速に難解になり、量子論と宇宙論は不即不離であるため仕方がないことではあると思いますが、図説が少なくなって解説が駆け足になり、タイトルテーマを一定の紙数内に収めようとするあまり、著者の解説の分かり易さという持ち味が、終盤はやや出しきれていない印象も受けました。

 ただ、章末にそれぞれ各章の内容を復習・補足するような形で「質疑応答」を入れており、これがたいへん分かり易く、トータルでみれば、「宇宙論」の現在を知る上で初学者にとっては分かり易い(バランスのとれた)本と言えるかも。
「多元宇宙」論についても、「多次元宇宙」と「多元宇宙」という捉え方があることを整理して、それぞれを解説しているなど、バランスはとれているように思われました。

 因に、全ての素粒子に質量を持たせるヒッグス粒子は、存在が予想されているが未発見であると本書にありますが、本書刊行後半年も経たない'11年12月に、ヒッグス粒子を見つけたという報道がありました(この世界、日進月歩か?)。

《読書MEMO》
質問:暗黒物質の分布は、なんとなく球に見えるのですが、円盤形とかにはならないのですか?
村山:実は、重力で引き合って、円盤の形を保つというのは難しいことなのです。(中略)銀河で円盤がグルグルまわっていられるのは、暗黒物質が球状に分布していて全体的に球形になっているからなのです(62p)
質問:宇宙の年齢というのは137億年なので、宇宙が光の速さで広がったとすると、差し渡し300億光年は越えないのではないでしょうか。なぜ300億光年先の銀河が見えるのですか?
村山:(前略)光源がその場にずっといてくれれば137億光年より先の宇宙はないのですが、光源が離れていっていますので、137億光年より先の宇宙があるのです(74p)(宇宙の膨張速度は光速を越えているということの補足説明が必要?)
質問:暗黒エネルギーについては、エネルギー保存の法則や物質の保存の法則は成り立たないということでしょうか?
村山:物質保存の法則は実はもう成り立っていません。核反応や加速器を使った実験をおこないますと、反応の前後で物質の量が増えたり減ったりすることがありまので、物質だけでは保存しないことがわかっています。しかし、エネルギー全体としては保存しているはずだというのが、普通に考えられるわけです。ところが(中略)膨張している宇宙ではエネルギー保存の法則は成り立たないということになります(127p)
●ミクロの世界で粒子を短い時間観測するととても大きなエネルギーをもっているように見えます。ほんの少しの時間であれば、他からエネルギーを借りてくるようなことができます。量子力学ではエネルギー保存の法則が破られているように見えます(181p)
●この宇宙はうまくできすぎているのです。たくさんの条件をもった宇宙がランダムに作られていったと考えるにはできすぎているとうところから考えられたのが、人間原理です。人間原理によると、人間が存在できるように宇宙の条件がそろえられているのは当たり前のことなのです。人間が存在できる条件を満たしていないと、人間が生まれません。人間が生まれないということは、観測されないわけなので存在しないのと同じなのです。たくさん生まれた宇宙の中で、ごく稀に条件がそろった宇宙に人間が生まれ、そのような特殊な宇宙だけが科学の対象となり、私たちが見ることができるという理論になっています(191P)

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