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「簡単に辞めないほうがトク」と思わせる風土作りの重要性とその施策を説く。

連鎖退職 (日経プレミアシリーズ).jpg              なぜ、御社は若手が辞めるのか.jpg
連鎖退職 (日経プレミアシリーズ) 』['19年]『なぜ、御社は若手が辞めるのか (日経プレミアシリーズ) 』['18年]

 前著『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(2018年/日経プレミアシリーズ)で、社員が定着するためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った著者が、今度は、ある一人の退職を皮切りに次々と社員が辞めてしまう「連鎖退職」を取り上げ、その起きる原因と、予防策や起きた際の対処法を探ったものです。

 まえがきで、同じ組織、同じ部署で、1人の退職が2人、3人の退職につながり歯止めが利かない「連鎖退職」は、その原因が掴めず、うまく対策を講じられないでいるうちに、組織にとって致命的な人数の退職者が出てしまい、最悪、経営が危うくなるといった事態にも追い込まれるとしています。

 そのうえで、連鎖退職はどんな組織や職場で起こりやすいのか、きっかけになる出来事とは何か、連鎖退職によって職場や組織、さらには同僚、本人自身に至るまでどのような影響を受けるのかについて、企業の人事部門、連鎖退職をした社員、連鎖退職状況の中でも辞めずにとどまった社員、転職者と会社を結びつけるプロである人材紹介会社の法人営業などに聞き取りを行い、多面的な観点から、連鎖退職の実態を探ったとしています。

 第1章「連鎖退職はこうして起こる」では、連鎖退職が起こるきっかけ、連鎖退職とは何か、連鎖退職のパターン、連鎖退職が起こりやすい組織・職種、連鎖退職が生む組織への悪影響など、連鎖退職にまつわる諸問題について、総論的・概括的に解説しています。ここでは、連鎖退職は「同調行動」のひとつのパターンであるとして、中小企業やベンチャーで起こりやすい「ドミノ倒し型」と、大企業で起こりやすい「蟻の一穴型」の2つパターンを解説しています。前者は、1人かけることで残ったメンバーに負荷がかかり、さらなる退職を誘発させるのに対し、後者は、1人の退職をきっかけに潜在化していた職場の不満が顕在化し、次々に退職者が出る状況を指しています。

 第2章「どんな人が「危ない」のか?」では、実際に連鎖退職などをした人やその周囲の人への聞き取りをもとに、連鎖退職の実態に迫っており、第3章「そのとき上司・同僚は」では、連鎖退職が起きた職場の管理職と同僚への聞き取りをもとに、彼ら彼女らの思いや動向を紹介しています。 

 第4章「予防のために、会社と管理職にできること」では、連鎖退職を起こさないためには、組織全体として「簡単に辞めないほうがトク」と思わせるような風土作りが必要であるとし、組織や管理職にできる、いわば平時の対策として、以下10項目を挙げています。
 1.採用前の詳細な説明・情報提供
 2.採用基準自体の変更
 3.定期的な配置転換
 4.報酬(給与・賞与)の分配に関する方針(成果主義等)
 5.残業・長時間労働削減等
 6.(社員に対する)評価の仕方や方針
 7.福利厚生(ワークライフ・バランスへの配慮等)
 8.キャリア形成支援のための施策・方針(メンター制度・提案制度等)
 9.ハイパフォーマー、ハイタレント人材の定着
 10.業務の改善

 また、学習機会の提供や日ごろからのキャリアのすり合わせができる関係の構築などが挙げられています。さらに、各部署でできること、人事部門と部署の管理職が連携して行わなければならないことなどを挙げ、ヨコだけでなく、タテ、ナナメのコミュニケーションの強化をはかるべきであるとして、そのための施策も挙げています。

 第5章「一人の退職を「蟻の一穴」にしないために」、第6章「被害を最小限にするには」では、実際に退職者が出た後の、さらには連鎖退職が起きた際の、組織のトップや管理職向けの連鎖退職対策をまとめています。 

 前著同様、調査データや退職者および周囲の関係者の生の声をもとに課題を抽出・整理しているため、シズル感があって分かりやすく、説得力もあります。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなかったようにも思いました。

 基本的には、リテンション・マネジメントを説いている点で、前著の続編という感じだったでしょうか。全体を通して、「簡単にやめない方がトク」と思わせる組織づくりというのが1つポイントになるかと思いましたが、そのための施策は、どれもまさに組織風土改革に連なるのであり、どれか1つやってみるのもいいですが(わかっていても出来ていないことも多い)、複合的に機能させていく必要もあるのだろうと思いました。そうした意味で本書は、実務書であると同時に啓発書であったかもしれません。

《読書MEMO》
●目次
まえがき 連鎖退職がやってきた
第1章 連鎖退職はこうして起こる
第2章 どんな人が「危ない」のか?
第3章 そのとき上司・同僚は
第4章 予防のために、会社と管理職にできること
第5章 一人の退職を「蟻の一穴」にしないために
第6章 被害を最小限にするには
おわりに 連鎖退職をプラスの連鎖に変えていくには

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やや浅いが、リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本。

なぜ、御社は若手が辞めるのか5.JPGなぜ、御社は若手が辞めるのか.jpg  山本寛 青山学院大学経営学部.jpg 山本寛・青山学院大学経営学部教授
なぜ、御社は若手が辞めるのか 日経プレミアシリーズ』(2018/06 日経プレミアシリーズ)

本書は、データや退職者の生の声をもとに、若手が辞めていく会社はどこに問題があるのか、社員が定着するためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った本です。

 第1章では、8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験しているというデータを示し、退職が退職を生むスパイラル「連鎖退職」や、若手がある日突然出社しなくなる「衝動的離職」といった問題を取り上げ、ハイパフォーマー社員が辞めた時の損失の実態を分析し、社員を「辞めさせない」ためのマネジメント(リテンション・マネジメント)の必要を説いています。

 第2章では、データやインタビューから若手・中堅の転職事情(退職を選ぶ理由等)を探り、悩みつつも辞めなかった人の本音も聞いて、辞めた社員との比較から見たリテンションのポイントとして、「働きがい」「会社の姿勢方針」「人間関係の良し悪し」を挙げています。

 第3章では、社員が辞める会社と辞めない会社の違いがどこにあるのかを分析し、「人を大切にする」「風通しが良い」社風では社員は辞めにくいとしています。その上で、「社員が辞めない会社」の組織風土とはどのようなものか、部下が辞めるのは上司の問題なのか、などをインタビューやデータから分析しています。社員の声と企業の声を比較すると、「適切な配置」の重要性について両者の考えは一致する一方、社員が重視するのは「給料」であるのに対し、会社が重視するのは「研修」であるが、社員は「教育は特に求めていない」というのが本音で、給与で大事なのは「納得感」であるとしています。

 第4章では、実際に社員定着のためにできることは何か、リテンション・マネジメントのポイントとして、①採用、②異動と「適性配置」、③報酬、④評価の仕方や方針、⑤労働時間、⑥研修、⑦福利厚生、⑧キャリア形成支援、⑨組織や職場でのコミュニケーション施策、⑩きめ細やかな退職管理、などを掲げ、それぞれについて働く人や人事部の声を拾い、また、テーマごとに企業の取り組み事例を紹介しています。

 第5章では、アンケート調査などを踏まえた上で、働き方改革とリテンションの関係について考察し、「副業OK」で会社の魅力は高まり、会社にもメリットをもたらすとしています。また、働き方改革には、「働きがい」と「働きやすさ」の2つの軸があるとして、ある企業の取り組みをこの2軸に沿って紹介しています。

 統計データやアンケート調査をフルに使い、働く人の生の声も多く取り上げて課題を抽出・整理しているため、分かりやすく説得力もあります。また、リテンション・マネジメントに取り組む会社の事例も数多く紹介されていて、実務上もある程度参考になると思います。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなく、また、紹介されている事例の数が多い分、1つ1つはやや浅い印象も受けました。

 リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本であり、人事パーソンのみでなく、現場の上司(マネジャー)が読んでも啓発効果があると思われる点では、新書の特性を生かしているかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第1章 社員に捨てられる会社(期待の若手が去った後...;8割の上司が、「辞めてほしくない部下」の離職を経験? ほか)
第2章 若手はこうして会社を辞める(「本音の見えない退職」が企業を苦しめる?;転職した人の半数以上は新しい会社に満足している? ほか)
第3章 社員が辞める会社・辞めない会社の境界線(辞めやすい会社・辞めにくい会社1 雇用主の魅力度;人材が定着する会社の共通点 ほか)
第4章 社員の定着のためにできること―リテンション・マネジメントのポイント(ポイント1 採用―入社してから対策していては遅い;「入社後のギャップ」は少ない方が良い? ほか)
第5章 働き方改革とリテンション(生産性の前にリテンション!;「副業OK」で会社の魅力は高まる ほか)

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採用活動を「学」として捉え直し、自社の採用を再構築するための「考え方」を示す。

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採用学(新潮選書)』[Kindle版]/『採用学 (新潮選書)』['16年]

 新卒採用における解禁スケジュール変更が立て続けに行われる中で、依然、多くの企業の採用活動はどれも似通っていて、学生にとってはどの企業も同じように見えてしまうという声もあります。一方で、一部の企業は斬新な採用方法を実施し、それがメディアに取り上げられることもありますが、本書の序章でも指摘されているように、それらに対する評価は、単なる「称賛」や「バッシング」で終わってしまっている印象もあります。

 若手の経営学者(経営・行動科学が専門)による本書は、こうした状況を踏まえ、科学によって導かれたロジック(説明)とエビデンス(根拠)をもとに採用活動というものを改めて科学的に考え(「学」として捉え直し)、自社の採用を見直し再構築するための「考え方」を示すことを狙いとしたものです。

 第1章では、採用活動とは一体どのような活動なのかということについて改めて定義し、「良い採用」というものがあるとすれば、それはどのようなものなのかを考察しています。第2章では、日本の採用の歴史と、その結果たどりついた現在の採用の姿、その問題点について概観しています。

 第3章では、企業へのエントリーから内々定の受け入れに至るまでの、求職者の意思決定に関する科学的な研究を紹介しています。第4章では、「選抜」の科学が紹介されており、求職者が自社に必要な能力をどの程度持っているのかを見極めるにはどのような手法を用いれば良いのか、科学の知見をもとに考察しています。

 第5章では、日本企業の採用の最新動向を追いかけ、日本企業の採用が大きな曲がり角に差し掛かっていることを浮き彫りにする一方、少数ではあるが確実に起こりつつある「採用イノベーション」の事例を紹介しています。そして、最後の第6章において、企業が人材を採用する力(採用力)とは一体なんなのかを総括しています。

 第1章、第2章は"一般教養"編とでもいうか、ざっと流し読みしてよいかと思いますが、企業における採用活動の問題点として、「応募者が多ければ、優秀な人がその中にいる確率も高い」という仮説的ロジックから、「できるだけ多く母集団を集めておきたい」という心理が企業に強く働いていることと、採用における本来の評価基準である「コミュニケーション能力」「向上心」「ストレス耐性」などとは別に、「フィーリングの良し悪し」という基準が持ち込まれ、評価基準がいずれも曖昧で測定しにくいものばかりになっていることを指摘しているのは興味深く思いました。

 ただし、やはり読み所は第3章、第4章であり、科学的な採用活動というものを考え、それを実践に生かすにはどのように進めていくべきかを示すとともに、「優秀さ」とは何かを分析しています。それによれば、採用基準として必ず重視される「コミュニケーション能力」は、努力次第で比較的簡単に身につくという研究結果があるとのことで、採用時にはさほど重視しなくていいとのことです。

 第5章の採用活動における新潮流の事例紹介では、求職者の方が面接会場を設けて採用担当者が赴く「出前面接」や、"師匠"が人物評価を下す"師弟採用"など多様な入り口を設けた「マルチエントリー採用」など、興味深い「採用イノベーション」事例が紹介されています。中には「カラオケ採用」とか「ゲーム『人狼』による人材評価」などよく分からないものもありますが、著者自身が、安易な「解」は時とともに移ろいやすいが、根底にあるロジック(考え方)は普遍的であると述べているように、そうした施策の根底にある考え方を読み取るべきなのでしょう。

 そうしたことも踏まえつつ、全体の総括にあたる第6章では、「採用」と「育成」のつながりを重視するするとともに、人事部門内に採用のプロフェッショナルを育成することの重要性を説いています。

 これまでの採用に関する本は、学生にとっての就活スキルや、企業採用活動における面接方法など、表面的なテクニックを追いがちであったのに対し、採用に「学」と付けたタイトルからも窺えるように、採用というものをロジックで分析したところに本書の目新しさがあり、また、一定の深みもあったように思います。

 ただし、ややバランスが良すぎて、大人しい感じもし、第1章、第2章は、やや退屈に感じる読者もいるかも。著者自身、実務者は第3章から読み始めても良いとしていますが、最もコンセプチャルな内容である第3章、第4章が今度は概念的過ぎて、ややもやっとした感じになった印象もありました(「学」だから仕方ないのか)。

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"元気な会社"が講じている戦略的施策が紹介されていて、啓発的刺激を受けた。

時代を勝ち抜く人材採用 2.jpg時代を勝ち抜く人材採用.png時代を勝ち抜く人材採用

 本書では、少子化による労働力人口の激減など、外部環境の変化により企業の採用活動が厳しさを増す中、採用コスト削減と採用数増加という背反する2つの課題の同時解決を実現し、時代を勝ち抜く人材採用を行うにはどのような採用戦略を取ればよいのかを、「考える」「集める」「選ばれる」「活かす」という4つのポイントから解説しています。

 序章で「採用マーケットの今」を俯瞰し、時代は今「採用効率化時代」へと突入したとして、革新的な採用支援システムにより店舗従業員の採用拡大とコストダウンを両立させたセブン-イレブン・ジャパンをケーススタディとして紹介しています。

 第1章「考える」では、採用においてなぜ「考える」必要があるのか、採用の科学的アプローチとはどういったものかを、「競争優位とマーケティング」「ターゲット選定」「基準値をもってPDCAをまわす」という3つの観点から解説し、エー・ピーカンパニー、テンコーポレーション、三起商行の3社の取り組みをケーススタディとして紹介しています。

 第2章「集める」では、ターゲット選定をした後、いかにして効率的に応募者を集めるかということについて、「オムニチャネル戦略」「トリプルメディア活用」「応募機会の常設」という3つの施策を軸に解説し、シモハナ物流、ツナグ・ソリューションズの2社の取り組みをケーススタディとして紹介しています。

 第3章「選ばれる」では、今日の「選ぶほど応募者がいない」状況の中、企業側がいかにすれば応募者から「選ばれる」ようになるかを、「応募者はお客様」「スピード対応」「面接手法」という3つのキーワードや方法論を軸に解説しています。

 第4章「活かす」では、スタッフの定着率を高めたり、従業員のパフォーマンスを向上させるにはどうすればよいかを、「モチベーション形成」「ハード面における労働環境の見直し」「退職者活用」という3のキーワードや施策を軸に解説し、大光電機、損保ジャパン日本興亜まごころコミュニケーション、日本福祉総合研究所、スタジオアリスの4社の取り組みをケーススタディとして紹介しています。

 解説部分もさることながら、ケーススタディとして取り上げられている各企業の施策が興味深かったです。例えば、居酒屋チェーン店「塚田農場」などを経営するエー・ピーカンパニーは、学生アルバイトに就活期間中も仕事を続けてもらうために、通称「ツカラボ」という就職支援活動を実施しているとのこと、また、天丼チェーン店「てんや」を経営するテンコーポレーションは、外国人スタッフを積極的に採用し、安定稼働させることで店舗の売り上げをアップさせたとのこと、「ミキハウス」ブランドで知られる三起商行では、女性の子育て経験がキャリアに活かされる仕組みを設けているとのことです。

 人材獲得競争が激しい業界の中で、"今、元気な会社"として注目されている企業は、やはり人材採用においても、独自の戦略的取り組みを行っているのだなあと改めて感じます。個々の事例における施策は、一般の企業でも導入可能なものあれば、業種・業態の違いもあってそのまま採り入れることが難しいものもあるかと思いますが、解説部分で示した「考える」「集める」「選ばれる」「活かす」という戦略的な流れに沿ったケーススタディであるため、解説と併せて、自社の採用戦略を考える上で、啓発的な刺激を与えてくれるのではないかと思います。

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「人財」開発に関するテキストであり、実務書。"実務的啓発書"とでも言うべき内容か。

実践 人財開発0.JPG実践 人財開発.jpg実践 人財開発』['17年]

 一般に「人材開発」という言葉が主に人材育成の仕組みをさす意味合いで用いられるのに対し、本書ではあえて「人財開発」という言葉を用い、組織にとって財となる人材についての採用・発掘・育成・最適配置・評価・定着・組織開発・キャリア開発などの施策を統合的に行い、組織目標を達成するための戦略的な取り組みを行うことであるという意味をそこに持たせています。本書は、人財開発に取り組む人に向けた実務書であり、人財開発の仕事を体系的に学び、これからどのように展開を図っていきたいかを、「人財開発」「内製化」などをキーワードに考えてもらうための本であるとのことです。

 第1章では、人財開発の仕事を、「組織風土作り」「組織一体化の醸成」「人材の維持・開発」「人材の補強・強化」の4つの視点から、「組織開発」「人材の保持」「キャリアプラン」「後継者育成計画」「パフォーマンス管理」「能力評価」「チームと個人の育成」「人財の発掘」という8つの戦略に分類する体系的モデルを紹介するとともに、人財開発を推進するためのこれら8つの施策が具体的にどのような仕事を指すのかを示しており、それは、1.人材教育(Training and Development)、2.採用発掘(Recruitment & Acquisition)、3.成果管理(Performance Management)、4.キャリア開発(Career Development)、5.配置登用(Personnel Allocation)、6.定着管理(Retention)、7.後継者計画(Succession)、8.組織開発(Organization Development)の8つとなります。

 第2章では「内製化」をキーワードとし、前述の8つの施策(仕事)について、それぞれ内製化にはどのようなものがあり、何を内製化して何を外注化するべきか、その判断のポイントを示しています。結論として、人財開発においては「51%の内製化」を目指すことを強く勧めている点が興味深く思われました。

 第3章では、具体的にビジネスに貢献するための人財開発の進め方について整理しています。また、この章では、人財開発を戦略的に行ってきた3社の事例が紹介されているため、人材開発の具体的なイメージ把握の助けになるのではないかと思います。

 第4章では、人財開発の専門家を育てるにはどうすればよいか、人財開発の学び方や人財開発担当者が身につけるべき専門性について述べています。具体的には、ATD(Association for Talent Development)が整理したコンピテンシーモデルに基づき 6つの基盤コンピテンシーと10種類の専門性について解説しています。また、人財開発責任者とは何をするのかについて述べ、人財開発責任者の10の専門領域と6つの必要能力について説明しています。

 第5章では、人財開発の潮流と課題について考察し、また、これから着目される人財とはどのようなものかを考察し、5つのトレンドと着目すべき15のスキルを掲げています。

 第6章では、近未来の人材開発がどうなっていくかを推察し、多様化する社会や人工知能、技術革新、未来型の組織への対応について述べています。

 人財開発について学びたいに向けた体系的に整理されたテキスト的内容となっています。同時に、実際に人財開発に取り組んでいる(或いは取り組むことになった)人に向けた(著者の言葉を借りれば)実務書でもありますが、むしろ"実務的啓発書"とでも言うべき内容でしょうか。「内製化」をキーワードとして書かれている点が1つポイントだと思います。

 また、すでに企業内に「人材開発部」のような部署がある場合は、そうした部署の現状分析をする際に、本書によってさまざまな角度からの視座を得ることができるかもしれません。さらには、これからの部署の在り方について考えるヒントも与えてくれるかもしれず、いずれにせよ、人材開発戦略、専門家育成、環境変化の潮流と課題、近未来の在り方などが網羅的に整理されていることから、人財開発の担当者、責任者の参考になる点が多いのではないかと思います。

《読書MEMO》
●目次
第1章 人財開発の実務とは―どのように人財開発を行うのか
第2章 内製化について考える―人財開発を内製化するとは
第3章 人財開発の進め方―ビジネスに貢献する人財開発
第4章 人財開発の専門家を育てる―何を学べば専門家と言えるのか
第5章 現状を考察する―人財開発の潮流と課題
第6章 近未来の人財開発―人財開発の未来を創造する
●8つの施策(第1章)
1.人材教育(Training and Development)
2.採用発掘(Recruitment & Acquisition)
3.成果管理(Performance Management)
4.キャリア開発(Career Development)
5.配置登用(Personnel Allocation)
6.定着管理(Retention)
7.後継者計画(Succession)
8.組織開発(Organization Development)
●内製化の項目例(第2章)
1.人材教育の内製化
・集合研修・eラーニング・外部セミナー・OJT・メンタリング・コーチング
・マニュ・ジョブエイド・コミュニティ
2.採用発掘の内製化
・計画・募集・採用・分析・選抜・登用
●人財開発担当者の必要要件(第4章)
◇基盤コンピテンシー
①ビジネススキル
②グローバルマインドセット
③関連業界の知識
④対人関係スキル
⑤パーソナルスキル
⑥情報技術リテラシー
◇専門領域(人財開発担当者が備えるべき専門性)
①パフォーマンス管理
②教育設計
③デリバリー
④ラーニングテクノロジー
⑤学習効果の測定
⑥学習施策の管理
⑦統合的タレント・マネジメント
⑧コーチング
⑨ナレッジ・マネジメント
⑩チェンジ・マネジメント
●人財開発責任者の役割(第4章)
◇人財開発担当者の果たすべき専門領域
①戦略策定
②投資管理
③変革支援
④成果管理
⑤知識管理
⑥理念浸透
⑦成長支援
⑧能力開発
⑨学習効果
⑩技術革新
◇人財開発責任者に求められる6つの必要能力
①マネジメントチームの信頼性
②従業員とのコミュニケーション能力
③人財開発のトレンド理解
④グロース・マインドセットの維持
⑤学び続ける意欲
⑥自社と業界の未来を語れる
●5つのトレンドと着目する15のスキル(第5章))
1.企業戦略の変化に備える
スキル1:俯瞰力
スキル2:ストレス管理力
スキル3:集中力
2.働き方の変化に備える
スキル4:チーミング力
スキル5:バーチャルコラボレーション力
スキル6:分野横断的知識
3.リーダーシップの変化に備える
スキル7:内省力
スキル8:心理的安全力
スキル9:批判的思考力
4.人口動態の変化に備える
 スキル10:多様性受容力
 スキル11:相互関係構築力
 スキル12:社会的知性
5.テクノロジーの変化に備える
 スキル13:情報統合力
 スキル14:IT活用力
 スキル15:エクスポネンシャル力

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就活後ろ倒しの影響を企業の対応までを含めて概観するのにいい。

こう変わる! 新卒採用の実務.jpgこう変わる! 新卒採用の実務 (労政時報選書)』(2014/12 労務行政)

こう変わる! 新卒採用の実務- 新卒採用の実務 -2.JPG 先に取り上げた『新卒採用の実務』(2014/11 日経文庫)のところでも触れた1冊。 2016年新卒採用(2015年度の大学4年生)から、採用広報の開始が3月1日(従来は12月1日)、採用選考の開始が8月1日(同4月1日)に、それぞれ広報が3ヵ月、選考が4ヵ月後ろ倒しされることを受け、予想される影響やそのことへの企業の対応にフォーカスして編集されています。

 「総論解説」「各論解説」「最新調査にみる採用の現状とこれから展望」「企業事例」「採用関連実務Q&A」の5部構成で、「総論解説」はスケジュール変更の影響についてHRプロ㈱の寺澤康介氏が、新卒採用の今後の在り方についてリクルートワークス研究所の大久保幸夫氏が寄稿しています。

 個人的には寺澤氏が、経団連の「指針」は縛りが緩いルールであって、8月1日「解禁」前に6割以上の企業が選考を始めるだろうとし、インターンシップを採用に繋げる企業が増えるだろうとしているのが関心を引きました。

 こうした見通しは既に類書などでも言われていますが、自社のアンケートでもって、「指針」が守られると思っている企業が4割以下なのに対し、「指針」が守られないと思っている企業が6割近くあると示しているのは説得力があるように思われました(「どちらとも言えない」と答えた企業の中にも「今も守られていない」という声があったとのこと)。

 「各論解説」ではインターンシップやリクルーター制度、内定者フォロー、キャリアセンターとの連携などについて各分野の専門家や実務家が解説し、「最新調査」としては調査会社による調査結に加え、労務行政研究所オリジナルで企業の動向や人事担当者のホンネを探る調査を載せています。ここでも「早めに広報活動や学生の接触、選考を行う」32.2%、「指針に示された時期にとらわれず、独自のスケジュールで活動する」27.6%と、両方を合わせると約6割になるという結果が出ています。

先進の「企業事例」としてはネスレ日本、タカラトミー、ワークスアプリケーションズなど5社の採用の実情を紹介しています。ワークスアプリケーションズの「入社パス」などはすっかり有名になったように思いますが、その他にも各社さまざまな工夫をしていることが窺えます。

 「実務Q&A」では、「インターンシップの学生に報酬を払えば労働者とみなされるか」など5つのQ&Aが付されています。

 今回の「就活後ろ倒し」は、インターンシップが選考の場と化すなど、採用活動のアンダーグランド化を招く恐れがあるとして評判はあまりよくないようですが、そうは言っても、大学および学生、並びに企業は、も対応をしなければならないのが現実でしょう。本書はやや総花的な印象もありますが、就活後ろ倒しの影響だけでなく、企業の対応までを含めて概観するのにはちょうど良く、「調査結果」と併せて解説することでより説得力のあるものになっていると思いました。

 先に挙げた寺澤氏は、8月1日の「解禁」までのんびり構えて、出遅れる学生が増えると警告する一方、企業に対し、自社のスタンスを決めて採用戦略を立て柔軟に動ける準備をするようアドバイスしていますが、尤もだと思いました。

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総花的で実際の採用面接では使えない。今いる社員の見分け方としても読めるが斬新さはない。

間違いだらけの「優秀な人材」選び9.JPG間違いだらけの「優秀な人材」選び.jpg間違いだらけの「優秀な人材」選び』(2012/11 こう書房)

 あなたがデキると思っている部下は本当に利益を生む部下ですか? うわべの「優秀さ」に期待するもいつもだまされていませんか? その陰で「眠っている原石」のモチベーションを奪っていませんか? 会社に利益をもたらす本当の「優秀さ」とはなんでしょう? あなたの部下は「優秀」ですか? そしてあなた自身は...? すべての上司に一度は目を通してもらいたい本(「BOOKデータベース」より)。

 「"やや中古"本に光を」シリーズ第4弾(エントリー№2273)。サブタイトルに「『誰が会社に利益をもたらすか』を正しく見極める法」とあるように、見かけの優秀さではなく、「本当に仕事ができる人材の要素」とは何か、「仕事力」というものを、①成果管理能力(組織のために働く力)、②概念化能力(思考する力)、③内部強化力(モチベーションを高める力)、④外部受容力(新たな情報を獲得する力)の「4つのキーポテンシャル」として提示しています。

 更に、「成果管理能力」には①当事者意識、②成果意識、③目標を定める力、④収束する力、⑤リーダーシップがあり、「概念化能力」には①思考する意欲、②情報を集める力、③情報を選ぶ力、④情報を結びつける力、⑤理論を高める力があり...ということで、言っていることは尤もなのですが、あまりに網羅的・総花的で、実際の採用面接等では充分に使い切れないのではないでしょうか。

 項目ごとに言葉の概念が重なり合っているように思える部分もあって、これを採用で使った場合、論理誤差が起きるのは避けがたいのではないでしょうか。本書とほぼ同時期に刊行された、マッキンゼーの伊賀泰代氏が書いた『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』 (12年/ダイヤモンド社)のように、求める人(要件)は「将来のリーダーとなる人」(リーダーシップ)と一本に絞ったものの方が、ずっとインパクトはあるし、可も無く不可も無いような人材ばかり採ってしまう愚は避けられるのではないでしょうか。

 但し、読み進むにつれて分かったのですが、本書は必ずしも採用時における人材の見分け方とういことに限定したものではなく、今社内にいる人材を職場での行動からどう見分けるかといことに中盤以降は比重がかかっているようです。

 採用面接時にこんな総花的なチェック項目で面接しても実効性は望めないように思いますが、今いる社員を見極めるということであれば、多少の現実味はあるかもしれません。後半は、「判明してしまった『仕事力』、さて、その人をどう扱うか?」といったように、ややネガティブ対応になっているキライもありますが、実際、採用時にその人の全てを見抜くのは不可能で、採ってしまってからどうしようかというケースは珍しくないかと思います。

 しかし、そうしたことを考慮しても、帯の「すべての上司に一度は目を通してもらいたい本」とのフレーズほどに書かれていることにそれほどの斬新さは無く、Amazon.comでの「人財についてかかれた究極の本」などといったレビューには"やらせ"感を覚えずにはいられません。個人的には敢えて「("やや中古"本に)光を」当てるほどのものでもなかったか。

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採用活動の後ろ倒しへの対応も含め、入門書としてはオーソドックス。

新卒採用の実務.jpg 

新卒採用の実務 (日経文庫)』  岡崎 仁美.jpg 岡崎 仁美 就職みらい研究所所長

 著者はリクルート社で『リクナビ』編集長などをを歴任し、現在は同社の「就職みらい研究所」所長ありで、本書は新卒採用に関する基本書と言ってよく、2016年卒業生から採用活動の後ろ倒しが決まったことにより採用戦略次第で獲得できる人材に大きく差が付くことになる可能性があるのを受け、自社をアピールし有能人材をいかに引きつけるか、募集・採用、トラブル対応など採用担当者が知っておくべき基本的常識を解説しています。

 基本書であるがゆえに、企業内でも新卒採用に初めて携わる担当者や、中小・中堅企業でこれから新たに新卒採用を実施していこうという経営者・人事部長などのは特にお薦めできるかと思われます。

 コンパクトながら、最近の新卒採用のトレンドもよく捉えていて、例えば募集に関しては、最近学生の利用率が高まっている「WEB説明会」などについて解説されているほか、最終章では、そうしたトレンドに沿った手法として、「インターンシップ」のやり方や「試職」といった方法、更には「SNS」などのツールの活用法も解説されています。

 リクルート系でありながらやや地味な印象を受けるのは、「日経文庫」における"入門書"的な役割の部分を担っているためでしょうか。徒らに煽っている印象が無い分、信頼感が持てます。コンパクトにまとめた分、テーマごとの掘り下げは若干浅い面はありますが、入門書としてはオーソドックスであるように思います。

こう変わる! 新卒採用の実務- 新卒採用の実務 -2.JPG 「2016年問題」(採用活動の後ろ倒し)への対応により特化した情報を収集したいのであれば、労務行政研究所編『こう変わる! 新卒採用の実務 (労政時報選書)』('14年12月)などへ読み進まれることをお勧めします。

《読書MEMO》
●目次
第1章 新卒採用マーケットを理解する
第2章 採用活動1―事前準備
第3章 採用活動2―学生を集める
第4章 採用活動3―選考
第5章 内定から入社後のフォロー
第6章 採用活動に関する法律を理解する
第7章 トレンドをつかみ、新しいツールを活用する

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起きる事態は「リクルーターの復活」と「採用選考の場と化すインターンシップ」。

就活「後ろ倒し」の衝撃.jpg就活「後ろ倒し」の衝撃: 「リクナビ」登場以来、最大の変化が始まった

 リクルート社で約20年にわたり新卒採用に関わってきた著者が、「就活2016年問題」で何が変わるか、学生や企業は何をすべきかを解説したものです。「就活2016年問題」とは周知の通り、2015年度の大学4年生(2016年採用)から、採用広報の開始が3月1日(従来は12月1日)、採用選考の開始が8月1日(同4月1日)に、それぞれ従来より広報が3ヵ月、選考が4ヵ月後ろ倒しされることを指しています。

 著者は、これは単なるスケジュール変更にとどまらず、企業の採用活動、および学生の就職活動に大きな影響を与えるものであり、かつての「リクナビ」登場に匹敵する衝撃を与えることが予想されるとしています。

 PART1では、就活後ろ倒しが生む2つの大きな変化として、「リクルーターの復活」と「採用選考の場と化すインターンシップ」を挙げていますが、前者は「リクナビ」離れを意味し、後者は採用活動のアンダーグランド化を指すように思いました(「リクルーターの復活」はすでに傾向として見られるのではないか)。

 PART2では、就活後ろ倒しが学生に何をもたらすかを分析し、就活エリートの一人勝ちがますます進行し、普通の学生のチャンスが激減するとしています。

 PART3では、就活後ろ倒しによって企業の新卒採用はどうなるかを分析し、大企業の採用コストは激増し、中堅・中小企業の採用は困難を極め、結局笑うのは、外資系企業、ベンチャー企業、それに所謂「ブラック企業」であるとしています。

 口上には「本書は、いわゆる『就活本』ではありませんし、採用のノウハウ本でもありません。就活後ろ倒しという、学生・企業双方に大きな影響を与える構造変化で何が起こるか、そしてそれにどう対処すべきかを解説します」とありますが、学生向けの箇所では、OB訪問のやり方やインターンシップの選び方などについて書かれているし、企業向けの箇所では、リクルーターによる採用の進め方や狙い目の学生層などについて書かれています。

 PART4では、就活後ろ倒しの目的とはいったい何だったのか、学業は却って疎かになり、適職を見つけることは困難になると、就活後ろ倒しへの疑問を呈しています。

 あとがきでも就活後ろ倒しの問題点を指摘しつつ、ステークホルダーが協働して理想の就職活動・採用活動を探していこうと訴えています。或いはまた、本文中でも、「私自身、もともと学生の本分は学業であると考える」としながらも、就活後ろ倒しが決まってしまった以上、学業に向けるパワーの一部を就活にあてるべきだ、「仕方がない」と割り切って行動すべきであるとしています。

 まあ、現に就職を控えた学生や、採用競争を勝ち抜かなければならない企業の立場に立てばそういうことになるのでしょう。本書ではデータが一切示されていませんが、HR総研などの企業アンケート調査によれば、6割以上の企業が8月1日の「解禁」前に選考を始めると答えているし、新たに設けられた「採用広報の開始は3月、採用選考の開始は8月」というのはあくまで経団連が示した「指針」に過ぎないのであって、楽天やユニクロなど就活時期後ろ倒しの指針に賛同しないことを表明している企業もあるくらいですから、「採用選考の場と化すインターンシップ」(採用活動のアンダーグランド化)状況が起きるのは想像に難くないように思います。

 そのことを前提に、学生や企業に対して対処策を示しているのが本書であって、これは所謂「就活本」であり、企業向けの「採用マニュアル」の一種でもあるということになるのでないでしょうか。そうした実務的な目線で見れば、本書は星4つ評価くらいでしょうか。分かりやすく書かれています。

 但し、自ら就活本ではないと言い、最後に就職活動・採用活動のあるべき論を振りかざしながら、タイトルでは「衝撃」と煽ったりしていて、版元の編集サイドで付けたタイトルであるとの大方の想像はつくにしても、マッチポンプ的で立ち位置がはっきりしないという(リクルート系または「元リク」にありがちだが)、この点が個人的には気になって、星半個マイナスにしました(完全に個人的な好みみたいなものだが)。「就活本」「採用本」と割り切ってみれば悪くない本です。

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「(Amazonの)レビュー数が少なく、星が多い本は信用できない」。

戦略採用.jpg戦略採用』(2014/11 東京堂出版)

 「戦略採用」というタイトルですが、大体が類書に書かれているような内容に思われ、書かれていることはそれなりにオーソドックスであり、それを否定するわけではないですが、「戦略」と呼ぶほどのことかなあと思いました。実務経験者らの対談なども入れて読み易くはしていますが、その対談の中でも特に目新しい部分はなく、看板倒れの印象を受けました。これで1,400円はちょっとねえ...という感じです。

 新卒採用と中途採用を一括して論じていたり、「総務部が人事の仕事をしている会社があるが、いい人を採用しようと思ったら、人事部を作った方がいい」などと書かれていたりするところをみると、中小企業向けでしょうか。改めて見てみると「戦略採用メソッド」について書いたものとのことですが、「戦略」よりも「メソッド」中心で、しかも、その方法論や考え方にそれほど斬新さは無いというところです。

 前項で、安田 正 著『一流役員が実践してきた入社1年目から「できる人になる」43の考え方』('14年/ワニブックス)について、Amazon.comで身内のレビュアーを何人も投入して作為的に5つ星評価にしているのが却って信頼感を損ねているとしましたが、本書も最初に身内のものと思われるレビューが並び、他の本をこれまでレビューしてきた実績が全く無いレビュアーが本書に高い評価を付したりしています。出版不況とは言え、見え透いた手口は却って信頼を失うと思っていたら、「レビュー数が少なく、星が多い本は信用できない」とのレビューがしっかり付されていました。
 こうしたことは別にこの2冊に限ったことではなく、柳原愛史 著『人事能力のイノベーション5原則』('14年/産業能率大学出版部)などもそう(4日連続して星5つのレビューが続くなんてあまりに不自然。節操が無さ過ぎる...)。『人事能力のイノベーション5原則』の場合、内容は悪くないだけに、そこまでして売らなければならないのかと疑問に思いました。

 本書『戦略採用』について言えば、あとは著者の経歴の書き方。生保会社でどういった役職を歴代最年少で歴任してきたとかズラズラ書かれていますが、本書の内容に関係ないことでしょう。「Amazon.comの作為的レビュー」と「矢鱈と優秀さを強調する経歴」―この2点、結構、ダメな本を見分ける指標になります。

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優秀さの部分はスゴすぎてマネ出来ないが、キャリアに対する考え方という点で啓発的。

知る人ぞ知る会社 1.jpg  『大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』.jpg
大手を蹴った若者が集まる知る人ぞ知る会社』(2014/02 朝日新聞出版)

 本書は2部構成になっていて、第1部で「大手を蹴った若者が集まっている会社」を紹介し、第2部で大企業とベンチャーのどこが違うかを考察していますが、特に第1部が興味深かったです。

テラモーターズ.jpgSansan.jpg 第1部で紹介されているのは、「テラモーターズ」(電動バイク、社員数20人)、「Sansan」(名刺管理サービス、社員数100人)、「ネットプロテクションズ」(後払い決済サービス、社員数50人)、「フォルシア」(商品検索エンジン開発、社員数53人)、「クラウドワークス」(クラウドソーシング、社員数20人)の5社で、いずれもベンチャーで従業員数は20人から最大100人までと、一般の人には殆ど知られていない比較的小さな会社ばかりです。

 創業者自身が大手企業からベンチャー経営者に転身した人が多く、そこに集まった若い社員も皆、極めて優秀で、一旦は大手企業に勤めたもののそこを辞めた人や、大手企業の幾つもの内定を蹴った人ばかりといった感じ(その意味ではタイトルに偽りなし)。
 そうした世間的にみても"レールに乗って"いて、そのまま大企業にいれば、安泰な人生を送れたかもしれない若者たちが敢えてそこから飛び出したり、最初から大手には行かなかったりしたのはなぜか(これだと「大手を蹴った」にウェイトがかかり過ぎるから、換言して「なぜ殆どの人が知らないような会社を選んだのか」と言った方がいいかも)―本書の紹介事例を読むと、そんな彼らのユニークともとれる"キャリア行動"の背景に、個々の強い意思や夢も感じられますが、それと呼応するような各社のビジョン、業界内における先進技術や戦略的ビジネスモデル、トップの人柄やリーダーシップがあることも窺えます。

 企業の人事担当者向けの、優秀な若者を惹きつける企業の魅力とは何かを考える上でのテキストとしても読めますが(最初はそういう本だと思った)、むしろ、これから就職活動をする若者や、既にキャリアの第一歩を踏み出したもののこのままこの会社にいていいのかと悩んでいる人に向けて書かれた本と言えるでしょう。
 実際にはベンチャーの世界が甘いものでないことは確かで、成功する企業はごく一握りだとも言われています。巻末には、こうした優秀な人材を得て活気に溢れる仕事をしている企業をその他にも紹介したリストがあり、ベンチャー企業への就職を希望しているものの、玉石混交でどこがいいのか分からないという人にはガイドブックとしても読めるかも。

 但し、第1部で紹介されている企業にいる社員たちは、先にも述べた通り皆「超」がつくくらい高学歴で、好不況に関わらず何社もの大手企業から内定をもらうような人ばかり、しかも、単に就活に強い、企業ウケする、といっただけでなく中身的にも優秀な若者たちです。
 取材形式のままに書かれている第1部では、著者はそうした若者に対し、彼らの生い立ちから、どのように育ち、どのように学んだり遊んだりして、どうしてその会社に入ったのかまで丁寧に聴き出しており、彼らがただ優秀なガリ勉だったわけでなく、非常に人間的で、青春を謳歌しつつ時に自らのキャリアについて迷うなど、真剣に生き、真剣に自らのキャリアを考えてきたことが窺えました。

 彼らの「優秀さ」の部分はちょっとフツーの人にはマネ出来ないなあと思わせるぐらいスゴいレベルなのかもしれませんが、キャリアというものに対する自分なりの考え方を持つことの重要性という意味では、その優秀さゆえに安泰な道を選ぶ手もあった彼らが数十人しか社員のいないベンチャーで、しかも活き活きと働いていることを想うと、非常に啓発される要素があるかと思います。

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中小企業向けにオーソドック且つ丁寧に解説。人物を見抜く工夫の各社の例が良かった。

なぜあの会社には使える人材が集まるのかZ_.jpgなぜあの会社には使える人材が集まるのか (PHPビジネス新書)

 パート・アルバイトの戦力化支援などで豊富な経験を持つ著者が、主に中小企業の事業主・採用担当者向けに、人材の採用・定着・戦力化に成功している企業の特徴や、採用実務に関して留意すべき点を、募集から面接、実際の採用に至るまで丁寧に解説し、採用できなかった際の対処法などについても述べています。更には、募集・採用に纏わる最近の法改正なども押さえています。

 人材の採用・定着・戦力化に成功している企業は、企業と従業員の間の「相思相愛」を常に意識しているとするなど、テクニカルな解説だけでなく、啓発的な要素も多分に含んでおり、本書に対するネットなどの評価も高いようです。

 そのような「心得」的な部分は、言ってみれば普遍的なものであり、書いてあること自体はオーソドックスですが、その分説得力はありました(著者の示す"働く側の「相思相愛」判断基準"は、60年代に提唱された「PM理論」に通じるものがあったように思った)。ただし、著者が求人広告会社(「アイデム」)の出身者であることもあり、募集広告の出し方と、最適なメディアの選び方(インターネットから、タウン誌・新聞折込み広告なども含めたそれぞれのメリット・デメリット)については、各1章を割いてさすがに詳しく書かれています。

 応募受付のやり方も軽視できないとしているのには共感させらえました。面接で人を見抜く方についても書かれていますが、やはり、これが一番難しいのではないかと思います。その中でも興味深かったのが、相手の仮面を剥がして本質を見極めるためのトーク技術や面接方法について、企業が実際にどのような工夫をしているのかその実例が紹介されている箇所でした。

 面接の際に、履歴書に書かれている内容から、面接官個人との共通点を探し出してそれを話題にし、相手にリラックスしてもらい本音を聞くとか、最寄駅まで車で送迎してその際の態度をミラーでチェックするとか(地方の中小企業だったりするとこうしたことが結構あり得るかも)、幾つも独自の工夫例が出てきます。中小企業の採用担当者は、自分たちで知恵を絞っていろいろな試みをしているのだなあと、その熱意に感心しました。テクニックをそのまま採り入れるかどうかはともかく、面接で人を見抜こうと思ったら、採用担当者もそれなりに知恵を絞ることが必要だと改めて感じました。

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辞めない「しくみ」づくりの具体性がもう少し欲しかった(中小企業経営者向けの啓発書か)。

会社で活躍する人が辞めないしくみ .jpg会社で活躍する人が辞めないしくみ』 (2013/11 クロスメディア・パブリッシング)

辞める.jpg 序章で、社員が残る理由も、離れる理由もやはり"人"であるとし、第1章「会社のしくみ」で、会社が社員に対して「安心」を与えているかどうかが、優秀な社員が辞めずにのびのびと働くための条件となるとしているのには納得。結局、社員が辞める理由の大半は、ハーズバーグが言うところの「動機づけ要因」よりも「衛生(環境)要因」によるものでしょう。

 従業員たちが求めているのは「安心して働ける職場環境」であるとの考えに基づき、第2章「職場環境」では、「会社のゴールを社員と共有する」「社員に会社の将来図を見せる」などといったことが提唱されています。第3章以下、「人間関係」「仕事」「評価」「給与」「採用」「育て方」というそれぞれの視点から、社員が辞めないしくみについて言及しています。

 これを見て分かるように、著者は、1つの施策だけを打てば大丈夫ということはなく(また、そうした便利な施策があるわけでもなく)、これらを総合的に組み合わせていくことが必要であるとしており、また、そうした施策を複合的に講じることが、"魅力のある会社"になることに繋がり、そのことがまた、その会社にとっての優秀な人材が辞めないという好循環に繋がるとの考え方に立っていて、こうした著者の考えには個人的にも大いに賛同するところです。時間のかかる取り組みですが、人材経営の真実であることには違いないでしょう。

 但し、その結果として本全体が網羅的にならざるを得ず、「しくみ」とタイトルにありながらも、1つ1つの章の内容が「しくみ」そのものはさほど解説されておらず、「そうしたしくみ作りが必要である」といった、理念的なものに留まっていて、基調講演を聴いているような読後感を持ちました(「数年先の展望が抱ける」「失敗が許容される」「育てる仕組みがある」「尊敬できる上司がいる」「育成型の評価制度『会社で活躍する人が辞めないしくみ』.jpgがある」―皆すべて確かにそうであり、また、「安心して働ける職場環境」という冒頭のコンセプトとリンクはしているのだが...)。

 優秀な人材をどうすれば採用できるか(アトラクション(Attraction))について書かれた本にくらべると、優秀な人材が会社を辞めないための対策(リテンション(Retention))について書かれた本はそう多くはなく、内容的に期待したのですが、もう少し具体性が欲しかった気もします。「しくみ」そのものの事例やヒントが全く書かれて無いわけではないものの、やや目新しさには欠けたように思います(どちらかと言うと、中小企業経営者向けの啓発書か)。

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マッキンゼーが求めるのは「将来リーダーとなる人」。リーダーシップに関する若年層向け啓発書か。

1採用基準―.png採用基準 伊賀泰代.jpg   伊賀 泰代.jpg 伊賀 泰代 氏(マッキンゼー)    
採用基準』(2012/11 ダイヤモンド社)

 コンサルティング会社のマッキンゼーで採用マネジャーを12年務めたという著者による本ですが、就職超難関企業と言われるマッキンゼーの「採用基準」は、世間一般には、地頭のよさや論理的思考力が問われると思われているようだがそれは大きな誤解であるして、冒頭からそのような定説をきっぱりと否定しています。

 マッキンゼーが求めているのは分析が得意な人でもなければ優等生でもなく、「将来のリーダーとなる人」であるとのことです。なぜならば、問題解決に不可欠なのはリーダーシップであり、また、リーダーシップは全員に必要であると考えているからとのことです(でも、別のところでは、1リーダーシップ、に加えて、2地頭、3英語力、の3つが求められているとも書いてはいるが)。

 最終的に正式のリーダー職に就くのは一人だとしても、組織の構成員全員が多彩なリーダー体験を持っていることが重要であり、人はリーダー体験を積むことによって、「高い成果を出せるチームのメンバー」になれるというのが、マッキンゼーにおける採用に際しての考え方であり、マッキンゼーに限らず外資系企業の多くが、すべての社員に高いリーダーシップを求めているとのことです。

 転じて日本の企業に目をやれば、リーダーシップについて問われる機会はごく限定的で、三十歳前後になってもそれまでリーダーシップについて問われた経験が無いといった社員がいたり(確かに、人事考課における要素などにおいて、若年層にはリーダーシップを問わない企業も多いかも)、あるいは、管理職研修にリーダーシップに関する研修が織り込まれていなかったりもするとのこと(この点は、最近はそうでもないのではとも思うけれど)。

 外資系企業におけるリーダーには、その組織が成果を生み出すことを求められるが、日本の場合は組織の「和」が優先されると―。以下、日本企業と外資系企業におけるリーダーシップの捉え方の違いを、時に文化論的なレベルまで敷衍させて、対比的に、分かり易く説明しています。

 例えば、事故で電車が止まって駅のタクシー乗り場に長い行列ができている状況において、海外ではこういう場合、必ず誰かが相乗りを誘い始めるとのことで、これがリーダーシップの発揮なのであると。日本人の場合は、黙々と列に並び、一人ずつタクシーに乗っていき、そういう役割を自ら担おうという気が全く無い―これがこの国の人の特徴なのだと指摘しています。

 文化論に落とし込まれると確かに分かり易い。それをそのまま企業内における組織行動論にもってきているため、全体を通してややパターン化された外資系企業と日本企業の対比のさせ方になっている印象も受けましたが、マッキンゼーに入社するためのノウハウ本になっていない点は好感が持てました。
 但し、採用担当者が期待するような、採用時に応募者のリーダーシップを探るための方法論についてはそれほど突っ込んで書かれているわけではなく、本書自体、「採用基準」の本と言うより、4:6ぐらいの比率でむしろ「リーダーシップ」について書かれた本であると言ってもいいかもしれません。

マッキンゼー流最強チームのつくり方.jpg マッキンゼーでは、「全員がリーダーシップを発揮して問題解決を進める」前提で仕事が進み、「全員がリーダーシップをもっているチームでは、議論の段階では全メンバーが『自分がリーダーの立場であったら』という前提で、『私ならばこういう決断をする』というスタンスで意見を述べ」るとのことであり、だからこそ、高いパフォーマンスをもった組織が生まれるのだと言っています(結果としてリーダーとフォロアーの違いは殆ど無くなる。この辺りは著者のDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文にも書かれているようだ[2013年4月Kindle版で刊行] )。「職場でしばしば目にする、リーダーに対する建設的でない批判の大半は、『成果にコミットしていない人たち』によって」なされるとも著者は述べています。
マッキンゼー流最強チームのつくり方 (DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文(2012年9月))」(201304 Kindle版)

 リーダーとは具体的にどのようなアクションをとる人なのかについて、著者は「目標を掲げる」「先頭を走る」「決める」「伝える」という4点を挙げ、リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、学んで向上させることができるものだとしています。今の日本に求められるのはリーダーシップを持つ人間であるというのが本書の根源的なメッセージであり、今の日本の問題は「カリスマリーダーの不在ではなく、リーダーシップを発揮できる人数の少なさにある」というのは当たっているかも。

 その上で、マッキンゼー流のリーダーシップの学び方(学ばせ方)についても述べていますが、それによれば、マッキンゼーにおけるリーダーの「基本動作」のもとになる考え方は、①バリューを出す、②ポジションをとる(自分の意見を明確にする)、③自分の仕事のリーダーは自分であると認識する、④ホワイトボードの前に立つ(議論のリーダーシップをとる)―といったことのようです。

 中盤あたりから最終章の「リーダーシップで人生のコントロールを握る」まで "啓蒙書"的なトーンが続くのは、「キャリア形成コンサルタント」という著者の今の仕事とも関係しているのでしょう。読者ターゲットを、キャリアの入り口にある若年層に絞っている本とみてもいいかもしれません。

 全体を通して書かれている内容自体は特に奇抜なことを述べているわけではなく、すんなり腑に落ちるもので、マッキンゼー礼賛ぶりがやや気にはなりましたが、その点も、外資系企業出身者が書いた同じような本に比べると、まだバランス感覚は感じられる方だと思います。むしろ、コンサルティングファームという業態はそれなりに意識して読んだ方がいいかもしれないし、また、読んでいて意識せざるを得ないかと思われます。

『採用基準―地頭より論理的思考力より大切なもの』2.jpg 巷にある採用本によくありがちな、あれも必要、これも必要とチェック項目ばかり矢鱈に多く並べて、結局は使いきれないし、何も印象に残らないといったパターンと比べると、求められるのはリーダーシップであるとはっきり言い切っている分、明快です(この点において評価★★★★☆)。日本の企業も、採用選考において、応募者のリーダーとしての資質にもっと着眼するようにした方がいいのかもと思わせるものがありました。実際、それを見極めるとなるとなかなか難しいことかと思われますが、そこまで具体的には踏み込んでおらず、人事パーソンの目線で見るとやや物足りなさも残ります(この点においては評価★★★☆)。

 但し、リーダーシップというものが外資系企業では若年層のうちから求められるということはよく分かりました(まあ、外資の場合、最初から中枢部にいる人間と、生涯、末端の現場から離れることのないであろう人間とが明確に分かれている傾向があり、ここで指しているのは、まさに中枢部の要員として採用された人間ということになるかとは思うが)。

 一方、マッキンゼーに就職するためのノウハウ本だと勘違いして購入して、アテが外れたという人もいたかもしれませんが、それは、そう思って買った人本人の問題。そうした(実利的な(?))ことは抜きにして、キャリアの入り口にある若年層の人に向けた、リーダーシップに関する啓発書としては悪くないように思いました(啓発書としては評価★★★★)。個人的には、総合評価星4つ(★★★★)です。

【2794】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『プロがすすめるベストセラー経営書』 (2018/06 日経文庫)

《読書MEMO》
HRアワード2013.jpg「日本の人事部」主催の「HRアワード2013」の書籍部門で最優秀賞を受賞

受賞についてコメントする著者の伊賀泰代氏(from「日本の人事部・HRアワード2013」)
 
 
  

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マトモだけどインパクトが弱い就活本。

もうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術.jpgもうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術l.jpg
もうダメだと思ったときから始まる「就活」大逆転術 (青春新書プレイブックス)

 学生向けの「就活」ハウツー本にはかなりヒドい内容のものもあり、特に比較的若手の就職コンサルタントとか就職ジャーナリストが書いたものの中には、心情的に学生に近い立場をとろうとしているのか、"ブラック企業"のことを面白おかしく露悪的に書いたりして、却って学生を不安や疑心暗鬼に陥れるのではないかと思われるものもあったりします。

 そうした本に比べると、実際に大学のキャリアセンターで相談業務を行っているベテラン・キャリアカウンセラーによる本書は、比較的まともな方かもしれません。「就活をマネジメントする」といった考え方はいかにもコンサルティングファーム出身者らしいけれど、全体としては、テクニカルなことより、心理面での啓発的な事柄にウェイトが置かれているように思いました。

 不採用通知、所謂"お祈りメール"を貰い続けても、落ち込んだ気分にならないように、「次いこう、次!」とか気分回復のパスワードを決めておく、或いは、イチローを尊敬している人はイチローの写真を携帯するようにして、常に憧れの人だったらどう就活するかを考える、などといったアドバイスは、なるほどなあと。

 但し、「勝負ネクタイ」を数本決めておくとか、だんだんお呪いみたいになってきて、そのうち読み終ってしまい、インパクトとしては弱かったかも(「就活」本の中では相対的にはまあまあだけど、絶対評価的にみると物足りない)。

 この本、どうせ読むなら、就活を始める前に読むべきで、「もうダメだと思ったとき」に読んでも遅いような気もしますが、この「もうダメだと思ったとき」というのはいつ頃になるのだろうなあ。

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ジャンル的に著者の専門外。就活中の学生が、こんな経歴の人の話を聴くかなあ。

面接ではウソをつけ987.JPG面接ではウソをつけ.jpg 29歳でクビになる人、残る人.bmp 『29歳でクビになる人、残る人 (PHP新書)』['10年]
面接ではウソをつけ (星海社新書)』['11年]

  「一流大生」「コミュニケーション能力抜群」「凄い経験の持ち主」といった"就活強者"ではなく、「二流大生」「内気・ねくら・コミュ力ゼロ」「サークルとアルバイト以外、何もしてこなかった」といった"就活弱者"が、面接をクリアし、内定を勝ち取るにはどうしたらよいかを伝えたかったというのが本書の趣旨であるようです。

 著者は「営業コンサルタント」とのことで、以前、この人の『29歳でクビになる人、残る人』('10年/PHP新書)を読みましたが、個人的にはあまり得るものは無かった...。最近は、『人は上司になるとバカになる』('11年8月/光文社新書)、『誰も教えてくれないセールスの教科書』('11年9月/ぱる出版)、『トップ営業マンになる!身近なツール65の活用術』('11年9月/実務教育出版)など、かなりのペースで本を書いていますが、この本に関しては、ジャンル的にはやはり著者の"専門"外ではなかったかと...。

 著者自身もそう思っていたらしいですが、編集者から「営業コンサルタントだからこそ語れる面接の本を作りたい」と言われ、また企画を進めるうちに「営業」と「面接」には共通点が多くあることに気付いて、こうした本を著したとのことですが、結局、言っていることは、自分をいかによく見せるか、相手にまた会ってみたいと思わせるかのコツを説いたものであり、ほとんど「営業本」の世界だなあと。

 別に「面接でウソをつけ」と言っているわけではなく、「上手に演技せよ」と言っているわけで、これではインパクトが弱いと思ったのか、編集者がこういうキャッチーなタイトルにしたのだろうなあ。

 それ合わせて前書きでも「ウソのつき方をお教えします」的なことを言ってはいますが、本篇ではそうした言い方をしている箇所はどこにもなく、むしろ、「心で思っていることは簡単に見透かされる」とあり、これが実際のところではないでしょうか(その意味でマトモだが、タイトルずれしているとも言える)。

 具体的な事例が全てセールストークであり、しかも、著者自身が経験した住宅販売会社の営業マンのそれであって、自分の体験を基に書いているのは正直だけれど、それを強引に採用面接の場面に敷衍化したのは、やはり無理があったように思います。

 著者自身、住宅販売会社に入社して7年間は泣かず飛ばずだったそうですが、そもそも住宅販売や訪問販売の業界というのは、とりあえず許す限りヒトを採用して、後は辞める者は辞めるし、残る者は続けられる範囲で残る―といった業界ではないかと。

 就活中の学生が、こんな経歴の人の話を聴くかなあ。

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「●教育」の インデックッスへ

企業の採用担当者の間で話題の大学。国際教養人を育てるための取り組みが徹底している。

なぜ、国際教養大学で人材は育つ 5.JPGなぜ、国際教養大学で人材は育つのか.jpg   なぜ、国際教養大学で人材は育つのか 図書館.jpg 
なぜ、国際教養大学で人材は育つのか (祥伝社黄金文庫)』 国際教養大学の365日24時間開館の図書館

 この就職氷河期と言われる時代において、新進ながらも"就職率100%"の大学として、企業の採用担当者や大学の就職関係者の間で最近話題となっている国際教育大学(AIU)は、'04年春に日本初の公立大学法人として、秋田市(当時は秋田県雄和町)に開学した学校ですが、本書はそのAIUについて、学長自身が歴史や理念、取り組みを紹介したもの。

 本書で紹介されているAIUの特徴としては、●国際教養という新しい教学理念、●全授業を英語で行なう徹底した少人数教育(学生対教員数は15:1)、●必須の海外留学(1年間)、●厳しい卒業要件、●365日24時間開館の図書館などが挙げられます。

 秋田県が東京外国語大学の元学長を引っ張って来て、「あなたの思うような学校作りをしてください」と言って出来たのがこの大学であるわけで、学長自らが語っているため、やや「宣伝本」のキライもありますが、併せて、高等教育に関する問題意識や提言が随所にあり、これはこれでいいのでは。

 それにしてもスゴイね。入試偏差値は東大・京大レベルで、入学した1年生は外国人留学生と相部屋の寮生活、海外留学は卒業の要件ですが、英語力が一定レベル(TOEFL550点以上)にならないと留学出来ず、その他にも卒業のための厳しい要件があって、4年間で卒業できた学生は51.2%(2009年度)と全体の約半数であったとのこと。

 この就職難の時代に、企業の方から秋田の地を訪れて、企業ガイダンスをやるというからますますスゴイなあと思いますが、考えてみれば、これだけ市場がグローバル化した時代に、企業が(不足している)グローバル人材の獲得・育成に注力するのは当然と言えば当然、日立製作所などのように、「文系は全員グローバル要員」と言い切る企業もあります。

 著者自身、「世界を相手にする企業における、社内の英語公用化は望ましい」と言っているぐらいですが、英語力をつけさせるだけでなく、人口学、比較文化学など多様な人文学・社会科学系の学問に加えて、物理や生物などの自然科学系科目、また華道や茶道など、日本の伝統芸能も学ぶことができるとのことで、但し、あまり入試が難しくなり過ぎると、結局、上智大学の国際教養学部の最初の頃のように帰国子女ばかりにならないかなあ(上智の同学部は、現在は帰国子女の定員枠が設けられている)。

 4年間でストレートに卒業する学生が50%というのは、ハーバードでもその割合は50%程度というから、そうした世界のトップ大学を見据えているのだろうし、大学教員の教育実績を評価し、一定のレベルに到達しない教員とは再契約しないというのも、そうした海外の一流大学では行われているのかも(研究成果を上げないと再契約してもらえないというのは、海外の理科系の大学のフェローなどでは珍しいことではないが、AIUの場合、「教育」と「研究」の比重はどうなっているのだろうか)。

 就職難の時代、入試レベルが低偏差値であっても、学生の企業への就職において一定の成果を上げている大学はあり、但し、その実態は、「大学教育の専門学校化」だったりするわけで、そうした動向と比べれば、広い意味での国際教養人を育てようというAIUの取り組みは評価できるものであるかもしれず、また、その徹底ぶりには、やるならやはりここまでやらねばならないのか、という思いにさせられます(どの大学もがこのようになる必要は全く無いと思うが)。

 今のところ、企業側がAIUの学生に期待を込めて積極採用しているというだけで、それらAIU出身者のビジネスの世界での評価はこれからでしょう。
 但し、AIUのことを今まで知らなかったという企業の採用担当者は、"情報"として、一応は読んでおいていいのでは。

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就活の現況を概観するにはいい。大学の新たな取り組みをもっと掘り下げて取材して欲しかった。

就職内定率の推移.gif就活地獄の真相.jpg 『就活地獄の真相 (ベスト新書)

 本書によれば、就職氷河期レベルと言われた2010年春の就職状況は、文部科学省の「学校基本調査」(2010年8月公表)によると、前年より5万3000人減の32万9000人と厳しいものだったが、2011年春は、より厳しい見通しにあるとあります(因みに就職率で言うと、本書には無いが、2011年春の最終数値は61.6%で、前年最終の数字との比較で0.8ポイント上昇したものの、ほぼ横ばいだったとみていいか)。

 また、厚生労働省の「就職内定状況調査」(年4回、10月、12月、2月、4月に調査)では、2011年春の内定状況は、2010年10月1日時点で57.6%と「氷河期」を下回る過去最悪となっているとあります(因みに、2011年4月の最終内定率は91.0%で、こちらは最終数値も過去最低だった)。

 大学ジャーナリストである著者は、その原因を、単にリーマン・ショック後の不況による求人減少のせいだとして片づけることはできないとし、そこには、「就活」をめぐっての大学側、国側、採用する企業側のさまざまなウソ・ゆがめられた真実があり、それらがいびつな就活構造を作り出し、学生を疲弊させるだけでなく、結局は採用企業にも大学にとっても不利益をもたらすという悪循環を生みだしているとしています。

 例えば、文部科学省・厚生労働省の「大学卒業(予定)者の就職内定率調査(前記:厚生労働省の「就職内定状況調査」と同じ)」(2010年5月公表)によれば、「10年4月1日時点での就職率(内定率)は91.8%」となっているとマスコミも伝えましたが、マスコミを通して発表される政府の就職内定率調査や、大学が公表している就職率は、現役学生だけを対象としたものであり、しかも、内定率というのはあくまで就職希望者に占める就職決定者の割合であって、厳しい就活に耐えられず途中で就職を諦めた学生などは分母に含まれていないそうです(2011年の「過去最低の数字」が、前述の通り「91.0%」だったというのは、確かに実感とずれているが、要因はここにある)。
 
 また、大学によっては、自大学が出資して派遣会社を設立し、就職が決まらない学生をとりあえずそこへ押し込むことによって、就職内定率の低下を表面上防ぐようなこと(水増し工作?)が行われているとのことです(個人的に知るところでは、早稲田大学なども「キャンパス」という名の100%出資の人材派遣会社を、随分以前から持っている。会社設立当初は、学内事務等の要員を、校風を知る自大学の出身者で賄おうというというのが狙いだったと思われるが)。
 
 こうした統計の"ウソ"を明らかにする一方で、企業側についても、学生に対して求める能力の評価基準が曖昧であることを、これもまた統計をもって明らかにし、その結果として、大学・学生・企業の間に相互不信が渦巻いているとしています(この「就職率」と「就職内定率」の30ポイントもの数字の開きは何とかならないものか。例えば、東京工業大学などは、大学院進学者が多いので「就職率」は落ちるが「就職内定率」は高い。そもそも、「就職内定状況」の調査対象は、国立大学を中心とする62校で、私立では、明治・青山・立教・法政などは除かれている)。
 
 また、「厳選採用」を求められながらも、理想の人材と現実の学生とのギャップに戸惑い、また、ネット・エントリーなどで母集団が拡大し、膨大な費用と労力を消費せざるを得ない、企業の採用現場の厳しい現状についても言及しています。
 結果として、大手企業などの場合、予め学校を有名校に絞る「ターゲット採用」などが行われているとのことです。

 更に、就職活動の早期化が「学生から学びの時間を奪っている」という実態が大学教育にもたらす悪影響についても述べていますが、早期化の根底には、「大学での勉強は仕事にはあまり役立たない」「日本の大学教育は米国などのように、自分の頭で考える力が身につく教育ではなく、単なる知識の習得に重点が置かれている」との考えがあるようだとしています。

 しかし一方で、著者によれば、最近では大学教育も変わりつつあり、「問題発見力、問題解決力を鍛える教育」に力を入れたり、文科省が学生が自分に合った仕事を見つけて卒業後に自立できる「就業力」の育成に取り組む大学・短大への支援を2010年から始めたのを受けて、独自の授業プログラムを実施している大学も増えているとのことです。

 そうした大学の新たな取り組みについても紹介していますが、東海大学の就職指導は「総戦力」であるという考えに基づく同窓会や保護者なども一体化した親身のサポート体制での対応、明治大学の学長主導による「就職情報懇談会」、「就職率100%」という秋田の国際教養大学(AIU)の「すべての授業を英語で行う」などの国際人を養成するという教育方針、立教大学経営学部の「BLP(ビジネス・リーダーシップ・プログラム)」による人材育成など、どれも興味深いものでした。

 企業側にも、新卒採用の早期化を見直したり、本格的なインターンシップを通して、時間をかけて能力適性を見極めるなど、新たな動きが出てきているようですが、今後もこうした取り組みが拡がっていくよう思います。

 著者は日経記者出身のベテランのジャーナリストであり、本書は「就活」の現状を把握するにはいい本ですが、現状分析がやや長過ぎて、大学の「就業力」を育成するプログラムの紹介に至るまでに紙数が尽きた感もあります。

 その分、全体を通して提案的な部分の比重が小さくなり、「大学が変われば、企業も動き、就活も変わる」というのが著者の考えなのですが、肝心の大学の取り組み状況の紹介がそれこそ新聞記事程度(コラム記事未満)のものであり、実際に現場を取材したシズル感のようなものが感じられず、詰まるところ「大学」ジャーナリストとしての著者の本領は活かされてないように思われたのが残念です。

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就活ゲームの中で形成される"即席アイデンティ"が、ミスマッチの原因との分析は興味深かったが...。
豊田 義博 『就活エリートの迷走』.jpg 就活 image.jpg
就活エリートの迷走 (ちくま新書)

『就活エリートの.jpg 本書を読むまで「就活エリート」とは何を指すのか分からなかったのですが、本書における「就活エリート」とは、エントリーシートを綿密に作り込み、面接対策をぬかりなく講じて、まるで受験勉強に勤しむような努力をして、超優良企業へと入社していく若者のことを指していました。著者によれば、こうした「就活エリート」が、会社に入社してから、多くの職場で戦力外の烙印を押されているという状況が今あるとのことです。

 なぜ彼らは、肝心の社会生活のスタートで躓いてしまうのか、著者は、その原因が「就活」という画一化、パッケージ化したゲームにあるとし、このゲームの抜本的なルールを改変し、或いはゲームであることを中止しない限り、同様の犠牲者は生まれ続けると警告しています。

 著者はリクルートワークス研究所の主任研究員であり、就職活動がいかにして「就活」というゲームになったのかを、データをもとに俯瞰的に分析している箇所は、採用担当者が読んで、頷かされる部分も多いのではないでしょうか。
 そうした分析を通して、「自己分析」の流行や「エントリーシート」の普及が、就職活動の画一化、パッケージ化を促した背景要因としてあるとしています。

 就活エリートたちは、「やりたいものは何ですか?」というエントリーシートの問いが求めるままに、「自己分析・やりたいこと探し」に熱中し、就職活動という短い期間に自身のアイデンティティを確立してしまうが、そのアイデンティティは本物ではなく"即席"のアイデンティにすぎず、その際に抱いた「スター願望」や、「ゴール志向」とでもいうべき偏狭なキャリア意識が、逆に、彼らが入社後に迷走する原因となっているとの分析は、興味深いものでした。

 もう1つの原因として、「面接」重視の傾向を挙げていて、企業側が「面接」を極端に重視するあまり、その場で「自分」を作り上げてしまう就活エリートとの間で、同様の「ゲーム」が繰り返され、「面接」は形骸化し、その意義を失いつつあると。

 更には、採用コミュニケーションの在り方についても問題提起しており、新入社員の中には、企業側の巧みなPRにより、入社した会社に「恋」をしてしまっているような人が多くいるが、その分、入社後の理想と現実のギャップは大きくなり、そのことも、就活エリートたちが入社後に迷走する原因になっていると。

 前段の就職活動の変遷はデータに裏付けられており、中盤の就活の在り方と若者のメンタリティについて論じた部分も興味深く読めましたが、就活エリートたちの入社後の迷走についての実態は、城繁幸『若者はなぜ3年で辞めるのか』('06年/光文社新書)から引用するなどに止まっていて、あまり突っ込んだ解説がなされていないのがやや不満でした。

 また、最終章では、こうした状況を打破するための「就活改革」のシナリオが示されていますが、「採用活動時期の分散化」「採用経路を多様化」「選考プロセスの多面化」といった提案の趣旨には概ね賛同できるものの(「採用活動時期の分散化」は、個人的には疑問符がつくが)、前段の分析部分に比べるとやはり具体性に乏しいように思われ、「分析に優れ、提案に弱い」というのは、研究所系の本に共通して見られる傾向なのかも。

 むしろ、読んでいてずっと気になったのは、リクルートグループこそ、こうした就職活動の画一化、パッケージ化を促した就職関連企業の筆頭ではなかったかと思われることで、適性試験「SPI」や就職情報サイト「リクナビ」でどれだけ利益を上げたのかは知りませんが、例えば「インターネット就活」の促進というのも、著者は学生に広く機会を与えるものとしているようですが、結果として就職活動の画一化に「寄与」してしまっているのではないかと。

 そうした想いは、本書を読む採用担当者の多くが抱くであろうことは想像に難くないところですが、本書では、学生ばかりが悪いのではなく、企業側もこれからの採用活動の在り方を見直さなければならないというスタンスをとりながら、自らが行ってきたことに関しては、「あとがき」で、「私にも就活エリートの迷走を生みだした責任の一端はあると思っている」との個人的感想一言で片付けられてしまっているのは、こりゃあんまりだという気がしなくもありませんでした。

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学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがある。

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人事のプロは学生のどこを見ているか (PHPビジネス新書)』['10年]『就活のしきたり (PHP新書)』['10年]

 同時期に読んだ『就活のしきたり―踊らされる学生、ふりまわされる企業』(2010/10 PHP新書)は、「PHP新書」の品格を疑うようなレベルであり、学生にとっても企業の採用担当者にも役に立たない本のように思いましたが、版元が同じでありながらも本書の方はマトモであり、蹴活本が大流行りのご時世ですが、学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがあると思わせるものでした。

 そんな言い方をすると、マニュアル化された学生の「傾向と対策」を、面接場面においてどう突き崩すかが分かる本ともとれそうですが、本書はそうした小手先の戦術的なレベルの本ではなく、書店に溢れているマニュアル的な蹴活本とは一線を画し、但し、マニュアル本を全否定するわけではなく、より深い意味において、会社側は学生のどこを見ようとしているのかを、経験的且つ体系的に探ったものとなっているように思いました。

集団面接.bmp まず典型的な採用のプロセスを概観したうえで、会社側の意図や重視する部分を説明し、更に、「コミュニケーション力」とは何か、「行動力」とは何かについて掘り下げて解説されています。

 グループ討議で重要なのは「それらしい結論に導くことよりも、自分の意見をきちんと出して議論すること」、最終面接で重視されるのは、「能力的なことよりも、本気でこの会社に来てくれるかどうか」といった太字で書かれている部分は、人事部の担当者にとってはある程度分かっていることかも知れませんが、現場の面接担当者や役員に関してどれぐらい共有されているでしょうか。

 「面接官も間違いを犯す」という前提のもとに、考課者研修などではお馴染みの「ハロー効果」や「対比誤差」といったものが、面接場面でどのように現れるかが分かり易く具体例で示してあり、「ああ、こんなこと、今までの面接でもあったなあ」とか「これ、面接担当者の指導要領として使えるなあ」などと、密かに思ってしまいました。

 「企業分析」をする際に、バリューチェーン分析でその会社の仕事の流れを理解せよと説いているのも、一般の蹴活本などにあまり書かれていないことではないでしょうか。
 
 学生からすれば、本書を読んでテクニックを学ぶのではなく、そこから、より深い企業研究を自らの努力でしていかなければならないということですが、表面的な企業情報の検索に終始し、そうした受身的ではない、自分の頭で考える企業研究というのがあまりなされていないのが、現在における「蹴活」の状況であり、そのことが、学生側から見れば「自分らしさ」を出せず、企業側からすれば「本当の姿が見えてこない」という結果を生みだしているようにも思います。

 後半では、学生に向けて「働きたい会社の見つけ方」を説いていますが、外資系企業、非上場企業、ファミリービジネス(同族)企業などの幅広い範囲にわたって、その特徴やコーポレートカラーを的確・簡潔に示しつつも、最後は、会社の方針と自分の価値観が一致することが大切であると説いているのもいいです。

 全体を通してとりたてて奇抜なことや目新しいことが書かれているわけではありませんが、企業側にとっても、本書に書かれていることに照らした場合、自社における新卒採用の選考や面接の在り方はどうかを確認するうえで、一読の価値はあったように思います。

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学生にとってほとんど参考にならないのでは。「呑み屋のネタ話」のレベル内容。

就活のしきたり2.jpg 『就活のしきたり (PHP新書)』 就活のバカヤロー.jpg 大沢 仁/石渡 嶺司『就活のバカヤロー

 著者は『最高学府はバカだらけ』('07年/光文社新書)などの著書のある"大学ジャーナリスト"ということで、最近では『就活のバカヤロー』('08年/光文社新書)、『ヤバイ就活!』('09年/PHP研究所)(何れも共著)、『就活のバカタレ!』('10年/PHP研究所)などといった「蹴活」に関する本も書いています。

 本書は「蹴活」をする学生に向けて書かれたものであって、学生にとっての良書は、企業の採用担当者にとっても参考になることがあったりしますが、この本は、学生にも企業の採用担当者にも参考にならないように思いました。

 各見開きの左側に「ブラックしきたり」と題した「アヤシイ蹴活のウワサ」が書かれていて、そのウソを暴くような体裁がとられていますが、そもそもここに書かれている「奇抜なほうが受かりやすい」、「大声を出せば内定がもらえる」、「マスコミの試験には特殊な訓練が必要」、「アルバイト経験は長いほうがいい」、「一人暮らしの女性は不利」といったようなことを信じて、不安に思っている学生がいるのだろうか。

 いわんや企業側をや、であり、採用担当者や面接官で今時こんな偏見を持っている人がいれば、"絶滅危惧種"的存在かも。

「パンチラをしたら内定がもらえる?」や「お酒が好きだと就活に強い?」となると、もう、呑み屋における(「サラリーマン」でなくて「蹴活仲間」が1日の"活動"を終えて集った際の?)ネタ話か、或いはそれにもならないレベルではないかと思ってしまいます。

 敢えて星1つとしなかったのは、著者が蹴活の実態をよく知り、一応はまともに答えていると思われる箇所も所々にはあったためで、最初からエンタメ的な効果を意図しての味付けが施されているということなのでしょう。

 著者自身、「あくまでも箸休め、一服の清涼剤として読んでいただければ。生まじめな方は読み飛ばしていただいたほうが精神衛生上よろしいかもしれません」と冒頭に書いてはいますが、一応はエスタブリシュメントとされる「新書」に収まっているわけだし...。

 尤も「PHP新書」について言えば、元々"玉石混交"が激しいレーベルではありますが、それにしても、ちょっとねえ。

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コンセプトがしっかりしていて、実務面のフォローもされているのが良い。

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1人採るごとに会社が伸びる! 中途採用の新ルール』(2010/10 すばる舎)

 採用に関する本が最近また何冊か刊行され始めていますが、本書のように中途採用に的を絞ったものは、今のところそれほど多くありません。これは、中途採用は各社の事情によって様々なやり方があり、これというモデルを規定できないという考え方がどこかにあるからではないでしょうか。
 しかし、採用コンサルタントが中途採用の方法論を説いた本書を読んで、やはり中途採用にもベースとなる戦略やノウハウはあるのだと思いました。

 著者は、人材獲得競争の激しいIT業界の中のある企業で採用に携わってきた経験の持ち主ですが、「待ち」の採用ではなく「攻め」の採用を行うことで、採用を軸として会社を一気に伸ばすことを提唱しています。
 そのための方法論として、例えば、優秀な人材が多いと思われる「非転職希望者」層をいかにして取り込むかという課題を、採用活動を「リクルーティング」(募集)と「ハイヤリング」(雇用)を分けて考えることから説いています。

 つまり、常日頃において人材情報をストックしておくことが大切であり、その上で、実際の採用段階においてはスピードとタイミングが重要であるとし、さらに具体的な方法論を説いています。
 その中には、「選んでやろう」「見てやろう」とせず、「トップが "三顧の礼"で駆けつける」「30分の面談のために採用担当者が出向く」といった啓発的な内容も含まれますが、先に戦略的なコンセプトを示し、そのうえで具体的な対応にまで落とし込んでいるため、採用担当者が読んで、たいへんしっくりくる内容となっているのではないでしょうか。
 
 とりわけ、欲しい人材をどこから採用するか(採用ソース)については、公募や社員紹介、人材紹介会社の活用など、多面的に言及されています。

 「入社日の45日前には承諾のサインをもらう」といったことは、ある程度の長期にわたって採用を経験している担当者であれば、その必要を感じているのではないでしょうか(それでいて、こうしたことが書かれている本は少ない)。
 一見「優秀そうに見える」履歴書には落とし穴があることがあり、どこを注視すればよいかを解説した箇所なども、思い当たるフシは多いのは。

一方で、コストをかけて採用した人材を定着させるために、入社直後に「入社インタビュー」を行って中途採用者のサポート体制を整えるといったことは、その必要を感じながらも、行っていない企業が多いのではないでしょうか。
 そうした意味では、自社で今どういった施策が不足しているのかをチェックする目安にもなるかと思います。

 最後に、「採用」マネジメントと併せて、「離職」もマネジメントすべきものであるという考え方を示し、それは自主的に自分の将来を考えてもらう仕組みづくりであって、それを行わないと、本当の肩たたきや、それ以上の大量解雇が始まるリスクがあるとしていますが、この部分にも共感しました。

 極端な事例ばかり挙げて読者の表面的な関心を引こうとする本も類書に多い中、本書は平易な文章で書かれていながらもコンセプトがしっかりしていて、実務面のフォローもされているのが良く、また、中途採用のノウハウを惜しみなく開示している姿勢にも好感が持てました。

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「GPTW1位企業」の経営者の人材採用・育成・定着施策。ITベンチャーらしいなあ。

君の会社は五年後あるか2.jpg 君の会社は五年後あるか 帯.jpg君の会社は五年後あるか? 最も優秀な人材が興奮する組織とは (角川oneテーマ21)』['10年]

 成長著しいIT企業(ワークスアプリケーションズ)の若きトップが、自社の人材戦略を自ら語ったもので、すでにこの会社のことは人事専門誌などでも紹介されていたりするため、さほど目新しさは感じませんでしたが、一般向けの新書ということで、読み易いことは読み易かったです。

 この会社が注目を浴びるようになったのは、「働きがいのある会社ランキング」で'09年に4位、'10年にはトップになったことも影響しているかと思いますが、これは、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)のサーベイの、'07年から始まった「日本版」調査であり、企業の「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行って採点し、ランキングを決めるものです。

 結構この調査は、毎年ランクイン企業の順位が入れ替わるので、1位になったタイミングでこうした本が出るパブリシティ効果は大きいし、また、それが出版の狙いであるという穿った見方も出来るわけですが('10年のトップ10のうち6社はIT企業であり、この業界の人材獲得競争の熾烈さを反映しているとも言える)、そうしたことは抜きにして、改めて参考になった面もありました。

 人材育成のコンセプトがしっかりしていて、「勉強ができた人を、仕事ができる人に育てる」ということですが、これ、グーグルとかマイクロソフトと同じだなあと。基本、先ず優秀な人材を採るわけですね、しかも新卒で(新卒採用に重きを置いているのは、'10年のGPTWで6位にランクインしているサイバーエージェントなども同じである)。そして、育成と定着を図る―。

 あと、評価(人事考課)に力を注いでいて、プロセス重視の「相互多面評価」を取り入れると共に、何をもって優秀な社員とするかを明確にしています。
 それと、こうした進取の気質溢れる会社では、社員が退職し独立するのはやむを得ないとしても、独立した後でまた出戻ってくるのは歓迎するとしています。
 もちろん、育児休業なども手厚く、産休から復帰した社員には特別ボーナスが出るとのことです。

 個人的に思うに、ソフト産業界には四年制大卒・文系女子がかなり流れるため、一から教育した投資分を人材の定着を図ることで回収しないと、初期の教育投資が無駄になってしまうというのもあるのでしょう。

 そうした業界特有の状況もあっていろいろ講じた施策(ある意味、"競争"的にそれをしている)が、現在の人事マネジメントのトレンドである「人を尊重する」或いは「ワークライフバランス」といったものに偶々合致したともとれますが、その結果、業績が伸びているのだから、ワークライフバランス施策を講じることが企業業績の向上に繋がるという恰好の見本であるとも言えるかと思います。

 経営者が自分で書いて、登場する人物が役員や幹部社員だったりするため、宣伝気味の感は拭えず(人事専門誌で読むとそうでもないのだが、こうして新書で読むとね)、実際には本書に書かれていない裏事情もあるのではないかと。

 でも、ベンチャーから大企業然とした会社になるのではなく、ベンチャーからメガベンチャーになるのだと最後に述べているのは、この会社のこれからの課題をよく認識しているように思えました。

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所謂「タイトル過剰」気味。中身はオーソドックス乃至は古典的。

新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか3.jpg新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか2.jpg  若者が3年で辞めない会社の法則.jpg
新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか (光文社新書)』['09年]『若者が3年で辞めない会社の法則 (PHP新書)』['08年]

 日本ヒューレット・パッカードの人事出身で、採用コンサルタントの樋口弘和氏(1958年生まれ)が書いた『新入社員はなぜ「期待はずれ」なのか』('09年/光文社新書)は、タイトルに何となくムムッと惹きつけられて買ってしまいましたが、中身的には、サブタイトルの「失敗しないための採用・面接・育成」というのが順当で、要するに、新卒採用が「期待はずれ」のものとならないように予防するには、面接において留意すべき点は何かということ。

 内容は比較的オーソドックスで、強いてユニークなところを挙げれば、本来の「お見合い形式」の面接を改めて「雑談形式」面接で本来の素質を見抜くというのは、時間的余裕があれば採り入れてもいいかなあと思いました(これが「模擬討論」みたいな硬いものになると、却って人材の質の見極めが難しくなるけれども、多くの企業ではその難しい方のやり方でやっている)。

 志望動機とかキャリアビジョンとかを語らせても、仕事というのは将来性志向だけでは空回りするものであり、今まで何をしてきたか、どんな役割だったかを、掘り下げて雑談風に聞くのが良いというのは、著者がヒューレット・パッカードの米国本社でのキャリア採用の現場を見て体験的に学んだことのようですが、この辺りの日米の採用面接のやり方の違いは、興味深いものでした。

 但し、そうした考えに基づく実際の面接の進め方の例も出ていていますが、これはこれで、面接する側に相当のヒューマンスキルが求められるような気も。

 前半部分ではリテンション(人材引止め)についても触れられており、「OJTは放置プレイ」と言い切っていて人材育成の重要性を説いていますが、この辺りは本田有明氏の『若者が3年で辞めない会社の法則』('08年/PHP新書)においても強調されていました。

 本田有明氏は1952年生まれのベテランの人事教育コンサルタント。この人の書いたものは月刊「人事マネジメント」などの人事専門誌でも今まで読んできただけに、リテンション戦略の中心にメンター制度を含めた社内教育制度を据えるというのは、読む前から大体予測がつき、実際、そうした内容の本でした(「辞めない法則」ではなく「辞めさせない制度施策」、人材確保というより人材教育そのものの話)。

 組織風土の問題を語るのに"厚化粧がこうじた挙句の「仮面会社」"とか"仕切っているのは「レンタル社員」"とか "制度はそろっているのに「機能不全」"といった表現がぽんぽん出てくるのも手慣れた感じですが、「トリンプ・インターナショナル・ジャパン」や「未来工業」の事例も使い回し感があり、書かれていることに正面切って異論は無いのですが、樋口氏よりやや年齢が上であるということもあるのか、「仕事の面白さやロマンを堂々と語れる浪花節的上司たれ」みたいな結論になっているのが、ホントにこれで大丈夫かなあと。

 あまりに古典的ではないかと。実際、若手社員の意識は昔とそう変わらないということなのかも知れませんが。
 樋口氏の本より"啓蒙書"度が高いように思われ(微妙な年齢差のせい?)、何れにせよ、両著とも、タイトルから受ける印象ほどの目新しさやパンチ力は感じられませんでした(所謂「タイトル過剰」気味)。

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面接官が自身に対し言い聞かせておくべきこと。面接をしている時期に読むといい。

採用力のある面接.jpg 『採用力のある面接-ダメな面接官は学生を逃がす』 生活人新書 面接官の本音.jpg面接官の本音 2008

zu.gif 著者は元リクルートの人事部採用責任者で、その後採用コンサルティング会社を設立し、『面接官の本音』(日経BP社)という"就活本"シリーズを書いている人ですが、本書は企業向けに書かれた、企業が就職戦線を「勝ち抜く」ための本。

 新卒採用におけるシステムとしての面接制度設定の仕方よりも、面接場面における面接官一人ひとりのスキルの向上を図ることに重点が置かれています。
 具体例をあげ、面接に来た学生の能力や適性をいかにして推し量るかが書かれていますが、奇を衒わない正攻法で、かつわかりやすく書いてある分、意外と読み終えた後あまり印象に残らないかも。

 でも個人的には、著者の、面接学生をリラックスさせ、出来るだけその人の持っている良い部分を引き出そうとするスタンスには共鳴します。
 面接場面における心理的な側面、とりわけ面接者とのラポール(信頼関係)の構築を重視し、また、学生を「見る」だけではなく、「見られる」ことを意識した面接を、という前提に立脚しています。

 こうした意識の持ち方は、企業が学生を選ぶと言うより、学生が企業を選ぶという傾向が強まるこれからの採用難の時代に向けて、ますます必要になってくるのでは。
 それにも関わらず、企業の面接担当者には、まだまだ、自分たちが学生の生殺与奪権を握る絶対的優位者であるという意識がどこかにあるのではないでしょうか。

 面接官が自分自身に対して言い聞かせておくべき事柄を書いた本とも言え、普段読んでもいいけれども、面接をやっている時期に読むと、よりいい本であるような気がします。

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新卒者よりもキャリアを生かした転職を考えている人に役立つ本か。

MBA式 面接プレゼン術.jpg 『MBA式 面接プレゼン術』 (2005/08 英治出版) Executive Coaching.jpg

 トップMBAの面接プレゼン術を紹介した本ということで、米国企業における面接はどんな点にポイントを置いて実施されていうのかという興味で読んでみました。

 書かれている内容はオーソドックスで、米国においても、マナー(礼儀)から来る第一印象やパーソナリティ(人柄)などは重要で、応募者は予備面接の段階からその辺りをバッチリ見られているのだなあと。
 企業研究などの事前準備が大切であることも、日本の場合と同じです。
 履歴書を書くに当って、日本とはフォーム自体がやや異なるわけですが、先ず応募者は、「面接官から見てどういう人が理想的か」というチェックリストを作れというのは、日本でも通じる良いアドバイスだと思いました(日本の"就活本"の場合、「自己分析」からスタートしていたりするものが多い)。

 巻末の想定問答集も含め、良いやりとりの事例を中心にとりあげていて、悪い例はほとんど載っていないのもいい(日本の"就活本"の場合、悪い例はリアリティをもって数多く紹介されていて、良い例は少なくて現実味も無く、読んだ応募者が禁制事項ばかり頭に入り萎縮してしまうのではと、老婆心ながら思ってしまうものもある)。

 「自分がふさわしいか」ということが重要なのでなく、「自分がふさわしいということをどう伝えるか」を重視していて、著者はハーバード・ビジネス・スクールの学生を対象とした面接指導員をしていた人であることを考えれば納得がいきます。
 本書に「自分探し」などいう言葉は出てこず、要するにMBAホルダーが専門外の職種を希望することはまず無いし、そうした意味では、新卒者よりもキャリアを生かした転職を考えている人に役立つ本かと思いますが、巷に溢れる"就活本"に何か違和感を覚えている新卒者の方も読んでみる価値はあるかも。

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この本と相性が合う人は、今まで面接で相当苦戦をしている?

面接力.jpg 『面接力』(2004/11 文春新書)  梅森浩一.jpg 梅森 浩一 氏 (略歴下記) クビ.jpg

 ベストセラーとなった『「クビ!」論。』('03年/朝日新聞社)から『「サラリー」論。』('04年/小学館)と読み進んで、この著者の著作には特定の外資系企業で行われていることを過度に一般化して語る傾向があると感じ、少し気になっていたのですが、本書に関しては、的が「面接」に絞られているせいか、それほど違和感が無く、内容的にもマアマアまとまっています。

 ただしこうした本の当然の帰結ですが、結局のところ対話力、コミュニケーション力が大切という当たり前の話に落ち着いてしまいます。
 面接のテクニックも一応は示していますが、ダメな例はよくわかるものの、良い例というのは今ひとつピンときません。
 これは、良い受け答えというのは本来ユニークなものであって、こうして本に書かれ一般化されてしまえば陳腐化してしまうということもあるのではないかと思います。
 それでも、面接を受け続けている間は、結果に一喜一憂し、逆に自分のことがわからなくなることもあるので、セルフチェック用に読めなくもありません。「そっかあ〜」みたいな感じでしっくりくる人もいるかもしれません。
 まあ、相性のようなもので、皮肉な見方をすれば、この本と相性が合い過ぎる人というのは、今まで面接で相当苦戦をしているかも知れない...と勝手ながら思うのです。

 それと、タイトルが、面接を受ける側にとっての「力」なのか、面接をする側にとってのそれなのかわかりにくいのもどうかと。
 結局双方にとってのことのようですが、時々どちらに対して言っているのかわからなくなるような書き方が気になりました(この人の今までの著作も大体において、企業・人事部担当者と一般サラリーマン・学生の両方に向いているのですが)。
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梅森 浩一 (アップダウンサイジング・ジャパン代表)
1958年生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、三井デュポン・フロロケミカルに入社。1988年チェース・マンハッタン銀行に転職。1993年、35歳でケミカル銀行東京支店の日本統轄人事部長に就任。以後、チェース・マンハッタン銀行、ソシエテ・ジェネラル証券東京支店で、人事部長を歴任。
主な著書に『「クビ!」論。』(朝日新聞社)『面接力』(文春新書)『残業しない技術』(扶桑社)『超絶!シゴト術』(マガジンハウス)『梅森浩一のサクッ!と手帳2007』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多数。

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事前準備が可能なら、プライオリティ判定材料として使える程度では?という気もする。

逆面接.jpg 『逆面接―たった10分で人を見抜く法』 shimizu.jpg 清水 佑三 氏(日本エス・エイチ・エル社長)

 従来の面接(著者は「単純面接」と言っている)では面接官が質問し応募者が答えるが、応募者が用意周到にりっぱな回答を用意してきた場合など、面接官が感心してしまい、応募者の資質や本音を見抜けないで面接が終わってしまうことがあると―。
 そこで著者が提唱するのが、応募者に質問させ、その質問力から応募者の資質や本音を見抜こうという「逆面接」ですが、著者が言うほどに特段の効果があるのか、個人的にはやや疑問です。

 「逆面接」的なことは、通常の面接でも、面接の最後の場面などで行われており、それは、応募者の資質(頭の回転の速さ)や企業に対するプライオリティ(本音の優先度)を推し量るためのものであったり、応募者に対して採用側が対等の関係にあることをアピールするためであったりしますが、それなりに意味があると思います。
 ただし「逆面接」の本来の効果は、応募者にとっての意外性に依るところが大きく、これは「単純面接」での採用側の質問についても言えることで、なんら「逆面接」に限ったことではありません。

 「逆面接」を面接の中心に据えて実施した場合、そういうやり方をあの企業では行っているという情報が流れれば、結局は面接官は、応募者が用意してきた質問と、何故自分がその質問をするのかという口上を長々と聞かされることになりかねません(これを避けるには理屈上は、筆記試験と同様に1日で全員に対し実施するしかない)。
 応募者の自己紹介や志望理由が面接官にとってしばしば単調に聞こえるのは、予め用意されているからであり、それと同じことが「逆面接」にも充分起こり得ます。

 ですから、「逆面接」の効果が現実にあるとすれば、もちろん頭の回転の速さも判るかも知れませんが、むしろ、質問が途切れないように、どれだけ「その企業の面接だけのための"準備"をしてきているか」を見ることにより、企業に対するプライオリティを探ることができるということではないでしょうか。
 
 本書の中では、「コンピテンシー面接」についてこれまであまり指摘されてこなかった問題点、つまり手法として体得することの困難さを的確に指摘しています(この部分は大いに賛同)。
 しかし、「逆面接」の場合は「面接官に負荷がかからない」とか「性格が悪い人」が面接官に向くなどの主張は、現実から乖離した詭弁またはレトリックであると思います。

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 ○経営思想家トップ50 ランクイン(ビル・ゲイツ)

「面接本」としてより、「パズル本」としての充実度の方が高い?

ビル・ゲイツの面接試験.jpgビル・ゲイツの面接試験6.JPG Fuji.jpg Bill Gates.jpg Bill Gates
ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?』(2003/06 青土社)  "How Would You Move Mount Fuji?: Microsoft's Cult of the Puzzle--How the World's Smartest Companies Select the Most Creative Thinkers"

Bill Gates.jpg 米国のコンピュータ会社の採用面接において「パズル問題」が用いられることは伝統的なもののようですが、マイクロソフトのそれは、ビル・ゲイツのパズル好き、パズルによって人の思考能力が測れるという信念に負うところ大であるという印象を、本書を読んで受けました。

 マイクロソフトにおける面接の歴史だけでなく、米国におけるIQテストの歴史やそれに対する評価の変遷(それがもたらした悲喜劇)などについても触れられており、IQテストに限界があり、「あなたの強みと弱みは何ですか?」というありふれた質問にもさほど意味が無いとすれば、そんな質問をする代わりに「論理パズル」をしたほうが良いというのはわからないでもないです。

 マイクロソフトの採用試験で出された「論理パズル」が多く紹介されており、その中には純粋な「論理パズル」もあれば、サブタイトルの問題や「世界中にピアノの調律師は何人いるか」などといった正解の無い問題もあり、後者の問題は、「くだらない」「わかりっこない」と思ったら受験者の負けで、根気強く解答に行き着く道筋を考えていく、いわば問題解決への意志力を見ているように思えます(少なくとも〈右脳的〉発想力を見ている問題ではない)。
 何れにせよ、著者も述べているように、本書で取り上げているのは質問のたたき台であり、そのまま模範例として使えるものは少ないでしょう。

面接.jpg 面接の第一印象は、はじめの数秒で決まり、その印象が変わることはほとんど無いということはよく言われますが、それを実験データーで示しているのには説得力があり、また、面接の指針として「ストレス面接はしない」「面接評価は申し送りしない」など共感できる部分もありましたが、全体には今ひとつまとまりがなく、本書が結構売れたのはタイトルのお陰ではないかと思います。

 「面接本」としてよりも「パズル本」としての充実度の方が高いのは(本文中にあるマイクロソフトの「論理パズル」の解答に後半100ページ費やしている)、著者がゲーム理論の解説書『囚人のジレンマ』('95年/青土社)の著者と同じ人物であることも関係しているでしょう。

 「南へ1キロ、東へ1キロ、北へ1キロ歩くと出発点に戻るような地点は、地球上に何ヵ所あるか」という問題の答えが「北極点」だけでないことに、本書で初めて気づきました。
 読み物として楽しめるものの、そうしたことを知る目的で本書を手にしたわけではなかったのですが...。

【2298】 ○ 水野 俊哉 『明日使える世界のビジネス書をあらすじで読む』 (2014/04 ティー・オーエンタテインメント)

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人材獲得戦略・人材定着戦略がポイントがよく纏められている良書。

ハーバード・ビジネス・エッセンシャルズ 2.jpg ハーバード・ビジネス・エッセンシャルズ2 人事力3.jpg  070104.jpg
ハーバード・ビジネス・エッセンシャルズ (2) 人事力』 (2003/03 講談社)

 本書は、「マネージャーや経営者向けに、優れた人材を獲得し定着させるための基礎知識をまとめたもの」(7p)ということで、特に目新しいことばかりが書かれているわけではないですが、採用(面接を含む)など人材確保戦略の押えておくべき基本的ポイントがよく纏められている良書だと思いました。

 採用において必ずしも新卒中心ではないという日本との違いはありますが、それ以外の日米の差はあまり感じられず、面接に際して「職務記述書」を作るところは米国らしいですが、それに拘束されず最終的に人物を重視するとか、社員が辞める理由なども、人間関係や上司の問題とかが多いというのは日本と同じです。

 採用(人材獲得戦略)と同じくらいのボリュームを、人材教育・キャリア開発戦略を含む人材定着戦略にも割いているのもいいと思います。
 人材定着の成功事例として、"定番"とも言える〈サウスウエスト航空〉と〈SASインスティチュート〉が紹介されています(やはりこの2社は米国内でも先進事例なのか?)。

 シリーズの性格上"教科書"っぽい外枠ですが、翻訳がカタカナを濫用せずきちんと日本語に訳されていて、全体で150ページ強とコンパクトなので落ち着いて読めます。

 米国は'90年代に熾烈な人材獲得競争の時代を迎え、'00年のITバブル崩壊までそれが続きましたが、その時に蓄えたノウハウが本書で体系的に整理されていて、これから日本が迎えるであろう人材難の時代に、経営者に多くの示唆を与える本であると思いました(因みに本書の監修は、『雇用の未来』('01年/日本経済新聞社)の著者ピーター・キャペリ教授が行っている)。

《読書MEMO》
●Cクラスの社員は、同じCクラスの社員を採用する傾向がある(8p)
●構造化面接か非構造化面接か...構造化面接(すべての候補者に同じ質問をする)→回答を比較できる利点があるが、候補者の情報を十分に引き出せるとは限らない、非構造化面接(自由に質問する面接)→候補者をよく知ることはできるが、他者と比較しづらい→中間的手法が望ましい(柔軟性を損なわず、核となる質問セットは全員に対し行う)(26p)
●採用の二つの落とし穴...何が何でも「売れっ子」指向、類を以って集める(38p)
●候補者の志向を見極める...サウスウエスト航空の採用方針「前向きな姿勢がなければ、どんなに能力があっても採用しない」(60p)
●人材はなぜ留まるのか...◆やりがいのある仕事◆良い会社であること◆魅力ある報酬◆能力開発の機会◆ライフスタイル(これらの訴求価値(EVP)が要注目)(84p)
●人材はなぜ辞めるのか...◆会社のリーダーの交代◆直属の上司との軋轢◆親しい仲間の退職◆職務変更に対する不満(直属の上司がカギ「時代遅れの会社で素晴らしい上司のために働く方が、開けた文化の会社でひどい上司の下で働くより良い」と考える)
●価値ある社員と社員グループを見分け、グループの違いに応じた人材維持策を講じているかをチェックする(99p)
●Cクラス社員を見分け、その異動・解雇についての説明責任をマネージャーに求める(123p)

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実践に裏打ちされた言葉。経営者にとっては一読の価値あり?

採用の超プロが教えるできる人できない人.jpg 『採用の超プロが教えるできる人できない人』 サンマーク文庫 〔'03年〕 p0201.gif 安田佳生 氏

 「一人の採用に200万円かけろ」、「できる人から辞めていくというのはウソ」、「社員の満足なしに顧客の満足なんてない」など、見出し自体は、他の誰かでも言いそうなことばかりですが、本文に説得力があります。
 評論家の意見ではなく、採用コンサルティング会社のトップとして顧客に対し言い続け、自らの社内でも実践し、それによって会社を伸ばしてきた著者の考え方そのものだからでしょう。 

 中にはかなり、著者の会社の主たる顧客である「ベンチャー企業」寄りの提言もあり、「ストレス耐性」の不可欠性を強調するなど、これもある意味ベンチャー寄りの考え。ベンチャーって意外と体育会系のノリのところが多いのですが、「ストレス耐性」を一般論として強調しすぎるなど、やや時代にそぐわないのではと思わせる点もあります。 
 (この本自体が人生論のような色合いを帯びていることとも関係しているのでしょうが。)  

 しかし全体としてはベンチャーに限らず、企業のこれからの採用活動のあり方を、経営者のマインドセット(思い込み)を取り除くというやり方で、わかりやすく示唆していますので、経営者の方には一読の価値があるかも知れません。
 (繰り返しになりますが、人生論っぽい要素もあるので、読者との相性で受け入れられないということもあるかも知れませんが。)

 著者の会社の会社案内を何度か目にしましたが、既成概念にとらわれずグッと人を惹きつけるものです(まあ、会社案内を作っている会社の会社案内がショボくてはしょうがないけれど)。
 また、著者の会社には社長室がありませんでした。社長である著者は、社員のデスクの真ん中で仕事しています。

  ひとつケチをつければ、本書の前書きは一般のビジネスパーソン向けに書かれているのに、本文はおおかた経営者向けであること。
 続編『仕事の選び方人生の選び方』('06年/サンマーク出版)の前書きで初めて、前著は「経営者の方を対象としたつもり」と出てくるのは少しマズイのではないかと思いました。

 【2006年文庫化】

《読書MEMO》
『採用の超プロが教えるできる人できない人』
●世界でいちばん人件費の高い会社にしたい!
●八割の社長が間違った社員教育をしている(公文式でいくべき(100に対し120の仕事を))(18p)
●経験者=仕事ができるは間違い(特別な事情がない限り辞めない)

『採用の超プロが教える仕事の選び方人生の選び方』
●「話すのが好き」=接客業は間違い
●やりたいことを見つけるには「何をやるか」ではなく「誰とやるか」(顧客を含め)
●仕事ができる人ほど「サボっている」感覚を持つ(95点とっても残り5点が気になる)
●結果オーライからプロセスオーライへ(結果を自己評価してはいけない)

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