【2678】 ○ 服部 泰宏 『採用学 (2016/05 新潮選書) ★★★★

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採用活動を「学」として捉え直し、自社の採用を再構築するための「考え方」を示す。

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採用学(新潮選書)』[Kindle版]/『採用学 (新潮選書)』['16年]

 新卒採用における解禁スケジュール変更が立て続けに行われる中で、依然、多くの企業の採用活動はどれも似通っていて、学生にとってはどの企業も同じように見えてしまうという声もあります。一方で、一部の企業は斬新な採用方法を実施し、それがメディアに取り上げられることもありますが、本書の序章でも指摘されているように、それらに対する評価は、単なる「称賛」や「バッシング」で終わってしまっている印象もあります。

 若手の経営学者(経営・行動科学が専門)による本書は、こうした状況を踏まえ、科学によって導かれたロジック(説明)とエビデンス(根拠)をもとに採用活動というものを改めて科学的に考え(「学」として捉え直し)、自社の採用を見直し再構築するための「考え方」を示すことを狙いとしたものです。

 第1章では、採用活動とは一体どのような活動なのかということについて改めて定義し、「良い採用」というものがあるとすれば、それはどのようなものなのかを考察しています。第2章では、日本の採用の歴史と、その結果たどりついた現在の採用の姿、その問題点について概観しています。

 第3章では、企業へのエントリーから内々定の受け入れに至るまでの、求職者の意思決定に関する科学的な研究を紹介しています。第4章では、「選抜」の科学が紹介されており、求職者が自社に必要な能力をどの程度持っているのかを見極めるにはどのような手法を用いれば良いのか、科学の知見をもとに考察しています。

 第5章では、日本企業の採用の最新動向を追いかけ、日本企業の採用が大きな曲がり角に差し掛かっていることを浮き彫りにする一方、少数ではあるが確実に起こりつつある「採用イノベーション」の事例を紹介しています。そして、最後の第6章において、企業が人材を採用する力(採用力)とは一体なんなのかを総括しています。

 第1章、第2章は"一般教養"編とでもいうか、ざっと流し読みしてよいかと思いますが、企業における採用活動の問題点として、「応募者が多ければ、優秀な人がその中にいる確率も高い」という仮説的ロジックから、「できるだけ多く母集団を集めておきたい」という心理が企業に強く働いていることと、採用における本来の評価基準である「コミュニケーション能力」「向上心」「ストレス耐性」などとは別に、「フィーリングの良し悪し」という基準が持ち込まれ、評価基準がいずれも曖昧で測定しにくいものばかりになっていることを指摘しているのは興味深く思いました。

 ただし、やはり読み所は第3章、第4章であり、科学的な採用活動というものを考え、それを実践に生かすにはどのように進めていくべきかを示すとともに、「優秀さ」とは何かを分析しています。それによれば、採用基準として必ず重視される「コミュニケーション能力」は、努力次第で比較的簡単に身につくという研究結果があるとのことで、採用時にはさほど重視しなくていいとのことです。

 第5章の採用活動における新潮流の事例紹介では、求職者の方が面接会場を設けて採用担当者が赴く「出前面接」や、"師匠"が人物評価を下す"師弟採用"など多様な入り口を設けた「マルチエントリー採用」など、興味深い「採用イノベーション」事例が紹介されています。中には「カラオケ採用」とか「ゲーム『人狼』による人材評価」などよく分からないものもありますが、著者自身が、安易な「解」は時とともに移ろいやすいが、根底にあるロジック(考え方)は普遍的であると述べているように、そうした施策の根底にある考え方を読み取るべきなのでしょう。

 そうしたことも踏まえつつ、全体の総括にあたる第6章では、「採用」と「育成」のつながりを重視するするとともに、人事部門内に採用のプロフェッショナルを育成することの重要性を説いています。

 これまでの採用に関する本は、学生にとっての就活スキルや、企業採用活動における面接方法など、表面的なテクニックを追いがちであったのに対し、採用に「学」と付けたタイトルからも窺えるように、採用というものをロジックで分析したところに本書の目新しさがあり、また、一定の深みもあったように思います。

 ただし、ややバランスが良すぎて、大人しい感じもし、第1章、第2章は、やや退屈に感じる読者もいるかも。著者自身、実務者は第3章から読み始めても良いとしていますが、最もコンセプチャルな内容である第3章、第4章が今度は概念的過ぎて、ややもやっとした感じになった印象もありました(「学」だから仕方ないのか)。

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