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組織重視指向の日本企業、市場重視指向の米国企業。今後、人事部の目指すべきは?

日本の人事部・アメリカの人事部2.jpg日本の人事部・アメリカの人事部.jpg日本の人事部・アメリカの人事部: 日米企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係』['05年]

 本書は、日米両国の大企業の事例研究および大規模調査をもとに、日本企業の人事部とアメリカ企業の人事部の、企業におけるその役割や位置づけの違いを検証したものです。

 第1章では、日米の大企業における雇用構造とガバナンス構造を比べています。日本企業は相対的に組織志向的であり、長期雇用、低い離職率、広範な教育訓練、平等、年功といった組織内配慮が、賃金や採用・昇進・異動の決定に大きな影響を与え、ステークスホルダー型ガバナンスと企業別組合がその組織志向性を支え、これらが日本企業の人事機能の高い集権的性格を補強してきたとし、一方、アメリカは、雇用慣行はより市場志向的になる傾向があり、短期雇用、高離職率、少ない教育訓練、市場水準など外部基準に基づいて決める賃金や採用・昇進・異動が特徴で、コーポレートガバナンスは株主を特権的に扱い、人事機能は日本のような集権性と影響力を欠いていたとしています。

 第2章では、巨大日本企業の人事部のこれまでの実態を探っています。アメリカの企業と比べ、日本企業はこれまでも現在も集権的であり、人事部は「影の実力者」としての地位と権力を有し、それは、組織志向の雇用の雇用政策、集権的な組織、企業別組合、ステークスホルダー型のガバナンスによってもたらされたとしています。

 第3章では、現代日本企業の内実を、6つの業界の代表的企業7社を通して見ていきます。そして、本社機能の縮小、株主志向のコーポ―レートガバナンス、雇用調整の実施など様々な変化が見られるものの、本社人事部の役割にはかなり安定性が残っているとしています。つまり、人事部は60~70年代に比べれば力を失っているが、依然として特権的な地位を占めているとしています。

 第4章では、アメリカにおける人事管理のこれまでを振り返っています。アメリカ企業の人事管理者の立場は、これまで強弱の揺れ幅はあったにせよ日本企業ほど強くはないままできたとしています。ただし、現在は、人事担当役員の権力強化に向けた2つのアプローチがあり、1つは、ビジネスパートナー・モデル(人的資源管理担当役員は役員室にいる財務担当者やそれ以外の分野を担当する役員と連携し、市場への配慮によって雇用政策は左右されるものの、分権化した事業部にオン・デマンドでサービスを提供)、もう1つは、資源ベース・アプローチ(高い熟練を持つ従業員が競争上の優位をもたらし、雇用政策は比較的組織志向で、人的資源管理は雇用に関して全社規模で同時に進行する特有のアプローチに基づきつつ、戦略的な結果を確保する役割を演じるもので、知的資本の重要性の増大などにより登場)で、敵対的買収の危険が小さい企業は、資源を従業員に向ける傾向が強くなるとしています。

 第5章では、二つのモデルがアメリカ企業の内部でどのような役割を果たしているか、5つの業界の5社を通して見ていき、アメリカでは人事担当役員の役割や本社人事部機能が多様であり、標準的なパターンは存在しないとしています。

 第6章では、(第3・5章がケース・スタディであったのに対し)日米両国の人事担当役員を対象とした大規模調査の結果を分析しています。調査データ比較による結論は、①アメリカでは、ステークホルダー志向の人事担当役員と株主志向人事担当役員との間には明確な隔たりがあり、後者は強い影響力を持つ、②日本の人事担当役員は、株主志向であっても見返りがあまり期待されず、この事実がアメリカへの収斂プロセスを遅らせる、③取締役構成などコーポレート・ガバナンスと人事政策のありようとの間には関係がある、としています。

 第7章では、日本では、近年市場重視への移行、株主重視のコーポレート・ガバナンス、上級人事管理者の役割の縮小が起きているが、経路依存性からその移行は緩慢であり、アメリカもまた、市場志向の極へ向かって移動しており、その変化はより広範囲で、二国間の格差はより拡大しているとしています。

 アメリカ企業の人事部と日本企業の人事部を、その歴史的推移から最近の傾向まで独自のアプローチにより分析したものでした。結論的には、人事戦略の面でも企業統治の面でも、日本企業が組織重視指向なのに対し、米国企業はより市場重視指向であり、日本企業にも市場重視指向の動きはあるがそれは遅いものであり、この傾向の差は広がりつつあるということになります。しかしながら、人事管理には、財務基準を重視して従業員をコストとみなす考え方だけではなく、知識社会化の進展の下、人的資本の高度化が競争上の優位性をもたらすとする資源ベース・アプローチがあるとし、このような側面をより強く持つ日本的経営を必ずしも否定的に評価していない点が興味深いところです。今後の日本企業の人事部の役割(今のままでいいのか)を考える上で、一読をお勧めします。

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最強チームをつくるカギは「安全な環境をつくる、弱さを共有する、共通の目標を持つ」こと。

THE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法0.jpgTHE CULTURE CODE― 最強チームをつくる方法.jpg
THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』['18年]

 本書では、グーグルやピクサーなど、仕事への熟達やヒットを生む創造力の強さが世界的にも証明されている「最強のチーム」を実際に訪ねて分析した結果、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあり、成功しているチームには共通する3つのスキルがあることが判明したとしています。その3つのスキルとは、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」であるとし、以下、3部構成で各スキルを解説しています。

 第1部(スキル1「安全な環境をつくる」)では、チームのパフォーマンスを決めるのは、「ここは安全な場所だ。そして私たちはつながっている」という心理的安全性と帰属意識であり(第1章)、安全な社内環境が信頼を生んで、それが帰属意識につながり(第2章)、その帰属意識がチームの結束を強めるとしています(第3章)。さらに、帰属意識を育てるにはどうすればよいか(第4章)、帰属意識の高いチームをつくるにはどうすればよいか(第5章)、そのためにリーダーはどのような行動をとるべきか(第6章)を解説しています。

 第2部(スキル2「弱さを共有する」)では、帰属意識がチームをくっつける「接着剤」だとするなら、弱さを共有することは「筋肉」であるとしています(第7章)。「自分には弱点があり、助けが必要だ」という弱さの開示は「弱さのループ」を生み、それによってチームの親密さと信頼が深まり(第8章)、チームのパフォーマンスは最大化されるとしています(第9章)。また、小さなチームで協力関係を築くには、シンプルな質問を何度もするのが効果的であり(第10章)、個人間の協力関係を築くには、相手の話を本当に聞き、相手に全神経を集中させることだとし(第11章)、最後に、リーダーが弱さを見せられるようになる方法を指南しています(第12章)。

 第3部(スキル3「共通の目標を持つ」)では、成功しているチームでは、共通の価値観や目的が明確であり、目標達成のメリットと障害が理解されていて、「現実と理想をつなぐ物語」が存在するとし(第13章)、目的意識の高い環境のチームを、実例で紹介しています(第14章)。その上で、「熟達したチーム」をつくるには価値を言葉にして伝え続けることが重要であり(第15章)、「創造的なチーム」をつくるには、創造的な人たちへのサポートが必要であるとしています(第16章)。そして最後に、価値や目標を共有するためにリーダーが何をすべきか、行動のためのアイデアを示しています(第17章)。

 本書の特徴の一つは、事例を引いて、3つのスキルそれぞれの有効性を説くとともに、どうすればそれを実践できるかという、具体的な行動提案が書かれている点にあります。環境変化が激しく、企業が抱える問題の複雑さも増す今日、一人のカリスマに依存するのはリスクであり、チームの力を最大化することが、より大きな困難や逆境を乗り越える原動力となるということであると思います。本書を通してチームビルディングの新しい形を知ることができ、リーダーが読むべき本であると言えます。

 本書では、チーム力の原点は「日常の仕事での、ちょっとしたさりげない行動」にあるとし、一見すると普通とも思えるような行動を習慣化することによって、チームの力は大きく変わっていくとしています。最強チームをつくるカギは、「安全な環境」「弱さの開示」「共通の目標」の3つのスキルに集約されるとし、これらのスキルはなぜ重要で、具体的にはどのように行動すればよいのかを説いています。

 良いチームに最も必要なのは、強いリーダーシップや優秀な人材ではないということです。本書を通して提案される行動は、シンプルでポジティブな人間観に基づいており、極々「普通」に思えますが、だからこそ誰でも、いつでも行うことができ、こうした些細な行動によって強いチームが育まれるならば、一読の上、試してみる価値は大いにあると思われます。

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リーダーシップ行動のあり方が具体的・実践的に書かれていて、軍隊を超えた普遍性も高い。

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リーダーシップ―アメリカ海軍士官候補生読本』['81年]『リーダーシップ 新装版―アメリカ海軍士官候補生読本』['09年]
 
 本書は、アメリカ海軍兵学校の生徒、幹部候補生、見習士官のリーダーシップ教育のために作成されたものであり、原書は1959年に発行され、本邦では、野中郁次郎氏らの共訳で1981年に訳書が刊行され、35刷を重ねています(2009年に新装版が刊行された)。

 2部構成の第Ⅰ部「基礎編」では、まず第1章で、リーダーシップとは「一人の人間がほかの人間の心からの服従、信頼、尊敬、忠実な協力を与えるようなやり方で、人間の思考、計画、行為を指揮できかつそのような栄誉を与えうる技術、科学、ないし天分」であると定義し、このリーダーシップを理解し、身につけるうえで、フォロアーシップを身につけることが必要であり、フォロアーシップとは、チームメンバーとして必要となる要素であり、フォロアーシップとして習得すべき態度は、リーダーに対して服従、信頼、尊敬、忠実な協力の4つであるとしています。

 そして、リーダーシップを理解するためには、心理学、行動分析学の要素を理解しておく必要があるとし、第2章で、心理学的研究の歴史的背景を述べています。そして、第3章では、人間行動の科学的研究について述べ、科学的行動は、健全な懐疑主義、客観性、変化への即応性の3つを基本的なアプローチとするとしています。さらに、第4章では、集団の構造と機能について書かれており、リーダーが集団の成員に配慮すべきこととして、集団における安定した満足すべき社会的関係、集団内部における身分感情、集団内のメンバーシップによる地位感情、現時点で重要かつ多様な個人的欲求の充足の4つを挙げています。

 第Ⅱ部「実践編」では、第5章で、道義的リーダーシップとは何かを説き、それは、第一は、リーダーが自己を誠実にするのに必要な高い水準の徳性を伸ばすことであり、第二は、リーダーが道徳的価値を部下に率先垂範によって分け与えることであるとし、与えられた使命を達成するための責任を受け入れる覚悟が求められるとしています。第6章では、士官の役割や、リーダーとしての品位を保った言動、立ち居振る舞いと話し方などについて述べています。

 第7章では、バーク大将がリーダーの人格的特性として①自信、②知識、③熱意、④力強く明確に表現する能力、⑤無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気、⑥大義のために何かをしようとする意思の6つを挙げたことを引き、有能なリーダーの人格的特性として組織に対する「忠誠」や行動・判断する「勇気」、「謙虚」「自信」など挙げて、それぞれ解説しています。第8章では、リーダーシップを日々行使することで得られるダイナミックな(体得可能な)特性(目標設定、熱意と快活、配慮、専門知識など)を挙げ、さらに第9章では、その他重要なリーダーシップを増強する特性、リーダーとしての成功要因(部下を名前で呼ぶ能力、寛容、話し振りなど)を挙げて、それぞれ解説しています。

 第10章では、リーダーとして人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴を列挙し、どうすればリーダーとしてよい人間関係をフォロワーとの間に築けるか、また、組織化された制度上のリーダーシップの概念においては、フォロワーの役割が一番大切であることを脳裡に刻むべきであるとし、よいフォロワーの特性とは何かを述べています。

 第11章では、部下との人間関係を維持し、部下を認めてあげるための効果的な技術としては、個人面接とカウンセリングに勝る方法はないとして、よいカウンセリング(面接)の一般原則を説き、第12章では、規律の重要性と、部下の士気を高める方法を説いています。第13章では、組織、管理、および指揮リーダーシップは、相互に結びついて切り離せないものであるとし、最後の第14章にアメリカ合衆国の戦闘要員の行動要領(部分訳)を付けています。

 興味深いのは、リーダーシップの基礎として「人間心理を客観的に分析する」という科学的方法を重視していること(本書第Ⅰ部)と、科学的合理主義のみならず、それと同時に、リーダーたり得るかどうかの基準である部下や上司、同僚の信頼をいかに獲得するかということについて、自分の視点ではなく、他者の評価が重要であると強調されている点です。

 さらに、リーダーシップ行動のあり方が、きわめて具体的かつ実践的に書かれているのが本書の特徴であり、例えば、飲酒に関する注意点について、①絶対な一人飲みをするな、②絶対に就業中および勤務時間中に飲むな、③絶対に空腹時に飲むな、④とくに、疲労時に飲みすぎに注意せよ、⑤絶対に早飲みするな、⑥絶対に毎日飲む習慣をつけるな、⑦飲みすぎの気がしたら、たえず動いたり、ダンスをしたり、食事したり、談話したりすること―そして、次回にはひと飲み減らすこと―といった具合です。

 アメリカ海軍兵学校の士官候補生を対象としたリーダーシップの教科書でありながら、軍事組織の範囲を超えて、リーダーシップ一般に共通する(敷衍できる)視点を展開していることが、60年以上前に書かれて、いまだに読みつがれている理由ではないかと思います(勿論アメリカ海軍の理想的なリーダー像も見えてくるわけだが、同時に現代ビジネス社会に応用可能な普遍的要素を多く含むということ)。

《読書MEMO》
●集団に関する要素(第4章:49p~70p)
・集団の性質:規模・構造・密度・集団となった経緯によって決定される
・集団の特徴:排他性・一体感・ポテンシャル・目的の統一性・安定性によって決定される
・個人と集団:集団との一体感・組織内の位置づけ・参加の度合い・リーダーへの依存度により関係性が決定される
・集団の構成員の欲求:集団との関係性の安全、集団内での地位、集団による地位、評価、報酬、組織の士気により変化する
●バーク大将の「海軍のリーダーシップの実践」における有能なリーダーの人格的特性(第7章:115p)
(1) 自信
(2) 知識
(3) 熱意
(4) 力強く明確に表現する能力
(5) 無能な不適任者をふるいにかける道義的勇気
(6) 大義のために何かをしようとする意思
●リーダーに必要な特性(第7章)
・組織に対する「忠誠」
・行動・判断する「勇気」
・名誉・正直・真実
・信義
・宗教的信仰
・謙虚
・自信
・常識とよい判断
・健康、エネルギー、楽観主義
●リーダーのダイナミックな特性(第8章)
・目標の設定
・熱意と快活
・協力
・敏速、信頼性
・如才なさ
・配慮
・公正
・自制
・専門知識、準備、余暇の利用
・率先。計画能力、想像力
・決断力
・勝つ意志
●その他重要な成功要因(第9章)
・部下を名前で呼ぶ能力
・寛容
・よい聞き手であれ
・節制
・弁説の力
・話し振り
・口頭による命令
・集団の前で話すこと
・会話
・書き言葉対話し言葉
・有効な文書
●人間関係をうまくやっていく際の13の落とし穴(第10章:160p)
(1) 自分勝手な善意の規準を設けようとすること。
(2) 他人の楽しみを自分自身の物差しで測ろうとすること。
(3) 世間の意見の画一性を期待すること。
(4) 無経験を酌量しないこと。
(5) すべての気質を同じ型につくり上げようとすること。
(6) 重要でない、ささいなことがらについて譲歩しないこと。
(7) 自分自身の行動に完全を求めること。
(8) つまらぬことに自分自身また他人についてくよくよ思い悩むこと
(9) 場所のいかんを問わず、助けることができるときにだれも助けないこと。
(10) 自分自身が実行できないことを不可能と考えること。
(11) われわれ有限の心で捉えうるものだけしか信じないこと。
(12) 他人の弱点を斟酌しないこと。
(13) その人をつくり上げるのが内部の質的基準であるのに、外部の質的基準で評価すること。
●フォロワーのリーダーに対する責任(第10章:178p)
(1)自己の仕事とそれがいかに部隊の使命達成に寄与しているかを知っている。
(2)リーダーの特性を知っている。
(3)インスピレーションを与える能力をもっている。
(4)上司および部下に対して忠誠をつくす。
(5)能力に見合うイニシアチブを発揮する。
(6)権限と責任の委譲を容易に受諾し、かつまた受諾する用意がある。
(7)リーダーの決定を受諾し、全幅的にこの決定を実施するために最善をつくす。
(8)リーダーの部下のために配慮する能力と限界を十分に知り、不当な期待をかけることによって、上司のリーダーシップの負担をふやさない
●団結心の達成と維持のためにリーダーが克服すべきこと(第12章:212p)
(1)リーダーに対する信頼の欠如
(2)チームメンバーの葛藤
(3)成果に対する非協力者の存在
(4)リーダー・チームメンバーの急な異動
(5)正当な評価の欠如
●組織を成果に向かわせるために(第13章:212p)
・成果に必要なミッションを組織内に全て割り当てる
・チームメンバーが自分の責任・ミッションを明確に理解できるようにする(簡潔に整理し、何をすべきかを明確にする)
・チームメンバーの特性・職位にあったミッションを与え、必要な権限を最大限委譲する(責任に相応)
・矛盾や重複した責任・ミッションの分担は行わない
・組織全体の構造に一貫性と正当性を持たせる
・複数のリーダーを一つのチーム、または一人の個人に置かない(上長1に対し、チームメンバーNとする)
・リーダーがコントロールできないチームメンバーをおかない
・指揮系統の安定を図る(他による侵食を防ぐ)
・上位にいるリーダー(複数のチームリーダーをまとめるリーダー、会社で言う部長など)は、方針によって組織を統制する
・組織内で相互に監視が行われ、統制機能が働く関係性を作る

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『オプティミストはなぜ成功するか』の"裏返し"のようなアプローチの本に思えた。

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会社ではネガティブな人を活かしなさい (集英社新書) 』['21年] マーティン・セリグマン 『オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)

 本書では、巷に流布する「従業員が幸せ(ポジティブ)になれば会社の業績が上がる」という言説に疑念を呈し、会社はもっとネガティブな人を活かすべきだとしています。第1章から第3章では、「幸せな従業員が業績を上げる」というのは事実かどうかを検証し、ネガティブな従業員が組織にもたらす恩恵もあると分析、第4章では、これからの組織の在り方を念頭に、テレワークやeリーダーシップ(オンライン上のリーダー論)に言及しています。

 第1章では、幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるかどうかをさまざな実験結果から検証しています。従業員の気分が良くなって生産性が向上するのは一時的なものであって、従業員あたりの売上高は仕事の満足度とは無関係であり、従業員を幸せにする労務管理は、費用対効果から推奨できない可能性が高いとしています。

 第2章では、不幸せ(ネガティブ)な従業員こそ重要であるとしています。ネガティブな従業員は、現状に問題があるととらえ、より体系的かつ合理的に考えるし、ここ一番では協調的であるとして、金融業などでは心配性の方が有利であるとしています。

 第3章では、最近その重要性が唱えられているマインドフルネスについて言及しています。ストレスが多い職場では、マインドフルな従業員ほどよい成績を上げるとそています。マインドフルネスの訓練は、ストレスからの回復力(レジリエンス)を向上させ、また、上司がマインドフルであれば、部下の疲弊度は低く、業務評価は高い傾向にあるとしています。

 第4章では、在宅勤務により、従業員のパフォーマンスが向上する傾向にある一方、在宅勤務に向かない従業員もいて、キャリア形成面での悪影響も懸念されるとしています。また、テレワーク時代に成果を出す上司とはどのような上司かを分析し、オンライン上での感情表現の重要性について述べています。

 最後に第5章で、企業は従業員に「幸せ」を押しつけない方がよいとし、ネガティブな人間が創造性を発揮しやすい環境を作れば、ネガティブ社員はいざという時に会社のピンチを救うことになるとしています。

本書を読んで、ポジティブ心理学の創始者セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するか』という本を思い出しました。楽観主義者は悲観主義者よりも物事において良い結果を残すことが多いとした本ですが、会社で社員全員がオプティミストだと会社は破綻するとしています。財務管理や安全管理などの面では、現在の状況をしっかり把握する職業的ペシミストが必要であるとし、分野によっては悲観主義者の方が優れていることを指摘していました(人事はこの分野に該当するとされていました)。

 本書は、ポジティブ心理学を批判した本のように見えますが、結局、ネガティブだからといってがすべて悪いわけではなければ、ポジティブだからといってすべて良いとも限らず、状況によって活躍する人材は異なってくるということを意識すべきであるといっているのだと思います。その意味では、むしろ『オプティミストはなぜ成功するか』に書かれていることに通じる部分があったように感じました(この本の"裏返し"のようなアプローチ)。

 「幸福学から考えた組織論」であり、マインドフルネスの本質と訓練方法や職場への影響、オンライン上のリーダーの「怒り」の表現の効用などについても書かれていて、そうした新たな知見に触れたい人にはお薦めです。

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職場の問題点だけでなく、人事についての自分の意識のセルフチェックにいいかも。

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なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか (SB新書)』['21年]沢渡あまね氏

 本書では、日本の職場は、国際調査を見ると、人間関係、生産性、やりがい、満足度などの点で「世界一」ギスギスした職場とされているとした上で、日本の職場のどこに問題があるのか、働きやすい職場に生まれ変わるにはどうしたらよいかを、そのアイデアを提案しています。

 はじめに、日本の職場がギスギスする3つの主な要因として、①旧態依然のマネジメントや働き方、②旧態依然の職場環境、③ジェネレーションギャップを挙げ、職場のギスギスを解消させる3つのシフトとして、マインドシフト、マネジメントシフト、スキルシフトを挙げています。その上で、以下、ケースごとに職場のギスギスを生む要因を紐解き、それをどう解決していくか、3つのシフトをどう仕掛けていくかを、本文3章にわたってまとめています。

 第1章では、環境によるギスギスについて取り上げています。ここでは、職場環境によるギスギスとして、人が辞めていく、情報が共有できない、管理職・上司が現場を知らない、相談や提案がしにくい一方通行のコミュニケーション、誰に何を訊けばいいのか分からない、部門間の連携が取りにくい、といった6つの問題を、さらに、労働環境によるギスギスとして、公平すぎて不公平な働き方、テレワークで仕事がはかどらない、物理的環境がよくない、という3つ問題を挙げて、それぞれの原因と問題解決のヒントを示しています。

 第2章では、スキルやメンタリティによるギスギスについて取り上げています。スキルとキャリアによるギスギスとして、組織は集団主義だが行動は個人主義であること、雑用が多くてスキルが伸びないこと、日本特有の採用ミスマッチ、待遇で区別される非正規社員と働かなくても大丈夫な正社員、の4つの問題を、メンタリティによるギスギスとして、新しいことへの挑戦を拒む「5教科主義」「減点評価主義」、いまだに目立つ根性論、確認が多くてイライラの部下としっかり仕事しているか不安の上司、という3つの問題を挙げて、それぞれの問題解消のためのポイントを示しています。

 第3章では、制度によるギスギスについて取り上げています。ここでは、毎日出社しなければいけない、条件が厳しくて働けない、自分が動いても何も変わらない、終身雇用がモチベーションを下げるといった、制度に起因する問題を取り上げ、問題解決の道筋を示唆 しています。

 読んでいて、自分の職場も同じような問題を抱えていると思われる読者は多いのではないでしょうか。そうした問題の特効薬的な解決方法を示すというよりは、マインドシフト、マネジメントシフト等を促すことを主眼として、解決のためのアプローチを示しているように思えました。

 帯に「こんな職場は危険信号」とあって「コロナ禍依然と働き方が変わらい」とありますが、「テレワークで仕事がはかどらない」という問題については、テレワーク以前の仕事のプロセスに問題があるとしていて、なるほどと思いました。すごく斬新なことが書かれているわけではありませんが、自分の職場の問題点のセルフチェックにはいいかと思います。

 本文の最後で「終身雇用がモチベーションを下げる」と言い切って、企業として人材に投資する一方、成長しない人たちには厳しい人事制度に変えていくべきであるとし、おわりには、「気合・根性主義の体育会系カルチャー、そろそろおやすみなさい」とあります。これからのあるべき人事についての自分の意識のセルフチェックにもいいかもしれません。

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これからの組織変革の方向と実行のための知的ヒント、組織論の「今」を知る。

だから僕たちは、組織を変えていける0.jpgだから僕たちは、組織を変えていける1.jpg だから僕たちは、組織を変えていける2.jpg
だから僕たちは、組織を変えていける --やる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた【ビジネス書グランプリ2023「マネジメント部門賞」受賞!】

 本書は、「組織を変える」ことを目的に、社会のパラダイムシフト、これからの組織の在り方、リーダーの在り方、チームを動かす原動力、やる気のあるチームの作り方、組織を変えるための影響の輪の広げ方などについて書かれた本です。

 第1章では、「時代」ということについて、21世紀に入り人類は、テクノロジーによる「デジタルシフト」、リーマンショックによる「ソーシャルシフト」、そして新型コロナウイルス流行による「ライフシフト」という3つのパラダイムシフトを経験し、これらの変化により、ビジネスにおいては「場所や情報よりも、アイデア」「個人の努力よりも、人とのつながり」「ワークライフバランスよりも、ワークとライフをともに楽しむこと」が重要になったが、こうした時代や価値観の変化があったにもかかわらず、多くの企業は、いまだに旧態依然とした仕組みのままだとしています。

 第2章では、「組織」ということについて、この3つのパラダイムシフトによって、知識社会に必要となる組織特性として、①環境から学び続ける「学習する組織」、②社会とのつながりを大切にする「共感する組織」、③メンバーが自ら考え、共創する「自走する組織」を挙げて、3つ組織を実現するためのエッセンスや、組織を変えるリーダ像(「学習する組織」→サーバント・リーダーシップ、「共感する組織」→オーセンティック・リーダーシップ、「自走する組織」→シェアド・リーダーシップ)を示しています。

 第3章では、「関係」ということについて、「心理的安全性」こそがチームを変えていくとし、心理的に安全な場をつくるためのプロセスとして、①共感デザインと②価値デザインの2つを挙げて解説し、心理的安全性のためにリーダーがやるべきことや留意すべきことを挙げ、リーダーは強がりの仮面をはずし、安全に対話できる場をつくるべきで、「関係性」は組織の土壌であるとしています。

 第4章では、「思考」ということについて、サイモン・シネックを引いて、すべてはWHYからはじまるとし、社会にとっての「仕事の意味」、自分にとっての「仕事の意味」を考え、仕事を楽しむことからはじめよう、チームを動かす北極星(目的)を見つけよう訴えています。

 第5章では、「行動」ということについて、組織のモチベーションをアップデートすべきだとし、メンバーの「自律性」をとりもどし、「有能感」を満たし、「関係性」を育むにことが、「内発的な動機」を生むことになるとして、やる気のあるチームをつくるにはどうすればよいかを説いています。

 第6章では、「変革」ということについて、変革のアクションを7段階に分けて解説し、まず一歩を踏み出すことからはじめ、共感をつなぎ「影響の輪」を広げていくまでを具体的に解説しています。

 リーダーシップは肩書ではなく行動であり、組織変革は現場最前線にいるスタッフ一人からでもはじめられるとして、そうした行動への勇気を促し、また実行する際の知的なヒントを与えてくれる本であるように思いました。

 多くのリーダーシップ論、経営論、組織論が、最新のものも含めて紹介されていて、普通であれば読んでいて"お腹いっぱい"になりそうなところですが、イラストと図解を多用することで、無理なく理解できるよう工夫されています。人事パーソン、ビジネスパーソンとして知っておきたいものが多く、組織論の「今」を知るという意味でもお薦めです。

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前著『LIFE SHIFT』を深堀りした実践編。キーワードは物語・探索・関係。

LIFE SHIFT2 100年時代の行動戦略.jpg  2LIFE SHIFT2 .jpg
LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』['00年]

 本書は、『LIFE SHIFT』(2016年/東洋新報社)の著者らによる、前著の"実践編"であるとのことです。前著では、これまでは「教育→仕事→引退」という人生だったのが、長寿化によって、これからは多くのステージへの移行を繰り返し、多様な経験とスキルなどを育んでいくマルチステージの時代になっていくと説いていました。

 本書は、第1部で、テクノロジーの進化と長寿化がどのような変化を生み出し、私たちはそれにどう向き合い、どのような要素を重んじるべきなのかを論じ、第2部では、その要素を軸に、長寿の時代に適応するためにひとりひとりがとるべき行動について論じ、第3部では、企業や教育機関、政府の仕組みがどのような転換を遂げるべきかを指摘しています。

 第1部の第1章では、人工知能(AI)やロボットについて論じ、テクノロジーの進化と長寿化の進展は私たちの生活を改善し得るが、どうすれば長く働き続けられるか、どうすれば建設的な世代間関係を築けるかといった人間的問題は、最終的には人間だけが解決できるものであるとしています。

 第2章では、人生の在り方を再設計し、人間としての可能性を開花させる上で重んじるべき要素として、物語(自分のストーリーを歩む)、探索(学習と変身を実践する)、関係(深い絆をはぐくむ)の3つを挙げ、この3要素に注目することで有効な対処法を導き出せるとして、以下、第2部でそれを実践するための具体的方法を論じています。

 第2部の第3章「物語」では、社会の変化に伴い、自分の人生に意味を与えられる新しいストーリーを紡ぐ必要が出てくるが、それは、年齢や時間、仕事に対する自分の考え方を再検討し、長期化する職業人生や余暇時間の増加などを前提に、人生で様々な選択を行う際の手引きとなるようなストーリーでなければならないとしています。

 第4章「探索」では、いくつもの移行を繰り返しながら長い職業人生を送るためには学び続ける必要があるとして、移行を成功させる方法をどう学ぶか、新しいタイプの移行はそのようなものか、中年期の移行や高齢期の移行を成功させるにはどうすればよいかを説いています。

 第5章「関係」では、長寿化により家族の在り方も多様化し、同時期にいくつもの世代が共存するようになるが、そうした中で純粋な人間関係を構築するにはどうすればよいか、コミュニティとどう関わるべきかを説いています。

 第3部の第6章では、これからの企業の課題は、社員のマルチステージの生き方や幸せで健康的な家庭生活を支援し、学習を促す環境を整備し、年齢差別をなくして高齢の働き手の生産性を維持することであるとしています。

 前著『LIFE SHIFT』を深堀りした本であり、長寿化の進展とテクノロジーの進化の中、個人と社会はどのように行動すればよいのかを説いているとともに、そうした社会の変化に対して企業はどうあるべきかをも説いており、人事パーソンにも薦めです。

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中央集権」から「分権」への組織論の新たな視点(旧訳の方が読み易かった?)。

ヒトデ型組織はなぜ強いのか2.jpgヒトデ型組織はなぜ強いのか.jpg    ヒトデはクモよりなぜ強い.jpg
ヒトデ型組織はなぜ強いのか 絶対的なリーダーをつくらない組織が未来をつくる The Starfish and the spider』['21年]『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』['07年]

 本書では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何かの解明を試みています(本書は、'07年刊行の『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』(日経BP社)の14年ぶりの新訳となる)。

 第1章では、MGMなどのレコード会社が違法なダウンロードをユーザーにさせるP2Pサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型組織は攻撃を受けると、より一層開かれた状態となり、さらに分権化の度合いを強める」(第1の法則)としています。

 第2章では、インターネット登場時に初めてそれに接した人が、インターネットの社長は誰かと問うたように、「ヒトデはクモと間違えやすい」(第2の法則)ものであり、「開かれた組織では、情報は中央に集中せず、組織全体に分散している」(第3の法則)、「開かれた組織は容易に変化させられる」(第4の法則)、「分権型組織はこっそり近づいてくる」(第5の法則)、「業界内で分権化が進むと、業界全体の利益が減少する」(第6の法則)としています。

 第3章では、ウィキペディアを例に、「人は開かれたシステムの中に身を置くと、無意識のうちに貢献しようという気になる」(第7の法則)とし、第4章では、分権型組織の5本の足(基本要素)は、①サークル、②触媒、③イデオロギー、④既存のネットワーク、⑤推進者であるとし、第5章では、そのうちの「触媒」に必要なものを挙げています。第6章では、「中央集権型組織は、攻撃されると、より一層集権化する傾向にある」(第8の法則)がこれはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略を挙げています。

 第7章では、純粋にヒトデ型でもクモ型でもない、ハイブリッド型組織というものもあり、ハイブリッド型組織には、①カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を分権化させた中央集権型企業、②中央集権型企業が事業の内部構造を分権化するというパターンの2種類があるとしています。第8章では、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきだとしています。第9章では、これまでのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果など10のルールを挙げています。

ヒトデ型組織はなぜ強いのか3.jpg 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くが、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であり、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読をお薦めします。

 ただ、個人的には、重要箇所が太字ゴシックになっていた旧訳の方が読み易かったかもしれません。例えば、第7章でのハイブリッド型組織の2タイプの紹介で、1種類目と1種類目の紹介の間に15ページ近く間隔がありますが、要約部分が特に太字ゴシックになっているわけでもなく、これでは2タイプの説明の位置関係が分かりにくいのではないかという気がしました。ハードカバーからソフトカバーになったのはともかく、そうしたところは手を抜かないで欲しかったように思います(旧訳★★★★☆に対して、新訳★★★★)

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本書で言う「日本型ジョブ型雇用」は「職務等級制度」と同じではないか。

日本的ジョブ型雇用2.jpg日本的ジョブ型雇用.jpg 『日本的ジョブ型雇用』['00年]

 ジョブ型雇用の本質とは何であり、日本の企業風土・雇用慣行と親和性の高いジョブ型の仕組みとはどのようなものか、転換へのさまざまなハードルをどう克服するかなどを説いた本です。第Ⅰ部がョブ型の制度に関する理論編、第Ⅱ部が有識者と執筆陣のディスカッション、第3部が企業事例編になっていますが、やはり読みどころは第Ⅰ部になるかと思います。

 第1部の第1章では、いま、なぜ、ジョブ型雇用なのか、導入の目的と何が期待されるかを述べるとともに、メンバーシップ型の利点を残すなどした「日本型ジョブ型雇用」を提唱し、移行に向けた課題を整理しています。

 第2章では、ジョブ型を巡る議論の混沌はなぜ生まれるのかを考察し、ジョブ型人材マネジメントのエッセンスとして、①事業とポジションの連動、②職責と処遇の連動、③職務とキャリパスの連動、④国内とグローバルの連動の5つを挙げて、日本企業のジョブ型人材マネジメントの「基本形」を示しています。

 第3章では、著者らの研究所が行ったアンケート調査の結果を定量分析することで、ジョブ型導入企業についての企業行動や業績との関連を分析しています。

 第4章では、企業内でジョブ型人材マネジメントを構築する際に、経営理念から事業戦略、人材戦略、さらに具体的な運用をどう進めるか、そのプロセスを解説するとともに、富士通、リクルート、トヨタ自動車といった大企業の導入事例を紹介しています。

 第5章では、ジョブ型人材マネジメントを構築した後の運用面について述べ、転換後に起こり得る事象を具体的に指摘しながら、制度運用を誤らないようにするにはどういった施策が効果的であるかを解説しています。

 第6章では、人材マネジメント改革における経営と人事の役割を説き、第7章では、社員側から見て「ジョブ型雇用」の時代に個人はどう働くべきか、また、企業側から見た教育と人材育成の在り方を提言しています。

 本書では、「日本型ジョブ型雇用」に移行する際の最初の課題は、ジョブ型職種の職務価値を定め、その価値の大きさ(ジョブサイズ)に応じてグレード分けすることであるとしています。これは、職務主義、職務等級制度とほぼ同じ意味であり、「ジョブ型」というのはキャッチフレーズであるように思いました。したがって、それに続く「報酬の見直し」も、職務給制度の導入ということと同じであるように思います。

 かつて職務等級制度を導入しようとして、せっかく作成した職務記述書(ジョブディスクリプション)が仕事の変化に追いつけず柔軟性に欠けたために、柔軟な運用が可能な「役割等級制度」を選択した企業も多かったように思います。一方で、従前の「職能資格制度」及び職能給を維持する選択をしたところもあるかと思います。

 職能資格制度のままであったり、役割等級制度における役割の定義が曖昧であったりしたために年功的な処遇から脱し切れていない企業の人事担当者にとっては、もう一度、職務主義の原点に立ち返るという意味で、本書を読んでみるものよいかと思います。

 ただし、個人的な感想を言わせてもらえば、これは職務等級制度、職務記述書の復活を説いた本であり、それほど新しいことを述べているものではないように思いました。その割には、かつて日本企業でジョブディスクリプションが機能しなかったことへの言及が(事例などでは一部触れられているが)やや弱いように感じられました。

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「●メンタルヘルス」の インデックッスへ

ブラック企業を辞められない人に再考を促す本だが、人事パーソンにとっても極めて啓発的。

ブラック職場があなたを殺す.jpg ブラック職場があなたを殺す2.jpg  社員が病む職場、幸せになる職場.jpg   Dying for a Paycheck.jpg
ブラック職場があなたを殺す』['19年]『社員が病む職場、幸せになる職場 スタンフォードMBA教授の警告』['21年]『Dying for a Paycheck: How Modern Management Harms Employee Health and Company Performance―and What We Can Do About It』['18年]
社員が病む職場、幸せになる職場3.jpg 本書は、スタンフォード大学ビジネススクール教授で、『人材を活かす企業』などの著作で知られる著者が、職場のストレスはどうやって解決できるかという問題に取り組んだものです(原題:Dying for a Paycheck「給料のために死ぬ」)。2021年には『社員が病む職場、幸せになる職場―スタンフォードMBA教授の警告』と改題されて文庫化されました。

 第1章では、健康な行動は健康な職場から生まれるとし、経営者には選択肢があって、それは、従業員の心身の健康と幸福を重視する方針を掲げ、それによって従業員の医療費、欠勤、労災を減らし、労働意欲や生産性を高める選択肢と、従業員を病気や死に追いやる職場環境を、意図的または無知ゆえに創出または放置すろ選択肢だとしています。

 第2章では、解雇、無保険、シフト勤務、長時間労働、雇用の不安定など10種類の職場ストレス要因を挙げるとともに、それらストレス要因が超過死亡数や医療費に及ぼす影響を統計的に分析しています。この中で「無保険」が、解雇や雇用不安定を上回って超過死亡数の最重要要因となっているのは、米国ならではでしょう。

 第3章では、解雇や雇用不安定が健康に及ぼす影響を分析し、人員削減で企業業績が上向くという統計的証拠はなく、企業は安易に人員削減やレイオフをするべきではないとしており、このあたりの著者の主張は、『人材を活かす企業』から一貫しています。

 第4章では、長時間労働、仕事と家庭の両立困難などについて考察しています。ここでは、日本における「過労死」に言及し、長時間労働が起きる要因を労働者側と企業側の双方から分析しています。また、仕事と家庭の両立が困難となる原因を分析する一方、ワーク・ライフ・バランスに配慮している企業例を紹介しています(米国は日本より両立のプレッシャーが強いのかも)。

 第5章では、健康な職場を支える二大要素として、「仕事の裁量性」と「ソーシャルサポート(困ったときに周囲の助けを得られること)」を挙げています。仕事の裁量性が健康に影響するのは、それが仕事満足度に繋がるためであるとし、また、ソーシャルサポートが自然に生まれる環境づくりをしている企業は、社員を大切にする文化を育んでいるとして、その事例を紹介しています。

第6章では、健康によくない職場で働く人々が、そうとわかっていて辞められない理由を分析し、生計維持のため、有名企業であること、辞める気力が残っていないこと、力不足だと思われたくないことなどを挙げており、 そうしているうちに異常がいつしか正常になってしまう危険性を説いています。

 第7章では、まとめとして、変えられること、変えるべきことは何かを考察し、企業や社会は産業心理学などの手法を活用して従業員の健康と幸福を計測し、社会は「社会的公害企業」を公表する一方、好ましい企業は表彰するなどすべきであるとしています。

 本書に一貫しているのは、従業員の健康と企業の利益は両立するという考えであり、人間の健康と幸福は企業経営においても最も重視されるべきものであるという主張です。直接的には、ブラックな職場だとわかっていながら会社を辞められない人に再考を促す本と言えますが、実証的・理論的であり(とりわけ心理学的側面からの分析に説得力がある)、人事パーソンにとっても少なからず啓発される要素の多い本だと思います。

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「●岩波新書」の インデックッスへ

「ジョブ型雇用」について理解でき、「同一労働同一賃金ガイドライン」の謎も解明。

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ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)』['21年]

 著者の前著『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』(2009年/岩波新書)で提起された「ジョブ型」という言葉は、今や世に広く使われるようになりました。しかしながら著者は、昨今きわめていい加減な「ジョブ型」論がはびこっているとして、本書では、改めて「ジョブ型」「メンバーシップ型」とは何かを解説するとともに、日本の雇用システムの問題点を浮かび上がらせています

 序章で、世に氾濫するおかしなジョブ型論を取り上げ、とりわけ、ジョブ型を成果主義と結びつける考え方の誤りを指摘しています。第1章では、ジョブ型とメンバーシップ型の「基礎の基礎」を解説し、続いて第2章から第6章にかけて、採用と退職、賃金、労働時間、非正規雇用、集団的労使関係という各領域ごとに、メンバーシップ型の矛盾がどのように現れているかを分析し、解決の方向性を探っています。

 特に印象に残ったのは、第2章の「採用」のところで、日本型雇用システムにおいて採用差別という概念が成立しにくいのは、それだけメンバーシップ型の採用が自由度が高いためであり、それをジョブ型の採用にすると日本型の採用の自由を捨てることになるが、ジョブ型をもてはやしている人の中に、その覚悟がある人がいるようには思えないとしている点でした。

 また、第3章の「賃金」のところで、1990年代から2000年代にかけてブームになったものの失敗に終わった成果主義を、もう一度今度は成果を測定するジョブを明確化することで再チャレンジしようとしているのが2020年以来の日本版ジョブ型ブームではないかとし、その目的は成果主義によって中高年の不当な高給を是正することにあり、本来のジョブ型を実践する気は毛頭ないのだとしているのもナルホドと思わされました。

 さらに著者は、同一労働同一賃金の政策過程の裏側を探り、日本版同一労働同一賃金を"虚構"であると言い切っています。安倍政権の政策に携わる中で、それを日本でも可能だとした労働法学者・水町勇一郎氏(東大教授)の真意は、正社員の職能給をすべて職務給に入れ替えるのではなく(それにはかなり困難)、せめて非正規労働者の(職務給的)賃金を正社員の職能給に統一しようとしたのではないかとしています(確かに「同一労働同一賃金ガイドライン」は能力給、成果給、年功給のケースを書いているが、職務給については触れていない)。

 しかし、結局は、ガイドライン策定の過程段階で、基本給の項の最後に、雇用形態によって賃金制度が異なることを前提とした「注」付け加えられることになり、実はこの「注」の部分こそが、圧倒的多数の企業に関わりがあるとしています。この点については、学習院大学の今野浩一郎名誉教授も、『同一労働同一賃金を活かす人事管理>』(2012年/日本経済新聞出版)の中で、ガイドラインの中で最も重要なのはこの「注」であり、先にこれをもってくるべだとしていました。

 今野教授は「ジョブ型雇用の亡霊」がまた現れたといった表現をしていましたが、本書はどちらかというと「ジョブ型」を正しく読者に理解してもらうことに注力しているように思いました。「ジョブ型」というものに対して人事の現場が何となく抱いている疑念を整理し、すっきりさせてくれる本であり(ついでに「同一労働同一賃金ガイドライン」の「謎」(笑)も解明してくれる)、人事パーソンにお薦めします。


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人事マネジメント用語についての知識が得られる本。図鑑形式で読みやすい。

人材マネジメント用語図鑑00.jpg人材マネジメント用語図鑑2021.jpg 『人材マネジメント用語図鑑』['21年]

 人や組織、マネジメントの実務を巡って、毎年のように新たな流行語が登場しますが、経営学の研究者らによる本書は、新しい考え方が出てくる度に、読者に手に取ってもらい「関連する研究知見はないか」と探してもらうことで、流行に対して冷静な目を持ってもらうことを企図したものとのことです。

 多くのビジネスパーソンには学術論文を日常的に読む習慣がなく、他方で、経営学の実証研究を網羅的に紹介したビジネス書も少ないという実状を背景に、ビジネスパーソンが気軽に手に参照できるよう、図鑑の形式を用いて、文章の量は少なくし、視覚的に読者の理解をサポートするような構成にしたとのことです。

 まず人事マネジメント関連の重要キーワードを挙げ、キーワードごとに定義や研究概要、研究知見などを解説していくというのが大まかな構成です。また、関連する主要な研究者をキーワードごとに2名ずつ紹介していて、それらは本書の裏表紙にも一覧化されています。

 2部構成の第1部「人材編」で「目標設定① 目標設定理論」から「フィードバック」まで11のキーワードを、第2部「組織編」で「組織社会化」から「組織学習」まで13のキーワードを取り上げています。全体で24とそれほど数は多くないですが、それら個々を深堀りして解説していく中で、関連するキーワードや人事施策・制度を紹介し解説しているため、情報量としてはかなり多くなっています。

 「用語事典」と異なるのは、このようにテーマごとに体系化されている点です。学究に基づく体系的な知識や理論となると、研究者や学生ならともかく、一般の読者にはやや縁遠くなりがちなところを、すべてのページにイラストまたは図表を配してわかりやすく解説しているため、著者らが意図したように、多忙なビジネスパーソンであってもとっつきやすいものとなっています。

 キーワードに関連する用語では、例えば冒頭の「目標設定理論」のところでは「ノーレイティング」や「バリュー評価」といった比較的新しい用語も取り上げ解説されていますが、以前から使われている用語にせよ最新の用語にせよ、ファクトチェックにこだわっているのが特徴であり、オリジナルの参考文献を巻末に数ページにわたり挙げています。一方で、人事制度などは、実際に使われているものを多く紹介していて、実務に密着したものとなっています。

 キーワードの選び方や解説については、著者の一人が心理学が専門であることもあってか、「自己効力感」や「モチベーション」といったところが非常に丁寧に解説されていたように思います。読者によっては、「あの用語がないのはなぜ」と思う人もいるかもしれませんが、「用語事典」というよりは「参考書」として読んだ方がいいと思います。

 冒頭からでも読めるし、どれかキーワードを選んで読んでもよいようになっています。人事パーソンにとっても、人材マネジメント用語について、その定義や発祥から、正しい使い方や適用範囲を知ることができ、さらに、さまざまな理論の知識が得られる本であるかと思います。

 紹介されている人事施策や制度などについては、すぐに使えるものもないことはないですが、どちらかといえば1つのサンプルとして捉えた方がよいものが多かったように思います(人事制度の紹介事例といのは、だいたいそういうものですが)。そうしたことを前提としながらも、人事パーソンにはお薦めできる本かと思いました。

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ウィズ&アフターコロナ時代の人事の現況&見通しを俯瞰するのにテキスト的に手頃。

働き方ネクストへの人事再革新.jpg 『働き方ネクストへの人事再革新』['21年]

 本書は、新型コロナウィルス感染症の蔓延とその対策のなかで、雇用・人事の現下の状況はさながら「人事事変」とでも呼ぶような局面にあるとの前提に立ち、雇用・人事の「いま・ここ」を俯瞰するとともに、次世代の働き方と人材マネジメントの「これから」を予測し、そのあるべき姿を提示しようとしたものです。

 第1章で、新型コロナ禍による強制的なリモート環境で雇用・人事がどのように変わったかを、統計や企業事例を交えて俯瞰し、第2章では、そうした今、従来の「日本型雇用」からの脱却は不可避であり、(成し遂げたい目的を明示し行動する)「パーバス・ドリブン経営」へのパラダイム・シフトが起きているとしています。また、「ジョブ型雇用」とは何かを説き、改めて職能資格型・職務等級型・期待役割型という人事の3つのバリエーションとそれぞれの強み・弱みを解説した上で、ジョブ型雇用を取り入れる際の留意点を挙げています。

 第3章では、リモートワーク・マネジメントを機能させるにはどうすればよいか、オンライン会議の常設など4つのポイントを挙げています。さらに、リモートワークに紐づけてジョブ型と併せて話題となる「成果主義」について、その正しい定義を示し、成果主義は結果主義とは異なるとする一方、導入に際しては「払拭しがたい年功意識」からの脱却を説いています。また、企業は今後、リアル・オフィスとリモートワークのベストミックス(ハイブリッド)を模索していくだろうとし、そうしたなかオフィスの役割や人々の働き方はどう変わっていくかを予測しています・

 第4章では、1on1ミーティングのブームの背景を分析し、1on1ミーティングに話し合うべきテーマを挙げるとともに、「心理的安全性」の確保の重要性を説いています。また、「アジャイル(俊敏な)人事」や「リアルタイム・フィードバック」とは何かを解説し、個人の行動変革と成長を促し、組織成果を最大化する「パフォーマンス・ディベロップメント」という概念を紹介するとともに、1on1を加味したパフォーマンス・ディベロップメントの例を紹介しています。

 第5章では、これからの時代のマネジメントとリーダーシップの在り方をテーマに、「感情的知性(EI)」を開発して仕事に活かす方法や、心理的安全性を確保して「恐れのない」組織をつくることを説いています。また、状況対応型リーダーシップなど従来型のリーダーシップ理論の活用方法に加え、リーダーはメンバーの「安全地帯」になるというセキュアベース・リーダーシップや、すぐれたリーダーは「謙虚」なものであるというハンブル・リーダーなど、比較的新しいリーダーシップ理論も紹介しています。さらに、令和型上司はコーチ型上司を目指すべきであるとしています。

 第6章では、HRM → SHRM → タレントマネジメンと変遷してきた人材マネジメントはさらに進化し、2020年代にはデータ化しにくい社員個々のソフト面に配慮した「ピープル・マネジメント」が主流を占めるようになるだろうとしています。また、これからのコア人材の鍛え方を説くとともに、これからの社会は「企業中心社会」から「個人中心社会」になっていくだろうとしています。

 タイトルに「再革新」とあるように、読んでいて、過去にもあったようなトピックが、言葉を変えて再び注目されていたりもすることもあるように思いました。言葉に振り回されるのも良くないですが、人事パーソンとして知っておくべき言葉を知らないのもどうかというのもあります。そうしたことも含め、ウィズコロナ時代の人事の現況や、アフターコロナ時代の人事の見通しを俯瞰する上で、テキスト的に手頃と言うか、丁度いい本であるように思いました。

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育成の現場が抱える諸問題を具体的にイメージしながら対応法が学べる。

事例で学ぶOJT0.jpg事例で学ぶOJT2021.jpg 事例で学ぶOJT21.jpg
事例で学ぶOJT-先輩トレーナーが実践する効果的な育て方』['21年]

 すぐにふて腐れる人にはどう対応するか?「この仕事、意味あるんですか」と言われたら? 本書は、OJTトレーナー研修に長年携わってきた著者が、マネジャーやリーダー、新入社員自身、さらにはOJTトレーナーから見聞きした様々な育成事例を、「悩みのあるある」と「アドバイス」という67のQ&A形式にしてまとめたものです。

 第Ⅰ章では、OJTトレーナーの役割を説いていますが、OJTトレーナーにふさわしい年齢はあるのかといった問いが興味深かったです。また、OJTトレーナーにも成長目標を設定することを推奨しています。第Ⅱ章では、OJTトレーナーが周囲の協力を上手に得るにはどうすればよいかを述べるとともに、新人に残業させるかなどの方針も決めておくのがよいとしています。

 第Ⅲ章では、新入社員がうれしいこと、戸惑うことは何か、新入社員に信頼されるOJTトレーナーになるにはどうすればよいかを説いています。第Ⅳ章では、新入社員への業務の教え方と質問への対応の仕方について述べていますが、同じことを何度も聞いてくるような場合はどうしたらよいかなどについても答えています。

 第Ⅴ章では、コミュニケーション力、「報連相」といった社会人としての基本を学ばせるにはどうすればよいかを説き、価値観や「マインド」をどう伝えるか、気働きをどう教えるかといったことまで指南しています。第Ⅵ章では、経験学習をどう生かすか、失敗経験から学ばせるにはどうすればよいか、さらには、仕事にやりがいを感じてもらうための工夫などについて解説しています。

 第Ⅶ章では、仕事の取り組み方をどう教えるかを説くとともに、優先順位をつけた段取りができない、言われたことしかやらないといった場合の対処法を解説しています。第Ⅷでは、新入社員との1on1ミーティングのやり方について解説し、配属先に不満を漏らす場合や、同期と比べて焦っている時はどうすればよいか、成長を自覚させるにはどうすればよいかを説いています。

 最後の第Ⅸ章では、フィードバックに際して、上手な褒め方とはどのよなものか、「褒める」と「だめ出し」どちらが効果的かなどを解説し、注意をすると笑ってごまかす人への対処法なども示しています。
 
 新人を成り行き任せで現場に放り込み、雑用係から鍛えるというのは、「OJTという名の放置主義」との批判もある通り今やアウトであり、きちんと「育成計画」を作成して、トレーナーが不在でも周囲がサポートできるよう「方針」を共有することが肝要であると(第Ⅱ章)、改めて思いました。

 新人に早く職場になじんでもらうための「オフィスツアー」や、コミュケーソンを促す「お菓子コーナー」など、さまざまなアイデアや工夫が紹介されており、職場にいる「一癖ある人(要注意人物)」の情報は伝えておくべきかなどといった興味深い問いもあります(第Ⅲ章)。また、就業時間内に「OJTタイム」を組み込む(第Ⅳ章)というのも、ポイントではないかと思いました。

 OJTトレーナー制度は、新人を育てる過程でその育成に携わるOJTトレーナーの能力開発にも効果があることから、多くの企業が取り入れていると思われますが、OJTトレーナーに対する研修がどの水準まで行われているかは企業によって差があるように思います。

 本書は、事例ベースでの解説であるため、多くの事例を通じて新人育成の現場が抱える諸問題を具体的にイメージしながら対応法が学べる実務書であり、マネジャーやリーダーにとっての後輩指導の手引き書として、また、人事的には、OJTトレーナー研修の副読本などとしてお薦めです。

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「全員戦力化」に必要な組織力をどう高めるかを説く。「過程の公平性」という考え方に関心を持った。
全員戦力化.jpg全員戦力化2021.jpg
全員戦力化 戦略人材不足と組織力開発』['21年]

全員戦力化3.jpg 本書は、日本企業が抱える最も大きな人材問題は「人手不足」であり、社員全員を戦力化する必要があるが、それには組織力を高めるためのマネジメントが重要になるとし、そのために何をすべきかを論じています。

 第1章では、戦略人事とは企業目的の達成のために人事を行うことであり、数多くの経営環境の変化が起きている今、不足しているのは人手ではなく人材であって、多くの企業が人材不足に陥っている可能性があるとし、そこでとるべき人事戦略は、「全員戦力化」とでも呼ぶべきものとなるとしています。

 第2章では、「全員戦力化」のために必要なのは組織力であるとし、「組織力開発」の重要性を説いています。第3章では、職場に宿る組織力として、「協働」「人材育成」「所属」「同質化」の4つを挙げ、組織が弱体化するときにはどのような兆候が見られるか、特に危うい職場の人材育成とは何かを論じています。第4章では、従業員が働きがい・働きやすさを感じる組織とは何かを考察し、働きがいの根幹には達成感と成長感があり、働きやすさについては、個の尊重であるとしています。

第5章では、ダイバーシティおよびダイバースな人材を活用するインクルージョンという考え方は、全員戦力化において重要であるとし、インクルージョンの3要素として、①意見を表明しやすい職場、②組織文化や組織風土、③一段上の目標の共有、の3つを挙げています。

 第6章では、組織力としてのミドルにフォーカスし、ミドルは強い組織の礎であるが、環境の変化などによりミドル育成機能はいま低下しており、ミドル対象の研修に頼らない組織的な対応が求められているとして、その重要ポイントとして、①コンピテンシーまたは行動レベルのミドルの役割明確化、②組織図の修正、③フォロワー育成への投資、の3つを挙げています。

 第7章では、チームにフォーカスし、いま企業経営で構築され、活躍が期待されるチームとは、①多様化、②期待される成果・目標。③チーム内コミュニケーションという面で従来のチームの概念から変容しつつあり、こうしたチームを活用する組織力強化のカギとして、①ダイバーシティからインクルージョンへの進化、②心理的安全性、③個を自立させる組織の確保の3つを挙げています。

 第8章では働き方改革について、働く人が個々の事情に応じて、多様で柔軟な働き方ができるようにすることは、「全員戦力化」の考えにも一致するとした上で、「同一労働同一賃金」が意味するものは何か、法が求める衡平原則の課題と、組織力としての公平性を確保する施策を述べています。第9章では、従業員エンゲージメントとは何か、働く人のココロをつかむには何が必要かを論じています。

 最終章では、コロナウィルス感染拡大が要請する組織と人材の革新とは何かを述べていますが、この最終章のみが書き下ろしで、第1章から第9章までは、日本経済新聞などに掲載された既出の論考をもとに加筆・アップデートしたものであるとのことです。経営者・管理職をも読者として想定しているため、それぞれの章が、テーマごとに概論になっている印象があり、著者自身も述べているように、「全員戦力化」という課題について、方法論までは議論できていないような印象を受けました。それでも、インクルージョン、ミドル育成機能強化、チームの活用、働き方改革など、どこに焦点を当てればよいかということについては把握できると思われ、著者身の主張にぶれがなく一貫性のある内容であると思います。 

 個人的に印象に残ったのは第8章で、同一労働同一賃金法制が求める衡平原則は、誰と誰を比較するのか、何を比較の基準とするのか、どこまでの格差が許容されるのかの3点について合理性の判断に関して曖昧さが大きいとの問題点を指摘しつつ、公平性を確保し、企業運営もスムーズに進める方法として、「過程の公平性」と呼ばれる考え方を紹介している点です。これは「手続きの公平性」「手続きの平等性」などと呼ばれることもあり、一般的にいえば、評価の手続きや基準の公開、上司との話し合い、苦情処理システムの整備などによって、従業員がもつ公平感を高めようという考え方で、目標管理制度の導入や評価結果の本人への開示などは、その代表的な施策となるとのことです。

 法的要請を超えた人事管理にとっての同一労働同一賃金とは何なのか、同一労働同一賃金の考え方を活かす人事施策とは何なのかを、ひとりひとりの人事パーソンが考えていかなければならない時代が今なのかもしれないと思わされました。

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ストーリー仕立てで読みやすい。初学者に限らず、人事パーソンにお薦め。

労働法で企業に革新を.jpg労働法で企業に革新を2021.jpg
労働法で企業に革新を』['21年]

 日本酒の取次・販売をメインとする豊夢商事は、正社員150名、臨時社員55名が働く中堅商社。東京本社のほかに、東京近郊に4つと神戸、新潟に支店がある。社長の中上は、「働き方改革」に向けた改革・変革に意欲的で、彼を外部からサポートするのが、元同社の社員で現在は社会保険労務士でコンサルタントの戸川美智香。社内では、新卒入社で人事部に配属になった東畑も改革に意欲的だが、彼の上司である人事部長の磯谷はやや消極的。それでも社長の一声でDX室が立ち上がり、プロ人材の深谷が室長として入社してくる―。

 本書は、労働法の基本を押さえながら、同一労働同一賃金やDX、テレワークや働き方改革といった「新しい働き方」をめぐる様々なトピックについて、豊夢商事という架空の会社を舞台に、ストーリー仕立てで解説したものです(本書は『労働法で人事に新風を』('16年)のアップデート版とも言える)。

 第1章は2018年12月から始まり、豊夢商事の働き方改革に向けた課題が示される一方、同社の社員から退職して顧問となった戸川美智香のことから、「社員」とは何かということが話題になっており、このあたりは雇用契約の基本でもあります。

 第2章では、2019年3月、新たにDX室長を迎え入れるにあたり、残業代を業務手当で支払うことは可能かという問いから始まって、同一労働同一賃金とは何かという話になり、臨時社員の手当の問題など、同一労働同一賃金関する具体的なテーマに踏み込んでいます。

 第3章は、2020年1月のコロナ禍直前期で、ある事業の子会社化をめぐって、子会社への出向命令に社員はイヤと言えるか? といった、これもまた人事の基本でありながらも、ケースによって微妙な要素の絡む問題を扱っています。

 第4章では、2020年4月のウィズコロナ第1期において、テレワークを導入するにあたり、労働時間管理をどうするか、事業場外みなし労働制は適用できるかといった問題などを扱っています。

 第5章は、2020年7月のウィズコロナ第2期において、テレワークの影響を概観するとともに、ジョブ型、パラレルキャリア、ボランティア休暇、ワーケーションなど、「働き方のニューノーマル」をめぐる様々なトピックについて述べられています。そして、第6章では、2022年のアフターコロナ時代の豊夢商事がどうなっているかを描いています。

 「新しい働き方」をめぐる様々なトピックについて、労働法の基本を解説しながら、ストーリー仕立て話を進めていて、初学者には読みやすいと思います。また、人事パーソンである読者が、近時において経験してきたであろうと思われることも多く含まれているので(会話シチュエーション自体が途中からオンライン会議になっている)、シズル感を持って読めるのではないでしょうか。

 人事として、これからの時代に考えていかなければならないことのいくつかを示してくれるとともに、自分が自覚のないうちに守旧派になってしまうこともあり得るとの危機感も抱かせてくれます。ラストは人事部改革のような話であり、さらにはエンタメ系企業小説のようなエンディングが待ち受けているので、どうぞお楽しみに。

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ジョブ型のもとでの課長の在り方を整理するも、ジョブ型に限らずの話になっている。

ジョブ型と課長の仕事.jpg 『ジョブ型と課長の仕事 役割・達成責任・自己成長』['21年]

 ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」の「クライアントパートナー」であるという著者による本書は、ジョブ型人事制度のもとでの課長の役割と仕事とは何か、これまでとは何が違うのか、何を為すべきかについて、体系的に整理したものであるとのことです。

 序章では、ジョブ型雇用雇用の本質とは何かを解説したうえで、ジョブ型雇用の成功のカギは、社員が個性を自覚し、ジョブを選択し、自己の運命に責任を持つこと、換言すれば「自律」と能力開発への自主的な取り組みであるとし、その上で、組織の中核を担う課長級の社員からジョブ型雇用に合った役割と仕事を理解し、行動を変容することが出発点になるとして、
  ①課長は中核管理職である
  ②21世紀のパラダイムを主導する
  ③チームの目標管理を推進する
  ④役に立つスキルを磨く
  ⑤マネジメントの焦点を理解する
  ⑥自らの運命を支配する
の6つの基本を掲げています。

 第1章では、これからの課長がやるべきこととして、
  ①ジョブの意味を正しく理解する (ジョブとは付加価値を生むもの)
  ②ジョブの価値を向上させる  (ジョブは与えられるのではなく、自らつくるもの)
  ③ジョブを実践する原則を知る (7つの原則)
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。最後の「7つの原則」とは、
 [第1の原則]2020年代の成功につながるマインドセット
 [第2の原則]トップダウン型目標管理ではなく、自律型目標管理
 [第3の原則]360度型リーダーシップ
 [第4の原則]顧客の創造
 [第5の原則]思考力の錬磨
 [第6の原則]コミュニケーション力の錬磨
 [第7の原則]社会的課題への積極的な関与
であるとのことです。

 第2章では、変えるべきマインドセットとして、
  ①「競争に勝つ」から脱却する (競争志向から顧客志向へ)、
 ②戦略的思考の定義を変える (競争戦略からブルーオーシャン戦略に立ち戻る)
 ③管理者から支援者に変わる (ファシリテーターの役割を担う)
 ④部下ではなくパートナーとして接する (部下から学ぶ)
 ⑤中間管理職から中核管理職に変わる (成果を生み出すプロフェッショナルになる)
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第3章では、チームの目標管理をどう行うかについて、
 ①自律的な仕事環境をつくる
 ②作業の棚卸しをする
  ③目標達成に必要なスキルを確認する
  ④ジョブディスクリプションを運用する
  ⑤チームの目標管理を行う
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第4章では、チーム運営に必要なスキルとして、
  ①リーダーシップ
  ②共感力を生むコミュニケーション力
  ③問題解決のためにの思考力
の3つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第5章では、課長のマネジメントの課題として、
  ①コンプライアンス問題への対応
  ②リスクマネジメントへの対応
  ③ダイバーシティへの対応
  ④SDGsへの対応
  ⑤組織づくりへの対応
  ⑥顧客起点の行動
の6つを挙げ、それぞれ解説しています。

 第6章では、課長の自己成長のための習慣として、
  ①内省の習慣
  ②継続的な学習習慣
  ③定期的なフィードバック習慣
  ④プロジェクトをつくる習慣
  ⑤教養を身につける習慣
  ⑥キャリアビジョンを考える習慣
の5つを挙げ、それぞれ解説しています。

 要約すると、ジョブ型人事制度のもとでの課長には、経営からの待ちの姿勢ではなく、顧客起点から機会を探り、最適なビジネスを自律的に展開すること、問題の発見と解決のための自発的な目標管理プロセスを運営すること、プロジェクトをリードすること、人の育成と同等に自分のキャリアを開発することなどが求められるということを言っているように思います。

 いずれも至極もっともであり、「課長の教科書」としては、さまざまな気づきを喚起してくれる本であると思いました。課長の役割や責任、人材育成や自己成長について、ジョブ型という視点で捉え直そうとする試みかと思います。

 ただし、本書で書かれていることの多くは、「ジョブディスクリプションを運用する」といったようなことを除けば、ジョブ型雇用であるかどうかによらず、以前から言われてきた、または近年よく言われていることであり、今後さらに求められるであるように思いました。その意味で、オーソドックスですが、新味はさほど無いように思いました。

 コーン・フェリーとしては、〈ジョブディスクリプションの必要性〉に持っていきたいのだろうなあ。そのために、協力コンサルタントに、日本企業向けの「課長論」を書かせているようにも思えなくもないです。

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同一労働同一賃金の法的要請を人事管理の観点から解説している点がユニーク。

同一労働同一賃金を活かす人事管理2.jpg同一労働同一賃金を活かす人事管理.jpg
同一労働同一賃金を活かす人事管理』['21年]

同一労働同一賃金を活かす人事管理p.jpg 本書は、同一労働同一賃金の法的要請は人事管理に大きな影響を及ぼすが、人事管理の在り方を決めるものでもないし決めるべきものではないとの考え方のもと、人事管理の観点からすると同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのか、同一労働同一賃金は、賃金を合理的に決めるうえでどのような意味があるのかを検討し、企業のとるべき非正社員の人事管理・賃金管理の方向を解説したものです。

 第1章「非正規労働者の雇用と賃金」では、非正規労働者の雇用について、労働市場全体における位置やその構成、正規労働者との賃金格差や仕事のレベルなどの実態を統計資料から読み解くとともに、それらを踏まえ、同一労働同一賃金を検討するにあたっての留意点ついて、賞与、退職金など基本給以外の賃金要素と、役職等の高レベルの仕事に就く非正規労働者の基本給を挙げています。

 第2章「同一労働同一賃金の法規制の捉え方」では、パートタイム・有期雇用労働法によって策定された「同一労働同一賃金ガイドライン」を人事管理の観点から読み解き、そのポイントを整理するとともに、人事管理からみたガイドラインに欠ける3つの視点として「賃金の全体性」「賃金の関連性」「市場均衡」の3つの視点を挙げてそれぞれ解説し、その上で、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示しています。

 第3章「派遣労働者の同一労働同一賃金」」では、派遣労働者の同一労働同一賃金について、ガイドラインによれば賃金や賃金以外の待遇の決定のルールはどうなるのかを解説し、人事管理からみた賃金決定のポイントを整理しています。

 第4章「同一労働同一賃金のための賃金の基礎理論」では、企業にとっての「あるべき賃金」は多様性を持つが、その多様性を超えた「基本理論」があるとし、人事管理にとっての同一労働同一賃金の意味を解説するとともに、賃金決定の2つの原則としれ、「内部公平性原則」と「外部競争性原則」を挙げ、この2つの原則は緊張関係にあるとしています。

 第5章「制約社員と人事管理」では、同一労働同一賃金を実現するために人事管理は何をすべきであるのか、同一労働同一賃金を考える上で「同一労働同一賃金は人事管理の一部」であるとの視点と、「非正社員は制約社員の1タイプ」であるとの視点の2つの視点を示すとともに、伝統的人事の特徴とその崩壊について述べた上で、人事管理改革の今後の方向性としての「多元型人事管理」のもとでの賃金決定の諸原則を解説しています。

 第6章「総合職の制約社員化と人事管理」では、総合職が制約社員化してきている現状において、正社員の制約社員化における課題と、これからの人事管理の方向を示しています。

 第7章「同一労働同一賃金に応える賃金」では、正社員の賃金の現状と今後の行方、同一労働同一賃金を実現するためのパート社員の賃金、同じく高齢社員の賃金、さらに賞与、退職金、諸手当の同一労働同一賃金について解説しており、パートについては「逆Y字型」の人事管理モデルを提唱しています。

 法律が求める同一労働同一賃金とは何かを人事管理の観点から解説している点がユニークであると思いましたが、それにとどまらず、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示した上で、今後の人事管理の在り方や制度策定の方向性まで示している良書であるように思いました。人事パーソンにはご一読をお勧めします。

 後半部分は、前著『正社員消滅時代の人事改革―制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)や『高齢社員の人事管理―戦力化のための仕事・評価・賃金』('14年/中央経済社)に書かれていることとダブったりもしますが、冒頭で、同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのかということを今回新たに論じた上で、ちゃんと論旨が繋がっていくのは、著者の理論体系がしっかりしているためではないかと思いました。

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本書を読んで自身の労働に関する「教養」に磨きをかけるのもいいのではないか。

教養としての「労働法」入門2021.jpg教養としての「労働法」入門』['21年]

 かつては劣悪な労働環境改善や、長時間労働の是正などのために、近年では同一労働同一賃金、ハラスメントなどへのルールを定めてきた労働法ですが、本書は、海外諸国の制度と比較しながら、労働基準法や労働契約法などが制定された歴史的な背景などから労働法を解説した入門書です。

 序章で労働法とは何かを概説し、また、政令・省令・指針・通達・告示のそれぞれの位置づけや役割を解説しています。ここでは、背後にある価値観が労働法制全体に影響を与えるとしています。第1章では、労働法の歴史と現在を、労働基準法、労働組合法、労働契約法のそれぞれについて解説しています。

 第2章では、日本の「解雇」に関する規制について、諸外国との比較で見えてくる特徴や、日本の解雇規制の歴史と最近の問題点を解説しています。また、採用・内定・試用期間、有期労働契約のルールも解雇規制の延長で考えると理解しやすいとし、さらには「解雇」規制を表の規制、「配置転換」を裏の規制と捉えると、強大な配転命令権がなぜ生まれたのかが見えてくるとしています。

 第3章では、多様な雇用の在り方とそれらを取り巻く法制度について解説しています。まず、労働者とは誰か、労働法の保護を受ける者について解説し、職業紹介や労働者派遣についても説明しています。さらには、正規雇用・非正規雇用との関連で、「同一労働同一賃金」改革に関する法改正のポイントを整理し、高齢者雇用についても、日本の特徴と法施策について述べています。

 第4章では、労働時間と有給休暇について扱っています。ここでは、なぜ「8時間労働」や「週5日勤務・週休2日制」が世の中のスタンダードになったかを歴史的経緯から解説するとともに、年次有給休暇の起源とそれがどのように発展してきたかを述べており、興味深く読める章となっています。

 第5章では、労働環境をテーマとし、セクシャル・ハラスメント、パワーハラスメントについて、これまでの経緯と現在の法規制の内容、今後の課題を諸外国との比較において述べています。また、安全配慮義務の法規制の成り立ちや変容についても解説しています。

 第6章では、懲戒ルールについて、懲戒処分はどこまでできるかを考察し、第7章では労働組合について、現代的労働組合と「不当労働行為」などの関連する概念について再整理しています。

 本書では、「役に立たない知識が役に立つ」と考え、労働法を考える上でヒントになる情報を盛り込んだとのことです。確かに、労働法の歴史を学ぶことや、諸外国の制度と比較しながその特徴を知ることは、これまで当たり前と思って受け入れていたことについて、また別の視点を提供してくれるものであるように思いました。

 法改正をひたすら追いかけ、その対応に追われるばかりが人事パーソンのあるべき姿ではないことは明白であり、労働法の現在や将来に対して、自分なりに見識や展望を持つということも大切ではないかと思われます。本書を読んで自身の労働法に関する「教養」に磨きをかけるのもいいのではないでしょうか。

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ユーモアに助けられて肩が凝らずに読み通せるリーダーシップの「教科書」。

ゼロから考えるリーダーシップ2021.jpgゼロから考えるリーダーシップ』['21年]

 本書は、企業組織の研究を心理学と経営学の両方から研究してきた著者によるリーダーシップの「教科書」であり、マネジャーとリーダーはどう違うのか、リーダーシップはカリスマや積極的な人だけのものなのか、リーダーは何を考えているのか、といったリーダーシップにまつわるさまざまな疑問に答えながら、リーダーシップ理論の体系とその中身を解説しています。

 まず、第1章で、リーダーシップとは何か、第2章で、リーダーとマネジャーの違いは何か、第3章で、マネジャーとして、リーダーとして必要な素養とはそれぞれどのようなものかを解説しています。第4章では、トヨタグループへの調査結果と照合させながら、学術上、リーダーシップの3要素として、業務を担うリーダーシップ、人間関係を担うリーダーシップ、変革を担うリーダーシップがあることを紹介しています。

 続いて第5章では、マネジメントやリーダーシップは本当に組織で役に立っているのかを調査から分析し、リーダーシップとマネジメントはともに組織に不可欠だが、それを両立させる黄金比は3:1であるとしています。つまりポジティブ(リーダーシップ)とネガティブ(マネジメント)の比率バランスが3:1であることが理想であるという、「3:1の法則」を提唱しています。

 第6章では、リーダーシップ理論のビッグファイブ・パラダイムとして、①特性理論、②行動理論、③条件適合(コンティンジェンシー)理論、④リーダー・メンバー交換関係(LMX)理論、⑤変革型理論の5つがあるとして、それぞれを解説しています。この章はとりわけ、読者のリーダーシップに関する"理論武装"に資するであろう章となっています。

 第7章では、リーダーシップと脳の機能の関係を解説し、業務志向・対人志向の2要素と未来志向・現在志向の2要素の掛け合わせから、業務遂行型リーダーシップ、チームワーク型リーダーシップ、ビジョン型リーダーシップ、育成型リーダーシップという4つのリーダーシップと、それに呼応する、ゲームリーダー、チームリーダー、イメージリーダー、ドリルリーダーという4タイプのリーダー像を示しています。

 第8章では、リーダーシップはどうすれば育成できるのか、知識と経験でリーダは育つのかを考察し、第9章では、リーダーにとって対話が持つ意味は何か、対話がもたらすリーダーシップの効果について解説しています。

 第10章から11章にかけては、リーダーにとってビジョンとはどういうことかを述べ、リーダーの器はビジョンで決まるとし、ビジョンはどうすれば鍛えられるのかを解説しています。

 第12章では、リーダーには集団を引っ張るリーダーだけではなく、従者(サーバント)として集団を支えるリーダーや、リーダーシップをメンバーと分かち合うリーダー(シェアド・リーダー)もいるとしています。その上で、最終章の第13章では、日本型リーダーシップの本質とは何かを考察しています。

 しっかりした内容で、リーダーシップの歴史を踏まえつつ、最近のトレンドも押さえた本であったと思います。前提としてリーダーシップをマネジメントと峻別する立場に立っていること、リーダーシップの解説においてポジティブ心理学の知見などが織り込まれていることなどが特徴的です。

 ともするとガチガチに固いテキスト本になりがちな内容であるにも関わらず、随所にアニメ等にまつわるネタなどをギャグ的にを織り交ぜているため、そうしたユーモアに助けられて固さが緩和され、肩が凝らずに読み通せるのも、類書にはない特長かと思います。リーダーシップ理論について初学者が入門書として読むのもいいし、ベテランが復習のために読むのもいいと思います。

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リフレクションについての気づきを与えてくれるが、実践はまた別か。

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リフレクション(REFLECTION) 自分とチームの成長を加速させる内省の技術 オリジナルフレームワークPPT・PDF特典付き』['21年]

 本書では、リフレクションとは、自分の内面を客観的、批判的に振り返る行為であり、「内省」という言葉が最も近いとしています。リフレクションの目的は、あらゆる経験から学び、未来に活かすことであるとし、このスキルを応用していくことで、自分自身だけでなく、他者への理解を深めて成長を促進したり、組織をまとめるリーダーシップを育んだりすることができるとしています。本書は、そうしたリフレクションスキルを身につけるための基本メソッドを紹介したものです。

 第1章では、リフレクションの質を高めるメタ認知のフレームワーク「認知の4点セット」(意見・経験・感情・価値観)と、リフレクションの基本となる5つのメソッド(自分を知る・ビジョンを形成する・経験から学ぶ・多様な世界から学ぶ・アンラーンする)を紹介しています。この章は、本書の"読みどころ"になるかと思います。

 第2章は「リーダーシップ編」であり、メンバーの主体性を引き出すチーム型リーダーになるには、リフレクション(認知の4点セット)をどう活用すればよいかを説いています。ここでは、ぶれない軸をつくるリフレクション、自分自身のモチベーションを高めるリフレクション、感情を上手に扱うリフレクション、思考の柔軟性を高めるリフレクション、対話力・傾聴力を高めるリフレクションなどを紹介しています。

 第3章は「育成編」であり、自立型学習者を育てるにはどうすればよいか、部下育成にリフレクションを活用する方法を紹介しています。ここでは、先に述べた5つのメソッドを自分だけでなく他者にも応用することを説くとともに、自分の頭で考える力を育むにはどうすればいいか、信頼関係を構築するにはどうすればよいか、相手の強みを引き出したり成長を支援するにはどうすればようか、などを解説いています。

 第4章は「チーム編」であり、どのように他者と協働(コラボレーション)するかを説いています。ここでは、組織のパーパス(目的)・ビジョン(ありたい姿)・バリュー(組織文化)の定義にも認知の4点セットを活用することを推奨するとともに、ビジョンを浸透させるにはどうすればよいか、多様性を価値に変えるにはどうすればよいか、などについても認知の4点セットから説明し、最後に、ピーター・センゲが提唱した「学習する組織」を作るための5つの規律(ディシプリン)を紹介しています。

 著者自身が「学習する自立型組織を目指す人のためにハウツー本」として執筆したと述べているとおり、本書におけるリフレクションの基本となる5つのメソッドは、ピーター・センゲの「学習する組織」における5つのディシプリンを、その実践方法として再構築したものであるようです。

 リーダーにはリフレクション(内省)が不可欠であるとはよく言われるものの、そのことを掘り下げて一冊にまとめた本は少なく、その点ではリフレクションにフォーカスして書かれた本書は、読む価値はあったかと思います。また、リフレクションのメソッドを自分だけでなく他者にも応用することを説いているのはユニークです。

 体系的にも整理されていて、最新のリーダーシップや組織開発に関する理論も随所で紹介されています。マイドフルネス、レジリエンス、グロースマインド、ウェルビーイングといったことにも触れていれば、ティール組織やホラクラシーといった言葉も出てきます。

 ただし、読み終わって、やや漠たる、少しもっとした印象が残るのは、本書におけるリフレクション・メソッドのスタートは、結局は自身の認知の在り方ということになるためではないかとも思いました(認知心理学(論理療法におけるABC理論(出来事(A)、信念(B)、結果(C))を想起させる)。本書を読んで〈気づき〉を得られるのは、それはそれでいいのですが、それがイコール実践というようには、すぐにはならないのではないかという感想も抱きました。

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「できるリーダー」の部下の能力を100%引き出すマネジメント術。読みやすく説得力がある。

「最強のチーム」のつくり方.jpg「最強のチーム」のつくり方2.jpg
アメリカ海軍に学ぶ「最強のチーム」のつくり方: 一人ひとりの能力を100%高めるマネジメント術 (知的生きかた文庫 よ 19-2)』['15年]

 本書は、『即戦力の人心術―部下を持つすべての人に役立つ』('08年/三笠書房))の文庫化・改題版で、内容は、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「ベンフォールド」の艦長として300名以上のクルーを率い、機能不全に陥っていた同艦を"海軍No.1"と呼ばれるまでに大変革させ、海軍中にその名を轟かせたという元海軍大佐が、「できるリーダー」は何をしているのか、その具体的な思考方法を明らかにし、部下一人ひとりの能力を100%引き出すマネジメント術を、自身の経験に基づいて説いたものです(原題: It's Your Ship -Management Techniques from the Best Damn Ship in the Navy(2002))。

 第1章「「硬直した組織」に、ガツンと変化を起こす」では、硬直した組織に変化を起こすために著者はまず、部下の身になって、何がいちばん大事かを考えたとしています。そして、もっとよいやり方はないか部下に聞いてまわり、いいアイデアは惜しみなく褒め、実績として高く評価したとのことです。「自分たちの提案を大事にしてくれる上司」に対しては、部下たちは心を開き、信頼を寄せてくれるものであるとしています。

 第2章「部下を迷わせない、確たる「一貫性」」では、単に命令するだけでは部下は動かず、①目標を明確にし、②その任務を達成するための十分な時間・資金・材料を部下に与え、③部下に十分な訓練を受けさせなければならないとしています。そして、結果だけではなく、正しいやり方を重視し、そのことが明日のワシントン・ポストの一面に掲載されて全米中に知られることになって、それを誇りに思うだろうかを問うてみるとしています。

 第3章「「やる気」を巧みに引き出す法」では、部下のやる気を引き出すには、組織内のすべての人間との出会いを大事にしたとのことです。また、自分の部下をよく知っていることは、実に大きな資産で、部下を上手く指導する手段ともなるとしています。

 第4章「明確な「使命」を共有せよ」では、管理職にとって重要なのはチームの力であり、そのためには「集団の知」が必要であるとしています。また、部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係があるとしています。

 第5章「チームで「負け組」を出さない!」では、組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利であり、負け組が必要な組織など偽物であるとしています。また、部下を見限ったりせず、力になるつもりだというシグナルを送ると部下は安心できるとしています。

 第6章「なぜ「この結果か」をよく考える」では、部下に服従を求めるだけでなく、アイデアや自発性を引き出すことが必要であり、「自分自身で判断し、行動する」ことを身につけさせれば、部下がその後どのような人生を歩んだとしてもそれは彼らにとって貴重な財産となるとしています。

 第7章「「合理的なリスク」を恐れるな!」では、「合理的なリスク」を恐れてはならず、ときには失敗しても冒険する人間を称え、昇進させるべきであるとしています。

 第8章「「いつものやり方」を捨てろ」では、マニュアルはおよび腰な行動の原因となり、本当に重要なものを見えなくするとし、日ごろから自分たちの仕事において「いちばん大事なこと」をおろそこにするなとしています。懸命に働くな、賢明に働けとも言っています。

 第9章「あなたはまだ、部下をほめ足りない!」では、部下の些細に思える意思表示を見逃さず、コミュニケーションを重ねることで、親密で協力的な雰囲気が生まれるのだとしています。また、前向きで、直接的な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質であるともしています。

 第10章「「頭を使って遊べる」人材を育てよ」では、どんな組織でも、友人たちと楽しむことは、お金では換算できない、大きな精神的つながりを生み出すとしています。

 第11章「永遠に語り継がれる「最強のチームワーク」」では、リーダーの役割は「管理すること」よりも、「いかに才能を育て、延ばすか」にあるとして本書を締めくくっています。

 著者自身が「この武勇伝」と呼んでいるように、実際に著者が経験したエピソードばかりで構成されているため、読み物を読むように読めます。アメリカ海軍が舞台になっていますが、企業組織にも通用することがほとんどであり、机上の空論ではなく、実際の指導経験と成功例に支えられた内容となっているためり、読みやすくて説得力がある良い本だと思いました。広くお薦めできるものです。

《読書MEMO》
●第1章:「硬直した組織」に、ガツンと変化を起こす
・艦長室で報告を待っているのではなく、積極的に艦内を歩きまわって意見を吸い上げる。
・何をするにも必ずもっと良い方法があると考えよ。
・どんな小さな提案であっても、いいアイデアは惜しみなくほめ、その提案者の実績として高く評価した。
・自分たちの提案を大事にしてくれる上司に対しては部下たちは心を開き信頼を寄せてくれる。
●第2章:部下を迷わせない、確たる「一貫性」
・目標を明確にし、それを行うだけの時間と設備を与え、部下がそれを正しく行う為の適切な訓練を受けていることを確認しない限り、もう二度と命令を口にすることはしない。
・結果だけではなく正しいやり方を重視する。明日のワシントン・ポストの一面に掲載されて全米中に知られることになってそれを誇りに思うだろうか、恥と思うだろうか。汚い手を使って目標を達成しても必ず敵をつくり、長い目でみるとマイナスである。
●第3章:「やる気」を巧みに引き出す法
・艦にいる全ての人間との全ての出会いを一番大事なものとして扱う。
・艦にいる全員の名前を覚える。
・自分の部下をよく知っていることは、実に大きな資産で、部下を上手く指導する手段となる。
●第4章:明確な「使命」を共有せよ
・部下がどれだけ上司の命令について知っているかということと、彼らがそれをどれだけうまく実行できるかということには直接的な関係がある。
●第5章:チームで「負け組」を出さない!
・組織全体が勝利すれば、そこにいる全員の勝利である。
・負け組が必要な組織など偽物である。
・部下を見限ったりせず、力になるつもりだというシグナルを送ると部下は安心できる。
・悪い知らせを持ってくる人間をないがしろにせず信頼関係を築いておくことで、悪い知らせほどすぐ耳に届くようにする。
●第6章:なぜ「この結果か」をよく考える
・「自分自身で判断し、行動する」ことを身につけさせれば、部下達がその後どのような人生を歩んだとしてもそれは彼らにとって貴重な財産になる。
●第9章:あなたはまだ、部下をほめ足りない!
・前向きで、直接な励ましこそが効果的なリーダーシップの本質である。
・彼らを機械のように扱うのをやめれば、彼らの業績は向上する。
・あらゆる重要な業務でクロストレーニング(複数の仕事ができるよう訓練すること)を実施することが必要であり、そうしないと重要な業務に精通している人間が一人だけになってしまい、何かあったときに惨事が起こる可能性がある。

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「●組織論」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(チャールズ・ハンディ)

経営論&人生論の名著『もっといい会社、もっといい人生』の新訳版。

THE HUNGRY SPIRIT これからの生き方と働き方1.jpgTHE HUNGRY SPIRIT これからの生き方と働き方.jpg                『もっといい会社、もっといい人生.jpg
THE HUNGRY SPIRIT これからの生き方と働き方』['21年] 『もっといい会社、もっといい人生―新しい資本主義社会のかたち』['98年]

 「英国のドラッカー」と称される著者による本書(原題:The Hungry Spirit,1997)は、あるべき資本主義を説いた経営論であるとともに、企業人のための人生論も語られている本です。以前に『もっといい会社、もっといい人生』(1998年/河出書房新社)として邦訳が刊行されていますが、今回はその23年ぶりの新訳版となります(約四半世紀を経て新訳が刊行されること自体が、名著の証しとも言える)。

 PART1「資本主義のゆがみを見つめる」(第1~3章)では、資本主義社会の問題や不安について考察しています。第1章では、資本主義における市場の限界について述べ、市場原理に基づく効率の追求は、社会全体に大きな歪みを生み出しかねないとしています。

 第2章では、効率の追求は、社会を一部の人には有利に、他の多数の人々には不利に傾斜させるとしています。第3章では、資本主義の欠点を直そうとしてそれ自体まで失ってはならず、資本主義は道具にすぎないものであり、人類が暮らすこの世界を救済する手段は、人間の心の中にしか存在しないとしています。

 PART2「自分の人生を見つめる」」(第4~7章)では、人生の目的は、世界を少しばかり良くすることでなくてはならないとしています。第4章では、これからの人生の在り方として、自分の人生の筋書きを自分 の手で書くことができる時代になるが、それには責任とモラルが求められ、また、企業にも個人と同様、その行動と運命に責任が求められるとしています。

 第5章では、人生の充足に至るまでには、「生存志向型」→「外部志向型」→「内部志向型」の3段階の心理学的な類型があるとしています。また、「正当な利己性」は誰もが持つべき権利であるとしています。第6章では、生きる意味を見い出すための4要素として、人生という旅の活力となる夢を持つこと、自分にとっての「十分」を知ること、崇高なものの味わいを経験すること、最後に、世界に貢献することで自分の人生を永遠化すること、を挙げています。また、自分の関心に基づく活動の仲間が新しい"家族"になるとしています。

 PART3「これからのまっとうな社会に向けて」(第8~10章)では、PART2で展開した考えを社会制度に当て嵌めて考察しています。第8章では、会社にとっての本当の目的とは何かを考察し、社会の一市民としての企業の在り方を探っています。

 第9章では、企業における市民性とは才能ある社員をどうまとめるかであり、そこには信頼というものが大きく関わってくるとしています。第10章では、自分自身と他者に対する責任感を育てる教育の必要性を説いています。

 そして、エピローグでは、企業と社会と人生の理想的な関係をどう構築していくかを考察し、未来の社会に起こり得ることを予測するとともに、人は誰でも心の中で、よりよい世界、より公正な世界を求めているので、世界は変えることができるとしています。

 本書において著者は、「正当な利己性」というキーフレーズをよく用いています。それは、個人としては「利己と利他とが調和した姿」であり、同様の姿勢を企業にも求めています。それにより「品位のある資本主義」が実現されるというのが著者の考えです。資本主義の限界を分析して「あるべき社会」を探るとともに、企業人にとってより良い人生とは何か、自らの人生をどう生きるべきかを説いており、人事パーソンに限らず、ビジネスパーソンに広くお薦めできる本です。

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既成概念にとらわれない新たなマネジメントの視座への気づきを与えてくれる。

『これからのマネジャーが大切にすべきこと.jpgこれからのマネジャーが大切にすべきこと.jpg
これからのマネジャーが大切にすべきこと 42のストーリーで学ぶ思考と行動』['20年]

 経営思想界の泰斗が、自らのブログ記事の中からマネジャーにとって特に有意義だと思えるものを42本選んだものです。マネジャーが寝る前にベッドで読めるような内容を意図していて、01から42までのストーリーがマネジメントや組織など7つのカテゴリー(章)に分類されています。

 第1章「マネジメントの話」では、02で、ピーター・ドラッカーの「マネジャーはオーケストラの指揮者のようなものである」という見方が本当に正しいのかを批判的に考察しています。また、03では、よく言われる「正しい物事を行うのがリーダーで、物事を正しく行うのがマネジャーだ」という言い方に疑念を呈し、「リーダーシップをマネジメントから切り離して考えるのはもうやめよう」と述べています。このように、従来の経営思想家と一線を画しているのが特徴です。

 さらに第2章「組織の話」では、10で、素晴らしいと思える組織では、リーダーシップ以上に、強力なコミュニティシップの精神が浸透しており、これからはリーダーシップよりもコミュニティシップが重視されるようになるとしています。12では、ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッターが提唱した企業変革モデル(8段階の変革プロセスモデル)に対し、それはCEOで始まりCEOで終わっているが、1人のリーダーがいて、あとはすべてフォロワーにすぎないという考え方はいかがなものかとしています。

 第3章「分析の話」では、18で、ハーバード・ビジネス・スクールのロバート・キャプランらが、「数値で計測できないものはマネジメントできない」というのは"よく知られている格言"であるとしているのに対し、よく知られてはいるが、実際には文化やリーダーシップは数値で計測できるものではなく、この"格言"は馬鹿げた内容であると斬り捨てています。22では、マネジャーの仕事の質は、数値で評価するのではなく、頭を使って判断すべきであるとしています。

 第4章「マネジャー育成の話」の25では、ケーススタディ学習は実際の経験とは別物であることを心得るべきであるとし、27で「MBA」での授業の在り方を批判するとともに、自分たちが開発した新しい教育プログラムのポイントを挙げ、28では、その実際の進め方の特徴を紹介しています。

 第5章「分脈の話」では、後継人材の探し方や、グローバル人材であるより広い視野を持った人材であることの重要性を説き、第6章「責任の話」では、ダウンサイジングの問題点やこれからのCSRの在り方について述べています。

 そして、最終の第7章「未来の話」では、38で、誰もが発揮できる平凡な創造性こそが非凡な力を生むとし、40で、「もっと多く」より「もっとよく」を目指すべきであると、41で、ベストよりグッドを目指ざせと説いています。

 MBA教育の在り方などに対する批判を通して、既成概念にとらわれない新たなマネジメントの視座への気づきを与えてくれる本です。著者は、MBAでは、マネジメントの「アート」も「クラフト」(技)も教えられないので、「サイエンス」に頼り、分析やテクニックばかり教えているとしています。

著者の言う「アート」や「クラフト」とは何かを知るには、同著者の『エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論』(2014年/日経BP社)が参考になります。さらに言えば、マネジャー研修等を企画する側にある人事パーソンとしては、『マネジャーの実像』(2011年/日経BP社)に読み進むことで、ミンツバーグの経営思想へのより深い理解に繋がるのではないかと思います。

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「教科書」であると同時に、コンサルティング会社の「販促本」でもある?

ジョブ型人事制度の教科書1.jpg 『ジョブ型人事制度の教科書 日本企業のための制度構築とその運用法』['21年]

 ヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」に属する著者らによる本書は、「ジョブ型」人事制度について書かれた初めての専門書であるとのことです。本書で言うジョブ型人事制度とは、人事制度を構成する等級制度・評価制度・報酬制度が「ジョブサイズ(職務価値)」を核として構成される仕組みで、ヘイグループが開発したものです。

 第1章では、ジョブ型人事制度はここ数年、第3次ブームを迎えているとしています(第1次ブームは2000年前後の「成果主義ブーム」、第2次ブームは2010年~2015年の「グローバル人事ブーム」)。いまジョブ型人事制度が求められる背景として、変化の激しい事業環境への対応、同一労働同一賃金の要請、高齢化社会の到来などを挙げています。

 第2章では、日本企業でもジョブ型制度の普及が進んでいて、その狙いは、年功序列の打破、適所適材の実現、スペシャリスト人材の活用にあるとしています。また、非管理職にも広がりつつあるとしながらも、新卒一括採用・ゼネラリスト育成はジョブ型に馴染まないとしています。さらに、日本企業が簡単にジョブ型制度へ移行することができない理由として、企業文化の問題、異動の柔軟性の阻害、運用負荷の増大の3つを挙げています。

 第3章では、日本企業の労働慣行とジョブ型制度のギャップを分析しています。ジョブ型制度において異動は類似した職種になるのが原則であるとし、新卒一括採用・ゼネラリスト育成との兼ね合いについて考察、日本企業に合ったジョブ型制度として、職能型からスタートしてジョブ型にシフトしていくハイブリッド型の制度を提案しています。

 第4章では、ジョブ型制度における等級制度について解説しています。その根幹は職務等級であり、職務評価の仕方やそれを踏まえた等級体系の構築、職務記述書の作成方法などについて解説しています。

 以下、第5章と第6章で、ジョブ型制度における評価制度と報酬制度について、第7章と第8章で導入コミュニケーションと運用体制・プロセスについてそれぞれ解説し、第9章でジョブ型制度の導入事例を紹介しています。最終章の第10章では、ジョブ型制度の導入における課題として、メンバーシップ型雇用の発想を転換する必要があるとしています。

 以上の通り、ジョブ型制度とは、職務等級制度を基本人事制度とする制度であり、本書は、職務等級制度の「教科書」とも言えるものでした。その意味ではオーソドックスな内容ですが、特に目新しいものではないように思いました。

 2000年前後に多くの企業が職能資格制度から職務等級制度への移行を図り、必ずしもうまくいかなかった結果として、両方を中和したような役割等級制度が主流になっていたという経緯があるかと思います。中には、役割給が総合決定給化して、賃金制度が年功的な運用になっていることが問題化しているケースもあるかと思われます。そうした状況を打開するうえで本書は参考になるかもしれません。ただし、「メンバーシップ型雇用の発想を転換する」ということにまでなると、制度だけ入れれば済むというものではなく、まだまだ多くの議論の余地があるようにも思います。

 「ジョブ型」の意味ですが、「日本企業でもジョブ型制度の普及が進んでいる」という言い方をする際には「役割・職務給」という捉え方をし、そのほかのところでは、職務等級制度という意味で使っているのが気になりました。

 「教科書」であると同時に、コンサルティング会社の「販促本」でもあるように思われました。職務主義のベクトルを全否定はしませんが、自社に企業風土改革の素地が無いのに安易に飛びつくと上手くいかないこともあるだろうし、自分のところだけでは出来ないということでコンサルティング会社の協力を仰ぐと、費用ばかり高くついて自社に合わないものが出来上がってしまう可能性もあると思います。

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「働かないおじさん」を変える、ミドル人材が活性化される仕組み例を多く紹介。

働かないおじさんが御社をダメにする.jpg働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋 (PHP新書)』['21年]

 本書によれば、長年、企業を悩ませているのが「働かないおじさん=成果を出せないミドル社員」問題であり、テレワークが進んだ昨今は、成果を出せる社員とそうでない社員に二極化し、企業側も、年功序列でパフォーマンス以上に高い給与をもらっている彼らにどう対応すべきか、判断を迫られているとのこと。しかし、政府の働き方改革実現会議で有識者議員を務めた著者は、働かないおじさんの本質は「"変化に対応できないこと"にある」と言い、そのため、企業が変化に強い社員・風土を育てられなければ、今いる働かないおじさんをリストラしても、第二第三の「働かないおじさん」が生まれ続けるだけだと。そこで本書では、ミドルシニア層を活用しながら、働き方改革や業務改善に成功している各種企業の事例を解説することで、「ミドル活躍で伸びるすごい会社」の共通点を探ろうとしています。

 因みに、本書で取り上げられている「おじさん」とは、実際的にはミドル世代を指しますが、必ずしも性別や年齢で特定はしないようです。簡単に言うと、アップデートしない人、変化に抵抗する人が該当します。そして、「おじさん=変化を拒む人」を活性化することで、企業力は確実にアップするとしています。

 本書は以下の6章から構成されています。
  第1章:働き方のパラダイムシフトが起きた!
  第2章:「働かないおじさん」はこう変える!ミドル活用の「新常識」
  第3章:ミドル人材が活性化される仕組み 「ミドル人材活躍推進」の先進事例
  第4章:「ミドル人材活用」の担当者たちが本音を語る
  第5章:「新しい人材」としてのミドル
  第6章:変わるマネジメント こらからの時代に求められる「ミドル人材」とは

 第1章「働き方のパラダイムシフトが起きた!」では、コロナ禍で起きた「働き方」のパラダイムシフトについて説明、経営者や管理職、一般社員までもがテレワークを利用したことで、仕事における時間と場所の意識にパラダイムシフトが起きたとしています。

 第2章「「働かないおじさん」はこう変える!ミドル活用の「新常識」」では、そんな中でミドルの意識改革をどう進めるべきかを考察、働き方改革を拒むのは「おじさん」たちだが、抵抗勢力だからといって、彼らを取り残したまま働き方改革を進めても、生産性の高い組織にはならないとし、働かないおじさんの6つのリスクとして、
  組織のリスクその1:イノベーションの停滞
  組織のリスクその2:生産性の低下
  組織のリスクその3:不祥事の発生
  組織のリスクその4:優秀なイノベーション人材がトップになれない
  個人のリスクその1:若手のモチベーション低下
  個人のリスクその2:会社におじさんの居場所がなくなる
を挙げ、さらに、おじさん(ミドルシニア)が変わるための5つの提案として、
  提案1:旅に出よ、ワーケーションせよ
  提案2:自分をマネジメントするスキルを身につけよ
  提案3:自分のキャリアを取り戻せ
  提案4:有害なステレオタイプから自由になれ
  提案5:我に帰れ
を挙げています。

 第3章「ミドル人材が活性化される仕組み」では、「ミドル人材活躍推進」の先進事例として、
  大和証券:「ASP研修」&「ライセンス認定制度」(45歳以上の学びと成長の場)
  三菱地所:プロパティマネジメントの業務改善プロジェクト(残業3割削減・残業代は給与に還元)
  チェリオコーポレーション:残業25%削減、生産性2割増
  キリンホールディングス:「なりキリン」プロジェクト(おじさんたちが「働くママパパ」の日常を体験)
  ロート製薬:「ロートネーム」でおじさんと若手の壁をなくす
を紹介しています。これらを見ると、企業によってさまざまアプローチがみられることが窺えます。

 第4章「「ミドル人材活用」の担当者たちが本音を語る」では、企業で「おじさん改革」に取り組む担当者の座談会で、現場の実態と本音を知る上で参考になるかと思います。

 第5章「「新しい人材」としてのミドル」では、おじさんたちを新たな人材として採用し、ベテランならではの経験や能力を組織として積極的に活用している企業やプログラム例として、
  森下仁丹:「第四新卒」採用
 「キャリア・シフトチェンジ(C&C)」プログラム
を紹介しています。これらは、おじさんたちを新たな人材として採用し、ベテランならではの経験や能力を組織として積極的に活用している企業であったり、「第二の新人教育」として中高年が長く活躍するための研修に取り組んでいる事例になります。

 第6章「変わるマネジメント」では、こらからの時代に求められる「ミドル人材」像を探っています。また、、「マネジメントFができるミドル」を育成するための研修事例を紹介しています。紹介されている事例は、
  カゴメ:評価制度改革(役員でも減収あり。納得感のある「人事評価」)
  P&G:「アンコンシャスバイアス研修」でおじさんのマネジメント」を変える

 事例が豊富に紹介されており、また、その事例部分が本書の核となっているかと思います。これら先進事例における制度的なアプローチは多岐多様であり、その中で共通項を見出すと言うよりも、自社で制度設計する際のヒントになるものがあれば参考にするといった感じではないでしょうか。

 むしろ共通するのは、その根底にある、「働かないおじさんたち」を排除するのではなく、多様な人材が一体となって価値を生む「インクルージョン」を重視する考え方であり、こうした課題に組織的に取り組んでいる企業がすでにいくつもあるという点が、本書の最も啓発される要素であったように思います。

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"GAFA"の経営者らが師と仰いだ伝説の人物のコーチングとはどのようなものかを紹介。

対話型OJT.jpg対話型OJT 主体的に動ける部下を育てる知識とスキル』['00年]

 本書では、部下・後輩という教える対象だけでなく、周囲のメンバーも巻き込み、「対話」を行いながら、成長できる環境を作り出していくことで、自ら考え、動くことができる「自立型人材」の育成を目指す「対話型OJT」というものを提唱し、そのための知識とスキルを解説しています。

 第1章(Why)では、なぜ今「自立型人材」が求められるのか、自立型人材はどのように行動し、自立型人材を育てるために必要なことは何かを説明しています。本書では、「ミニ起業家」「副業・兼業者」を自立型人材の最たるものとしていますが、そうした自立型人材は一般に扱いにくいと思われています。それは、彼らによる「遠心力」が働く中で、職場・組織としての「求心力」も保つ必要があるためで、これからのリーダーには、自立型人材を育てるとともに、それらを取りまとる力が求められるとしています、

 第2章(Who)では、マンツーマン型のOJTには限界があるとし、一人で教えようとせず、複数で教えるネットワーク型OJTというものを提唱しています。その際に、同僚による「業務支援」、上司を含む職場メンバー全員による「内省支援」、上司が注力する「精神支援」、というように役割分担をすべきだとしています。

 第3章(what)では、人は経験することで成長するものであるとし、部下・後輩に経験学習をどのように提供すべきかを説いています。また、人の成長を促すのは、「コンフォート・ゾーン(快適空間)」と「パニック・ゾーン(混乱空間)」との間にある「ストレッチ・ゾーン(挑戦空間)」での経験であるとし、「ストレッチ経験」をさせる場合は、上司・先輩側からの支援がとりわけ重要になるとしています。

 第4章(How long)では、育成にどれぐらい時間がかかるかについて、適応までの「短期」、手ばなれまでの「中期」、一人前のパートナーになるまでの「長期」に分けて解説しています。

 第5章~第7章(How)では、第5章で、「対話型OJT」の前提と実践の際の留意点を、第6章で、リモート環境での効果的なコミュニケーションのノウハウやスキルを紹介しています。また、第7章で、手離れを促す教え方として、ティーチングとコーチングの中間に位置する「スキャフォルディング(足場をかける)」という指導手法とその実践について解説しています。

 最終章の第8章では、本書で紹介した「対話型OJT」をリモート環境で具体的に活用していく方法を、ケースをもとに紹介しています。

 リモート環境下の「会えない時代」において、主体的に動ける「自立型人材」を育てるにはどうすればよいかという命題のもとに、「対話型OJT」というものが提唱されていて、体系的にもよくまとまっていると思いました。

 本書の中には数多くのフレームワークや考え方、実践の方法が示されていますが、それらをすべてそのまま現実に当て嵌めるというよりは、その中に含まれているエッセンスを自分なりに咀嚼した上で、現実の状況を踏まえつつ応用していくことが求められるのではないかと思います。単に仕事を覚えさせるためだけのOJTではなく、「自立型人材」を育てるためのOJTという視点は、啓発的であったと思います。

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人事賃金コンサルタントとしての成功の秘訣は? 人事賃金コンサルを目指す人にお薦め。

「同一労働同一賃金」の具体的な進め方.jpg 『企業経営を誤らない、「同一労働同一賃金」の具体的な進め方』['20年]

 本書によれば、2014年頃から人事コンサルティングのニーズが再び高まっているとのこと。但し、今、企業が求めているのは、他社に追随する表面的な成果主義人事制度などではなく、将来に向けて新たな成果を創出していくための「社員が理解し、やりがいが持て、定着する」独自の人事制度であるとのことです。

 著者はこれまで「実際に運用できて十分に機能しえる人事制度」を目指してきたとのことで、本書では、著者の25年にわたる人事コンサルタントとしての実体験を基に、コンサルタントとしての基本的な心構えから、中小企業を中心とした人事制度・賃金設計の知識や手順、運用・企画提案の仕方から業務の進め方まで、広く、また重要ポイントを追って解説しています。

 特に第Ⅰ編「人事コンサルタントの基本」では、人事コンサルタントとしてのスタンスや企業との接点の場においてどのようなことに留意すべきかを、自らの経験に基づき余すところなく披露しており、人事コンサルタントとしての「成功の秘訣を伝授」という帯書きは決して大袈裟ではないように思いました。

 第Ⅱ編「人事コンサルティングの実行と手順」は人事コンサル、賃金コンサルの実務編であり、テキストとして著者のノウハウを丁寧に解説し、また、実際に活用しているコンサル資料も数多く添付する一方で、ここでも単なるテクニカルスキルの範疇に止まらず、制度に込められた意図や導入に際して留意すべき心構えなども併せて解説しています。

 そして第Ⅲ編「人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ」では、コンサルタントの役割とはを改めて問い直すとともに、コンサルタントの資質の磨き方、コンサルティングのきっかけづくりなどについて解説しています。個人的には、著者がその中で示している、従来の企画提案型のコンサルティングに対する新たなアドバイザリー(側面支援)型のコンサルティングというスタイルに関心を持ちました。

 全体を通して、全てのケースに同じことが当てはまるわけではないが、自らの経験上こうした方がうまくいくことが多かった―といった謙虚なスタンスの解説になっていて、一つの考えを読者に押しつけることをしないながらも、そのベースに四半世紀もの実地経験があるかと思うと、却って述べられていることに説得力が感じられました。

 人事賃金コンサルタントを目指すには格好の書であり、特に社会保険労務士などの開業者で、人事賃金コンサルを付加価値業務として行いたい人、或いは人事賃金コンサルを主体としてやったいきたいと考えている人にお薦めですが、その道に進んで暫くしてから振り返って本書を読むと、また更に得心する箇所が多くあるかもしれません。

 また、例えば賃金制度の解説部分などは、時代の流れに適合した制度の説明がしっかりなされているため、社会保険労務士に限らず、企業内の人事パーソンが読んでも参考になる部分は多いかと思います。企業に勤務している社会保険労務士であったも必ずしも人事賃金制度の策定等に携わっているわけではないので、そうした人に賃金制度策定等に関心を持っていただき、3号業務を身近に感じるようになっていただく上でもお薦めできる本かと思います。

《読書MEMO》
●目次 :
第Ⅰ編 人事コンサルタントの基本(はじめに/ マネジメントコンサルタントという仕事/ 人事コンサルタントとしてのスタンス ほか)/
第Ⅱ編 人事コンサルティングの実行と手順(現状分析の手順とポイント/ 基本人事制度の設計手順とポイント/ 賃金設計 ほか)/
第Ⅲ編 人事賃金コンサルタント(社外・社内)としてのスキルアップ(コンサルタントの役割とは/ コンサルタントの資質の磨き方/ コンサルティングのきっかけづくり ほか)

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社員感染時の対応や在宅勤務や時差出勤のルール構築等を分かりやすく解説。

新しい企業の人事・労務管理.jpg新しい企業の人事・労務管理1.jpg
with&after コロナ禍を生き抜く 新しい企業の人事・労務管理』['20年]

 本書は、新型コロナウイルス感染症により変化した会社の経営や勤務形態を踏まえ、社員が感染した場合の対応、在宅勤務や時差出勤のルール構築、人事評価制度や就業規則の見直しなど、人事・労務管理上のポイントを実務家の視点で解説したものです。

 第1章「感染拡大予防とコロナ禍時代の新しい企業活動」(全9節)と第2章「コロナ禍時代のダメージコントロール」(全3節)から成り、 各節の各項は、必要に応じて「基礎編☆」(対応が必須の事項)、「応用編☆☆」(対応の必要性が高い事項)、「発展編☆☆☆」(留意しておいたほうが良い事項)に分類されています。

 第1章の第1節「社員感染時の対応」では、基礎編で、社員が新型コロナウィルスに感染した場合は入院勧告の対象となることや、賃金・休業手当の支払いの要否、社内調査・社内公表の必要性について述べ、さらに、体調不良社員への自宅待機命令の可否や、その場合は休業手当の支払いが必要かどうかを解説しています。続く応用編では、社員と同居している家族が発症した場合や社員寮・社宅居住者が発症した場合の対応を、発展編では、社員の労災認定や会社の法的責任はどうなるかを解説しています。

 第2節「勤務形態の変更に伴う社員対応」では、基礎編で、出社を拒否しテレワークを要求する社員や、逆にテレワークを拒否して出社要求する社員への対応を、応用編では、出社拒否社員に担当変更やワークシェアリングを求める場合の留意点を、さらに、採用内定者の入社延期・内定取消しは可能かどうか解説しています。

 第3節「賃金・処遇」では、基礎編として、コロナ禍休業時の賃金・休業手当の支払いの要否について述べるとともに、休業時に有給休暇の活用する方法や、テレワーク実施費用の会社負担を軽減するためのポイントを述べています。さらに応用編では、休業手当の算定方法や雇用調整助成金の活用など実務面の解説をし、発展編では、コロナ禍対応に報いるための一時金の支給を提案するとともに、業・副業を許可する場合の留意点などを述べています。

 第4節「労務管理①:オフィスにおける感染防止策」では、基礎編としてオフィスにおける感染防止策顔説しています。

 第5節「労務管理②: テレワーク」では、基礎編で、テレワーク労務管理の基本や労働時間の管理方法、「事業場外みなし労働時間制」の適用について述べ、応用編で、情報管理の徹底・情報セキュリティ、柔軟な労働時間の実現と残業ルールの明確化・長時間労働防止策、作業環境整備による社員の安全衛生管理・労災リスクの回避、社内教育・「試しテレワーク」の必要性、テレワークにおける業績評価・人事評価、電子契約の活用について解説しています。

 第6節「労務管理③: 時差出勤・自家用車通勤・自転車通勤」では、基礎編で、変形労働時間制、フレックスタイム制について、応用編で、自家用車通勤・自転車通勤における安全確保対策等について、発展編で、勤務時間の一部をテレワークにする場合について解説しています。

 第7節「労務管理④:テレワークにおける業務効率アップ・インセンティブ確保・メンタルヘルスケア」では、基礎編で、社員同士のコミュニケーションの充実、会社・部署内での方針共有・一体性確保、オンラインハラスメントについて、応用編で、管理職に対する教育研修の実施について解説しています。

 第8節「就業規則など未整備時の対応」では、基礎編として、就業規則の作成と届出の基本と、テレワークに関する就業規則等の未整備、通勤手当不支給に関する規程の未整備、三六協定・特別条項の未整備の場合どうすればようかを述べています。

 第9節「雇用契約以外の活用とトラブル対応」では、応用編として、「外注契約」の活用と留意点、労働者派遣契約の中途解約、コロナ禍に起因する取引契約の不履行による法的責任について解説しています。

 第2章「コロナ禍時代のダメージコントロール」の第1節「経費削減」では、応用編として、オフィス縮小、賃料負担軽減、ワークシェアリングと副業・兼業勧奨、事業所閉鎖と配転命令について述べ、第2節「効率的な人材活用・人員削減とトラブル対応」では、応用編として、、「新しい」成果主義の導入、業務フローの検証及び改善、「外注契約」への恒常的シフトについて述べ、発展編として、退職勧奨、整理解雇・雇止めを扱い、第3節「会社経営が悪化したときの対応」では、応用編として、会社再建(債務整理)の手段、事業譲渡・廃業を前提とする清算型の法的倒産手続きについて解説しています。

 法律の専門家ではない人も読者として想定して書かれている大判本なので、基本事項に絞られている分理解しやすいです。法律上どうなるかを述べるだけでなく、実務上の対応にも踏み込んでいます。ただし、未曽有の事態であるため「正解」がない事柄も多く発生するであろうとし、活用上の注意点として、本書は実務上の「正解」が書かれているわけではないため、実務上の「正解」については、専門家に相談することを勧めているのも丁寧であると思いました。通読することで、自身の理解度をチェックしてみるのもよいかと思います。

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ダイバーシティを企業の活力に。部下ミュニケーションの部分が具体性があった。

ダイバーシティ・マネジメント大全.jpg成果・イノベーションを創出する ダイバーシティ・マネジメント大全』['20年]

 本書では、この度の新型コロナ・パンデミックによって急速な社会変革が進行し、日本人に馴染みの"職場"や"協働"といった概念も変わって、これまで"コンパクトシティ"を目指して「集中・集約化」を行ってきた日本は、今や「集中・集約化」のリスクと向き合わなけれならなくなっていて、「分散化」につながるダイバーシティこそが強みになるとしています。いるとしています。その上で、多様性を認めるダイバーシティ・マネジメントから発展した、成果・イノベーションを創出するダイバーシティという考え方と、その実現方法を示しています。

 第Ⅰ章では、ダイバーシティ・マネジメント(ver.1)の歴史的経緯とアフターコロナ時代の新しいダイバーシティ・マネジメント(ver.2)の概観を説明するとともに、ダイバーシティ・マネジメントとは何か、わが国におけるダイバーシティの現状を、「ジェンダー」「性的マイノリティ」「ジェネレーション/両立社員」「外国人」「障害者」「テレワーク社員」という観点から分析し、さらに、ダイバーシティ・マネジメントを推進する"ビジネスメリット"を説いています。

 第Ⅱ章では、まずジェンダーをテーマに、女性社員・男性社員・LGBTQ+社員について考察し、性別ではなく認知機能の違いによる"個人差"の違いを認め、相手に応じて、体系的・論理的な「システム優位型」働きかけと、相手に感情移入する「共感優位型」の働きかけを使い分けることを説いています。そして、部下に対する1on1においてもこの使い分けは可能であるとして、その具体例を挙げています。続いて、ジェネレーション(若手社員・シニア社員)のマネジメントについて言及し、若手社員を活かすにはローコンテクストなコミュニケーションが有効であり、一方、シニア社員を活かすにはハイコンテクストなコミュニケーションが有効であるとして、具体例を挙げています。

 第Ⅲ章では、外国人社員と障害を持つ社員のマネジメントについて言及しています。外国人社員とのコミュニケーションについては、エリン・メイヤーの『異文化理解力』を引いて、外国人社員を活かすにはローコンテクストの「論理的」なコミュニケーションが効果的であるとしています。また、障害を持つ社員を活かすためのマネジメントで意識すべきポイントを5つ挙げています。

 第Ⅳ章では、仕事と生活を両立しながら奮闘する社員を「両立社員」と定義し、「育児」「介護」「傷病治療」「学習」と仕事を両立する社員について考察しています。ここでは、部下とよく話し合い、さまざまな支援制度の利用を当事者である部下と一緒に考えることなどを推奨しています。

 第Ⅴ章では、テレワーク社員のマネジメントについて述べています。ここでは、テレワークで部下へのマネジメントに求められる4つのポイントとして、業務の成果、オンライン・コミュニケーション、個別管理、組織管理の、それぞれの在り方を解説しています。

 第Ⅵ章では、成果を創出するマネジメントのポイントとして、①生産性を意識する、②成果を評価する、③時間を限定する、④無駄な業務を排除する、⑤成果と業務を"見える化"する、という5つの観点か述べるとともに、成果を創出するマネジメントへ転換する際に乗り越えるべき障壁や、「オンライン」による組織の変質とそれにどう対応すべきかを説いています。

 第Ⅶ章では、成果の創出からさらに一歩進んで、ダイバーシティがイノベーション喚起するとし、イノベーションを生み出す企業文化とはどのようなものかを解説し、最後に、多様性こそが"持続可能"な経営を創るとして、本書を締めくくっています。

 コロナ禍によって人々の働き方や組織の在り方が変わるということはすでにあちこちで言われていることですが、そのことを踏まえ、、これからのダイバーシティ・マネジメントはどうあるべきか捉え直しているのが本書の特徴でしょうか。全体を通して、コミュニケーションの重要性が強調されていたように思いました。

 ただ、そのコミュニケーションに関しては、若手社員を活かすにはローコンテクストなコミュニケーションが有効であり、シニア社を活かすにはハイコンテクストなコミュニケーションが有効であるといった、比較的「具体的」な実践方法が見られた一方で(著者の得意分野?)、成果・イノベーションを創り出すダイバーシティという考え方の部分は、やや「概念的」だったように感じました。

 とは言え、ダイバーシティを企業の活力にしたいと考える経営者や人事担当者、実際に職場でマネジメントする現場のマネジャーにとって多くの示唆を含む内容であったと思います。

《読書MEMO》

プロローグ 働き方の変化によって加速化する、ダイバーシティ・マネジメント
I章 ダイバーシティ・マネジメントの今──ver.1からver.2へ
Ⅱ章 属性の違いを活かすマネジメント──ジェンダー、ジェネレーション
Ⅲ章 2%のマイノリティを活かすマネジメント──外国人、障害者
Ⅳ章 多様な生活様式を活かすマネジメント──育児、介護、傷病治療、学習との両立
Ⅴ章 時空間を超えるマネジメント──テレワーク
Ⅵ章 成果を創出するマネジメント
Ⅶ章 ダイバーシティからイノベーションへ
エピローグ 多様性こそが"持続可能"な経営を創る

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定年延長は「日本型=会社従属型」から「ジョブ型=職務請負型雇用」への一里塚であると。

失敗しない定年延長.jpg 『失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために (光文社新書)』['20年]

 組織人事コンサルタントによる本書では、労働力不足を補う最も手近で有用な人材は、シニアの活用をおいて他にないが、小手先の定年延長をすれば「残念なシニア」が大量に生まれ、企業のみならず日本経済全体の後退をも引き起こすとし、"正しい定年延長"の在り方を提言しています。

 第1章では、日本企業の職に少なからず存在する残念なシニアを、迷惑系・勘違い系・無力系に類型化するとともに、社員が残念なシニア化してしまう大きな理由は、定年再雇用の仕組みによるモチベーションダウンにあること指摘し、日本企業では、中高年社員の半数以上が会社の人材育成施策の対象外であり、約7割の社員が自己学習すらしていないとしています。

 第2章では、少子高齢化の進展で生産年齢人口が大きく減少するなか、若手人材の不足を女性・外国人雇用だけでカバーするのは困難であるため、シニア雇用が人材確保政策として有力な選択肢となり、定年延長は国策として推進される可能性もあるとしています。

 第3章では、シニア雇用のあるべき姿を検討する際の前提となる「雇用ジェロントロジ―(老年学)」という考え方を紹介し、加齢による体力・知力・心の変化、心身機能の低下と、それらが職務にどのような影響を及ぼすかを解説しています。

 第4章では、定年延長のあるべき姿として、
  ①会社がシニアに期待する職務をリスト化し、職務内容・要件を明示する
  ②個々の職務について、その客観的価値に基づく適正な処遇水準を設定する
  ③個々の職務に最適なシニアを配置する
  ④シニア一人ひとりの働きぶり・成果に報いる
という4つのステップを示すとともに、現在の人事制度との乖離が大きい場合の処方箋として、60歳到達前までは従来の人事制度を維持し、60歳到達以降は定年延長のあるべき姿に基づく制度とする、一社二制度とする方法もあるとしています。

 第5章では、日本型雇用システム=会社従属型雇用は世界に類を見ないガラパゴス的な雇用システムであるとして、その成立の経緯と特徴を架空の人物のエピソードに基づいて紹介するとともに、会社従属型雇用の真因は正規社員の長期勤続にあり、「生産性の低い働き方」「職務価値と乖離した報酬水準」「正規・非正規社員間の不平等な処遇」「会社依存のキャリア形成」という4つの弊害を生じさせており、会社従属型雇用を日本企業が継続する限り、企業各社の成長も日本経済の復活もないとしています。

 第6章では、日本企業が今後、どのような人材マネジメントを展開していくべきか、経済産業省主催の研究会による提言が示す「今後目指すべき方向性」と「具体的なアクション」や、経団連による「経営労働政策特別委員会報告」の提言する「Society 5.0時代の働き方」の内容などを紹介しています。そして、そこらから、ジョブ型の人材マネジメントの必要性を確認するとともに、ジョブ型の人材マネジメントへ一足飛びに移行するのではなく、従来からの「日本型=会社従属型」と「ジョブ型=職務請負型」の複数の人材マネジメントを組み合わせることで多様な人材を受け入れるようにすること、そのために「ジョブポートフォリオ」を設計し活用することで最適な労働力を確保をすることを提唱しています。

 会社従属型雇用は数ある労働力確保方法の1つと位置づけ、ジョブ型=職務請負型雇用を中心とした労働力確保のフル活用が求められていることを説き、定年延長は、ジョブポートフォリオ・マネジメントの一環であり、今後の人材マネジメントをジョブ型で行っていくための一里塚となるもので、企業にとって最重要プロジェクトであると説いたものでした。

タイトルからテックカルなことが書かれていると思われがちですが、人事部員だけでなく、自社の人材マネジメントの将来を憂う経営者、これから定年を迎える会社員などを読者層に想定した啓発書でした。最終章がいかにもコンサルティングファームっぽい纏め方になっているのがやや気になりましたが、独自の視点で定年延長の問題を捉えているという点で、人事パーソンにとっても啓発的であるかと思います。

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優優れたリーダーは「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念)」から始める!

WHYから始めよ!.jpg
WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』['12年]

WHYから始めよ!gc.jpg 本書は、コンサルタントである著者が、TEDでの「優れたリーダーはどうやって行動を促すのか」というプレゼンで提唱して注目を集めた〈ゴールデン・サークル〉理論を書籍化したものです。その趣旨は、人々や社会を巻き込む力を持つリーダーには共通点があり、それは思考を「WHAT(結果)」からではなく、「WHY(理念と大義)」から始めるという点にあるということです。本書は、組織の内外の人々に感銘を与え、やる気を起こさせ、アイディアやビジョンを発展させる手助けができる"インスパイア型リーダー"になる方法を説いたものです。

 第1部「WHYから始まらない世界」では、第1章「あなたの思い込みが間違っていたら?」で、我々はつい勝手な思い込みをして、不完全な情報を基に誤った判断をしがちだが、長期的な成功を得ることができるのは正しい判断が下された時のみであるとしています。第2章「飴と鞭」では、人に影響を与えることができる方法は、「操作(マニュピレーション)」と「鼓舞(インスピレーション)」しかなく、価格競争・プロモーション・恐怖心の利用・上昇思考メッセージ・目新しさなどの様々な操作は、短期的な利益を得るためには有効な手段だが、操作から継続的な忠誠心が生まれることはなく、別の正しい方法(つまり鼓舞)が存在するとしています。

 第2部「WHYから始まる世界」では、第3章「ゴールデン・サークル」で、著者が〈ゴールデン・サークル〉と命名したコンセプトを紹介しています。これは、人に何かしらの情報を伝え、行動を促したい時、「WHY・HOW・WHAT」という3層のサークル状の構成要素が存在し、サークルの中心にあるWHY(なぜ)から始め、HOW(どうやって)、WHAT(何を)の順で相手に伝えると共感を生むことができるという理論です。例えば、アップルのメッセージはWHY(理由)から始まっていて、つまりそれは目的、大義、理念であり、アップルを際立たせているのは、アップルのWHAT(していること)ではなくWHYであり、アップルの製品は、彼らの信念に命を吹き込んだものなのだと。「よりよい」製品という考え方には疑問が伴い、なぜその製品が存在するのかが最初に考えられるべきであり、それを望む人がいる理由と一致してなければならず、どの場合でも、初心、大義、信条といったものに立ち戻っていれば、業界の変化に対応できると。「競争に勝つためににはなにをすべきか?」と自問するのではなく、「そもそも自分たちの理念とはな何か、その理念に生命を吹き込むには、なにができるか」と自問すべきなのだとしています。

 第4章「これは生物学だ」では、どこかに帰属していたいという願望は、理性から生じるものではなく、どんな文化であろうとすべての人間がもつ普遍的なものであるとしています。また、意思決定を司る脳の部位は、言語機能を司っていないため、我々は無理やり説明をくっつけるが、WHYがなければ、決断を下すのは難しくなり、不安な気持ちのままデータや数値に頼って決断を下そうとするようになると。WHYが鮮明な製品は、ユーザーの理念や信条を周囲に明確に伝える力を持っているが、WHYを曖昧にしている企業は、顧客の要望を叶えようとHOWやWHATで始めてしまい、低価格、特徴の数、サービスや製品の品質といった操作で差異化を図って勝負せざるを得なくなるとしています。

 第5章「明快さ、厳しい指針、一貫性」では、終始一貫したWHATには「本物であること」が求められ、本物であることは、永続する成功には必須だが、これは、もとをたどればWHYに行きつくとしています。そして、自分のWHYがわかっていなければ、志や理念を言動であらわすことなどできず、自分のWHY(信条)と言動が矛盾せず、終始一貫していなければ、本物になれないと。リーダーは自分の心から信じることを行動に移すことによって本物(オーセンティシティ)になり、周囲の同じ信条を持っている人がついてくるとしています。

 第3部「リーダーには信奉者が必要」では、第6章「危機に瀕する信頼」で、勝ちたいという欲望は、本質的に悪いものではないが、得点だけが成功の基準になると問題が生じるとしています。会社や顧客のためではなく「自分のために」勝たなければならなず、会社やリーダーは、社内の人間が「自分のために」と思えるようなWHYを持つ必要がある―つまり、会社のWHYと自分のWHYを一致させ、自分のためにやったことが会社のためになっていることが理想なのだとしています。

 第7章「ティッピング・ポイントとは」では、ビジネスや社会でティッピング・ポイント(それまで小さく変化していたある物事が、突然急激に変化する時点)に達するには、コネクター(イノベーター、アーリーアダプター)による口コミが必要だが、初期ターゲットとするイノベーターやアーリーアダプターには単に影響力をある人を選ぶのではなく、自分たちが信じているものを信じてくれる人を選ぶべきであると。ビジネスの目標は、単に誰か(大衆)に商品を売ることではなく、理念や信念に共感してくれる人を探すことにあり、初期採用者についてそうした狙いを定めていれば、最終的には大衆がついてくるとしています。

 第4部「信じる人間をどう集結させるか」では、第8章「WHYからはじめよ、だがHOWを知れ」で、世の中にはWHYタイプの人(夢を語る人)とHOWタイプの人(計画を立てる人)が存在するが、優劣があるわけではなく、WHYタイプの語る信念・大義を中心に、それらをメガホンのように拡散する役割をHOWタイプが担っていて、WHYを知る人にはHOWを知る人が必要であり、WHYタイプの役割は、人々をインスパイアし、活動をおこすことだとしています。

 第9章「WHYがわかり、HOWもわかった。で、WHATは?」では、リーダーは、メンバーに信念を確実に信じさせ、それを実行する方法を理解させなければならず、また、HOWタイプはWHYを理解する責任を負っているとしています。組織のトップに座っているリーダーは、インスピレーションであり、我々の行動理由のシンボルなのだと。

 第10章「コミュニケーションとは耳を傾けること」では、業績をあげている会社の「最善策」を、つまりWHATやHOWをそのまま真似るだけではダメで、大切なのは、WHATやHOWではなく、HOWとWHATがWHYと一致しているかどうかが肝心なのだとしています。

 第5部「成功は最大の難関なり」では、第11章「WHYが曖昧になるとき」で、起業した後、あるいは仕事を始めた後、自分が行うWHATに我々は自信を深めていき、それを行うHOWに精通していく―業績を上げれば、どれだけの成功をおさめたかを数値で知ることができ、これでまた精進した、成功した、と感じることができる―ところがその過程で、そもそもどうしてこの旅を始めたのかというWHYをすっかり忘れてしまいがちになり、すると、必ずWHATとWHYに乖離が生じるとしています。

 第12章「WHATとWHYの乖離」では、WHATとWHYが離れはじめた組織は、もはや理念や大義に心動かされることはなく、インスピレーションはなきに等しいと。多くの大企業が「初心に戻れ」と異口同音に言っているのも、偶然ではなく、彼らがほのめかしているのは、乖離が始まる前の時代に戻れということだとしています。

 第6部「WHYを発見する」では、第13章「WHYの源泉」で、アップルという会社のWHYの源泉はどこにあったのかを振り返り、アップルの製品は、アップルのWHYを理解する人にとって最高なのだとしています。

 第14章「新たな競争」では、他の人間と競争するとき、誰もあなたを助けたいとは思わないが、自分自身に戦いを挑むと、誰もがあなたを助けたいと思うとし、他人と自分を比べると誰も私たちを助けようとしないが、自分自身をよりよくするために出社したらどうなるか? 人々をインスパイアするために出社したたらどうなるか? と問うています。そして、もし、すべての組織がWHYから始めたら、決定はよりシンプルになり、忠誠心は篤くなり、信頼が共通認識になるだろうとしています。

 世の中には「形式上のリーダー」と「本物のリーダー」がいて、「形式上のリーダー」は、権力のある座につき、影響力を持つが、「本物のリーダー」は、私たちを感激させ、奮起させる。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語るが、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるのに対し、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうということを言っている本です。

FIND YOUR WHY2.jpg TEDで記録的な再生数を誇った著者のプレゼンテーションを見て本書を手に手にした人も多いかと思いますが、プレゼンからさらに一歩踏み込んで説明されており、啓発度が高かったように思います。単なる啓発書にとどまらず、組織論、リーダーシップ論としても読め、人事パーソンにお薦めです(本書の実践編として、『FIND YOUR WHY―あなたとチームを強くするシンプルな方法』('19年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)も刊行されている)。

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一般向け新書だが、意外と経営者、管理職向けだった。事例も豊富で解説も深い。

パワハラ問題.jpg 『パワハラ問題―アウトの基準から対策まで― (新潮新書)』['20年]

 最近、社内でのパワハラがもめて法廷にまで持ち込まれるケースが増えてきていますが、本書は、20年以上にわたりこの分野を専門の一つとしてきた弁護士が、アウトとセーフの境界はどこにあるのか、被害を受けたり訴えられたりした場合どうすればいいか、といったパワハラをめぐるさまざまな問題について、一般向けに分かりやすく解説したものです。

 第1章で、まず、ハラスメントに関する基礎知識を整理するとともに、さまざまな種類のハラスメントを解説し、第2章では、ウィズコロナ時代におけるテレワークの浸透で登場した新たなハラスメント「テレハラ」を取り上げています。第3章では、パワハラの6つの行為類型を示すとともに、どんなことがアウトでどういうときがセーフなのかを示し、また、会社や経営者・管理職の責任はどう問われるのかを解説しています。

 第4章では、いわゆるパワハラ防止法の中味にについて、パワハラ3要件を軸に解説し、第5章では、公務員の場合は法律上どう規定されているのか(人事院規則とパワハラ防止法ではパワハラの定義が違うとのこと。公務員のの方が範囲が広い)、第6章では、経営者や管理職は措置義務として何をすればよいのかを述べ、第7章では、パワハラ経営者、管理職にならないためにどうすればいいのか、例えば、部下から相談を受けたときに、部下に言っていい言葉・悪い言葉などを教示しています。

 第8章では、グレーゾーンとパワハラの境界線を示し、上司の立場に立ち、問題化した場合はどうリカバリーするべきかを説いていますが、特にグレーゾーンの事案の場合、その後の対応によって「白」にもなれば「黒」にもなることがあるというのが理解できます。

 さらに、第10章では、これも最近多いようですが、モンスター社員やネット中傷などにより管理職が被害者となった場合の会社の対応の在り方を述べ、第11章では、「問題集」形式で8つのケースを挙げて、「あなたならどう動くか」を問うとともに、望ましい対応とはどのようなものかを示しています。

 また、巻末に、「現場で役立つ最新パワハラ判決30戦」として、パワハラを認めた判決例を16、認めなかった判決を14ほど紹介しています。こうしてみると、パワハラの判例もかなりの件数が出揃い、グレーゾーンとパワハラの境界線が以前よりは見えてきた印象を受けます。

 個人的には、思っていた以上に経営者、管理職向けとの印象を受けました。人事パーソンにとっても、啓発される部分は少なからずあると思われます。新書という限られた紙数の範囲内ですが事例も豊富であり、最後の判例集などはこの1、2年のものが多く紹介されていて、実務面でも参考になります。さらに、研修などにおけるケーススタディやグループディスカッションなどに応用できる"素材"もあったように思われ、あとがきで著者自身が本書の社内研修での利用を推奨しています。

パワハラ問題に対する自身の認識・理解度を確認し、知識をブラッシュアップするために一読されるのもよいかと思います。

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「男性育休」は、啓発だけでは限界があり、少子化対策には「義務化」が必要と。

男性の育休.jpg 『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる (PHP新書) 』['20年]

 若手男性社員の多くが取得を希望しているという男性の育休ですが、その希望とは裏腹に、取得率は7%台と横ばいを続けています。少子化による人口減少の突破口としても期待されている男性育休ですが、それにもかかわらず普及しないのはなぜか、「男性育休義務化」が注目される背景は何なのか―本書は、自民党有志議員による「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」の民間アドバイザーである著者2人が、豊富なデータや具体的事例をもとに詳説したものです。

 第1章では、男性育休にまつわるよくある誤解について解説しています。育休期間中は収入がなくなる、共働きでないと取得できない、男性育休の制度がある大企業でないと取れない、といったことがいずれも誤解であることは、人事パーソンであれば常識かと思いますが、意外と経営幹部や一般社員には、そうした誤った思い込みがまだ一部にあるかもしれないと思いました。

 第2章では、男性育休の現状を豊富なデータから分析してその課題を探るとともに、結婚・出産・子育てをしたがらない若者が多くなっているのはなぜか、その背景を探っています。調査では、女子学生の9割が将来の夫に育休の取得を希望し、さらに、新入社員男性の8割、男性中堅社員の9割が育休取得を希望するものの、詰まるところ、育休を取得しづらい「職場の雰囲気」が大きな壁になっていることが事実として判明したとしています。

 第3章では、男性育休を企業が推進するメリットを説いています。男性育休は人材不足解決の切り札になるとし、男性育休の取得率を100%にすることで、残業ゼロで採用もうまくいった中小企業の事例を取り上げ、さらに、男性就活生に人気の企業は、男性育休の取得率が高いといったデータを紹介しています。そして、男性育休がもたらす変化として、①時間当たりの生産性の向上、②エンゲージメントとロイヤリティの向上、③周囲の社員や部下の成長機会になる、④上司のマネジメント力の向上、を挙げています。

 第4章では、男性育休を「義務化」することを提唱し、その理由を述べています。少子化対策には企業への働きかけが急務であるが、啓発するだけでは限界があり、少子化対策を加速させるためには、義務化が必要であるとしています。平成は"女性活躍時代"の時代だったが、それは「女性のスーパーウーマン化」によって支えられたものであり、令和は、"男性の家庭活躍の時代"にしなければならないとも述べています。

 第5章は、具体的にどのようにして男性育休を「義務化」するかについて、①企業の周知行動の報告の義務化、②取得率に応じたペナルティやインセンティブの整備、③有価証券報告書に「男性育休取得率」を記載、④育休の一カ月前申請を柔軟に、⑤男性の産休を新設し、産休期間中の給付金を実質100%へ、⑥半休制度の柔軟な運用、⑦育休を有効に活用するための「父親学級」支援策、の7つの提言をしています。

 男性育休について知るためのテキスト的要素もある本でしたが、それ以上に、男性育休を「義務化」することを提唱している本でした(だから、一般向け新書なのか。ナルホド)。企業の人事部には、男性で育休を取った前例が少なく、育休を取る人が出ないので、「いっそ、全員が取得することを義務付けてくれたらいいのに」との声も多いとのことです。先進諸国の例でも、取得が義務化されていたり、取得に対するインセンティブが用意されていたりした上での、高い男性育休取得率になっていることが窺えます(義務やインセンティブ条件を満たしてしまえば、すぐに職場復帰する傾向もみられる)。

 コロナ禍によるテレワークの浸透などで、企業における業務の生産性についても見直される機会の多い昨今、効率性の概念が弱く、社員に果てしなく残業をさせるような職場は「問題」とされ、これから企業には、生産性高く効率的に働いて、早く帰り家族に会いたいと思う社員自身の欲求を満たすことが求められるのでしょう。一般向けの新書ではありますが、男性の育休取得促進は、企業にとって経営戦略として位置付けられるとの思いを抱かされました。

 因みに、2022年の育児・介護休業法の改正により、男性の育休取得推進が義務化されています。これは、男性労働者に対して育休の取得を義務づけたものではなく、使用者に対して男性従業員の育休取得を促進することが義務づけられたというものでり、これだと「義務化」と言っても実質「努力規定」に留まっていることになってしまいます。法律は少しずつ改正されていますが、その歩みはあまりに小刻みすぎる気がします。

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啓発的かつ実践的。「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かった。

あなたの職場の繊細くんと残念な上司.jpg 『あなたの職場の繊細くんと残念な上司 (青春新書インテリジェンス)』['20年]

 自分の意見を言えなかったり、強く注意すると会社を休んだり、言いづらいことはメールで伝えてくる――といった繊細な若手社員が増えているのはなぜか? そんな若者を良かれと思った指導でつぶしてしまう残念な上司にならないようにするはどうすればよいか? 本書は、かつて企業に勤め、現在は大学教員であり、職場でのコミュケーション、メンタルヘルス問題や若者意識に詳しい著者が、世代間のギャップを考察し、若手を伸ばすリーダーや職場の共通点を明らかにしたものです。

 まず、著者は、いまNOをはっきり言えないといった繊細な若者が増えていることを指摘し、彼らがひ弱で繊細に見える理由として、①中高年には見えにくい「不安心理」、②多様性の時代に高まる「同調圧力」、③「doingからbeing」への人生に求めるもの変化、の3つがその言動の背景にあるとしています。

 第1章では、上司には見えない「不安心理」の背景には、彼らが不透明かつ不安定な時代を生きてきたことがあるとしています。彼らは常に「(Comfortable ℤone(居心地のいい空間)」に身を置きたいという気持ちが強く、会社にそうした居心地のいい空間があるかどうかを、会社の規模や知名度、給料の高さよりも重要視するとしています。たとえば、若手社員の定着率は、緩やかながらもお互いに支え合える「横の人間関係」の有無に左右されるとしています。

 第2章では、自分の意見をはっきり言わず、遅刻を注意したら退職したとか、飲み会・社内イベントの幹事をやろうとしない、海外勤務や転勤をきっぱり断る、といった最近の若者の言動の背景には、「doing(形のあるもの)からbeing(形のないもの)」への価値観の変化があり、外面よりも内面の充実を重視するようなっていて、旧来の価値観を押し付ける上司は、若手を追い込む「同調圧力」として避けられ、できる上司ほど自身の価値観を部下に「強要」しないとしています。

 第3章では、いま日本では、ハラスメントを恐れて部下にダメ出しできない上司が増えているとし、中高年の管理職が部下に言いにくいことを伝えるときは、これまで述べてきた若者の特徴を踏まえ、「かりてきたねこ」に留意すべきであるとし、「か:感情的にならない」「り:理由をきちんと話す」「て:手短に済ませる」「き:キャラクターには触れない」「た:他人と比較しない」「ね:根に持たない」「こ:個別に伝える」の7つのポイントについて解説しています。

 第4章では、できるリーダーとは、若手の力を引き出す共感のマネジメントができる人であり、若手の力を引き出す近道は、何をおいても「傾聴」であるとし、残念な上司は「指示」を出し、できるリーダーは「質問」をするとしています。

そして、部下との信頼関係を築く、以下の6つのポイントを紹介しています。
 1.100点か0点かで判断しない
 2.「いつも~だ」と考えない
 3.「マイナス思考」「マイナスだけを通すフィルター」を持たない
 4.事実から離れない
 5.「すべき思考」にはまらない
 6.レッテルを貼らない

 また、部下の成長応じて、指示は4段階で変えるようにとも(SL理論)。
 ・成熟度1(その仕事の未経験者)→「指示型」の指導
 ・成熟度2(ある程度自分でできる)→「コーチ型」の指導
 ・成熟度3(その業務に精通している)→「援助型」の指導
 ・成熟度4(専門性を持ち成果がだせる)→「委任型」の指導

 最後に「繊細な若手社員の力を引き出す、以下の6か条を紹介しています。
 1.賞罰や競争、比較をからめないこと
 2.共同体の感覚を持たせる
 3.YES・NOの表明を強要しない
 4.不安に共感し、不安を共有する
 5.相手の考え、環境、生き方に共感する
 6.責任を口にしない

 例えば、最後の「責任を口にしない」。「おまえたちのやりたいようにやってみろ。その代わり全力投球しろ。責任は俺が取るから心配するな」と、こんな啖呵を切っても、今の若手社員にはたいして響かず、彼らは「自分に酔っている」とか「耳あたりのいい台詞だけど、こっちにプレッシャーをかけている」と見透かしているとのことです(笑)。責任を強調して部下を追い込むのではなく、上司と部下で役割は違えど、同じ目的に向かっていく仲間として、ともに力を合わせていくことを伝え、それを共有していくことが求められている(179p)ということなのでしょう。

 いろいろ気付きを与えてくれて啓発的であると同時に、実践的な内容でもあったように思います。多様性の時代、働く部下のワーク・ライフ・バランスを理解し、彼らと価値観や倫理観が共有でき、良いコミュニケーションが取れることが、これからの上司に求められる資質であるとの思いを抱かされました。会社としても、そうしたことを後押しする社内環境の整備を考えるべきで、ただ、若い社員には愛社精神を持ってほしいと思っているだけでは何も変わらないのでしょう。

 著者の過去の著書の傾向からメンタルヘルスの本かと思いましたが、タイトル通り「上司学」の本でした。「新しい時代の上司学」とまで言ってしまうとどうでしょうか。SL理論をはじめ、リジッドなリーダーシップ理論も織り込まれていたように思います。でも、「新しい時代の上司学」を考えるうえでは良かったように思います。

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性別役割分業意識よりむしろ〈仕事優先〉の時間意識に原因が。

男性育休の困難.jpg 『男性育休の困難 取得を阻む「職場の雰囲気」』['20年]

性別役割分業意識よりむしろ〈仕事優先〉の時間意識に原因が。

 本書では、男性が育児休業を取得しようとする際に感じる、何となく取得を言い出せない「職場の雰囲気」はどこからくるのか、育児と仕事を両立することがなぜ困難なのかなどを、育児休業を取得した男性社員だけでなく、長時間労働の経験をもつ男性社員や女性社員たちへのインタビューの語りを通して分析しています。

 第1章では、育児休業を取得した男性へのインタビューから、職場には性別役割分業意識があり、育休と取得する男性はそれを超えるために、自らが置かれている状況が特別であることを上司にアピールする交渉力を発揮しなければならず、また、たとえ育休が取れたとしても、職場には「なんかいやーな感じ」の潜在化した批判が残ることが多いとしています。

 第2章では、男性が育児休業を取ったことで、男性の認識がどのように変化するかをインタビューを通して分析していますが、その間「仕事から離れた」ことはそれほど否定的に捉えられることはなく、性別役割分業意識よりむしろ、〈仕事優先〉の時間意識を自分が持っていたことへの気づきや、〈仕事優先〉の時間意識から〈仕事も育児も〉の時間意識への変化があったとしています。

 第3章では、育児休業を取らなかった男性や、育児をしながら働いた女性に、育児と仕事の時間配分はどうだったかを聞いていますが、労働時間を短縮しなかったケース、労働時間を短縮したケース、仕事を辞めて転職したケースがあり、いずれのケースも男女とも、育児に携わりながらも、そこには〈仕事優先〉の時間意識があったとしています。

 第4章では、正社員として働く人たちの時間意識を、長時間労働や私生活の時間に対する考えを聞くことで探り、入社当初から長時間労働をしてきた正社員は、無意識に〈仕事優先〉の時間意識を持つようになり、その結果、労働時間が私生活の時間をコントロールするようになっているという実態があるとしています。一方、残業ゼロの職場で働く人は、私生活で多彩な活動をしていることを確認しています。

 第5章では、〈仕事優先〉の時間意識と〈仕事も育児も〉の時間意識は、職場でどのような位置づけにあり、これらの時間意識が明らかにする育児の特殊性はどのようなものかを考察しています。そして、従来の「望ましい労働者」像は、〈仕事優先〉の時間意識を持ち、それを実践している労働者である一方、育児は、(柔軟に減らすことができる自由時間と違って)仕事時間を規定する硬直性を持つ(育児の時間が仕事の時間を決める)という特殊性があるため、そこで葛藤が生じるとしています。

 第6章では、これまでの分析を踏まえた上で、なぜ男性は育児休業制度の利用が難しいのかを分析し、性別役割分業意識よりも深層にある〈仕事優先〉の時間意識が、①常に〈仕事優先〉の働き方を要請するとともに、②「どちらかを選択しなければならない」と思わせ、③性別役割分業の実態に沿って、男は仕事、女性は家事・育児を「選択」するよう迫られるためだとしています。

 終章で、男性育休の困難を解消するためにどうすればよいかを述べており、まず「ジェンダー視点をカッコに入れる」ことを提案しています。なぜならば、〈仕事優先〉の時間意識=男性的価値観とは言い難い面があるためです。〈仕事優先〉の時間意識を積極的に受け容れる女性もいれば、育児休業を取得したことで仕事優先〉の時間意識から〈仕事も育児も〉の時間意識への変化する男性もいるためです。その上で、ワーク・ライフ・バランス論を組織文化論に位置づけ、新しい両立研究として進化させていくことの可能性を示唆しています。また、組織成員の相互作用を視野に入れること、さらに、第1章で、変化の可能性の1つに同僚の賛同を動員する事例を示していますが、交渉当事者を拡大すること(育休を取得する男性を増やすこと)を提唱しています。

 本書に出てくるインタビュー対象者は、男女を問わず、会社に入社した時からかなり猛烈に仕事をしてきた人が多いように思いました。そして、そういう人たちの多くは無意識のうちに〈仕事優先〉の時間意識を受け容れており、育児と仕事の両立の困難を抱える当事者に限らず、(人事パーソンも含め)組織の全員が、まず、そのことに気づき、見直してみることが、これからの望ましい働き方を探るうえで必要であると思わされる本でした。

《読書MEMO》
●目次
序 章 「職場の雰囲気」に着目する理由
 1 男性にとっての育児休業制度
 2 男性の育児休業と職場の雰囲気
 3 本書の課題
 4 調査対象
第1章 育休男性と職場のコンフリクト
 1 職場の性別役割分業意識――「お母さんじゃだめなの?」「休めるんだから仕事頼むよ」
 2 手続きの確実さと育児の不確実さ――「いつから休むのかちゃんと出して」
 3 交渉力の発揮――「特別だからできる」
 4 潜在化する批判――「なんかいやーな感じ」
第2章 育休男性の新しい意識
 1 育休取得前――稼ぎ手役割の委譲
 2 育休取得経験で顕在化する意識
 3 育休取得後――意識化される〈時間帯〉
第3章 育児・仕事の時間配分の三つの様相
 1 労働時間を短縮せず、育児に関わる
 2 労働時間を短縮して、育児をする
 3 仕事を辞める
第4章 仕事/私生活をめぐる時間意識
 1 長時間労働に対する認識
 2 私生活の時間に対する認識
 3 コントロールできない労働時間が私生活の時間をコントロールする
 4 残業ゼロと多彩な活動
第5章 「望ましい労働者」像と育児の特殊性
 1 二つの時間意識――〈仕事優先〉と〈仕事も育児も〉
 2 男性が育休取得をためらうのはなぜか
 3 職場の「望ましさ」と育児の特殊性
第6章 なぜ男性育休は困難か
 1 〈仕事優先〉の時間意識に内在する「しかけ」
 2 性別役割分業意識の作動
 3 なぜ男性は育児休業制度の利用が難しいのか
終 章 男性育休の困難を解消するために
 1 ジェンダー視点を「カッコに入れる」とは
 2 組織成員の相互作用を視野に入れる
 3 交渉当事者を拡大する
あとがき

著者プロフィル
齋藤 早苗(サイトウ サナエ)
東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。会社員、団体職員として約20年働き、2度の育児休業を経験。その後、大学院に進学。調査報告に「親はどのような保育を求めているのか――株式会社立保育所に着目して」(「相関社会科学」第24号)、「育児休業取得をめぐる父親の意識とその変化」(「大原社会問題研究所雑誌」2012年9・10月号)など。

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社員の自律性と快適さを重視する新しい働き方としての「リモートワーク」を提示。

リモートワーク1.jpgリモートワーク2020.jpg
リモートワーク――チームが結束する次世代型メソッド』['20年]

 本書は、リモートワークは欧米のIT業界が長く牽引してきたもので、そこで蓄積された膨大なメソッドは、他業種にも多くのヒントを与えてくれるとし、初級者、中級者、マネジャーにその方法論を伝えることを目的としたものです。

 第Ⅰ部「リモートワークの前提条件」では、なぜリモートワークをするのかについて述べ、リモートワークは職場に柔軟性をもたらし、時間志向ではなく成果志向の働き方を促進するとし(第1章)、さらに、リモートワークが雇用主にもたらす利益として、競争力強化のために必要な人材が確保しやすくなることなどを挙げています(第2章)。また、バーチャル領域でどう効果を発揮すればよいかについてのよくある質問に回答するともに、職場勤務の重要なメリットをオンラインでも再現する方法について紹介しています(第Ⅰ部番外編)。

 第Ⅱ部「リモートワーク実践ガイド」では、リモートで働く人に焦点を当てています。まずリモートワーク初心者について、リモートワークを始める前にどのようなスキルセット、ツールセット、マインドセットが必要かを述べ(第3章)、さらに中級者がリモートワークに磨きをかけるにはどうすればよいか、どうすれば自分でも、そして他者ともうまく働けるのかを述べています(第4章)。最後に、リモートワークの準備が整っているかどうかを決める手助けにする質問票を示し、その結果から、準備を整えるためには、具体的に何をすべきかが明確になるとしています。また、上司(やチーム)を説得する方法や、リモートの職探しといった、次の段階へ続く助言もあります(第Ⅱ部番外編)。

 第Ⅲ部「リモートチームのマネジメント入門編」では、経営者やマネジャーの視点から見たリモートワークについて検討しています。バーチャル領域に初めて踏み込もうとする企業や部署のために、それに備える方法を説明しています(第5章)、また、リモートワーカーを雇う方法についても説明しています。ここでは、トップリモートワーカーは、協調性があり、フィードバックを前向きに受け取れる優れたチームワーカーであるとして、そうした資質を面接でどう見抜くか、サンプル質問票を提示しています(第6章、第Ⅲ部番外編)。

 第Ⅳ部「リモートチームのマネジメント中級編」では、リモートワークにおいて効果的なコラボレーションを実現するにはどうすればよいか、リモートチームのマネジメントについて述べています。ここではまず、マネージャーがコミットしてチームの成功を信じ、メンバーが期待通りに仕事を成し遂げると信頼することの重要性を説いています(第7章)。さらに、チームを成功に導くためにはどのようなリーダーシップや方向性、ツールが必要か(第8章)、チーム間で効果的なコミュニケーションをするためにはどのようなルール決めをすればよいか(第9章)、効果的なオンラインミーティングを実施するにはどうすればよいか(第10章)、それぞれ述べています。そして最後に、各章で説明されている行動の手順を〈マネジャーの行動計画〉としてまとめています(第Ⅳ部番外編)。

 上意下達・ピラミッド式の従来の日本企業像をそのままに踏襲する「テレワーク」ではなく、社員の自律性と快適さを重視する新しい働き方としての「リモートワーク」を提示している点は評価できるかと思います。テクニカルな問題にも触れていますが、それ以前に、リモートワークの前提となるマインドセットの必要性を強調しています。

 ただし、結果的に、周囲との価値観の共有や配慮が重要であるといった、一般的な組織論、チームワーク論と変わらないものになったような気もします。たとえば、上司(やチーム)を説得する方法を説いている箇所(第Ⅱ部番外編)や、トップリモートワーカーは、協調性があり、フィードバックを前向きに受け取れる優れたチームワーカーであるとしている点(第6章、第Ⅲ部番外編)などがそうです(かつてのグローバルリーダー論が一般のリーダー論とそう変わらないものであったのと相似関係になっている)。

 また、インタビューの引用が多く、インタビューした人のリストだけで30ページ近く、英文の「註」も含めると60ページ近くあって、それらが全部文中に入っているため、"引用過多"のきらいも。その割には、皆、言っていることは「同僚に感謝を示そう」「同僚との関係性を強化しよう」といった抽象的な精神論であったりするので、今一つ読後の印象が弱かったようにも思います。

 と言うことで、メリット、デメリットが半々みたいな本でしたが、帯に「いま、仕事の質を変えるとき」とありょうに、職場勤務の重要なメリットをリモートワークでも再現するにはどういう問題を克服すべきかを論じることによって、日本企業における人々のこれまでの働き方をリフレクション(内省)するための気づきを与えてくれるという副次的効果はあったように思います。

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DX(デジタルトランスフォーメーション)実現のための人事・人材マネジメントモデル変革を提唱。

デジタル時代の人材マネジメント.jpgデジタル時代の人材マネジメント2.jpg
デジタル時代の人材マネジメント: 組織の構築から人材の選抜・評価・処遇まで』['20年]

 本書の著者によれば、過去、日本企業は経営・事業のグローバル化や低成長経済下における事業構造改革の各局面において、日本型人材マネジメントモデルの抜本的な改革を先送りしてきたとのこと。一方でDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するために、高度なデジタルスキルを有するデータサイエンティストやAIエンジニアの処遇制度だけではなく、デジタル化による変化を主導するリーダー人材の育成や調達の仕組みはもはや待ったなしの状況にあるとしています。本書は、変革を先送りしてきた日本企業が、今後デジタル化を進める上でどのように人事・人材マネジメントモデル変革を進めていくのかを、豊富な事例を交えながら示したものであるとのことです。

 第1章では、デジタル化の現状を人材視点から総括し、デジタル化に対する多くの企業の取組みはまだ成果につながっておらず、そこには改革を拒む組織とヒトの問題があるとしています。

 第2章では。デジタル人材をめぐる処遇の勘所を取り上げています。デジタル人材を「ビジネス系デジタル人材」と「IT系デジタル人材」の2区分に分類し、ワークモチベーション調査の結果をもとに、デジタル人材のモチベーション要因や思考特性を分類ごとに分析しています。また、日本型人事制度を職能型・職務型・役割型に分類し、それぞれのデジタル人材の人材マネジメントとの親和性を考察しています。そして、職能型人事制度のような純日本型人材マネジメントモデルは既に機能不全化しており、見直しが迫られているとしています。また、デジタル化への不安から生じるコンフリクトを乗り越えるには、経営者のリーダーシップが鍵になるとしています。

 第3章では、DXを実現するために必要な組織・人材とは何かを深耕しています。エンジニアを獲得するだけではDXは実現できず、デジタルで経営のかじ取りができる「経営人材」、デジタルテクノロジーとビジネスを繋ぎ、ビジネスモデルの創出や業務プロセスの抜本的改革をリードする「ブリッジ人材」、そしてAIやビッグデータを操ることのできる人材を幅広く確保するための「デジタルビジネスの下地づくり」のすべてがこれからの企業には必要であるとし、そうした考えのもとに人材獲得戦略を繰り広げている先進・萌芽企業の例を紹介しています。

 第4章では「処遇制度」について述べています。デジタル人材の処遇においては、内部の既存の非デジタル人材との公平性やバランスの問題が生じることに直結しがちで、この困難な問題に対して、職務型の人事制度によって仕事に給与を払うことで、報酬水準を外部市場価値に連動させることが可能となるとする「外部市場価値連動型」職務給制度の導入をアプローチとして提案しています。また、有期雇用契約や業務委託などの形態も考えられること、さらには職務給と能力給のハイブリッド型の報酬制度などを、実際にそうした仕組みを取り入れている企業例も交えて紹介しています。因みに、事業の状況別アプローチとして、デジタル事業の創業期には、デジタル人材の質的充実のために「有期雇用形態」の活用を、成長・成熟期には、"出島組織"で「外部市場価値連動型の報酬制度」を、全社的にデジタルを志向する状況においては「職務給と能力給のハイブリッド型の報酬制度」を導入することを推奨しています。

 第5章では、「組織開発手法を活用した人事改革ステップ」について具体的に説明しています。そのステップとは
  Step1.トップが想いとコミットメントを持つ
  Step2.役員層を全体最適視点へ転換する
  Step3.経営陣でありたい姿から描く
  Step4.現場MG.共鳴型で巻き込む
  Step5.現場MGが双方向マネジメントへ転換する
  Step6.人事部がエンゲージメントをモニタリングする、
の6ステップであるとし(Step1~3がフェーズ1、Step4~6がフェーズ2)、それぞれのスッテプについて解説しています。

 本書を読んで、DXの実現に向けて人事面で対応していくということは、突き進んでいけば、これまで抜本的な改革を先送りしてきた日本型人材マネジメントモデルの見直しに自ずと繋がっていくとの思いを強くしました。デジタル人材を「ビジネス系デジタル人材」と「IT系デジタル人材」に分類して、特性の違いを分析しているのが興味深かったです。ともすると抽象論になりがちなテーマですが、SAP、サイバーエージェント、コニカミノルタ、大日本印刷など先進企業の制度事例が多く織り込まれていて、イメージを掴みやすく、具体的な示唆が得られやすかったように思います。そのまま、どの企業でも使えるというものでもありませんが、ひとつの示唆にはなるかと思います。

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「人事の緑本(入門編)」第3版。「赤本(基礎編)、青本(応用編)と併せてお薦め。

7の基本。8つの主な役割.jpg    『人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策』.JPG
第3版 はじめて人事担当者になったとき知っておくべき、7の基本。8つの主な役割。(入門編)』['20年] 『人事担当者が知っておきたい、8の実践策。7つのスキル。』(2010/08 労務行政)

 企業が継続的に成長していくうえで欠かせない経営資源であるヒト、モノ、カネ、情報のうち、最も重要なのが「ヒト」であることはドラッカーの指摘を待つまでもありませんが、経営管理においてその「ヒト」の部分を担うのが人事労務管理の役割であるといえるでしょう。

 では実際問題として、人事部に新たに配属になった若手社員がいたとして、人事労務管理(人材マネジメント)の全体像がどれぐらい把握されているかというと、とりあえずは目の前の仕事をこなすことに忙殺され、近視眼的にしか自らの仕事を捉えられていないということもあるのではないでしょうか。

 本書は、人事労務管理を担当する初心者から中堅クラスを対象に、人事の業務全般が体系的に把握できるように解説された入門書であり、2012年刊の初版、2017年刊の第2版に続く第3版であるとともに、2010年刊の『人事担当者が知っておきたい、⑩の基礎知識。⑧つの心構え。―基礎編(人事の赤本)』『人事担当者が知っておきたい、⑧の実践策。⑦つのスキル。―ステップアップ編(人事の青本)』の姉妹本になります。

 これまでと同様、第1章で「人事の基本」として7つの仕事を挙げ、第2章以下、人材確保、人材活用、人材育成、働き方や報酬マネジメント、働きやすい環境の整備、労使関係と社内コミュニケーションを良くすることなど、人事にとって重要な8つの役割について解説されています。

 原則として見開きごとに1テーマとなっていて、要点を絞って簡潔に解説されているうえに図説もふんだんに使われていて、内容的にもオーソドックスであり、新任の人事パーソンにも入門書として読みやすいものとなっています。

 こうした入門書において「読みやすさ」と「内容に漏れがなく一貫性があること」は大きなアドバンテージになるかと思いますが、本書はその両方を満たしており、人材マネジメントの基本的なコンセプトから、諸制度の枠組み、「採用」から「退職」までの業務の流れ、労働法・社会保険に関する基礎知識などが、バランスよくコンパクトに網羅されています。

 さらにこの第3版は、近年の法改正への対応はもちろん、最近注目の人事に関するトピックやテーマにも触れ、例えば、職場環境の整備のところでは、メンタルヘルスケア、ハラスメントの防止、ワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティへの対応といった節が新たに設けられています。

 また、最終章では、環境の変化に伴うこれからの人事の課題として、これまでも触れていた少子高齢化、グローバル化、企業の社会的責任に加え、HRテックとピープル・アナリスティック、日本型雇用慣行とその変容、人事管理(PM)と人的資源管理(HRM)という節が新たに設けられていて、まさに「今」読むに相応しい入門書となっています。

 従来の人事労務管理の入門書が、実際には「マネジメント」領域までは踏み込んでおらず、実務中心のいわば「アドミニストレーション」偏重であるものが多いのに対し、この「緑本」「赤本」「青本」のシリーズを通して感じるのは、何れも人材の「マネジメント」という視座がしっかり織り込まれていることです。

 部下に人事部の役割や仕事を教える際に、実は伝えるのに最も苦労するのがその「マネジメント」の部分であり、その点を含めてカバーしている点にこのシリーズの特長があるように思います。

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テキストだが、単に総花的・羅列的ではないのがいい。通読するだけで新潮流が分かる。

人材マネジメントの基本』.jpg人材マネジメントの基本.jpg 『この1冊ですべてわかる 人材マネジメントの基本』['20年]

 本書は、人材マネジメントとは「個人(社員やメンバー)が、所属する組織や社会のために、能力を最大限に引き出し、発揮することを支援する組織の関わり」であり、その重要性はますます高まっているとの考えのもと、人材マネジメントの基礎知識、導入の方法から最新トピックまでを網羅したものです。

 まず序章において、これまでの、人材は会社の「資源」であるという「ヒューマンリソース」の見方をベースに、人材にいかに効率的に働いてもらうかを考える従来型の管理型マネジメントに加えて、今後は、人材は会社の「仲間」であるという「ヒューマンリレーションシップ」の見方のもとに、人材にいかに主体的に働いてもらうかを考える、個人の主体性を重視したマネジメントが重要性を増すとしています。また、これまでの管理的なマネジメントではなく、委任的なマネジメントが求められるとして、ハーバード大学のリンダ・ヒル教授が提唱する、「羊飼い型のリーダーシップ」(逆さまのピラミッド)という概念を紹介しています。

 第1章では、人事マネジメントの具体的な「定義、目的、役割」について、第2章では、人材マネジメントを取り巻く、特に重要な「組織変化とその対応方法」について解説しています。第3章では、人材マネジメントの入り口である「人材の獲得」に関するトレンドや考え方、具体的な方法について、第4章では、獲得した人材の「育成方法」についてOJTとOFF-JTの両側面面から解説しています。第5章では、「人材の評価」の考え方、具体的な方法と「目標管理」の在り方を新しいトレンドも踏まえ解説し、第6章では、「人材を輝かせる組織の在り方」「組織デザイン」について、第7章では、企業や組織が人材とともに「持続的に成長するために必要な関わり」「カルチャーの形成」に関する考え方と取組方法について解説しています。

 このように網羅的であり、各章においてテーマに沿った基本を押さえながらも、例えば第2章では、時代の要請に沿った人材マネジメントの在り方を論じる中で、働き方改革、通年採用、副業解禁、女性の抜擢人事、男性の育休取得、介護離職問題、シニア人材活用、外国人雇用といったトレンディかつ具体的なトピックを扱っています。

 同じように、第5章の「人材の評価」では、テレワークの社員をどう評価するか、第6章の「組織デザイン」では、"パワハラ""逆パワハラ"を生まない組織基盤を構築するにはどうすればよいか、SDGsに対応する人材マネジメントとはどようなものか、といったことにも触れらています。

 形態はテキスト的でありながらも、内容的に単に総花的・羅列的ではないのがいいと思います。序章以下の随所に、著者らのコンサルティング経験をベースにした考え方や主張も織り込まれていること、また、章を追うごとにテーマがより根源的なものになっていくことが、全体を読みやすく、また、最後まで読み通せるものにしていると思います。

 もちろん関心のある部分から読むのもいいし、通読するだけでも、人材マネジメントの基本と最近のトレンドに関する知識が身につくと思います。また、人事部に配属になったばかりの初学者に限らず、ある程度経験がある人事パーソンが読んでも、目指す方向性の確認などにおいて、少なからず示唆が得られるのではないかと思います。

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労働法の初学者にもベテランにも、忙しい人や労働法の本はちょっと苦手という人もお薦め。

労働法トークライブ1.jpg労働法トークライブ.jpg
労働法トークライブ』['20年]

 本書は、二人の労働法学者が、労働法上の今議論しておくべき問題、いわば旬のトピックを選んで語り合ったものですが、タイトルおよび表紙イラストにあるように、あたかも聴衆を前にした軽妙なトークライブのように(あるいはラジオの深夜番組のトークのように)、真面目一点張りではなく、ときにおちゃらけた冗談などもはさみながら、それでも真剣に、かつ深く、各テーマについて考えています。

 選ばれたテーマは、採用の自由、労働者性、性差別、障害者雇用、高齢者雇用、ハラスメント、過労死、解雇、正規・非正規の格差、副業・兼業の10個であり、それを各章に割り振っていますが、例えば「高齢者雇用」の章には「私がジジババになっても」というサブタイトルがついていたりすることなども、本書の持つ雰囲気を表しています。

 各章の構成は、冒頭に、各テーマに関わる論点を含んだ、実際にありそうな「Case」(設例)があり、そこに含まれる労働法上の問題を示唆したうえで「Talking」に入り、この部分が各章の根幹となります。そして、トークの後にまとめとしての「Closing」があり、続いて、冒頭のケースに対して労働法上正しい解答をするとすればどうなるかという「Answer」があります。さらに、各章ごとに、実務家や研究者などの「Special Guest」のトークに対するコメントを付しています。

 大学で行われているゼミスタイルを想起させる構成ですが、各章の「Closing」の部分が、「意識高い系若者たちへ」「現場の労使の皆さんへ」「霞が関の皆さんへ」と分かれていて、学生など労働法の学習者だけでなく、企業労働者や経営者といった社会人、労働政策の立案に携わる行政官なども意識したものとなっています。

 全体の流れとしては、基本を押さえながら、後に行けば行くほど、正規・非正規の格差、副業・兼業といったより今日的なテーマを扱っていることになりますが、1つの章の中においても、まず基本を押さえた上で、必要に応じて最近の法改正や裁判例なども押さえながら、今現場でどういったことが課題となっているか、それは今後どういった方向に向かうのかを探っています。

 例えば、第1章の「採用の自由」では、三菱樹脂事件などの過去の重要判定を検証しつつ、どこまで個人情報に関わる部分を調査していのか、あるいは面接で聞いていいのかといった実務的な問題に踏み込んでいきますが、両者の会話を通して、時代や社会環境の変化とともに、新たな論点や留意すべき点、判断が難しい点などが浮かび上がってきます。

 第9章の「正規・非正規の格差」でも、丸子警報器事件の判決を検証しながら、長澤運輸事件など最近の注目判決を読み解き、パート法からパート有期法法への法改正のポイントを踏まえつつ、今後日本的雇用は変わるかどうかといったことを論じています。

 まず、現行の法制度のルールや判例法理を踏まえた上で論を進めていますが、それらはいずれも人事パーソンであれば知っておきたいことばかりであるため、労働法の初学者の方にもお薦めです。一方で、現場で生じている(あるいはこれから生じるであろう)難しい問題にコンパクトに斬り込んでいるため、べテランにもお薦めです。更には、どの章からでも読めて、しかも楽しくすっと入り込めるように書かれているため、忙しい人や労働法の本はちょっと苦手という人にもお薦めという、三拍子揃ったスグレモノでした。

 個人的には、お堅いイメージのある有斐閣にしては思い切ったソフト趣向ながら、内実はオーソドックスであるという印象がありました。Special Guestの一人の清家篤氏、『定年破壊』('00年/講談社)での論から少し方針変更したんのだなあ(因みに、森戸英幸氏は『いつでもクビ切り社会―「エイジフリー」の罠』('09年/文春新書)で「定年破壊」に大いなる疑念を呈していたように思う)。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(エイミー・C・エドモンドソン)

心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを説く。

恐れのない組織1.jpg恐れのない組織.png チームが機能するとはどういうことか.jpg エイミー・C・エドモンドソン2.jpg Amy C. Edmondson
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』['21年] エイミー・C・エドモンドソン『チームが機能するとはどういうことか―「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』['14年]

 本書は、ハーバード・ビジネススクール教授で、最近注目を集めている「心理的安全性」という概念の提唱者である著者が、フォルクスワーゲン、ピクサー、福島原発など様々な事例を分析し、対人関係の不安がいかに組織を蝕むか、それを乗り越えた組織の在り方とは何かを論じて、実践への示唆までを語った本です。

 3部構成の第1部「心理的安全性のパワー」では、心理的安全性とは何か、心理的安全性がなぜ重要なのかを説明し、さらに、なぜ多くの組織で心理的安全性が当たり前になっていないのかを考察しています。

 第1章「土台」では、病院での医療事故につながりかねなかった事例から、対人関係の不安により職場で従業員が本心を言わないことがパターン化すると、仕事の質に深刻な影響を及ぼしかねないとしています。心理的安全性とは、率直に発言することによる対人関係リスクを、人々が安心して取れる環境のことであるとしています。

 第2章「研究の軌跡」では、心理的安全性に関する学術研究からわかったことして、不安を当たり前にして生き残れる組織は21世紀においてはなく、「フィアレスな組織」は従業員にとってよりよい場であるだけでなく、学習、エンゲージメント、パフォーマンスに素晴らしい効果をもたらすことが明らかになったとしています。

 第2部「職場の心理的安全性」では、事例をもとに、心理的安全性が業績と人々の安全委にどのように影響するかを述べています。

 第3章「回避できる失敗」では、心理的安全性が欠けていると、ビジネスにおいて重大な失敗を吹き起こしてしまうことをフォルクスワーゲンなどの事例から、第4章「危険な沈黙」では、率直に意見を言えないことや権威を過信することとがもたらすリスクを、福島第一原発の事例などから、それぞれ検証しています。

 第5章および第6章では、率直に考えを述べることができ、それを当たり前とする組織の事例を紹介しています。第5章「フィアレスな組織」では、ピクサーを例に、クリエイティブな仕事が業績を左右するなかでのフィアレスな組織のもたらした効果を、第6章「無事に」では、福島第二原発などを例に、思いやりのあるリーダーシップよって、従業員が求められる以上のことをすることを、それぞれ例示しています。

 第3部「フィアレスな組織をつくる」では、リーダーはどんなことをすればフィアレスな組織―誰もが率直に話して仕事をし、貢献・成長・成功し、チームを組んで、ずば抜けた成果を出す組織―をつくりだせるかに焦点を当てています。

 第7章「実現させる」では、心理的安全性をつくるためには何をする必要があるかを述べ、心理的安全性は相互に関連する3つの行動(土台をつくる。参加を求める、生産的に対応する)によって生み出され、心理的安全性を強固にすることは、組織のあらゆるレベルのリーダーの責務であるとしています。

 第8章「次に何が起きるのか」では、本書の事例に関するいくつかの最新情報を紹介するとともに、心理的安全性に関してのよくある質問について回答しています。

 最後の質問のなかに「職場が心理的に安全になると、時間がかかりすぎてしまうのではないか」というのがあり、これなどは最近どこかの組織委員会であったような話ですが、著者は、心理的安全性は効率性に役立つ可能性があり、時間の浪費ではなく節約になるとしています。また、透明性の問題にも触れています。

 著者は、日本企業は「権力格差(パワー・ディスタンス)」が大きいとしており、その意味でも日本企業の職場こそ心理的安心性がより求められると思われますが、著者もそれは可能なことであるとしています。

 著者は『チームが機能するとはどういうことか』の著者でもあり、専門はチーミング(境界を越えてコミュニケーションを図り、一致協力する技術)ですが、心理的安全性と何か、それを実践するにはどうすればよいかを問いた本書は、チーミングをテーマとした本と言ってもいいのではないかと思います。

 心理的安全性について書かれた本がすでに何冊か出ていますが、先に大本(おおもと)である本書を読んで、そのエッセンスに触れておくのがよいかと思います(『チームが機能するとはどういうことか』もお奨めです)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部 心理的安全性のパワー
第1章 土台
第2章 研究の軌跡
第2部 職場の心理的安全性
第3章 回避できる失敗
第4章 危険な沈黙
第5章 フィアレスな職場
第6章 無事に
第3部 フィアレスな組織をつくる
第7章 実現させる
第8章 次に何が起きるのか
解説 村瀬俊朗

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理想のチームプレーヤーの特質は、「謙虚」「ハングリー」「スマート」の3つ。

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理想のチームプレーヤー――成功する組織のメンバーに欠かせない要素を知り、成長・採用・育成に活かす方法』['20年]

 本書の著者パトリック・レンシオーニには、『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』('02年/日経BP)、『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)など日本でも話題になった著書があります。

 『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』は、大規模な組織を率いるトップにとっての組織が競争優位を得るための最重要課題は、戦略でもマーケティングでも財務でもなく、健全な組織をつくることにあるとし、それを実現する「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」という4つの指針を、物語を通して示した本であり、『あなたのチームは、機能してますか?』は、危ない組織の5つの症状(「信頼の欠如」「衝突への恐怖」「責任感の不足」「説明責任の回避」「結果への無責任」)を、これも物語形式で示し、ここから導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書『理想のチームプレーヤー』では、著者は、チームデベロプメントのコンサルタントとして長年に渡り様々な企業と関わる中で、組織の繁栄に最も必要な人材はチームプレーヤーであるという結論に至ったとした上で、前著での5つの行動は、十分なコーチングや忍耐力、時間などの条件を満たせば習得可能だが、周りよりも優れたチームプレーヤーで、この5つの行動をうまく実践できる人がいて、これ実現できるそうした理想のチームプレーヤーは、人生や仕事や鍛錬を通して「3つの美徳」を身に付けてきたのだとしています。そして、その3つの美徳とは何かを、「第1部:寓話」で、前二著と同じく物語形式で示しています。物語の枠組みは次のようなものです。

 シリコンバレーの企業やコンサルティング会社で輝かしいキャリアを重ねてきた主人公ジェフ・シャンリーは、突然、伯父が経営する有名な建設会社バレー・ビルダーズ社のCEO に任命される。緊急の社長交代劇と共に与えられた使命は、会社史上最大規模の2つのプロジェクトを成功させることだった。ジェフは困惑しながらも、難航するプロジェクトをやり遂げる唯一の方法を見つけ出す。それは、会社のメンバー全員が「理想のチームプレーヤーになる」という価値観を共有し、それに向かう採用と育成の企業文化を、早急に作り上げることだった―。

 つまり本書は、ジェフ・シャンリーという主人公が叔父の会社を救おうとする物語を例に、理想のチームプレーヤーとは何かが語られているわけです。物語で主人公らはまず、会社に問題を引き起こす「モンスター社員」の特性を考え、次にその逆の特質とは何かを考えます。そして、偉ぶらず、勤勉に働き、人間との接し方を知っていることが、モンスター社員の逆、つまりチームプレーヤーの特質であり、この「謙虚」「ハングリー」「スマート」という3つの要素が、優れたチームプレーヤーに欠かせないという結論に行きつきます。

 物語の後の「第2部:モデル」では、3つの美徳を改めて定義し、理想のチームプレーヤーと、そうでない3つの要素のどれかがが欠けている人物のモデルを示すとともに、理想のチームプレーヤーを採用する方法、今いる社員の評価の仕方、一つ二つ美徳に欠けている社員の育成方法、3つの美徳の組織カルチャーへの組み込み方がまとめられています。

 例えば、採用に関しては、面接でカギとなるポイントや、謙虚、ハングリー、スマートの3要素のエッセンスを探るのに役立つ質問例が紹介されていいます。その中には、ごく普通に日本の企業面接で訊くような質問もありますが、チームプレーヤーに必須の3要素を持っているかどうかを、要素ごとに探るためにその質問をしているという点が特徴的であると思われます。

 物語形式なので読みやすく、内容も頭に入ってきやすいです。例えば採用に関して、米国企業の採用というとスペック重視という印象が強いですが、最近は変わってきているのではないかと思わせるものがありました。一方、日本企業は、前述のように、以前から本書にあるような採用をしてきたような気がしなくもありません。しかしながら、どこまで戦略的バックグラウンドがあったかはやや疑問であり、本書を読みながらそのことについて考えてみるのもいいのではないかと思います。また、著者の前著が未読であれば、遡及してそちらに読み進むのも良いかと思います。

《読書MEMO》
●モデル
三分の一
・「謙虚さのみ」 ⇒ 歩兵
・「ハングリーさのみ」 ⇒ ブルドーザー
・「スマートさのみ」 ⇒ 人たらし
三分の二
・「謙虚でハングリーだがスマートでない」 ⇒ うっかりトラブルメーカー
・「謙虚でスマートだがハングリーでない」 ⇒ 憎めない怠け者
・「ハングリーでスマートだが謙虚でない」 ⇒ 熟練の政治家

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「賢明」より「健全」。そのために「結束」「明確化」「周知徹底」「強化」せよと。

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なぜあなたのチームは力を出しきれないのか 』['02年] 『あなたのチームは、機能してますか?』['03年]

 本書『なぜあなたのチームは力を出しきれないのか』では、まえがきにおいて、競争優位を得ている組織には、①賢明である、②健全である、の2つの特徴があるが、「現実をみると、ほとんどのリーダーは、組織をかしこくすることに時間とエネルギーの大半を費やし、組織をすこやかにすることにはあまり熱がこもっていない。ビジネス・スクールやビジネス誌が何を重視しているかを考えれば、無理もないことである。しかし、組織が健全であることの、しなやかで強い特性を考えると、これは残念なことである」(8p)としています。自身がマネジメントを任されているチームが、最高のパフォーマンスを発揮していると胸を張って言える管理職はどれほどいるでしょうか。本書は、物語形式で話を進めながら、チームが力を出し切れていないのはなぜなのか、その疑問に答え、解決策を提示したものです。

 第1部「不安の種」では、物語の枠組みが示されています。ビンス・グリーンが創立しCEOを務めるITコンサルティング会社グリニッチ・コンサルティングは、ビジネス・スクールの同級生だったリッチ・オコナーがほぼ同時期に創立しCEOを務める同業のITコンサルティング会社テレグラフとライバル関係にあるが、リッチの会社はすこぶる評判が良く、両社は売上こそ競ってはいるものの、人材獲得競争において、ビンスの会社からリッチの会社に移る人の流れが止まらない。また、ビンスの方は相手の会社が気になるが、相手は自分の会社に関心すら示していないようだ。ビンスはリッチの会社テレグラフ成功の秘密を知るためにスパイまがいの偵察までしたりし、さらにその"謎"を探ろうと、専門家を経営会議に招いたりするが、専門家らの分析では、ビンスの会社とリッチの会社では何から何まで異なり、彼らは、リッチの会社は「非常に健全な組織なのです」と言うばかりだった―。

 第2部「異なる文化」では、ビンスのライバルと目されていたリッチにも、ある悩みがあったことを明かしています。その悩みとは、忙しすぎるということで、自らの時間を取れないためリッチは会社を売却しようかとも考えましたが、生きがいでもある会社であるため踏ん切りがつかず、そこで、本当に会社にためになることを1つだけやるとすれば、それは何か? それだけを考えることにしました。そして、その結果見出した「4か条の指針」を黄色い用箋に記し、これを「イエロー・リスト」と呼びます。そのイエロー・リストに記された指針に則って行動することで、会社は急速に素晴らしいものになっていきました。そのイエロー・リストには何が書かれているのか、秘密にしていたわけではないですが、本当に知る人はごく限られていました(4か条の内容は本書の最後の方で明かされる)。
しかしながら、どんなグレートな会社でも過ちを犯すものです。リッチの会社は、空いていた人事担当副社長のポストにジャミー・ベンダーという男を採用します。ジャミーの経歴はどこから見ても申し分ないように思えましたが、次第にジャミーが進める改革の手法を巡って、彼とリッチの会社の経営チームのメンバーとの間に溝が生じます。結局、リッチの会社は、自社の企業文化にそぐわない人物を採用したことが判明し、ジャミー自身も自分がリッチの会社の企業文化に合わないことに気づいて会社を辞めます。

 第3部「チャンス」では、リッチの会社を辞めたジャミーが、ビンスの会社に自分を売り込みに行きますが、その際に何とイエロー・リストの内容を手土産に持っていきます。ここで、その4か条の内容が明かされます。それは、①まとまりがある指導者チームをつくり、その結束を維持する、②透明な組織をつくりだす、③組織が決定したことの伝達はやり過ぎるくらいやる、④人事システムで透明な組織を強化する、の4つで、つまり、リーダーが第一にするべき仕事とは、組織を健全にすること、それだけなのだということです。しかし、ビンスには、それがやれるというイメージが湧かない―。
ジャミーが転職希望先のビンスの会社で、ライバルのリッチの会社の「秘密の4か条」を説いているとき、偶然にもリッチがその場に、ビンスの会社事業買収の相談で訪ねてきます。そして、まだホワイトボードに書かれていなかった第4条と、「結束せよ、明確にせよ、周知徹底せよ、強化せよ」というまとめのスローガンを書き残して、穏やかな表情で去っていきます。

 第4部「情熱のゆくえ」は後日譚です。4か条の効用を信じたとしても、そのとおり実践するのは自分には無理だと悟ったビンスは、企業経営への情熱を失っている自分に気づき、会社を売却します。

 以上、本書の前4分の3がストーリー展開になっていて、後の4分の1が、健全な組織をつくるための4か条の指標のまとめとなっています。本書には、組織を健全化するためのノウハウがたくさん盛り込まれていて、リーダーは可能な限りその命題に取り組んでみるべきだろうと改めて思わされます。社内政治は良くないのではなく「絶対に駄目」と言っているのが印象的で、小さなほころびが大きな穴となり、組織を崩してしまうことの危険性がわかります。「強い」チームを作るためにリーダーが最も注力すべきことは何か、そのことを知りたいと思うマネジャーにお薦めです。


 同著者には、本書に続いて日本でもベストセラーになった『あなたのチームは、機能してますか?』('03年/翔泳社)という著書もあり、こちらもストーリー仕立てになっていて、その枠組みは以下の通りです。

 経験豊富な経営陣、完全無欠な事業計画、他の企業には望むべくもない一流の投資家、ことさら慎重なベンチャーキャピタルも列をなして投資を申し込み、オフィスも決まらないうちに有能なエンジニアが履歴書を送ってきた。その企業の将来は薔薇色に見えた。しかし2年後、取締役会で37歳のCEOは解任された。150名の社員の頂点に迎えられたのは57歳の女性CEOのキャスリン。しかも古くさいブルーカラー業界出身。ビジネス・スクールも決して有名とは言えない。彼女をCEOに迎えたいという会長の発言を聞き、取締役は彼の正気を疑った。でも、会長には確信があった。競争における究極の武器はチームワークである。そして、キャスリンはチーム作りの天才だったのだ―。

 本書では、キャスリンが来た時には最悪だった会社の状況を示し、危ない組織の5つの症状を挙げています。それは次のようになります。
 ・結果への無責任(各自の仕事にかまけて全体を見ない)
 ・説明責任の回避(衝突を避けて互いの説明を求めない)
 ・責任感の不足(決定したことでもきちんと支持しない)
 ・衝突への恐怖(不満があっても会議で意見を言わない)
 ・信頼の欠如(意見は一致していないのに議論が起きない)

 キャスリンは、経営チームのメンバー各個人の性格を全員露わにすることから始め、チームの輪を崩すもの(テイカー)をチームから排除し、少しづつチームとして機能させていきます。危ない組織の5つの症状から導かれる、真のチームワークに求められる5つの行動とは、弱みを見せて信頼を築き、健全に衝突し合い、進んで責任感を持ち、互いの説明責任を追求し、結果を重視することであるとしたものでした。

 本書も、前6分の5がストーリー展開になっていて、キャスリンが経営チームとの対話や討議を通して、組織がチームワークの実現に失敗する、これら5つの要因を一つひとつ明らかにしていき、それを解決するにはどうすればよいかを説いていきます。そして、最後の6分の1で、「五つの機能不全」モデルを再整理し、それを理解し克服する「プロセス」と「ノウハウ」をまとめています。こちらも併せて読まれることをお勧めします(シンプルさで言えば前者、より体系的であると言えば後者になるか)。

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「上司」を持たない自律したチーム=「セルフマネジング・チーム」を提唱。今もって先進的。

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自律チーム型組織―高業績を実現するエンパワーメント』['97年]

 本書は、チーム制を組織に導入し、フラット化された組織を作るうえでの注意すべきポイントを、実際にチーム制を導入した実例を使って説明している本であり、著者であるチャールス・C・マンツとヘンリー・P・シムズJr.は「セルフマネジング・チーム」という概念の産みの親とも言える研究者です。セルフマネジング・チームとは「上司」を持たない自律したチームであり、「上司」の代わりに部下をセルフマネジングに導く「スーパーリーダー」がいることになります。本書ではまず、この新チーム制を導入する際の阻害要因を整理し、それらを踏まえ、チーム制導入のためには何をすればよいかを章ごとに事例を通して説明していきます。

 第1章「チーム制への道―中間管理職の壁の克服」では、チーム制導入成功への最大の課題である中間管理職の抵抗をどう克服するかについて、シャレッテ社の倉庫管理における中間管理職の移行事例を通して述べています。ここでは、管理職を「上司」から「スーパーリーダー」へと新しいリーダーシップの役割に移行する際に想定されるステップと、ステップごとにどのようなことが課題となるかを示すとともに、移行のための時間と努力は、セルフマネング・チームを成功させるのに重要であるとしています。

 第2章「現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績」では、メンテナンスフリーの自動車バッテリーを創り出したゼネラルモータース工場の事例を取り上げ、比較的成熟したセルフマネジング・チームにおける従業員の日々の行動を通して、セルフマネジング・チーム内での従業員の役割や行動、チームリーダーや調整者のリーダーシップの特徴などを見ています。そして、初期の段階から以前は管理者に任されていた責任と役割がチームに任せられたこと、調整者の最も頻繁な言語的行動は、従業員への思慮深い問いかけであったことなどが明らかになったとしています。

 第3章「チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望」では、レイク・スペリアー製紙会社の工場での、セルフマネジング・チーム制への移行のまだ比較的初期の発展段階にあるチーム制の事例を通して、解決されるべき多くの課題もあるが多くの成功もあるとし、以降の際にどのようなことが課題となり、それらにどう応えるべきかを説いています。

 第4章「導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する」では、IDS金融会社でのチーム制の導入を検証し、導入初期の段階で留意すべきことを説いています。ここでは、さまざまな難題や挫折、苦境に直面したもののチーム制への移行は成功したが、その過程において、どのような組織が設けられ、どのような分析ツールが活用されたかを紹介し、チーム制によって得をする人もいれば損をする人もいるが、できるだけ多くの人が得をするよう細心の注意を払わなければならないとしています。

 第5章「セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること」では、ある独立系保険会社の失敗事例を取り上げ、従業員の権限を奪い、コントロールを強化するためにチーム制を導入した場合は、たとえ「セルフマネジメント」という言葉を使ったからといって、自動的にエンパワーされた従業員につながるわけでもなく、セルフマネジング・チームが達成されるわけでもないと警告しています。

 第6章「組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織」では、セルフマネジメント・チームを公式にデザインされたチーム制なしで実現している例として、非常に成功しているW・A・ゴア社の事例が紹介されています。そのなかでは、自分たちで育てていくようなかたちでのチームが必要な時だけに現れてくるという画期的なやり方が明らかにされ、上司とか管理者はいないが、たくさんのリーダーがいるというのが成功の秘訣であったとしています。ゴア社の経営スタイルは「無管理」と呼ばれていて、チームワークはさかんであるが、組織上のチームはなく、仕事を遂行するうえで必要な場合、だれもが異分野の人々とチームを組むことができるとのことです。

 第7章「チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて」では、トータルクオリティマネジメント(TQC)の最終段階としてセルフマネジング・チームを取り入れたテキサス・インスツルメント・マレーシアの事例を紹介し、アメリカ以外の国の組織でも、チーム制の導入により目を見張るような効果が上がることを明らかにしています。

 第8章で「戦略的チーム―上層部のチーム」では、電力会社であるAES社の事例をもとに、企業の戦略形成におけるチームワークの重要性について述べています。会社のあちこちに出現するチームのネットワークが、成長中の組織の経営戦略を決定するうえでどう影響するのかを見ています。AES社にとって全従業員が共有する価値観は非常に重要であり、この会社で共有されているコアバリューとは、正直さ、公平さ、楽しさ、社会的責任の4つであるが、この4つのコアバリューに忠実であるということは、それ自体、価値のある目標であるとしています。さらに、この章では、チーム制は組織の下の部分だけでなく、上層部においても適用されるべきであるとしています。

 第9章「セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか」では、これまでのセルフマネジメントの実践例から得られた知見と将来の課題について述べるとともに、チームアプローチを採用することを検討していたり、すでに採用しだした企業に向けて、セルフマネジング・チームを成功させる道のりのガイドを示しています。

 各章での議論が、著者たちの調査した事例に基づいて行われていて、顧客対応、TQC、業務プロセスなど多様であるため興味深く、また説得力もあります。今や"準古典"的な位置づけにある本ですが、セルフマネジング・チームという概念は今もって先進的であるように思います。むしろ、本書を読んで、「ウチはまだそこまでは」と思われる読者の方が多いかもしれません。ただし、そうした企業であっても、本書で示された知見は、プロジェクトマネジメントや人材育成などにおいて応用可能であると思われます。新しいリーダー像を示した啓発書としても読めるかと思われ、人事パーソンにお薦めの1冊です。

《読書MEMO》
●目次
序章 ティラノザウルス王国―企業内の恐竜としての上司
第1章 チーム制への道―中間管理職の壁の克服
第2章 現場でのチーム経験―役割、行動、そして成熟したセルフマネジング・チームの業績
第3章 チーム制の利点と欠点―成功と課題の実践的展望
第4章 導入初期の段階―オフィスでチーム制を導入する
第5章 セルフマネジングの幻想―権限を奪うためにチーム制を利用すること
第6章 組職上のチーム制なしでのセルフマネジング―チームとしての組織
第7章 チーム制とトータルクオリティマネジメント―国境を越えて
第8章 戦略的チーム―上層部のチーム
第9章 セルフマネジング・チーム―我々は何を学び、どこへいくのか

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メンタルヘル問題対応を、経営戦略としての健康投資という観点から解説。

企業はメンタルヘルスとどう向き合うか.jpg 『企業はメンタルヘルスとどう向き合うか 経営戦略としての産業医 (祥伝社新書) 』['20年]

 企業におけるメンタルヘルスの問題は深刻化・多様化しており、この問題の放置による被害は、生産性の低下、離職がもたらす風評被害、市場の失望による株価の低下...etc.拡大の一途をたどっていると言われています。本書では、従業員のメンタルヘルスの維持・増進は、今や企業経営の最重要テーマであるとし、専門の産業医の立場から、企業のあるべき姿について、具体例を挙げてアドバイスしています。

 第1章では、メンタルヘルス問題の歴史と変遷をたどるともに、最近の動向として、働き方の変化や世の中の変化がメンタルヘルに与えている影響を紹介しています。この中では、ある企業で「残業時間を半減させたら全員の所定労働時間を8時間から7時間に減らす」という取組を社長が発表したら、見事に残業時間が半減したという例なども紹介されており、また、ITを活用して負荷の少ない働き方を実現する際のコツなども解説されています。

 第2章では、うつ病、パニック障害、ADHDなど症例別に6つのケースを取り上げ、それぞれについて、どんな病気で、症例としてはどのようなもので、産業医がどのような思考で問題にアプローチするのかや、上司や同僚が現場でできるサポートなど、メンタルヘルス問題と向き合う際に参考になる事柄を解説しています。ここでは、かつては自閉症やアスペルガー症候群と呼ばれたASD(自閉スペクトラム症)や、最近現場で注目されているPMDD(月経前不快気分障害)についても取り上げています。

 第3章では、経営戦略の中にメンタルヘルス予防を取り入れ、「健康経営」を実践していくことのメリットを解説しています。「健康経営」とは、経済産業省HPによれば、「従業員の健康獲得・増進の取組が、将来的に収益性等を高めるための投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」であると。本書では、健康経営のメリットを、➀健康経営を生産性の向上、②従業員の活力向上、③企業の業績・外部評価の向上、④産業保健の促進、⑤疾病予防と健康寿命の延長、⑥新産業の創出、⑦医療費の抑制、などの側面から解説しています。

 第4章では、メンタルヘルス問題の予防と対応のためのエッセンスを紹介しています。ここでは、産業保健体制をどのように整備するか、さらに、衛生委員会をどう活用すべきかを解説し、例として、メンタル不調者が出た時の対応と、休業開始時・休業中のケア、職場復帰の判断から復帰プランの作成、復帰の決定までの流れを解説しています。

 第5章では、経営戦略としての健康投資について解説しています。健康投資とは、「健康管理に基づいた具体的な取組」(経済産業省HP)を指し、これを進めるメリットとして、外部からの評価の向上に直結し、外部からの投資を引き出せることを挙げています。ここでは、「健康投資管理会計」という考え方や、経産省のヘルスケア産業課が公表している「企業の『健康経営』ガイドブック」などを紹介するとともに、どのような健康投資が有効かということについて、福利厚生を例に解説しています。また、健康投資はやり方次第では投資額以上の即時的なリターンをもたらすという意味で、もっと注目されるべきだとしています。

 メンタルヘル問題対応を、経営戦略としての健康投資という観点から解説した良書だと思います。コンパクトにまとまっていて、各章末にコラムがあり、例えば「レジリエンス」について、メンタルの観点とキャリアの観点から解説されていたりもします。人事パーソンにとって、メンタルヘルス問題に関する〈知識〉をリニューアルし、〈意識〉をブラッシュアップする上で手頃な本であると思います。あとには、どれだけ実践に結びつけるか、経営陣の意識改革はどうするか、といった課題はまだ残るかと思いますが、まずは自身の意識改革から始めるべきかもしれません。

《読書MEMO》
●目次
第1章 メンタルヘルス問題の動向(メンタル疾患は増えているのか/企業におけるメンタルヘルスへの関心の高まり ほか)
第2章 具体的な事例と対応策(うつ病/パニック障害 ほか)
第3章 健康経営の重要性(健康経営とは/健康経営の歴史 ほか)
第4章 メンタルヘルス問題の予防と対応のためのエッセンス(産業保健体制の整備を/コンプライアンス遵守を超えた体制の戦略的整備とは? ほか)
第5章 経営戦略としての健康投資(健康投資とは/内部への健康投資で、外部からの投資を引き出す ほか)
●著者情報
・尾林誉史(オバヤシタカフミ)
1975年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業後、(株)リクルート入社。弘前大学医学部学士編入、東京都立松沢病院を経て、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。VISION PARTNERメンタルクリニック四谷院長
・木下翔太郎(キノシタショウタロウ)
1989年、神奈川県生まれ。千葉大学医学部卒業後、内閣府に入府し大臣官房人事課などで勤務。現在、慶應義塾大学医学部助教(精神・神経科学教室)。労働衛生コンサルタント
・堤多可弘(ツツミタカヒロ)
1986年、東京都生まれ。弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学神経精神科で助教、非常勤講師を歴任。現在は複数企業の産業医と臨床業務を兼務。労働衛生コンサルタント。医学博士

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○経営思想家トップ50 ランクイン(エドガー・H・シャイン)

「1人の人間として相手を見る」謙虚なリーダーシップを提唱。従来理論の前段階か。

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謙虚なリーダーシップ――1人のリーダーに依存しない組織をつくる』['20年]

 昨年['23年]1月に亡くなったエドガー・H・シャイン(1928-2023/94歳没)らによる本書は、これまで人と組織の研究に大きな影響を与えてきた著者らが、「謙虚なリーダーシップ」という新たなリーダーシップのコンセプトを提唱するとともに、その実践の在り方を示したものです。リーダーシップに対する新しいアプローチとして、従来の業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチを提唱しています。

 まず、第1章で、リーダーとフォロワーの関係は、
 ・レベルマイナス1(全く人間味のない、支配と強制の関係)、
 ・レベル1(単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離を保った」支援関係)、
 ・レベル2(友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼し合う関係)、
 ・レベル3(感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係)
の4つのレベルがあるとしています。そして、ルールと役割に依存するレベル1の関係から、もっと個人的なレベル2の関係に基づくリーダーシップ・モデルが新たに必要になってきているとしています。その理由として、
 1.課題の複雑さが、加速的に増している
 2.現代の経営文化は、近視眼的で、目に入らない領域があり、自己破壊的である
 3.職業的、社会的価値観は世代交代する
の3つを挙げています。そして、謙虚なリーダーシップの基盤は、レベル2の個人的な関係であり、この関係は、率直に話し、信頼し合うことが基盤となり、グループの関係がまだレベル2になっていないなら、謙虚なリーダーはまず、グループのなかで信頼を確立し、率直な発言を促す必要があるとしています。

 第2章では、関係の4つのレベル改めて解説し、単なる業務上の役割に基づく関係は、「相手を一個人として見る」レベル2の関係にシフトする必要があるとしています。

 第3章から第5章にかけては、謙虚なリーダーシップの成功事例として、シンガポールの政治リーダーらが謙虚なリーダーシップにより、国の経済開発を変革した事例、バージニアの医療センターのCEOが同センターのあらゆる人とレベル2の関係を築いて抜本的な改革を成し遂げた事例、アメリカ海軍という厳密なヒエラルキー下においてさえ、レベル2の協働が成果を生んだの事例の3つが紹介されています。

 第6章では、謙虚なリーダーシップが育たなかったり、行き詰まったり、成功しなかった事例を紹介し、謙虚なリーダーシップを阻害する要因となるヒエラルキーや意図せぬ結果について解説しています。

 第7章では、「パーソニゼーション」(personization)という概念、グループ・センスメーキング、チーム学習といった謙虚なリーダーシップの主要要素を今まさに推し進めているいくつかの傾向について解説するとともに、謙虚なリーダーシップは「英雄のようなリーダーシップ」の対極にあり、包括的で適応力のある組織デザインを可能にすることで変化の激しい時でも組織の崩壊を回避できる、未来型のリーダーシップであるとしています。

 第8章では、謙虚なリーダーシップの本質は、対人関係およびグループ・ダイナミクスにひたすら集中し続けることであり、これによって、より広範な経営文化についての考えを推し進められるかもしれないとしています。

 第9章では、謙虚なリーダーシップとは、弱さを受け容れ、レベル2のつながりを通じて、レジリエンシー(しなやかに適応する力)を育みことであるとしています。また、さらなる読書、自己分析、スキル習得を通して、自分自身のリーダーシップに磨きをかけることでできるとしています。

 英雄的な1人のリーダーに頼る組織は時代の変化に対応できず、重要なのは、相互に信頼し、率直に本音を伝え合う「組織文化」であって、そのような組織文化を築くためには、役割やそれに基づく関係ではなく、「1人の人間として相手を見る(パーソニゼーション)」という(個人的には、この言葉が"謙虚"ということに最もリンクした)、普段の絶え間ない実践が不可欠であるというのが、本書の趣旨となるかと思います。

 タイトルから「サーバント・リーダーシップ」のようなものを想像したりもしましたが、読んでみて、「サーバント・リーダーシップ」や「変革型リーダーシップ」といった一般的なリーダーシップ理論の前段階として、本書で言う謙虚なリーダーシップがあるべきなのだと思いました。第9章で、参考になる書籍として、ダグラス・マグレガーの『企業の人間的側面』からフレデリック・ラルーの『ティール組織』まで10冊の書籍が紹介されていることも、その表れかと思います。それらに読み進むのもよいでしょう。

 謙虚なリーダーシップというのは、本書で言う日本人のリーダーシップ観に馴染みやすく、フォロワーにも受け容れられやすいのではないでしょうか。むしろ、業務上の役割に基づく関係ではなく、個人的なつながりを重視するアプローチというのは、本書を読んでなくとも、多くの日本人リーダーが実践していることのようにも思いました。

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「自社最適」の制度・施策に至るまでの課題解決プロセスをケースで体系的に示す。

人材マネジメントの課題解決1.jpg人材マネジメントの課題解決.jpg
ストーリーでわかる! 人材マネジメントの課題解決』['20年]

 自社の人事管理は、本当に上手く行っているのだろうか―組織人事コンサルタントによる本書では、人事施策の企画から実行までの最適解を導くための課題解決のプロセスを、「第Ⅰ部 人材フレーム」「第Ⅱ部 人材マネジメント」「第Ⅲ部 人事機能」の3つの領域における各3つ計9つの事例を通して、具体的なテーマを取り上げて解説しています。

 9つの事例(実際にあったものを複合して構成)の課題解決へのプロセスは、おおよそ、①事実の把握、②原因の掘り下げ、③課題の明確化、④打ち手の検討→実施という流れになっていて、各領域にまとめの章を設けてポイントを整理しています(したがって本書は全3部12章構成となっている)。

 例えば第Ⅰ部で取り上げられているのは、職能資格制度から仕事ベースの人事制度に移行する際に"ベストプラクティス"であると考えて導入した制度が実情に合わず、運用段階で骨抜きとなったため、自社にとって"ベストフィット"である制度に修正したA社のケース(第1章)、全国転勤のある総合職とは別に地域限定総合職制度を導入したもののローテーションに支障が生じ、総合職の在り方とその育成・選抜の在り方から見直すことでコース設定を見直したB社のケース(第2章)、ダイバーシティ推進計画を立てたものの、関係者の足並みが揃わず、「良い企業」を目指すののか「強い企業」目指すのか、組織のアイデンティをどこに置くかトップに確認した上で、改革シナリオを練り直したC社のケース(第3章)です。

 第Ⅰ部はいずれも「人材フレーム」の見直しを迫られたケースですが、第Ⅰ部のまとめの章(第4章)では、人材フレームは組織文化と密接にかかわっているとして、組織文化を捉える3段階モデルとして「制度・ルール」レベル、「方針・戦略」レベル、「価値観・行動様式」レベルを挙げ、A社のケースは制度レベル、B社のケースは方針レベル、C社のケースは価値観・行動様式レベルにそれぞれ問題があったとし、このように課題が3段階のどのレベルにあるかを見極めた上で、どのようにしたら課題が解決できるかを考えていくべきだとしています。

 第Ⅱ部では、いずれも「人事マネメント」の課題として、部下を叱れない上司のケース(第5章)、成果主義に賛成しつつも差をつけない評価者のケース(第6章)、次世代幹部育成が、名ばかり「タレントマネジメント」として華々しいが、実態が伴っていないケース(第7章)と、それらをどうやって克服したかというケースが紹介されており、ここでも、打ち手を講じる前に課題がどのレベルにあるのか見極めることを説いています(第8章)。

 さらに第Ⅲ部では、「人事機能」に関する課題として、研修制度において本来受けなければならない人が受けていないというケース(第9章)、内部通報制度が機能せず不祥事が発覚した際に、人事部はどう組織改革に取り組むべきかというケース(第10章)、働き方改革実現に向けて、第1フェーズは上手くいったものの第2フェーズにおいて社内の足並みが揃わなくなったケース(第11章)を取り上げ、その課題克服のプロセスを示すとともに、まとめの章(第12章)では、「人事機能」とは何かを、デイビッド・ウルリッチが『MBAの人材戦略』で示した人事の「4つの役割」を用いて解説、さらに、人事機能をめぐる日本企業の課題とこれから取り組むべきことを示しています。

 ケースがいずれも実際にありそうなものばかりで、社内政治を含めた現実的な課題解決のプロセスが体系的に整理されている点が良いと思いました。世間で「良い制度」と言われているものが必ずしも「自社最適」とは言えず、では、理想と現実の間の溝をどうやって埋めるかというのは、多くの人事パーソンが直面する問題かと思いますが、自社にとっての「良い制度」として定着させるにはどこから着手すればよいかを考える上でヒントを与えてくれる本でした。

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女性幹部育成にポジティブアクションは必須。やらない企業は時代に遅れていく。

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女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成 (光文社新書)』['20年]

 本書によれば、日本では、政治の世界も経済の世界も、意思決定層は「日本人、男性、シニア」と極めて均質であり、2019年12月、世界経済フォーラムから発表されたジェンダー・ギャップ指数で、日本は調査対象の153カ国中121位、過去最低の順位であり、女性リーダーの少なさが、下位低迷の大きな要因とのことです。海外各国では働く女性の現況に危機感を抱き、変化を加速させていて、意思決定層に女性を増やさないと日本は変わらない、それどころか、このまま沈んでしまうと―。

 本書は、四半世紀にわたって女性リーダーの取材を続けてきた著者が、国内外の女性役員にインタビューしたもので、それら「生の声」に、これからの時代を生き抜くヒントが眠っているとしています。

 第1章、第2章で、企業の役員となった女性たち10人のその道のりを紹介しています。第1章では、均等法世代の総合職一期生、二期生としての道を歩んで役員となった女性を5人、第2章では、役員に就いた年代が30代から50代までの様々なキャリアの女性を、短大卒一般職、地域限定職などから役員になった人も含め5人紹介しています。この10人のキャリアの紹介が本書の半分強を占めます。

 第3章では、こうした女性役員の歩んだキャリアを分析し、その中で「一皮むけた経験」とは何だったのかを見ていくと、男性役員と大差なく、
1.キャリアの初期で、仕事を任せて鍛えてくれる上司と出会っている
 2.転勤も海外赴任もいとわずにキャリアを築いてきた
 3.仕事で修羅場(過酷な経験、失敗体験)を経験した
4.「目をかけ引き上げてくれる人」に早い時期に巡り合っている
5.「ガラスの天井」も「ガラスの壁」もなかった
といったものになるとしています。その上で、女性幹部の育成を加速させるにはいわゆる「ポジティブアクション」が必要であるとして、そのポイントを整理しています。

 第4章、第5章では海外に目を転じています。第4章では監査役会を対象に「女性を3割以上にすべし」というクオータ制を導入したドイツにおいて、それでも残るさまざまな女性に特有の壁を克服して、企業の取締役や監査役になった女性たちに、自らの成長体験は何だったのかを訊き、第5章では、米国シリコンバレーで、その地においてさえまだ根強いジェンダー・バイアスと闘って、CEOなどエグゼクティブの地位に就いた女性たちに、今までのどのような経験が役に立ち、何をモットーに仕事に向き合ってきたのかを訊いています。

 第6章では、女性のキャリア形成が世代によりどう違うのかを考えるとともに、まだ残る女性管理職ならではの壁についても証言から明らかにし、女性課長のキャリア形成の3つのポイントを挙げるとともに、女性課長を悩ませる5つの壁を整理し、第7章では、女性幹部育成にまつわる5つの誤解と題して、根強い根強いジェンダー・バイアスと女性幹部育成の関係を、アンケート調査から探っています。

 やはり、第1章、第2章の女性役員たちのキャリアの紹介がインパクトがありました。部下全員が年上の男性だったり、部長職を解任されたり、リストラの矢面に立たされたりと、各章末に図解で可視化されたキャリアの軌跡は"山あり谷あり"で多様でありながらも、"谷"の部分、乃至はコンフォートゾーン(居心地のいいポジション)を抜け出す契機となったものは何だったのかという点について共通項が見られるようにも思いました。

 それが、第3章にある「一皮むけた経験」であると思いますが、それを見ると、確かに本人の頑張りや有能さもあるとは思われ、実際に第1章、第2章などは"列伝"風に読めてしまう側面もある(そのため抵抗を感じる読者もいるのではないか)、その一方で、見方によっては、会社や上司がその女性を育てる環境を用意したからこそ、彼女たちのキャリアがあったともとれます。だからこそ、著者が、女性役員を増やすためには、トップ主導での「ポジティブアクション」が必要であると説くのは、よく分かるように思いました。

 サブタイトルからも窺えるように、神戸大学・金井壽宏教授の『仕事で「一皮むける」―関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』('02年/光文社新書)にインスパイアされてその女性版を指向したものですが、よく纏まっていて("本家"以上(?))、ジェンダー・バイアスの解消がこれからの社会には必要であり、いま会社の経営方針としてそれを進めることが求められており、施策を講じない企業はどんどん時代の流れに遅れていくと改めて思わせられる本でした。

《読書MEMO》
●女性幹部育成のポイント(第3章)
 ➀トップダウンで、必要性を繰り返し説く
 ②経営戦略に組み込み、目標を定める
 ③管理職の育成責任を明確にする
 ④女性社員のキャリア意識を高める
 ⑤アンコンシャス・バイアスの影響を取り除く
●女性課長のキャリア形成の3つのポイント(第6章)
 1.「武者修行」の機会を20代のうちから与える
2.子育てとの両立で、管理職のイメージを塗り替えていく
3.管理職へのルートが多様化している
●女性課長を悩ませる5つの壁(第7章)
 その1:「女性枠」と抜擢の度に言われる
 その2:成功しても失敗しても目立ってしまう
 その3:上の世代の女性管理職との「世代差」に悩む
 その4:男性とは違う「母親的」リーダー像を求められる
 その5:振り返ると、あとに続く後輩がいない
番外編:夫との家事育児分担・収入差という「家庭内の壁」
●女性課長を悩ませる5つの壁(第7章)
 その1)女性は管理職になりたがらない
  → 昇進意欲は男性の方が強いが、リーダー意欲に男女で大きな差はない
 その2)管理職にふさわしい女性がいない
  → 女性はリーダーに向かないというジェンダー・バイアスがある
その3)女性は「木を見て森を見ず」、大局観に欠ける
  → 男女のリーダーシップ・スタイルに差はない
その4)管理職のハードワークは、子育て中の女性には難しい
  →「女性はハードワークに耐えてはいけない」という刷り込みがある
 その5)女性管理職には、面倒見のいいお母さんタイプが多い
  → これからの時代、管理職には男女を問わず「個別配慮」が求められる

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パワハラ境界線ばかり気にするのではなく、働きやすい職場、良好な人間関係づくりをめざせと。

『最新パワハラ対策完全ガイド』2020.jpg 『最新パワハラ対策完全ガイド【付録】厚生労働省パワハラガイドライン全文』['20年]

 本書は、令和2年6月から、大企業に対して、改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が施行されるのに合わせて刊行されたもので、企業のパワハラへの対応の義務化に際して、人事や窓口担当者、管理職が留意すべき対応のポイントは何かを、わかりやすく解説しています。

 第1章では、企業におけるパワハラ対策の必要性と意義を説いています。パワハラは今や企業不祥事となっており、パワハラ防止は組織を挙げて取り組むべき課題であるとし、また、パワハラ防止対策は、健康で健全な経営につながるとしています。

 第2章では、パワハラの定義と構成要件を整理しています。パワハラの法的責任が問われるケースを判例から説明するとともに、人によってパワハラと感じる範囲にズレがあるため、現場レベルでパワハラであるかないかを議論しない方がよく、判断基準にとらわれるとかえって問題がこじれるとしています。

 第3章では、管理職のパワハラリスクとその対処法を説いています。パワハラが起きる背景には「役割期待」のズレがあるとし、管理職に対し、いくら指導に熱心でも一線を越えてはならず、部下の受信力に合わせた発信をし、「役割期待」のズレを解消するよう説いています。

 第4章では、パワハラの被害を受けないようにするにはどうすればよいかを説いています。上司からマイナスの目で見られないために報連相をこまめに行うこと、「やりにくい上司」というネガティブな見方をリフレーミングという手法で変えること、「内的キャリア」を育て、仕事の意味を明確化すること、セルフリファー力(周囲や専門家に相談する力)を高めること、などを挙げています。

 第5章では、一人ひとりの「パワハラを許さない」という意識がパワハラを防ぐとしています。パワハラは当事者と人事部だけで解決する問題ではなく、第三者もパワハラの「見える化」に協力し、日ごろから周囲の人に関心を持つこと、気になることがあれば声かけをし、悩みを聞いてあげるだけでもサポートになるし、相談窓口につなぐのも第三者の役割であるとしています。

 第6章では、パワハラの相談を受ける技術を紹介しています。ハラスメントの担当者になったら留意すべきこと、被害者面談の進め方と注意点などをまとめています。

 第7章では、パワハラ対策の実効性を高めるにはどうすればよいかを説いています。人事に求められるプロジェクトをパワハラを中心に一本化することを推奨し、予防と再発防止を重視した取り組みを行い、「小さな芽」を摘むことを心がけるよう説いています。

 人事部、上司、部下、それ以外の第三者のいずれにとっても啓発的であるととも実践的な内容です。わかりやすく書かれていて、個人的には特に、第3章で、パワハラには、相手に意識が集中してしまう「ロックオン」とでもいう前段階があり、これによってマイナスエネルギー(ストレスやネガティブ感情)が溜まり、そのマイナスエネルギーが放出されるとパワハラになるという説明は腑に落ちました。
 
 パワハラかどうかの境界線ばかり気にするのではなく、「働きやすい職場」「良好な人間関係づくり」という前向きなアプローチの方が、パワハラを生まない職場づくりの近道になることを説いた、啓発的かつ実践的な良書だと思います。

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内発的動機づけを促すのは「自律性・有能感・関係性」。とりわけ「自律性」支援が重要。

人を伸ばす力01.jpg人を伸ばす力02.jpg エドワード・L・デシ.jpg Edward L. Deci
人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』['99年] 

 本書(原題:Why We Do What We Do: Understanding Self-Motivation、1995)では、アメとムチによる旧来のマネジメントを否定し、課題に自発的に取り組む「内発的動機づけ」と、自分が自分の行動の主人公となる「自律性」の重要性を実証的に提唱するとともに、では内発的動機づけと自律性はどうしたら伸びるか、その成長を支援する方法は何か、その実践方法を説いています。

 全四部構成ですが、第Ⅳ部は結論であるため、実質的には三部構成です。第1章では、内発的動機づけの中心テーマである「自律性」について解説されていて、第2章以降のプロローグとなっているとともに、本書の狙いは、さまざまな動機づけ研究から自律性と責任感の関係について探り、疎外をもたらす世界において責任ある行動を促すという問題に活かすことであるとしています。

 第Ⅰ部「自律性と有能感がなぜ大切なのか」(第2章~第5章)では、「自律性」と「有能さ」を高めることが内発的動機づけを高めることにつながるとしています。
 第2章では、報酬と疎外の関係について解説されていて、被験者にパズルを解かせ、その際に一方には報酬を与え、他方には報酬を与えないとした実験の結果(報酬を与えないグループの方がパズルに熱心に取り組んだ)を通して、外的な報酬は内発的動機づけを低下させることがあるとしています。

 第3章では、なぜ報酬は内発的動機づけを低下させるのか、ならば内発的動機づけを高めるのは何かを考察し、報酬が内発的動機づけを低下させるのはそれが自律性を阻害してしまうからであり、一方、自由な行為選択の機会が与えられることで内発的動機づけは高まるとしています。

 第4章では、内発的動機づけと外発的動機づけがそれぞれもたらすものについて解説し、ここでも二つに分けた被験者グループに学習テストをさせ、一方は評価を目的とし、もう一方は人に学習内容を教えることを目的とした実験の結果を通して、外的報酬を用いて過度に統制することが、いかに内発的動機づけを低下させ、成果の質を落とすかを実証的に説明しています。

 第5章では、「自律性」の感覚は、上手くこなせるという感覚、周囲の世界との関わりを通した「有能感」への欲求につながるとし、有能感が生まれる条件は、それが最適な難度への挑戦であるとともに、統制の要素を伴わない、自律性を支えるやり方での挑戦であることだとしています。

 第Ⅱ部「人との絆がもつ役割」(第6章~第9章)では、「関係性」の重要性が述べられています。
 第6章では、人間は主体的に世界と関わっていくことで発達していくものであるとし、自ら内的世界を組織化し、大きな統合性に向かっていく基本的性向があるとしています。この欲求を阻害するのは、動機づけシステムが上手く機能しない社会的文脈や、システムの機能があってもそれが統制的で自律性を奪う場合などで、自分が有能であり自律的であると自分自身が認識できなければこの内的統合は果たせず、その意味で人間の発達にとって自律性の支援は極めて重要であるとしています。

 第7章では、さらに自律性の支援いついて説き、社会化とは社会の一員となるスキルを身につけることであり、社会の担い手(親、教師、管理職など)は、下位の者たちが自分の意志によって社会の活動に従事し、自律的に活動できるようにしなければならないとしています。

 第8章では、社会の中の自己というものについて考察し、自己に統合されていない規範「とりこみ」が過度になると、人は「~すべき、~あるべき」に縛られて、本当の自己が見えなくなるとし、真の自己の統合と発達には、そうした規範に捉われず、自由になることで、真の内発的欲求を充足する必要があるとしています。
第9章では、生きる意欲の内、外発的な意欲として、裕福になること、有名になること、肉体的魅力があることの三つを挙げ、内発的な意欲として、満足のいく個人的関係、社会貢献、個人としての成長の三つを挙げて、内発的な意欲に比べ外発的な意欲の高い人は精神的健康が低くなるという調査結果をもとに、病める現代社会においては、個人主義的ではあるが自律的ではないという状態が起きやすいと警告しています。

 第Ⅲ部「どうしたらうまくいくか」(第10章~第12章)では、これまで述べてきたことを受けて、どうすれば人々の内発的動機づけを高めることはできるかをまとめています。
 第10章では、いかにして自律を促進するか、 第11章では、健康な行動を促進するにはどうすればよいか、第12章では、統制された環境下で自律的に生きるにはどうすればようかを説いています。

 本書で著者らは、「内発的動機づけ」を高める欲求として、「自分のすることは自分で決めて動きたい」という「自律性への欲求」、自分で自分の仕事を「こなすことができる」「やりとげることができる」という「有能感」、「他者と関わっていたい」「他人とよい関係を築きたい」「他者に貢献したい」という「関係性への欲求」の三つを挙げていることになりますが、この中で「自律性への欲求」に最もページが割かれていて、「自律性」が内発的動機づけの"一丁目一番地"と言えるのかもしれません。社員が「自律性」をもって、ひとりの人間として成長し、「有能感」を持てるように支え合い、互いを尊重する「関係性」が組織風土として根付けば、「明日もがんばろう」と思えるモチベーションの高い社員が増加するということなのでしょう。仕事や人生に対する哲学的な考察や示唆も多く含まれていて、読めば読むほど味の出る本。人事パーソンには是非とも読んで欲しい名著です。

《読書MEMO》
●二十世紀のおそらくもっとも偉大な美術教師であるロバート・ヘンリは、(中略)次のように記している。「(中略)絵を描くことの目的は、絵を完成させることにあるのではない。(中略)真の芸術活動の背後にある目標は、存在の本質的状態(a state of being)に到達することである。それは、高い次元で活動している状態、普通に存在している以上の状態に達することである。」(27p)

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業績管理法(PM)を解説。部下が「笛吹けど踊らず」状態の上司に読ませたい。

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ベストを引き出せ―部下の業績を最大化するリーダーシップ』['95年]

 本書は、臨床心理学者でコンサルタントでもある著者によって、心理学的な観点から業績管理法について書かれた本であり、この分野では代表的な著作であるとされています。業績管理法はパフォーマンス・マネジメント(PM)とも呼ばれ、本書により「メンバーが行動を結果に結びつけるための人材マネジメント手法」として紹介されました。

 まえがきにおいて、「リーダーが企業内で変革を勧めようとする場合、リーダーは従業員たちの貢献意欲、創造活動、協力、業績を高めるか逆に低下させるかどちらかのやり方で変革を推進する。本書は、どうして、いかにこのような状況が発生するのかについて、明確に説明したい」としています。

 第Ⅰ部「伝統的マネジメントの危険性」では、1章で、流行の経営管理手法に惑わさず、また「自己流のスタイル」から脱して確固たる方法をとるべきであるとしたうえで、ビジネスとは行動そのものであり、業績管理法は人間行動を理解することを目的とし、行動を変革するための科学的な方法を活用するとしています。2章では、常識的な知識は通常のビジネスや生活の中で身につくが、科学的知識は計画的、体系的に追求されなければならず、科学的な知識こそが継続的な成果の基になるとしています。3章では、行動分析の科学では、行動の前に現れてくる現象を「前件」、行動の後に生じてくることを「結果」と呼び、前件はある行動を引き起こすが持続させることはできず、結果こそが行動を持続させるとしています。

 第Ⅱ部「行動強化は驚くべき力をもたらす」では、4章で、行動に伴って出てくる結果には、行動強化、行動否定、行動処罰、行動消去の4つのタイプがあり、行動強化は業績を改善させる「結果」と定義されているので、この方法は常に有効であることになるとしています。5章では、業績管理の基本は、ものごとを他人が見ているのと同じ見方でとらえることであり、それによって部下との信頼が築けるとしています。6章では、行動否定には大きな欠陥があるとして、行動強化と行動否定でどのような差があるか、行動否定が作用していることを示すヒントとはどこに見られるのかを解説しています。7章では、行動強化で部下の自発的努力を引き出すにはどうすればよいか、8章では、行動消去と行動処罰を活用するにはどうすればよいか、9章では、行動強化を効果的に活用するにはどうすればよいかをそれぞれ解説しています。

 第Ⅲ部「業績管理法によりリーダーシップを発揮する」では、10章で、成果を達成するために必要とされる行動をどう特定するかを述べています。11章では、行動を測定する方法の妥当性を高めるにはどうすればよいか、12章では、部下に効果的に業績をフィードバックするにはどうすればよいかを述べ、13章では、部下の業績を最大に高めるための技法を紹介しています。

 第Ⅳ部「組織の業績をベストに導く」では、14章で、業績管理法において経営幹部の果たすべき役割を説き、困難な時期こそ支援的行動強化が必要とされるとしています。15章では、従業員の学習効果を最大限に高めるにはどうすればよいかを説き、16章では、部下からベストを引き出すための心構えやヒントを示しています。

 さらにエピローグで、業績管理法が基礎とする価値として、つつみ隠さぬ姿勢、一貫性、公平性と人間尊重などを挙げています。

 近年、組織としてどのようなアクションをとるのが望ましいかを明らかにし、それを従業員一人ひとりの個人的な目標とリンクさせることによって、組織全体の生産性を向上させようと考える企業が増えてきています。本書によれば、業績管理法は、目標達成につながる行動を社員本人と一緒に考え、そのアクションの結果を受けて、定期的にフィードバック。社員に気付きを促すことで、さらに能力発揮につながるように導くものであるということになります。

 より具体的には、各メンバーの行動とその結果に注目し、客観的な計測結果をフィードバックすることで、パフォーマンスに繋がる「望ましい行動」を増やし、「望ましくない行動」を減らそうとするものということになります。この手法は現代の職場においても効果的であると考えられ、従業員や部下が「笛吹けど踊らず」状態の経営者やマネジャーには是非読んでほしい本です。

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エクセレントを生むのは「人」という考え方はブレず、AI時代にも説得力を持つ。

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新エクセレント・カンパニー: AIに勝てる組織の条件』['20年]

 本書は、80年代に発表され、世界的ベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』を著した著者が、豊富な経験とケーススタディをもとに、AI(人工知能)には決してマネ出来ない「エクセレント」な企業活動の条件とは何か、時代に左右されないビジネスの本質を説いたものです。

 第Ⅰ部「実践」 、第Ⅱ部「エクセレント」 、第Ⅲ部「人びと」、 第Ⅳ部「イノベーション」、 第Ⅴ部「付加価値」、 第Ⅵ部「エクセレントなリーダー」の全6部から成り、さらにそれを15の章に分けており、 第Ⅰ部では、実践こそ戦略であり、実践とは現場で行われるものであって、社長室では起こらないと説いています(第1章)。

 第Ⅱ部では、エクセレントとは何かを14のセクションにわたって検討し、エクセレントはその瞬間瞬間の生き方にあり、実行しなければ存在しないとしています(2章)。さらに、エクセレントは、エクセレントな組織文化によってのみ維持されるとし(第3章)、中小企業は間違いなくエクセレントたり得るとして、エクセレントな成果を上げている中小企業の事例を紹介しています(第4章)。

 第Ⅲ部のテーマは人間関係であり、まず「人がいちばん」はエクセレントを目指すための最重要項目であるとし(第5章)、従業員一人ひとりにチームにがっちりかかわらせて、チームの成長に専念させなければならないとしています(第6章)。また、新しいテクノロジーとの向き合い方を説き、企業の新しい道徳的責務は、すべての社員に将来必要となる専門技術を身につけさせることだとし(第7章)、不安定な世界で雇用を安定させることは、攻撃的な戦略なのだとしています(第8章)。

 第Ⅳ部では、イノベーションの2つの法則(「数打ちゃ当たる」と「失敗は成功のもと」)を紹介し、イノベーションは"本気の遊び"であり、思い切って一歩を踏み出すことだとし(第9章)、多様な相手との付き合いが私たちを成長させるのであって、この時代、同じような人とばかり付き合うのは身を亡ぼすとしています(第10章)。

 第Ⅴ部では、AI時代において魂が抜けた業務が氾濫するなかで、付加価値こそ優先すべきだとして、付加価値を強化する9つの戦略の筆頭にデザインを挙げ、アップルなどの例からデザインこそ最重要の差別化因子であるとし(第11章)、続いて、その他の8つの付加価値強化戦略を説いています(第12章)。

 第Ⅵ部では、エクセレントなリーダーの最大の特質は「聴き上手」であることだとし(第13章)、最前線のエクセレントなリーダーは企業のコアバリューであって、もっと評価されるべきだとしています(第14章)。そして最後に、エクセレントなリーダーとなるための26の戦術を紹介しています(第15章)。

 各章の冒頭に「マイストーリー」という著者自身の実体験があり、その後に各トピックが番号付きで紹介されてはいますが、内容的には特に体系だった構成がされているわけではなく、解説の米倉誠一郎・法政大学大学院教授が述べているように、気に入った章から読み進め、各章で紹介されるエクセレントな事例を座右の銘として書き留めるという読み方でもよいと思います。

 他の書籍からの引用が多く、読んでいてやや細切れ感があったのは否めませんが、戦略や数字、分析よりも、組織文化や人こそが大切であるという考え方は、前著『エクセレント・カンパニー』から受け継がれているものであり、AI時代に突入した今日においても、エクセレントを生むのは「人」であるとし、そうした「人がいちばん」という著者の考え方がブレず、且つ、今日においても説得力を持っているのは、個人的には嬉しく、また心強く思いました。

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「体育会系」組織の病理に迫るも、人事パーソン的には物足りない。

体育会系上司.jpg体育会系上司2020.jpg       自己実現という罠.jpg  
 『体育会系上司 - 「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書 - (ワニブックスPLUS新書)』['20年] 『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』['18年]  

 以前、その著書『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』('15年/日経文庫)、『自己実現という罠―悪用される「内発的動機づけ」』('18年/平凡社新書)を取り上げた著者の本(この著者は4冊目ということになる)。

 ここ数年、体育会系組織の不祥事が次々と明るみに出て、世間を騒がせていますが、本書は、心理学者である著者が、体育会系組織の特徴と問題点について心理学の視点から検討することで、「体育会系」という存在の正体に迫っています。そして、スポーツ系の組織に限らず、日本的組織の持つ特徴が体育会系組織に凝縮されているとの仮説のもと、日本的組織が陥りがちな問題点を探るとともに、体育会系組織との付き合い方を示しています。

 第1章では、なぜ人は体育系の魅力に取り憑かれるのかを分析しています。著者によれば、池井戸潤の「下町ロケット」などもいわば体育会系のノリの作品であり、見る者を熱くさせるのが体育会系の魅力であるが、そこには非現実の世界だからこそ美しく見えるといった面もあるとしています。

 第2章では、アメフト部、ボクシング連盟、体操協会などに見られた諸事件を分析し、その権力構造が、山崎豊子の「白い巨塔」で描かれる大学医学部の組織構造と酷似していることを指摘、体育会系の組織構造は日本の社会に深く浸透しているとして、果たしてそうした組織に身を置いたとき、自分が正しいと思った通りに行動できる人間がどれだけいるだろうかと問いかけています。

 第3章では、体育会系学生のイメージと実態を分析しています。体育会系学生の肯定的なイメージは、➀礼儀正しい、②仲間を大切にする、③自己抑制力がある、などで、否定的なイメージは、➀勢いだけで動く、②融通が利かない、③自分の頭で考えない、④単純な認知構造、であると。体育会系人材の特徴として、社交性や協調性の高さ、行動力、達成動機の強さ、チャレンジ精神、意志の強さなどがあり、実態としては、今も体育会系人材は企業から好まれているとしています。

 第4章では、体育会系組織がなぜ病んでしまうのかを分析し、その原因として、上意下達が思考停止を招く、気配りが忖度の行きすぎを招く、権威主義がパワハラ容認につながる、属人思考に染まる、事なかれ主義に陥りがちになる、などを挙げています。また、自己抑制による欲求不満が陰湿ないじめを生んだり、団結心の強さが逆に仇になることがあるとしています。

 第5章では、体育会系組織に象徴される日本的組織の病巣を、実際に起きた不祥事事件などから探り、不祥事を生む「気配り」、責任の所在を覆い隠す忖度の心理構造、情実人事につながる「上にお任せ」の「甘えの心理構造」、会議で本当の議論ができず、空気を乱さないことが何よりも大事になっていることなど挙げています。

 第6章では、体育会系組織との上手い付き合い方を指南しています。ここでは、自己中心的になりすぎない、危ない時は情にアピールする、話を単純明快にする、適度の距離感を保つ、自分の軸を持つ、別の居場所を持つ、といったことを挙げています。

 採用時にはどの会社もこぞって欲しがる人材でありながら、何年も会社にて権力を持つと高圧的な態度を取りがちという、「体育会系」人材の問題を指摘した本は、これまでもあったように思います。本書の場合、それを個人レベルにとどまらず、組織心理学的な視点まで敷衍して分析している点は良かったです。

 ただし、何か新規性のある分析が見られたかというとそうでもなく、また、そうした問題のある組織や上司をどうするべきかということではなく、最後は、体育会系組織に馴染めない人に向けたアドバイスで終わっているのが(これはこれで一般向け図書としてはいいのだが)、これまで取り上げたこの著者の本と同様、人事パーソンの視点から見ると物足りないように思いました(今のところ、『自己実現という罠』がいちばん良かった)。


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何か自分の職場や生活にとってヒントになるものはないか探してみるもいいのでは。

フィンランド人はなぜ午後4時.jpgフィンランド人はなぜ午後4時に.jpg      フィンランド 豊かさのメソッド2.jpg
フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか (ポプラ新書 ほ 2-1)』['20年]『フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書)』 ['08年]

 以前、その著書『フィンランド豊かさのメソッド』('08年/集英社新書)を取り上げた著者の本。フィンランドは、国連が毎年発表している幸福度ランキングで、2018年、2019年と2年連続で1位となった国ですが、フィンランド人は、仕事も、家庭も、趣味も、勉強も、なんにでも貪欲で、それでも睡眠は7時間半以上とるとのことです。本書は、フィンランド大学大学院を卒業し、フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で仕事をしている著者が、こうしたゆとりのあるフィンランド流の働き方の秘訣を解説したものです。

 第1章では、フィンランドがなぜ幸福度1位なのかを分析しています。それによれば、1人あたりのGDPは日本の1.25倍で、マクロ経済の安定度は世界1位、インフラや教育が高く評価され、ヘルシンキはヨーロッパのシリコンバレーと呼ばれる一方で、子ども貧困率はOECDの2018年調査ではデンマークに次いで2番目に低く(日本は34位)、同調査で教育、所得、生活満足度、健康の格差の平均順位をとっていくとフィンランドはデンマークに次いで2番目に格差が少ないとのこと。働く人々は夏にほとんどの有給休暇をまとめてとり、1カ月はしっかり休んで、有給消化率はほぼ100%。さらに、ふだんも、定時にオフィスを出て、残業はほとんどしないとのことです。著者によれば、フィンランドはパラダイスではなく課題も多くあるが、「日本もこうなったらいいのに」と思う部分が、特にワークライフバランや「ゆとり」の部分に多くあるとのことです。

 第2章では、フィンランドの人たちの働き方を紹介しています。16時を過ぎるころから一人、また一人と帰っていき、16時半を過ぎるとオフィスにはほとんど人はいなくなるといいます(フレックスを利用して8時から働き始めているというのもあるが)。まず、基本的には、残業しないのができる人の証拠だとされていると。また、3割の人が週に1度以上在宅勤務しているとのことです。オフィスもフリーアドレスの会社が増えてきており、立って仕事をする人も多いとのこと。スポーツインストラクターによるエクササイズ休憩(昭和の日本企業の職場での午後3時のラジオ体操みたい)を採り入れているところもあれば、コーヒー休憩を設けることが法律で決まっているというのは驚きです。コーヒー休憩はコミュニケーションの場にもなりますが、そのほかにも、社員同士が交流するレクリエーションデイや、時には外で話し合うリトリート、更には、サウナ会議などというのもあったりするとのこと。著者は、こうした仕事文化の根底にあるものとして、フィンランド人がよく使うウェルビーイングという言葉を挙げており、さらに、ウェルビーイングとともに、企業や組織が追求するのが、効率であるとしています。

 第3章では、フィンランドの人の働き方を見ていきます。フィンランドの仕事で肩書は重要ではなく、組織はオープンでフラットであり、組織のリラックスした上下関係は、年齢、性別、学歴などによっても左右されないとのこと、最近ではIT企業などでボスのいない職場というのも生まれており、また、歓送迎会もコーヒーでシンプルに行われ、接待さえも、ランチミーティングやブレックファーストミーティングでやってしまうことがあると。また、父親の8割が育児休暇を取得するとのことです。

 第4章では、フィンランド人の休み方を見ていきます。フィンランド人は、仕事も好きだけれど、それ以外の時間も大切にし、また、会社も福利厚生の一環として、仕事以外の活動や趣味を支援するとのこと、睡眠は7時間半以上確保し、週末も趣味、スポーツ、DIYなどに充てるとのことです。お金をかけずにアウトドアを楽しむコツを知っていて、また、土曜日は「サウナの日」で、9割以上の人がサウナを楽しむと。サウナは接待やおもてなしの場にもなるとのことです。夏休みは1カ月で、1年は11カ月と割切って心置きなく休む工夫をし、また、その分、夏は大学生が大きな戦力となり、企業にとってもインターンシップとしてプラスになるとのことです。

 第5章では、フィンランド人の根底にある「シス」という考え方を紹介しています。シスは、フィンランド語で、困難に耐えうる力、努力してあきらめずにやり遂げる力、不屈の精神、ガッツといった意味を持つ言葉です。シスは、フィンランド人にとっては、「自分の強い気持ち」を表しています。それが仕事も、家庭も、趣味も、勉強も、全てに貪欲に取り組む姿勢につながっているようです。

 第6章では、フィンランド人の貪欲な学び方を見ています。総合大学は授業料が無料で、多くの人が修士取得まで勉強を続け、また、大学や職業学校などでは、社会人向けの短期から長期の講座を多く用意しているため、転職者の二人に一人は、転職の際に新たな専門や学位を得ているとのことです。ですから、将来を見据えてAIを学ぶ人も多いとのことです。国の施策としてワークライフバランスの向上を目指す一方で、個々人は課題を冷静に見つめ、努力することも忘れない、そうした仕事も人生も大事にするという国民性なのだなあと思わされました。

 本書は、著者の前著『フィンランド 豊かさのメソッド』('08年/集英社新書)と同じく、豊かさとは何かということがテーマになっているようにも思います。人事パーソンの目線で言うと、前著のビジネス版ということで、2章から4章で、なぜそうすれば働きやすさと仕事の効率の維持が両立可能なのか、もう少し突っ込んで欲しかった気もします。ただし、日本でも働き方改革の議論が進んでいますが、ともすると労働時間を減らすということばかりに目が行って近視眼的になりやすいのではないかと思われ、その点では、フィンランドは日本とは国土も人口も、法律も制度も違い過ぎるといって、フィンランドで行われているようなことは日本できはしないと諦めるのではなく、本書を通して、何か自分の職場や生活にとってヒントになるものはないか探してみればそれなりに得るものはあるように思われます。


《読書MEMO》
●目次(一部抜粋)
1 フィンランドはなぜ幸福度1位なのか
・2年連続で幸福度1位の理由
・「ゆとり」に幸せを感じる
・自分らしく生きていける国
・ヨーロッパのシリコンバレー
・「良い国ランキング」でも1位
2 フィンランドの効率のいい働き方
・残業しないのが、できる人の証拠
・エクササイズ休憩もある
・コーヒー休憩は法律で決まっている
・「よい会議」のための8つのルール
・必ずしも会うことを重要視しない
3 フィンランドの心地いい働き方
・肩書は関係ない
・年齢や性別も関係ない
・ボスがいない働き方
・歓送迎会もコーヒーで
・父親の8割が育休をとる
4 フィンランドの上手な休み方
・お金をかけずにアウトドアを楽しむ
・土曜日はサウナの日
・心置きなく休む工夫
・休み明けにバリバリ働くフィンランド人
・おすすめの休みの過ごし方
5 フィンランドのシンプルな考え方
・世界のトレンドはフィンランドの「シス」!?
・ノキアのCEOも「シス」に言及
・職場でも、シンプルで心地いい服を
・偏差値や学歴で判断しない
・人間関係もシンプルで心地よく
・コミュニケーションもシンプルに
6 フィンラドの貪欲な学び方
・仕事とリンクする学び
・2人に1人は、転職の際に新たな専門や学位を得ている
・学びは、ピンチを乗り切るための最大の切り札
・将来を見据えてAIを学ぶ人も多い

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○経営思想家トップ50 ランクイン(アダム・グラント) 「●海外のTVドラマシリーズ」の インデックッスへ(「Dr.HOUSE」)

ギバー(与える人)こそが成功するとして、どうしたらギバーになれるのかを説く。

GIVE & TAKE2.jpgGIVE & TAKE.jpg アダム・グラント.jpg アダム・グラント
GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』['14年]

 組織心理学者による本書では、人間の思考と行動を「ギバー(人に惜しみなく与える人)」「テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)」「マッチャー(損得のバランスを考える人)」の三類型に分け、それぞれの特徴と可能性を分析し、ギバーこそが成功するとして、どうしたらギバーになれるのかを説いています。

 パート1では、ギバーは「ギブ・アンド・テイク」の関係を相手の利益になるようもっていき、受け取る以上に与えようとし、テイカーが自分を中心に考えるのに対し、ギバーは他人を中心に考え、相手が何を求めているかに注意を払うとしています。そして、多くの人々が、ギバーとして人間関係や評判を築いたサービス提供者を重視するようになっているとしています。

 パート2では、テイカーは自分のことで頭がいっぱいなので、三人称の代名詞(私たち)より一人称の代名詞(私)を使うことが多く、調査によれば、たいていの人は、フェイスブックのプロフィールを見ただけでテイカーかどうかを見分けることができるというとのことです。また、ギバーの1つ目の才能として、「ゆるいつながり」の人脈づくりを挙げ、強いつながりは「絆」を生み出すが、弱いつながりは「橋渡し」として役立つとしています。

 パート3では、テイカーは自分がほかの人より優れていると考え、他人に頼りすぎると、守りが甘くなってライバルに潰されてしまうと思いがちだが、ギバーは、競り合うことを弱さだとは考えず、それは強さの源であり、多くの人々のスキルをより大きな利益のために活用する手段であるとしています。また、ギバーの2つ目の才能として、自分だけでなくグループ全体が得をするように、パイ(総額)を大きくすることを挙げ、ギバーはグループに貢献するので皆から感謝されるとしています。

 パート4では、ギバーは同僚や会社を守ることを第一に考えるので、進んで自らの失敗を認め、柔軟に意思決定しようとし、長い目で見てよりよい選択をするためなら、さしあたって自分のプライドや評判が打撃を受けてもかまわないとするとしています。そして、ギバーの3つ目の才能として、テイカーが、自分こそが一番賢い人間になろうと躍起になるのに対し、ギバーは、たとえ自分の信念が脅かされようと、他人の専門知識を受け入れ、その結果、部下の可能性を掘り出し、精鋭たちを育てるということを挙げています。

 パート5では、テイカーは強気な話し方をする傾向があり、独断的であるのに対し、ギバーはもっとゆるい話し方をする傾向があり、控えめな言葉を使って話すとしています。また、ギバーの4つ目の才能として、「強いリーダーシップ」を発揮するのではなく、知らずしらずのうちに相手の心をつかむ質問力や説得術により、相手に対して「影響力」を及ぼすことが挙げられるとしています。

 パート6では、ギバーが成功するために気をつけなければならないこととして、困っている人をうまく助けてやれないときに、燃え尽きてしまうことがあるが、他人のことだけでなく自分自身のことも思いやりながら他者志向的に与えれば、心身の健康を犠牲にすることはなくなるとしています。

 パート7では、「いい人」であるだけでは絶対に成功はできないとし、気づかいが報われる人と人に利用されるだけの人の違いを説いています。ここでは、ギバーが陥りやすい三つの罠として、信用しすぎること、相手に共感しすぎること、臆病になりすぎることを挙げ、それらに陥らないためにはどうすればよいかを述べています。

 パート8では、人間が「お互いを助ける」のはなぜかを考察し、それは、困っている相手に自己意識を同化させ、相手のなかに自分自身を見出すからだとし、つまり、実際には自分自身を助けていることになるとしています。そして、最初に人々の行動を変えれば、信念も後からついてくるとしています。

 パート9では、多くの人がギバーとしての価値観を持っているのに仕事ではそれを表に出したがらないが、ほんの少しでもギバーになれば、もっと大きな成功や豊かな人生、より鮮やかな時間が手に入ること示唆して、本書を締め括っています。

 監訳者の楠木建氏も書いていますが、本書を読んだ第一の印象は「情けは人のためならず」ということでしょうか。しかし、楠木氏は、本書は凡百の「自己啓発書」ではなく、行動科学の理論と実証研究に裏打ちされている点で、個人的な経験や思いつきで書かれた自己啓発のビジネス書とは一線を画しているとしています。

 人事パーソンの視点で見れば、職場にこうしたギバーが増えていくことが望ましいということになるかと思います。また、もし、あるチームが効果的に機能しているとすれば、それは特定のギバーに負っている面があったりもする可能性もあり、そうしたギバーが燃え尽きてしまうことがないような配慮も必要になってくるかと思います。その意味で、組織論的な観点からも多くの示唆に富む本であると思います。

TED Talks. 「与える人」と「奪う人」 ― あなたはどっち?
TED Talks. 「与える人」と「奪う人」.jpg

2TED Talks. 「与える人」と「奪う人」2.jpg2TED Talks. 「与える人」と「奪う人」.jpg(●アダム・グラントは「TEDトーク」で「人当たりの良いギバー」と「人当たりの悪いテイカ―」はすぐ分かるが、「人当たりの良いテイカ―」と「人当たりの悪いギバー」は見分けを誤ることがあると注意を促してる。「人当たりの悪いギバー」の例として「Dr.HOUSE」でヒュー・ローリーが演じたグレゴリー・ハウス医師を挙げているのが個人的には分かりやすかった。有能だが不愛想でいつも不機嫌に「Dr.HOUSE」2004.jpg「Dr.HOUSE」ヒュー・ローリー.jpgしているため組織の上の方からも疎んじられているが、実は部下にとって自身の成長を促してくれる存在であるということだ。キャラクター的にはシャーロック・ホームズをモデルにしていることが知られ、日本では「US版ブラック・ジャック」というキャッチコピーが付けられていた。)

「Dr.HOUSE」 House (FOX 2004/11~2012) ○日本での放映チャネル:FOXライフHD(2005)→FOXチャンネル(2006-)

《読書会》
■2021年04月16日 第34回「人事の名著を読む会」アダム・グラント 『GIVE & TAKE』
『GIVE & TAKE dokusyokai.jpg『GIVE & TAKE dokusyokai2.jpg

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"GAFA"の経営者らが師と仰いだ伝説の人物のコーチングとはどのようなものかを紹介。

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1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』['19年]

 スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾズ、ラリー・ペイジといった"GAFA"と呼ばれる企業の創業者らがこぞってコーチとして仰ぎ、シリコンバレーのレジェンドと言われながら、2016年に亡くなったビル・キャンベルの、彼の教えがどのようなものであったかを、『How Google Works―私たちの働き方とマネジメント』('14年/日本経済新聞出版社)の著者でもある元グーグルの経営幹部らが紹介した本です。

 ビル・キャンベルという人は、アメフトのコーチ出身でありながら、優秀なプロ経営者であり、著名な企業のタレント揃いの人材に多大な影響を及ぼしながらも、本人は表に出ることは少なく、人を活かす黒子役に徹してきたとのことです。本書は彼のコーチを受けた3人のグーグル幹部経験者が、彼のコーチングを受けた80人のエグゼクティブにヒアリングするなどして、改めて伝説のコーチの人となりやコーチングとはどのようなものだったのかを纒めています。

 まず紹介されているビルの考え方は、「人がすべて」という原則です(第2章)。マネジャーのいちばん大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことであると。また、コミュニケーションが会社の命運を握るとし、例えば月曜のスタッフミーティングが始まると、まず一人ひとりに週末何をしたかを尋ね、旅行帰りの人がいれば簡単に旅の報告をしてもらったとのこと。この目的は二つあり、一つは、チームメンバーが仕事以外の生活を持つ人間同士としてお互いを知り合えるようにすること、二つめは、全員が特定の職務の責任者としてだけでなく、一人の人間として楽しんでミーティングに参加できるようにすることにあったとのことです。

 また、ビルにとって「信頼」は最優先されるべき価値観であり(第3章)、信頼を確立することは、最近の言葉で言う、チームの「心理的安全性」を育むための必要条件であるとしていたとのこと。心理的安全性とは、「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり、ありのままでいることに心地よさを感じられようなチーム風土である」としています。

 ビルは、コーチングを受け入れられると判断した人に対しては、じっくりと耳を傾け、偉大なことを成し遂げられるとして、誠意を尽くしたとのことです。また、コーチとの関係から最大の価値を引き出すには、教えられる側が、コーチングを受け入れる姿勢がなくてはならないともしたとのことです。彼が求めた、コーチされるのに必要な資質とは、「正直さ」「謙虚さ」「努力を厭わない姿勢」「常に学ぼうとする意欲」であったとのことです。「正直さ」が求められるのは、コーチングの関係を成功させるには、赤裸々に自分の弱さをさらけ出す必要があるためであり、「謙虚さ」が重要なのは、リーダーシップとは、会社やチームという自分より大きなものに献身することだと考えていたためとのことです。

 また、ビルは、コーチングセッションで、「フリーフォーム」で話を聞くことを心掛けていたとのことです。いつでも相手に全神経を集中させ、じっくり耳を傾けたとのことです。相手が言いそうなことを先回りして考えたりせず、とにかく耳を傾けることが重要であるとしたと。ビルが「すべきこと」を指図することは一度もなく、むしろ彼は、どんどん質問を投げかけて、本当の問題に自分自身で気づかせるようにしたとのことです。

 さらに、ビルは、全員が「チーム・ファースト」となることを求め(第4章)、チームを最適化すれば問題は解決するとして、問題そのものよりも、チームに取り組むことの重要性を説いたとのことです。そして、物事がうまくいかないときは、いつにも増して「誠意」「献身」「決断力」がリーダーに求められると。また、小さな「声かけ」が大きな効果を持つということを自身が身をもって示していたとのことです。

 最後に紹介されているビルのモットーは、「パワー・オブ・ラブ」―ビジネスに愛を持ち込めということです(第5章)。人を大切にするには、人に関心を持たねばならず、プライベートな生活について尋ね、同僚の家族を理解し、大変な時には実際に駆けつけて手を差しのべていたと。ビルの小さな贈り物はほとんどの場合、アダム・グラントがその著書『GAVE & TAKE―「与える人」こそ成功する時代』('14年/三笠書房)「5分間の親切」と呼ばれるものにあたり、親切をする側にとってあまり負担はかからないが、受ける側にとっては大きな意味のあるものを指し、人々が絆で結ばれるとき、チームはずっと強くなれることをビルは信じ、自ら実践していたとのことです。

 ビル・キャンベルへの追悼の意を込めた伝記としての要素もあるため、やや故人が絶対視されている印象もありますが、本書に序文を寄せたアダム・グラントが述べているように、ビル・キャンベルが実践した人材管理やコーチングの原則は、「最先端の研究」のはるか先を行く考え方であり、そのコーチングにおける姿勢や考え方については、いつの時代にも通用するものであると思われ、人事パーソンにとっても参考になるかと思います

 日本ではエグゼクティブ・コーチングというものがそれほど浸透してはいないという現況がありますが、述べられていることは最も"オーソドックス"と言ってよく、やや精神論的な部分もありましたが、部下マネジメントに際して応用可能だと思いました。

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どうやってスマート・クリエイティブを惹きつける労働環境を作っているかが分かる。

How Google Works.jpgHow Google Works: 私たちの働き方とマネジメント』['14年]How Google Works 文庫.jpgHow Google Works: 私たちの働き方とマネジメント』['17年/日経ビジネス人文庫]

How Google Works1.jpg グーグル現会長で前CEO(本書執筆時)のエリック・シュミットと、前プロダクト担当シニア・バイスプレジデント(上級副社長)のジョナサン・ローゼンバーグが、グーグルはどうやって成功したのかを述べた本で、すべてが加速化している時代にあって、ビジネスで成功する最良の方法は、スマート・クリエイティブを惹きつけ、彼らが大きな目標を達成できるような環境を与えることであるとして、文化、戦略、人材、意思決定、コミュニケーション、イノベーションの各重要トピックについて、グーグルの考え方、グーグルでの働き方を説き明かしています。

 まず彼らは「現代は、どのような時代か?」という問いに、「現代は、インターネットの世紀である。具体的には、3つの生産要素が格段に安くなった。情報、インターネットへの接続、そしてコンピューティング性能」であると答えます。そして、「その結果、企業の成功に最も必要な要素は何か?」という問いには、「プロダクトの優位性である。情報の管理能力でも、流通チャネルの支配力でも、圧倒的なマーケティング力でもない」と答えます。さらに、優れたプロダクトをスピードを持って開発するのに必要な人材はどのようなものか?」という問いのGoogleの答は、「スマート・クリエイティブと言われる人々」である」と。では、「スマート・クリエイティブを惹きつける、良い会社にするにはどうしたら良いか?」という問いに対し、その答えは文化、戦略、人材、意思決定、コミュニケーション、イノベーションの6つの要素に集約されるとして、以下、それぞれについて解説していきます。

 「文化」では、社員同士の距離を近づけること、「カバ」すなわち、エライ人の言うことを聞かないこと、「悪党」すなわち、傲慢な人間、妬む人間からは仕事を取り上げること、人に「ダメ」と言わないこと(「イエス」の文化を醸成すること)などを推奨しています。

「戦略」では、計画は流動的であるべきであり、市場調査はせず、技術的アイデアに賭け、利益よりも成長(大きくなること)を重視せよと言っています。

 「人材」では、採用は一番大切な仕事であり、採用は絶対に妥協せず、学ぶ意欲の高い人物を採用すること、大事なのは「何を知っているか」ではなく、「これから何を学ぶか」であるとし、また、好き嫌いではなく、人格と知性で選ぶようにし、採用を全社員の担当業務に含め、「スゴイ知り合い」を紹介させるようにし(その際の貢献度は評価に入れる)、報酬は、低いところから始め、成果を出す人にはずば抜けた報酬を支払うようにせよと言っています。

 「意思決定」については、データに基づき決定すること、最適解に達するため意見の対立を不可欠とするとすること、収益の8割を稼ぐ事業に8割の時間をかけることを説いています。

 「コミュニケーション」については、役員会の議事録であったとしても、法律、あるいは規制で禁じられているごくわずかな事柄を除き、全て共有すること、会話を促進し(時にはコミュニケーション過剰と言われるくらい)話しやすい雰囲気を作ることを説いています。

 「イノベーション」については、①それが対象とするものは、数百万人、数十億人に影響をおよぼすような大きな問題あるいはチャンスだろうか。②既に市場に存在するものとは根本的に異なる解決策のアイデアはあるのか。③根本的に異なる解決策を世に送り出すための画期的な技術は既に存在しているのか、あるいは実現可能なのか、この3つの条件を検討せよと述べています。また、イノベーティブな人間にイノベーションを起こせと言う必要はなく、自由にさせれば良いとし、ユーザーに焦点を絞れば、後は全部ついてくる(カネを出す「顧客」ではなく、サービスを利用するユーザーに焦点を絞る)、リソースの70%をコアビジネスに、20%を成長ビジネスに、10%を新規ビジネスに投下せよとも言っています。

 本書で述べられているのはあくまでもGoogleの考え方であって、安易にマネをできるものではないし、異なる考え方を持つ方も多いでしょう(Amazon.comのレビューで「製造業には無縁の話で」というのもあった)。それでも、「次の時代の働き方」を模索するビジネスパーソンには、啓発される要素を多く含んだ本であると思います。また、人事パーソンの視点から見ても、世界的なエクセレント・カンパニーがどのようにして魅力的な労働環境を作っているかが分かるとともに、「人材」に関する記述などは、これからの人材マネジメントの在り方について多くの示唆を含むものであると思います(日本の人事部「HRアワード」2015の書籍部門で「最優秀賞」を受賞)。

【2017年文庫化[日経ビジネス人文庫]】


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人事変革の手法と言うより、その前提となるフレームの認識の在り方を説いた本。

最強組織をつくる人事変革の教科書.jpg 『最強組織をつくる人事変革の教科書』['19年]

 デトロイトトーマツのコンサルタントらによる本書は、人事は今大きな転換期を迎えており、「人事のあり方」を刷新しようとする動きが本格的に加速し始めているとした上で、人、組織、企業そして社会を変えていく人事とは何かを、人事のトレンドから実際の人事変革アプローチまで要素分析し、体系的に整理したものです。

 第1章では、人事が影響を与える3つの領域として「従業員一人ひとりの世界」「経営の世界」「社会」を挙げ、それぞれどのような影響を与えるのかを説明しています。「従業員個人」に与える影響に関しては、これまでの"会社・組織目線"での従業員エンゲージメントから、"従業員主導"の経験・価値の実現に対して人事が関わることの重要性を提唱しています。また、「経営」に対する影響としては、人事の成熟度が高まれば高まるほど、企業のパフォーマンスが高まるとし、「社会」に対する影響としては、SDGs(持続可能な開発目標)に基づき課題を整理し、人事との関連が深い目標にどのように人事が関わるべきかを示しています。

 第2章では、人事の実態をデータや事例から検証し、業務量を集計してみると、業務量の80%程度がオペレーション業務に費やされていることが分かったとし、戦略・企画業務により力を入れなければならないと人事自身も認識しているはずだが、過去から積み重なった様々な慣習が、人事を機能不全にし、知らぬ間に人事の変革を鈍らせているとしています。その上で、機能不全をその人事の特徴になぞらえて、「独りよがり」「成り行き」「管理者」「アナログ」の4つに類型化し、その原因を踏まえてそれぞれ解説しています。

 第3章では、これからの世界で勝つ"最強の人事"とは何かを、デロイトグローバル共通の方法論である「Future of HR」という人事変革コンセプトを活用して明らかにしています。「Future of HR」は、「これからの人事が真に価値を発揮し、新しい未来に踏み込みこんでいくための観点はどのようなものか」という問いに答える考え方で、「マインドセット」「フォーカス」「レンズ」「イネーブラー」という4つから構成されるとしています。

 第4章では、最強の人事に変革するための"6つのステップ"を紹介し、その大きな流れは、Step1:現状分析、Step2:設計方針策定、Step3:概要設計、Step4:詳細設計、Step5:実行計画策定、Step6:実行であるとしています。各社の置かれている外部環境や自社の人事課題、これまでの人事変革の達成状況によって、アプローチややり方が異なるため、全てを本書に記載することは困難であると断りながらも、実際のプロジェクトの中で共通的に実施し、特に重要だと考える、人事変革の具体的な流れと外してはいけないポイントは記載したつもりとのことです。

 第5章では、最強人事を担う"人事プロフェッショナル"について定義し、育成の考え方を提示しています。これまでの人事の担い手を、その求められてきた要件から「人事オペレーション人材」と呼ぶ一方で、最強の人事の担い手を「人事プロフェッショナル」と呼ぶことにしたと。人事変革に終わりはなく、絶えず変化する外部環境・内部環境に人事も合わせて変化し続ければならない―その変化に対応できるのはプロフェッショナルたる真の人事人材であるとし、人事ぷろっフェッショナルを育成する要件を示しています。

 最後に、人事は構造的な課題を抱えているとした上で、人事変革で成功するために絶対に外してはいけないことちして、1.人事変革コンセプトを言語化すること、2.人事担当役員またはそれに相当する方がプロジェクトをリードし、意思決定をタイムリーに行うこと、3.施策の実行者自身が実行プランを考えること、4.施策の実行者には専任メンバーを充てること、5.抵抗勢力は想像している以上に多いと思うこと、の5つを掲げていますが、何れもなるほどと思わされるものでした。

 人事を取り巻く環境変化、人事が機能不全に陥っている状況、人事に求められる役割、人事人材の育成も含めた人事変革の進め方についt、まさに「教科書」的に網羅されており、人事は、従業員個人、経営、社会に対して影響を及ぼす存在としてその価値が高まっていくとしており、これからの人事の仕事は非常にタフになるが、挑戦的で面白くもなるとの結語は、人事パーソンの胸に響くのではないでしょうか。

 良書だと思いますが、ややコンサルファームっぽさが匂う印象も(「具体策はご相談ください」的な)。個人的には、人事変革の具体的手法と言うより、その前提となるフレームの認識の在り方に重きを置いて説いた本のように思いました。

font size=2>「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3352】 和田 隆 『最新パワハラ対策完全ガイド

ビジネスパーソン、ワーママを取り巻く感情管理の膜の「しんどさ」への気づきを促す。

働く人のための感情資本論0.jpg働く人のための感情資本論.jpg
働く人のための感情資本論―パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』['19年]

 職場のパワハラ、メンタルケアと産業保健、過労自殺とうつ病、ライフハックの現場、ワーママのため息。感情が管理され、生が査定される時代。私たちは、グッとこらえたこの心の揺らぎと、どう向き合えばいいのか。毎日の仕事は、社会問題とどうつながっているのか。現代に疲弊する、働く人びとのための社会学―(「BOOK」データベースより)。

 近年職場でのハラスメントや労働者のうつ病、自殺が社会問題化していますが、そこで問われているのは、職場の対人コミュニケーションであり、本書で著者が論じようとしているのは、(感情が組織によって抑圧されることによる人間疎外よりも)相互尊重的なコミュニケーションができることが社会人としての必須能力とされ、それによって職業上の能力や評価が決定される現象に伴う閉塞感についてです。コミュニカティブであることを推奨する職場環境の中で、感情という資本はどのように機能しているのか、感情的にならずに感情を表出することと、効率的なパフォーマンスを可能にすることとの関係を解きほぐしながら、ハラスメントやうつ病と自殺、時間管理、ワーク・ライフ・バランスといった現代的な課題について考察しています。

 第1章「感情という資本」では、「パワーハラスメント」を受けて「倍返しだ!」と言える人は稀であり、多くはなかなか嫌悪感を表明できないのはなぜかを、アメリカの社会学者A・R・ホックシールドの感情管理論と、E・イルーズの勘定資本主義の観点から考察しています。我々は、対人関係の中で感情を贈り物とて交換しあっているため、感情をその場のコードに沿って適切に管理し、表出できる能力(=感情資本)を持っているかどうかが、その場の状況や他者の反応を操作する権力を持つことにつながるが、空気を読み、ハラスメントにNOと言うことを難しくさせるのは、こうした自発的な管理とコミュニケーションを促す感情文化であるとしています。

 第2章「メンタルヘルスという投資」では、労働者を対象としたメンタルヘルス対策の中で、特にEAP(従業員支援プログラム)について取り上げ、インタビュー調査をもとに、EAPの考え方を明らかにすることで、「効率的な業務遂行」と「感情に向き合うこと」がどう結びつくのかを検討しています。従業員のメンタル不調は、事業主からすれば経営上のコストでありリスクであって、メンタルヘルスケアは、そうしたコストやリスクを軽減させるものとして位置づけられるとしています。

 第3章「自殺のリスク化と医療化」では、日本の労災保険制度における労働者の自殺の取り扱いの変化に注目し、従来は自殺は故意によるものとして保険事故の対象外だったのが、後に労働災害として補償対象に取り込まれた、このような変化がどのようにして生じたのかを、行政や裁判などから明らかにし、自殺は、精神障害(主にうつ病)の症状の一つとして位置づけられることで、病死=災害死となり、社会保障制度の救済対象となったとしています。

 第4章「自殺の意味論」では、労災申請や訴訟の中で、労働者の自殺がいかに「鑑定」され、解釈されるのかを、責任帰属の観点から検討しています。自殺が病死の一種とみなされるようになったことで、自殺者は免責される一方、事業主の安全配慮義務や遺族の自責がクローズアップされるようになったとし、また、第3章と第4章のまとめとして、自殺者を病死者とみなすのはなぜかを考察しています。

 第5章「「パワーハラスメント」の社会学」では、「パワーハラスメント」の詳細なケーススタディを通して、どのような状況が「パワーハラスメント」であると認識される/されないのかについて、E・ゴフマンの「フレーミング・アナリシス」の観点から検討するとともに、自殺をめぐる解釈が遺族や労働基準監督署の臨検や法廷において錯綜し、やがて「うつ病の結果」へと収斂していくプロセスと、それにより「パワーハラスメント」が不可視化される過程を分析しています。

 第6章「時は金なり、感情も金なり」では、SNSを介したライフハックや時間管理術の勉強会での参与観察やインタビューを通して、実践者たちの時間に関する感覚や意識を浮かび上がらせています。また、時間管理が感情管理と密接な関係にあること(時間をうまく使うことと感情をうまく使うことが職業人としてのアイデンティティや他者からの評価に関わっていること)を明らかにすることで、感情が資本であるということの意味について再考しています。

 第7章「ワーキング・マザーの「長時間労働」」では、ワーキング・マザーが、職場での「ファースト・シフト」の後、帰宅しての家事育児に携わる「セカンド・シフト」をこなし、さらに深夜や早朝に「残業」をするような「長時間労働」の状態にあることを示し、家庭という領域での生活の効率化や合理化と、それに伴うワーキング・マザーの感情労働と働き過ぎの問題を、ワーキング・マザーの事例から考察しています。

 これまで「感情労働」という概念は、主に顧客に対するサービスの文脈で使われることが多かったですが、本書では、感情の管理が組織内の同僚や上司に対しても必要になっているとされる状況に注視し、職場が実施する「メンタルヘルスケア」、自分で行う様々な「ライフハック」(仕事効率化のテクニック)にも感情管理という要素が組み込まれているとしています。

 職場のトラブルがもたらす最悪の帰結としての自殺が、かつては自責行為だったのが、今は「精神障害による病死」とみなされることで労働災害と位置づけられるようになった―それはそれで進展ではあるが、精神障害が明確に確認されなくとも、ハラスメントによって尊厳や誇り、すなわち感情がひどく傷つけられた場合には自殺のトリガーになり得るとしています。

 また、感情管理は職場だけでなく、ワーキング・マザーは帰宅すれば子ども向けの「菩薩(ぼさつ)モード」に感情を切り替え、子どもが寝た後や早朝に、持ち帰った仕事をし、休日でさえそれは続き、子どもの先生や保護者間の付き合いでも場面に応じた感情管理が求められると。

 本書は、ビジネスパーソン、ワーキング・マザーを取り巻く感情管理の膜から抜け出す方法を必ずしも示したものではありませんが(ややもやっとした感じの読後感があるのは否めない)、働く人がごく普通に置かれている「ありふれたしんどさ」に事業主も上司も同僚もまず気づくことから始める必要があるかもしれず、本書はそうした気づきを促す一助となるものかもしれません。

《読書MEMO》
●目次
はじめに―働く人のための感情資本論
第1章 感情という資本―職場でコミュニカティブであること
 1 はじめに―「倍返しだ!」とは言えない人々
 2 「パワーハラスメント」と感情管理
 3 ホモ・コミュニカンスの出現
 4 むすびに代えて
第2章 メンタルヘルスという投資―メンタル不調=リスク=コスト
 1 はじめに―人的資源管理の医療化
 2 働く人々のメンタルヘルスケアをめぐる専門職
 3 メンタルヘルスケアの商品化
 4 メンタル不調=リスク=コスト
 5 むすびに代えて
第3章 自殺のリスク化と医療化―労働者の自殺はいつ、どのようにして「労働災害」になったのか
 1 はじめに―「うつ病」の症状としての自殺
 2 「業務上疾病」としての自殺
 3 労災保険における自殺のリスク化
 4 自殺の医療化
 5 健康問題としての労働問題―労働者の自殺の医療化を促進するエンジン
 6 自殺の医療化、社会保険への接続
 7 むすびに代えて
第4章 自殺の意味論―労働者の死をめぐる語り
 1 はじめに―いかに「鑑定」され、解釈されるか
 2 死者の診断と鑑定
 3 自殺の医療化と遺族
 4 自殺の責任の外在化
 5 自殺を病死者ととらえることについて
 6 むすびに代えて
第5章 「パワーハラスメント」の社会学―「業務」と「うつ病」のフレーム・アナリシス
 1 はじめに―「パワーハラスメント」の社会問題化
 2 ある「パワハラ」の風景
 3 「パワーハラスメント」のフレーム・アナリシス
 4 自殺の「動機の語彙」と「うつ病」フレーム
 5 自殺の「動機の語彙」の確定
 6 むすびに代えて―次世代への影響
第6章 時は金なり、感情も金なり―ライフハックの現場から
 1 はじめに―時間管理の自己目的化
 2 ライフハック
 3 頭をからっぽにする
 4 ライフハックの伝播、ライフハックを介したつながりの創出
 5 ライフハックの社会的機能
 6 時間管理と感情管理
 7 むすびに代えて
第7章 ワーキング・マザーの「長時間労働」―「ワーク・ライフ・過労死?」
 1 はじめに―働く千手観音
 2 ワーキング・マザーの「長時間労働」
 3 時間管理と感情管理―回し続けるジャグリング
 4 むすびに代えて―「ワーク・ライフ・過労死」を避けるために
あとがき

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「●講談社現代新書」の インデックッスへ

企業の採用・人材育成、働く人々のキャリア行動の変化を俯瞰するには良かったか。

定年消滅時代をどう生きるか2.jpg定年消滅時代をどう生きるか.jpg
定年消滅時代をどう生きるか (講談社現代新書)』['19年]

 本書では、これからは「定年」もなく、人生で3つの仕事や会社を経験する時代となり、そうした新しい雇用の在り方が普及していく時代には、個々の社員が自らキャリア形成を考えていかねばならないとしています。

 第1章では、大手企業で定年を撤廃する動きが散見され、2020年代には多くの企業が雇用継続年齢を引き上げていき、事実上「定年」は消滅するだろうとしています。また、年齢だけを理由に一律で給与を下げる従来の再雇用制度は、再雇用者のモチベーションを低下させ、優秀なシニア人材が新興国に流出する原因にもなっているとし、個人の専門性や能力に応じて待遇を見直す企業が増えているとしています。そこで、高齢者になる前に、今後の企業社会で通用するスキルを身に付け、絶えず更新することを推奨しています。

 第2章では、企業の採用において今や新卒一括採用から通年採用への流れは決定的であり、さらにジョブ型雇用も拡大していくだろうとしています。優れた人材には新卒でも年収1000万円以上支払う企業も現れていて、終身雇用・年功序列を前提としたこれまでの日本型雇用は見直され、企業は「優秀な学生以外はいらない」という考え方になってきていると。また、ジョブ型雇用の普及につれて企業は社員のキャリア形成のコストを縮小するため、社員は自分でキャリア形成を考えることが必要になってくるとしています。

 第3章では、新卒一括採用から通年採用への衣替えは、日本型雇用の変革の突破口となるのは間違いなく、2019年には大手企業の4分の1が通年採用を導入し、トヨタなどは中途採用が占める割合を中期的には5割まで引き上げる方針であると。中途採用が標準となると、50年の会社人生で転職2回(3つの職場経験)が普通となるだろうとしています。そのため、リカレント教育(学び直し)が必要となり、3年である領域のプロとなることを目指し、スキルを最低3つは持ちたいとしています。個人が3回分野を変えて10人に1人の専門家になれば、その掛け算の組み合わせで、9年で1000人に1人の稀少人材なれるとしています。

 第4章では、大学における教育改革について必要な4つの視点を提示し、大学はリカレント教育の普及を担う中核的な存在にもなり、また、人生にとって貴重な一般教養を学ぶ機会も与えてくれるとしています。

 第5章では、スマートフォンのような便利な機器が、逆に日頃から考える機会を奪っているとし、今後は頭を「使う人」と「使わない人」との経済格差が拡大していくとています。そして、考える力=思考力が強い人は、ごく自然に読書が習慣になっているとし、読書の効用を説いています。

 一般の働く人々に向けた本であり、日常で人事に携わっている読者にとっては、本書で書かれていることはすでに知識や実感としてあるかもしれませんが、それでも、最近の企業の採用・人材育成の動向や、働く人々のキャリア行動とそれを取り巻く環境の変化を俯瞰するにはちょうど手頃な本だったように思います。類書には、働く人にとって「受難の時代」が到来するといったトーンのものが多い中、「人生100年時代の変化を未来志向で楽しむ」という前向きなスタンスであるのが、個人的には良かったように思えます。

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会社を辞めるのに慎重になり過ぎるのもどうかと思うが、その辺りの見極めを説いた本か。

50歳からの逆転キャリア戦略.jpg 『50歳からの逆転キャリア戦略 「定年=リタイア」ではない時代の一番いい働き方、辞め方 (PHPビジネス新書) 』['19年]

 「会社員人生もいよいよ最終コーナー」と思いきや、「定年後も働き続ける人生100年時代」と言われガックリといったミドルも少なくからずいると思われる一方、これは見方を変えれば、「本当にやりたい仕事に挑戦する時間ができた」とも言えるとし、では、充実したセカンドキャリアのためには何が必要で、会社員のうちにやっておくべきことは何か、そのポイントを説いた本です。

 第1章では、もしいま早期退職したらどうなるか分からない(=危うい)「まだ辞めてはいけない人たち」とはどのような人かを挙げ、第2章では、人生後半戦のキャリアの考え方を「お金、肩書き」から「働きがい」へ転換することを説いています。第3章では、会社は「学び直しの機会」に溢れていて、辞める前に出来ることはまだ多くあるとしてそれらを列挙し、第4章では、 50歳からの働き方を変える「7つの質問」を通して、著者の" 七転八倒体験"から人生後半戦の働き方を考え、最後に、「人生後半戦の使命を考えるキャリアプランニングシート」など3つのワーク素材を付しています。

 各章とも列挙型で分かりやすく纏まっていて、個人的には第1章、第3章、第4章がすんなり腑に落ちた印象です。特に、第1章の「まだ辞めてはいけない人たち」については納得度が高かったですが、慎重になりすぎるのもどうかなと。第4章の「50歳からの働き方を変える「7つの質問」」も、著者は自身の経験に照らして照らしてとのことですが、一般論として参考になるように思われました。第1章、第4章の各項は以下の通り。

■第1章 まだ辞めてはいけない人たち
 【1】やりたいことがない人―転職の条件が年収しか言えない人は危険
 【2】変化に対応できない人―自分の専門以外に関心を持とうとしない人は危険
 【3】根拠なく楽観する人―リサーチ不足の「なんとかなるさ」は危険
 【4】自分を客観視できない人―「上司が評価してくれないから辞める」は危険
 【5】経営の視点や知識に欠ける人―会社経営を甘く考えている人の独立・転職は危険
 【6】自分のことしか考えていない人―周囲に貢献する意識に欠けているミドルは危険
 【7】社名や肩書きにこだわる人―昭和・平成型のプライドを捨てられないミドルは危険

■第4章 50歳からの働き方を変える「7つの質問」
 Q1 自分の人生があと1年だとしたら、何をやりたいですか?
 Q2 なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか?
 Q3 やりたいことができない本当の理由は何ですか?
 Q4 名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか?
 Q5 会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか?
 Q6 その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか?
 Q7 今のうちに何から始めますか?
 
 いつか自分のやりたいことをやってみたいと思いつつも、いつ会社を辞めるかというのは難しい問題だと思います。本書は、準備ができていないうちに辞めることの危うさを説いた本とも言えますが、意外と、すぐにでも独立できるような人が慎重になって定年まで(場合によっては再雇用されても)会社にとどまっているというのが、平成不況以降続いている傾向ではないかと、個人的には感じています。

 自分に辞める準備ができているかセルフチェックするにはいい本だと思いますが、あまりに慎重になり過ぎるのもどうかと思いました(誰でも慎重にはなると思うが)。まあ、その辺りの見極めを説いた本だと思います。実際、辞める準備ができていないのに辞めて失敗している人もいれば、辞める準備ができないまま定年再雇用期間も終わってしまい、結局、今いる会社がラストキャリアになる人もいて、そうした人が途中で辞めていればやっぱり上手くいかなかったかもしれず、うかつに他人に対してこうした方がいいああした方がいいとは言えない、本当に難しい問題だと思います。

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「職場の空気」を改善するオープネスとは何か、オープネスを使った組織戦略とは―。

OPENNESS(オープネス).jpgOPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』['19年]

本書では、わが国の職場でいま最も期待値を下回り、業績にマイナスの影響を及ぼしているのは「オープネス(開放性)」の低さであるとしています。これまで、会社の評価をするときには「財務データ」「経営者の情報」がその根拠として使われてきた一方、社員の士気を左右する「職場の空気」については、定量化が難しく、可視化されてこなかったと。しかし、著者が戦略担当ディレクターを務めるオープンワークにためられた述べ840万人の現役・OB社員のクチコミから、V字回復した企業、好調を維持する企業に共通の傾向をまとめたところ、オープネス(OPENNESS、風通しの良さ)が重要であることが分かってきたとのことです。本書は、グローバル企業から日系大手、ベンチャーまで企業の事例を豊富に使いながら、オープネスとは何か、そしてオープネスを使った組織戦略について説明しています。

 第1章では、「職場の空気」と「企業の業績」には強い関係があるとし、職場の満足度を高めようとすたとき。最も改善の余地があるのは「風通しの良さ」(≒オープネス)と「社員の士気」であるとしています。

 第2章では、オープネスは、①経営開放性(経営と現場の関係がオープンになっているか)、②情報開放性(社内情報にアクセスしやすいか)、③自己開示性(自分の才能を表現しても攻撃対象にならないか)の3つの要素から成るとし、風通しが悪いのに社員の士気が高い会社というのはほとんど存在しないとしています。また、オープネスは衛生要因であり、高ければ高いほどいいというものでもなく、さらに、組織の規模とオープネスは関係がなく、「オープネスが高い=フラットな組織」ということでもないとしています。

 第3章では、オープネスを高める方法を説いています。オープネスを阻む壁として、①ダブルバインド(人の心を蝕む「言行不一致」)、②トーション・オブ・ストラテジー(組織を壊す「戦略わかったふりおじさん」)、③オーバーサクセスシェア(成功例しかシェアしようとしないリーダー)の3つがあるとしています。その上で、経営開放性を高めるには、①失敗が起きたときにどのような解決策をとるか(自らの失敗を開示できるか)、②なぜ経営者をやっているのか、をしっかり伝えることが求められ、情報開放性を高めるには、①印象性、②アクセス性、③質疑性の3つを高めることが鍵となり、自己開示性を高めるには、一人ひとりが持つ才能を仕事において発揮させることが重要となるため、創造性、再現性、共感性を発揮しやすい環境づくりが必要となるとしています(章末に「リーダーができるオープネスを高めるアクション12選」あり)。

第4章では、オープネスをどう使うかを説いています。利益が出なくなった組織はまずオープネスが悪化し、リーダーの心の弱さによって事業と組織は負のスパイラルに嵌っていくとしています。そうしたことを「予防」するための"打ち手"として、①勝ちグセの強化戦略(勝っているときも自分たちの「機会損失」を発見できる)、②ロードウェイ改善戦略(従業員の働き方や仕事の進め方を改善)を挙げ、さらに、「早期治療」のための"打ち手"として、業績が悪いのに真実を伝えないといった「白い嘘」をつかないことを、「手術」の"打ち手"として、アロケート戦略(士気がダウントレンドに入る前に人を異動させ、活気のあるトップを新しい事業部、地域、部署に配属させる)と撤退生存戦略(所謂「損切り」をする。事業撤退と退職マネジメントを行い、「存続させる事業と組織」にフォーカスする)を挙げています。

 社員の士気を左右する「職場の空気」について、これまで定量化が難しいいとされてきたものを、クチコミデータなどを駆使して可視化している点が一つ、本書の特徴です。かっちり纏まった構成で、読みやすかったです。基本的にコンセプチュアルな内容であり、実務家の視点からすれば、すでに分かり切っている点もあれば、「そうは言っても」という点もあるかと思いますが、それでも十分、組織の在り方についての気づきを促す啓発書として読めるように思いました。

1《読書MEMO》
●目次
第1章 オープネスの発見
「株価当てゲーム」に私が猛烈にハマったワケ
見えなかった「職場の空気」が可視化されつつある
「職場環境のデータ」が株価へ及ぼす影響度
データが示す事実「職場の空気が企業の結果を決める」
社員の士気が高い企業は事業のピボットもうまくいく
「改善できる余地」はどこにあるのか

第2章 オープネスとは何か
なぜ人は社員のクチコミをのぞきたがるのか
「経営開放性」「情報開放性」「自己開示性」とは何か
「変われた企業」と「変われなかった企業」を分けたもの
「大企業は変化が苦手」は真実か
「社長の名前がバイネームで書かれる」となぜよいのか
「顔をオープンにする」ことはコミットする姿勢の表れ
風通しの悪い組織は「グレートカンパニー」にはなれない
「給与は低いが満足度が高い企業」は存在するか
【オープネスの誤解1】「高ければ高いほどいい」わけではない
【オープネスの誤解2】「大きい組織だと高められない」はウソ
【オープネスの誤解3】「オープネスが高い組織=フラットな組織」ではない
「オープネス」と「戦略」は対の関係にある

第3章 オープネスをどう高めるか
オープネスを「邪魔しているもの」は何か
【オープネスを阻む罠1】ダブルバインド:「言行不一致」が人の心を蝕む
【オープネスを阻む罠2】トーション・オブ・ストラテジー:「戦略わかったふりおじさん」が組織を壊す
【オープネスを阻む罠3】オーバーサクセスシェア:リーダーは失敗例こそシェアせよ
経営開放性を高める 失敗への対応、経営者をやっている理由を伝える
情報開放性を高める 印象性、アクセス性、質疑性を高める
自己開示性を高める 一人ひとりがもつ才能を仕事にクロスさせる
リーダーができる「オープネスを高めるアクション12選」

第4章 オープネスをどう使うか
ウサギの生存戦略に学べ
オープネスは「組織のカナリア」
事業と組織には、モメンタむがある
【「予防」の打ち手1】勝ちグセの強化戦略
【「予防」の打ち手2】ロードウェイ改善戦略
【「早期治療」の打ち手】「白い嘘」をついてはいけない
【「手術」の打ち手】アロケート戦略と撤退生存戦略
組織にも「ライフサイクル」が存在する
「組織の力」は採用や資本市場にダイレクトにヒットする

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組織の三つの質(関係・思考・行動)を高め、結果の質を向上させる方法を指南。

病まない組織のつくり方.jpg病まない組織のつくり方 ――他人事を自分事に変えるための処方箋』['19年]

 本書では、MIT教授ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」を引いて、病んでいる組織というのは、「結果の質」→「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」という4つの質においてバッド・サイクルに陥っているとし、組織の「関係の質」「思考の質」「行動の質」の向上が「結果の質」を向上させるとして、三つの質(関係・思考・行動)について、それぞれを高めるための方法を述べています。

 第1部「関係の質」では、チーム内の風通しを良くする方法を説いています。ここでは、社会心理学者ジャック・ギブ論を引いて、チームの成長の懸念には、①受容の懸念(受容懸念)、②コミュニケーンの懸念(データの流動的表出懸念)、③目標の懸念(目標形成懸念)、④リーダーシップの懸念(社会的統制懸念)の4種類があり、「関係の質」を高めるとは、この四つの懸念を解消させていくことであるとしています。

 第1章「受容-組織を健やかにする方法」では、コミュニケーションで相手に発信していることには、(コミュニケーションについて)①知覚、②感情、③思考、(目に留まる動作・行動について)④態度、⑤行動、(最終的な結果について)⑥結果の六つがあり、相手を受容するには、まず自分を受容する必要があるとし、特に自分の感情に気づいてそれを受け入れることが重要であるとしています。

 第2章「コミュニケーション―誤解なく意思疎通ができる方法」では、伝えたいことが相手に伝わるまでには、①記号化、②送信、③受信、④解読の四つのプロセスがあり、相手にミスなく伝える基本的な方法は、確認しながら聴くことであるとして、その方法を指南しています。

 第3章「ファシリテーション―思ったことを言い合えて関係も悪くならない法」では、会議で大切なのは参加者の納得感であるとし、コンセンサスによる意思決定の方法を解説しています

 第2部「思考の質」では、チームの真の課題を発見する方法を説いています。賢明な思考の前提として全体像が見えていることを挙げ、現実の世界をなるべく正確に見るには、自らの解釈のベースとなっている「メンタルモデル」を検証しなければならないとしています。

 第4章「メンタルモデル―行動を決定づけている固定観念に気づく方法」では、メンタルモデルに気づく方法として、ピーター・センゲが提唱した「推論のはしご」という、自分自身の解釈を、①どこを見て(自分の見た事実)、②どう意味づけし(その事実をどんな言葉にしたか)、③どう解釈したか(その言葉を私はく解釈した)という三つの視点で掘り下げていく手法や、ロバート・キーガンらが提唱した「免疫マップ」という、その目標を阻害する行動をとっている裏の目標(メンタルモデル)に気づく方法を紹介しています。

 第5章「ダイヤログ―物事の本質をみつける」では、対話(ダイアログ)を一般に広めたデヴィッド・ボームの『ダイヤログ』を引いて、本書では、対話とは「お互いの思考プロセスを開示して、新しい見方を創造する行為」と定義し、対話の必要性を説くとともに、対話の方法として、①一人称で語り、②前提を疑い、③判断を留保することを挙げ、また、対話を活用するケースとして、①対話をすることを目的として実施する場合と、②普段の会議の中で実施する場合があるが、①の場合は「問い」が、②の場合は「観察」が大切であるとしています。

 第6章「システム思考―個別最適から全体最適へと意識が変わる方法」では、問題を含む状況の全体像を"見える化"し、全体を見据えて根本的な原因を探る「システム思考」という考え方を紹介し、従来の分析思考とシステム思考の違いを解説するとともに、全全体像を表現するとして「因果ループ図」というものを紹介しています。

 第3部「行動の質」では、チームに自発的な行動を促すにはどうすればよいかを説き、その鍵となるものとして、「モチベーション」「フロー理論」「習慣化」の三つを挙げています。

 第7章「モチベーション―創造的な仕事のモチベーションを高める方法」では、ダニエル・ピンクの『モチベーション3.0』などを引きながら、内発的動機づけをベースとするモチベーション3.0の要素は、自律性、マスタリー、目的の三つに整理され、自律性には、課題、時間、手法、チームという四つの側面があり、マスタリーとは、何か価値のあることを上達させたいという欲求であり、目的とは使命のことであって、ミッションステートメントを書くことで使命はみつけやすくなるとしています。

 第8章「フロー―仕事に集中し、どんなことからも成長していける方法」では、集中しているときの状態を指す、心理学者ミハイ・チクセントミハイの「フロー(最適体験)」という概念を紹介し、仕事をフローになりやすいようにするには何が重要かを解説、内発的な動機に導かれてフロー状態に入ることで、人が本来持っている能力が最大限に活かされる行動が生まれるとしています。

 第9章「目標設定―行動に直結し達成感が得られる目標をつくる方法」では、意識的に行動するとき、どのように行動するかを意思決定することを「セルフコントロール」と呼び、セルフコントロールを使いすぎると心身を消耗させ、集中力や問題解決力を低下させるので、セルフコントロールを消耗させないためには、目標をあらかじめ行動レベルで設定しておくのがよいとしています。また、行動を習慣化するには、小さな成功体験を積み重ねることが自信につながり、体験学習とは、行動の後に振り返り(「体験」の後に「指摘」→「分析」→「仮説を立てる」)を行い、そうした循環を繰り返すとしています。

 第4部「実践のために」では、好循環を作り出す方法を"おさらい"的に説いています。第10章「結果につなげるための実践方法」として、「関係の質」を高めるために、受容懸念やコミュニケーション懸念をどうやって下げるか、「思考の質」を高めるために、気づきの好循環をどう作り出すか、「行動の質」を高めるために、行動に集中する環境をどう整えるか、これまで述べてきたことを再整理しながら解説しています。

 さまざまなマネジメント理論、モチベーション理論が独自に統合・再整理されていますが(それは18ページの「本書全体のレベルマトリックス」に集約されている)、理論を理論で終わらせず、実際に役立つ「方法」として読者がノウハウを得られるよう丁寧に説明しようとしているのが良いと思います(全体としてまだまだ概念的ではあるが)。もっとも影響を受けているのは、ピーター・センゲの「学習する組織」という考え方でしょうか。その中でも「システム思考」というのは理解が難しい概念ですが、本書の中ではわかりやすく説明されていたように思います。関心を持たれた読者は、各章で引用元となっている経営書にあたってみるのもいいかと思います。

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「わかりあえなさ」から始まる問題を解くには「対話」と「ナラティブ・アプローチ」をと説く。

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他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』['19年]

 本書では、組織内で起きる「わかりあえなさ」から始まる諸問題は、単なるノウハウやスキルで解決できるものではないとし、こうした複雑で厄介な組織の問題を解くための方法として、「対話」と「ナラティブ・アプローチ」というものを提唱しています。

 まず、組織内の問題を、リーダーシップ研究者のロナルド・ハイフェッツの論を引用して「技術的問題」と「適応的課題」に分けています。「技術的問題」とは、ハウツーやノウハウ、あるいは、技術的合理性に基づく何らかの処方箋が存在する課題であり、誰かがすでに解決していることが多いが、組織のなかにある「わかりあえなさ」の問題は後者の「適応的課題」であり、ハウツーやノウハウによって一方的に解決できる問題ではないとしています。そして、「適応的課題」を解くものが「対話」であり、対話とは「新しい関係性を構築すること」であるとしています。

 第1章では、組織における一方的に解決できない「適応課題」として、大切にしている「価値観」と実際の「行動」にギャップが生じるケース(「ギャップ型」)、互いのコミットメントが対立するケース(「対立型」)、「言いにくいことを言わない」ケース(「抑圧型」)、痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース(「回避型」)の4つのタイプを挙げています。

 そして、適応課題が見い出されたときには相手を変えるのではなく、こちら側の「ナラティブ(解釈の枠組み、囚われ)」を変えるアプローチが必要であるとし、ナラティブとは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことであるとしています。また、ナラティブとは、視点の違いにとどまらず、その人たちが置かれている環境における「一般常識」のようなものであるとも言っています。

 つまり、適応的課題とは、問題を生み出しているステークホルダーが相互に有している「ナラティブ(解釈の枠組み:囚われ)」が、微妙に「ズレ」ているがゆえに、そこからの解釈、行動の枠組みがすべて「ズレ」てきて、いわゆる「適応的課題」を組織に生み出していると考えられるということです。しかも、人々は、自己の囚われのナラティブには自覚的ではなく、ましてや、他人のナラティブにも気づかないでいるため、両者の間にある溝そのものが見えていないことが多いとしています。

 ここまで、「対話」とは、一方的な技術だけでは解決できない「適応課題」を解消するための「新しい関係性を築く」方法であり、対話に取り組むことで、互いの「ナラティブ」の溝に向き合って厄介な状況を乗り越えていくことができるとしてきました。

 そこで、第2章では、対話を「溝に橋を架ける」という行為になぞらえ、適応課題に挑んでいくためには、1.準備「溝に気づく」―2.観察「溝の向こうを眺める」―3.解釈「溝を渡り橋を設計する」―4.介入「溝に橋を架ける」という4つの対話のプロセスを経なければならないとして、各プロセスを解説しています。この部分が本書の中核になるかと思います。

 例えば「準備」においては、一度自分のナラティブを脇に置いてみることが、実践的な取り組みの第一歩であるとしています。また、次の「観察」では、よい観察は発見の連続であるはずであるとしており、「解釈」では、よい解釈をするには、協力者などのリソースを交えて考えるとよいとしています。そして、「介入」というアクションは、次の観察の入り口となり、こうして対話のプロセスを繰り返すことで、新たな関係性は構築されていくとしています。

 第3章から第5章にかけては実践編として、1.総論賛成・各論反対の溝にどう挑むか、2.正論の届かない溝にどう挑むか、3.権力が生み出す溝にどう挑むかについてそれぞれ、より実践的な観点から論じています。

 第6章では、対話を拒む5つの罠として、①気づくと迎合になっている、②相手への押しつけになっている、③相手との馴れ合いになっている、④他の集団から孤立する、⑤結果が出ずに徒労感に支配される、を挙げ、その問題点とそうならないための対処法を説いています。例えば、相手との馴れ合いになるのは、いったん橋が架かった相手との関係性を維持すべく、言いたいことが言えない「抑圧型」の適応課題が生じることを意味するとしていて、ナルホドと思わされました。

 最終の第7章では、「ナラティブ・アプローチ」の目指すところは、相手を自分のナラティブに都合よく変えることではなく、自分を改めることを通じて、相手との間に、今までなかった関係性の構築を目指すことにあるとし、また、対話の実践は自分を助けることにもなるとしています。

 NHK白熱教室シリーズ「ハーバードリーダーシップ白熱教室」(2016)で知られるロナルド・ハイフェッツ教授が『最難関のリーダーシップ―変革をやり遂げる意志とスキル』('17年/英治出版)の中でも提唱しているアダプティブ・リーダーシップ(観察、解釈、介入という3つの主要な活動を反復することで、難題に取り組み、成功するように人々をまとめあげ動かしていくリーダーシップ)の"日本版"という印象を受けました。

 ただし、特にリーダーシップを発揮する場面に限らず、組織内における多くのコミュニケーション場面において当て嵌まる示唆を含んだ内容であると思います。とりわけ人事パーソンは常日頃から、多種多様な他者のナラティブ(解釈の枠組み)に向き合う機会が多いと思われ、その際の考え方やの問題解決のヒントとなる本であるとも言えるかと思います。

一方で、認識論的な内容でもあるため、理解することはできるが、読んだからといってすぐにできるものでもない―実践には相当の鍛錬が必要かな(?)という気にもさせられた本でした(鍛錬の場は日々そこかしこにあるので、あとは意識の問題か)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 正しい知識はなぜ実践できないのか
第1章 組織の厄介な問題は「合理的」に起きている
第2章 ナラティヴの溝を渡るための4つのプロセス
第3章 実践1.総論賛成・各論反対の溝に挑む
第4章 実践2.正論の届かない溝に挑む
第5章 実践3.権力が生み出す溝に挑む
第6章 対話を阻む5つの罠
第7章 ナラティヴの限界の先にあるもの
おわりに 父について、あるいは私たちについて

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「経験から学ぶ力」を高めるには、弱みに目をむけるのではなく部下の強みを引き出せと。

経験学習リーダーシップ.jpg部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ 』['19年]松尾 睦  『成長する管理職』2.jpg成長する管理職: 優れたマネジャーはいかに経験から学んでいるのか』['13年]

 経験学習という言葉は、企業における人材育成の場で、最近よく使われるようになっているようです。経験から学ぶものが最も大きいということは、認識としてはずっと以前からあったものの、部下や後輩が「自らの経験から学べるように支援する」ことが人材育成上の課題として捉えられるようになってきたのは、最近の傾向ではないかと思います。

 本書における「経験学習リーダーシップ」とは、まさにそうした「職場メンバーの経験学習をうながす指導」を指し、マネジャーはどうすれば部下の「経験から学ぶ力」を高め、部下の成長を効果的に支援できるのかを解明するのが本書の目的となっています。

 本書では、さまざまな調査の結果、育て上手のマネジャーがどのような指導をしているかが明らかになったと同時に、普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」も見えてきたとしています。

 その普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」とは、①弱みを克服させることに重点を置き、②問題や失敗のみを振り返らせ、③マネジャーが職場のすべてを仕切るというアプローチ法であり、こうした指導方法は、「反省」を重視した、極めて日本的・職人的な育成方法であるとのことです。

 これに対し、育て上手のマネジャーは、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づけ、②失敗だけでなく成功も振り返らせることで、強みを引き出し、③中堅社員と連携しながら、思いを共有するという、3つのエッセンスから成るアプローチ法をとるとのことです。こうした指導は、「組織における成果」を高め、「人生における幸福」や「社会における善」につながるとしています。

 第1章では、ディビッド・コルブの経験学習サイクル(①経験する、②振り返る、③教訓を引き出す、④応用する)などを引きながら経験学習の基本プロセスを示し、経験から学ぶ力は、①ストレッチ(挑戦する力)、②リフレクション(振り返る力)、③エンジョイメント(やりがいを感じる力)、④思い、⑤つながりの5つの要素から成るとしています。

 続く第2章では、先に述べた育て上手の指導法の3つのエッセンスを改めて紹介し、第3章から第5章にかけて、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける(3章)、②失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す(4章)、③中堅社員と連携しながら、思いを共有する(5章)という3つのエッセンスについて、それぞれより詳しい指導法や事例を解説しています。

 さらに、こうした指導法に加えて、2つの補完スキルとして、第6章と第7章で、④成長をうながす仕事の創り方(6章)、⑤成長をうながすリフレクション(振り返り)支援(7章)について、それぞれ指導法や事例を解説し、終章で、これまでの内容を確認しまとめています。また、巻末に付録として、部下の強みをチェックする「強みのリスト」、本書の内容をより深く理解するための「自己診断チェックリスト」、育成計画を立てるための「育成ワークシート」が付されています。

 内容的には、調査結果をもとにした研究書とも言えるものですが、体系的によく整理されているのと、「部下の強みを引き出す」という大きな柱が一本あることでわかりやすくなっています。また、事例も豊富で、「手軽にできる5分間リフレクション・エクササイズ」といったツール的な素材も織り込まれているため、実際の職場で応用が可能な実務書(マニュアル)としても読めるものとなっています。

 ただし、著者自身もそう述べていますが、本書に書かれていることのすべてを一度に実行することは難しいと言えるため、できるところから実践していくというスタンスになるかと思います。また、職場で起きていることが、本書で書かれていることのどの部分に該当するか、常に意識することも必要かと思います。そうした地道な実践を通してはじめて、組織メンバーの「経験から学ぶ力」を高めるよう指導するうえでの、ガイドラインになる本であると思います。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1章 経験学習の基本プロセス
第2章 育て上手のマネジャー vs 平均的マネジャー
第3章 育て上手の指導法1:強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける
第4章 育て上手の指導法2:失敗だけでなく成功も振り返らせ、強みを引き出す
第5章 育て上手の指導法3:中堅社員と連携しながら、思いを共有する
第6章 補完スキル1:成長をうながす仕事の創り方
第7章 補完スキル2:成長をうながすリフレクション支援
終 章 まとめ
おわりに
付録A 強みのリスト
付録B 自己診断チェックリスト
付録C 育成ワークシート
参考文献

「●仕事術・整理術」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●文章技術・コミュニケーション」 【156】 山崎 浩一 『危険な文章講座
「●光文社新書」の インデックッスへ

テクニックを具体的に説くだけでなく、作成の際の心構えや仕事の意義にも言及。

「マニュアル」をナメるな!.jpg 『「マニュアル」をナメるな! 職場のミスの本当の原因 (光文社新書) 』['19年]

 工学博士であり、人間のミスと安全に関する研究を様々な業種との共同研究において現場主義で進めてきたという著者が、マニュアルの本質とあるべき姿を語った本です。マニュアル作りに悩んでいる読者に向けて、使えるテクニックを具体的に説くことを基本とする一方、それらを通じて「仕事とはどうあるべきか」という根源的な問いに答えようとしたものです。

 まえがきで、マニュアル作成の原則を示したうえで、本章へ入っていきます。その原則とは、マニュアルは全てを1ページ以内に収める、ルール風には書かない、見本で示す、絵・図・写真のビジュアルを使う、指示を断言する、単文・肯定形・大和言葉で書く、工程の途中に"味見"のタイミングを入れる、マニュアルの原稿を部外者や家族に下読みさせる、執筆者の氏名や更新履歴を明記する、の9つです。

 第1部「マニュアルの文章術」では、第1章で、なぜマニュアルを作るのか、その目的を再整理しています。第2章では、マニュアルの文章作法について、冒頭に掲げたマニュアル作成の原則に沿って解説しています。断言する、単文で書く、大和言葉で書く、肯定形で書く、といった原則は、具体例によって、そうあるべき理由が明快に示されていたように思いました。第3章では、マニュアルはどうあるべきか、その本質を探っていて、マニュアル作成の際の心構えを説いた章とも言えるものでした。

 第2部「正しい作業手順の作り方」では、第4章で、作業手順の全体構造をどのように作るかを説き、作業ループ型ではループは一本道にするのが最良であり、対処マニュアル型では、正常状態に戻す復旧作業を明示することがポイントであるとしています。第5章では、作業は「型から型へ」で組んで、途中までの成果が積み立てられていくのが望ましいとしています。第6章では、チェックは、行為の有無よりも、結果を検証する(味見する)方が確実であるとし、第7章では、作業の意味は、時代の変化によって変わり得るとしています。

 第3部「練習問題」では、ルールブック調のマニュアルを示して、それを手順主義に書き直すとどうなるかといった例題が3題と、それらの解答例が示されています。

 まさに、マニュアルを作るためのマニュアルのような本であり、マニュアルを作成したり見直したりするうえでの、テクニカルな面での気づきを指摘してくれる本でした。ただし、そうした実務書的な要素もありながら、一方で、マニュアル作りに際しての心構えを説いた啓発書でもあり、さらに言えば、最初に述べたように、「仕事とはどうあるべきか」という問いに答えようとした意欲作でもあるように思いました。

 本来、マニュアルは作業ミスを失くすための重要なものであり、作業時間や教育時間を短縮できるメリットもあるはずですが、実際にはマニュアルが活用されず、社内で浮いた存在となってるケースも少なからずあるように思われます(それでいて、マニュアルがあるという事実に安心してしまっていたりもする)。また、定型作業を機械化(AI化)する上で、その作業がすでにマニュアル化されていること(加えてそれが機械に置き換え可能であること)が、前提条件の1つになるかもしれません。本書を読んで、自社に今あるマニュアルを、今一度見直してみるきっかけとするのも良いかもしれないと思った次第です。

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タイトルずれ? これからの組織マネジメントの在り方を探っているが、やや新味に欠く。

働かない技術.jpg 『働かない技術 (日経プレミアシリーズ)』['19年]

 働き方改革で、従来の長時間労働やパワハラ体質に頼った組織マネジメントが見直しを迫られているなか、コンサルティング会社出身の経営コンサルタントが、これからの管理職や組織マネジメントの在り方を、2人の担当課長を軸とした架空の社内ストーリーを交えながら、平易に説いた本です。

 タイトルに「技術」とありますが、生産性の低い会議や売り上げのための残業ばかりやっている企業はいずれガラパゴス化するとしながらも、長時間労働をなくすための「技術」を説くというよりは、30代から40代のいわゆるミドル世代に、これまでの上司と同じ働き方をするのではなく、新たな覚悟と知恵を身につけるよう「意識」を改革することを訴えた本であったように思います(タイトルずれ?)。

 人事・人材管理面からの考察もされていて、日本企業に特徴的な「メンバーシップ型」組織が、長所もある反面、長時間労働を招く要因にもなっているとし、さらに、職能給であろうと役割給であろうと、職務の範囲が限定されておらず、企業の裁量により自由に職種やポストを異動させられる人事管理では、残業体質を改善するのは難しいとしています。

 その上で、管理職による管理の仕方は、今後、自らの仕事は持たず職場のメンバーを育成していく「役割給概念による日本型人事管理」と、担当ポストに求められる職務の範囲内で自らの専門性を発揮する「職務給概念による欧米型人事管理」の2つの道に分かれ、人事管理もそれに沿ってハイブリッド化するだろうとしています。

 また、課長(ミドル)が取り戻さなければならない価値観として「徳」を挙げ、役割給型の管理職は、部下の成長のために「贅沢な無駄時間を作り出す」べきであると説く一方、自ら時間を犠牲にして働きすぎる課長は、役割給型、職務給型のいずれであろうとも、いずれ「いらない人材」に転落するだろうとしています。

 全員が同じように多能工的なキャリアを目指すのではなく、2つのの方向のキャリア分離が最も望ましいとし、具体的には、遅くとも一般職から管理職に昇進する前に、「役割給人材」か「職務給人材」か、どちらの人材タイプを目指すか自身で決めるよう、生涯キャリアを自己管理することを訴えています。

 このように、もともと30代から40代のミドル世代に、従来の「職場脳」から脱却し、キャリアを自律することの必要性を説いた啓発的な内容の本であり、人事パーソンが読むと、タイトルに「技術」とあるだけに、やや物足りないのではないかと思います。

 管理職個々の意識改革と併せて、これからの組織マネジメントの在り方をも探っていますが、やや新味に欠くように思いました。例えば、本書で言うところの「役割給人材」「職務給人材」のコース分けを(従来的な専門職制度とは異なり)かなり早期のうちに行っている企業もすでにあります。

 ただし、企業側からみて、人事管理をハイブリッド化することが、従来の長時間労働からの脱却につながるのかどうかというと、もう少し議論や検証が必要なように思えました。管理職を目指す人、いま管理職の地位にある人に気づきを促すという意味では悪くないと思いますが、人事パーソンの目線で△とさせてもらいました(厳しい?)。

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超一流の企業は強い文化を持ち、シンボリック・マネジャーとは文化の有能な管理者であると。

シンボリック・マネジャー1.jpgシンボリック・マネジャー3.jpg シンボリック・マネジャー2.jpg 
シンボリック・マネジャー (新潮文庫 テ 9-1)』['87年]/『シンボリック・マネジャー (同時代ライブラリー 326)』['97年]
シンボリック・マネジャー』['83年]
シンボリック・マネジャー s.jpg ハーバード大教授のテレンス・ディールと、マッキンゼイ社の経営コンサルタントのアラン・ケネディーによるベストセラー&ロングセラー本です(原題:Corporate Cultures,1982)。本書において著者らは、アメリカの有力企業80社を綿密に調査した結果、常に生き残る企業には経営の合理性を超えた何かがあるとして、「企業文化」という新しい観点から経営と管理の本質を人間性に即して説いています(日本語版訳者は城山三郎)。

 第1部「企業を支える文化」では、第1章「強い文化―持続的成功の推進力」において、超一流の企業は強い文化を持っており、それを維持することが企業を持続的に成功させるうえで重要であるとしています。そして、文化を維持するには、文化の基盤となる確固たる理念、文化の体現者である英雄、文化を形に表した儀礼・儀式、文化を伝達するコミュニケーション・ネットワークなどが必要とされるとしています。

 第2章「理念―企業の性格を決定するもの」では、企業の基本的な性格と、他とは異なる態度を決定するのは企業の価値理念であり、企業の価値理念は会社のあらゆる側面を支配するとし、また、強い文化には危険性や落とし穴もあるとしています。

 第3章「英雄―あの人のようになりたい」では、価値理念を文化の魂とすれば、英雄はこれらの価値理念を体現して組織の力を示す、強い文化の中心人物であるとしています。そして、英雄には生まれながらの英雄もいるがそれは稀有な存在であって、アメリカで最も成功している会社のいくつかでは、英雄の必要性を固く信じて、定期的に英雄を作り出しているとしています。また、英雄的資質とはカリスマ的才能のことではないとも言っています。

 第4章「儀礼と儀式―組織内の人間の行動原理」では、強い文化の会社は、企業生活における儀礼と儀式を作り出し、英雄はそれを効果的に演出するとして、管理上の儀礼や表彰の儀式、文化的なイベントの必要性を説いています。

 第5章「伝達―非公式の人間関係が情報を運ぶ」では、強い文化には強力なネットワークが存在し、なぜなら、それを通じて、組織の基本的な信念が強められるからだとしています。また、文化ネットなワーク内の役割として、語り役、聖職者、耳打ち役、うわさ屋、秘書、スパイ、秘密結社などを挙げ、文化ネットワークを動かす管理者は、組織のあらゆる階層の人々と絶えず接触し、こうした非公式の人間関係が運んでくる情報も含め、自分たちが尊重する価値を強化するために活用するとしています。

 第2部「企業を動かす文化」では、会社はどのようにすれば強い価値理念を企業環境に合わせて調整し、成功を持続できるかを論じています。第1章「企業の種族―会社には四つの型がある」では、会社には、逞しく男っぽい文化、よく働きよく遊ぶ文化、会社を賭ける文化、手続きの文化の四つのタイプがあるとして、それぞれの文化における英雄、儀式と儀礼、強みと弱みを解説しています。

 第2章「診断―あなたの会社をどう考えるか」では、こうした文化を診断するための技法を紹介し、文化の診断によって、管理者は文化の現在位置とその強弱を知ることができるとしています。

 第3章「象徴的管理者(シンボリック・マネジャー)―いま最も求められる人材」では、強い文化の会社では、管理者が率先して文化を維持・形成するとして、彼らを「シンボリック・マネジャー(象徴的管理者)」と呼んでいます。そして、シンボリック・マネジャーは、これまで有能とされてきた、分析能力に優れた合理的管理者とどう違うのか解説し、言行一致の体現者であるシンボリック・マネジャーの方が合理的管理者より重要であるとしています。文化の有能な管理者こそがシンボリック・マネジャーであり、そうあるためには、勇気と、文化の価値理念を貫き通す覚悟が必要だとしています。

 第4章「改革―組織の根底の部分」では、文化を管理すること以上に文化を変えることは難しく、改革には危険が伴うが、ときには改革が必要であるとし、では改革を管理するにはどうすればよいかを説いています。そして文化の改革は、改革成功に有効な基本的文化事業(英雄、価値理念、儀礼など)を、改革を試みる管理者が敏感に捉えることができるかにかかっているとしています。

 第5章「未来の企業―外的変化に適応できる会社の条件」では、科学技術の発達により、将来の組織はどのようになり、その中で中間管理者やコンピュータはどのような役割を担うようになるか、また、それによってどのよな組織革命が起き、組織の文化はどのように変化するかを予測していますが、ここにおいても、将来有望なのは強い文化の会社であり、強い文化は環境に対応できるばかりでなく、さまざまな状況の変化に適応することができるとしています。

 本書の背景には、1980年代初頭に米国で米国企業の生産性の伸びの低下が目立つようになり、一方、当時の日本は米国と比べ従業員がずっと企業に一体感を持っているように見えたため、日本の経営を見習えと主張する本も多く出版される中で、米国でも成功モデルと見なされる企業は同様の特色を有しているということが分かり、そこで著者らが注目したのが「企業文化」の重要性ということだった―という流れがあるかと思います。

 とは言え、今読んでも、言っていることに古さを感じさせないです。企業が継続的に成功できるような環境つまり「文化」とは、額縁に入った社是、社訓によってもたらされるものではなく、「文化」を社内に作り出す、経営理念の体現者たるシンボリック・マネジャーによって作られるものだと(となると誰をマネジャーにするかが重要になってくる)改めて感じ入った次第です。

【1987年文庫化[新潮文庫]/1997年ライブラリー化[岩波同時代ライブラリー]】

《読書MEMO》
●目次
第1部 企業を支える文化
 Ⅰ 強い文化―持続的成功の推進力
 Ⅱ 理念―企業の性格を決定するもの
 Ⅲ 英雄―あの人のようになりたい
 Ⅳ 儀礼と儀式―組織内の人間の行動原理
 Ⅴ 伝達―非公式の人間関係が情報を運ぶ
第2部 企業を動かす文化
 Ⅰ 企業の種族―会社には四つの型がある
 Ⅱ 診断―あなたの会社をどう考えるか
 Ⅲ 象徴的管理者(シンボリック・マネジャー)―いま最も求められる人材
 Ⅳ 改革―組織の根底の部分
 Ⅴ 未来の企業―外的変化に適応できる会社の条件

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ニュータイプ人材(次代の経営者、事業創造家、デジタル人材)に求められる資質を示す。

人材トランスフォーメーション.jpg 『人材トランスフォーメーション 新種の人材を獲得せよ!育てよ! 』['19年]

 コンピテンシー・モデルで知られるヘイグループを一部前身とするコンサルティングファーム「コーン・フェリー」に属する著者による本書では、日本企業はいま、これまで優秀と見なされてきた人材とは明らかにタイプの異なる人材を求めているとし、それはどのような人材なのかを、自社の調査結果やインタビューなどから分析して、人材マネジメントの変革の必要性を説いています。

 第1章では、日本企業が追い求めている新種の人材とはどのようなものかを、コーン・フェリーの22種のコンピテンシーの内、日本企業の直近3年とその前の10年との採択率上位10項目を比較することで分析しています。それによると、「組織志向性」が上位から外れて、「顧客志向性」と「自信」が新たに上位に入り、「分析的思考力」の代わりに「概念的思考力」が登場し、「セルフコントロール」が外れるなどしているとのことです。

 第2章では、次代の経営者はどのような資質を備えているべきなのかを、コーン・フェリーの27種のCEOコンピテンシーの内、日本企業の採択率の上位にランクインした項目をもとに分析しています。そして、その結果から、次代の経営者のあるべき資質を、①広い見識を持って、自分なりの見解をつくる、②経営チームを構築する、③経営者としての覚悟を持つ、④組織をつくる、⑤企業を永続させる、という5つのコンピテンシーに類型化しています。

 第3章では、新しい事業を生み出す事業創造家の特質を、サンプル企業のコンピテンシー診断結果などから分析しています。その結果から、事業創造家には「事業構想人材」と「事業化人材」の二種類があるとし、事業アイデアを構想する「事業構想人材」が高いレベルで持つコンピテンシーは、「自信」「誠実性」「概念的思考力」の3つであり、新しい事業アイデアを確実な収益源として立ち上げていく「事業化人材」が高いレベルで持つコンピテンシーは、「達成指向性」「分析的思考能力」「組織認識力」であるとしています。

 第4章では、最近よく言われているデジタル・トランスフォーメーション(DX)について、DXと何か、日本企業にはどのようなデジタル人材が必要なのかを分析・考察し、DX人材に共通するのは、①デジタル技術の最新のトレンドについて、十分な理解をしていること、②会社が解くべき課題を発見し、デジタル技術を駆使したソリューションを組み立てる能力であるとしています。

 第5章では、次代の経営者候補、新規事業創造家、DX人材などの、これまで述べてきた新種の人材が有している性格的な特性を、①原動力、②認識、③ラーニング・アジリティ、④リーダーシップ特性、⑤阻害リスクの回避、の5つのカテゴリーと17の特性項目に類型別に分析し、その中でも共通して高いスコアとなっている7つの項目に着目して解説しています。

本書が指摘するように、環境変化に対応できる経営人材、事業を創造する人材、デジタル・トランスフォーメーションを実現する人材のいずれも、多くの日本企業がこぞって欲する新しいタイプの人材であり、日本における市場価値も高く、それだけ希少性も高いため、どの企業でもそう簡単には見つからない気がします。

ただし、だからと言って手をこまねいているのではなく、本書が推奨するように、採用基準を根本的に変えるなり、あるいは新種の人材を社外に求めるのではなく、キャリアの動線を見直して社内で内製しようとすることも必要になってくるように思いました。ただし、この部分について本書は、「さまざまな経験を積ませる」的な漠たる結論で終わってしまっているのが、やや物足りなく感じられました。

コンピテンシー・モデルってどうなの?みたいな話もあるやに思いますが、取り敢えずここではその議論は置いておくことにします(笑)。ニュータイプ人材を、次代の経営者、事業創造家、デジタル人材の3つに定義しただけでも分かりやすかったのではないでしょうか。

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前著同様、事例が強烈でリアリティがあった。自分ならどう対処するか考えながら読みたい。

モンスター部下.jpg 『モンスター部下』['19年] あなたの隣のモンスター社員.jpgあなたの隣のモンスター社員 (文春新書)』['15年]

 気に入らない新任上司を「逆パワハラ」でうつ病に追い込む古株社員、カラ領収書を使ってキャバクラ代をせしめる社員、仕事のえり好みをして指示に従わない意識高い系社員、ダブル不倫に敗れセクハラ告発する女性社員、育児をタテにサボりを繰り返す仮面イクメン......本書では、これまであり得なかったようなトラブルを起こす「モンスター部下」が昨今増殖し、管理職の頭を悩ませているとして、彼らの実態とタイプ分類、その対処法について解説しています。

 第1章は「自己中心モンスター」のケース紹介となっていて、①謎の欠勤を繰り返し、突然、退職代行業者を使って去っていく部下、②育児を理由に周囲に仕事を押し付け、注意したら「マタハラです!」、③SNSにトンデモ動画、会社の誹謗中傷をアップしまくる20代社員、④「働き方改革」を伝家の宝刀に、やりたい放題の仮面イクメン部下、⑤「成長できる仕事」しかやらない意識高い系モンスター、⑥一方的に異性を追いかけ、歯止めがきかないストーカー社員、の6つのケースが取り上げられています。

 第2章では、こうしたモンスター部下はなぜ"量産"されるのか、その社会的メカニズムを分析し、モンスター部下のタイプとしては、第1章で紹介した「自己中心的で幼稚なタイプ」と、「そもそもモラルが非常に低いタイプ」がいるとしています。

 第3章は「低モラルモンスター」のケース紹介となっていて、①内緒の副業に経費不正、そして脱税まで?「闇収入」モンスター、②客先の男性と不倫関係に陥る、モラル欠如型モンスター、③カラ領収書で経費をせしめ、キャバ嬢に貢ぐ部下、④デイトレーダー?? 業務時間に会社のパソコンで株取引をする部下、⑤社内ダブル不倫がセクハラに? 振られた腹いせ(?)をする女性モンスター、⑦お風呂に入らず、周囲に悪臭をまき散らす「スメハラ」部下、の7つのケースが取り上げられています。

 第4章は、これも最近多い"高齢部下"の問題、「シニアモンスター」のケース紹介となっていて、①若手社員を手下につけて上司をシカトする"半グレ"シニア社員、②転職先でマウンティングし、同僚をバカにする大手出身モンスター、③舌打ちに書類投げ......成果を出さず不機嫌をまき散らす50代部下、④「俺のことをバカにしているのか!? キレる60代部下の背景に......、の4つのケースが取り上げられています。

 第5章では、モンスター部下とどう対峙すべきかを説いています。ここでは、まず、モンスター部下のタイプを知ることが肝要であるとして、モンスター部下の類型として、第2章からさらに進んで、「嘘つきモンスター」「自己愛型モンスター」「モラル低下モンスター」などを挙げ、より詳しく解説しています。

 例えば「嘘つきモンスター」は、ミスを隠蔽したり自分を優位に保つために、巧妙に嘘をつくタイプで、「自己愛型モンスター」は、女性に多い"悲劇のヒロイン"と化して、周囲の関心を得ようとするタイプや、男性に多い周囲を無能扱いすることで自分を誇示するタイプであり、「モラル低下モンスター」は、善悪よりも自分がいかに得をするかで動き、自分の過ちを他者のせいにするタイプがこれに当たるとのことです。

 また、職場のハラスメントというと、「セクシャルハラスメント」「パワーハラスメント」が問題になるケースが多かったのが、昨今は「アルコールハラスメント」「カラオケハラスメント」「マタニティハラスメント」など様々なハラスメント問題が取り上げられており、その一方で、ハラスメントに該当する事実がないのに被害者を装い、会社に被害を訴える「偽装ハラスメント」型モンスターも多くなっているとのこと。モンスター部下のタイプによっては、承認欲求が満たされず問題行動を起こしているケースもあるが、そうした部下への対応は難しいとし、理不尽な要求を突き付けてくる部下にどう対処するのがよいか説いています。

 それらは"方法論"と言うより"向き合い方"といった感じでしょうか。また、そうしてモンスター部下と真摯に向き合っても、場合によってはやむを得ず辞めさせなくてはいけない場面も出てくるだろうとして、解雇を実施する場合の留意点を挙げています。ただし、個人的には、その前に、退職勧奨なりそれを示唆するアクションなりを実施する方が、リスクが少なく現実的ではないかという気がしました。実際、本書のケーススタディで取り上げられているものは、当事者であるモンスター部下の方から辞めていったことで問題が沈静化した例が少なからずあります。

あなたの職場のイヤな奴1.jpg アメリカでベストセラーになったロバート・I・サットンの『あなたの職場のイヤな奴』('08年/講談社)によると、グーグルには「クソッタレ撲滅ルール」があり、「悪しきことはするな」というモットーのもと、クソッタレは出世できない環境を整備しているとのことです。その本では、一時的にクソッタレになってしまった人を、何か嫌なことがあったのだろうと気遣いしてやることは必要だが、よく見守った末、たえず嫌なことをする「鑑定書つきのクソッタレ」であることが分かったならば、その時は皆で結託して追い出すべきだとしています。

 著者の前著『あなたの隣のモンスター社員』('15年/文春新書)同様に、ケーススタディが強烈でリアリティがありました(これからこんな社員がどんどん出てくるのか? ちょっとウンザリ?)。これらを読みながら、自分ならばどう対処するか、頭の中で思考実験してみるのもいいのではないでしょうか。また、「たまたま辞めてくれて助かった」で終わらせるのではなく、適正な排除機能が働く、社内健全化のための組織風土づくりというのも必要なのではないかと思いました。

《読書MEMO》
●目次
はじめに 部下がモンスター化する時代
第1章 台頭する自己中心モンスター 
第2章 モンスター量産のメカニズム
第3章 低モラル社員の暴走は止まらない 
第4章 逆襲のシニア・モンスター
第5章 モンスター部下とどう対峙するか

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「クソッタレ撲滅ルール」によって「鑑定書つきのクソッタレ」を追い出そう!

あなたの職場のイヤな奴.jpg      職場のアホと戦わない技術.jpg チーム内の低劣人間をデリートせよ.jpg
あなたの職場のイヤな奴』['08年] 『スタンフォードの教授が教える 職場のアホと戦わない技術』['18年]『チーム内の低劣人間をデリートせよ ----クソ野郎撲滅法 (フェニックスシリーズ No. 77)』['18年]

あなたの職場のイヤな奴1.jpg イジメ上司、卑劣な同僚、ムカつく部下...これらをどうするか? 人の神経を逆なでする、いるだけでまわりにダメージを与える、自分より弱い相手をいじめる、ときには取引先にも被害をおよぼす―そんなイヤな奴=クソッタレはあらゆる職場にいて、それは、成果主義・実力主義のアメリカでも同じであるようです。

 本書の原題は「職場のクソッタレは絶対いやだよね!」(No Asshole Rule)という意味で、人間関係術&組織論として反響を呼んだベスト&ロングセラーです。著者はスタンフォード大の人気教授で専門は組織行動論。ビジネス経済誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」で「私のイヤな奴実体験」について書いたエッセイに、アメリカ国内外から共感&体験談メールが殺到し、それをきっかけに書かれたのが本書です。

 第1章「どんなやつをクソッタレと呼ぶか?」では、本書の主題であるイヤな奴とは「鑑定書付きのクソッタレ」のことであるとして、クソッタレを、「基準1/その人物がつねに他人を貶め、やる気を喪失させる人間かどうか?」、「基準2/その人物がつねに自分よりも力の弱い(もしくは社会的地位の低い)相手を標的にしているかどうか?」の2つの基準で定義しています。

 第1章「どんなやつをクソッタレと呼ぶか?」では、本書の主題であるイヤな奴とは「鑑定書付きのクソッタレ」のことであるとして、クソッタレを、
 基準1/クソッタレと目されている人物と会話をかわしたあとで、"標的"となった人物が憂鬱になったり、屈辱を感じたり、やる気を失ったりするか? とくに重要なのは、標的となった人物が卑屈な気分になるかどうかである。
 基準2/クソッタレと目されている人物が悪意を向ける対象が、自分より力の弱い者であるか?
の2つの基準で定義しています。

 第2章「被害に苦しむ人々」では、クソッタレがいることで、いじめの標的となった人物や周囲の人間が受ける被害、本人が受ける被害、管理職が受ける被害や、法務部や人事部にかかる経費、クソッタレがはびこった場合の職場の弊害を洗い出しています。

 第3章「クソッタレ撲滅ルールを導入するには」では、グーグルの「クソッタレ撲滅ルール」など紹介しています。グーグルは「悪しきことはするな」というモットーのもと、クソッタレは出世できない環境を整備しているとのことです(そう言えば昨年['18年]末に「グーグルはこの2年間にわたり、セクハラ行為をめぐって社員48人を解雇したが、その中には上級管理職13人が含まれる」というニュースがあった)。その上で、クソッタレ撲滅ルールを実施するための10のステップとして、①クソッタレ撲滅ルールをきちんと文章に書きだし、それを実践すること、②社内のクソッタレを人事採用業務にタッチさせてはならない、③クソッタレはできるかぎり早急に会社から追い出すべきである、④鑑定書つきのクソッタレは"無能な社員"とみなすこと、などを挙げています。

 第4章「あなたのなかにもクソッタレはいる」では、自分自身がクソッタレにならないようにするには、自分自身の内にあるクソッタレを認めることが第一歩であるとし、その上で、①自分の内なるクソッタレを外に出さない、②クソッタレ病をうつされそうな場所や人間に気をつける、③人生を"勝ったやつがみなもらう"式の競争とみなさない、④他人の目に映った自分自身の姿をしっかり把握する、という、クソッタレになることを避けるための4つのポイントを示しています。

 第5章「イヤな奴だらけの職場をサバイバルするには」では、職場がイヤな奴だらけだったとしても会社はなかなか辞められないものであり、そうした場合、イヤな奴だらけの職場をサバイバルするにはどうすればよいか、その方法として、①急流下り戦略(流れに逆らわないことで体力の消耗を避ける)、②リフレーミング(ものの見方を変えてみることで楽天主義に転化する)、③クソッタレが変わるなどと期待しない、④「なにも期待しない」、⑤無関心を心掛け、感情を遮断してみる、⑤距離を置いた関心、⑥"小さな勝利"を積み重ねよう、⑦顔を合わす時間をできるだけ減らそう、⑧安らぎを得られる場所を見つけよう、などいった対応やマインドセットを指南・紹介しています。

 第6章「クソッタレ成功者たちの教訓」では、クソッタレの中にも成功者はいて(その筆頭例としてスティーブ・ジョブズが挙げられている)、ではなぜ彼らはクソッタレでありながら成功するのかを分析、そこには、①攻撃やいじめを戦略的に使う、②威嚇も時には効果的、③恐怖を鞭に、飴も使う、④やる気のない人を動かす、などの成功の理由があるとしています。ただし、著者自身は、「卑劣なクソッタレを職場からシャットアウトすることがたとえ組織の業績アップにつながらなくとも、クソッタレ撲滅ルールはやはり実践すべきだ」との考えを示しています。

 第7章「生きかたとしてのクソッタレ撲滅ルール」では、クソッタレ撲滅ルールのエッセンスとして、以下の7つの教訓を示しています。
 1.良識のある人たちによって生み出された温かい感情の和も、たったひと握りのクソッタレのせいでブチ壊されてしまう。
 2.クソッタレ撲滅ルールの大切さを人に説くのもいいだろう。しかし、ほんとうに重要なのは、それを実行することである。
 3.ルールを生かすも殺すも、当人の意志次第である。
 4.クソッタレが役に立つこともある。
 5.クソッタレ撲滅ルールの実施は、管理職だけの仕事ではない。
 6.クソッタレに恥をかかせろ。
 7.クソッタレとは、わたしたち自身のことである。.

 クソッタレの傾向と対策が軽快かつ真摯に語られていて、例えば,ネガティブな出来事はポジティブな出来事に比べて5倍も影響力があり、良いことが5回あったとしてもたった1回クソッタレを相手にするだけでチャラになってしまうというのは、(打たれ弱い自分としてしては)よく分かる気がしました。

 一時的なクソッタレと「鑑定書つきのクソッタレ」とを区別しているのも本書の特徴で、誰もがクソッタレになる可能性を秘めているのだから、一時的にクソッタレになってしまった人を、何か嫌なことがあったのだろうと気遣いしてやることが必要だが、よく見守った末、たえず嫌なことをする「鑑定書つきのクソッタレ」であることが分かったならば、その時は皆で結託して追い出そうというスタンスのようです。

 池上彰氏が帯の推薦文で「書名に惑わされてはいけない。これはすぐれた経営組織論だ」と言っているように、個人としてだけでなく、組織としてクソッタレにどう対応するかが書かれていて、「パワハラ」「イジメ」を新しい視点から経営組織論として理解できる本。人事パーソンにとっても読んで得るところが少なからずある本ではないかと思います。

《読書MEMO》
●社員を採用する立場の管理職のなかにクソッタレがいると、社内にクソッタレがどんどん増殖していってしまう。(102p)
●リーダーにとって大切なのは、自分と周囲の人間との権力格差を小さくしていく努力をつづけていくことだ。(116p)
●たとえそれが向こうの誤解であろうとも、他人の目にうつった自分の姿をしっかりと把握しろ。(179p)
●目標を小さくすることの長所は、はっきりと目に見える成果を上げられる可能性が高い点にある。(中略)自分がなにかをコントロールしているという感覚は、絶望感や無力感を軽くする効果を持っているのである。(210p)

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効果的な異文化コミュニケーションをマネジメント要素別、国別に分かりやすく解説。

異文化理解力1.jpg異文化理解力.jpg 『異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』['15年]

 グローバル化により、外国企業と交渉したり上司や部下が外国人だったり、多国籍のチームで働くことは珍しくなくなってきていますが、育った環境や価値観が異なる人たちと仕事をするときに、互いの発言や行動の真意を理解し合い、誤解や対立を避けつつ、リーダーシップを発揮したり意思疎通を円滑にしたりし、多国籍な職場で成果を出し続けるにはどうすればいいか─本書の著者エリン・メイヤーは、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールの客員教授で、異文化マネージメントのプログラム・ディレクターなどを務めていますが、10年超の研究と数千人の経営幹部への取材をもとに、本書において、異文化を理解するためのツール「カルチャーマップ」により、マネジャーが自覚しておくべき以下の8つの指標について、国の文化や慣習が相対的にどこに位置しているのかを可視化しています。

  1.コミュニケーション:ローコンテクスト vs ハイコンテクスト
  2.評価(ネガティブフィードバック):直接的 vs 間接的
  3.説得:原理優先 vs 応用優先
  4.リード:平等主義 vs 階層主義
  5.決断:合意志向 vs トップダウン式
  6.信頼:タスクベース vs 関係ベース
  7.見解の相違:対立型 vs 対立回避型
  8.スケジューリング:直接的な時間 vs 柔軟な時間

 「カルチャーマップ」とは、8つのマネジメント領域を縦軸に、各領域における両極端の特徴を横に置いた、文化の「見取り図」とでも言うべきもので、「評価」という領域では、左端が「直接的なネガティブなフィードバック」、右端が「間接的なネガティブなフィードバック」となり、例えばドイツは左端、日本は右端に位置するとされています。以下、各章ごとに、8つの指標について、それぞれがどのような「カルチャーマップ」(の要素)となるか解説しています。

 第1章「空気に耳を澄ます」では「コミュニケーション」について、ローコンテクスト文化のアメリカやカナダなどは、簡潔明瞭で額面どおりの表現を好むのに対し、ハイコンテクスト文化の日本や中国などは、曖昧で含みがある表現を多用するとしています。

 第2章「様々な礼節のかたち」では「評価」について、ネガティブなフィードバックを率直かつ単刀直入に行うロシアやイスラエルに対し、日本やタイなどは間接的にやんわりと伝える傾向があるとしています。

 第3章「『なぜ』vs『どうやって』」では「説得」について、ラテン系のイタリア、フランス、スペインなどは「原理優先」の文化であるが、アングロサクソン系のアメリカやカナダなどは「応用優先」の文化であるとしています。また、アジアの人々はいわゆる「包括的な」思考パターンを持っていて、西洋の人々はいわゆる「特定的な」アプローチをとっているとしています。

 第4章「敬意はどれくらい必要?」では「リード」について、同じヨーロッパの国でも、歴史的背景の違いににより、ローマ帝国やカトリックの影響をうけた南欧諸国は階層的権威主義的であるのに対し、バイキングの思想に基づく北欧諸国は平等主義的であるとしています。そして、儒教文化の影響を受けた中国、韓国、日本は、最も階層主義的文化と位置づけられるとしています。

 第5章「大文字の決断か小文字か」では「決断」について、アメリカ人は<小文字の決断>を複数繰り返し行って、最終的な形にしていくという傾向があるが、日本人は<大文字の決断>という一度決めたら二度と変えないくらいの行動をする傾向があるとしています。また、決断が個人でなされる(たいていは上司)トップダウン式がアメリカなどの国であり、決断は全員の合意の上グループでなされる典型的な国が日本であり、日本の稟議システムは、階層主義かつ超合意主義であるとしています。

 第6章「頭か心か」では「信頼」について、信頼はビジネスに関連した活動で築かれるというタスクベースの考え方をするのがアメリカなどであり、それに対し、食事をしたり酒を飲んだりすることで築かれるという関係ベースの考え方をするのが中国や日本であるとのことです。また、人間関係を構築する傾向を「桃」VS「ココナッツ」と表現しています。これは、アメリカ人はアイスブレイクなどをワークショップなどで行うことが多く、容易くそれをこなしているが、彼らは「桃」の関係構築をしていて、会ったばかりの人には親しく接するものの、どこかで種にぶつかったかのように、その人の守る壁に突き当たり、逆に日本人などは「ココナッツ」の関係構築をしていて、「ココナッツ」は皮が固くなかなか親しくしてもらえないが、親しくなるとプライベートも関わるような関係ができる、という関係を構築する文化のことを表しています。

 第7章「ナイフではなく針を」では「見解の相違」について、例えばフランス人は見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものだと考える対立型の傾向があるが、日本人などは、ネガティブなものだと考える対立回避型の傾向があるとしています。

 第8章「遅いってどれくらい?」では「スケジューリング」について、プロジェクトなどがスケジュール通りに進むことが重要であると考える日本や中国に対し、インドなどでは、プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進め、組織性より柔軟性に価値が置かれるとしています。

 各章とも事例をもとに解説されているため、読みやすく、また、納得性の高い内容であったと思います。どの指標においても日本は常にどちらかの側に偏った端的なポジショニングにあることを改めて思い知ったという印象です。ビジネスでの同意、決定、承認、チームをリードする、といった場面で、どの国の人にはどのような手法がより効果的になるかが、分かりやすく説明されている本であり、仕事で外国人と接することがあるすべてのビジネスパーソンにお薦めできます。もちろん、グローバル企業で働く人事パーソンにも、これからの教養としてお薦めです。

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企業の命運はCEOにではなく、最前線に立つ中間管理職(RCL)にかかっている。

リアル・チェンジ・リーダー1.jpgリアル・チェンジ・リーダー2.jpg ジョン・R. カッツェンバック.jpg ジョン・R. カッツェンバック
リアル・チェンジ・リーダ』['98年]

 本書は、マッキンゼーの企業変革グループが、1990年代のアメリカ経済の復活をけん引した企業変革に関する膨大な研究成果を、「変革の真のリーダー」という切り口から書き下ろしたものです。本書では、アメリカを復活させたのはまったく新しいタイプの中間管理職であり、それをリアル・チェンジ・リーダー(=RCL)としています。

 第1部「リアル・チェンジ・リーダーは変革をになう」では―、

 第1章では、「業績は数字だけではない」とし、RCLは、①市場で何が重要なのかをその理由と併せて明確にし、②変革にどれほどの努力が注がれたかを達成した業績によって計り、③より高い成果を常に求め続ける―としています。

 第2章では、変革における「ワーキング・ビジョン」の重要性を説き、①RCLにとってワーキング・ビジョンによって達成されるものは何か、②RCLが自分たちにのワーキング・ビジョンを作り出すプロセスとはどのようなものか、③ワーキング・ビジョンを育くむために、RCLはどのような働きかけをするのか―を考察しています。

 第3章では、変革には「リスクを冒す勇気」が必要であるとし、RCLは、①自身の自信と信頼感を築き上げ、②他の人々の心に勇気を吹き込み、③経営陣が抱く成功への確信にプラスの影響を及ぼす―としています。

 第2部「会社ぐるみの変革をいかに成し遂げるか」では―、

 第4章では、「組織の全員に期待以上の成果を上げさせる」ためにRCLが従業員活性化のための支援をどのように与えるかを、①少人数グループの活性化、②大規模工場における従業員の活性化、③大企業の広い範囲の部署にいる従業員の活性化―のそれぞれについて、事例で紹介しています。

 第5章では、「プロセス再設計は顧客のニーズから」行うべきであるとし、RCLは、①顧客の視点を把握する、②上下関係にとらわれず行動する、③多様なアプローチを学ぶ―としています。

 第6章では、「組織変革のタイミング」について、従来の典型的な管理職と異なってRCLが選択・実行するのは、①組織図を明確化し、そこから前進する、②チームや作業グループなど柔軟な組織単位に依存する、③必要に応じてリストラを断行する―ことであるとしています。

 第3部「リーダーシップ能力と企業の成長」では―、

 第7章では、変革に「弾み」をつけるためにRCLは、①多様なツールを作り出し、さまざまなアプローチを開発する、②ツールやアプローチのバランスを変えていく、③長時間にわたって変革にかかわる人々の数を増やし、スピードを上げていく―としています。

 第8章では、変革のスキルを身につけるためにRCLは、①どのようなスキルと心構えが必要とされるか、②リーダーとしてどんな役割が浮上してくるか、③より優れたRCLに、どうやって、また、なぜなるか―を説いています。

 第9章では、RCLが自身のキャリアの将来のためにとる態度を、①状況に対応するために「バランスをさまざまに変える」、②将来に目を配ることで「他との違いを際立たせる」―の二点にまとめています。

 最後に「エピローグ 経営陣へのメモ」で、RCLがトップに実践してもらいたいと思っていることとして、
  ⑴ 顧客と従業員たちにとって意味のある目標と測定基準を設定する
  ⑵ 組織内を歩き回って部下に話しかける、要求の多いボスになる、
  ⑶ 成果を上げた人間には十分に報いてやり、怠けた人間には罰を与える
  ⑷ 業績が思わしくない分野の尻を叩く
  ⑸ 要求を達成したら報奨を与える
の5つを挙げています。

 企業の命運はCEOや重役にではなく、最前線に立つ中間管理職にかかっており、新しいタイプの中間管理職リアル・チェンジ・リーダー(RCL)が発意することにより、初めて組織は動き出すという―ではRCLとはどのような人を指し、RCLになるにはどうすればよいかを説いた、多くのビジネスパーソンにとって啓発度の高い本であると思います。

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「日本型人事システムは組織志向と市場志向を止揚しながら環境適合的に進化していく」と。

日本の人事システム.jpg 『日本の人事システム -その伝統と革新』['19年]

 本書は、日本型人事システムの変容を大規模調査によって明らかにし、今後の方向性についての解明を試みた「人材マネジメントの新展開」調査研究プロジェクトの成果を書籍化したものです。①人事部の新たな役割、②人事ポリシー、③組織文化、④意思決定メカニズム、⑤「働き方改革」の施策、⑥グローバルリーダーの在り方、の6つの視点から7人の専門家が、日本的共同体の市場化メカニズムの実態と論理を解明し、今後の人事システムのありようを展望しています。

 第1章「人事部の新しい役割」では、日本企業の社員格付け制度のトレンドとして、職能資格制度から役割等級制度への移行が見られるとしています。また、今日の日本企業においては、「職能資格制度と人事権人事部集中」と「役割等級制度と人事権ライン分権」の補完的組み合わせが併存する一方、実際には役割等級制度を採用する企業の粘着的人事情報の集中蓄積が高いことを指摘し、その理由を考察しています。著者は、従前どおり人事部が人事情報を収集蓄積したうえで、適材適所のキャリア開発ができるようライン管理職を支援するとともに、キャリア相談等を通じて社員の自律的キャリア意識を育てる施策が効果的であり、そこに人事部が人事情報を収集蓄積する意義があるとしています。

 第2章「人事ポリシーと従業員の働きがい」では、こうした日本企業の人事施策を根底で支える人事ポリシーには、自社だけでなく他社でも通用する汎用的能力の涵養を重視する「エンプロイヤビリティの重視」志向、会社の戦略に合致するよう従業員の成長を支援する「個別化された能力開発」志向、実力や成果に応じた評価や報酬を付与する「実力・貢献主義的処遇」志向の3つのポリシーがあることをデータから確認し、「実力・貢献主義的処遇」志向であるほど従業員の働きがいは高いとしています。

第3章「人事ポリシーと組織文化」では、人事ポリシーを支える組織文化に焦点を当て、日本企業の組織文化をクラン、マーケット、イノベーション、ビューロクラシーの各志向に分類、今日の日本企業における組織文化が、家族主義的色彩の濃いクラン型をベースとして残しながら、マーケット志向やイノベーション志向やビューロクラシー志向といった複数の志向を内包しており、各志向がバランスよく観察される企業が、「エンプロイヤビリティの重視」、「個別化された能力開発」、「実力・貢献主義的処遇」を意識する志向が高いことが見い出されたとしています。

第4章「人材育成と参加的意思決定」では、日本型の意思決定スタイルは従来はボトムアップ型とされてきたが、今回の調査では、低職位層は決定のプロセスにはそれほど参画しておらず、むしろ決定の権限を下位の職位に委嘱するよりは、「起案」に下位の職位を参加させ、決定の権限は上位に委ねる方が、育成に効果があることが分ったとし、その意味では、日本型の意思決定は、人材育成の機能を果たしてきたとしています。

第5章「働き方改革の現状と未来」では、政府によって推進されている働き方改革の内実は、女性活躍推進、労働時間削減、勤務形態見直し、みなし労働時間制、限定正社員制度、既存制度の見直しという6つの施策群から構成され、ともすると法令遵守の意識が先導しがちだが、企業の活動成果にポジティブに作用するよう企業が主体的に推進してこそ意義がある施策であるとしています。

第6章「グローバルリーダーの条件」では、日本企業におけるグローバルリーダーは、米国のような普遍的で短期視点での利益追求ではなく、より長期視点で育成を重視する行動をとることが求められるだろうとしています。とりわけ日本型のチーム組織を海外拠点でとっている日本企業では、グローバルリーダーは組織が置かれた状況に合致するよう計画的に内部育成されていることが明らかになったとしています。

エピローグでも述べられていることですが、グローバル化に伴い、日本企業の人事システムは一層の市場対応が可能な体制に変貌を遂げつつあるが、現状においてもなお米国のそれとは一線を画し、むしろ旧来の日本型人事システム(人事部による従業員の人事情報の長期的な蓄積と運用、労使双方のニーズの合致志向、家族主義的な組織文化、低職位層の意思決定と起案書作成段階にいおける限定的参画、グローバルリーダーの内部育成志向)との連続性を意識しつつ、そのうえで透明性・納得性の高い実力主義に基づいた評価・報酬付与が行われる人事システムが模索されているとしており、「人材育成」と「実力主義」を両立させようという志向性が昨今の日本型人事システムの特徴であり、それは組織志向と市場志向の「ハイブリッド型人事システム」として位置づけることができるだろうというのが本書の結論です。

言い換えれば、「日本型人事システムは組織志向と市場志向を止揚しながら環境適合的に進化していく」というのが本書の結論ということになります。やや旧来の日本型人事システムに肩入れし過ぎではないかと気がしないでもなく、また、学者たちの共同研究であるためか、実務家目線で見ると若干もやっとした感じの結論になった気がしなくもないですが、大きなトレンドを俯瞰したものとしてみるべきなのでしょう。調査をもとにこうした結論を導き出している点で、それなりに説得力はあったように思います。

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職場での対立・葛藤を解消する「コンフリクトマネジメント」を事例で紹介。

『職場の紛争学.jpg『職場の紛争学』.jpg 『職場の紛争学』2.jpg
職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)』['19年]

 人事コンサルタントによる本書では、企業内で多様な人材が働く昨今、職場での思わぬコンフリクト(対立・葛藤)が増えていくだろうとし、実際に起きた6つの事例をもとにその類型を分析し、解決のための方法を指南しています。

 事例1は「オーナー社長vs.大企業OB」。オーナー社長が自ら中途採用した大企業のOBが、当初に期待した成果を上げられず、社長が「自分の給料分は利益を上げてくだい」と言うと、本人に「なぜ、私が営業をやるんだ!」と逆に開き直られてしまったというもの。コンサルタントは社長と大企業OBの両者と面談し、両者の視点の対立点を抽出、コンフリクトの原因と考えられる双方のパラダイムの違いなどを明らかにしていくとともに、人事マネジメント上どのような工夫をすればこうしたコンフリクトを予防できるかを示しています。

 事例2の「ゆとり社員vs.バブル上司」では、厳しい上司に追い込まれて泣き出す部下と、そもそも上司は敵であり乗り越えていくものだという考えの管理職の対立を、事例3の「専門志向vs.上昇志向」では、社内の飲み会に出ていては自分のスキルを磨けないとする専門職と、そんなことでは将来の幹部に必要な社内人脈が築けないとする上司との対立を取り上げています。

 さらに事例4から6にかけて「営業トップvs.経営層」「意識高い系部下vs.実直上司」「女性総合職vs.男性上司」と続きますが、目に見える多様性ばかりではなく、仕事への取り組み方やキャリアについての考え方など、意識や価値観といった目に見えない違いを取り上げている点が特徴的であるとともに、これらはどこの職場にも十分に起こり得るコンフリクトであるように思いました。

 最後に、「コンフリクトマネジメント入門【理論編】」として、条件、認知、感情の3つが対立を生み出す要素としています。つまり、対立を生み出す3つの要素とは、①立場や役割の違いによって起こる目標・条件の対立、②思考・価値観の違いによって起こる物事の解釈の対立、③条件・認知の対立状態が続いたり、その経験がもとになったりして起こる心情面の対立、であるとしています。

 その上で、ケネス・W・トーマスの「二重関心モデル」を紹介し、そこから導き出される〈強制〉〈服従〉〈回避〉〈妥協〉〈協調〉の5つの解決方法と、その他、〈闘争〉〈訴訟〉〈仲裁〉〈ミディエーション〉というコンフリクトへの4つの対応方法を示しています。さらに、コンフリクトの解決に至るまでには、今起こっているコンフリクトを構造的に捉える必要があるとして、そのために有効な6つの視点として、1.世界観、2.立脚点、3.ニーズ、4.問題の再焦点化、5.建設的提案、6.破壊的提案、を挙げています。 そして最後に、これまで事例の解決策としても紹介されてきたミディエーションというものについて解説しています。
 
 著者が言うように、日本人は対立を回避する傾向がこれまで強かったけれども、多様な人材をさまざまな雇用形態で活用せざるを得なくなったため、今後はこれまで避けてきた対立が表面化することも多くなるのでしょう。その際に、コンフリクトを1つ解決すればそれで終わりというのではなく、対立の根底に何があるのかを見極めることが、次の予防へと繋がることになり、そのヒントを与えてくれるものとして、事例編は興味深く読めました。

 一方の理論編の方は、コンパクトに纏められていますが、その分、やや概念的なままに終わってしまった印象があります。とりわけ最後のミディエーションについては、紙数が尽きたのかという印象も。

 人事専門誌「月刊人事マネジメント」6回の連載をベースに、ケネス・W・トーマスの著書や、鈴木有香氏がその著書『交渉とミディエーション』(三修社)、『人と組織を強くする交渉力』(自由国民社)などで展開しているコンフリクト・マネジメント、メディエーション論を加筆したものの、新書1冊に纏めるとなると、理論編が圧縮されるのは致し方なかったのでしょうか。

ただ、事例編の部分はコンフリクトについての気づきを促してくれるとともに、その解決・予防について示唆に富むものであったように思います。事例編を読むだけでも、「コンフリクトマネジメント」が実際どういうものか理解することは可能だと思います。

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「疲れるなあ...」「読む人を選ぶ本」というレビューも"もむべなるかな"。

自分のことは話すな.jpg 『自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術 (幻冬舎新書) 』['19年]

 巷の「話し方」の本には一番大切なことが抜けていて、それは、会話では「自分のこと」ではなく「相手のこと」を話すということであり、自分の話をやめるだけで、仕事も人間関係も俄然よくなるというのが、本書の趣旨です。

 読む前は、人との会話における、ある種カウンセリングマインドに基づく技法を紹介した本かと思いましたが、読んでみて、かなり印象が変わったかも。サブタイトルに「仕事と人間関係を劇的によくする」とあり、結局、自らの仕事を成功させるというのが目的意識としてかなり前面に出ている内容でした。

 もちろん一般論として参考になった部分もありましたが、「雑談をなくせば利益が生まれる」「軽い謝罪なら、しないほうがよい」といったところにそうした割り切ったな姿勢を感じるし、「『雑談』をうまく切り上げる方法」なんていうのも、効果的かどうかはケースバイケースで、ビジネスシーンではともかく、ビジネス以外の場ではむしろ逆効果のように思いました。

 著者の肩書をみると、イメージコンサルタントということで(それ自体は何だかよく分からないが)、研修や講演活動を行う一方、化粧品、ファッションアイテムを扱うブランドをお立ち上げ、会社を経営しているとのことで、道理で全体のトーンがビジネスライクなのだなあと。

 だから、人間関係をよくすると言っても、それはある意味ビジネス上の手段であり、「自分のことは話さない」といつつもそれはある種"戦術"であって、最終的にはビジネスで自分を売り込むことが、この本の目指すところになっているのではないでしょうか。

 この本のタイトルに惹かれて本書を手にした人のすべてが、必ずしもそうしたスタンスであるとは言えないため、読んでみて合う人と合わない人が出てくるのは必至でしょう。Amazon,com のレビューに、「疲れるなあ...」「読む人を選ぶ本」といった感想があったのも"もむべなるかな"といったところでした。

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース)

精神分析的組織・リーダー論。広くお薦めできるが、とりわけ人事パーソンにお薦めの本。

会社の中の「困った人たち」.jpg マンフレッド・ケッツ ド・ブリース2.jpg Manfred Kets de Vries
会社の中の「困った人たち」―上司と部下の精神分析>』['98年]

 本書(原題:Life and Death in the Executive Fast Lane: Essays on Irrational Organizations and Their Leaders,1995)の著者マンフレッド・ケッツ・ド・ブリース(Manfred F. R. Kets de Vries) は、欧州のINSEADビジネススクールの教授であり(本書執筆時)、ハーバード・ビジネススクールの教授を務めたこともある人で、精神分析を組織論に応用することを目指している異色の経営学者であるとのことです。原題の意は「追い越し車線を走る経営幹部の生と死―非合理的な組織とそのリーダーに関するエッセイ集」であり、企業組織の中で慌ただしく働き生きる人々の心理を探ろうとした本です。大きく二部構成になっていて、Ⅰ部(「困った人たち」は変化を求めない、第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(「困った人たち」のジレンマ、第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てています。

 第1章「部下がついてこない上司なんて―リーダーシップの機微」では、リーダーには、組織の将来をビジョン化し、社員にエンパワーし、社内エネルギーを方向付けるカリスマとしての役割と、計画を立て、組織化を行い、統制をして、報酬を与えるという実施促進者としての役割があるとしています。

 第2章「新しい会社に移った経営者なら―新任最高経営責任者の心の内」では、社外から招かれたり、内部昇進をしてリーダーの地位に就いた経営幹部は、さまざまな対立事項や利害の衝突の対処しなければならないことがい多いが、リーダーとしての役割をできるだけ早く果たせるようになるには、どのようなことを意識すべきかを説いています。

 第3章「ゆでガエル、そして踊るゾウ―やる気を保つダウンサイジング」と第4章「合併熱にご用心―合併・買収の心理的側面」では、企業が競争力を保つためには組織の変化が必要であり、それが企業規模や労働力の拡大縮小につながることもままあるが、ダウンサイジングなどの困難な変化について、あるいは合併・買収(Ⅿ&A)などについて、リーダーは社員の拒否反応をどう調停すべきか、経営幹部は変化による競争上の利点をどう活かすかを説き、変化をうまく活かすには、変化の途上における人間的側面に配慮することが不可欠であるとしています。

 第5章「社歌という名のラブソング―企業文化は簡単には変わらない」では、企業文化はいわば人間的側面の集大成であり、組織変革においてはこれが決定的要因になることがあるとして、象徴や言語や行動など社風の本質を解読し、それを変えていくための手がかりを提示しています。

 第6章「会社の中のカルチャーショック―国境を越える経営」では、企業文化の多様性の考察と同じく、国ごとの文化の違いを考察することは重要であり、異文化問題が決定的になる例として国際的なⅯ&Aがあるとして、文化による仕事の多様性を扱っています。

 第7章「海外でほんとうに働きたい?―海外赴任のプラス・マイナス」では、経営幹部やその家族に対して、海外の赴任のために適切な準備を行うことの重要性を理解している企業はほとんどなく、帰国してみると戻るべきポストがないという問題にぶつかる経営幹部も多いとして、海外勤務と帰国後の勤務とを、経営幹部にとっても企業にとっても建設的なものとするにはどうすればよいかを考察しています。

 第8章「グローバルにやっていく―グローバル・リーダー育成の実際」では、グローバル企業の増加に伴い、真にグローバルなリーダーへの要請が高まっているが、そのようなリーダーはどのような経験によってつくられるものなのかを、実例を見ながら、そのの国際的リーダーたちの育成に役立った要因を考察しています。

 第9章「今日の成功者は明日の失敗者―エクセレンスを持続するリーダーシップ」では、将来のビジネスはどうなるか、企業が抜きんでておく必要がある分野とは何かを予想しています。

 第10章「女性差別の重いツケ―上司としての女性」では、男性と女性の生理的、心理的過程がどう異なるかに注目して、組織の中でこの違いから生じてきている偏見と現実をテーマにしています。

 第11章「親父の会社に入る茶番劇―同族会社の大変さ」では、同族会社においては後継者問題で会社が没落するということもあり、家族関係がビジネスに影響すると問題が深刻化するとして、同族会社のオーナーや従業員にアドバイスを与えています。

 第12章「はみ出し者を活かす―創造性の管理」では、真に創造的な社員と普通の社員の違いに目を向け、創造的な社員をどう見つけ、どう育てるかを検証しています。

 第13章「優雅な退場―最高経営責任者の引退と後継者問題」では、引退と後継者問題といういかなるリーダーにとってもトラウマになる時期について説明し、引退を人生の一つの通過点に過ぎないと思う人がいる一方で、なぜ、これを文字通り命に関わる問題と感じる人がいるのか、この種の変化に対して、個人的、組織的両面からどう対処すればよいかを考察しています。

 第14章「つい働き過ぎてしまうのは―仕事と遊びのバランス」では、機能不全の行動のタイプとしてよく見られるものに仕事中毒(ワーカーホリック)があるとし、ワーカーホリックの行動をどのようにすれば変えることができるのかを考えています。

 第15章「『死んだ魚』でいっぱいの会社―失感情症は蔓延する」では、組織には失感情症(アレキシサイミア)と呼ばれる人がいて、こうした情動を表現できない症状の人は大企業によく見られるが組織の構造や日常業務の背後に隠れてしまっていることもあり、失感情症のリーダーはその組織に悪影響を及ぼし、有能なリーダーに不可欠なカリスマ的資質を欠きがちであるとしています。

 第16章「起業家はムチャもする―起業家精神の暗黒面」では、リーダーとしての機能不全的特徴の多くは、不健康な自己愛に起因しており、起業家は自分に敵対していると思える勢力を前にしても、なお成功への道を突き進もうとするエネルギーを得られることから行き過ぎた行動をとるという、その起業家にありがちな精神の暗黒面について論じています。

 第17章「なぜジンギス・カンのために働くのか?―粗暴な上司に服従する心理」では、行動面での過度の服従と感応精神病という奇妙な現象を考察し、リーダーへの愛着は、ときにフォロワーの合理的思考力、行動力を圧倒して、自分を損なわせるほどにつよくなることを明らかにしています。

 第18章「常軌を逸した上司―自己愛とうぬぼれの取り扱い方」では、これまで見てきたような種類の機能不全よりももっとひどい、狂気の領域に足を踏み入れたようなリーダーもいて、彼らの行動を説明できる合理的解釈は見当たらないが、彼らに一線を超えさせてしまう要因として、やはり自己愛があり、自己愛は建設的なプラスの力として働くこともあるが、一転して過度の傲慢と非合理的思考の鍵となることもあるとしています。ただし、第19章「おわりに―少々の狂気は人生に必要」では、特に極端な位置にいるのでなければ、少々の狂気は人生の中で必要なのだと認めることもできるとしています。

 冒頭に述べたように、Ⅰ部(第1~第9章)は組織の問題に重点を置いており、Ⅱ部(第10~第19章)は人間の役割に焦点を当てていますが、著者自身が前書きで述べているように、恋人と組織はそれぞれ複雑に絡み合った全体の一面であるため、ほとんどシームレスな感じで読めました(Ⅱ部からでも読める)。また、各章に気の利いたタイトルがついていて(おそらく訳者による意訳だと思うが)、その章で扱うテーマが分かりやすくなっているのも良かったです。

 内容的には、リーダーシップ(とその暗黒面)、組織改革、キャリア・ダイナミクス(転職、海外赴任、引退、女性のキャリア問題)、企業活動と人の国際化・グローバル化、起業家、同族経営、職場のメンタルヘルス、リストラやⅯ&Aの心理的影響など多くの問題を扱っていますが、問題の掘り下げ方に精神分析家としての特徴があり、しかも臨床的パラダイムを主張する著者だけに、企業経営者やそこで働く人々をよく観察・分析して書かれているという印象を持ちました。

 訳者あとがきで、第一に、会社の中における人間の問題について深く考える必要があるポジションにある人(例えば管理職、人事部門の人)、第二に、会社の中で「困った人たち」に会うことを専門にしている人たち(例えばキャリア・カウンセラー、組織コンサルタント)、第三に、組織内で自らが困っていると思っている人、第四に、なにも困っていなくとも、精神分析的組織論と言う経営学の知のフロンティアに知的好奇心を抱く一般読者に本書を読んでほしいとありますが、まさにその通りだと思いました(個人的は、とりわけ人事パーソンにお薦め)。

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「リーダーは、集団を"リニューアル"するのがその最終的な役割」―説得力あり。

リーダーシップの本質.jpgジョン・ウィリアム・ガードナー.jpg John William Gardner
リーダーシップの本質―ガードナーのリーダーの条件』['93年]

ジョン・ウィリアム・ガードナー 2.jpg 本書の著者ジョン・ウィリアム・ガードナー(1912-2012)は、医療、教育、福祉部門の長官、ケネディ政権で教育タスクフォースのメンバーになったのを皮切りに、6人の大統領の顧問、スタンフォード大学の教授を務めた人物であり、そうした経験を持つ著者が、アメリカ各界の指導者数百名にインタビューするなどして5年間を費やした研究調査の成果を横糸に、著者自身の社会観、文明観、哲学を縦糸にして、リーダーシップ論を展開したのが本書です(原題:On Leadership,1990)。

 第1章では、リーダーシップというのは、個人あるいはリーダー・チームが、リーダーやリーダーと部下が共有している目的を追求すべく、集団を誘導していくプロセスであるとしています。第2章では、最も重要なリーダーシップ機能として、目標設定、動機づけなど、リーダーの9つの任務を示しています。

 第3章では、リーダーとフォロワーズとの相互作用について述べ、その関係がうまく機能するために必要なこととして、効果的な双方向のコミュニケーションは不可欠であるとしています。第4章では、いかなる状況の中でも成功するリーダーシップを保証するような、リーダーの特質などは存在しないとしています。

 第5章では、リーダーにとって重要な資質として、以下の14 項目を挙げています。
  1.肉体的活力とスタミナ
  2.知力と実行判断力
  3.責任を引き受ける意欲
  4.任務遂行能力
  5.部下に対する理解
  6.人を扱う技術
  7.偉業を達成する必要性
  8.動機づけ能力
  9.勇気、決意、着実性
  10.信頼を獲得し保持する能力
  11.管理し、決定し、優先順位を設定する能力
  12.自信
  13.主導権、支配、自己主張
  14.戦術の適応性と柔軟性

 第6章では、リーダーシップとパワー(権限)は同じものではないとし、第7章では、道徳的に受容できるリーダーの特質とはどのようなものかを述べています。

 第8章では、今日の複雑化した大規模組織におけるリーダーの機能と役割を探り、第9章から第11章にかけては、そうした大規模組織内で起きる断片化と共通利益の問題、連携と責任のネットワークの問題、コミュニティ意識の喪失の問題を取り上げ、リーダーはどう対応すべきかを説いています。

 第12章では、今日リーダーが対応しなければならない組織の問題は、分断化、共有価値の喪失、対立勢力を妥協させる困難だけでなく、組織を常にリニューアル(再活性化)する必要があるということを理解しなければならないとし、さらに言えば、リーダーは組織文化の再生者でなければならないとしています。

 第13章では、リーダーシップにおける役割の分担について述べ、その1つの形態として、リーダーと密接な関係を保ちながら働く少数の個人グループ、リーダーシップ・チームというものを取り上げ、リーダーシップ任務を分担することの利点を説いています。

 第14章では、リーダーシップは教育できるかという問いに対する答えは「イエス」であるが、その教育は、多数の人々を対象に、できるだけ早期のうちに取り組むことが、社会の活力に決定的な重要性を持つとし、また、大学レベルにおけるリーダーシップのための最善の準備は、リベラル・アーツ(一般教養)を身につけさせることであるとしています。第15章では、リーダーシップ開発は生涯にわたって可能であり、その過程は生涯学習となるとしています。

 第16章では、動機づけ者としてのリーダーという観点から、リーダーにはフォロワーズのニーズが何かを知ることが求められ、また、自己を超えた献身が求められるとしています。第17章では、リーダーは人々に自信を持たせる試みをするものであり、リーダーとフォロワーズの関係は、人間の可能性に対する信念によって設定されるとしています。

 フォロワーズとの関係においてリーダーの優劣か決まるとしているというのは尤もだと思わされました。リーダーの特質は、眠っている個人の才能を発掘・育成する点にあり、さらに、最終的には、集団を"リニューアル"するのがその役割であるというのが、説得力をもって響いてくる、啓発度の高い名著です。

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「終身雇用の時代に戻れない」中での雇用主と社員との新たな信頼関係を提唱。

ALLIANCE アライアンス.jpg 『ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』['19年]

 本書は、終身雇用の時代にも戻れず、現状維持もできない今こそ、雇用主と社員の関係を見直す時ではないだろうかとし、会社と社員を雇用というよりは信頼関係で結ぶ「アライアンス」という、シリコンバレーで導入されている新たな雇用形態の考えを考えを紹介している本です。

 第1章では、米国においても一昔前の雇用モデルは終身雇用であり、それは、当時の安定した時代には合っていたが、世の中は変わり、株主資本主義の台頭により、会社は株価を上げるための短期的な財務目標の達成を優先するようになり、終身雇用という雇用モデルは硬直的すぎるため、組織の柔軟性を高めようとした結果、社員も仕事内容も、短期間で取り換えが可能になったとしています。

 こうした随意雇用(一方的に契約が破棄できる雇用契約)になると、働く人は自らを「フリーエージェント」だと考えよう、と吹聴されるようになり、自分を高めるチャンスを常に追い求め、より良い仕事に誘われたらいつでも転職するようになり、企業と個人が忠誠心で結ばれていた時代には引き返せないところまで、世界は変わってしまったとのことです。

 終身雇用の時代にも戻れず、現状維持もできないならば、今こそ雇用主と社員の関係を見直す時ではないか。いずれも起業家である著者らはそう述べ、雇用を「アライアンス」であると考えてみようと提案してます。アライアンスとは、互いのメリットを得ようと、期間を明確に定めて結ぶ提携関係のことであり、この関係は、雇用主と社員が「どのような価値を相手にもたらすか」に基づいてつくられるとしています。

 著者らは、社員との間に「帰属意識を持てる一生の関係」を築きたいと願い、自社を「家族的」と表現するCEOがいるが、この言葉は、誤解を生みやすいとしています。本当の家族なら、我が子の働きぶりが悪いからといってクビにすることはないが、自社を家族だと表現した後でレイオフを行うCEOは後を絶たないと。これと対照的なのが「チーム」であり、プロスポーツのチームは終身雇用を前提としていないにもかかわらず、相互信頼と相互投資、そして互恵の原則が機能しており、個人の栄光よりもチームの勝利を優先するほどメンバー同士の信頼が強い時、チームは勝つ―逆説的だが、こうしてチームとして勝つことがメンバーの個人的成功の近道になるとしています。

 第2章では、アライアンスの関係を築く場合、まず、「コミットメント期間(ツアー・オブ・デューティ)」を定める必要があるとしています。「ツアー・オブ・デューティ」はもともと軍隊用語で、任務や配置の割り当て一回分を意味し、そこには「ミッションを期間内に成し遂げることに専念し、そこに個人の信用をかけている」という考えであるとのことです。コミットメント期間には、「ローテーション型」「変革型」「基盤型」の三つのタイプがあるとし、ローテーション型は会社に「規模拡大」をもたらし、変革型は会社に「適応力」を与えてくれ、基盤型は会社に「継続性」をもたらすとしています。

 第3章では、コミットメント関係で大切なものとして、社員と会社の目標および価値観をそろえる「整合性」を挙げ、どの程度の整合性が必要なのかは、コミットメント期間のタイプによって違ってくるとしています。そして、整合性の構築の3つのステップとして、①会社の核となるミッションと価値観を打ち立て、それを広める、②社員の大切にしている価値観とありたい姿を知る、③社員、上司、会社間の整合性を目指し協力する、の3つを掲げています。

 第4章では、変革型コミット期間を導入する際に、それをうまく活用する4つのステップとして、①対話を開始し、コミットメントの目標を設定する、②双方が定期的にフィードバックし合う仕組みをつくる、③コミットメント期間の終了前に次の期間の設計に着手する、④想定外の事態に対処する(コミットメント期間の途中での変化)の4つを挙げ、それぞれについて解説しています。

 第5章では、会社が社員に仕事上のネットワークを広げる機会をつくって彼らのキャリアをサポートし、社員は、自分のネットワークを使って会社を変革する手助けをする、会社と社員の連携関係の構築を推奨しています。社員の「ネットワーク情報収集力」は、組織が外部とかかわり合い、そこから学ぶのに最も効率的な方法であるとしています。さらに、ネットワーク情報収集力の4つの役目について解説しています。

 第6章では、そうした社員のネットワーク情報収集力を育てるための、社員の人脈を伸ばすコツと戦術を挙げています。それは、①ネットワーク力のある人材を採用する、②会話とソーシャルメディアを駆使して情報を掘り出す手法を教える、③個人のネットワーク構築を支援するプログラムと方策を全社展開する、④社員が得た情報を会社に還元させる、の4つであるとのことです。

 第7章では、会社が「卒業生」(自社の元社員)のネットワークをつくり、生涯にわたって個人と会社のアライアンス関係を続けていくことを推奨しています。「卒業生」ネットワークに投資する理由として、①優れた人材の獲得に役立つ、②有力な情報が得られる、③顧客を紹介してくれる、④「卒業生」はブランド・アンバサダーである、の4つを挙げています。

 第8章では、「卒業生」ネットワークを活かすには、効果的に導入するためのコツとテクニックがあるとして、①「卒業生」ネットワークの参加者を決める、②ギブ・アンド・テイクの中身をはっきり示す、③退職手続きを見直す、④現役社員と「卒業生」を繋げる、の4つについて解説しています。

 著者の一人リード・ホフマンは世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス会社「リンクトイン」を2002年に創業しており(現会長)、本書の中での事例の多くはそのリンクトインで実際に取られた施策となっています(よって「アライアンス」とは、シリコンバレーで導入されている新たな雇用形態ともいえる)。その分、監訳者がまえがきで述べているように、本書の内容がそのまますぐに適用できる日本企業や職場はそう多くないかもしれません。それでも、将来に向けての視点で本書を読めば、「市場にある人的資源をどう活かすか、どうやって社員のキャリア形成をサポートし、会社との間に信頼を醸成するか」、「雇用慣行などの彼我の差をおいても得るところが多いのではないか」と自分も思いました。


《読書MEMO》
(監訳者によるMEMO)
●忠誠心を得られない企業は、長期的思考ができない企業である。長期的思考ができない企業は、将来に向けた投資のできない企業である。そして、明日のチャンスと技術に投資しない企業は、すでに死に向っている企業なのだ。(25p)
●変革型コミットメント期間の核心は、その社員が自分のキャリアと会社の両方を大きく変革させるような機会を得るという約束である。(53p)
●「本人とその成長のために投資するのです。ここで身につけるさまざまな能力を、どこで活かしてもよいのです。結果的のそのキャリアパスがマクドナルドの社内でも社外でもかまいません。」(63p)
●具体的なコミットメント期間について上司と話し合う中で、そのコミットメント期間における本人の「向上」が何をさすのか、上司の助けを借りて明らかにすればいい。(87p)
●(アライアンスの)中心にあるのは道義であって、法律ではない。そしてコミットメント期間も、公式な契約ではない。大切な関係を尊重し守るための、自発的な合意だ。(107p)
●終身雇用では、マネジャーも社員も社内に集中することがよしとされた。(略)今や、会社も社員も社外に目を向け、自分がどのような環境の中で仕事をしているのか全体像をつかんでおく必要がある。(118p)
●このような守りの姿勢の前提となるのは「どうせ社員には『非公開』と『機密』の違いが理解できない」という認識だ。その考え方には問題がある。(131p)
●アライアンスの基本理念を思い出してほしい。「会社はあなたのキャリアを一変させる手助けをする。あなたは会社を変革させ、より環境に適応できるよう力を貸してほしい」(144p)
●「『卒業生』ネットワークの集りには、経営幹部が誰か一人は必ず出席します。その幹部は通常30分から40分の『アスク・ミー・エニシング(何でもきいて)』コーナーを設け、ハブスポットに関するあらゆる質問に答えるのです。『今一番心配なことは何ですか?』とか『顧客は離れていっていませんか?』なんて質問もあります」(172p)
●職場という小宇宙での人間関係を改善することは、社会全体に大きなインパクトを与える可能性がある。プロジェクトからプロジェクトへ、部署から部署へ、会社から会社へ、とその影響は波及していく。(略)しかし、この(アライアンスのような)「小さなこと」は誰もが今日から取り入れることができ、いずれ積み重なって大きなリターンを我々にもたらしてくれるはずだ。(176p)
8 「卒業生」ネットワークを活かすには―効果的に導入するためのコツとテクニック

●目次
1 ネットワーク時代の新しい雇用―職場に信頼と忠誠を取り戻す「アライアンス」とは
2 コミットメント期間を設定しよう―アライアンスは仕事の内容と期間を定める
3 コミットメント期間で大切なもの―社員と会社の目標および価値観をそろえる
4 変革型コミットメント期間を導入する
5 社員にネットワーク情報収集力を求める―社員を通して世界を自社内に取り込む
6 ネットワーク情報収集力を育てるには―社員の人脈を伸ばすコツと戦術
7 会社は「卒業生」ネットワークをつくろう―生涯続く個人と会社のアライアンス関係

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「組織学習論の父」アージリスの代表作。行動科学的組織論の準古典的著作。

組織とパーソナリティー アージリス2.jpg組織とパーソナリティー アージリス1.jpg アージリス.jpg Chris Argyris: 1923-2-2013
組織とパーソナリティー―システムと個人との葛藤 (1970年)

 本書は、マグレガーやリッカートと並び、行動科学的組織論を代表する 1 人であるアージリス(Chris Argyris: 1923-2013)の著書(Personality andOrganization-The conflict between system and the individual, 1957)であり、表題にもあるように、人間のパーソナリティを土台としながら、組織内における個人と組織との間にある葛藤状態をどのように解決するかを主題としています。

 第1章「本書の基本的仮定と見解」では、組織のうちにある人聞の行動を知るためには、 ①個人(パーソナリティ)、②非公式な小集団、③公式組織に関する諸要困を総合したうえで、組織全体を把握する必要があるとし、経営者は、自己の善悪、原理および人間関係の技量を判断するに足る人生観を持つ必要があるとしています。本書の目的は、企業のような人間組織の中における人間行動の基本的な原因(なぜ人々はそのように行動するのか)を解明することであり、人間状況の正しい診断には、最上の知識の利用が必要であって、体系的な枠組みを用いて、人々の行動を理解するためのヒントを与えることが本書の目的であるとしています。、

 第2章「人間のパーソナリティー」では、①パーソナリティの部分は全体を維持し、全体は部分を維持する、②組織は、同時的に動的な対内対外の平衡を表示する、③パーソナリティは活動力(エネルギー)を表示する、④心理的活動力の源は欲求に中にある、⑤パーソナリティは多くの能力を持っている、⑥パーソナリティは「自我」として概念化されている、⑦防衛機能は脅威に対して自我を守る、⑧成長の意味はわれわれの「私的世界」ととその部分とにおける増大であるとし、⑨パーソナリティの基本的な自己実現の傾向を示しています。つまり、個人のパーソナリティは、個々の要素が単に部分的に合計されたものではなく、全体的な関連の中に把握されなければならないと。パーソナリティが内面的に均衡がとれていることを「適応」、外部環境と均衡を保っていることを「順応」、個々の環境の中で、それぞれに適応し、順応して均衡が維持されている状態を「統合」しているといい、統合状態のもとで目的を達成することにより「自己実現」が達成されるとしています。人間は自己実現に向けて努力をするが、自己実現の欲求が目的を達成しようとするエネルギーの源泉として作用し、このエネルギーを生理的エネルギーに対して心理的エネルギーと言うと。心理的エネルギーはあらゆる人間に存在し、人間である限りは必ず表出し、しかもその量は個人の心的状態によって左右され、こうして形成された個々のパーソナリティを「自我」と呼び、人間はさまざまな環境との対応の過程で自我を適応・順応させることによってパーソナリティを成長させていくとしています。

 第3章「公式組織」では、①公式組織は合理的な組織であり、②課業分化、命令の連鎖、指令の統一、管理の限界などの基礎原理を有するが、③成熟したパーソナリティの欲求と公式組織の間には、基本的な不適合があるとしています。例えば、仕事を専門化することは、個人の能力の一部分しか用いられないことになり、個人は未成熟なものとして捉えられることになり、また、命令の系統によって、人間は上位の管理者に従属的・受動的にならざるを得ず、さらに指揮の統一も個人の自発的な目的設定にはなり得ないし、管理範囲の原則は、末端の個人にとっては自己の統制範囲を狭めることになるとしています。その結果、組織内で自己実現を達成することが困難となり、人間は欲求不満、葛藤、失敗感、あるいは近視眼的な視野に立たざるを得なくなるとしています。

 第4章「個人の順応と集団の順応」では、そうしたフラストレートされた状況において個人(従業員)が取る行動のパターンを挙げ、基本的には、個人のとるべき行動は組織を去るか、順応するか、意識や価値観を変えることしかないが、組織内で仕事を続けることが一般的な選択肢であるとすれば、人間は組織に対して順応行動を取りながら、インフォーマルな集団を形成し、依存するようになるとし、例えば労働組合の形成は、インフォーマルな集団が公式化したものであるとしています。

 第5章「経営者の反応とそれが従業員に加える衝撃」では、生産性の低下を防ぐために経営者が従業員に対する経営方針としての、①より強力で「ダイナミックな」リーダーシップの発揮、②従業員の行動に対するより厳格な統制、③従業員を人間的な取り扱い方をしようとする一時的な「人間関係論」的な近づき方、のそれぞれについて、それらが従業員に与える影響を考察し、これらは根本的な問題を解決するかわりに、組織の問題を増やす傾向にあるとしています。

 第6章「第一線監督者」では、こうした従業員と経営者という二つの世界の分断の中、二つの世界を繋ぐ鎖となるべき中間層にいる第一線監督者(フォアマン)は、両方の世界の板挟みになって葛藤し、フラストレーションがたまり、さらに労働組合の介入によって、その権力と地位の多くを失いつつあるとしています。この問題に対して経営者は、フォアマンを経営者に一部にするなどの対策を取るが、多くのフォアマンにとってそれは、さらに緊張を増すものになりかねないとしています。

 第7章「公式組織と健全な個人との間の不一致の度合いを減少させるには」では、公式組織において個人が葛藤や欲求不満に順応するようにするにはどうすればよいかを説いています。そして、個人と組織との軋轢を解決する手段として「職務拡大」と「参加的リーダ ーシップ」(「従業員中心的リーダーシップ」)の導入を主張しています。「職務拡大(job enlargement)」とは、仕事の流れに従って、作業者が遂行する職務の数を増加させることにより、職務の幅を拡げることで、職務の水平的拡大とも言われ、作業者にまとまりのある職務を割り当てることによって、各自の職務に自己完結性を持たせようとするものであり、「参加的リーダーシップ」とは、すべてのメンバーが方針決定や将来の活動についての議論に参加することを許し、メンバーが自分自身の職務上の立場を決定することを容認するといった従業員の自己実現を許容するリーダーシップを指します。

 第8章「効果的な経営者行動の啓発」では、効果的なリーダーシップ行動とは、個人と組織の両方が同時に最適の自己実現を得られるようにするものであるとして、そのための経営者の行動を啓発するためのヒント、並びに経営者を啓発させる専門スタッフがとるべき行動を示しています。

 第9章「要約と結論」では、要約と結論として10の命題を掲げ、それらは、①健全な個人の欲求と公式組織の要請との間に適合欠如がみられる、②この混乱の結果は、欲求不満、失敗、短期間の展望および葛藤である、③ある条件のもとでは、欲求不満と失敗と短期間の展望と葛藤との度合は増大する傾向にある、④公式組織の持つ本質は、どのような階層にある部下にも、競争と対抗と部下相互間の敵意を経験させ、また全体よりもむしろ部分へ眼を向けることを助長させる原因となる、⑤従業員の順応行動は自己統合を維持し、公式組織との統合を阻害する、⑥従業員たちの順応行動は、累積的効果を持っており、組織の中へフィードバックし、また順応行動自体を強化する、⑦ある種の経営者の反作用は、順応行動の底に横たわっている敵意を増大しがちである、⑧その他の経営者の行為は、個人と公式組織との間の間の不適合を減少することができる、⑨職務拡大あるいは役割の拡大と従業員中心のリーダーシップとは、順応行動(命題③~⑥)が組織の文化と個人の自己概念との中に深く留まる程うまくいかないであろう、⑩命題⑨の中に含まれる困難は、現実志向のリーダーシップを用いることによって最小限にしうることができるであろう、となっています。

本書は、「組織学習論の父」とも称される著者による、組織と個人の関係をパーソナリティの観点から明らかにしょうとした野心的労作ということができ、行動科学的組織論の準古典的著作でもありますが、公式組織の捉え方などについて偏りがあるとの批判もある一方で、今日においてもその内容に多くの普遍性があります。かなり"堅め"の内容の本ですが、ここは頑張って自身で手にし、そうした内容を確認してみるのもよいでしょう。

《読書MEMO》
●パーソナリティ成長の過程(マチュリティ(成熟度)理論)(p88~89)
(1)受け身の状態から能動的になっていく傾向
(2)他人に依存する状態から独立した状態に発展する傾向
(3)数少ない仕方でしか行動できない状態から,多様な仕方で行動できるようになる傾向
(4)その場限りの浅い関心から,より深い興味を持つようになる傾向
(5)短期の展望から長期の展望へと発達する傾向。
(6)家庭や社会での従属的な地位から,同僚に対して同等あるいは上位に位置したいという傾向
(7)自己意識が欠如した状態から,自己を意識し,コントロールしようとするようになる傾向
●従来の伝統的組織論が,人間のパーソナリティの成長に及ぼす問題点を(p100~109)
(1)仕事の専門化
(2)命令の系統
(3)指揮の統一
(4)管理の範囲
●フラストレートされた状況において、個人(従業員)がとる行動のパターン(p125)
(1)組織を去る。
(2)出席し社長になるため一生懸命働く。
(3)自我を守り、防衛機構によって順応する。
(4)仕事の目標を下げたり、無力感・無関心になって順応する。
(5)(4)の結果、人間は物的報酬により大きな価値を置くようになる。(6)自分の子どもに対して、仕事上の満足を期待しないで、よい賃金や仕事以外の生活に期待するように教える。

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近年大きく発展している労働法の骨格・背景を描き、「読む教科書」として"優れモノ。

労働法入門 新版 (岩波新書.jpg 『労働法入門 新版 (岩波新書 新赤版 1781) 』['19年]

『労働法入門 新版』図1.jpg 本書は、労働法の基礎知識を解説した初版を、働き方改革関連法の施行開始を受けて8年ぶりに改訂したもので、「働き方改革」その他の法改正や最近の判例なども盛り込み、近年大きく発展している労働法の骨格とその背景を描きだすことを狙いとしたものであるとのことです。

 まず第1章「労働法はどのようにして生まれたか」では、労働法の誕生と発展の歴史を追うとともに、安倍内閣の「働き方改革」の趣旨と背景について解説しています。ここでは、働き方改革は、日本的雇用システムがもたらした社会的弊害の解消という側面とともに、日本経済に生産性・成長力の底上げとその成果の労働者への公正な分配によって成長と分配の好循環を実現するという安部政権の経済政策(所謂「アベノミクス」)としての側面を持つとしています。

 第2章「労働法はどのような枠組みから成り立っているのか」では、「法」とは何かということから説き起こし、人は何を根拠に他人から強制されるのか、労働法の「法源」について解説しています。その法源は、法が権利と義務の体系であるとすれば、1つは「契約(労働契約)」であり、もう1つは「法律(労働基準法などの強行法規)」であるが、さらに労働法に固有の法源として労働協約と就業規則があり、日本の労働法の体系は、①法律(強行法規)、②労働協約、③就業規則、④労働契約の4つの法源から成るとしています。そして、日本の労働関係の特徴として、①共同体的性格と②就業規則の重要性の2点について述べています。

 第3章から各論に入ったと言え、第3章「採用、人事、解雇は会社の自由なのか」では、雇用関係の展開と法について取り上げ、雇用関係の終了(解雇―解雇権濫用法理、整理解雇法理、退職勧奨、有期労働の雇止め法理等)、成立(採用―採用内定・内々定、試用期間、求人詐欺等)、展開(人事―人事権の一般的な規制枠組み、査定、昇進・昇格・降格、配転・出向・転籍、休職、懲戒処分等)について解説しています。

 第4章「労働者の人権はどのようにして守られるのか」では、労働者の人権の保護(雇用差別・障害者差別の禁止、正規・非正規労働者間の待遇格差の禁止、ハラスメントなどのいじめ・嫌がらせからの保護、内部告発の保護等)について解説しています。

 第5章「賃金、労働時間、健康はどのようにして守られているのか」では、労働条件の内容と法の関係を取り上げ、賃金(就労不能時の賃金、賞与や退職金の不支給規定、賃金引き下げ、最低賃金、政府による未払い賃金の立替え払い制度等)、労働時間(法定労働時間・休憩・休日の原則、名ばかり管理職問題、時間外・休日労働の要件及び割増賃金、高プロ・裁量労働制度、休暇・休業制度と不利益取り扱いの禁止、労働安全衛生、労災補償、過労死と過労自殺等)について解説しています。

 第6章「労働組合はなぜ必要なのか」では、労使関係をめぐる法について取り上げ、労働組合の存在意義と労働組合制度にまつわる基本的知識(団体交渉と労働協約、団体行動権の保障、不当労働行為の禁止等)及び日本の労働組合(企業別労働組合)の強みと弱みを解説しています。

 第7章「労働力の取引はなぜ自由に委ねられないのか」では、、労働市場を巡る法律について取り上げ、労働者派遣事業や職業紹介事業の法規制、雇用の促進のためのいわゆる雇用政策法について解説するとともに、日本の労働市場法をめぐる課題として、派遣労働者の雇用の安定と待遇の改善(多様な社会実態にあったセーフティネットの構築)、これまで企業内教育システムの対象とされてこなかった非正社員の教育訓練(政府がそれを制度的に促していく取り組み)の2点を指摘しています。

 第8章で「『労働者』『使用者』とは誰か」では、労働関係の多様化・複雑化と法について取り上げ、労働法における「労働者」の適用範囲は、労働基準法、労働契約法、労働組合法などで異なるとともに、労働法上の責任追及の相手となる「使用者」の範囲も同様に異なることを解説し、労働関係が多様化・複雑化するなかで、「労働者」や「使用者」という概念を再検討すべきときにきているのではないかとしています。

 第9章「労働法はどのようにして守られるのか」では、労働紛争解決のための法を取り上げ、労使の話し合いによる紛争の解決と行政による紛争の解決、最後の拠り所としての裁判所とその前の段階としての労働審判について解説しています。日本の労働紛争解決制度の最大の問題点は、実際の労働の現場では、紛争が数多く起きているにもかかわらず、裁判所の利用者数が欧米諸国に比べ圧倒的に少ないことであるとし、その他の選択肢も含め、労働者が問題を抱えたときどこに相談すればよいかを示しています。

 第10章「労働法はどこにいくのか」では、労働法の背景にある変化とこれからの改革に向けて述べています。ここでは、日本の労働法をめぐっては、労働法の対象となる労働者像が「集団としての労働者」から「個人としての労働者」へと転換しつつある中、「個人」としての労働者に視点を移して個別の労働契約をサポートする方向に進むべきであるとする見解と、人間らしい労働条件の実現のためには「国家」による法規制が重要であるという見解が存在しているとする一方、その中間にある「集団」というものに着眼し、労働組合、労働者代表組織、非営利団体等の「集団」的な組織とネットワークによる問題の解決・予防がこれからの労働法の重要な課題だとしています。国家」「個人」「集団」のそれぞれの役割を述べつつ、これからの労働法は、これらの適切な組み合わせが求められるだろうとしています。

 全体としては、タイトル通りのオーソドックスな「入門書」と言えるのではないでしょうか。人事パーソンの立場からすれば実務書というより教養書の類になるかと思いますが、労働法にある程度は通暁していると思われる人が読んでも、"復習"を通して、新たな知見が得られるものと思われます。旧版もそうでしたが、「読む教科書」として手頃な"優れモノ"であると思います。実務面でより深く学びたい読者は、ゼミナールテキスト形式で書かれた、同著者の『労働法』(有斐閣)などに読み進むのもよいでしょう。

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「簡単に辞めないほうがトク」と思わせる風土作りの重要性とその施策を説く。

連鎖退職 (日経プレミアシリーズ).jpg              なぜ、御社は若手が辞めるのか.jpg
連鎖退職 (日経プレミアシリーズ) 』['19年]『なぜ、御社は若手が辞めるのか (日経プレミアシリーズ) 』['18年]

 前著『なぜ、御社は若手が辞めるのか』(2018年/日経プレミアシリーズ)で、社員が定着するためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った著者が、今度は、ある一人の退職を皮切りに次々と社員が辞めてしまう「連鎖退職」を取り上げ、その起きる原因と、予防策や起きた際の対処法を探ったものです。

 まえがきで、同じ組織、同じ部署で、1人の退職が2人、3人の退職につながり歯止めが利かない「連鎖退職」は、その原因が掴めず、うまく対策を講じられないでいるうちに、組織にとって致命的な人数の退職者が出てしまい、最悪、経営が危うくなるといった事態にも追い込まれるとしています。

 そのうえで、連鎖退職はどんな組織や職場で起こりやすいのか、きっかけになる出来事とは何か、連鎖退職によって職場や組織、さらには同僚、本人自身に至るまでどのような影響を受けるのかについて、企業の人事部門、連鎖退職をした社員、連鎖退職状況の中でも辞めずにとどまった社員、転職者と会社を結びつけるプロである人材紹介会社の法人営業などに聞き取りを行い、多面的な観点から、連鎖退職の実態を探ったとしています。

 第1章「連鎖退職はこうして起こる」では、連鎖退職が起こるきっかけ、連鎖退職とは何か、連鎖退職のパターン、連鎖退職が起こりやすい組織・職種、連鎖退職が生む組織への悪影響など、連鎖退職にまつわる諸問題について、総論的・概括的に解説しています。ここでは、連鎖退職は「同調行動」のひとつのパターンであるとして、中小企業やベンチャーで起こりやすい「ドミノ倒し型」と、大企業で起こりやすい「蟻の一穴型」の2つパターンを解説しています。前者は、1人かけることで残ったメンバーに負荷がかかり、さらなる退職を誘発させるのに対し、後者は、1人の退職をきっかけに潜在化していた職場の不満が顕在化し、次々に退職者が出る状況を指しています。

 第2章「どんな人が「危ない」のか?」では、実際に連鎖退職などをした人やその周囲の人への聞き取りをもとに、連鎖退職の実態に迫っており、第3章「そのとき上司・同僚は」では、連鎖退職が起きた職場の管理職と同僚への聞き取りをもとに、彼ら彼女らの思いや動向を紹介しています。 

 第4章「予防のために、会社と管理職にできること」では、連鎖退職を起こさないためには、組織全体として「簡単に辞めないほうがトク」と思わせるような風土作りが必要であるとし、組織や管理職にできる、いわば平時の対策として、以下10項目を挙げています。
 1.採用前の詳細な説明・情報提供
 2.採用基準自体の変更
 3.定期的な配置転換
 4.報酬(給与・賞与)の分配に関する方針(成果主義等)
 5.残業・長時間労働削減等
 6.(社員に対する)評価の仕方や方針
 7.福利厚生(ワークライフ・バランスへの配慮等)
 8.キャリア形成支援のための施策・方針(メンター制度・提案制度等)
 9.ハイパフォーマー、ハイタレント人材の定着
 10.業務の改善

 また、学習機会の提供や日ごろからのキャリアのすり合わせができる関係の構築などが挙げられています。さらに、各部署でできること、人事部門と部署の管理職が連携して行わなければならないことなどを挙げ、ヨコだけでなく、タテ、ナナメのコミュニケーションの強化をはかるべきであるとして、そのための施策も挙げています。

 第5章「一人の退職を「蟻の一穴」にしないために」、第6章「被害を最小限にするには」では、実際に退職者が出た後の、さらには連鎖退職が起きた際の、組織のトップや管理職向けの連鎖退職対策をまとめています。 

 前著同様、調査データや退職者および周囲の関係者の生の声をもとに課題を抽出・整理しているため、シズル感があって分かりやすく、説得力もあります。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなかったようにも思いました。

 基本的には、リテンション・マネジメントを説いている点で、前著の続編という感じだったでしょうか。全体を通して、「簡単にやめない方がトク」と思わせる組織づくりというのが1つポイントになるかと思いましたが、そのための施策は、どれもまさに組織風土改革に連なるのであり、どれか1つやってみるのもいいですが(わかっていても出来ていないことも多い)、複合的に機能させていく必要もあるのだろうと思いました。そうした意味で本書は、実務書であると同時に啓発書であったかもしれません。

《読書MEMO》
●目次
まえがき 連鎖退職がやってきた
第1章 連鎖退職はこうして起こる
第2章 どんな人が「危ない」のか?
第3章 そのとき上司・同僚は
第4章 予防のために、会社と管理職にできること
第5章 一人の退職を「蟻の一穴」にしないために
第6章 被害を最小限にするには
おわりに 連鎖退職をプラスの連鎖に変えていくには

「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3327】 上林 憲雄/平野 光俊 『日本の人事システム

人事の"スタンダード"を押さえる一方で、近年注目のテーマにも触れているのが良い。

人事労務管理入門塾.jpg 『基本と実務がぜんぶ身につく人事労務管理入門塾』['19年]

 人事労務管理に頻出する100のトピックを12のテーマに分類し、塾の授業のイメージで解説した本です。12のテーマとは、1.人事戦略、2.人と組織、3.採用・雇用、4.人材育成、5.労務時間管理、6.配置・異動、7.管理職・専門職、8.処遇体系、9.人事評価、10.賃金管理、11.退職管理と退職金・年金、12.福利厚生であり、これらが第1限から第12限までの"授業"として割り振られています。

 著者自身が述べているように、人事労務管理の対象領域は広く、本書ですべての分野を網羅しているわけではありませんが、重要なテーマはかなりカバーされているように思います。また、内容的にも、基本と実務の両方の観点から現時点での人事の"スタンダード"を押さえる一方で、近年注目を集めているテーマにも触れているのが良いと思いました。

 第1限「人事戦略」と第2限「人と組織」で、人事労務管理の基礎について解説していますが、トピックとして「タレントマネジメント」を取り上げたり、「組織文化」とは何かということにまで言及したりしています。

 第3限「採用・雇用」や第4限「人材育成」においてもそれぞれ、人員計画とは何か、人材育成とは何かという基本から入り、「ジョブ・リターン制度」や「サクセッション・プラン」といったトピックにも触れています。

 第5限「労働時間管理」は、主に労働基準法関連の解説になりますが、「勤務インターバル制度」「高度プロフェッショナル制度」といった直近のトッピクについても解説しています。

 以下、第6限「配置・異動」から第12限「福利厚生」まで、まず基本を押さえたうえで、必要に応じて事例なども交え、実務に踏み込んだ解説がなされています。例えば、第8限「処遇体系」には「役割等級制度とは」、第9限「人事評価」には「ノーレティングとは」、第10限「賃金管理」には「定額残業制とは」何かといったトピックもあります。

 各限の終わりには「要点確認テスト」が付されており、テーマに関する内容がどれくらい理解できているか、簡単なチェックができるようになっています。キャッチコピーに「初任者からベテランまで使える!」とありますが、初任者や若手に限らず、ベテランの人事担当者も"腕試し"してみてはどうでしょうか。

著者が述べているように、各限は独立した内容であるためどこから読んでもよく、また、一通り目を通した後、手元に置いて参考書代わりに使ってもいいのではないかと思います。

 「人事」の"答え"は必ずしも1つではなかったりする点に、人事の仕事の難しさがあったりもするかと思いますが、だからこそ、その基本を押さえ、かつ、その動向に目を配ることが求められるのではないかと思います。そうしているうちに、人事の仕事がより面白く感じられるようになることもあるかもしれまません。初任者、若手、中堅からベテランまで、人事パーソンに広くお薦めしたい本です。

《読書MEMO》
●目次
第1限 人事戦略
 TOPICS 1 人事戦略とは
 TOPICS 2 グループ人事戦略とは
 TOPICS 3 人材・雇用ポートフォリオ戦略とは
 TOPICS 4 人事部の機能・役割とは
 TOPICS 5 人事制度改革とは
 TOPICS 6 人事制度の効果測定をどう進めるか
 TOPICS 7 タレントマネジメントとは
 要点確認テスト
第2限 人と組織
 TOPICS 8 職務満足に影響を与える要因とは
 TOPICS 9 従業員満足度調査とは
 TOPICS 10 動機付け理論とは
 TOPICS 11 社員の公平感を高めるには
 TOPICS 12 リーダーシップとは
 TOPICS 13 組織構造とは
 TOPICS 14 組織文化とは
 要点確認テスト
第3限 採用・雇用
 TOPICS 15 人員計画とは
 TOPICS 16 人材の募集方法にはどのようなものがあるか
 TOPICS 17 採用選考の方法にはどのようなものがあるか
 TOPICS 18 ジョブ・リターン制度とは
 TOPICS 19 多様な正社員とは
 TOPICS 20 雇用・労働契約と請負・委任契約の違いとは
 要点確認テスト
第4限 人材育成
 TOPICS 21 人材育成とは
 TOPICS 22 OJTを効果的に進めるには
 TOPICS 23 Off-JTにはどのようなものがあるか
 TOPICS 24 自己啓発を促すには
 TOPICS 25 キャリア形成支援策とは
 TOPICS 26 サクセッションプランとは
 要点確認テスト
第5限 労働時間管理
 TOPICS 27 法定労働時間と所定労働時間の違いとは
 TOPICS 28 法定休日労働と所定休日労働の違いとは
 TOPICS 29 適正な労働時間管理とは
 TOPICS 30 変形労働時間制とは
 TOPICS 31 フレックスタイム制とは
 TOPICS 32 事業場外労働のみなし労働時間制とは
 TOPICS 33 裁量労働制とは
 TOPICS 34 年次有給休暇とは
 TOPICS 35 年次有給休暇の取得促進策とは
 TOPICS 36 勤務間インターバル制度とは
 TOPICS 37 高度プロフェッショナル制度とは
 要点確認テスト
第6限 配置・異動
 TOPICS 38 配置・異動における注意点とは
 TOPICS 39 出向・転籍における注意点とは
 TOPICS 40 ジョブローテーションとは
 TOPICS 41 自己申告制度とは
 TOPICS 42 社内公募制、社内FA制とは
 要点確認テスト
第7限 管理職・専門職
 TOPICS 43 複線型人事管理制度とは
 TOPICS 44 管理職の機能・役割とは
 TOPICS 45 専門職の機能・役割とは
 TOPICS 46 管理職・非管理職、組合員・非組合員の線引きの違い
 TOPICS 47 役職定年制と役職任期制の違いは
 TOPICS 48 抜擢人事と飛び級の違いは
 要点確認テスト
第8限 処遇体系
 TOPICS 49 昇進と昇格の違いは
 TOPICS 50 昇格審査はどのように行われるか
 TOPICS 51 昇格試験にはどのようなものがあるか
 TOPICS 52 降格制度とは
 TOPICS 53 等級制度とは
 TOPICS 54 職能資格制度とは
 TOPICS 55 職務等級制度とは
 TOPICS 56 役割等級制度とは
 要点確認テスト
第9限 人事評価
 TOPICS 57 人事評価の機能・役割とは
 TOPICS 58 人事評価体系にはどのようなものがあるか
 TOPICS 59 人事評価の項目別ウエートをどのように設定するか
 TOPICS 60 目標管理とは
 TOPICS 61 目標設定を適切に進めるには
 TOPICS 62 目標管理以外の方法で成果を評価するには
 TOPICS 63 能力や情意、行動をどのように評価するか
 TOPICS 64 コンピテンシーとは
 TOPICS 65 相対評価、絶対評価とは
 TOPICS 66 評価段階を設定する際の留意点とは
 TOPICS 67 人事評価のサイクルとは
 TOPICS 68 多面評価とは
 TOPICS 69 評価結果のフィードバックはどのように行うか
 TOPICS 70 評価者研修を行う際の注意点とは
 TOPICS 71 人事評価のエラーとは
 TOPICS 72 ノーレーティングとは
 要点確認テスト
第10限 賃金管理
 TOPICS 73 所定内賃金と所定外賃金とは
 TOPICS 74 定期昇給・ベースアップとは
 TOPICS 75 賃金カット、ベースダウンを行う際の留意点とは
 TOPICS 76 初任給の水準とは
 TOPICS 77 基本給の機能と種類
 TOPICS 78 諸手当の機能と種類
 TOPICS 79 賃金表にはどのような種類があるか
 TOPICS 80 定額残業制(固定残業手当)とは
 TOPICS 81 年俸制の意義と仕組みとは
 TOPICS 82 業績連動型賞与とは
 TOPICS 83 報奨金制度を導入する場合の注意点とは
 TOPICS 84 ストックオプション制度とは
 TOPICS 85 同一労働同一賃金とは
 要点確認テスト
第11限 退職管理と退職金・年金
 TOPICS 86 定年退職とは
 TOPICS 87 定年引き上げ、継続雇用制度とは
 TOPICS 88 退職金・年金の機能とは
 TOPICS 89 ポイント制退職金とは
 TOPICS 90 確定給付企業年金とは
 TOPICS 91 確定拠出年金とは
 TOPICS 92 中小企業退職金共済制度とは
 TOPICS 93 退職金前払い制度とは
 要点確認テスト
第12限 福利厚生
 TOPICS 94 福利厚生とは
 TOPICS 95 法定福利費、法定外福利費とは
 TOPICS 96 住宅支援施策にはどのようなものがあるか
 TOPICS 97 業務・通勤災害に対する法定外補償制度とは
 TOPICS 98 休暇支援制度にはどのようなものがあるか
 TOPICS 99 カフェテリアプランとは
 TOPICS 100ライフプランセミナーとは
 要点確認テスト
事項索引

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「一歩先の未来の人事」だが、やがて多くの企業が直面することになるであろうテーマでもある。

トップ企業の人材育成力.jpg 『トップ企業の人材育成力 ―ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』['19年]

 「どうすれば優秀な人材を獲得できるか」「どうすれば一流の人材に育てられるか」「どうすれば強い会社組織を開発・構築できるか」「どうすれば人事は経営からの問いに答えられるか」―本書は、人事の総論から始まり、人材育成、採用、組織開発、HRテクノロジー、HRツール・ベンダー・コミュニティの活用までのHR戦略について、それぞれのビジネスシーンで実践しているスペシャリスト8名が、最前線の状況および将来の展望を述べたものです。6名による6章の人材論に2名のコラムを加えた形になっていますが、編者自身「どこから読んでもいい」としている通り、各章とも独立性の高い内容となっています。

 第1章では編者による「総論」として、経営と人事はベストパートナーでなければならないとしています。そして、人事施策を本当に実現させるためには「社内広報(信頼)」の視点が必要不可欠であるとし、エンゲージメントを左右するものは何か、経営レベルに必要な人事の「企画力」とは何かを解説、さらに、経営の右腕となるCHRO(最高人事責任者)の必要性を説くとともに、「HRテクノロジー」の将来を予測しています。

 第2章では実務家による育成論として、人材育成の「暗黙知」を「形式知」に変えるアプローチについて解説しています。本書サブタイトルにもある、ヒトは「育てる」のか「育つ」のかという問いはよく発せられますが、ここでは、ヒトは「育てる」ことで「育つ」という立場に立ち、「HRテクノロジー」を活用することで「育てる」と「育つ」のそれぞれを紐解くとともに、「ヒト×AI」により、人材育成の未来はどうなるかを考察しています。

 第3章では人事担当者がトップ企業の「採用」について述べていて、採用の成功とは「事業の成功」と「従業員の自己実現」を両立させる状態をさすとしています。また、一流の採用担当者が持っている要素とは何かを解説するとともに、人事は、採用したいターゲットのCX(Candidate Experience=「候補者体験」)が良いものとなるよう設計する、プロデューサーであるべきだとしています。

 第4章では「組織開発」の専門家が、組織開発とは何かを解説しています。また、「組織開発は、何からすればいいのか?」と悩む読者に対して、3Pと呼ばれるフレームを使うことを推奨しており、3Pマネジメントとは、Profession(職務)、Performance(評価)、Philosophy(理念)の3つを設計・運用することであるとしています。また、人事部門の再編成も必要であり、ファンクション型(採用チーム、育成チーム、評価チームなどに分かれた機能別組織)から脱し、一気通貫型(戦略人事)を経て、バックキャスト型(あるべき姿からの逆算)への機能変質していくべきであるとしています。

 第5章では「HRテクノロジー」の専門家が、HRテクノロジーを適切に使いこなすための、COBIT(Control Objectives for Ìnformation and Related Technology)というITガバナンスの成熟度を5段階のモデルで測るフレームワークを紹介しています。ここでは、実際にHRテクノロジーを導入した事例で、COBITの成熟度モデルがどのように変化したかを見ています。

 第6章では、ITテクノロジーによる就活支援を行っている会社のPR担当者が、HRツール、ベンダー、コミュニティの今後を展墓しています。ここでは、ツール、ベンダー、勉強会など、何から始めていいのか分からない人事担当者や、人事向けコミュニティを始めることを検討している会社向けの助言もなされています。

 読んでみて、いずれも、「一つ先の未来の人事」について書かれているとの印象を受ける一方で、やがて、多くの企業が直面することになるであろうテーマを扱っているようにも思いました。また、非常にコンセプチュアルな内容である一方で、明日から意識して行動に起こせるような示唆もあったように思います。

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海外赴任者に対するコーチング的な指南書だが、一般のリーダーにとっても示唆的?

「トランジション・マネジメント」1.jpg「トランジション・マネジメント」2.jpg 『グローバルリーダーのための「トランジション・マネジメント」 海外駐在で成功するための条件』['19年]

 本書は、プロフェッショナル・コーチとして、数多くの海外赴任者の赴任前・赴任中・帰任後のサポートをしてきたという著者が、その経験を踏まえ、海外赴任者が異文化環境に適応していく過程であるトランジション(移行)をうまく進め、グローバルリーダーとしてのパフォーマンスを十分に発揮するにはどうすればよいかを解説したものです。

 第1章では、海外に赴任して異文化環境に適応し、パフォーマンスを十分に発揮できる状態になるまでのプロセス(=トランジッション)には、赴任したての「ユーフォリア期」、異文化に溶け込めずに苦しむ「カルチャーショック期/回復期」、環境に合った新しいスタイルを身に着けて自信がつく「適応期」、帰任後の元の文化に戻る際の「逆カルチャーショック期」の4つのフェーズがあり、グローバルリーダーは必ずこのトランジションの旅路を歩み、また、トランジションは成長のチャンスでもあるとしています。

 第2章では、トランジションを成長につなげるカギは「自分との対話」と「他者との対話」であり、「自分との対話」は、不安定なトランジション・プロセスを違う視点から見つめ直すことを助けてくれ、「他者との対話」は、「リスクの回避」だけでなく、「可能性性の追求」も可能にするとしています。

 第3章では、そうした「対話」を効果的にするために赴任前に取り組むべきこととして「自己認識」を挙げ、なぜ「自己認識」がグローバルリーダーにとって重要なのか、「自己認識」を高めるにはどうすればよいのかを説いています。

 第4章では、赴任後に待ち受ける4つのトランジションの、それぞれのフェーズでどのような「対話」が求められるかを解説しています。まず、「ユーフォリア期」には、「ミッション・ビジョン」を明確にすることが、「カルチャーショック期/回復期」には、サポート環境を築くことが求められるとしています。また「適応期」には、現地スタッフとの「共生関係」を築くことが、「逆カルチャーショック期」には、「対話」によって葛藤を乗り越え、新たな「物語」を描き直すことが必要になってくるとしています。

 最後の第5章では、トランジション期の葛藤や混乱こそが成功のサインでもあり、トランジション期における自分自身や他者との繰り返しの「対話」は、関係性のつながり直しのプロセスとも言えるとしています。

 著者は、すべてのグローバルリーダーがコーチをつけることによって、成功確率が大きく変わると確信しているとのことです(確かにそうかもしれない)。しかしながら、現実には、コーチングという1対1の対話によるアプローチという特性上、コーチを受ける人は限られてくるため、本書が読者にとって「コーチ」の役割を担ってくれればうれしいとことですが、そうした思いは伝わってくる内容だったと思います。

 本来は1対1でコーチを受けるべきところを文章化しているため、何度か読まないと実感が湧きにくい面もありましたが(コーチングの本全般に言えることだが、読み手によって相性の良し悪しがあるかもしれない)、著者の実体験を含めた具体的なエピソードなどを通して語ることで、その点はかなりカバーできているように感じました。見方によっては、グローバルリーダーに限らず、リーダー全般にとって、自己認識や部下コミュニケーション等について考えるうえでの示唆を与えてくれる本であったと思います。

「●組織論」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3337】 宇田川 元一 『他者と働く

初学者向けテキストだが、基本的な知識から最近の動向までよく網羅している。

『組織行動論』.jpg 『組織行動論 (ベーシック+) 』['19年]

 本書は、組織と人の関わりや組織における人間行動の基本知識を体系的に解説したものであり、組織行動論の初学者を念頭に書かれたテキストですが、書かれていることは、日常生活のあらゆる場面で応用可能であると考えられるため、ビジネスパーソンをはじめ一般の読者にも読んでもらいたい本であるとのことです。

 全16章の構成で、第1章で、組織行動論とはどのような領域なのかを概説し、第2~7章で、組織の中での一人ひとりの心の動きや具体的な行動に関するトピックを取り上げています。次に、第8・9章で、チームや集団といった複数の人の存在を前提に解説し、第10~12章では、それよりもさらに大きな組織全体のトピックを扱っています。第13・14章では、組織と個人の接点に焦点を当て、第15・16章で、専門的な人材、女性、高齢者といった、日本企業における新たなプレーヤーに焦点を当てています。

 具体的には、第2章では、モチベーションについて、代表的なモチベーション理論を紹介し、第3章では、組織コミットメントについて、第4章では、組織内での意思決定のありようについて解説しています。このあたりは、組織行動論の基礎的な理解のために必要不可欠な知識であると思います。

 第5章では、職業経験としてのキャリアを組織と個人の双方からとらえ、どのようなキャリア・マネジメントが必要なのかを考察し、企業主導の画一的なキャリアではなく、従業員主導で多様なキャリアの構築が必要になってきていることを指摘しています、第6章では、組織内の職務に関する行動を、OCB(組織市民行動)という考え方をベースに説明し、第7章では、個人が組織内で感じるストレスが、個人の心理・行動に与える影響について解説しています。

 第8章では、チーム・マネジメントについて、チームにはどのようなタイプがあり、チームを成功に導く条件は何かを述べ、第9章では、リーダーとリーダーシップに関する基本的な考え方を説明しています。、

 第10章では、組織において知識・スキルの習得がどのように行われるかを、組織学習という概念を用いて説明し、第11章では、組織変革とは何かを、第12章では、組織文化とはどのようなものかを解説しています。

 第13章では、組織的公正について、従業員のモチベーションや組織の生産性に対して公正の認知が与える影響を考え、その重要性を説明し、第14章では、組織に新しく加入した人の行動を、組織社会化という概念で説明しています。

 第15章では、ダイバーシティ・マネジメントを取り上げ、ダイバーシティが注目される理由や、実際にダイバーシティ・マネジメントを行う際のポイントについて説明しています。第16章では、プロフェッショナルを取り上げ、プロフェッショナルとは何か、それをどうマネジメントするかを解説しています

 執筆陣の多くが若手研究者であることもあって、基本的な知識から最近の動向までよく網羅しているように思いました。こうしたテキストも、時代とともに少しずつ変わっていくのでしょう。また、読者に初学者を想定しているということもありますが、読みながら組織行動に関するイメージが描きやすいように書かれていると思いました。

 人事パーソンに求められる概念化能力とは、こうしたテキストを読んで概念的なものを理解するだけではなく、実際に組織内で起きていることからそのエッセンスを抽出して、統合的な概念としてテキストに照らし合わせ、その照合を通じて、諸事象に対する具体的な見方や行為に還元していくことではないかと考えます。そうした能力を養う上でも、こうしたテキストに触れてみるのは良いことだと思います(勉強会などを開催し、テキストとして用いるようなシチュエーションがベストか)。

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非正社員問題や同一労働同一賃金の議論の根底にあるものを見つめ直すのによい。

『非正社員改革』1.jpg『非正社員改革』.jpg 『非正社員改革』['19年]

 労働法学者である著者による本書では、「非正社員(非正規労働者)とは、不安定な雇用環境や賃金格差にさらされる可哀そうな労働者である」というイメージがマスコミ等により誇張されすぎているのではないか、そうした中で打ち出された同一労働同一賃金の原則は、一見正しいようでどこか落とし穴があるのではないか、という疑問を投げかけています。

 全4編8章から成る第1編「日本型雇用システムと正社員」の第1章では、なぜ法律には非正社員の定義がないのかを考察し、法律上は正社員と非正社員の格差はなく、パートタイムや有期は労働条件の一つにすぎないとしています。第2章では、統計調査の数字などから非正社員の実像を描き出し、企業はなぜ非正社員を活用するのか、労働者はなぜ非正社員として働くのかを考察、非自発的非正社員は言われているほどに多くはないが、彼らが不満を抱いているのも事実であるとしています。そして、日本型雇用システムの下では、非正社員は正社員の地位を補完する機能として存在してきたとしています。

 第2編「非正社員をめぐる立法の変遷」では、第3章で、日本型雇用システムは労使自治の産物であり、正社員の地位と非正社員の地位は労使が自主的に形成してきたものであるとしたうえで、私的自治を制限するための法律としての労基法の制定と、以降の、法律の足りない部分を補充する判例法理の形成や、私的自治を重視する見解や均等待遇を志向する見解などの学説の動向を振り返っています。第4章では、「消極的介入の時代」として、政府の構造改革政策や労働者派遣の自由化など、労使自治への介入を消極化(緩和)した諸策と、それによってワーキング・プアが増加し社会問題化したこと、2007年のパート労働法改正などにより公正な待遇の確保が求められるようになったこと、偽装請負などで労働者派遣に厳しい目線がそそがれるようになったこと、などの経緯を追っています。第5章では、「積極的介入の時代」として、2012年の派遣労働法改正で、派遣労働者の雇用の安定をはかるために規制が強化され、同年の労契法の改正では有期労働契約も規制がかって無期転換ルールなどが定められるなどし、さらに2018年のパート・有期労働法の制定などもあって、企業の採用の自由は否定され、私的自治の制限が近年は強化されているとしています。

 第3編「非正社員を論理的・政策的に考える」では、第6章で、採用の自由はどこまで制約してよいのかを考察し、2012年の労契法の改正は労働契約の締結強制にまで踏み込んだとし、有期労働契約の無期転換について、海外の法律ではそれを正当化するロジックがあるが、日本の場合はそういたロジックのない政策立法であったとして、その政策的妥当性を検証しています。そして、非自発的非正社員を減らすために、正社員を増やそうと企業に働きかけるという方向性そのものに再考が求められるとし、具体的には、正社員として採用されるに適した人材を育成するという、労働者側に着目した教育訓練を展開していくこと必要であるとしています。さらに第7章で、法は契約内容にどこまで介入してよいのかを考察しています。ここでは同一労働同一賃金について、日本型雇用システムにおける賃金決定のあり方は、同一(価値)労働に対して同一賃金を支払うものでないことを考慮すると、日本において、これを法的な原則として導入するという議論は、もとから的外れだった可能性が高いとしています。

 第4編「真の格差問題とは」では、第8章で、非正社員改革として必要なのは、企業の権限や自由を制限することではなく、非正社員と正社員の格差をもたらす原因である能力の格差をいかに縮めるかが重要なのだとしています。つまり、企業ではなく、労働者に働きかけて、格差が生じないように予防する政策こそが非正社員改革の肝となるとしています。また、第4次産業革命のなかで生じる格差も、新しい技術と共生する能力の違いから生じる可能性があり、デジタル技術を使いこなせるかどうかの格差が、今後の格差問題の中心になっていくかもしれないとしています。

 本書の特徴は、非正社員を日本型雇用システムの構成要素と位置づけたうえで、改革のための法政策の方向性を検討したところにあります。正社員と非正社員の格差は日本型雇用システムにおける労使自治の産物であり、また、契約自由の範囲内で生じたとしています。その意味で、法がそれに介入するのは望ましくないし、非正社員の問題に取り組むとしても、それは労使の手によって日本型雇用システムをトータルにみながら進められるべきものだったとしている点です。著者自身が述べているように、これまでの著者の本が、立法の不活動を打破するために、解雇の金銭的解決やホワイトカラー・エグザンプションなどの改革案を示したものであったのと比べると、立法の「過活動」を抑えるために、なぜ立法介入が必要なのか問い直しているという点で、ベクトルがこれまで逆向きであるのも特徴的です。

 個人的には、正社員と非正社員について、賃金格差よりも教育格差を問題視していることに共感しました。やや気になったのは、企業性善説に立っているように思われた点でしょうか。何れにせよ、非正社員問題や同一労働同一賃金の議論の根底にあるものを見つめ直すという意味で、人事パーソンが手にするにはいいのではないかと思います。

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AI時代の新しい働き方を予測し、その課題、何をしなければならないかを考察。

『会社員が消える』.jpg 『会社員が消える 働き方の未来図 (文春新書 1207) 』['19年]

 近年、副業解禁や解雇規制の緩和といった議論が進み、就職協定の廃止、高度プロフェッショナル制度導入などが進んでいます。また、近い将来AIが多くの業務を担うようになり、雇用が激減するのではないかとの見方もあります。本書は、こうした一連の流れを背景に、これからの雇用はどうなるのかを、労働法学者である著者が予測し、さらに現状の課題を指摘した本です。

 第1章では、技術革新はビジネスモデルを変えるとともに、仕事も変えるとしています。会社員の「棚卸し」が始まり、定型作業はAIに代替され、人間に残された仕事は創造的で独創的なものとなり、そうしたスキルを持つプロ人材と機械の協働の時代になるとしています。その結果、多くの雇用を抱える大企業は生まれにくくなり、企業中心の社会から、プロ人材がネットワークでつながる個人中心の社会になると予測しています。

 第2章では、そうした中、これまでの働き方の常識は通用しなくなり、日本型雇用システムも変わらざるを得ないだろうとしつつ、そもそも日本型雇用システムとは何かを振り返り、正社員の雇用はなぜ守られてきたのかを説明しています。さらに、プロ人材になるとはどういうことかを考察し、雇用は自分で守らなければならなくなり、個人に求められるのは、自分の能力を発揮できる転職先を見つける力であるとしています。

 第3章では、働き方の未来を予測しています。テレワークは、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方で、生産性が高まるメリットは大きいが、なかなか普及しない背景には法制度の壁があることを指摘しています。また、テクノロジーで従業員の健康状況を把握する"健康テック"にもメリット、デメリットがあるとし、さらに、人事にAIを導入する"HRテック"のメリット、デメリット、将来性などについても考察し、先端技術を活用してフリーで働くのが理想的な働き方になるためには何が必要か、問いを投げかけています。

 第4章では、会社員と個人自営業者の間には、たとえばクラウドワーカーらが厳しい就労状況に置かれているなど、現状ではさまざまな格差があり、企業に帰属しない働き方をサポートするための新たなセーフティネットが求められるとし、自助を支える公助や共助としてどのようなものが考えられるかを考察・提案しています。

 第5章では、人生100年時代に必要なスキルとは何か、副業という視点からの適職探しを勧めるとともに、学ぶとはどういうことか、創造性とは何かを考察しています。この章は主として若い読者向けに書かれた章とも言えるのではないかと思います。

 「AIが雇用を奪う」「10年後の仕事はどうなる」的な内容の本は昨今かなり刊行されており、個人的にも何冊か読みましたが、いずれもトレンドウォッチング的で、新聞や週刊誌、ビジネス誌の記事をまとめ読みしたような印象でした。将来の予測となると(ざっくり言って大規模な"ワーク・シフト"が起きるのは間違いないが)時期や分野など細かい点はかなり不確定要素が多いように思いました。

 その点、本書は(本書もまた「いつか」という表現を使い、「いつか」がいつ来てもいいように備えよ、という言い方にはなっているが)、労働法学者として視点が一本の軸としてあって、その上で、新しい働き方が拡がるには何が課題としてあるか、何をしなければならないかを、自助・公助・共助のそれぞれの観点から分析・提案しており、これからの個人と企業の関係の在り方を探っていくうえでも示唆に富むものでした。しいて言えば、プロ人材になり切れなかった人はどうすればいいのか、そのあたりが見えないのが難点でしょうか(とりあえず今のところあらゆる可能性に満ちている若い人に向けて書かれているということか)。

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体験談中心だがその体験談がシズル感があった。新人弁護士に限らずお薦め。

労働事件21のメソッド.jpg 『こんなところでつまずかない! 労働事件21のメソッド』['19年]

 本シリーズは、新人や若手で経験の浅い弁護士がつまずきやすい事柄を、先輩弁護士が「21のメソッド」として示唆したものです。新人・若手の弁護士が事前に注意すべき事柄を理解し、その分野についての苦手意識・不安を軽減することを意図したもので、本書はその第7弾となる「労働事件」対応編です。

 タイトルに「21のメソッド」とあるように、労働者性、就業規則の不利益変更、休職規程、残業代計算、労働時間の把握、監督者、固定残業代といった係争になりやすいテーマと解決のポイントを21メソッド(章)にわたり取り上げていますが、それぞれ冒頭の概説は基本知識や留意点、判例などを簡潔にまとめ、続いて各テーマについて先輩弁護士の2~3の体験談を、全体では15名の弁護士が50近い体験談を寄せています。

 この体験談の中には、使用者側の相談に応じたものと労働者側の相談に応じたものがそれぞれあり、裁判になったものありますが、労働審判や話し合い等の裁判外での解決例も多く含まれています。さらに、上手く決着したものもあれば、やや不本意な結果に終わったものもあり、こうすればよかったという率直な反省などもあって、非常にシズル感のあるものとなっています。また、体験談の中で振り返りも行われていますが、加えて各章の終わりに、留意すべき点が「ワンポイントアドバイス」としてまとめられているが親切であり、それらが体験から導き出されているので説得力があります。

 解雇権濫用法理についての章がありますが、その前に、ハラスメントについて、ここだけ使用者側の立場からと労働者側の立場からとで各1章を割いているのが、昨今の労働事件の情勢を反映しているように思いました。使用者側に立つ場合は「甘い調査には辛い助言を」、労働者側に立つ場合は「裁判だけが能じゃない」と、アドバイスもシンプルに的を絞ったものになっているのがいいです。

 実際の労働事件は、裁判で勝つか負けるかではなく、話し合いなどを通じて双方が合意できる落としどころをどのように探るかが非常に重要になってくるということを改めて感じました。弁護士に相談が寄せられた案件ですらそうですから、この考え方は、現場で生じる個別労使紛争に広く通じると思われます。ただ、その落としどころの"相場感"というものは、裁判となった事例の判例集は多くあっても、裁判外で解決した事例を集めたものはあまりないため(本書でも紹介されている濱口桂一郎氏の執筆による『日本の雇用終了―労働局あっせん事例から』(2012年/労働政策研究・研修機構)があるが)、そうした"相場感"をつかむ上でも、本書は貴重であるように思いました。

 体験談を主とした構成であるため、物語を読むように読めますが、同時に多くの示唆を含んでいるように思いました。冒頭に紹介したように、先輩弁護士たちが労働分野での経験が浅い後輩弁護士のために書いた本ですが、弁護士の体験を追体験できるという意味では、企業内で労務に携わる人や社会保険労務士などコンサルタントが、労働事件(予防も含め)に対峙する際の知識・センスを身に着けるうえでも参考になる本であり、一読をお薦めしたいと思います。

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個人だけでなく組織をも対象としていることで、組織開発的な内容に。求められるファシリテーション能力。

FIND YOUR WHY.jpgFIND YOUR WHY2.jpg 『FIND YOUR WHY あなたとチームを強くするシンプルな方法』['19年]

 本書の著者の一人サイモン・シネックは、2009年に行ったTEDトークにおいて、「WHY」(個人や集団の存在意義、組織が何を表しているか)という概念の重要性を説き、反響を呼びました。その概念をさらに掘り下げたのが、前著『Start with WHY』(邦題『WHYから始めよ!』('12年/日本経済新聞出版社))であり、本書はその実践編とでもいうべきものです。

 TEDトーク以来の彼の主張は、社会を巻き込む力をもつリーダーに共通するのは、思考を「WHAT(何をするのか)」からではなく「WHY(なぜそれをやっているのか)」から始めるという点であるというものでした。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語り、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるが、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうと指摘しています。

WHY2012.jpg 本書では、まず第1章で、TEDトーク及び『WHYから始めよ!』で示したゴールデン・サークル(WHY―HOW―WHAT)という概念モデルで、WHYから始めることのインパクト、WHYを知ることの利点を説明し、第2章で、WHYを見つけるためにはどのようなプロセスを踏めばよいのか、3つのステップを解説しています。さらに第3章では、<個人>が自分自身のWHYを見つけるための段階的プロセスを、7つのステップごとに説明しています。

 第4章では、、<組織>のためのWHYの見つけ方として、その準備としてのユニット(グループ)アプローチについて解説しています。続く第5章では、実際にワークショップを実施するための具体的な手順を解説しています。ここでは、WHYを見つけるプロセスにおいて、グループをどう導けばよいかを述べています。

 第6章では、WHYを現実のものとするための行動、HOWについて書かれています。WHYは目的地であり、HOWはそこへたどり着くための経路を意味します。第7章では、自分のWHYを生き始め、実行するにはどうすればよいかを説明しています。

 リーダーを目指す人にとって啓発的な内容であるとともに、個人だけでなく組織をも対象とすることで、本書自体が<組織開発>的な内容となっているのが興味深いです。個人に応用するにはまずパートナーを見つけることから始め、組織に応用するにはまずファシリテーターを見つけることが最初のステップになるということですが、個人や組織をそのWHY(存在意義)に導いてくれるパートナーやファシリテーターを見つけたり、育成したりするのが、ややハードルが高いようにも思いました。とは言え、ワークショップの進め方などは、これまでの組織開発におけるホールシステムの手法などに通じるところがあったようにも思います。

 要所ごとにパートナー・セッションやファシリテーター・セッションといった解説があり、巻末にもパートナー、ファシリテーターのそれぞれに対するアドバイスが付されていることからも窺えるように、本書を読んだ人がまず自らパートナーやファシリテーターになってみることを推奨しているのでしょう。ただ、個人的には、読んでみて、若干もやっとした印象も残りました。

 米国などでは、エンカウンターグループなどの歴史が連綿と今日にまで繋がっていますが、日本はそうしたものが高度経済成長期に行われた感受性訓練(ST)などをもっていったん途切れた観もあり、そもそも日本人はグループで集まって自分の本心を語るということが苦手なような気もします。一方で、「組織開発」は今また何十年かぶりに注目を集めているとも言われています。こうした個人や組織の根本的な存在意義(「WHY」)を問い、それを共有化するという啓発的なワークショップが、今後どれくらい日本に浸透するのか注目したいと思います。


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「承認欲求の呪縛」を解くには、メンバーの組織への依存を断ち切り、プロ化する。

『「承認欲求」の呪縛』.jpg 『「承認欲求」の呪縛 (新潮新書)』['19年]

 本書の著者によれば、上司などから褒められたらモチベーションや挑戦意欲が高まり、業績も上がるという実験結果があり、承認が離職の抑制や成長にもつながることが明らかになっている一方で、褒められ、認められると逆にやる気が奪われるケースがあるとのことです。また無意識のうちに承認欲求の奴隷になり、破滅したり、自殺に追い込まれたりするケースもあり、さらにパワハラや組織不祥事の背景にも「承認欲求の呪縛」が潜んでいると言います。

 つまり、承認欲求には光と影があり、功と罪を分ける何かがあるということです。本書は、「承認欲求の呪縛」がどのようなメカニズムで発生するか、どうすれば呪縛から逃れられるかを簡単な数式と具体例を用いながらわかりやすく説明したものであるとのことです。

 「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」となるのは、それ自体が人を動機づけるだけでなく、認められるとほかの欲求が満たされたり、有機無形のさまざまな報酬が得られたりするためであるとしています。ところが、あることをきっかけに、今度は獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになり、それが「承認欲求の呪縛」であるとのことです。「認められたい」が「認められなければ」に変わるとき、それは危険な兆候を示し、結果的にその人を破滅に導くこともあるとのことです。

 また、「承認欲求の呪縛」は、「認知された期待」と「自己効力感」のギャップに加え「問題の重要性」という三つの要素によってもたらされ、「数式」としては(認知された期待-自己効力感)×問題の重要性=プレッシャーの大きさ、即ち「承認欲求の呪縛」の強さであるとのことです。そして、パワハラや企業不祥事、長時間労働による過労死の背景にも、この呪縛が潜んでいるとした上で、これまでに起きたさまざま事件を振り返りながら、そうした事件が繰り返される根底には、日本の組織が、外から隔てられた「共同体」の性格が強く、メンバーは内部の規範や人間関係を強く意識し、そこでの承認を失うことを恐れるという特徴があると指摘しています。

 それではこの、無意識のうちに精神的な負担となり、本人の意に反して無理をさせ、時にはそれが過労死や過労自殺、犯罪、組織不祥事といった重大な事態を招く場合もある「承認欲求の呪縛」から逃れるにはどうすればよいのか。著者によれば、日本人はもともと「期待」に潰されやすく、これを病にたとえるならば「日本人病」と言うより、「日本の風土病」とでも言うべきものであり、よってリーダーにはメンバーに過剰なプレッシャーをかけない配慮が求められ、また、本人の自己効力感を高め、組織への依存を小さくすることが必要であるとしています。

 また、組織不祥事をなくすためには、メンバーの「プロ化」、すなわち組織をプロフェッショナルの集団に変えるのがよく、なぜならば、プロにとっては専門能力こそが生命線なので、自己効力感が高く、期待をプレッシャーではなく、むしろエネルギーに変えることも可能であるからとしています。著者は、これまでのような共同体組織は、遅かれ早かれ崩れていくに違いなく、だとすれば、組織にとっても個人にとっても、変化を先取りしてプロ化を図っていくことが、「承認欲求の呪縛」を解く決め手になり、ひいては不祥事対策の王道を歩むことにもつながるとしています。

 「承認欲求」に関する本をこれまで何冊も書いてきた著者ですが、いずれもそのポジティブな面に焦点を当てたものばかりだったのが、今回、「承認欲求の呪縛」というネガティブ面に着眼し、警告を発しているという点が興味深かったです。そして、「承認欲求」が人間にとって「最強の欲求」であることをよく知っている著者が発する警告であるだけに、説得力があったように思います。

 最後の部分の「プロ化」の勧めは、ドラッカーが『現代の経営』の中で、「専門職たる者(プロフェッショナル)は、優れた仕事とは何であるべきかを自ら決める」と言っていたのを想起しました。プロって、自分の仕事の評価を自分でできる人なのだなあと。本書によれば、そうした組織に依存していないメンバーの揃ったプロ集団であれば、組織不祥事は起きないということなのでしょう。

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日本の人事労務管理の歴史を知るうえで良書。

『戦後日本の人事労務管理』.jpg 『戦後日本の人事労務管理:終身雇用・年功制から自己責任とフレキシブル化へ』['18年]

 本書の著者によれば、現在進行する「働き方改革」の背景には、「人が足りなくなれば回してもらえばよいし、不要になれば返せばよい」「成果の達成のみ課せば自己責任で働くようになる」といった危険な認識、人事労務管理の放棄とも危惧される状況があるとのことです。本書は、そうした危機意識のもと、戦後から現在までの日本における人事労務管理の変化の過程を明らかにし、再検証することで、その時々の課題と「働かせ方」の原理の変遷を捉え直し、今まさに求められる「ディーセント="まとも"」な人事労務管理の在り方を探ったものであるとのことです。

 まず序章で、人事労務管理をどう定義し、その変遷過程をどのように分析するか、5つの時期区分を示した後、全7章の第1章で、【第1期:戦後復興期(1945~1955年)】における企業経営と「生産管理闘争」と呼ばれた労働運動の流れを、第2章で、【第2期:第1次高度成長期(1955~1964年)】における戦闘的労働運動の衰退と協調的労使関係の成立を、第3章で、【第3期:第2次高度成長期(1965~1972年)】における協調的労使関係の定着と、職務分析、職務給の導入などにみられる人事労務管理のアメリカ化ともいえる流れを、それぞれ振り返っています。

 続く第4章では、【第4期:オイルショックと低成長期、バブル期(1973~1991年)】における、職能資格制度や職能給の導入をはじめとする「能力主義管理」の台頭と、人事評価に基づき競争的に職場秩序を維持しようとした人事管理の流れを、第5章では、【第5期:1992年以降:バブル崩壊と平成不況】における、「能力主義管理」の徹底とそこから女性労働者が差別的に排除された問題、さらに、その「能力主義管理」が限界に突き当たるまでを追っています。

 そして、第6章では、今日のグローバリゼーション下の日本の人事労務管理は、フレキシブル化と自己責任化が過度に強調されているとしています。つまり、90年代半ばに日本の経営者が求めた、リジッドな長期雇用慣行と「ヒト」基準の処遇からの脱却、市場動向にフレキシブルに対応可能な雇用と処遇への移行などが、それらが現実化した今、また新たな矛盾を生じさせているとしています。

 続く第7章では、そうした現代日本の人事労務管理の実相を、雇用形態(非正規雇用の増加)、人事賃金管理(「成果主義賃金」の登場と衰退、「役割給」の台頭)、労働時間(長時間労働と規制緩和)、教育訓練などについて、統計分析や識者の論文などを基に探っています。

 そして、終章において、ディーセント・ワークの実現に向けた人事労務管理の課題を、雇用安定への道、正規雇用と非正規雇用の均等待遇への道、公平・処遇につながる人事評価制度、長時間労働の短縮とワーク・ライフ・バランスの実現といった観点から整理し、施策を提言しています。

 本書は、これまで著者が発表してきた多くの論文をもとに修正、加筆、再構成したものであるとのことですが、共著ではなく単著であるということもあってか、堅い内容でありながら、読んでいて一連の"流れ"の中で理解できたという印象です。第1章から第5章までは、自動車産業、とりわけ日産自動車の事例が多く出てきて、また、1995年の日経連の『新時代の日本的経営』が幾度となく検証対象として引用されているのも目立ちました。日本の人事労務管理の歴史を知るうえで良書であるし(今の若い人事パーソンって本書に書かれていることをどれくらい知っているのだろうか)、そうした歴史を知ることは、これからどういった方向に向かうべきかを探るうえで無駄にはならないと思います。

 個人的に興味深かった点として、第7章で、「役割給」とは何かをめぐって「職務給に近似した賃金」とする考えに異論を唱えているのと、「コンピテンシー」について結局「使われなくなった」という見方についても異論を述べている点があり(相手は同じ明大学の遠藤公嗣教授であったりするのだが)、この辺りに興味を持たれた人は一度手に取ってみてはどうかと思います。

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独自調査の分析と提案の連関が見えにくいし、アンケート対象者の顔も見えにくい。

『残業学』.jpg 『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書) 』['18年]

 本書で言う「残業学」とは、①残業がどこでどのくらい起きているのか、②残業が起こってしまうメカニズムと功罪、③残業をいかに改善することができるのかの3つを、学際的に研究する学問であるとのことです。本書は、「希望の残業学」というプロジェクトの研究成果の書籍化でもあり、2万人を超える独自調査の結果を分析し、既存の学問では探求されなかった長時間労働のメカニズムに迫り、その解決策を提案したものであるとのことです。

 全10講(オリエン+8講+最終講)から成る講義形式になっていて、第1講では、日本における残業の歴史を振り返るとともに、統計をもとに、残業が日本型雇用システムの中で、企業が景気変動に即して労働時間を調整するために利用されてきたことなどを考察しています。

 以下、独自の大規模調査の結果をもとに、第2講では、残業時間やサービス残業の多い業種、職種について見ていき、第3講では、長時間労働によって健康リスクが高まりつつも、一方で「主観的な幸福感」が高まってしまう「残業麻痺」という状態があることを指摘、「残業麻痺」層は「成長実感」を理由に残業を肯定的に捉えているが、実際には個人が「実感」しているほど「成長」にはつながっておらず、むしろ、労働の持続可能性を阻害しているとしています。

 第4講では、長時間残業はどうして起きるのか、その発生メカニズムについて考察し、残業が発生する職場には「集中」(優秀さに基づく仕事の振り分け)、「感染」(帰りにくい雰囲気)、「遺伝」(若い頃長時間労働していた上司)という残業発生要因があると指摘しています。第5講では、生活費を残業代に依存する「生活残業」の問題について、「残業代依存」のメカニズム探っています。ここまでが、残業がどこでどのくらい起きて、またそれは、なぜ起こってしまうのかを問うてきたことになり、以下、その解決策となります。

 第6講では、長時間労働是正のために企業が行う様々な取り組みの効果を検証し、そうした残業施策が失敗する場合の要因を考察しています。第7項では、どうすれば施策の効果を高め、長時間朗度を是正できるか、残業時間の「見える化」など、押さえておきたいポイントを示しています。そして第8項では、残業を根本から抑制し、組織の生産性を高めるために、マネジメントと組織をどう改革していけばよいのか、その方法を考察しています。

 一般のビジネスパーソンや職場マネジャーに向けて書かれた本であると思いますが(イラストなど入れてわかりやすく書かれている)、人事パーソンにとっても参考になる部分はあったと思います。ただし、実務家の視点から見ると、前半部分の統計や独自調査の分析結果は概ね想定内の内容であると思われ、一方、後半部分の解決策の提案は、やや漠然としたものであるように思いました。そう感じるのは、おそらく、提案部分の多くは人事・組織マネジメントのセオリーに基づくものであり、前半部分の独自調査の分析との連関が見えにくいということによるのではないかと思います。

 また、独自調査データの分析についても、あらかじめ仮説があって、それを調査結果と結び付けている印象もありました。やりがいを持って働くことが残業に直結するということが言いたいわけではないと思いますが、どのような属性の人が「フロー状態」にあって、どのような属性の人が「長期間残業」状態にあるのかという分析がされないまま「残業麻痺」層という概念が持ち出されたりしています。一方で、「残業代依存」という概念も出てくるので、読んでいてアンケート対象者の顔が見えにくかったです。もう少し分析手法に(クラスター分析を駆使する等の)工夫と緻密さが欲しかったように思います。

 これを「学」と言っていいのかという疑問が残りました。冒頭に残業が日本型雇用システムの中で、企業が景気変動に即して労働時間を調整する役割を果たしてきたとしながら、以降、労働経済学、労働社会学的な話はほとんど出てこないし、後半は著者の専門である人材開発・組織開発の話です。それでいて「学際的」を標榜するのもどうかと思いました。

 本書については、刊行されてすぐに「さぷ日記、主に本の書評」というブログに、問題点を的確に指摘した書評がアップされました。なかなか鋭い分析であったなあと思いました。

《読書MEMO》
●「残業学」目次
■オリエンテーション ようこそ! 「残業学」講義へ
「働く人」=「長時間労働が可能な人」でいいのか
 残業は「データ」で語るべき
 ウザすぎる! 残業武勇伝
 残業が個人にもたらすリスク
 残業が企業にもたらすリスク
 必要なのは、「経営のためにやる」という発想
 なぜ、「希望」が必要なのか
 大規模調査のデータ
 コラム1 ここが違うよ! 昭和の残業と平成の残業
  
■第1講 残業のメリットを貪りつくした日本社会
 「日本の残業」はいつから始まったのか?
 底なし残業の裏にある2つの「無限」
 「残業文化」にはメリットがあった
 第1講のまとめ
   
■第2講 あなたの業界の「残業の実態」が見えてくる
 1位が運輸、2位が建設、3位が情報通信
 明らかになった「サービス残業」の実態
 第2講のまとめ
 コラム2 「日本人は勤勉」説は本当か?
   
■第3講 残業麻痺――残業に「幸福」を感じる人たち
 「月80時間以上残業する人」のリアルな生活
 「残業=幸せ」ではないが......
 「残業麻痺」と「燃え尽き症候群」
 「幸福感」と「フロー」の関係
 残業しても「見返り」が約束されない時代なのに
 ただの「達成感」を「成長実感」にすりかえるな
 「努力」を「成長」と結びつける日本人
 「越境学習=職場外での学び」の機会の喪失
 第3講のまとめ
 コラム3 「男は育児より仕事」は本当か?
  
■第4講 残業は、「集中」し、「感染」し、「遺伝」する
 残業は「集中」する
 「できる部下に仕事を割り振る」は悪いことか?
 上司はつらいよ、課長はもっとつらいよ
 残業は「感染」する
 残業は「腹の探り合い」が 生み出す悲劇
 仕事を振られるのが嫌だから「フェイク残業」する
 「残業インフルエンサー」の闇
 「集中」「感染」が起こりやすい職業
 残業は「遺伝」する
 必要なのは「学習棄却」
 「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」しやすい職種は?
 第4講のまとめ
   
■第5講 「残業代」がゼロでも生活できますか?
 生活のための「残業代」
 残業代を家計に組み込んでしまうと......
 残業代が減ると、損をしたような気持ちになる
 「生活給」という思想
 上司の指示が曖昧だと、部下は残業代を当てにする
 解き明かされた残業発生のメカニズム
 日本全体で残業を「組織学習」してきた
 第5講のまとめ
  
■第6講 働き方改革は、なぜ「効かない」のか?
 企業の「働き方改革」は本当に効果が出ているのか? 
 残業施策の失敗による職場のブラック化への道
 段階1 残業のブラックボックス化
 段階2 組織コンディションの悪化
 段階3 施策の形骸化
 施策失敗の「3つの落とし穴」
 原因1 「施策のコピペ」の落とし穴
 原因2 「鶴の一声」の落とし穴
 原因3 「御触書モデル」の落とし穴
 第6講のまとめ
   
■第7講 鍵は、「見える化」と「残業代還元」
 「外科手術」の4ステップ
 ステップ1 残業時間を「見える化」する
 ステップ2 「コミットメント」を高める
 ステップ3 「死の谷」を乗り越える
 ステップ4 効果を「見える化」し、残業代を「還元」する
 第7講のまとめ
   
■第8講 組織の生産性を根本から高める
 「外科手術」の限界
 マネジメントの変革編1 「罰ゲーム化」したマネジャーを救え!
 マネジメントの変革編2 「希望のマネジメント」に必要な3つの力
 マネジメントの変革編3 「やることはいくらでもある」わけがない
 マネジメントの変革編4 部下への声かけは「2割増し」で
 マネジメントの変革編5 「抱え込み上司」にならないために
 組織ぐるみの改革編1 「残業の組織学習」を解除する「3つの透明性」
 組織ぐるみの改革編2 重なりあう「マネジメント・トライアングル」
 組織ぐるみの改革編3 「希望の組織開発」の鉄板フレーム
 組織ぐるみの改革編4 組織開発を実際にやる際のコツ
 組織ぐるみの改革編5 豊田通商を変えた「いきワク活動」
 第8講のまとめ
 コラム4 「やりっぱなし従業員調査」はなぜ生まれるのか
 コラム5 会議のムダはどれだけあるのか?
   
■最終講 働くあなたの人生に「希望」を
 残業と日本の未来
 「成果」の定義を変える――「努力+ 成果」から「時間あたり成果」へ
 「成長」の定義を変える――「経験の量」から「経験の質」へ
 「会社」の定義を変える――「ムラ」から「チーム」へ
 「ライフ」の定義を変える――「仕事との対立」から「仕事との共栄」へ
 平成が終わる今こそがチャンス
 「残業学」を学んだあなたへ 
  
■おわりに
 本書の調査概要

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組織開発の歴史を120年以上前の思想や哲学の誕生に遡って解説しているのはユニーク。

組織開発の探究.jpg組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす』['18年]

 今また何十年かぶりに注目を集めている「組織開発」ですが、本書は、組織開発の初学者が、その概略について理解を深め、組織開発の深い経験を持つ実践者が、その思想や歴史を理解し、さらに、組織開発に関心のあるすべての人が、実践について理解し、自社におけるアクションのヒントを得ることができることを目的に書かれた本であるとのことです。

 全5部構成の第1部は「初級編」であり、第1章で、初学者向けに組織開発とは何かを解説し、第2章で、組織開発を"感じる"ための手がかりとして、組織開発の3つのステップや5段階の実践モデルを示すとともに、企業内における組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」をまとめています。

 第2部と第3部は「プロフェッショナル編」として、組織開発の歴史と発展の歩みを辿っています。第3章では、組織開発を支える「3層モデル」というものを提唱し、その第1層としての「組織開発の考え方」の哲学的な基盤を、ジョン・デューイのプラグマティズムやフッサールの現象学、フロイトの精神分析学などに求めて解説しています。

 第4章では、「3層モデル」の第2層としての「組織開発の方法」の基礎となったものとして、心理劇(サイコドラマ)とゲシュタルト療法の2つの集団療法について解説し、第5章では、組織開発を支える経営学的基盤として、テイラーシステムや人間関係論、行動科学があったとしています。

 さらに第6章では、「3層モデル」の第3層として開花した「独自手法の発展」として、1940年代のクルト・レヴィンの社会実験から始まったTグループや、感受性訓練(ST)、エンカウンターグループなどを解説しています。

 ここまでが言わば組織開発の「前史」であり、第3部・第7章では、1950年代から1960年代にかけての「組織開発」の誕生からその青春時代までを追い、第8章では、1970年代から80年代、90年代と、組織開発が環境の変化とともにどのような変遷を遂げたのかを述べています。

 第9章では、日本における組織開発の歴史を辿り、第10章では、アメリカで組織開発と「似て非なるもの」が「自己啓発セミナー」として暴走し、日本でも1980年代後半から流行して、「マインドコントロール」としてマスコミでも取り上げられた経緯を紹介、第11章では、2000年代に入り「組織開発の見直し」が進み、「対話型組織開発」などの新しい手法も生まれ、組織開発が再びブームとなるに至るまでを解説しています。

 第4部は組織開発のケーススタディ編で、キャノンやヤフーなど先進5社の組織開発の取り組み事例が紹介され、第5部は、「組織開発の未来」についての両著者の対談となっています。

 タイトルに「探求」とありますが、組織開発とは何かについて書かれた第1部と、組織開発の歴史と発展について書かれた第2部、第3部で全体の8割近くを占め、第4部もケーススタディであることから、テキスト的な色合いの濃い本であると言えます。ただし、組織開発の歴史を、120年以上も前の、1890年代からの組織開発につながるであろう思想や哲学の誕生に遡って解説しているのはユニークであり、そうした意味で「探求」ということになるのかもしれません。

 堅くなりがちな内容が分かりやすくかみ砕いて書かれていて、組織開発というもののイメージをつかむには良い本だと思います。また、組織開発の歴史に関する知識も、それに携わる人の素養として持っていて無駄ではないと思います。実践面の解説がほぼ事例の紹介にとどまっていて、その部分はやや弱い印象もありますが、第5部の対談で、では一体社内のどの部署が組織開発を推進するのかといったことなども議論されていたりして、最後まで関心を持って読めた本でした。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第1部:初級編 組織開発を感じる
第1章 組織開発とは何か
1. 組織開発の定義
2. 組織開発は風呂敷である!?
第2章 組織開発を"感じる"ための3つの手がかり
1. 1つ目の手がかり:「組織開発とは組織をworkさせる意図的な働きかけ」である
2. 2つ目の手がかり:「組織開発に注目が集まる背景」を理解する
3. 3つ目の手がかり:「組織開発のステップ」
  コラム●対話と議論の違い
4. 組織開発の5段階実践モデル
5. 企業における組織開発の実際
6. より開かれた議論へ:組織開発と党派制
第2部:プロフェッショナル編(1) 組織開発の歴史学
第3章 組織開発を支える哲学的な基盤
1. 組織開発の3層モデル
2. 哲学者ジョン・デューイ:経験と学習の理論
3. フッサールの現象学:「今 ── ここ」の理論
4. フロイトの精神分析学:無意識の中の抑圧を顕在化させる
5. 組織開発を支える哲学的基盤のまとめ
第4章 組織開発につながる2つの集団精神療法
1. 集団精神療法とは何か
2. モレノの心理劇
3. パールズのゲシュタルト療法
第5章 組織開発を支える経営学的基盤
1. テイラーの科学的管理法
2. メイヨーの人間関係論
3. 行動科学の登場
4. バーナード以降の近代派
第6章 組織開発の黎明期
1. Tグループの始まり クルト・レヴィンの社会実験
2. Tグループとは何か
3. クルト・レヴィンのさらなる発明
4. クルト・レヴィンと組織開発
  コラム●ジョハリの窓
5. ST(sensitivity training):感受性訓練の発達
6. ロジャーズのエンカウンターグループ
7. イギリスでの動き:グループ・アプローチから社会技術システム・アプローチへ
第3部:プロフェッショナル編(2) 組織開発の発展
第7章 組織開発の誕生
1. アンブレラ・ワードとしての「組織開発」
2. 1960年代の組織開発
3. 組織開発の定義
  コラム●組織開発の定義における効果性と健全性について
4. 組織開発の基本的な進め方
5. 組織開発の青春時代
第8章 組織開発の発展
1. 組織開発をめぐる環境の変化:1970年代
  コラム●経営学の理論的系譜と組織開発の変化
2. 診断型組織開発の確立
3. 組織開発実践者のためのトレーニング
  コラム●ゲシュタルト組織開発について
4. 組織開発の「風呂敷化」が進む:1980年代
5. 組織開発は死んだ!?:1990年代
第9章 日本における組織開発
1. Tグループの日本への導入
  コラム●組織開発の実践者に求められること
2. 日本のODブーム
3. 組織開発から小集団活動などへの移行
4. 大学におけるTグループと組織開発研究
5. バブル崩壊による組織開発の衰退
6. 組織開発ブーム再燃
第10章 組織開発と「似て非なるもの」の暴走
1. ファシリテーターの質
2. 自己啓発セミナーの暴走
第11章 組織開発の復活 組織開発の見直しと対話型組織開発の広がり
1. 組織開発の見直し
2. 強みに着目する組織開発:AI
  コラム●社会構成主義とは何か
3. ホールシステム・アプローチの広がり
4. 対話型組織開発というコンセプトの出現
  コラム●診断型組織開発と対話型組織開発は二分できるのか?
第4部:実践編 組織開発ケーススタディ
Case1:キヤノン
社内コンサルタントが支援するCKI活動
Case2:オージス総研
現場を巻き込んで風土を改善する「アジャイル改善塾」の仕掛け
Case3:豊田通商
働き方改革と「いきワク活動」の取り組みについて
Case4:ベーリンガーインゲルハイム
人事ビジネスパートナーによる組織開発
Case5:ヤフー
組織課題に合わせて進化する組織開発
第5部:対談 「組織開発の未来」
組織開発は「経営に資するべきもの」か「人に資するべきもの」か
・経済的な価値と人間的な価値が二律背反するものであるとする議論自体を超える
・対話によって教条化した組織開発像を超える
・組織開発は、実践者の数だけある
・組織開発実践者の人材開発
・組織開発はマネジャーの武器になる
・労働人口が減少する中、日本の経営がなすべきこと
おわりに
索引
組織開発の系譜
●組織開発を"感じる"3つの手がかり
・「組織開発とは組織をworkさせる意図的な働きかけ」である
・「組織開発に注目が集まる背景」を理解する
・「組織開発のステップ」
① 見える化
② ガチ対話
③ 未来づくり
●組織開発の5段階実践モデル
① エントリーと心理的契約
② プロジェクトデザインと準備
③ フィードバックによる対話
④ アクション計画・実施
⑤ 評価
●企業内における組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」
① 人材開発と"ちゃんぽん"になりがちである
② ときに「血生臭い」人事プロセスとセットになって実施されることがある
③ 想定外のことが次々起こる「即興的実践」になりがちである
●紹介
コミュニケーションを活発にし、組織を活性化させることを目的とする「組織開発」に注目が集まっている。 「組織開発とは、組織の健全さ(health)、効果性(effectiveness)、自己革新力(self-Renewing capabilities)を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な課程である」(ウォリック) 平たく言えば、組織開発の目的は「組織の健全さ、効果性を高める」こと、であり、具体的には組織内のコミュニケーションを意図的に活発にすることから作業が始まる。 人材開発は働く個人に働きかけ、その成長を支援することである。それに対し、組織開発は、そのように単純化した説明が難しい。それは、組織開発が「ある特定の手法」を指すのではないからだ。また、その歴史をさかのぼると、組織開発には、人の心理を操作する悪しきやり方によって、自殺者を出すなどの黒歴史もあった。 本書では組織開発の思想的源流をさかのぼって、その哲学と手法の変遷をたどる。大ざっぱに言えば、100年の歴史の流れを解説する。さらに、いま行われている組織開発の手法を紹介し、5社の実践事例も解説する。

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ジェンダー平等のための行動デザインのステップを解説。人事面的にも示唆に富む。

ワークデザイン34.jpgワークデザイン1.jpg
WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する』['18年]

 「慣行とプロセスを変える」「能力を築く」「リスクのある環境のバイアスを緩和する」...。本書は、ハーバードの女性行動経済学者が、男女平等を実現するためのステップを、科学的な知見に基づいて解説した本です。

 序章「行動デザインの力」では、人は誰でもジェンダーのバイアスと無縁ではなく、一方で、ジェンダーの平等はビジネスに好影響を及ぼすという結果があり、では、バイアスを克服するにはどうすればよいかというと、実証されている方法論として、行動デザインによって効果が得られることがわかっているとしています。そして、以下、各章において、ジェンダー平等のためのデザインのあり様を解説しています。

 第Ⅰ部「問題」では、第1章で、無意識のバイアスはいたるところに潜んでいることを事例で示し、第2章で、バイアスを変えるには、慣行とプロセスを変える必要があるとしています。それには4つのステップがあり、それは①バイアスに影響される可能性の認識、②バイアスがはたらく方向性についての理解、③バイアスに陥った場合の素早い指摘、④分析とコーチングを伴う研修の実施であると。ただし、ダイバーシティ研修などを受けさせると、完全に効果になる危険があり、理性的な判断を促すために「反対を考える」「自分の内部の集合知を活用する」といった訓練を積ませるべきだとしています。

 第3章では、主張する女性が直面するリスクについて取り上げ、交渉の機会を等しく確保して女性に発言や交渉を促すこと、何が交渉可能かについて透明性を高めること、女性が他人のために交渉するよう促すことが必要であるとしています。

 第4章では、女性に(男性にも)汎用型のリーダーシップ研修を受けさせるのはやめ、メンタリング、スポンサーによる支援、人的ネットワークづくりなど、成功するために必要な要素を提供し、リーダーシップの能力を育むとともに、計画立案、目標設定、フィードバックなどの行動デザインを駆使して、好ましい行動を継続するための支援をすべきであるとしています。

 第Ⅱ部「人事のデザイン」では、第5章で、人事上の決定にデータを活用すべきであるとし、データを収集・分析してパターンを見出すことで予測をどのように行い、数値計測によって問題点をあぶり出して、よりよい解決策を探し、どのような対策が有効か明らかにすべきであるとしています。

 第6章では、人材の評価においては、履歴書から人種や性別などの情報を取り除き、候補者の評価は、資質を測るためのテストや構造化面接で行い、自由面接やパネル面接は避けるべきだとしています。

 第7章では、適切な人材を採用するには、求人広告などからジェンダーのステレオタイプに沿った表現を取り除き、オフィスの滞在時間ではなく成果に基づいて給料を払うようにし、求人に対する応募プロセスを透明にせよとしています。

 第Ⅲ部「職場と学校のデザイン」では、第8章で、職場や学校の環境のバイアスを緩和することでリスクをの在り方を調整し、誰もが能力を発揮できる環境をつくることを提案し、第9章では、ジェンダー・バイアスが弊害を生まないよう、性別を問わず平等な条件で競い合えるようにするにはどうすればよいかを説いています。

 第Ⅳ部「ダイバーシティのデザイン」では、第10章で、女性のローモデルをつくることの重要性を説き、第11章では、集団的知性が花開く環境をつくるにはどうすればよいかを説いています。第12章では、「規範起業家」となって平等促進の成功例を目立たせたり、法律・ルール・倫理要綱などを通じて規範を表現せよとしています。第13章では、行動科学的に賢明な情報開示と説明責任の在り方を説いています。

 最後に、行動設計を成功させるための変革のデザイン(DESIGN)とは、
  D = データ(data)
  E = 実験(experiment)
  SIGN = 標識(signpost)であるとしています。

 序章に書かれている「カーテンの向こうのバイオリン」の事例が印象的で、それはオーケストラ演奏家の採用試験で審査員と演奏家をカーテンで隔てて、誰が演奏しているか審査員に見えないようにすることで、女性演奏家が最終的に採用される割合が5%から35%と飛躍的に増えたという事例です。このような発想の転換でジェンダー平等が実現できるのだなあと気づかされた思いです。

 ダイバーシティ研修は人々の考え方を変えられないばかりか、免罪符効果(人は好ましい行動を取ったあとに、悪い行動を取る傾向がある)によって、より差別的になる可能性がある、という指摘も刺激的でした。ジェンダー・バイアスを取り除くための行動デザインのヒントが詰まった、人事面的に見ても示唆に富む本です。


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「●キャリア行動」の インデックッスへ

前著同様にオーソドックスだが、「仕事=人生」みたいな「昭和的」価値観も感じられた。

「これだけ」やればいい (青春新書インテリジェンス) 1.jpg  「これだけ」やればいい (青春新書インテリジェンス) 2.jpg      「定年前後の「やってはいけない」 12.jpg
定年前後「これだけ」やればいい (青春新書インテリジェンス) 』['19年]『定年前後の「やってはいけない」』['18年]

 前著『定年前後の「やってはいけない」』('18年/青春新書インテリジェンス)に続く第2弾で、著者は84歳にして現役の人材紹介会社社長とのこと。版元の口上によれば、「定年前後の転職成功者の事例も紹介した、ベストセラー『定年前後の「やってはいけない」』待望の実践編」とのことです。

 第1章で、「定年後」はもはや「人生の残り」でも「余生」でもなくなったとして、再就職がうまくいく人の行動習慣などを挙げ、この部分は前著のおさらいになっていました。

 第2章では、人生の後半からの働き方を説いています。前著と同様、ここでも、定年後の起業だけは「やってはいけない」としています。この辺りは一般論的であり、改めてこの著者の書くものは、オーソドックスかもしれないれど、起業されるよりは転職してもらった方が有難いという著者の"商売"も関係しているのではないかという穿った見方もしたくなります。

 第3章が言わば本論で、定年前後うまくいく人の「10の習慣」を挙げています。それを見ていくと、習慣1:自分で動いて仕事を探す、習慣2:なるべく早く定年後の準備に取りかかる、習慣3:「望む仕事はない」と頭を切り替える...といったように「習慣」と言うより「心構え」的なものが多く、本当に意欲がある人は言われなくともそうするだろうと思われるものが多かったです。第4章は、シニアの再就職の成功例ですが、まさにそういった人の例が紹介されているように思いました。

 最終第5章で、「人生100年時代の働き方モデル」として、「30代の働き方」から「80代以降の働き方」まで年代別に、キャリアの作り方を指南しています。「70代の働き方」のところで「まだまだ動き回れる!」とあるように、働く意欲がある人への励ましの書になっていて、著者自身が84歳の現役経営者であることが説得力を持たせるものになっています(書き出しで、自分が84歳になっても長距離通勤する理由を、(老化という)自然現象に負けないためとしている)。

 一方で、「仕事=人生」みたいな「昭和的」価値観も感じられました。Amazonのレビューに、「年配者(終身雇用世代)が書いた本」というものがありましたが、まさにそんな感じ。筆者はずっと「一生働く」ことを推奨しており、そう言えば、前著にも、「最も大切な要件は、『働く』こと以外に存在しないとさえ思っている」(170p)という記述がありました。まあ、それはそれでいいけれど、人にそれを押しつけるものでもないでしょ。

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全体としてはオーソドックスだが、経営幹部の転職が前提となっている面も。

「定年前後の「やってはいけない」 1.jpg「定年前後の「やってはいけない」.jpg 「定年前後の「やってはいけない」 12.jpg
定年前後の「やってはいけない」』['18年]

 プロ経営幹部の紹介・派遣を行う会社を経営する82歳の現役のビジネスマンで、これまでに3000人以上の再就職をサポートしてきた人材紹介のプロであるという著者が、定年前後に「やってはいけない」ことを説いた本です。したがって、「定年」が60歳定年を指すのか、65歳の再雇用期間終了を指すのかはともかく、年齢がいっても働き続けるにはどうすればよいかということが、前提となっています。

 第1章では、世の中「働かない老後」から「働く老後」へと変化してきている一方、「働きたくても働けない」定年後の現状もあることを示しています。第2章から本論という感じで、定年前後に「やってはいけない」を挙げていきます。

 まず、定年前の肩書や年収にとらわれるのは不幸であるとし、肩書面で言うと偉いのかもしれないけれど、現場では使えなかったりすると。「年の功」が生かせる仕事で活躍すべきだとしています。

 働き続ければ、新しいチャンスも生まれるとし、ただし起業だけは「やってはいけない」としているのは、「人生の第2ハーフ」で起業することのリスクを著者が実際に(数は分からないが)ある程度見てきているからでしょう。ただ、第2ハーフに入ってから新たに資格試験へチャレンジすることなども断定的に否定していますが、これは人によりけりではないでしょうか。

 第3章は暮らしの見直し方についてで、生活水準は上げるな、老後資金は「貯める」より「稼ぐ」 こと、「定年前」の人脈は使わないこと、義理と礼を欠くのは高齢者の特権。同窓会に行く・行かないも個人の自由...などとしています。参考になる部分もあれば、「言われなくとも...」という部分もありました。

 この本は結構売れたようですが、(著者の立場もあり)働き続けることを後押しする姿勢であること、働き方からライフプランニング、老後の生活まで広く網羅していることなどが売れた理由ではないでしょうか。

 全体としてはオーソドックス(その分、目新しさはない)。ただ、これも著者の仕事柄、プロ経営幹部の転職が前提となっていて、一般のビジネスパーソンには一概に当て嵌まらない面もあったように思います。

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興味深い「負の力」の概念。トランジションやレジリエンスにも通じるのでは。

『ネガティブ・ケイパビリティー.jpg『ネガティブ・ケイパビリティ』1.jpg 『ネガティブ・ケイパビリティ』2.jpg 
 『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)』['17年]

kuro もやもやする力.jpg 第8回「山本周五郎賞」を受賞した『閉鎖病棟』などの作品で知られる著者による本書は、最近巷でよく言われる「ネガティブ・ケイパビリティ」について、そのブームのきっかけを作ったとも言える本です。個人的には、NHKの「クローズアップ現代」で特集された(「迷って悩んでいいんです~注目される"モヤモヤする力"」(2023年9月6日放送))のを見て関心を持ちました。

 「ネガティブ・ケイパビリティ」とは一般に、「事実や理由を性急に求めず、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」を意味し、本書では、悩める現代人に最も必要と考えるのは「共感する」ことであり、この共感が成熟する過程で伴走し、容易に答えの出ない事態に耐えうる能力がネガティブ・ケイパビリティであるとしています。

 本書によれば、これは、古くは詩人のキーツがシェイクスピアに備わっていると発見した「負の力」であり、さらに、第二次世界大戦に従軍した精神科医ビオンにより再発見されたもので、本書の第1章、第2章はそのことについて解説誰されています(著者はある意味"再掘り起し"したことになる)。

 第3章では、人間はもともと「分かりたがる脳」を持つが、そのことはしばしば思考停止を招くとし、その弊害を事例として紹介するとともに、ネガティブ・ケイパビリティは拙速な理解ではなく、謎を謎として興味をいだいたまま、宙ぶらりんの、どうしょうもない状態を耐え抜く力であるとしています。

 以下、ネガティブ・ケイパビリティが各分野でどのように活かされるかを、医療(第4章)、身の上相談(第5章)、伝統治療(第6章)、創造行為(第7章)の各分野で見ていき、さらに第8章では、キーツが見たシェイクスピアのネガティブ・ケイパビリティとはどのようなものか、それを超えると著者が考える紫式部のネガティブ・ケイパビリティとはどのようなものかを見ています。

 そして第9章では、教育の場面でネガティブ・ケイパビリティがどう生かされるか、第10章では、「寛容」とネガティブ・ケイパビリティの関係について見ていき、終わりに、再び共感について、ネガティブ・ケイパビリティは共感の成熟に寄り添うものであるとしています。

 書いているのが作家であるということもありますが、エッセイを読むように読めるのが良かったです。ただ、学者ではなく作家が書いている分「この作家かそう言っているだけだろ」「科学的に実証されているの?」と言われてしまう可能も無きにしも非ずかと。

 その点に関して興味深かったのが、NHKの「クローズアップ現代」で特集された内容で、ネガティブ・ケイパビリティの高い人(モヤモヤ力の高い人―なかなか物事の結論を導き出せない人)と、ネガティブ・ケイパビリティの低い人(モヤモヤ力の低い人―物事の結論を効率よく導き出していく人)の2つのチームに分けて同じ課題を与え解決のアイデアを出させた実験をしたら、最初はモヤモヤ力の低い人のチームが早々と結論を出して課題を終えたのに、モヤモヤ力の高い人のチームは煮詰まっていたのが、後の方になってモヤモヤ力の高い人のチームからどんどんいいアイデアが出されたというものです。

 すべてにおいて、こんな絵に描いたような結果になるかなというのはありますが面白かったです。キャリア行動における「トランジション」や心理学における「レジリエンス」といった概念と通じたり重なったりする要素もあるように思われ、興味深かったです。

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3分の2が「集団的労働法」関係であるところに時代を感じる。

『新労働法入門』1.jpg 『新労働法入門』01.jpg 
新労働法入門―堂々と主張し、がっちりもらうために (1975年) (サンポウ・ブックス)』/佐賀潜『労働法入門―がっぽり給料をもらうために (1968年) (カッパ・ビジネス)

 先に取り上げた佐賀潜の『労働法入門』('68年/カッパビジネス)から7年後の、1975(昭和50)年刊行で、やはり、1見開き1項目で読み易いです。

 佐賀潜の『労働法入門』は第1部が「労働基準法」で1~49の49項目、第2部が「労働組合法」で50~101の52項目、第3部が「労働関係調整法」で102~113の12項目で、「個別的労働法」と「集団的労働法」の比率が43:57となっていましたが、こちらはどうでしょうか。

 第1章「労働条件」が1~12の12項目、以下、「労働三権」の内の2つ、第2章「争議権」が13~34の22項目、第3章「団結権」が35~57の23項目、第4章「解雇・配転」が58~73の16項目、さらに第5章「労使関係」として74~92までの19項目です。最後の「労使関係」の中身を見ていくと、75の「10人以上の事業所の就業規則作成義務」、83の「職務外行為による解雇」、91の「出向命令」の3つ以外はほぼすべて労働組合や不当労働行為等について述べたものであり、「集団的労働法」に関わるものとみていいでしょう。

個別集団.jpg そうすると、「個別的労働法」に関わる項目が12+16+3=31、「集団的労働法」に関わる項目が22+23+19-3=61となり、個別的労働法:集団的労働法の百分比は31:61 ≒ 34:66と、何と7年前刊行の佐賀潜『労働法入門』を上回る、ほぼ3分の2が集団的労働法関係ということになります。当時労働法と言えば、まだかなりの部分、「集団的労働法」が含まれていたことが窺えます。

『新労働法入門』02.jpg 佐賀潜版は、カバー表表紙折り返しに当時の合化労連委員長(前総評議長)の太田薫が、カバー裏表紙に当時の都労委員長・塚本重頼が推薦文を寄せていましたが、こちらも、カバー裏表紙折り返しに太田薫、カバー裏表紙に塚本重頼が推薦文を寄せています。

 第4章「解雇・配転」の第72項で、「定年退職には本人の同意が必要か」として、「労働条件が不利益に改正されても、それが合理的なものであるかぎり、個々の労働者が同意しないからといって、その適用を拒否できない」という「秋北バス事件」の最高裁判決が出てきますが、当時、この会社の一般従業員は定年が50歳だったのだなあ。そこに、従来は定年の無かった管理職に55歳定年を導入したことによる不利益変更の合理性が争われ、「合理性あり」と判示された事件でした。

 この有名な判例の話が佐賀潜の『労働法入門』には出てなかったなあと思ったら、当該判決は佐賀潜『労働法入門』刊行年の昭和48年の暮れ、12月25日に出されていました。因みに、これも有名事件である「三菱樹脂事件」の最高裁判決も昭和48年12月12日に出されていて、佐賀潜の『労働法入門』の方では触れられていません(間に合わなかった)。裁判例は年月の経過とともに積み上げられていくものだなあと改めて思わされます。

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