【3468】 ○ スージー鈴木 『幸福な退職―「その日」に向けた気持ちいい仕事術』 (2023/05 新潮新書) ★★★★

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幸福な退職」ができるよう、その日に向けて「MMK」を実践するという発想。

『幸福な退職』.jpg『幸福な退職』2023.jpg スージー鈴木.jpg スージー鈴木氏(音楽評論家)
幸福な退職 「その日」に向けた気持ちいい仕事術 (新潮新書) 』['23年]

 55歳で博報堂を退職し、音楽評論家として活躍している著者による本書は、「無駄なく・無理なく・機嫌よく」働くことが会社員生活を楽しいものとし、それによっていい仕事ができ、さらに「幸福な退職」につながるとして、そのための仕事術やキャリア論を9章にわたって展開したものです。

 第1章は「精神論」です。ここでは、「2枚目の名刺」を持つこと、「定時に帰る」こと、「65点主義」でいくことなどを推奨しています。「2枚目の名刺」を持つとは、本業に身も心も捧げてしまってはならないということです。「定時に帰る」とは、ダラダラ仕事しないということです。絶対に定時に帰ると心に誓い、「明日できることは今日しない」ことだとしています。

 「65点主義」とは、仕事において1時間で65点までアウトプットできても、100点満点を目指すと4時間かかるので、「仕事なんて65点でいいんだ」と考えて、4時間あるなら65点の仕事を4つこなした方が、65点×4時間=260点で、100点の2.6倍の仕事量になるという考え方です(分かりやすい!)。

 第2章は「時間論」です。定時に退社するには時間を「濃縮」する必要があり、その最大の敵は、会議であるとしています。会議参加者が5人いたとして、その中の1人が10分遅刻すれば、5人×10分=50分の損失になり、逆に、たった10分でも時間をかけてアイデアを考えてくれば、5人×10分=50分の事前アイデア群から会議が始められるという、「5×10の法則」などが紹介されています(「定時からビールを飲むための戦い」という表現が面白い)。

 第3章は「後輩論」です。先輩・後輩関係をプレイとして捉え、生き抜くための「後輩プレイ」を身に付けるとともに、1つの仕事に「スプーン1杯の自己顕示欲」をまぶせとしています。また、上司に悩まされた時は、仲間と「被害」を共有し、相対化(パロディ化)することだとも述べています。

 第4章は「管理職論」です。これからの管理職には、部下においても「MMK」(無駄なく・無理なく・機嫌よく)を実現する、クリエイティブなマネジメントが求められるのではないかとしています。

 第5章は「連絡論」で、正しく、わかりやすく、「大人っぽく」伝えるコミュニケーション方法や、具体的なメール作法を説いています。第6章は「企画書論」で、わかりやすい企画書の書き方、作り方を指南しています。第7章は「会議論」で、会議でどのような会話が有効かを論じています(「ですよね力」という表現がシンプル)。第8章は「プレゼン論」で、プレゼンを成功させるコツを解説しています。

 第9章は「退職論」です。自身の経験を振り返りながら、「幸福な退職」をするにはどうすればよいか考察し、やはり、そのためには「無駄なく・無理なく・機嫌よく」(MMK)を、会社での日々の仕事で実践し続けるべきであるとしています。終章として、かつての電通の「鬼十訓」をもじった「カニ十足」として、これまで述べてきたことのポイントがキャッチコピー的に10個にまとめられており、本書の理解・整理の助けになります。

 実体験に基づいて書かれれていて、幅広い層にとって面白く読めるのではないでしょうか。タイトルからキャリア論が主要テーマかと思いましたが、読んでみると、その要素もあったものの、「MMK」をベースとした仕事術の話(テクニカル要素)の方が多かったように思います。ただし、「幸福な退職」ができるよう、その日に向けて「MMK」を実践するという発想であるため、枠組み自体が1つのキャリア論になっているようにも思います。

 個人的には、自分が広告代理店の出身であるためか、1つ1つの話は腑に落ちる点が多かったです(笑)。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
序章 スージーという名の会社員
スージー鈴木少年、博報堂に入る/スージー鈴木局長、評論家になる/「会社員って、気持ちいい。」
第一章 精神論――無駄なく・無理なく・機嫌よく働くために
仕事なんかで死んでたまるか/「2枚目の名刺」を持つ/定時に帰る確実な方法/「65点主義」という考え方/「無駄なく・無理なく・機嫌よく」(MMK)
第二章 時間論――定時に退社するための時間「濃縮」法
時間を動かす。自分から/2つの「5×10の法則」/午前中は機械的作業から/「毒見」と「突然仕事」/抜け道を探し続ける午後/午後に見定めるふたつの抜け道/定時から飲むための地道な戦い
第三章 後輩論――生き抜くためのプレイと自己顕示欲とパロディ化
「後輩プレイ」を身に付ける/スプーン1杯の自己顕示欲/先輩は使うもの/「着おくれ」しない服装を/面倒くさい上司への接し方
第四章 管理職論――マネジメントこそクリエイティブに「MMK」で
クリエイティブ・マネジメント/部下の「MMK」の実現/先出しジャンケン/メンタルダウンについて/聞く力と聞かない力
第五章 連絡論――正しく、分かりやすく、そして大人っぽく伝える方法
固定電話が鍛えた「大人力」/大人メール力/読ませる長文メール/即レス原理主義/連絡無視論
第六章 企画書論――日本語と数字をとにかく分かりやすく
企画書作りは文字要素が7割/アイデアは質より量/「ひろげ」と「ぶつけ」の鈴木メソッド/企画書の日本語論(1)――熟語と体言止め/企画書の日本語論(2)――分かりやすさが正義/企画書の日本語論(3)――語順に気を付けろ/企画書のグラフ論
第七章 会議論――「男性性」「概念のオバケ」「ですよねー」
会議の男性性/「概念のオバケ」との戦い方/ハッキリと発言するために/ですよね力/打合せの神様
第八章 プレゼン論――業務の中でいちばん人間臭い行いとして
うまいプレゼンとは/プレゼンはリズムだ/プレゼンは休み休み言う/すべては「納得」のために/「ステレオ・プレゼン」/緊張をどうクリアするか/AIはプレゼンが出来るか
第九章 退職論――「何度でも退職したい!」と思うために
幸福な退職/3つのとっかかり/退職の決断法/「時代遅れ」という自己認識を持つ/公人と私人/得意先絶対主義?/「何度でも退職したい!」/腕っぷしで稼ぐ快感/会社員以外の自我を持つ/だから「MMK」を
終章 スージー鈴木の「カニ十足」
おわりに

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