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原作短編を上手く処理。心理サスペンス映画としてまずまずの出来。

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密会」[Prime Video]伊藤孝雄/桂木洋子

「密会」3.jpg 大学教授・宮原雄一郎(宮口精二)の妻・紀久子(桂木洋子)は、14歳年上の堅苦しい学者生活を送る夫との結婚生活の味気無さから、毎月自宅で行われる法科学生の集りのメンバーの一人・川島郁夫(伊藤孝雄)と不倫関係に陥っていた。その夜も紀久子は、自宅の近くの林の中で郁夫の激しい抱擁に身を任せていた。その時、突然、二人の目前でタクシー強盗事件が起きる。雲間を漏れた月光に浮んだ被害者の無気味な姿。二人は現場から逃げる。目撃者として警察に出頭すれば二人の不倫も明るみに出る。二人の思考は目まぐるしく回転した。誰かに顔を見られなかったか。紀久子は不安な一夜を過ごす。翌朝、平静を装いつつ夫を送り出す。女中のさよ(千代侑子)が、昨夜の強盗事件を語り、紀久子は悔恨に涙した。一方、郁夫もラジオで強盗事件を知り、さらにテレビで被害者の家族の悲しみと悲惨な生活を知り、唯一の目撃者として捜査に協力すべきだという正義感に駆られる。しかし、紀久子の苦境を思うと、ただ焦躁に悩むだけ。外出から帰った妹の英子(峯品子)の「いま乗ってきたタクシーの運転手、顔にも頭にも傷痕があるの、去年、自動車強盗に遭ったんだって...」という話に、郁夫は堪らず飛び出して紀久子を訪ね、警察に届けようと話す。しかし、紀久子は、それを止まるよう懇願する。翌日、紀久子が郁夫の下宿を訪ねた。「夫に知れたら私は終りよ」―紀久子の言葉に郁夫は、自分との関係が戯れに過ぎなかったことを悟り、黙って外へ出る。小田急線のある駅のホームに立った郁夫を、追ってきた紀久子が認めた。その時、特急列車通過を知らせる駅のアナウンスが―。

 中平康監督の'59(昭和34)年公開作で、原作は、吉村昭の'58年発表の「密会」という10ページにも満たない非常に短い作品。吉村昭の初期作品にはこうした「男と女のはかない情炎をサスペンス仕立てで書いた小説集」(金田浩一呂)が幾つかあり、これもその1つ。状況設定が、これも「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)として映画化された松本清張の「証言」('58年)に似ていますが、こちらの方が原作発表も映画化もそれぞれ約半年早いです。

「密会」012.jpg 原作が短いため、70分くらいの映画とはいえ、じっくり作っている印象。脚本も中平康監督が自分で書き、いかにも小品らしい心理サスペンス映画としてまずまず成功している方だと思います。

 じっくり作っている"部分は、例えば 冒頭の、世田谷の高級住宅地にある熊野神社裏の二人の密会場面のねっとりとした長廻しで、7分くらいものワンカットの愛欲場面となっています(やや冗長か。日活ロマンポルノ的技法の奔り?)。

「密会」女中.jpg そのほか、話の膨らませ方としては、郁夫(伊藤孝雄)がテレビで、容疑者不明のままインタビューに答える遺族の姿を観たりして憔悴していく様を(こんなインタビューって当時あったのか? 今ならアウトだろう)、画学校に通う活発な妹(峯品子)との対比で表しています(加えてこの妹、タクシー強盗に遭ったという運転手の話をあっけらかんとする。当時そんなにタクシー強盗があちこちで横行していたのか?)。

千代侑子

「密会」2.jpg 紀久子(桂木洋子)の方も、無遠慮でがさつな(憎めないけれど)女中さよ(千代侑子)が、近所の野良犬の残酷な交通事故死の模様などを大げさに報告したりして、何ら悪気はなく無自覚に紀久子を心理的に追い詰めていきます。この辺りのプロセスも上手。

「密会」神保.jpg ラストは基本的に原作と同じですが、原作は、現場で電気工事をしていた男の紀久子への「見ていた」との言葉ですっぱり終わり、紀久子が連行されるような場面はありません。原作通りの終わり方でもよかったようにも思いますが、結末を最後まで見せるところは、シャープさがウリの短編小説と、大勢の観客が観る映画との違いでしょう。でも、原作の方がインパクトがありました。

宮口精二/桂木洋子
「密会」宮口.jpg もともと比較的原作に沿った撮り方をする監督が、原作が短いゆえに何か足さなけならないという条件下で、付け加えるとしたらどういったものを付け加えるかをみる上では興味深い作品かも。

サスペンスな女たち.jpg「密会」●制作年:1959年●監督・脚色:中平康●撮影:山崎善弘●音楽:黛敏郎●原作:吉村昭●時間:71 分●出演:桂木洋子/宮口精二/千代侑子/細川ちか子/伊藤孝雄/峯品子/鈴木瑞穂/高野誠二郎●公開:1959/11●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-06-20)(評価:★★★☆)
 
 

 

「ゆいの森あらかわ」吉村昭記念文学館「開館記念企画展 映像化された吉村作品の世界」2017(平成29)年3月26日~7月23日
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裕次郎の日活青春映画の中ではやや異色なのは、芦川いづみの役どころのせい?

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あした晴れるか [DVD]」石原裕次郎/芦川いづみ
「あした晴れるか」000.jpg「あした晴れるか」m3.jpg 秋葉原のヤッチャバ(青果市場)に勤める三杉耕平(石原裕次郎)は写真大学卒で、本職はカメラマン。彼はある日、桜フィルムの宣伝部長・宇野(西村晃)から「東京探検」というテーマで仕事を依頼される。そして耕平の面倒をみる担当として、宣伝部員・矢巻みはる(芦川いづみ)を付けられた。みはるは才女で、耕平にとっては全くの苦手タイプだった。その上バー"ホブーブ"のホステス・セツ子(中原早苗「あした晴れるか」m2.jpgも耕平を追いかけ回し、苦手が二人になる。その夜、宇野に連れていかれたバーで、みはるが愚連隊に因縁をつけられるが、偶然通りがかったみはるの従弟・昌一(杉山俊o0420017915048971131.jpg夫)によって救われる。翌朝、耕平は目を覚まして仰天する。みはるの家に泊ってしまったのだ。みはるには、しのぶ(渡辺美佐子)という美しい姉がいた。しのぶは、美容学研究家の洒落男・下田(庄司永建)に求愛されていた。やがて、耕平の仕事が本格的に始まる。深川の不動尊、佃島の渡船場、旧赤線地帯、野犬抑留場―みはるは一日中耕平の傍に付きながら、彼に惹かれていくのを感じた。ふとしたことから耕平はセツ子の父親・清作(東野英治郎)と知り合う。清作は昔ヤクザだったが今は堅気の生活をしている。しかし六年前に清作がビッコにした人斬り根津(安部徹)という男が清作を探していた。ある日、根津に探し出された清作を、危機一髪、耕平が駆けつけて救ける―。

『あした晴れるか』.jpg '60年10月公開の中平康(1926-1978)監督作で、原作は菊村到(1925-1999)の新聞連載小説。'60年に東京新聞に268回に渡って連載されたものです。『あした晴れるか』('60年/光文社)として同年刊行されていますが、同じ年に映画化もされたことになります。菊村到は、「不法所持」で'57(昭和32)年・第3回「文學界新人賞」、「硫黄島」で'57(昭和32)年上期・第37回「芥川賞」を受賞していますが、個人的イメージとしては西村寿行(1930-2010)とかに近い印象。ビジネス小説も書いていたのかあ(しかもユーモア小説!まあ、ヤクザは出てくるが)。
あした晴れるか―長編小説 (1960年) -』 

o0420017915048875203.jpg「あした晴れるか」 芦川.jpg 全体としては、裕次郎のモテ男はつらいといったお話ですが、テンポが良くて楽しめるのと、どちらかというと可憐な女性の役が多い芦川いずみが、眼鏡をかけたキャリアウーマン風の女性を演じているところが変わったところでしょうか(実は周囲に馬鹿にされないための伊達メガネだったのだが)。

「あした晴れるか」m1.jpg 芦川いずみ演じる矢巻みはるは、中原早苗が演じる元気なホステス・セツ子と、裕次郎が演じる耕平を巡って張り合うし、渡辺美佐子が演じる矢巻みはるの姉しのぶも、政略的な婚約を断ち切り、最後、独り窓に向かって「昨日風吹き、今日雨吹り、明日晴れるか」と落書きし(これがタイトルの由来)、その瞳は耕平にじっと向けられていて―。

 最後は耕平の次々と発表した「東京探検」作品展は人気を呼び、大当りに気を良くした宇野(西村晃)は、この次の企画として「アフリカ探検」を耕平に用意してあると言うのだが、みはる、セツ子に加えて昌一までもが助手として同行することを希望し、さて一体誰が耕平についてアフリカに行くのか...。
「あした晴れるか」 n.jpg「あした晴れるか2.jpg

「あした晴れるか」c1.jpg 芦川いづみの大きな黒眼鏡の役どころのせいもあってか、彼女の出演作品としても、裕次郎の日活青春映画としてもやや異色ですが、肩が凝らずに楽しめるコメディでした。

 最後のヤクザとの乱闘シーンで、裕次郎がメロンを手に、「卸しでも300円する」と言っていますが、時代は1960年なのでかなりの高級品のはず。マスクメロンは、まだ庶民にとっては高嶺の花でした。これを投げつけるシーンには、当時批判があったのではなかったかなあ(因みに、この映画の鑑賞券(前売り券)には、「総天然色 主演:石原裕次郎 芦川いづみ」とあり、価格は「100円」とあった)。
『あした晴れるか』 (c).jpg「あした晴れるか」石原裕次郎/芦川いづみ

「あした晴れるか」 c2.jpg.gif「あした晴れるか」09.jpg「あした晴れるか」●制作年:1960年●監督:中平康●脚本:池田一朗/中平康●撮影:岩佐一泉●音楽:黛敏郎●原作:菊村到●時間:90分●出演:石原裕次郎/芦川いづみ/渡辺美佐子/杉山俊夫/信欣三/嵯峨善兵/高野由美/中原早苗/安部徹/草薙幸二郎/藤村有弘/庄司永建 o0420017915049307194.jpg/殿山泰司/宮城千賀子/西村晃/東野英治郎/三島雅夫●公開:1960/10●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)
      
殿山泰司(中年サラリーマン・植松伊之助。チンピラに絡まれるが耕平に助けられ、共に飲み屋で意気投合する。家庭では女房の尻に敷かれている)
  
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東野英治郎(セツ子の父親・梶原清作。今は花屋だが、かつては博打打ちで、根津(安部徹)が清作の親分を刺したため清作が根津を刺し、そのため根津から恨まれている)

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安部徹(人斬り根津。6年前に清作がビッコにしたヤクザで、最近出所して恨みを晴らすために清作を探している)
  
 
 
 
 
   
●菊村到原作
硫黄島」('59年)/「けものの眠り」('60年)
1硫黄島.jpg 1けものの眠り.png
俺は死なないぜ」('61年)/「夕陽の丘」('64年)
1俺は死なないぜ.jpg 1夕陽の丘.jpg

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芦川いづみ出演2作。タイトル=解題だった「誘惑」。青春メロドラマ「知と愛の出発」。

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誘惑」(1957)千田是也/左幸子/芦川いづみ
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「知と愛の出発」(1958)芦川いづみ/川地民夫
「誘惑」p.jpg「誘惑」左.jpg「誘惑」千田.jpg 杉本省吉(千田是也)は銀座の洋品店主。娘の秀子(左幸子)とやもめ暮しで、店の二階を画廊に改造しようと考えていた。洋品店には無愛想で化粧嫌いな竹山順子(渡辺美佐子)がいた。順子は他人の迷感も顧みない貧乏画家・田所草平(安井昌二)にその美貌を指摘されるや、一転してお化粧に専念し、草平を恋するようになる。省吉の画廊が完成する。画廊のお披露目パーティの日に、草平の絵が有名画家の岡本太郎らの目にとまり、彼は一躍有名となり、発表会は連日盛況を極める。秀子は、松山小平「誘惑」芦川9.jpg(葉山良二)の妹・章子(芦川いづみ)のもとに草平の画が4、5点埋れているというので、それを持って章子と画廊に来た。章子を見た省吉は、彼女が初恋の人(芦川いづみ、二役)に瓜二つであることに驚く。その後、彼女はその娘で、初恋の人本人は亡くなったということを知る。順子と草平の結婚式の夜、祝酒に深酔した章子は秀子の家に泊まる。いつしか省吉は章子の寝顔が初恋の人と重なって見える。熱い思いを前に衝動を抑えきれない省吉は、三十年前に果せなかった接吻を章子にする。章子の目には涙が浮んできたが、それは母と省吉の秘密を知っている章子の歓びの涙だった―。

 「誘惑」は1957年公開の中平康監督作。原作は、伊藤整(1905-1969 、伊藤整は個人的には『文学入門』('54年/カッパブックス))を思い浮かべる)が1957年の1月から6月にかけて朝日新聞に連載したもので、7月に『誘惑』として新潮社刊、同年9月にこの映画化作品が公開されているから、連載当時から注目されていたのでしょう。

「誘惑」1.jpg 全体としては、銀座すずらん通りの洋品店を舞台にしたちょっと洒落たコメディです。千田是也が演じる寡夫の父・省吉と、左幸子が演じるその娘・秀子と同世代の仲間たちの恋模様―といった群像劇風ですが、終盤で芦川いづみ演じる小平の妹・章子が登場して、これが省吉の秘められた過去の恋の相手の娘であったところから、ミステリアスな要素も入ってきます。

「誘惑」111.jpg 実は、当の章子は、母がかつて省吉から接吻されることを望んでいたことを知っていて、母に代わって自分が亡くなった母の願いを叶えたということになるのでしょう。そうなると、章子が酒に酔って秀子の家に泊まったのも、寝苦しそうに咳をして省吉に介抱させたのもすべて計画の内だったということになります。つまり、章子は母に代わって省吉を計画的に「誘惑」したわけであり、タイトルが即ち"解題"だったのだなあと思いました(ある意味スゴイね。これ、かなり特殊な心理だと思う。当時、母の望みが叶っていたら、自分は生まれてなかったのではないか)。

「誘惑」岡本.jpg 岡本太郎、東郷青児らが本人役で出ていて(映画.comではそれぞれ山本次郎、西郷赤児の役名になっているが、映画に中では本名で呼ばれていた)、岡本太郎などはしっかり草平の絵を褒める演技していました。その草平の絵が岡「さか屋」岡本風呂.jpg本太郎が描いたっぽいのが可笑しいです。そう言えば、中伊豆の吉奈温泉に「さか屋」という岡本太郎が贔屓にしていた旅館があって、そこには岡本太郎がデザインした風呂があります。個人的には、「さか屋」の向かいにある「東府や」を使うようにしているのですが(庭園が広い。初夏は蛍、秋は紅葉が楽しめる)、「さか屋」も日帰り入浴ができたのではないかと思います。岡本太郎って、「芸術は爆発だ!」から「グラスの底に顔があっても良いじゃないか」まで様々なキャッチで知られているけれど、映画に出て自分の絵を褒めたり、温泉に泊まって風呂をデザインしたり、いろんなことをやってるなあ。

  
「知と愛の出発」p.jpg「誘惑」11.jpg 諏訪湖のほとりの町に住む高校生・綾部桃子(芦川いづみ)は、同級生で病院長の令嬢・川野恵美(白木マリ)と湖に遊びに来たが、恵美の同性愛的な愛撫を拒んだため、ひとり湖の真中にある小さな島に取り残されてしまう。困り果てた桃子を同級生の南条靖(川地民夫)がボートで救ってくれ、桃子は彼と親しくなる。二人は大学進学の夢を語り合った。「知と愛の出発」12.jpgところが桃子の家は経済的に苦しく、寡の父・健司(宇野重吉)は大学進学を諦めろと告げる。女は大学など行く必要が無いという父に反発し、桃子はアルバイトをしてでも大学に行くことを決意する。靖は厳しい父の監視を受けながら、受験勉強を続けていた。桃子への同性愛に破れた恵美は、若い医師・三樹(小高雄二)と遊び、学友であるバーの娘・津川洋子(中原早苗)の家で、夫婦雑誌や実話雑誌を読んで性の世界に興味を抱いていた『知と愛の出発』.jpg。一方、三樹は恵美の若い母・順子(利根はる恵)をも狙っていた。夏休みに桃子と洋子は湖畔のホテルでアルバイトを始める。祭りの夜、桃子と靖は湖のほとりで月光の下、唇を触れ合った。洋子は都会から来た不良青年らに純潔を奪われてしまい、恵美の病院に担ぎ込まれた後、服毒自殺する。桃子は盲腸炎になり、三樹の手術を受けたが、靖の輸血で快方へ向かう。しかし輸血が靖からと知らぬ桃子は、他人の血が体に入ったことに不潔感を覚えた。そして三樹は桃子に迫る―。

『知と愛の出発』 .jpg 「知と愛の出発」は、1958年公開の齋藤武市監督作で、原作は中村八朗(1914-1999)の『知と愛の出発』('58年/小壷天書房)。中村八朗は、1954年まで直木賞候補に挙がること7回の記録を作ったものの最後まで受賞に至らず、1956年頃からは青春小説やジュニア小説をメインに執筆、昭和40年代のジュニア小説ブームの中で、十代を主人公に設定した小説を多く発表したとのこと。かなり人気はあったようで、この作品も刊行と同時に映画化されています。

 青春メロドラマといった感じでしょうか。人物造型もパターナルな印象。純真な主人公は道を踏み外しそうで外さずに、おそらくこの後大学進学(お茶女かあ、優秀なんだ)を目指すだろうし、意地悪な同級生はあくまで意地悪だし、プレイボーイの医師はとことんプレイボーイだし。

「知と愛の出発」芦川.jpg 芦川いづみがのセーラー服姿がよくて(当時22歳だが)、ウェイトレス姿も可憐。これらが見られるだけでこの作品の価値があるという人も結構いるのではないかと思わせます。ただし、この主人公の女性、純潔の証明を自分を犯そうとした医師に求めたり、自分の躰に他人の血が輸血されたことに不潔感を覚えたり、ちょっと今の時代からすると理解しにくい部分もありました。

「芦川いづみ特集」.jpg 神保町シアターでカラーDVD上映。当時コニカラーというシステムでカラー作品として製作公開されましたが、現在では復元が難しく、長らくモノクロでの視聴しか叶わなかったものを、白黒プリントから4Kスキャンを行い、疑似カラーによって復元したもの。 神保町シアターで2015年に「恋する女優 芦川いづみ」特集で上映された際は、当時まだ白黒版での上映でしたが、今回の2023年版「恋する女優 芦川いづみ」特集でカラー上映となりました。

 美しい諏訪湖の自然がカラーで見られるほか、芦川いづみの入浴シーンの肌の色などもまずまず。一方で、室内シーンなどが意図せずにセピア調になってしまっていて色の出がイマイチだったりし、芦川いづみのセーラー服のスカートが風に舞うごとにその色がブルーに見えたり茶色に見えたりして、もう少し色ムラの補正もして欲しかった気もしました。

「誘惑」1957.jpg「誘惑」2.jpg「誘惑」●制作年:1957年●監督: 中平康●製作:高木雅行●脚本:大橋参吉●撮影:山崎善弘●音楽:黛敏郎●原作:伊藤整●時間:91分●出演:左幸子/芦川いづみ/千田是也/渡辺美佐子葉山良二/安井昌二/轟夕起子/中原早苗/殿山泰司/小沢昭一/二谷英明/宍戸錠/(以下、本人役)岡本太郎/東郷青児/勅使河原蒼風/徳大寺公英●公開:1957/09●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-11)(評価:★★★☆)

誘惑 HDリマスター版 [DVD]

日活110年記念 ブルーレイ&DVDシリーズ 20セレクション 知と愛の出発 [カラー復元版] [DVD]
「知と愛の出発」d.jpg「知と愛の出発」●制作年:1958年●監督:齋藤武市●企画:高木雅行●脚本:植草圭之助●撮影:姫田真佐久●音楽:鏑木創●原作:中村八朗●時間:93分●出演:芦川いづみ(綾部桃子)/川地民夫(南条靖)//宇野重吉(桃子の父・綾部健司)/中原早苗(桃子の親友・津川洋子)/白木マリ(同・河野恵美)/小高雄二(医師・三樹)/永田靖(靖の父・南条茂人)/夏川静江(靖の母・南条夏江)/「知と愛の出発」p2.jpg永井智雄(恵美の父、河野病院院長・河野秀樹)/利根はる恵(恵美の妻・河野順子)/廣岡三栄子(洋子の母・津川咲江)/二谷英明(雑誌記者)/清水マリ子(諏訪湖ホテルのアルバイトの少女A)/鎌倉はるみ(同B)/江端朱実(靖の妹・南条春子)/近藤宏(咲江の愛人・吉川)/河上信夫(雑誌記者の上司)/河合健二(記者)/鴨田喜由(バー「ナポリ」の客)/弘松三郎(自動車会社のセールスマン)/長尾敏之助(諏訪湖ホテルの支配人)/阪井幸一朗(ボーイ頭)/小柴隆(バー「ナポリ」の客)/堀江勇(都会の青年)/柳瀬志郎(同)/大須賀更生(同)/須藤孝(記者)/亀谷雅敬(桃子の弟・綾部満)/松原光一(都会の青年)/清水千代子(看護婦)/高田栄子(同)/菅乃梨子(同)/鈴木俊子(同)/佐川明子(同)●公開:1958/06●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-11)(評価:★★★)

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吉行淳之介の文学世界観、性に対する探究者的な姿勢を映像化。DVDリリースを望む。

砂の上の植物群 ps.jpg西尾三枝子 砂の上の植物群9.png 砂の上の植物群 稲野.jpg
【発売延期・発売日未定】砂の上の植物群 [DVD]」['14年]西尾三枝子/中谷昇

砂の上の植物群221.jpg 化粧品セールスマン伊木一郎(仲谷昇)は、ある夜マリンタワーの展望台で見知らぬ少女(西尾三枝子)に声をかけられた。真赤な口紅が印象的だった。少女は自ら伊木を旅館に誘う。裸身の少女は想像以上に熟れていたが、いざとなると拒み続けた。二人は名も告げずに別れるが、一週間後再び展望台で出逢う。今度は伊木が少女を誘った。少女は苦痛を訴えながらも、伊木の身体を受け入れた。その夜初めて名乗った少女の名は津上明子、高校三年生だった。明子の姉・京子(稲野和子)は、バー「鉄の槌」のホステスをしていた。親代りの姉は、明子に女の純潔についてうるさかったが、自らは昼日中から男とホテルに入り浸っていた。明子はそんな京子を激しく憎み、伊木に姉をひどい目に遭わせてくれと頼む。伊木はそんな京子に興味を感じ、バー「鉄の槌」を訪ねる。その夜、伊木は京子を抱き、京子は、マゾヒスティックな媚態で伊木に応える。伊木と京子の密会は続き、京子のマゾヒスティックな欲望は募る一方だった。伊木も京子との異常な情事に流されていったが、一方、伊木は父と妻・江美子(島崎雪子)の関係を訝り、父の旧知の散髪屋(信欣三)から、妻の秘密を探っていた。散髪屋は父と妻との関係は否定したが、父と芸者との間に生まれた腹違いの妹がいると言う。その名は京子といった。しかも明子は、姉妹は父違いだと言う。伊木は重苦しい疑惑に苛まされる。そんなとき、明子から姉のことを知りたいと電話があった。伊木は京子を旅館の一室にあられもない姿のまま閉じ込め、明子の前に晒した。散髪屋が言う京子は別人だった。全てが終ったと思ったが、数日後再び会った伊木と京子は、夕日に染まる海岸通りにその影が消えていく―。 

中平康.jpg砂の上の植物群.jpg 1964年3月公開の「月曜日のユカ」(日活)の中平康(なかひら こう、1926-1978/52歳没)監督の、同じく'64年の8月公開作です。原作の吉行淳之介の『砂の上の植物群』は、'63年に雑誌「文学界」に連載され、'64年3月に単行本刊行されていて、単行本が出てすぐに映画化されたことになり、原作が当時世間に注目されたことが窺えます。

中平康(1926-1978)/吉行淳之介『砂の上の植物群 (新潮文庫)
  
砂の上の植物群bs.jpg 当時はともかく、今ではそれほどセンセーショナルとも言えない内容ではないかと言われながらもなかなかソフト化されず、2014年にやっとDVD化されたと思ったら、発売延期になり、その後、発売日未定のままとなって「砂の上の植物群」 pc.jpgいます(DVD化される数年前くらいにNHK⁻BS2で放映されていたのを観たのだが)。個人的には、神保町シアターで、なぜか「生誕135年 谷崎潤一郎 谷崎・三島・荷風―耽美と背徳の文芸映画」企画の1本として再見しました。映画は、オープニング・クレジットをはじめ、本編の途中に挿入される、原作のタイトルの元となったパウル・クレーの絵が出てくるシーンのみカラーで、本編のドラマ部分はモノクロとなっています。

 原作は、表面的には、今で言えば、援助交際、SM、コスプレなどの言葉に置き換えられる状況設定が描かれていて、それが世間で話題を呼んだ最大の要因かと思われますが、小説としては根本的には「心理小説」と言うべきものであると思います。これを、このまま映像化してしまうと、単なる通俗ドラマになりかねないところですが、「テクニックの人」と呼ばれた中平康監督は、登場人物のアップシーンを繰り返すことで、通俗に陥ることを巧みに回避しているように思われました。

砂の上の植物群7.jpg そのやり方は徹底していて、冒頭の横浜マリンタワーで伊木と明子が初めて出会うシーンからして、マリンタワーや展望台のすべてを映すことはせず(原作でも「マリンタワー」と特定しているわけではない)、エレベータ内ですらその全部は映さず、エレベーターガールの唇をアップで映してばかりいるといった具合です。従って、あとから出てくるいくつかの濡れ場シーンも、顔や身体の一部しか映さず、肉体はオブジェのように扱われると同時に感情の表象でもあり、そのことで、ある種〈抽象化〉を行っているように思われました(時にシュールなシーンもあったりした)。

 ストーリー的には比較的原作に沿って作られているように思われ、個人的には吉行作品が好きなので良かったと思います。伊木がなぜ今化粧品セールスマンなどやっているかということは省かれていましたが(以前定時制高校の教師をしていたが、教え子の女生徒が働く酒場へ何度か通ったことが人の噂になり、高校を辞めることになった)、父親(原作者の父・吉行エイスケが意識されていると言われている)と妻を巡るしこりのような疑惑は生かされていました。

砂の上の植物群892.png 伊木が友人二人といると、一人が「痴漢」に間違えられそうになった話をしますが、実際やっていることはほぼ痴漢か、また今でいうストーカーに近かったりもし、もう一人の立派な紳士に見える友人の方は、二人を女性が「気を遣る」見世小池朝雄.jpg高橋昌也.jpg物(今で言えば「覗き部屋」みたいなものか)に連れて行ったりと、このあたりも原作通りかと思いますが、実際に演じているのがそれぞれ小池朝雄と高橋昌也で、共にちょっと怪演っぽい印象でした(笑)。

 しかしながら映画全体としては、吉行淳之介の文学的世界観を、もっと言えば性に対する探究者的な姿勢を、先駆的映像表現でとらまえていたように思われ、ソフトリリースへの期待も込めて星4つの評価としました(中平康は再評価されつつあると思うが、作品を観られないのではどうしょうもないではないか)。

 伊木を演じた中谷昇(なかや のぼる、1929-2006)は、中央大学法学部中退後、文学座、劇団「雲」を経て、演劇集団「円」に所属していた役者で、ちょうどこの作品の頃は、芥川比呂志、神山繁、小池朝雄らと文学座を脱退し、福田恆存を中心とした劇団「雲」に移籍した頃になります(岸田今日子と1954年に結婚、一女をもうけるも1978年に離婚)。テレビドラマでは、教授役・首相役・組織の長などの中谷昇 砂の上の植物群9.png地位の高い役を担当することが多く、「キイハンター」('68年~'73年)の村岡・国際警察特別室長役、「カノッサの屈辱」('90-91年)の教授役などもそうでした(松本清張原作、野村芳太郎監督の「疑惑」('82年/松竹)では桃井かおりに振り回される男の役で出ていた)。

 明子役の西尾三枝子は、1947年7月生まれなので、この作品に出た時は17歳になる少し前ぐらいでしょうか。同年2月公開の三田明のデビュー曲をモチーフにし、三田明自身も出演した所謂"昭和青春歌謡映画"「美し美しい十代.jpgい十代」('64年/日活)で主役デビューしていますが、当初から、まだ現役の女子高校生とは思わせないほどの演技ぶりを見せていました。'66年に日活を退社。その後、徐々にヌード、セクシー路線への出演を要求されるようになったことも伴い、活動の場をテレビドラマへ移行し、個人的には「サインはV」(1970)や「プレイガール」(1970-74)などに出ていた記憶があります(今は赤坂のTBS近くでカラオケスナックを経営している)。

「美しい十代」('64年/日活)

中谷昇 in「キイハンター」('68-73年)/「疑惑」('82年)/「カノッサの屈辱」('90-91年)
仲谷昇 キイハンター.jpg 中谷昇 疑惑.png 仲谷昇 カノッサの屈辱.jpg

西尾三枝子(1947年生まれ)in「恐怖劇場アンバランス(第9話)/死体置場(モルグ)の殺人者」('73年('69年制作))/「サインはV」('70年)/「プレイガール」('70年-'74年)
第9話 死体置場(モルグ)の殺人者 0.jpg 西尾三枝子 サインはv.jpg プレイガール nisiuo.jpg


砂の上の植物群 p0ster.jpg砂の上の植物群5.jpg砂の上の植物群m.jpg「砂の上の植物群」●制作年:1964年●監督:中平康●脚本:池田一朗/加藤彰/中平康●撮影: 山崎善弘●音楽:黛敏郎●原作:吉行『砂の上の植物群』.jpg淳之介●時間:95分●出演:仲谷昇/伊木江美子/稲野和子/西尾三枝子/島崎雪子/信欣三/小池朝雄/高橋昌也/福田公子/岸輝子/須田喜久代/雨宮節子/浜口竜哉2021年02月12日 神保町シアター.jpg/藤野宏/有田双美子/葵真木子/小柴隆/谷川玲子●公開:1964/08●配給:日活●最初に観た場所(再見):神保町シアター(21-02-12)(評価:★★★★)

2021年2月12日 神保町シアター「生誕135年 谷崎潤一郎 谷崎・三島・荷風――耽美と背徳の文芸映画」

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