【2995】 ○ 中平 康 (原作:吉行淳之介) 「砂の上の植物群 (1964/08 日活) ★★★★

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吉行淳之介の文学世界観、性に対する探究者的な姿勢を映像化。DVDリリースを望む。

砂の上の植物群 ps.jpg西尾三枝子 砂の上の植物群9.png 砂の上の植物群 稲野.jpg
【発売延期・発売日未定】砂の上の植物群 [DVD]」['14年]西尾三枝子/中谷昇

砂の上の植物群221.jpg 化粧品セールスマン伊木一郎(仲谷昇)は、ある夜マリンタワーの展望台で見知らぬ少女(西尾三枝子)に声をかけられた。真赤な口紅が印象的だった。少女は自ら伊木を旅館に誘う。裸身の少女は想像以上に熟れていたが、いざとなると拒み続けた。二人は名も告げずに別れるが、一週間後再び展望台で出逢う。今度は伊木が少女を誘った。少女は苦痛を訴えながらも、伊木の身体を受け入れた。その夜初めて名乗った少女の名は津上明子、高校三年生だった。明子の姉・京子(稲野和子)は、バー「鉄の槌」のホステスをしていた。親代りの姉は、明子に女の純潔についてうるさかったが、自らは昼日中から男とホテルに入り浸っていた。明子はそんな京子を激しく憎み、伊木に姉をひどい目に遭わせてくれと頼む。伊木はそんな京子に興味を感じ、バー「鉄の槌」を訪ねる。その夜、伊木は京子を抱き、京子は、マゾヒスティックな媚態で伊木に応える。伊木と京子の密会は続き、京子のマゾヒスティックな欲望は募る一方だった。伊木も京子との異常な情事に流されていったが、一方、伊木は父と妻・江美子(島崎雪子)の関係を訝り、父の旧知の散髪屋(信欣三)から、妻の秘密を探っていた。散髪屋は父と妻との関係は否定したが、父と芸者との間に生まれた腹違いの妹がいると言う。その名は京子といった。しかも明子は、姉妹は父違いだと言う。伊木は重苦しい疑惑に苛まされる。そんなとき、明子から姉のことを知りたいと電話があった。伊木は京子を旅館の一室にあられもない姿のまま閉じ込め、明子の前に晒した。散髪屋が言う京子は別人だった。全てが終ったと思ったが、数日後再び会った伊木と京子は、夕日に染まる海岸通りにその影が消えていく―。 

中平康.jpg砂の上の植物群.jpg 1964年3月公開の「月曜日のユカ」(日活)の中平康(なかひら こう、1926-1978/52歳没)監督の、同じく'64年の8月公開作です。原作の吉行淳之介の『砂の上の植物群』は、'63年に雑誌「文学界」に連載され、'64年3月に単行本刊行されていて、単行本が出てすぐに映画化されたことになり、原作が当時世間に注目されたことが窺えます。

中平康(1926-1978)/吉行淳之介『砂の上の植物群 (新潮文庫)
  
砂の上の植物群bs.jpg 当時はともかく、今ではそれほどセンセーショナルとも言えない内容ではないかと言われながらもなかなかソフト化されず、2014年にやっとDVD化されたと思ったら、発売延期になり、その後、発売日未定のままとなって「砂の上の植物群」 pc.jpgいます(DVD化される数年前くらいにNHK⁻BS2で放映されていたのを観たのだが)。個人的には、神保町シアターで、なぜか「生誕135年 谷崎潤一郎 谷崎・三島・荷風―耽美と背徳の文芸映画」企画の1本として再見しました。映画は、オープニング・クレジットをはじめ、本編の途中に挿入される、原作のタイトルの元となったパウル・クレーの絵が出てくるシーンのみカラーで、本編のドラマ部分はモノクロとなっています。

 原作は、表面的には、今で言えば、援助交際、SM、コスプレなどの言葉に置き換えられる状況設定が描かれていて、それが世間で話題を呼んだ最大の要因かと思われますが、小説としては根本的には「心理小説」と言うべきものであると思います。これを、このまま映像化してしまうと、単なる通俗ドラマになりかねないところですが、「テクニックの人」と呼ばれた中平康監督は、登場人物のアップシーンを繰り返すことで、通俗に陥ることを巧みに回避しているように思われました。

砂の上の植物群7.jpg そのやり方は徹底していて、冒頭の横浜マリンタワーで伊木と明子が初めて出会うシーンからして、マリンタワーや展望台のすべてを映すことはせず(原作でも「マリンタワー」と特定しているわけではない)、エレベータ内ですらその全部は映さず、エレベーターガールの唇をアップで映してばかりいるといった具合です。従って、あとから出てくるいくつかの濡れ場シーンも、顔や身体の一部しか映さず、肉体はオブジェのように扱われると同時に感情の表象でもあり、そのことで、ある種〈抽象化〉を行っているように思われました(時にシュールなシーンもあったりした)。

 ストーリー的には比較的原作に沿って作られているように思われ、個人的には吉行作品が好きなので良かったと思います。伊木がなぜ今化粧品セールスマンなどやっているかということは省かれていましたが(以前定時制高校の教師をしていたが、教え子の女生徒が働く酒場へ何度か通ったことが人の噂になり、高校を辞めることになった)、父親(原作者の父・吉行エイスケが意識されていると言われている)と妻を巡るしこりのような疑惑は生かされていました。

砂の上の植物群892.png 伊木が友人二人といると、一人が「痴漢」に間違えられそうになった話をしますが、実際やっていることはほぼ痴漢か、また今でいうストーカーに近かったりもし、もう一人の立派な紳士に見える友人の方は、二人を女性が「気を遣る」見世小池朝雄.jpg高橋昌也.jpg物(今で言えば「覗き部屋」みたいなものか)に連れて行ったりと、このあたりも原作通りかと思いますが、実際に演じているのがそれぞれ小池朝雄と高橋昌也で、共にちょっと怪演っぽい印象でした(笑)。

 しかしながら映画全体としては、吉行淳之介の文学的世界観を、もっと言えば性に対する探究者的な姿勢を、先駆的映像表現でとらまえていたように思われ、ソフトリリースへの期待も込めて星4つの評価としました(中平康は再評価されつつあると思うが、作品を観られないのではどうしょうもないではないか)。

 伊木を演じた中谷昇(なかや のぼる、1929-2006)は、中央大学法学部中退後、文学座、劇団「雲」を経て、演劇集団「円」に所属していた役者で、ちょうどこの作品の頃は、芥川比呂志、神山繁、小池朝雄らと文学座を脱退し、福田恆存を中心とした劇団「雲」に移籍した頃になります(岸田今日子と1954年に結婚、一女をもうけるも1978年に離婚)。テレビドラマでは、教授役・首相役・組織の長などの中谷昇 砂の上の植物群9.png地位の高い役を担当することが多く、「キイハンター」('68年~'73年)の村岡・国際警察特別室長役、「カノッサの屈辱」('90-91年)の教授役などもそうでした(松本清張原作、野村芳太郎監督の「疑惑」('82年/松竹)では桃井かおりに振り回される男の役で出ていた)。

 明子役の西尾三枝子は、1947年7月生まれなので、この作品に出た時は17歳になる少し前ぐらいでしょうか。同年2月公開の三田明のデビュー曲をモチーフにし、三田明自身も出演した所謂"昭和青春歌謡映画"「美し美しい十代.jpgい十代」('64年/日活)で主役デビューしていますが、当初から、まだ現役の女子高校生とは思わせないほどの演技ぶりを見せていました。'66年に日活を退社。その後、徐々にヌード、セクシー路線への出演を要求されるようになったことも伴い、活動の場をテレビドラマへ移行し、個人的には「サインはV」(1970)や「プレイガール」(1970-74)などに出ていた記憶があります(今は赤坂のTBS近くでカラオケスナックを経営している)。

「美しい十代」('64年/日活)

中谷昇 in「キイハンター」('68-73年)/「疑惑」('82年)/「カノッサの屈辱」('90-91年)
仲谷昇 キイハンター.jpg 中谷昇 疑惑.png 仲谷昇 カノッサの屈辱.jpg

西尾三枝子(1947年生まれ)in「恐怖劇場アンバランス(第9話)/死体置場(モルグ)の殺人者」('73年('69年制作))/「サインはV」('70年)/「プレイガール」('70年-'74年)
第9話 死体置場(モルグ)の殺人者 0.jpg 西尾三枝子 サインはv.jpg プレイガール nisiuo.jpg


砂の上の植物群 p0ster.jpg砂の上の植物群5.jpg砂の上の植物群m.jpg「砂の上の植物群」●制作年:1964年●監督:中平康●脚本:池田一朗/加藤彰/中平康●撮影: 山崎善弘●音楽:黛敏郎●原作:吉行『砂の上の植物群』.jpg淳之介●時間:95分●出演:仲谷昇/伊木江美子/稲野和子/西尾三枝子/島崎雪子/信欣三/小池朝雄/高橋昌也/福田公子/岸輝子/須田喜久代/雨宮節子/浜口竜哉2021年02月12日 神保町シアター.jpg/藤野宏/有田双美子/葵真木子/小柴隆/谷川玲子●公開:1964/08●配給:日活●最初に観た場所(再見):神保町シアター(21-02-12)(評価:★★★★)

2021年2月12日 神保町シアター「生誕135年 谷崎潤一郎 谷崎・三島・荷風――耽美と背徳の文芸映画」

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