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個人的な思い出の記録でありながらも、記録・資料データが充実していた(貴重!)。

昭和の東京 映画は名画座.jpg昭和の東京 映画は名画座1.jpg
昭和の東京 映画は名画座』帯写真:昭和館/文芸坐/佳作座

s人世坐ド.jpg かつて東京中に数多くあった名画座について、著者の記憶を中心に上映作品や周辺の雰囲気にまで想いを巡らせて辿った本。著者はCM・映像業界で仕事をしている人であり、基本的には個人的な思い出をエッセイ風に綴ったものに、どの映画館でいつ何を観たという記録を付したものでありながらも、名画座(紹介されている名画座は82館で、そのほとんどが今は無くなっている)に関する記録・資料データが充実していて、ノスタルジーに流されがちな類書とちょっと違った、「名画座」史とも言える貴重な歴史資料にもなっているように思いました。

 著者は1949(昭和24)年生まれで、子どもの頃には家族と一緒に劇場に映画を観に行ったようですが、最初の「名画座」体験は、1965(昭和40)年に池袋の日勝地下でジュールス・ダッシン監督の「トプカピ」を観たことだとあります(それでも16歳くらいかあ。東京の子はいいなあ)。自身を「池袋の人生坐に行った最後の世代だろう」としていて(人生坐閉館は1968年)、「昭和の名画座の存在を知らない世代がこれから増えて行くのだから、知っていることを著そうと思った」とのことです。

昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg 名画座の劇場の外観・入口・館内などの写真や、プログラム・チラシなどの写真があるほかに、池袋や新宿、銀座など主な街の昭和49(1974)年1月1日と昭和64(1989)年1月7日の映画館マップを再構成して対比させているのが特徴的です。映画館の写真は、当時自分が撮影したものを基本として一部は高瀬進氏などから借り、地図は、東京の映画館のすべてではなく、本書で取り上げている映画館に限ったとのことですが、自身が通った映画館が中心になっているものの、オープン年月日とその時の上映作品、それまでの生い立ちやその後の経営していた興行会社の変遷、座席数などの設備、閉館の年月日とラスト上映作品などを調べていて、アマチュアでここまでやれば立派なものです。

有楽シネマ、銀座シネ・ラ・セット/ヒューマントラストシネマ有楽町(イトシアプラザ)
有楽シネマ 1991頃.jpg0銀座シネ・ラ・セット.jpg0ヒューマントラストシネマ有楽町.jpg 何となくこの辺りに映画館があったのではないかなあと思ったら、ついこの間行った映画館が、実はその昔あった映画館の跡地に建ったものだったりしたことも分かって興味深かったです。「ヒューマントラストシネマ有楽町」が「有楽シネマ」(後に「銀座シネ・ラ・セット」)の跡地(有楽町2丁目8)のすぐ傍(有楽町2丁目7)であったりと、周囲がすっかり変わってしまい、入居ビルそのものも建て替わっていたりするので気づきにくいけれど、考えみれば地理的にはほぼ同じ場所で映画を観てたりするのだなあと。
(「fpdの映画スクラップ貼」より)
64f有楽シネマ.jpeg

傑作座.JPG 自分が映画館に通い始めたころにはもう潰れてしまっていた名画座も多く出ていて、銀座の今の「東劇」ではなく(東劇はロード館)、建替えられる前の東劇ビルの5階にあった名画座「傑作座」(1972(昭和47)年閉館)が紹介されていたり、また、三原橋の交差点地下にあった「銀座シネパトス」が、1988(昭和63)年までの館名だった「銀座名画座」の名で紹介されていたりもし、少しだけ世代の違いを感じますが(もちろん、建物の建て替えや、館の呼称の変遷などは詳しく記されている)、それでも時期的に自分が名画座に通った時期と重なるところも多く、館内の様子なども書かれていて懐かしかったです。池袋篇、新宿篇が充実していて、これも個人的によく映画を観に行った場所と重なるのが嬉しいです。

 それにしても、名画座のオープン年月日とその時の上映作品、閉館の年月日とラスト上映作品は、本当によく調べたものだなあと思わされます。早稲田通り沿いにあった「ACTミニシアター」などのそれはどうやって調べたのでしょうか。ACTなどの写真があればもっといいのでしょうが、それは望みすぎというもの。著者のよく行った映画館が中心であるものの、データ面でこれだけ充実していれば◎とすべきでしょう。労作だと思います。個人の思い入れは(本来はものすごく思い入れがあるのだろうが)さらっと流している分、読む側の方が逆に思い入れしやすくなっていると言えるかもしれません。

昭和49(1974)年1月1日と昭和64(1989)年1月7日の渋谷の映画館マップ
昭和の東京映画は名画座.jpeg

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楽しく読め、資料的価値も高い。こうした本が出せる最後のタイミングだったかも。

名画座時代.jpg 『名画座時代―消えた映画館を探して』 ['06年]  阿奈井文彦.jpg 阿奈井 文彦 氏

 昭和30年代の映画黄金時代に最盛期を迎え、ビデオ・DVDの普及、シネコンの登場などで衰退していった「消えた映画館」のあった地を訪ね歩き、その関係者に取材して、映画への偏愛を聞き書きした本で、季刊誌「通販生活」(カタログハウス)の'02年から'05年までの連載に加筆して単行本化したもの。

 取り上げているのは、東京の映画館は、人世坐、日活名画座、佳作座、東急名画座の4館で、地方は、前橋、門司、松山、沖縄、福岡、浦河、広島、京都、倉敷の9つの町の名画座。

飯田橋佳作座.jpg 飯田橋の佳作座('88年閉館)は個人的に懐かしいですが(渋谷の東急名画座は、自分が初めて行った80年代前半頃にはもうロードショー館になっていた)、東京で「伝説の名画座」と言えば、やはり文芸坐の前身の人世坐('68年閉館)と新宿の日活名画座('72年閉館)なのでしょう。それぞれの当時の建物、パンフレットやプログラムの写真のほか、元支配人だった人への取材、日活名画座のポスターを描いていた和田誠氏へのインタヴューなどもあります。

 地方の映画館は殆ど知りませんが、この著者はかつていろいろな土地に住んだことがあるようで、著者にとっては紹介されている町の多くが想い出の地でもあり、旧支配人など、著者のインタヴューを受けた関係者の想いだけでなく、著者自身の思い入れも伝わってきます。
 また、映写技師や看板の描き屋さんだった人、当地の映画(館)ファンだった人などにも取材していて、沖縄のお医者さんで13床のベッドを潰して院内に患者向けの映写室を作ってしまった人とかもいて、スゴイなあと。

 「消えた映画館」が殆どですが、全部無くなってしまっているわけでもなく、浦河(北海道・日高管内)の大黒座みたいに、4代目の人がミニシアターとして復活させている例もあり、頑張っているなあという感じ。

 でも、当時現場にいた人の多くは既に高齢で、まさか今更取材を受けるとは思わなかったという感じで(但し、訊かれると昔のことをよく覚えている)、支配人だった人が亡くなって、その息子さんから話を伝え聞くような場面も多く、著者自身は年齢(昭和13年生まれ)の割にはフットワークはいいようですが、相手がいなければ仕方が無い・・・こうした本が出せる最後のタイミングだったかも。

 掲載されている当時の写真やポスター、オリジナルのパンフレットやチラシの数も多く(ある時期の年間の上映作品一覧などもある)、それだけでも資料としての価値はあるかと思いますが、こうした関係者の肉声が盛り込まれているのが貴重ではないかと(残念ながら生の声を聞けなかった人も多くいたわけだが)。

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消え行く映画館を追った写文集。写真があるというのは、それだけで資料的価値はあるかと。

映画館物語―映画館に行こう!.jpg映画館物語―映画館に行こう!』['02年] 想い出の映画館.jpg想い出の映画館』['04年]

 『映画館物語-映画館に行こう』('02年12月刊行)は、全国の映画館を旅歩いてカメラに収めてきた著者が、その中から数百点の写真を厳選し、その映画館に纏わるエピソードを添えた写文集で、札幌から始まって沖縄まで273館を紹介して終わっていますが、今は閉館になったものを重点的に拾っています。

 1枚1枚の写真が大判なのが良く(すべてモノクロ写真)、こうして見ると、東京の今は無き映画館も懐かしいですが、地方の行ったこともない映画館で今は閉館になっているものの写真も、どことなく郷愁をそそります(地方の映画館などは、街の過疎化を象徴しているようでもあり、侘びしさも感じる)。

 消え行くものは美しい―必ずしも、そういうコンセプトのみで作られた本ではないとは思いますが、表紙に'98年オープンの「ラピュタ阿佐ヶ谷」をもってきているのは、全体のトーンからして少しずれているような気も。

 『想い出の映画館』('04年9月刊行)も同趣の本で(こちらもすべてモノクロ写真)、概ね関東と関西に分けて紹介していて、東京地区だけで見ても、新宿、渋谷、池袋、浅草、錦糸町、亀有、大井・蒲田、銀座、有楽町、中野、吉祥寺・三鷹、高田馬場、早稲田と街ごとに、閉館となった名画座をより詳しく紹介しているため、自分としては親近感がありました。

三軒茶屋中央劇場.jpg目黒シネマ.jpg それでも結構漏れていると思われるものもあり(『映画館物語』にあった「目黒シネマ」や「三軒茶屋中劇」の写真が『想い出の映画館』にはない)、紙数上、これは仕方がないことか。「三鷹」などは紹介文が3行しかなく「三鷹オスカー」の写真が1枚あるだけ。
 でも、やはり、写真が載っているというのは、それだけで資料的価値はあるかなあと。

パール座.jpg下高井戸東映.jpg 個人的には、古色蒼然とした写真よりもちょっと古め程度の写真、例えば「下高井戸シネマ」のリニューアル前の写真に「下高井戸京王」という看板が見えるのとか(『映画館物語』)、西友の地下にあった高田馬場「パール座」の入口の写真(『想い出の映画館』)などに懐かしさを覚えました。

自由が丘武蔵野館.jpg中野武蔵野ホール.jpg 『映画館物語』の中で、「中野武蔵野ホール」で頑張っている女性スタッフが紹介されていますが、1年半後に刊行の『想い出の映画館』では閉館となったと紹介されており('04年5月閉館)、「シネ・ラ・セット」(旧有楽シネマ)もそう('04年1月閉館)、どちらの本にも出てこないけれども、「自由が丘武蔵野館」もそうなんだよなあ('04年2月閉館)。

早稲田松竹.jpg このように、本書刊行後に閉館となった映画館も多いですが、「早稲田松竹」や「目黒シネマ」みたいに頑張っているところもあり、但し、レンタルビデオによって名画座が衰退し、更にデジタル録画時代に入り、昔ほどの"値ごろ"感がないのは事実。

 著者は、シネコンを味気ないとして嫌っているようですが、渋谷は既にそうだし、新宿も大方がシネコン化していくのでしょう。
 個人的には、シネコンであろうと、昔の名画座のようなその映画館独自の色合いがあればそれでいいのではとも思いますが、実際にはどれもこれも均質化してきているのが何とかならないものかと。

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資料的なものを期待した分、期待外れになってしまった。

東京名画座グラフィティ.jpg  文芸坐.jpg 文芸坐 三鷹オスカー予定表.jpg 五反田TOEIシネマ 2.jpg
東京名画座グラフィティ (平凡社新書)』['06年]

東京名画座グラフィティ4.jpg 1953年生まれの著者が青春時代に巡った都内及びその近郊の映画館の思い出を綴ったもので、名画座の衰退、シネマ・コンプレックスの台頭著しい今日、貴重な1冊となるのかと思って読み始めましたが、どちらかと言うと著者の思い入れが先行していて、渋谷、池袋、新宿、銀座・日比谷...と街ごとには章分けされてはいるものの、資料的なグラフィティと言うよりエッセイに近い感じ。

 懐かしい映画館が次々に登場し、ああ、池袋の旧「文芸坐」や銀座の「並木座」、飯田橋の「佳作座」や高田馬場の「パール座」...etc みんな無くなってしまったなあと感慨をそそる面はありますが、主にそこでアレを観たコレを観たと言うことを中心に書かれていて、映画館1つ1つの歴史については記述が乏しく、同時期に都内の名画座を巡った団塊の世代には懐かしいかも知れませんが、後から来た世代には、いつごろまでその映画館があっていつ無くなったかということがよくわかりません。

由が丘武蔵野館5.jpg 著者がB級グルメライターでもあるためか、近所にどういう食べ物屋があったとかそういうことは書かれていますが、個人的にはそうしたことに割く紙数をむしろ各映画館の歴史の方に割いて欲しかった気がします(そういうことを書きたくなる気持ちがわからなくもないが)。

 「自由が丘武蔵野館」はかつて「自由が丘武蔵野推理」という名称だったことは書いてありますが、それを言うなら「中野武蔵野ホール」は「中野武蔵野館」だったし、「三鷹オスカー」は「三鷹東映」、「三軒茶屋中央劇場」はもともとあった「三軒茶屋映画劇場」の分館で「三軒茶屋映劇」の方が本家、著者の地元である渋谷の「東急ジャーナル」は「渋谷東急3」になる前は「東急レックス」だった...。その時代に本当にそこに通いつめていれば、絶対に忘れることのない名前だと思うのですが。

 個人の記憶と記録にのみ頼って書いている感じで、抜け落ちも結構あるような印象を持ちながら読んでいたら、あとがきで「漏れていました」みたいな感じで、「五反田東映シネマ」とか出てくる...(これも「五反田東映」という封切館に併設されていた3本立名画座(洋画館)「五反田TOEIシネマ」というのが正しい表記ではないだろうか)。

 最初からエッセイとして読めば良かったのかも知れませんが、資料的なものを期待した分、期待外れになってしまいました。

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