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「結婚が不要な」社会と「結婚したい人が結婚できない」社会が同時進行する今の日本。
山田 昌弘 中央大学教授
『結婚不要社会 (朝日新書)』['19年]
なんのための結婚か? 決定的な社会の矛盾がこの問いで明らかに―。好きな相手が経済的にふさわしいとは限らない、経済的にふさわしい相手を好きになるとも限らない、しかも結婚は個人の自由とされながら、社会は人々の結婚・出産を必要としている...。これらの矛盾が別々に追求されるとき、結婚は困難になると同時に、不要になるのである。平成を総括し、令和を予見する、結婚社会学の決定版!(「BOOK」データベースより)
『結婚の社会学―未婚化・晩婚化はつづくのか』('96年/丸善ライブラリー)以来、20年以上にわたって結婚について研究し、その後も『「婚活」時代』('08年/ディスカヴァー携書、白河桃子氏との共著)などを世に送り出している社会学者による本です。
著者自身は「婚活」を推進し続ける立場ですが、今日の日本社会は結婚不要社会に向かっており、且つ、この社会的トレンドは、「結婚したい人が結婚できない」という困難を克服することには残念ながら繋がっていないとしています。
まず第1章で、結婚困難社会となった日本の現状を分析し、第2章から第6章にかけて、結婚というものを再考(第2章)、結婚の歴史を、結婚不可欠社会としての近代(第3章)、皆結婚社会としての戦後(第4章)、「結婚不要社会」となった現代(第5章)とその変遷を振り返り、同時に現代は結婚困難社会でもあるとしてその対応を探っています(第6章)。
本書によれば、著者が『結婚の社会学』を著した'96年から'18年までの22年間の大きな変化は、結婚が「したければいつでもできる」ものから「しにくいもの」になってきているということです。その原因として、近代の結婚は、経済的安定と親密性との両方を実現する制度だったものが、若者の所得格差が大きくなったために、この両方を満たすことが難しくなったとのことです。
日本では、事実婚や同棲が好まれないだけでなく、「貧乏な恋愛ならしたくない」という意識が強いので、結婚に踏み切れない若者が多く、こうしたことが結婚困難社会の要因となっている。一方で、パートナーがいなくても、それなりに楽しく生活できる仕組みが日本にはたくさんあり、「パラサイト・シングル」と呼ばれる、親とずっと同居する若者は多く、それなりに豊かに暮らせるし、独身女性は、女性の友達や母親と仲良しという人が多いとのことで、こうしたことが結婚不要社会の要因となっているということのようです。
本書の中では、同じく「結婚不要社会」化が進んでいる欧米との対比が興味深かったです。著者は、欧米は、結婚は不要だけれども、幸せに生きるためには親密なパートナーが必要な社会であり、それに対して日本は、たとえ配偶者や恋人のような決まったパートナーがいなくても、なんとか幸せに生きられる社会になったというのが著者の結論です。
その根底には、パートナーがいないとみっともないという意識(=パートナー圧力)が強い欧米と、そうしたパートナー圧力が無く、「母と二人きりで遊びに行っても恥ずかしくない」という日本人ならではの意識との違いがあるとのことです。また、日本でも離婚が増えていますが、日本では経済的な満足度が低下すると離婚し、欧米では親密性の満足度が低下すると離婚するとのこと。ただ今の日本の離婚は次第に欧米型に近づいてきているのではないかとのことです。
著者は、日本社会と欧米社会の一番大きな違いは世間体であり、日本でも世間体や見栄によらない新しい人たちが出てきてはいるものの、それはまだ特殊ケースであって多数派になっておらず、この「どうせ結婚するなら皆に羨まれる結婚したい」といった世間体へのこだわりが、、「結婚したい人が結婚できない」状況に繋がっているとみているようです(更には、「婚活」の拡がりも、"おひとりさま"になりたくないという世間体が動機づけになっているとのこと)。
今の日本はなぜ結婚する人が減り、少子化状態になってしまっているのか。何となくは原因が分からなくもなかったですが、本書を読んである程度すっきりしたというか、今の日本で起きていることが分りやすく整理されている本でした。