【3490】 ○ 小林 祐児 『罰ゲーム化する管理職―バグだらけの職場の修正』 (2024/02 インターナショナル新書) ★★★★

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分析A、ネーミングS、提案B、総合評価はAといったところか。

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罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法 (インターナショナル新書) 』['24年] 『リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考 (光文社新書) 』['23年]

 高い自殺率、縮む給与差、育たぬ後任、辞めていく女性と若手―日本の管理職の異常な「罰ゲーム化」をデータで示し、解決策を提案した本です(著者はパーソル総合研究所の研究員。前著に『リスキリングは経営課題』がある)。

 第1章の【理解編】では、管理職になることが「罰ゲーム化」してしまった現状を概観しています。業務量の増加、リソース不足、新しい素子課題への対応増、部下マネジメントの困難などのため管理職の負担感は増し、一方で、管理職の人数と賃金は減り続けていることをデータで示しています。また、海外で「日本では一般職より管理職の方が死亡率が高い」と報じられたことを自社データで裏付けし、管理職は時に死に至るものだが、このように「罰ゲーム化」しても管理職のなり手が現れるのは、日本社会における大きなジェンダーギャップのせいだとしています(「覚悟」する男性、「避妊」する女性。ただし、日本では女性の方がハードルが高くて先に抜けていくため、男性が残る)。

 第2章の【解決編】では、「管理職の何がそんなに大変なのか」という点について、データを分析しながら、職場のバグを解剖しています。管理職の負荷はロング・トレンドで上がり続けていて、そこには組織のフラット化など組織レベルの負荷トレンドもあるとしています。さらには、ハラスメント防止法が「回避型」上司を量産し、働き方改革によってメンバー層は保護されるも、管理職は優先順位が低く、加えて、「年上部下」マネジメントなどで頭を悩ますようになると。そうしたことの積み重ねで、このような管理職負荷の「インフレ・スパイラル」が起きているとしています。

 第3章の【構造編】では、「罰ゲーム化」がなぜ発生し、なぜ放置されるのかという問題を考えています。まず、「入り口問題」として、いつの間にか管理職候補にされてしまうという「オプトアウト」方式の昇進の仕組みが日本の場合あって(海外は「オプトイン」方式が一般的)、新入社員をデフォルトで出世競争に巻き込んできた経緯があり、その側面が最も分かりやすく見られるのが、このレースから「女性」が徐々に抜けていくということであるとしています。また、「管理職になると転職できなくなる」という謎について、管理職キャリアが「ジョブ」にならないという日本の特質を挙げ、その結果、「管理職になると市場価値が低下する」という事態が生じると。さらには、「出口問題」として「役職定年」を挙げ、総じて「勝手に参加させられ、勝手に降ろされる雑用係」という世界でも極めて奇妙な姿をしているのが、日本の管理職だとしています。

 第4章の【修正編】では、バグを修正し、「罰ゲーム化」を止めるための処方箋が示されています。ここでは、修正の方向性として、
  ①フォロワーシップ・アプローチ
  ②ワークシェアリング・アプローチ
  ③ネットワーク・アプローチ
  ④キャリア・アプローチ
の4つのアプローチを示し、それぞれ解説しています。「フォロワーシップ・アプローチ」とはメンバー層のトレーニングであり、「ワークシェアリング・アプローチ」とは、エンパワーメントとデリケーションの促進です。「ネットワーク・アプローチ」は管理職同士の「ネットワーク構築」の施策で、「キャリア・アプローチ」は、「健全なえこひいき」(次世代リーダー候補の早期絞り込み)と「行ったり来たり」(非幹部層の管理職のジョブローテーションの範囲を狭め、専門領域の管理職にキャリアシフトさせる)の組み合わせになります。

 第5章の【攻略編】では、管理職は「罰ゲーム」をどう生き残るか、そのための処方箋が説かれています。ここでは、先に挙げた4つの修正アプローチを現場で実践することを説き、それぞれを解説しています。その際に大原則となるポイントとして、積極的に「やらない」上司を目指す(「アクション過剰」を抑える)ことを提唱しており、「自分を許す」ことができる管理職になれと説いています。

 著者が調査会社の所属であるため、分析はなかなか鋭く、「罰ゲーム化」というキーワードのネーミングも上手いと思いました。一方で、解決策の方は、論理的にはキレイですが、どこかのファームが提唱しているようなことにも思え、インパクトがやや弱く、ほわっとした感じ。分析A、ネーミングS、提案B、総合評価はAといったところでしょうか。

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