【3491】 ○ キャサリン・A・サンダーソン (本多明生:訳) 『悪事の心理学―善良な傍観者が悪を生み出す』 (2024/02 ディスカヴァー・トゥエンティワン) ★★★★

「●企業倫理・企業責任」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3498】 中原 翔 『組織不正はいつも正しい

なぜ人は悪事を前に沈黙するのかということを、わかりやすく説得力を持って解説。

悪事の心理学2.jpg悪事の心理学.jpg悪事の心理学 善良な傍観者が悪を生み出す』['24年] キャサリン・A・サンダーソンキャサリン・A・サンダーソン.jpg

悪事の心理学3.jpg 善と悪の心理学などを研究テーマとしてきた心理学者が、悪事に直面すると人間は沈黙する、という人間の生来の性向の根底にある心理的要因を解説し、沈黙が悪事の継続にどれほど重要な役割を果たしているかを明らかにするとともに、道徳的な勇気を持つにはどうすればよいかを説いた本です。

 全3部構成の第1部「善人の沈黙」では、善良な人々が悪事を前にしてなぜ沈黙してしまうのかを、心理学的観点から解説しています。

 第1章で、悪事の継続を許す唯一最大の要因は、個々の悪人よりも、善良な人々が立ち上がって正しい行動をしないことにあるとした上で、第2章から第5章で、他人の悪事に直面したときに、人はどうして沈黙するのかを、要因ごとに解説しています。

 第2章では、集団的状況で起きる(自分が行動しなくてもばれないという)「社会的手抜き」が傍観者の不作為を生むとし、そうした傍観者効果を克服するには、公的自己意識、責任、人間関係が大切な要素となるとしています。

 第3章では、悪事に直面しても、事態の「曖昧さ」が不作為を生むとし、ただし、何が起きているか正確に分からなくとも、(他に行動者がいて)自分一人で立ち向かう必要がないときなどは、自分も行動できるとしています。

 第4章では、誰かが窮地に陥っているような状況であっても、助けると自分の命が危ない、自分の出世に関わるなどといった「援助にかかる多大なコスト」が、結果として不作為を生むとしています。

 第5章では、社会的圧力に同調してしまうのはなぜかを考察し、それは「社会集団のパワー」に同調すると気分が良くなるからであり、そのことが、集団の悪事を無視・隠蔽につながるとしています。

 第2部「いじめと傍観者」では、現実世界のさまざまな状況において、これらの状況的・心理的要因がどのように作用して行動を抑制するのかを説明し、その対処法を述べています。第6章で、学校でいじめに立ち向かう方法を、第7章で、大学で性的不正行為を減らす方法を、そして第8章では、職場で倫理的行動を育む方法を説いています。

 職場において倫理的行動を育む方法としては、倫理的なリーダーを雇うこと、非倫理的行動を容認しないこと、注意喚起のメッセージを作ること、率直に意見が伝えられる職場環境を作り出すことなどが提唱されています。

 第3部「行動の仕方を学ぶ」では、どのような人が他者と立ち向かうことができるかを考察しています。

 第9章では、道徳的勇気とは、不正を止めるために社会的排斥を受けることを厭わないことを意味するとしています。そして、そうした勇気を示す人を心理学者は「道徳的反逆者」と呼ぶとし、自身の内なる道徳的反逆者を見つけることを説いています。

 第10章では、道徳的反逆者となる方法として、変化の力を信じる、そのスキルと方法を学ぶ、とにかく実践する、ちょっとしたことでもやってみる、共感力を育てる、など10の提案をしています。

 サブタイトルに「善良な傍観者が悪を生み出す」とあります。では、なぜ人は悪事を前に沈黙するのかということを、わかりやすく説得力を持って解説しているよう思いました。組織内に「傍観者」状態を生まないようにするにはどうすればよいか(かつて問題が生じた際にどこに原因があったのか)考える上でお薦めです。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1