【3498】 ○ 中原 翔 『組織不正はいつも正しい―ソーシャル・アバランチを防ぐには』 (2024/05 光文社新書) ★★★★

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組織不正はいつも、その組織では「正しい」という判断において行われると。

組織不正はいつも正しい2.jpg組織不正はいつも正しい.jpgトヨタ会長会見.jpg 日テレ(2024.6.3)
組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには (光文社新書 1311) 』['24年]

 本書は、経営学者が、組織不正はなぜなくならないのかを考察したものです。本書によれば、組織不正は、いつでも、どこでも、どの組織でも、誰にでも起こりうるものであり、なぜなら、組織不正とは、その組織ではいつも「正しい」という判断において行われるものだからだとして、燃費不正、不正会計、品質不正、軍事転用不正の例を中心に、組織をめぐる「正しさ」に着目し考察しています。

 第1章では、組織不正は必ずしも意図的なものではないとしています。不正であるかどうかは〈第三者〉が判断するため、組織にとっての「正しさ」が認められないこともあるということです。また、組織不正には、実際に被害が発生する「発生型不正」と呼べるもののほかに、被害が見られなくとも捜査機関が立件する「立件型不正」と呼べるものがあるとのことです。本書では、組織不正を「起こりうる」ものと考えた上で、第2章から第5章で実際の事例を取り上げ、この問題にどう対処すべきかを述べています。

 第2章では、三菱自動車、スズキなどの「燃費不正」問題を取り上げています。事件の分析を通して見えてくるのは、国の基準に沿ったテスト法に対して、それは使えないものであり、メーカーは使えるテスト法を採用したという、行政とメーカーがそれぞれ「正しさ」を追求したが、その「正しさ」に差異があったということです(つまり、それぞれに「閉じられた正しさ」であったと)。

 第3章では、東芝の「不正会計」問題を分析しています。そして、「利益」を追求した結果として起きた事件ではあるが、根本原因は経営陣と各事業部との「時間感覚の差」であり、経営陣が「短い期間」での利益達成を求めた結果生じたものであるとして、利益を求める「正しさ」の中にある時間的「危うさ」を指摘しています。

 第4章では、医薬品業界の「品質不正」問題について、小林化工や日医工の不正製造を扱っています。国の政策としての、ジェネリック医薬品のシェアを早期に80%以上にするという目標が高すぎたために起きたことで、表面的には人出不足が招いたことだが、構造的には、「国―都道府県―製薬企業」間の対話の時間が少なかったことが原因だとしています。

 第5章では、大川原化工機事件における「軍事転用不正」問題を扱っています。この問題は周知のごとく、そもそも犯罪が成立しない事案について、会社の代表者らが逮捕・勾留され、公訴提起が行われたものであり、警視庁公安部や検察が、なぜ無根拠な「正しさ」に拠る暴走をしてしまったのかを考察しています。

 最終の第6章では、まとめとして、個人が「正しさ」を追求することで、いとも簡単に組織全体が崩れる「組織的雪崩」が起きることがあり、また、「組織的雪崩」の代名詞である組織不祥事や不正は、外部環境からの要求によって起きるとしています。その上で、単一的=固定的な「正しさ」から複数的=流動的な「正しさ」へと、「正しさ」を相対的に捉えることの大切さを説いています。

《読書MEMO》
BSテレ東・日経ニュースプラス9
トヨタ会長会見2.jpg 本エントリーをアップして5日後、トヨタなど自動車メーカー5社の認証不正問題が明らかになったが、トヨタのトップの記者会見を見ると、今回の不正が「立件型不正」であり、社内では「不正」と認識していなかったということがよく窺え、本書の内容に符合するものであった。そうしたことから、「(「正しさ」の認識の違いによる)不正の撲滅は無理」との発言もつい出てしまったのだろうが、本音であるにしても、トップ会見での発言としてはマズかったように思う。聞いている人は「不正」という言葉から、意図的になされる不正しか思い浮かべないのではないか。

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