【3499】 ○ 岩尾 俊兵 『世界は経営でできている (2024/01 講談社現代新書) ★★★★ (○ 岩尾 俊兵 『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか―増補改訂版『日本"式"経営の逆襲』』 (2023/10 光文社新書) ★★★★)

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人生を上手く「マネジメント」するにはどうすればよいか。腑に落ちるタイトル。
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世界は経営でできている.jpg 日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか.jpg
世界は経営でできている (講談社現代新書 2734)』['24年]
日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか (光文社新書 1279)』['23年]
岩尾俊兵氏(東京大学博士(経営学))
岩尾俊兵.jpg なぜ組織の上層部ほど無能だらけになるのか? 張り紙が増えると事故も増える理由とは? 飲み残しを置き忘れる夫は経営が下手? 貧乏から家庭、恋愛、勉強、虚栄、心労、就活、仕事、憤怒、健康、孤独、老後、さらに、芸術、科学、歴史まで15のテーマについて、東大初の経営学博士(今まで一人もいなかったのか!)であるという著者が、「経営」というキーワードで人生の課題や世界の事象を解き明かした本です。

 「本書の主張」とは、
  ① 本当は誰もが人生を経営しているのにそれに気付く人は少ない。
  ② 誤った経営概念によって人生に不条理と不合理がもたらされ続けている。
  ③ 誰もが本来の経営概念に立ち返らないと個人も社会も豊かになれない。
の3つに要約されていて、本書で言う「経営」とは、「価値創造(=他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質・意義・有効性を問い直し、究極の目的の実現を妨げる対立を解消して、豊かな共同体を創り上げること」であり、分かりやすく言えば、思い通りにいかないことを上手く「マネジメント」するということでしょう。

 目の前にある局所的な解にこだわり過ぎると、ときに人は「目的」と「手段」を取り違えるのであって、私たちの日々は困難な課題に満ちているが、人生の究極の目的を意識する経営的視点を持てば、あらゆる出来事が幸せになるためのプロセスに見えてくる―ということで、仕事から家庭、恋愛、勉強、老後まで、あらゆることがその対象となり得るということで、タイトルは腑に落ちるものでした。

 内容は社会批評や人生論みたいな印象も受け、わりと常識的ですが、でも確かに、世の中、非常識が常識になっている部分もあるしなあ。すべてを「経営」というキーワードで方法論的に括っている点が最大の特徴で、あとは「経営概念」の誤解によって生じる様々な悲喜劇をユーモアたっぷりに描いていく軽妙な文学エッセイ的文体と(章題はすべて文学作品等のパロディになっている)、幅広い知識・話題性が特徴的でしょうか。ベストセラーになったのも頷けます。

bigguturi-.jpg 個人的にいいなあと思ったのは、著書のこれまでの人生に関する記述がある箇所で、父親の会社が倒産し、中卒自衛官になって、日中働きながら高卒認定試験(旧・大検)を受け、東大に入って、父の借金の整理をしながら学生起業もした(ただし、失敗した)という凄まじい人生ですが、その話は半ページ足らずでとどめ、自身は日本社会に恩義があるとし、「(社会への)感謝を忘れ、苦労を商売道具とする、飽食の時代に卑劣を売り歩く偽物たちと一緒になりたくない」ときっぱり言っている点でした(最近著者が亡くなったが、家族との苦労話が本のすべてを占める、佐々木常夫『ビッグツリー その後―母、娘、そして家族』('23年/光文社)などとは対極にあるスタンスである)。

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか3.jpg 同著者の前著では、『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』('23年/光文社新書)を読みましたが(本書もかなり注目された)、こちらは、かつて日本企業が描いていた「お金より人が大事」という考えは、決して理想主義ではなく実利に沿ったもので、ビジネス繁栄の基盤だったのが、日本企業はその考え方を捨て、アメリカ式経営を表層的に模倣し、今や、それを実践しようとしているのは海外企業の方だと訴えています。

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか2.jpg 両利きの経営、オープン・イノベーション、ユーザー・イノベーション、リーン・スタートアップ、アジャイル開発、ティール組織―これらは海外企業による日本企業研究の結果生まれた概念で、それらが言わば"逆輸入"されているのが現状であると。「カイゼン」研究はインド、スウェーデン、中国で進んでいるとか。

 そうした現状分析と併せ、日本だからできることは何か、日本式経営の「これから」を考察した、内容的にはリジッドなビジネス本でした。単行本として刊行された『日本〝式〟経営の逆襲』('21年/日本経済新聞出版)の増補改訂版ですが、この『世界は経営でできている』と同じ著者の本であると思い出すのに少し時間がかかりました。著者自身は「文学と経営の融合」を目指し、本書でその一歩前進ができたとしているので、今後はこっち系(どう言えばいいのか。〈やや堅めの経営ビジネス書〉から〈やや柔らかめの教養ビジネス書〉へのスライド?)の著書が多くなるのかでしょうか。

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