【3494】 ○ 片田 珠美 『職場を腐らせる人たち (2024/03 講談社現代新書) ★★★☆

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具体例は分かりよかったが、「心理屋さん」が書いた本という印象は拭えない。

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職場を腐らせる人たち (講談社現代新書 2739)』['24年] 『他人を攻撃せずにはいられない人 (PHP新書)』['13年]

 精神科医としてこれまで7,000人以上を診察してきたという一方で、『他人を攻撃せずにはいられない人』('13年/PHP新書)など多数の著書のある本書の著者によれば、最も多い悩みは、職場を「腐らせる」人がらみだとのことです。本書は、「職場を腐らせる人たち」とはどのような人であり、それに対する有効な対処法は何かを解説したものです。

 第1章では、「職場を腐らせる人たち」の具体例を紹介し、その精神構造と思考回路を分析しています。「根性論を持ち込む上司」「過大なノルマを部下に押しつける上司」「言われたことしかしない若手社員」や「完璧主義で細かすぎる人」「あれこれケチをつける人」など15の事例を挙げ、その精神構造や思考回路を分析しています。

例えば「根性論を持ち込む上司」や「過大なノルマを部下に押しつける上司」などは、次のように紹介されていて、いずれの事例も分かりやすいです。

 〈食品会社で営業部長を務める50代の男性は、「営業で大切なのは気合と根性」と日々力説し、何軒訪問したか、何人に電話したかを毎日報告させ、少ないと「気合が足らん」と激高する。しかも、自分が若い頃気合と根性で営業成績をあげた話を何度も繰り返す。残業を暗に強要し、定時に退社した社員がいると翌日デスクを廊下に出したこともある。〉

 〈保険会社の40代の男性上司は、部下を別室に呼びつけて「君の将来を思って言うんだが...」という枕詞を吐いた後、過大なノルマを押しつける。この上司は、現状を見れば達成できるとは到底思えない数字を示し、「これだけの契約を取ってくれば、上からの君の評価はうなぎ登りで、賞与にも反映されるし、今後も安泰。昇進できるし、給料も上がる。本当に君のためになるんだぞ」と熱っぽく言うそうだ。〉

 第2章では、なぜ「職場を腐らせる人」は変わらないかのかを分析し、そこには、たいてい自己保身や喪失不安が絡んでおり、合理的思考ではなく感情に突き動かされていて、けっして自分が悪いとは思わないとしています。そして、彼らは「ゲミュートローゼ」である可能性が高いとしています。「ゲミュート」とは、思いやり、同情、良心などを意味するドイツ語で、このような高等感情を持たない人を、ドイツの精神科医クルト・シュナイダーは「ゲミュートローゼ」と名づけ、日本では「情性欠如者」と訳されるそうです(実は政治家などにも多いとのこと)。

 第3章では、職場を腐らせる人を変えるのは難しいということを踏まえた上で、どう対処すべきかを説いています。ここでは、まず、その人物が「職場を腐らせる人」であることに気づき、どのタイプか見極めることが大事だとしています。さらに、そうした人のターゲットにされやすい人の特徴を8つ挙げ、ターゲットにされないためにはどうすればよいかを説いています。

 全体の3分の2を占める第1章の「職場を腐らせる人たち」の(「職場を腐らせる人」というネーミングはいい)具体例は、読んでいて、職場にそうした人がいることに思い当たる人も多いかと思います。終盤の対処法の方は、一般のビジネスパーソン目線ではまずまずですが、人事パーソン目線でみると、組織がそうした人を抱えている場合どうすればよいかという視点も必要になってきます。「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」というのは正しいと思いますが、その見解レベルで終わっている点ではやや物足りないように思いました(一般のビジネスパーソン向けに書かれているので仕方がないが)。

 個人的には、イジメ上司、卑劣な同僚、ムカつく部下......これらをどうするか? を説いた、ロバート・I・サットン著『あなたの職場のイヤな奴』('08年/講談社)という本をお薦めしたいです。この本では、そうした人物は職場からできるだけ早く追放するべきだと明確に提言しており、一方で、自分自身がそうした「イヤな奴」になってしまう危険性も説かれていて、経営組織論としても啓発書としても優れていたように思います。

 そうした本と比べると本書はどうしても、「心理屋さん」が書いた本という印象を拭えなかったです。

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