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〈暴走する〉イスラエルの現況を、歴史的背景から分かりやすく解き明かしている。
JBpress
『ガザ紛争の正体: 暴走するイスラエル極右思想と修正シオニズム (平凡社新書 1055)』['24年] 宮田 律(おさむ)現代イスラム研究センター理事長
イスラム研究者(学位は歴史学修士)である著者の本は、かなり以前に『中東 迷走の百年史』('04年/新潮新書) を読み、分かりよかったですが、今回も(と言っても刊行年に20年の隔たりはあるが)、〈暴走する〉イスラエルの複雑かつ特異な現況を、その歴史的背景から分かりやすく解き明かしています。
第1章では、イスラエルの過激な行動の背景に、ナチによるユダヤ人迫害の歴史が強く影響を及ぼしていることが指摘されており、それは本書全体を通じての流れにもなっています。
第2章から第4章では、現在イスラエルの政権を担うイスラエル極右と修正シオニズムの思想について解説し(第2章)、アメリカで生まれた、ラビ・メイル・カハネに由来する、「ユダヤのナチズム」と形容される「カハネ主義」がその源流で(第3章)、以降、「排除・殺戮の論理」を旨とするシオニズムというナショナリズムが、歴史的にどう展開されていったかが解説されています。また、ユダヤ教の本質は、現在のイスラエル極右の考えとは相容れないものであるともしています(第5章)。
第6章では、意図的に民間人や病院・学校を攻撃するイスラエルの軍事ドクトリンの表向きの理由は、ハマスの戦闘員がそこに潜んでいるというものであるだけでなく、住民たちに多くの損害を与えることで「テロリスト」への支持を失わせるという理由もあるとのだとしています。
第7章では、イスラエルが右傾化しているに対し、アメリカはリベラル化しているという両者の解離傾向を指摘し、第8章では、イスラエルの極右主義がは中東イスラーム世界にどういった大変動をもたらすかを考察、第9章で、パレスチナ和平に世界の世論の後押しが求められていると主張し、最後に、日本はイスラエルの極右政権に対して何をすべきなのかを述べています。
著者は歴史研究が専門なだけに、ハマスとイスラエルの泥沼の戦争が何処から来たのか、歴史的経緯が説明されていてわかりやすいです。日常の新聞、ニュースなどの報道がどうしても歴史的な視点が抜け落ちて、今起きていることだけ報道されるので、こうした視点は大事だと思いました。
《読書MEMO》
●イスラエルは、エルサレムは古代ユダヤ王国の首都だったからイスラエルの首都であると主張する。しかし、アラブ・イスラーム勢力はエルサレムを1200年間にわたって支配したのに対して、ユダヤ支配は424年間にすぎない。(中略)古代に支配していたから自らの土地であるという理由は現在の国際社会の秩序を混乱に陥れるものだ。そのような主張を世界の多くの国が行うようになったら、さらに多くの地域紛争が発生することだろう。
●過激な修正シオニズムの流れを受け継ぐ極右カハネ主義者であるネタニヤフ政権のスモトリッチ財務相は、2023年3月、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区のフワーラ村(人口7000人)を「消滅させる必要がある」と発言し、同年6月、ベングビール国家治安相は、イスラエルの治安状況を安定させるために数十人、あるいは数百人、さらには数千人のパレスチナ人を殺害することがイスラエル政府の責務であると語った。
イスラエルのネタニヤフ首相とスモトリッチ財務相
●ネタニヤフ首相を頂点とするイスラエルの極右を含む政権は占領地であるヨルダン川西岸にさらに100万人のユダヤ人たちを住まわせることを考え、将来的にはヨルダン川西岸をイスラエルに併合するつもりである。