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今回の戦争を俯瞰するには良い。「古い戦争」であるとの指摘がユニーク。
小泉 悠 氏
講演・質疑応答中の小泉氏('24.7.10 学士会館)講演テーマ「ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障」
『ウクライナ戦争 (ちくま新書 1697)』['22年]
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、ウクライナ戦争が始まりました。同年11月刊行の本書は、今やマスコミ・講演会等で引っ張りだこの軍事研究者(自分も来月['24年7月]その講演を聴きに行く予定)が、このウクライナ戦争について'22年末に書き下ろしたものです(本書では、2014年3月のロシアによるクリミア侵攻を「第一次ウクライナ戦争」とし、今回の侵攻を「第二次ウクライナ戦争」としている)。
第1章(2021年1月~5月)で2021年春の軍事的危機を扱い、第2章(2021年9月~2022年2月21日)で開戦前夜の状況を振り返って、戦争への道がどのように展開していったかを解説しています。
第3章(2022年2月24日~7月)で開戦からロシアの「特別軍事作戦」がどのように進行したかを、第4章(2022年8月~)で本書脱稿の2022年9月末まで、戦況がどのように推移していったか、そこで鍵を握った要素は何であったかを分析しています。
そして第5章では、この戦争をどう理解すべきか、この戦争の原因なども含め考察しています。
このように、開戦前の状況を含め、開戦から半年後までのウクライナ情勢が良くまとめられており、開戦から2年強を経た今見返すと、今回の戦争というものをある程度〈体系的〉に把握できます。今回の戦争を俯瞰するには良い本だと思います。
読んでみて思ったのは、これはやはりプーチンが起こした戦争であるということ、また、いろいろな不確定要素(特にアメリカの姿勢など)があり、先を読むのが難しいということです。
興味深いのは、世間ではこの戦争は、戦場での戦いと「戦場の外部」をめぐる戦い(非正規戦、サイバー戦、情報戦)が組み合わさった「ハイブリッド戦争」であると言われているが、戦争自体は、極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」であるとしている点です。
無人航空機などのハイテク技術は使われているものの、戦争全体の趨勢に大きな影響を及ぼしたのは、侵略に対するウクライナ国民の抗戦意識、兵力の動員能力、火力の多寡といった古典的要素だとしています。
そうなると、なおさらのこと、NATOやアメリカの、この戦争に対する関わり方というのがかなり今後の戦況に影響を及ぼすのではないかとも思います(結局、「戦場の外部」の概念を拡げれば、広い意味での「ハイブリッド戦争」ということにもなるか)。
因みに、ドナルド・トランプは、今年['24年]11月のアメリカ大統領選に向けたテレビ討論会では、「これは決して始まってはならなかった戦争だ」と言い、ロシアのプーチン大統領の尊敬される「本物の米大統領」がいれば、プーチン氏は開戦しなかったとして、ウクライナ危機はバイデン氏の責任だとする一方、ウクライナのゼレンスキー大統領を「史上最高のセールスマン」と述べ、米国はウクライナに巨額の資金を費やしすぎだとし、自らが当選すれば、大統領に就任する前に、戦争を止めてみせると豪語しています(これまた大風呂敷のように思える)。