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「東京人」で「都電」をメインに据えて特集した2冊。写真が充実。

東京人 1997年1月号都電01.jpg 東京人 昭和30年代、都電のゆく.jpg   どですかでん 1970.jpg 海に降る雪 1984.jpg
『東京人 1997年1月号「都電のゆく町」』/『東京人 2007年5月号「昭和30年代、都電のゆく町」』「どですかでん[東宝DVD名作セレクション]」頭師佳孝「海に降る雪 [VHS]」和由布子

 月刊「東京人」で「都電」をメインに据えて特集したのが、1997年1月号「都電のゆく町」と2007年5月号「昭和30年代、都電のゆく町」であり、この2冊は古書市場などでもセットになって出品されていたりします(純粋に「都電」に限定しなければ、2000年7月号特集「路面電車の走る街 都電荒川線と東急世田谷線」などといったものはある)。

1997年1月号都電目次.jpg東京人 1997年1月号都電02.jpg 1997年1月号「都電のゆく町」の方は、赤瀬川凖、安西水丸、浅田次郎といった人たち9氏が、消えた東京人 1997年1月号都電03.jpg懐かしの路線についてのそれぞれの思いの丈を綴っていますが、何よりも良かったのが、池内紀、南伸坊、田中小実昌の3氏による、唯一現存する都電荒川線のリレー紀行で、実際に改めて都電に乗ってみて、駅ごとに乗り降りして書いているのでシズル感がありました。
 
図説 なつかしの遊園地・動物園あらかわ遊園.jpg田中小実昌2.jpg 中でも、「王子駅前」から「三ノ輪橋」までの15駅区間を担当した田中小実昌の「終点は飲み屋の入り口。」というエッセイが面白かったです。荒川遊園地前で降りて、荒川遊園地で、頭上のレールを、ペダルをこいで走るスクーターみたいのが面白かったと(自分も昔に子どもを連れて乗った)。遊園地の河の手が隅田川の遊覧船の発着場所になっているのを見て、「隅田川も遊覧船が行き来するなど、セーヌ川なみになってきた」(笑)と。そして最後は、三ノ輪橋で降りて、酒場「中里」で煮込みを堪能する―(「中ざと」は、多分同じ店だと思うが、どちらかというと日比谷線の三ノ輪駅に近い場所に今もある)。

東京人 1997年1月号都電路線図.jpg 写真も充実して、付録で都電の大判路線図(「電車案内図」)が八ツ折で付いていますが(コレ、貴重!)、かつては都内を網の目のように都電が走っていたのだなあと改めて思わされます。この路線図は、2007年5月号では見開きページで(4分の1くらいの大きさになってしまったが)掲載されています。今残っているのは都電荒川線だけかあ。

 でも、1997年の都電荒川線と今の都電荒川線の車両や停車駅など見るとあまり変わっていないなあとも思ました。車両は今はいろいろなモダンなデザインのものが走っていますが、昔からの東京都カラーのも敢えて残しているのでしょう。駅が変わらないのは、スペースが狭くて変えようがない?

東京人 1997年1月号都電04.jpg 
 
2007年 05月号 都電目次.jpg東京人 2007年 05月号 都電01.jpg 2007年5月号「昭和30年代、都電のゆく町」の方は、昭和30年代という時代がコンセプトになっているようで、こちらも貴重な写真が多く、漫画家のつげ忠男氏などが文章を寄せていて、前の特集の二番煎じになっていないのがいいです(使いまわしが無く、重なっているのはまさにその「電車案内図」ぐらいか)。
 
東京人 2007年 05月号 都電02.jpg 目玉は、小林信彦氏と荒木経惟氏の対談で、でも実質4ページ足らずなので、やや物足りない感じ。その代わり写真が豊富で、また、都電が乗り物絵本でどのように描かれてきたかといった興味深い図版も10点ぐらいあります。都電の車両図鑑などもあって(都電の鉄道オタク向け?)ある意味マニアックです。

 映画評論家の浦崎浩實氏による、都電が出てくる映画なども紹介されています。中上健次原作の「十九歳の地図」('79年)の主人公は、「飛鳥山」あたりから都電で予備校に通っていたと。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の「珈琲時光」 ('04年)にも荒川線が出てくると(あの映画、JRや東京メトロも出てくる)。黒澤明の初のカラー作品「どですかでん」('70年)は、映画スチールも紹介されどですかでん02.jpgているけれど、"電車バカ"(頭師佳孝)が運転するのは"空想の路面電車"で、原作者の山本周五郎の経歴からすれば、横浜市電がモデルらしいです(本作は興行的には失敗し、黒澤明は大きな借金を抱えることになった。だだし、第44回「キネマ旬報ベスト・テン」では第3位に選ばれ、井川比佐志が男優賞を受賞した)。
「どですかでん」('70年/東宝)頭師佳孝/菅井きん

海に降る雪  1984.jpg 個人的には、畑山博原作、中田新一監督、和由布子主演の「海に降る雪」('84年)がここに出てこないのが残念。故郷を飛び出した男女が同棲するのが、まさに都電が軒をかすめるように通るアパートではなかったか(と思うのだが、都電ではなかったのか。コレ、DVD化されていないなあ)。因みに、小説発表後、女優の出演希望や企画申し込みが殺到し、一時は原田美枝子主演・監督で製作に入ったというエピソードもあります。体当たり演技の和由布子は、渡辺淳一原作、池広一夫監督の「化粧」('84年)で松坂慶子、池上季実子と京都の老舗料亭の三姉妹を演じたのが映画デビュー作で、この作品が映画出演第2作で初主演でした。1989年に五木ひろしと結婚して女優を引退しています。新高輪プリンスでのゴージャスな結婚式はバブル期を象徴するものでしたが、この映画のアパートで同棲する主人公とイメージと合わないなあと思った記憶があります。

都電さくらトラム.jpg 最後に「都電」の話に戻って、都電荒川線には2017年から「東京さくらトラム」という愛称が付けられていますが、都電に乗らない人にはあまり定着していないのではないでしょうか。逆に、都電によく乗る人の間では、「東京さくらトラム」が正式名称だと思われているフシがありますが、正式名称は「都電荒川線」のまま変わっていません。


 どですかでんc.jpg「どですかでん」●制作年:1970年●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/小国英雄/橋本忍●撮影:斎藤孝雄/福沢康道●音楽:武満徹●原作:山本周五郎『季節のない街』●時間:140分●出演:頭師佳孝/菅井きん/三波伸介/楠侑子/伴淳三郎/丹下キヨ子/日野道夫/下川辰平/古山桂治/田中邦衛/吉村実子/井川比佐志/沖山秀子/松村達雄/辻伊万里/山崎知子/亀谷雅彦/芥川比呂志/奈良岡朋子/三谷昇/川瀬裕之/根岸明美/江角英明/高島稔/加藤和夫/荒木道子/塩沢とき/桑山正一/寄山弘/三井弘次/ジェリー藤尾/谷村昌彦/渡辺篤/藤原釜足/小島三児/園佳也子●公開:1970/10●配給:東宝●最初に観た場所:池袋・文芸地下(81-01-31)(評価:★★★)●併映:「白痴」(黒澤明)
     田中邦衛/井川比佐志        渡辺篤/藤原釜足
どですかでん03.jpg
         伴淳三郎             三波伸介
どですかでん 伴淳 三波.jpg
  
海に降る雪s1.jpg「海に降る雪」●制作年:1984年●監督:中田新一●製作:相澤徹/北川義浩●脚本:石倉保志/中田新一●撮影:姫田真佐久●音楽:木森敏之●原作:畑山博●時間:105分●出演:和由布子/田中隆三/奥田瑛二/美保純/風間杜夫/井川比佐志/鈴木瑞穂/浦辺粂子/前田吟/橋本功/矢野宣●公開:1984/11●配給:東宝●最初に観た場所:新宿・ビレッジ2(84-11-25)(評価:★★★)●併映:「チ・ン・ピ・ラ」(川島透)
海に降る雪 7.jpg 海に降る雪 6.jpg海に降る雪s2.jpg 

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改題増補されて入手できたのは喜ばしい。それにしても、まだ観るべくして観ていない映画が多い。
映画の中の東京.jpg映画の中の東京2002.jpg 秋立ちぬ1960.jpg 「銀座化粧」1951.jpg 「赤線地帯」1960.jpg
映画の中の東京 (平凡社ライブラリー さ 8-1)』['02年]「秋立ちぬ<東宝DVD名作セレクション>」「銀座化粧 [DVD]」田中絹代 「赤線地帯 4K デジタル修復版 Blu-ray」京マチ子
東京という主役: 映画のなかの江戸・東京』['88年]
東京という主役.jpg佐藤忠男.jpg 日本映画には東京を描いた作品が多いのですが、本書は、一昨年['22年]に91歳で亡くなった映画評論家の佐藤忠男(1930-2022)が、映画における東京の風景の役割や意味、人々の暮らしぶり、監督論等を語ったもので、『東京という主役―映画のなかの江戸・東京』('88年/講談社)の改題増補版になります。
佐藤忠男(1930-2022)
東京物語111.jpg 第1章では、小津安二郎、黒澤明、成瀬巳喜男の3人の監督の作品を取り上げていますが、まず何をもってもしても小津安二郎! 生涯に作った53本の作品の内、東京を舞台にしていない作品はせいぜい8本ぐらいしかないそうです。「東京物語」(53年)をはじめタイトルに東京という言葉がついている作品が5本あり、どの作品をとっても東京論になるといった感じ。

野良犬 1949 dvd.jpg野良犬 三船.jpg 黒澤明作品については、「野良犬」(49年)を「東京をかけめぐる映画」だとし、盛り場の描かれ方などに注目しています。そう言えば小林信彦氏が「週刊文春」のエッセイで、闇市の風景を一番忠実に描いているのは、黒澤明の「酔いどれ天使」と「野良犬」だと述べていました。

「はたらく一家」(38年).jpg 成瀬巳喜男作品では、ミルクホールを舞台にした「はたらく一家」(38年)に着眼していますが、個人的には未見。「ミルクホール」というものの起源が解説されているのが興味深かったです(ホテルニューオータニに「ミルクホール」という名のそう高くない洋食屋があって、コーヒーのみだが打ち合わせで等で50回近く利用した。また、時々利用する中伊豆・吉奈温泉にある旅館「東府やResort&Spa-Izu」にも「ミルクホール」というフリードリンクスペースがあり、数回行ったことがある)。

東府やResort&Spa-Izu「大正館」ラウンジ「ミルクホール」
東府やミルクホール.jpg

映画の中の東京  0.jpg 第2章では、江戸から東京への推移を写し出した作品を取り上げていて、山中貞雄監督の「人情紙風船」(37年)などは確かに江戸長屋をよく描いていました。「東京五人男」(46年)の熱の籠った解説がありますが、個人的にはこれも観よう観ようと思っていながらも未見。章の終わりの方では、黒澤明の「素晴らしき日曜日」(46年)や小津安二郎の「風の中の牝雞」(46年)を取り上げています。

 第3章は、山の手と下町の比較論で、下町ものとして、小津安二郎の「出来ごころ」(33年)、「東京の宿」(35年)などを挙げていますが、山の手ものと呼ばれる映画の分野はないとのこと。ナルホド。

乙女ごころ三人姉妹.jpg秋立ちぬ1960.jpg「銀座化粧」1951.jpg 第4章では盛り場の変遷を浅草・銀座・新宿の順で取り上げ、浅草だと成瀬巳喜男の「乙女ごころ三人姉妹」(35年)、ただしこれも個人的は観れていないです。銀座はこれも成瀬巳喜男の「銀座化粧」(51年)と「秋立ちぬ」(60年)を取り上げていますが、片や酒場(女給バー)が舞台で片や八百屋が舞台だけれども、場所は同じ銀座でした。吉村公三郎の「夜の蝶」(57年)を"究極の銀座讃歌"としていますが、これも観れておらず。新宿のところで取り上げられている大島ロビンソンの庭1.jpg闇のカーニバル・ゴンドラ.jpg渚の「新宿泥棒日記」(69年)も未見。山本政志監督の「闇のカーニバル」(81年)は旧ユーロスペースで観ました。伊藤智生監督の「ゴンドラ」(86年)はラストに疑問が残るとしています。山本監督の「ロビンソンの庭」(87年)は「闇のカーニバル」に続く作品ですが、白黒映画から一転して、鮮やかな緑の溢れる映像美へ(主演は今回も本業ロック歌手の太田久美子)。これを「闇のカーニバル」の"もう一つの悪夢"としています(後に芥川賞作家となる町田康や、室井滋、田口トモロヲなども出ていた)。
 
東京画toukyouga 04.jpg 第5章は、外国映画の中の東京を取り上げ、ヴィム・ヴェンダース監督(「パリ、テキサス」('84年/西独・仏))の小津安二郎へのオマージュとも言える旅日記風ドキュメンタリー映画「東京画」(85年/米・西独)について、ヴェンダースが撮った東京は、高層ビルとネオンがPERFECT DAYS2023.jpg林立する、小津の映画とは似ても似つかぬ東京であり、彼は小津の時代は遠くに過ぎ去り、日本的なものが失われたと感じたと(映画の中では、東京タワーで落ち合った友人のヴェルナー・ヘルツォーク監督(「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)、「フィツカラルド」 (82年/西独))も同様のことを述べている)。それでもヴィム・ヴェンダース監督は、笠智衆や小津作品のカメラマン原田雄春へのインタビューを通して、二人の人柄がまさしく小津映画そのものであることを発見して満足したようだと。そのヴェンダース監督が40年後に、渋谷近辺の公演のトイレ清掃を舞台とした「PERFECT DAYS」 (23年/日・独)を撮り、第76回「カンヌ国際映画祭」で日本人2人目の男優賞を受賞した役所広司を、「私の笠智衆」と称えることになります。

赤線地帯 09.jpg 第6章では、映画における"東京名所"を場所ごとに見ていきますが、吉原(浅草)のところで、溝口健二の遺作「赤線地帯」(56年)を取り上げています。吉原で働く女性たちを描いた群像劇ですが、映画のクレジットに芝木好子「洲崎の女」とあるように、芝木好子の短編集『洲崎パラダイス』の一部を原作にして、舞台は〈洲崎〉から〈吉原〉に置き換えられています。キャラクターの描き分けがよく出来た作品でした。

「赤線地帯」
 
 最終第7章は、映画を軸とした著者の半生の振り返りで、東京から地元の新潟へ戻っての映画論文の投稿家時代から、再上京し、映画雑誌の編集者になるまでの経緯が書かれています。人生の様々場面で映画に自身を照射させていたことが窺え、自ら言う"無学歴"でありながら、映画評論の泰斗となった著者の遍歴が窺え、興味深いものでした。

 文庫解説の川本三郎氏の文章もよく、巻末に地名・人名・映画題名の各索引があるのも親切。改題増補されて手にすることができたのは喜ばしいです。それにしても、まだ観るべくして観ていない映画が多く(まったくの個人的理由で著者には責任がないが)そこがやや残念だったでしょうか。というとで、今年['24年]になって観た、ともに成瀬巳喜男監督作で、あたかも「銀座」を定点観察したような関係になる2本「秋立ちぬ」「銀座化粧」と、溝口健二の遺作となった吉原を舞台とした「赤線地帯」を以下に取り上げます。

「秋立ちぬ」
「秋立ちぬ」000.jpg
秋立ちぬ<東宝DVD名作セレクション>
秋立ちぬ3.jpg ある真夏の午後、小学校6年生の秀男(大沢健三郎)は、母・深谷茂子(乙羽信子)に連れられて呆野から上京した。父を亡くし、銀座裏に八百屋を開くおじ山田常吉(藤原釜足)の店に身を寄せるためだった。挨拶もそこそこに、母の茂子は近所の旅館へ女中として勤め、秀男は長野から持って来たカブト虫秋立ちぬ6.jpgと淋しく遊ぶのだった。そんなある日、近所のいたずらっ子に誘われて、駐車場で野球をした秀男は、監視人につかまってバットを取られてしまう。遊び場もない都会の生活に馴染めぬ秀男の友秋立ちぬ4.jpg達は、気のいい従兄の昭太郎(夏木陽介)と、小学校4年生の順子(一木双葉)だった。順子は茂子の勤めている「三島」の一人娘、母の三島直代(藤間紫)は月に2、3回やって来る浅尾(河津清三郎)の二号だった。順子の宿題を見てやった秀男は、すっかり順子と仲よしになった。山育ちの秀男は順子と一緒に海を見に行ったが、デパートの屋上から見る海は遠く霞むばかりであった。しかもその帰り道、すっかり奇麗になった母に秋立ちぬ1q-.jpg会った秀男は、その喜びもつかの間、真珠商の富岡(加東大介)といそいそと行く母の後姿をいつまでも恨めし気に見なければならなかった。その上、順子にやる約束をしたカブト虫も箱から逃げてしまっていた。秋立ちぬ 260.jpgしかも、更に悲しいことに、母が富岡と駈け落ちして行方不明になる。傷心の秀男と順子は月島の埋立地に出掛ける。そこで見つけたキチキチバッタ、しかし、これも秀男がケガをしただけで逃げられてしまう。夏休みも終りに近づいたある日、秀男の田舎のおばあさんからリンゴが届く。箱の中に偶然カブト虫も。秀男は喜び勇んで家を飛び出し、順子の家へ走るが、浅尾の都合で「三島」は商売替えし、順子はいなかった。呆然とした秀男は、カブト虫を手に、かつて順子といっしょにいったデパートの展望台の上で、秋立つ風のなかをいつまでも立ちつくしていた―。

 成瀬巳喜男監督の1960(昭和35)年公開作。出演は大沢健二郎(子役)、一木双葉(子役)、乙羽信子、藤原鎌足、賀原夏子、夏木陽介、原知佐子、藤間紫、加東大介、河津清三郎など。

秋立ちぬ5.jpg 子どもを主人公に、その眼を通して大人たちを描いた作品ですが、ちゃんと子どもの心情を中心に据えていて、個人的には、成瀬巳喜男ってこういう作品も撮ることができたのかあとちょっと意外でした。少年のひと夏の出来事が切なく描かれており、これって傑作ではないでしょうか。感動させようと過度な感情を交えるようなことはせずに、淡々と描いているのが成功しています。銀座で、八百屋が舞台というのが独特(今ではちょっと考えられない)。そこの気のいいあんちゃんを夏木陽介が好演していました。


「銀座化粧」
「銀座化粧」000.jpg
銀座化粧 [DVD]
銀座化粧4.jpg 銀座のバー「ベラミ」で女給をしている津路雪子(田中絹代)は5歳になる息子の春雄(西久保好汎)と暮らしているが、昔の愛人・藤村安蔵(三島雅夫)は今でも金の無心に来る。ある日雪子は昔の仲間・佐山静江から上京してきた資産家の息子・石川京介(堀雄二)の案内役を頼まれる。相手をしているうちに雪子は石川との結婚を夢見るが、春雄の行方が突然わからなくなってしまい、石川の相手を妹分の女給・京子(香川京子)に頼んで自分は帰宅する。春雄は見つかったが、その一夜の間に京子と石川は婚約してしまっていた。諦めた雪子は今日も銀座で働くのだった―(「銀座化粧」)。

 成瀬巳喜男監督の1951(昭和26)年公開作で、出演は田中絹代、花井蘭子、香川京子、堀雄二、柳永二郎、三島雅夫、東野英治郎など。

‌銀座化粧 堀.jpg 「秋立ちぬ」と同じく銀座を舞台にしています。ただし、遡ること9年、女給バーとかちょっとレトロな感じ(一応"高級バー"ということらしい)。雪子(田中絹代)が東京案内を頼まれた、お上りさんの資産家の息子を演じていたのは、後にドラマ「七人の刑事」('64年~'69年/TBS)でキャップの赤木係長を演じる堀雄二(1922-1979)ですが、若いなあ(まあ、「忘れられた子等」('49年/新東宝)や「宗方姉妹(むねかたきょうだい)」('50年/東宝)に出ていた時はさらに若かったのだが)。

 堀雄二については、私生活において前年に次のようなエピソードがあります。仕事で京都のある旅館に泊まっていた時、後に妻となるる甲斐はるみと偶々旅館が一緒で、堀のほうが先に仕事が終わり、その晩東京都に帰る時、「食事でもしましょう」と先斗町へ連れて行き、その時から親しくなったとのこと。本作との比較で面白い話ですが、当時堀には妻子がおり「女房と別れるから結婚してくれないか」とプロポーズしたというのは本作と大違い(笑)。

銀座化粧01.jpg 田中絹代演じる雪子は、堀雄二演じる石川との結婚銀座化粧057.jpgを夢見ますが、最初から"夢"で終わるのは見えていたのではないかな(それでも夢を見るのが女性というものなのか)。ましてや、香川京子演じる若い京子(満19歳で女給役を演じた)がライバルではかなわない(かえっ銀座化粧08.jpgて諦めがついたか)。京子が、石川が一晩同じ部屋にいて何もしなかったのでますます好きになるというのは、どうなんだろう(その結果、一晩で婚約を決める)。これって当時の女性の一般的な感覚なのだろうか。現代女性だったらどうだろうか―いろいろ気を揉んでしまいました。 


「赤線地帯」
「赤線地帯」000.jpg
赤線地帯 [DVD]
「赤線地帯」dvd.jpg 売春防止法案が国会で審議されている頃、吉原の「夢の里」では娼婦たちがそれぞれの事情を負って生きていた。より江(町田博子)は普通の主婦に憧れている。ハナエ(木暮実千代)は病気の夫と幼子を抱えて一家の家計を支えている。ゆめ子(三益愛子)は一人息子との同居を夢見ている。やすみ(若尾文子)は客を騙して金を貯め、仲間の娼婦に金貸しを行って更に貯金を増やしていた。不良娘のミッキー(京マチ子)も加わり「夢の里」は華やぐが、結婚したより江は夫婦生活が破綻する。ハナエの夫は将来を悲観して自殺未遂を起こす。ミッキーは自分を連れ戻しに来た父親を、女癖の悪さを責めて追い返す。ゆめ子は愛する息子に自分の仕事を否定されて発狂する。やすみは自分に貢ぐために横領した客に殺されかける。ラジオが法案の流産を伝え、行き場のない彼女たちは今日も勤めに出る。しかしやすみだけは倒産して夜逃げした元客の貸布団屋を買い取って女主人に納まった。退職したやすみに変わって、下働きのしず子(川上康子)が店に出る事になる。着物を換え、蠱惑的な化粧を施されるしず子。女たちがあからさまに男たちの袖を引く中、ためらいながら、しず子は男に誘いかける―(「赤線地帯」)。

赤線地帯 9.jpg 溝口健二監督の1951(昭和26)年公開作で、出演は若尾文子、三益愛子、町田博子、京マチ子、木暮実千代、川上康子など。

 映画の一部が芝木好子の原作とされていて、実際タイトル隅に「洲崎の女」よりと出ますが(前述の通り、映画の舞台は〈洲崎〉から〈吉原〉に置き換えられている)、これは芝木好子の短編集『洲崎パラダイス』(川島雄三監督により映画化された表題作「洲崎パラダイス 赤信号」('56年/日活)が有名)の中で唯一、遊郭の中にいる人物を描いた作品。三益愛子演じる「ゆめ子」は(原作では「登代」)は、年増女であるため思うように客が付かず、さらに上京した息子に冷たくされて赤線地帯 京2.jpg発狂しますが、原作では最初から精神を少し病んでいて(それも客がつかない原因になっている)、息子のために働いてきたのにその息子に自分の仕事を非難され(これは映画と同じ)、かつて息赤線地帯 山.jpg子を連れて空襲の中を逃げ回った記憶に囚われながら入水自殺します(映画よりさらに悲惨!)。このほかに、ミッキー(京マチ子)のような、享楽のために(?)特飲街に居続ける女性もいて、自分を連れ戻しに来た父親を、その女癖の悪さを責めて追い返しています。さらには、やすみ(若尾文子)のよう赤線地帯 やすみ.jpgに客に貢がせて、最後はその客を破綻させ、自分が代わって経営者になるといったヤリ手も。一方で、ハナエ(木暮実千代)のように、病気の夫と幼子を抱えて一家の家計を支えるために特飲街で働く女性もいて、四者四様で、群像劇でありながら、この描き分けにおいて新旧の女性像が浮き彫りにされてた、優れた映画でした(やすみ・ミッキーが「新」、ゆめ子・ハナエが「旧」ということになるか)。実は、このやすみ・ミッキーに似たタイプの女性も短編集『洲崎パラダイス』にある作品に登場するので、おそらく溝口健二はそれらも参考にしたのではないかと思われます。
 
 
 
秋立ちぬ」[Prime Video]
秋立ちぬ19602.jpg秋立ちぬ あp.jpg秋立ちぬ7.jpg「秋立ちぬ」●制作年:1960年●監督・製作:成瀬巳喜男●脚本:笠原良三●撮影:安本淳●音楽:斎藤一郎●時間:80分●出演:大沢健三郎/一木双葉/乙羽信子/藤間紫/藤原釜足/夏木陽介/原知佐子/加東大介/河津清三郎/菅井きん●公開:1960/10●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(24-05-02)(評価:★★★★☆)

銀座化粧05.jpg‌銀座化粧 ddvd.png「銀座化粧」●制作年:1951年●監督:成瀬巳喜男●製作:伊藤基彦●脚本:岸松雄●撮影:三村明●音楽:鈴木静一●原作:井上友一郎●時間:87分●出演:田中絹代/西久保好汎/花井蘭子/小杉義男/東野英治郎/津路清子/香川京子/春山葉子/明美京子/落合富子/岡龍三/堀雄二/清川玉枝/柳永二郎/三島雅夫/竹中弘正/田中春男●公開:1951/04●配給:新東宝●最初に観た場所:神保町シアター(24-05-02)(評価:★★★☆)

ロビンソンの庭1987.jpgロビンソンの庭2.jpg「ロビンソンの庭」●制作年:1987年●監督:山本政志●製作:浅井隆●脚本:山本政志/山崎幹夫●撮影:トム・ディッチロ/苧野昇●音楽:JAGATARA/吉川洋一郎/ハムザ・エル・ディン●時間:119分●出演:太田久美子/町田町蔵(町田康)/上野裕子/CHEEBO/坂本みつわ/OTO/ZABA/横山SAKEV/溝口洋/利重剛/室井滋/田トモロヲ/江戸アケミ●公開:1987/10●配給:レイライン●最初に観た場所:渋谷・ユーロスペース(88-07-09)(評価:★★★☆)


東京画笠智衆.jpg「東京画」●制作年:1985年●製作国:アメリカ・西ドイツ●監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース●製作:クリス・ジーヴァニッヒ●撮影:エド・ラッハマン●音楽:ローリー・ペッチガンド●時間:93分●出演:ヴィム・ヴェンダース(ナレーション)/笠智衆/ヴェルナー・ヘルツォーク/厚田雄春●公開:1989/06●配給:フランス映画社(評価:★★★☆)
東京タワーで語るヴェルナー・ヘルツォーク(「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)、「フィツカラルド」 ('82年/西独))/ヴィム・ヴェンダース(「パリ、テキサス」('84年/西独・仏)、「PERFECT DAYS」 (23年/日・独))とヴェルナー・ヘルツォークのスナップ写真(映画ではヴェンダースはナレーションのみで姿は映らない)
 東京画 ヴェンダース ヘルツォーク.jpg


赤線地帯 出演者.jpg赤線地帯00.jpg「赤線地帯」●制作年:1956年●監督:溝口健二●製作:永田雅一●脚本:成澤昌茂●撮影:宮川一夫●音楽:黛敏郎●原作:芝木好子(一部)●時間:86分●出演:若尾文子/三益愛子/町田博子/京マチ子/木暮実千代/川上康子/進藤英太郎/沢村貞子/浦辺粂子/十朱久雄/加東大介/多々良純/田中春男●公開:1956/03●配給:大映●最初に観た場所:国立映画アーカイブ(24-05-26(評価:★★★★☆)
前列左より京マチ子、溝口健二監督、後列左より町田博子、宮川一夫、若尾文子、木暮実千代、三益愛子
赤線地帯 9.jpg赤線地帯 1.jpg

京マチ子
赤線地帯ps.jpg

進藤英太郎映画祭2.jpg「進藤英太郎映画祭」中野武蔵野ホール
進藤英太郎映画祭.jpg

《読書MEMO》
●目次
第1章 東京の顔--映画監督と東京
第2章 江戸から東京へ--時代と東京
第3章 山の手と下町--東京の都市構造と性格
第4章 盛り場の変遷--浅草・銀座・新宿
第5章 アジア的大都市TOKYO--外国映画の中の東京
第6章 映画の東京名所
第7章 出会いと感激の都--私と映画と東京と


「●い 池波 正太郎」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【406】 池波 正太郎 『男の作法
「●映画」の インデックッスへ「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ「●「カンヌ国際映画祭 パルム・ドール」受賞作」の インデックッスへ(「影武者」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「影武者」)「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「影武者」) 「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「影武者」)「●池辺 晋一郎 音楽作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●山﨑 努 出演作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●藤原 釜足 出演作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●倍賞 美津子 出演作品」の インデックッスへ(「影武者」)「●桃井 かおり 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ(「影武者」)「●や‐わ行の外国映画の監督②」の インデックッスへ「●エンニオ・モリコーネ音楽作品」の インデックッスへ(「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」)「●クリント・イーストウッド 出演・監督作品」の インデックッスへ(「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」)「●クラウス・キンスキー出演作品」の インデックッスへ(「夕陽のガンマン」)「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○東宝DVD名作セレクション(黒澤明監督作品)(「影武者」) 

本書を読んで、映画の鑑賞法の原点に立ち返るのもいいのではないか。

『映画を見ると得をする』.jpg映画を見ると得をする b.jpg 映画を見ると得をする d.jpg
映画を見ると得をする (新潮文庫)』「映画を見ると得をする もっと映画が面白くなる」[Kindle版]

映画を見ると得をする (ゴマブックス)』['80年]

 著者は言います。なぜ映画を見るのかといえば、人間は誰しも一つの人生しか経験できない。だから様々な人生を知りたくなる。しかも映画は、わずか2時間で隣の人を見るように人生を見られる。それ故、映画を見るとその人の世界が広がり、人間に幅ができてくる―と。

 まさに至言ではないでしょうか。本書は、シネマディクト(映画狂)を自称する著者が、映画の選び方から楽しみ方、効用を縦横に語り尽くしたものです。個人的に印象に残ったポイントをいくつか拾っていくと―

「料理長殿、ご用心」0.jpg 原題をそのまま題名にするのが流行っている。何かイメージがわく題名なら、中身もいい。... 日本語でいい題がつくときは、映画としてもいいものであるとして、「料理長(シェフ)殿、ご用心」 ('78年/米)がその例で、原作の小説より映画の方がよくできていたとしている。

「ナイル殺人事件」0.jpg 外国映画の「大作」は絶対に観るに値する。失敗作でさえも見るべきところがいっぱい。... 映画自体は失敗作でも、大作はセットも素晴らしいし、ロケにも金をかけていて、「ナイル殺人事件」('78年/英)などは本当にエジプトに行って撮っている」わけでしょと。個人的は、観光映画としても楽しめる要素があったなあ。もし、ツアー旅行にいったらこんな感じなのかなと。

「元禄忠臣蔵」0.jpg「残菊物語」0.jpg 戦前の日本映画には凄い大作があった。例えば「残菊物語」「元禄忠臣蔵」。... 溝口健二の「残菊物語」('39年/松竹)は個人的にも完璧な恋愛・人情ドラマだと思った。「元禄忠臣蔵」('41-'42年/松竹)で、松の廊下を原寸通りに作っちゃったというのも凄いと(確かに)。歴史の中にしか存在しなかったものを、ぼくらの眼前に再現してくれているのが大作の価値だと。

「カサノバ 」フェリーニ0.jpg 「難解きわまる映画」というものがある。ときにはそういう映画で自分を鍛える。...  アラン・レネはどれも難しいと。フェリーニは「81/2」('63年/伊・仏)から後はみなわからなくなっちゃって、「アマルコルド」('73年/伊・仏)で昔のフェリーニに戻って、これはだれが観ても素晴らしかったが、ところが今度「カサノバ」('76年/伊)を撮ったら、やっぱりわからないと。主演のドナルド・サザーランドが、終わってから、「自分は一体どういう役をやったのかさっぱりわからない...」と、いったそうで、ぼくもパリで観たが退屈したと。

「赫い髪の女」0.jpg ポルノをつくっている会社の映画にも、時には観るべきものがある。例えば「赫い髪の女」。... 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は、中上健次の原作がいいし、男と女の愛欲を探究しているものだから、凄いけれど、いやな感じはないと。

 「巨匠」の作品必ずしも秀作にあらず。ただし、美術的感覚に見るべきものあり。... 「」('54年/伊)を作ったころのフェリーニは、大道芸人の可哀そうな女とか哀れな男に本当に共感を持っていたと思うが、フェリーニ自身が大巨匠になっておかしくなってしまったと。

「影武者」1.jpg 黒澤明然り。ただし、筆を持たせたら素晴らしく、「影武者」('80年/東宝)のスケッチなどは大したものであると(著者自身が絵を描くからそう感じるのだろう)。個人的には、かつての黒澤作品のダイナミズムは影を潜め、映画は映像美・様式美に終始してしまった印象。カンヌ国際映画祭でパルムドールを撮ったのは、その様式美がジャポニズムとして受けたのでは。勝新太郎が黒澤監督と喧嘩して主役を降りたけれど、もともと勝新太郎向きではなかった? 映画の完成披露試写会を勝新太郎が観に来たていて、「面白くなかった...俺が出ていたらもっと面白くなってたよ」と言ったそうだ。

椿三十郎 三船 仲代.jpg 「役者を汚して、血を噴出させる」のがリアリズムという日本映画の馬鹿の一つ覚え。... 最初にやったのが黒澤明の「椿三十郎」('62年/東宝)で、黒澤さんが悪いんじゃなく、黒澤監督としてはちょっと珍しいことをやってみたに過ぎない、それを猫も杓子も真似しちゃったから困ったものだと。

淀川長治2.jpg 映画評論を読めば、自分自身の「好み」や「個性」がわかってくる。それが値打ち。... 推薦できる評論家として、飯島正、南部圭之助、双葉十三郎を挙げ、淀川長治さんなんかの映画評論を一般のファンは当てにしたらいいんじゃないかと思うと(そう言えば、本書のカバー裏の著者紹介は淀川長治が書いている)。

「荒野の用心棒」2.jpg荒野の用心棒 1964.jpg ハリウッドの西部劇とマカロニ・ウエスタン。その大きな違いの一つは「女の描き方」。... マカロニ・ウエスタンには女の匂いがぷんぷんするような女が出てきて男とからみ合うが、アメリカの方は「女なんか全然数のうちじゃない...」といった男がいっぱい出てくると。また、マカロニ・ウエスタンの特徴はサディスティックであることで、拷問シーンなどでもユーモアがないとのこと。「荒野の用心棒」イーストウッド.jpg確かに「荒野の用心棒」('64年/伊)がそうだった。クリント・イーストウッド演じる「名無しの男」はボロボロにやられていた。ただし、著者は、黒澤明の「用心棒」を無断でかっぱらった「荒野の用心棒」が面白くないはずがないと(「名無しの男」というのも「用心棒」の「桑畑三十郎」がその場で思いついた名前であることをなぞっている)。

夕陽のガンマン アルティメット・エディション [DVD]
「夕陽のガンマン」1965.jpg 因みに、「荒野の用心棒」(原題の意味は「一握りのドルのために」)の続編は「続・荒野の用心棒」('66年/伊、セルジオ・コルブッチ監督・フランコ・ネロ主演)で「夕陽のガンマン」1イースト.jpgはなく「夕陽のガンマン」('65年/伊・西独・スペイン、セルジオ・レオーネ監督・ クリント・イーストウッド主演、原題の意味は「もう数ドルのために」)であり、その続編(出来事としては前二作より以前の話だが)「続・夕陽のガンマン」('65年/伊・西独・スペイン・米、セルジオ・レオーネ監督・クリント・イーストウッド主演、原題の意味は「善玉、悪玉、卑劣漢」)と併せて「ドル箱三部作」または(主人公の名がでないため)「夕陽のガンマン」2.jpg「名無しの三部作」と言われています。「荒野の用心棒」は黒澤明の「用心棒」と同じで、互いに相争う2組の悪党どもの対立をイーストウッド演じる主人公が一層煽り、けしかけながら、双方を壊滅状態に追い込むという話「夕陽のガンマン」リーヴァンクリーフ.jpgなのに対し、「夕陽のガンマン」は、共に腕利きの同業者にして宿命のライバルたる2人の賞金稼ぎが、時に相争い、時には紳士協定を結んで互いに協力しながら、いずれも多額の懸賞金を狙うという話。ただし、クリント・イーストウッド演じる「名無しの男(あだ名はモンコ(Manco)、スペイン語で「片腕」)」が単なる金目当て賞金稼ぎなのに対し、リー・ヴァン・クリーフが演じるモーティマー大佐には別の目的があった―。続編の方が本編より上とされる作品の1つで(年代が古い、米国映画でない、邦題がまるきり違うなどの理由であまり取り沙汰されないが)、この1作でリー・ヴァン・クリーフはマカロニ・ウェスタンのスターとなりました(敵役は「荒野の用心棒」に続いてジャン・マリア・ヴォロンテ)。

イノセント.jpg 最近ではヴィスコンティの遺作「イノセント」。歴史に残るセックスシーンの1つだろう。... 「イノセント」('76年/伊・仏)のそれは素晴らしかったと。夫婦が別荘に行って、ちょうど春で、ぽかぽか温かくなり、庭に花が咲き乱れ、男がだんだん興奮してくる...。全身を写すところもあったが、たいていは胸から上しか写さず、それでいて本当にエロチックなシーンだったと。

「最後の晩餐」0.jpg 洒落たフランス映画を観た後で「フランス料理を食べたい」という女の子なら悪くない。... フランス映画を観た後では鮨屋よりフランス料理を食べに行きたくなるが、逆の場合もあり、それが「最後の晩餐」('73年/伊・仏)であると(確かに)。四人の主人公が死ぬまで食べ続ける映画だった。マルコ・フェレーリは巨匠ではないが相当の監督だと。

「旅芸人の記録パンフ2.jpg 例えば「忠臣蔵」を一本観ただけで、その人の世界がグーンと広くなっちゃう。... 「旅芸人の記録」('75年/ギリシャ)という映画を観れば、自然にギリシャという国に興味を持って、ギリシャに歴史を読んでみよう、ギリシャの生活について何か探して読んでみようということになり、それをやれば、ぼくの持っている世界が広がっていくわけだと。まさに、本書のエッセンスがここに述べられているように思いました。

 この本が出たころは、映画と言えば(テレビで観ることもあったとは思うが)基本的にみんな映画館で観たのだろうなあ。それが、レンタルビデオの時代を経て、今やAmazon PrimeやNetflixの時代へと移りつつあり、昨今は、映画を倍速で視聴するユーザーが急増しているようです。今一度、本書を読んで映画鑑賞の在り方の原点に立ち返るののいいのではないかと思いました。

影武者[東宝DVD名作セレクション]」 山﨑努(信玄の弟・武田信廉)/仲代達矢(武田信玄、影武者)
「影武者」dvd1980.jpg「影武者」01.jpg「影武者」●制作年:1980年●制作国:日本・アメリカ●監督:黒澤明●製作:黒澤明/田中友幸●外国版プロデューサー:フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス●脚本:黒澤明/井手雅人●撮影:斎藤孝雄/上田正治「影武者」志村僑0.jpg「影武者」大滝秀治.jpg●音楽:池辺晋一郎●時間:180分●出演:仲代達矢/山﨑努/萩原健一/根津甚八/油井昌由樹/隆大介/大滝秀治/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/阿藤海/矢吹二朗/志村喬/藤原釜足/清水綋治/清水のぼる/山本亘/音羽久米子/江幡高志/島香裕/井口成人/松井範雄/大村千吉●公開:1980/04●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(81-02-14)(評価:★★★)
志村喬(信玄の父・田口刑部、信玄に追放され、信長の手先として送り込まれる)/大滝秀治(信玄家臣・山縣昌景)
倍賞美津子(側室・於ゆうの方)/桃井かおり(側室・お津弥の方)  黒沢明監督「影武者」、カンヌ映画祭の最高賞に(1980年5月23日)[日本経済新聞]/日劇(1981年閉館)
「影武者」倍賞・桃井.jpg 黒澤 カンヌ.jpg 日劇文化.jpg

「荒野の用心棒」イーストフッド1.jpg「荒野の用心棒」●原題:PER UN PUGNO DI DOLLARI(英:A FISTFUL OF DOLLARS)●制作年:1964年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:ヴィクトル・アンドレス・カテナ/ハイメ・コマス・ギル/セルジオ・レオーネ●製作:アリゴ・コロンボ/ジョルジオ・パピ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:96分(完全版100分)●出演:クリント・イーストウッド/ジャン・マリア・ヴォロンテ(ジョニー・ウェルズ名義)/マリアンネ・コッホ/ホセ・カルヴォ/ヨゼフ・エッガー/アントニオ・プリエート/ジークハルト・ルップ/ウォルフガング・ルスキー/マルガリータ・ロサノ/ブルーノ・カロテヌート/マリオ・ブレガ●公開:1965/12●配給:東宝(評価:★★★★)

ジャン・マリア・ヴォロンテ「荒野の用心棒」(密輸業ギャング一家ロホ兄弟の末弟ラモン・ロホ)/「夕陽のガンマン」(凶悪犯の賞金首エル・インディオ)
ジャン・マリア・ヴォロンテ.jpg
夕陽のガンマン [DVD]
「夕陽のガンマン」dvd.jpg「夕陽のガンマン」l.jpg「夕陽のガンマン」●原題:PER QUALCHE DOLLARO IN PIU(英:FOR A FEW DOLLARS MOREA)●制作年:1965年●制作国:イタリア・西ドイツ・スペイン●監督:セルジオ・レオーネ●脚本:セルジオ・レオーネ/ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ●製作:アルトゥーロ・ゴンザレス/アルベルト・グリマルディ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:130分(米国版132分)●出演:クリント・イーストウッド/リー・ヴァン・クリーフ/ジャン・マリア・ヴォロンテ/マリオ・ブレガ/ルイジ・ピスティッリ/クラウス・キンスキー/パノス・パパドプロス/トーマス・ブランコ/フランク・ブラナ夕陽のガンマン c.jpg/ホセ・マルコ/ヨゼフ・エッガー●公開:1967/01●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★★)
リー・ヴァン・クリーフ/クラウス・キンスキー

ジャン・マリア・ヴォロンテ in「荒野の用心棒」(1964)/「死刑台のメロディー」(1972)
ヴォロンテ 荒野の用心棒.jpgヴォロンテ 死刑台のメロディー.jpg
 
映画を見ると得をする.jpg

【1987年文庫化[新潮文庫]】

《読書MEMO》
●続編の評価が本編に匹敵するかそれ以上であるとされる作品([]内はIMDb評価)
「荒野の用心棒」('64年)[7.9]「夕陽のガンマン」('65年)[8.2](「続・夕陽のガンマン('66年)[8.8])
・「ゴッドファーザー」('72年)[9.2]「ゴッドファーザー PART II」('74年)[9.0]
・「エイリアン」('79年)[8.5]「エイリアン2」('86年)[8.4]
・「マッドマックス」('79年)[6.8]「マッドマックス2」('81年)[7.6]
・「ターミネーター」('84年)[8.1]「ターミネーター2」('91年)[8.6]
・「バットマン ビギンズ」('05年)[8.2]「ダークナイト」('08年)[9.0]


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この頃の大島渚のパワーはスゴイ。 主演は川津祐介でも佐々木功でもなく、炎加世子だった。

『太陽の墓場』.jpg 「太陽の墓場」1.jpg 「太陽の墓場」3.jpg
あの頃映画 太陽の墓場 [DVD]」津川雅彦/川津祐介/炎加世子/佐々木功

「太陽の墓場」p.jpg「太陽の墓場」101.jpg 大阪の小工場街の一角にバラックの立ち並ぶドヤ街の建物の中で、若い男ヤス(川津祐介)に見張らせて、元陸軍衛生兵の村田(浜村純)が大勢の日雇作業員から採血し、花子(炎加世子)がそれを手伝い、ポン太(吉野憲司)が三百円払う。動乱屋(小沢栄太郎)は国難説をぶって一同を煙にまき、花子の家に往みつくことに。ヤスとポン太は新興の愚連隊「信栄会」の会員で、この種の小遣い稼ぎは会長の信(津川雅彦)から禁じられている。二人の立場を見抜いた花子は、支払いを値切る。一帯を縄張りとする大浜組を恐れる信は、組の殴り込みを恐れてドヤを次々に替えた。二人は武(佐々木功)と辰夫(中原功二)という二少年を信栄会に入れる。仕事は女の客引き。ドヤ街の一角には、花子の父・寄せ松(伴淳三郎)、バタ助(藤原釜足)・ちか(北林谷栄)夫婦、ちかと関係のある朝鮮人・寄せ平(渡辺文雄)、ヤリ(永井一郎)とケイマ(糸久)ら「太陽の墓場」3n1.jpgが住む。一同は旧日本陸軍の手榴弾を持った動乱屋を畏敬の目で迎える。武は信栄会を脱走して見つかるが、「太陽の墓場」x.jpg花子の力でリンチを免れる。信の命令で仕事に出た武、辰夫、花子は公園でアベックを襲う。花子が見張り、物を盗り、辰夫が女を犯した。花子は動乱屋と組んで血の売買を始めたが利益分配で揉め、信栄会と組む。信の乾分の手で村田は街から追い出される。動乱屋のもう一つの仕事は、色眼鏡の男(小池朝雄)に戸籍を売る男を世話することで、その戸籍は外国人に売られるのだった。その金で武器を買い、旧軍人の秘密組織を作るのだと豪語する。花子は医師の坂口(佐藤慶)を誘惑し、採血仲間に加える。やがて信栄会は分裂し、信と花子は喧嘩別れに。仲間のパンパンを連れて大浜組に身売りしようとしたヤスは信に殺される。アベックの男も自殺し、これらを見た武は嫌気がさすが、その武に花子は惹かれる。村田を拾い上げた花子は、動乱屋と組んで再び血の売買を始める。バタ助は動乱屋に戸籍を売ると、その金で大盤ふるまいをして首を吊る。人のいい大男(羅生門)の戸籍を買った動乱屋は、男を北海道に追いやる。花子は武の口からそれとなく信栄会のドヤを聞く。二人が「太陽の墓場」171.jpg公園まで来ると、恋人に死なれたアベックの女(富永ユキ)が武に飛びかかり、花子が突き放すと女は崖から転落する。安ホテルの一室で二人は激しく抱き合う。信栄会を辞める決心した武は辰夫に相談、反対する辰夫はナイフを抜くが、格闘の末倒れたのは辰夫だった。花子は大浜組に信栄会のドヤを教え、信栄会は殴り込みを受け、信以外は全員殺される。武と逃げる信は、ドヤの場所が武の口から花子に知れたことを悟り、武を銃で撃つ。撃たれた武は信にしがみつき、離れない二人の上を列車が通過する。呆然とする花子に動乱屋のヤジが聞こえた。ソ連が攻めて来て、世の中が変ったところで、このドヤ街に何の変化が来よう!花子もヤジる。騒然とした中で動乱屋の手榴弾が爆発し、バラックは吹っ飛ぶ。その中を、採血針を持った村田が花子の後を気ぜわしげに駈け廻っていた―。

「太陽の墓場」えp.jpg「太陽の墓場」さつえい.jpg 1960年に公開された、大島渚(1932-2013/80歳没)が、彼自身と助監督の石堂淑朗との共同オリジナル・シナリオを監督した作品で、大阪のドヤ街を舞台にしていますが、「青春残酷物語」('60年)を撮り終えた後、こちらの方は非常に短い期間で撮り切ったようです。この年にさらに「日本の夜と霧」('60年)も撮っているわけで、'60年代の大島渚監督作は16作に及び、例えば1967年にも「忍者武芸帳」「日本春歌考」「無理心中 日本の夏」の3作を撮っていたりします(精力的!)

「太陽の墓場」9.jpg ストーリーを長々書きましたが、群像劇なので、ストーリーの細部や順番はあまり重要ではないのかもしれません。大阪が舞台であるのに、出演者の大阪弁がヘタクソとの声もありますが、それさえもあまり重要ではないことかも。とにかく、登場人物たちの熱気を感じます。

 当時あまり売れていなかった役者を拾い上げたのも良かったのかもしれません。松竹への移籍後、ヒット作に恵まれていなかった津川雅彦も然り、出演2作目の新「太陽の墓場」2.jpg人で、本作の成功で松竹専属となった佐々木功(後のさ「太陽の墓場」19.jpgさきいさお)も然り、劇団員だったところを大島に起用されて映画に転じた戸浦六宏も然り、いずれもこの映画が転機となった俳優です。一方で、「青春残酷物語」から引き続いての起用の川津祐介、渡辺文雄、佐藤慶、浜村純などもいて、上手く組み合わせて化学反応を起こさせている感じです。

「太陽の墓場」炎.jpg「太陽の墓場」佐々木.jpg 主人公は最初に登場する川津祐介が演じるヤスかと思いましたが、これがあっさり殺されてしまい、そっか、佐々木功が演じる武が主人公だったのかと思ったら、彼も最後、信と一緒に轢死してしまい、最後に残ったのは炎加世子「太陽の墓場」炎2.jpg「太陽の墓場」炎3.jpgが演じる花子でした。思えば、最初にクレジットされているのは炎加世子だったし、この群像劇の中で最も強烈な印象を残したのも彼女でした。

 DVDの口上では、「60年安保闘争で揺れる世相の中、釜ヶ崎という小さな地域を日本全体の縮図とみたてて、縦社会である暴力団の非人間性を暴きたてた作品」とありますが、そこまで言い切「太陽の墓場」4 m.jpgらなくとも、ドヤ街に住む最底辺の人々が、飲めば、やれ革命だ、やれ戦争だと騒ぐのを見れば、60年代安保が頭に浮かびます。ただ、最近の若い人にどう伝わるかなというのはありました。

 でも、このパワーと言うか喧噪感は伝わるみたいです。今回この映画を観たのは芸術センターのシネマブルースタジオで、観客は自分以外は、東京芸大生と思われる男女3人だけでした。映画が終わった後、女子学生が拍手して、席の立ち際に「すごい映画を観てしまった」と言っていました。

田中邦衛
IMG_20220308_15561.png「太陽の墓場」田中.jpg「太陽の墓場」●制作年:1960年●監督:大島渚●製作:池田富雄●脚本:大島渚/石堂淑朗●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:97分●出演:炎加世子/伴淳三郎/渡辺文雄/藤原釜足/北林谷栄/小沢栄太郎/小池朝雄/羅生門/浜村純/佐藤慶/戸浦六宏/松崎慎二郎/佐々木功/津川雅彦/中原功二/川津祐介/吉野憲司/清水元/永井一郎/糸久/宮島安芸男/田中謙三/曽呂利裕平/小松方正/茂木みふじ/山路義人/田中邦衛/富永ユキ/檜伸樹/左卜全/安田昌平●公開:1960/08●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(22-03-08)(評価:★★★★)
羅生門(綱五郎) in「太陽の墓場」(1960)/「用心棒」(1961)
「太陽の墓場」羅生門.jpg「用心棒」羅生門1.jpg

「用心棒」羅生門2.jpg
 
 
  
 
kawazu.jpg 川津祐介(1935-2022.2.26)

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成瀬巳喜・高峰秀子初タッグ作品。やっとDVD化。原作に忠実。ユーモアの裏にペーソスも。

秀子の車掌さん vhs1.jpg 秀子の車掌さん vhs2.jpg 秀子の車掌さん dvd1.jpg 秀子の車掌さん dvd2.jpg おこまさん 井伏.jpg
日本映画傑作全集「秀子の車掌さん」 主演 高峰秀子 成瀬巳喜男監督作品 VHSビデオソフト (キネマ倶楽部) 」/「秀子の車掌さん 【東宝DVD名作セレクション】」高峰秀子/藤原鶏太(釜足)/『おこまさん』['41年]
秀子の車掌さん vhs3.jpg秀子の車掌さん dvd23.jpg バスの車掌・おこまさん(高峰秀子)が勤める甲府のバス会社は、古びたバスを1台所有するだけのボロ会社であり、バス10台を有する新興のバス会社に押され気味。社長(勝見庸太郎)も赤字続きの会社を売り払ってしまおうと考えている。おこまさんも、評判の悪いこんな会社などいつでも辞めてやると思いながら、一方ではせめて仕事に誇りを持ちたいと切に思い、バスの運転を生き甲斐とする園田運転手(藤原鶏太)と共に思案、ラジオで聞いた名所案内のバスガイドのアイデアを取り入れることを思いつく。そして、地元の旅館「東洋館」に東京から来て逗留中の作家・井川權二(夏川大二郎)に、沿線の案内記を書いてほしいと依頼する―。

1941年に公開の成瀬巳喜男(1905-1969/63歳没)監督作で、主演は高峰秀子で、これが後に「名コンビ」と謳われた両者の初タッグ作品です。原作は井伏鱒二が1940(昭和15)年1月1日発行号から6月1日発行号の「少女の友」に連鎖した「おこまさん」で(初出の表題脇には「長編少女小説」とあったが、実質"中編"である)、『おこまさん』('41年/輝文館)に収録されました。


秀子の車掌さん vhs4.jpg秀子の車掌さん dvd3.jpg 原作の主人公"おこまさん"は19歳で、映画出演時の高峰秀子は17歳ですが、原作は数え年なのでほぼ同じということになります。ただし、職業モノであるせいか、同じく「高峰秀子のアイドル映画」と言える前年の「秀子の応援団長」('40年/東宝動画)などよりもずっと大人びて見えます。いずれにせよ、今の日本で17歳でここまで演技できる子役はいないのではないかと思われます。

「秀子の車掌さん」に出てくるバス
IM秀子の車掌さん vhs2.jpg 高峰秀子と運転手(園田)の藤原鶏太(釜足)のユーモラスなやりとりが微笑ましいですが、セリフはほとんど原作通りであり、脚本家が要らないのではないかと思われるくらい(実際、成瀬巳喜男自身が脚色している)。監督がやったのは、舞台設定と演出だけか。でも、楽しい映画に仕上がっています。

1 有りがたうさん1936.jpg 1941年9月の公開ですが、この牧歌的雰囲気はとても戦局が差し迫っているような時期とは思えません(バスの運行に沿って話が進んでいく清水宏監督(原作:川端康成)の 「有りがたうさん」('36年/松竹大船)ものんびりした雰囲気ではあったが)。ただし、運転手役の藤原釜足の芸名が藤原鶏太になっているのは、当時(1940年)内務省から「藤原鎌足の同名異字とは歴史上の偉人を冒涜している」とクレームを受け、改名を余儀なくされていたことによるものであり、この辺りに時代が窺えるでしょうか(「鶏太(けいた)」は「変えた(けえた)」を転訛したもの)。

 長らくDVD化されず、ウキペディアにも「なお、本作はこれまでキネマ倶楽部においてビデオ化されたのみで、DVD化を含めて一般に市販されるソフト化は行われたことがない」とあり、個人的にも最初はVHSで観たのですが、昨年['20年]12月に遂にDVD化されました。

秀子の車掌さん 作家2.jpg秀子の車掌さん 作家.jpg 作家・井川權二のモデルは井伏鱒二自身であり、もともと高峰秀子主演と知りながら先に原作を読んだので、高峰秀子と井伏鱒二が話しているようなイメージが映画を観る前から先行してあったですが、改めて観ると、「井川權二」という作家を結構面白おかしくに描いていたなあ。原作者の遊び心を感じますが、一方でこの「井川權二」という作家には、おこまさんに沿線の案内記を書いてあげただけでなく、社長に無理難題を押し付けられた園田運転手の窮状を、知恵を働かせて救うというヒロイックな面もあり、それが映画ではちょっと分かりづらいので、原作も併せて読むといいと思います。

秀子の車掌さん 社長.jpg それにしても、作家・井川權秀子の車掌さん 足.jpg二を演じた夏川大二郎よりも、ラムネを氷にかけて飲んでばかりいる社長を演じた勝見庸太郎の方が井伏鱒二に似ていたかも(笑)。結局、この会社が「バス会社」であるというのは、裏でもろもろ危ういことをやるための「看板」に過ぎず、社長は今その看板のすげ替えを考えていて、おこまさんも園田も、会社の評判が良くないことはわかっていても、理想と希望に燃えているものだから、そこまで政略的なことには思い至らないという―ちょうど今で言えば、「ブラック企業」のもとで「やりがい詐欺」に遭っているのに、本人にはその自覚がない人と同じということになるかもしれません。革靴が会社から供給されず、下駄ばきのバスガイドというのもスゴイけれど、おこまさんの楽観的な健気さが映画での救いになっています(なにせアイドル映画だからなあ)。

 井伏鱒二のユーモアはペーソスとセットです。ラストでも、おこまさんがガイドし、園田運転手が悦に入って運転していますが、原作では、「しかしおこまさんも園田さんも、彼等の知らない間に彼等自身は雇主を失った雇人になっていた」とあります。「ただ彼らはそんなことなど知らないで、バスが進んで行くにつれ楽しい気持で息がつまりそうになっていたのである」と。要するに、この時点で、社長は会社を他に売り渡してしまっているわけで、映画ではそのト書き(解説)が無い分、注意して観る必要があるかもしれません。

 個人的評価は、「秀子の応援団長」は★★★☆でしたが、「車掌さん」の方は、原作のセリフを変えないで持ち味を活かしている技量を買って(さらにDVDD化記念?も考慮して)原作と同じく★★★★にしました。

『おこまさん』['41年]
おこまさん 井伏.jpg昭和1年7月 伊豆熱川にて(右より井伏鱒二、太宰治、小山祐士、伊馬春部)
井伏 太宰 s15.jpg

「秀子の車掌さん」●制作年:1941年●監督・脚本:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●撮影:東健●音楽:飯田信夫●原作:井伏鱒二「おこまさん」●時間:54分●出演:高峰秀子/藤原鶏太(釜足)/夏川大二郎/清川玉枝/勝見庸太郎/馬野都留子/榊田敬治/林喜美子/山川ひろし/松林久晴●公開:1941/09●配給:東宝(評価:★★★★)

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原作を改変して一続きのストーリーにしながらも、原作のエッセンスは損なわず。

ななみだ川 dvd.jpg ななみだ川 1967 2 - コピー.jpg ななみだ川 1967 3 - コピー.jpg
なみだ川 [DVD]」藤村志保
「なみだ川」3.png 嘉永年間、江戸日本橋はせがわ町に、おしず(藤村志保)、おたか(若柳菊)の姉妹がいた。二人はそれぞれ、長唄の師匠、仕立屋として、神経を病んで仕事を休んでいる彫金師の父・新七(藤原釜足)に代って、一家の生計を支えていた。姉のおしずは、生半可な諺を乱発する癖のあるお人好し、妹は利口で勝気な性格だった。姉妹にとって悩みの種は、時折姿を現わしては僅かな貯えを持ち出していく兄の栄二(戸浦六宏)のことで、二人の結婚を妨げている原因の一つあった。ある日、おたかに、彼女が仕立物を納めている信濃屋の一人息子・友吉(塩崎純男)との縁談が持ち上がる。おたかは友吉を憎からず思っていたのだが、彼女は姉よりも先に嫁ぐのが心苦しく、また栄二のこともあるので話を断る。だが、妹の本心を知るおしずは、信濃屋の両親に栄二のことを打ち明け、妹には自分にも好きな人があって近いうちに祝言を上げるからと、縁談を纏めたのである。おたかは喜びながらも、姉の結婚話は嘘に違いないと胸を痛める。そして姉が好きな人だという貞二郎(細川俊之)に会ってみて、姉の嘘を確かめた。だが、おたかは姉が本当に貞二郎に焦がれているのを知っていた。彫金師としては江戸一番の腕を持ちながら少しスネたところのある貞二郎におたかは頼み込み、おしずに会ってもらうことにし。試しにと、おしずに会った貞二郎は、彼女の天衣無縫な性格に心がなごむ。だが、このことが、前からおしずを囲ってみたいと思っていた鶴村(安部徹)に伝わると、鶴村は貞二郎に、おしずは自分の囲われ者だと言って手を引かせようとした。それを真に受けた貞二郎は、おたかに会って確めようとした時、おしずの自分を想ういじらしい気持ちを訴えられて我が身の卑しい気持ちを恥じる。やがておたかの結納も無事に終えた夜、栄二が姿を現わした。おしずは、栄二が妹の婚礼を邪魔する気なら、刺し違えて自分も死のうと短刀を握りしめる―。

三隅研次.jpg 1967年公開の三隅研次(1921-1975)監督作で(脚本は依田義賢)、原作は、山本周五郎が江戸・日本橋を舞台に、お互いの幸せを尊重し合う姉妹の姿を描いた『おたふく物語』。姉・おしずを演じる藤村志保は、大映の演技研究生だった頃に原作を読み、いつかこの役を演じたいと思いを抱いていただけあって、お人好しを可愛く演じてはまり役でした。藤村志保はこの頃は毎年5本から10本の映画に出演しており(三隅研次監督の「大魔神怒る」('66年/大映)にもヒロイン役で出演している)、テレビでも、2年前にNHKの大河ドラマ「太閤記」('65年)で緒形拳演じる秀吉の妻・ねねを、この年の大河「三姉妹」('67年)では次女るいを演じて(長女を岡田茉莉子、三女を栗原小巻が演じた)、お茶の間でもお馴染みの人気女優でしたが、主役を演じたこの作品は代表作と言えるのではないでしょうか。

三隅研次

児次郎吹雪・おたふく物語.jpgおたふく物語 (時代小説文庫).jpg 原作の『おたふく物語』(「妹の縁談」「湯治」「おたふく」から成る)は、「おたふく物語」(「講談雑誌」1949年4月号)、「妹の縁談」(「婦人倶楽部」1950年9月秋の増刊号)、「湯治」(「講談倶楽部」1951年3月号)の順で独立した短編として発表されていて、姉妹の名も「おたふく物語」はおしずとおきく、「妹の縁談」はお静とおかよ、「湯治」お静とおたかになっていたのが、『おたふく物語』(55年/河出新書)としてまとめられた際に、「妹の縁談」「湯治」「おたふく」と一部改題の上で時系列に並べ替えられた連作となり、姉妹の名もおしずとおたかで統一されたとのことです。
児次郎吹雪・おたふく物語 (河出文庫)』['18年]『おたふく物語 (時代小説文庫)』['98年]

 ただし、「妹の縁談」の縁談では姉妹に両親と兄二人がいるのに、「おたふく」では「家族は両親と娘二人」とされるなど、修正忘れ?もあったりします。映画では、彫金師の父親とそれを支える姉妹と、倒幕活動の資金だと言って家族から金を巻き上げる兄が一人という家族構成になっていました。

 原作は、「妹の縁談」で、おしずが姉を差し置いてはと嫁に行きそびれている妹に対し、一計を図って妹の縁談を纏めようとする様が描かれていて、これは映画も同じです。おしずの「目黒の秋刀魚」についての勘違いは映画でも活かされていました。

「なみだ川」 toura.jpg 「湯治」では、金をせびりに来た兄におしずが短刀を突き出して追い返すも、衣類を持って後を追いかけるという結末で、家に来られても困るけれども、兄妹愛はあるといった感じでしょうか。映画のように、もう来ないという約束を破って妹の婚礼を邪魔するようなタイミングで来たわけでもないですが、映画の方でも、最後には栄二(戸浦六宏)は今度こそもう邪魔しないと言っているので、結局、兄も根はそんな悪い人ではなかったっということでしょう。
戸浦六宏
細川俊之/藤村志保
「なみだ川」 hosokawa.jpg細川俊之.jpg 原作の最後の「おたふく」では、おしずもおたかも既に結婚していて、おしずの夫は勿論貞二郎ですが、ある日、貞二郎が自分の作った、値段的には張るはずの彫り物を、かつて裕福ではなかったはずのおしずが幾つも持っていることを知り、そこから鶴村との過去の関係を疑い始めて悩むというもので、この誤解を解くために今度はおたかの方が、おしずにとって貞次郎は長年の想い人であり、彼が丹精こめて作った彫り物を身につけていたかったが、直接は言えなくて、長唄の稽古に来ていた鶴村の家人に頼んで鶴村の名で注文したものだと事情を説明し、貞二郎の疑念を晴らすというもの。映画の方は結婚前なので、おしずとおたかの姉妹愛にうたれた貞二郎が、おしずに惚れ直して父・新七におしずを嫁にと申し入れるというものでした。

なみだ川 玉川.png 最後がおしずの"天然ボケ"で終わるところは原作も映画も同じで、ストーリーの起伏はありますが、「なみだ川」というタイトルに反して映画も原作も結構コミカルな面があり(その上で泣かせる人情話なのだが)、また、それを藤村志保が上手く演じていました(刃物屋の玉川良一に小刀の突き方を教わるところなどは、深刻な状況なのにほのぼのコントみたい)。

「なみだ川」 tour.jpg「なみだ川」安倍.jpg 時制的に異なる三話を映画では一続きにしたために、「妹の縁談」は概ねそのままですが、「湯治」では兄の栄二が一度した約束を破っておたかの結納後(婚礼前)に再び押しかけてくるようにし(でも最後は去って行く)、「おたふく」での貞次郎(細川俊之)の疑念は、過去の関係に対するものではなく、リアルタイムにしたのでしょう。そのため、原作には名前しか出てこない鶴村が映画では登場し(安部徹)、貞二郎におしずは自分の囲い者だと言って手を引かせようとするなど、栄二の戸浦六宏と異なり、終始一貫して"悪役"でした(笑)。

 原作を改変して一続きのストーリーにしながらも、原作のエッセンスは損なっておらず、楽しめるとともに、脚本家の力量を感じた作品でした。 

「なみだ川」 title.jpg「なみだ川」●制作年:1967年●監督:三隅研次●脚本:依田義賢●撮影:牧浦地志●音楽:小杉太一郎●原作:山本周五郎●時間:79 分●出演:藤村志保/若柳菊/細川俊之/藤原釜足/玉川良一/安部徹/戸浦六宏/塩崎純男/春本富士夫/水原浩一/花布辰男/本間久子/町田博子/寺島雄作/木村玄/越川一/美山晋八/黒木現/香山恵子/橘公子●公開:1967/10●配給:大映●最初に観た場所:神田・神保町シアター(21-02-24)(評価:★★★★)
藤原釜足 なみだ川1.jpg 藤原釜足(彫金師の父・新七)

三隅研次特集.jpg

藤村志保.jpg藤村 志保(ふじむら・しほ)女優
2025年6月12日、肺炎のため死去。86歳没。
大魔神怒る」(1966年)、「白い巨塔」(1966年)、「なみだ川」(1967年)、「不毛地帯」(1976年)、「あ、春」(1998年)、「双生児」(1999年)、ドラマ「太閤記」「三姉妹」「てるてる家族」。


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社会派作品であり、心を揺さぶる作品、且つ、カフカ的不条理の世界「壁あつき部屋」。

壁あつき部屋 dvd.jpg 壁あつき部屋2.jpg   私は貝になりたいDVD.jpg 私は貝になりたい 1959 vhs 1.jpg
あの頃映画松竹DVDコレクション 壁あつき部屋」['16年]「私は貝になりたい <東宝DVD名作セレクション>」['20年]/VHS

「「壁あつき部屋」 .jpg 戦後4年が過ぎたが、巣鴨拘置所には多くのBC級戦犯が服役している。その一人・山下(浜田寅彦)は、戦時中南方で上官・浜田(小沢栄太郎)の命令で一人の原地人を殺したのだが、その浜田の偽証で罪を被せられ、重労働終身刑の判決を受けている。また横田(三島耕)は戦時中、米俘虜収容所の通訳だっただけで巣鴨に入れられた。横田が戦時中、唯一人間らしい少女だと思つた隠亡燒(北竜二)の娘・ヨシ子(岸惠子)は、今では渋谷の歓楽街に働いている。朝鮮人の許(伊藤雄之助)も、戦犯の刻印を押された犠牲者の一人だった。山下はある日脱獄を企てて失敗、その直後に母の死を知る。葬儀のため時限付で出所を許された山下は、浜田へのかつての恨みと、浜田が山下の母と妹(林トシ子)を今まで迫害し続けていたことへの怒り壁あつき部屋 0.jpgから、浜田家に向かうも、恐怖に慄く浜田を見て殺意が失せる。たった一人の妹は、「これからどうする?」という山下の問いに、「生きて行くわ」とポツリ答える。再び拘置所に戻り、横田らに迎えられる山下、そこには厚い壁だけが待っていた―。

 巣鴨拘置所に服役中のBC級戦犯の手記「壁あつき部屋」の映画化で、新鋭プロ第一回作品。脚色には芥川賞受賞作家の安部公房が当り、小林正樹が監督しています。作品自体は1953年10月に完成しましたが、GHQの検閲を恐れた松竹の上層部によって、一部カットされそうになったのを小林監督が拒否したため、公開が3年遅れ1956年10月となりました。

壁あつき部屋1.jpg 小説家の安部公房の脚本ということもあるためか、人間心理を深く追求しながらも、余分な説明は削ぎ落とし、多くのエピソードを組み込んでいます。同じ部屋(雑居房)の受刑者6人の話という構成ですが、信欣三が演じる男がやはり手を下したくなかった処刑で人を殺めてしまった苦悩から狂い死ぬ(自殺)という凄絶な場面が早々にあり、あとは5人になります。

壁あつき部屋3.jpg その5人の中心となる浜田寅彦演じる山下は、戦地で疑心暗鬼に駆られた上官に現地人の殺害を命じられたわけですが、その現地人は部隊が食料も無くジャングルを彷徨い歩いていたところを助けてくれた言わば命の恩人であり、山下自身は上官に抗議するも、それでも殺害命令に従わなければ反逆罪として銃殺すると言われて、失意の中で恩人の命を奪ったものでした。

壁あつき部屋m5.jpg それが戦犯として裁かれる際に、上官の方は偽証により罪を全て山下になすりつけ、山下には瞬く間に死刑判決が下って、現地で執行ぎりぎりのところで刑を減免されて巣鴨刑務所に送致されたわけです。そこではまた人間扱いされず不当な処遇のもと強制労働させられる「BC級戦犯」が多く収容されていて、中には精神を病む者もいる状況。この山下の自身が置かれた理不尽な状況は、カフカ的不条理の世界にも通じ、その辺りが安部公房なのかなとも思いました。

 戦争の現地である南方での裁判において、アメリカ人らが報復にも近い形で日本人を裁き処刑していく場面があり(処刑も残酷だが、それを日本人捕虜に見せるのも残酷!)、銃殺後に現地に遺体をぞんざいに埋葬するため、現地人の反感を買うという、こうした自分本位の「正義」を振りかざして現地人の反感さえ買うアメリカ人の横暴が描かれているところが、松竹の上層部がGHQの検閲を恐れた由縁ではないかと思われます。
    
壁あつき部屋 岸恵子.jpg壁あつき部屋 ポスター.jpg この映画は社会派作品であることは確かですが、今の時代でも人の心を揺さぶるような戦争というものの根本に迫った作品でもあります(且つ、壁あつき部屋17.jpgカフカ的不条理の世界にも通じるということか)。一時的に出所を許された山下は、世の中がすっかり平和ムードに変化しているのに驚かされますが、一方で、横田が戦時中、唯一人間らしく優しい少女だと感じたヨシ子は、戦後は米兵に体を売る女となっていて、心もすれっからしになっており、そこにも戦争の悲劇が縮図として組み込まれています。岸惠子が、戦時中の可憐な少女と、戦後の淪落した女性の両方を演じ分けています。

私は貝になりたい2.jpg私は貝になりたい 1958.jpg もともとこの雑居房の6人は普通の市井の善良な市民であり、それがいわれなき罪を負わされて重い刑に服しているわけです。無実の人間が戦犯とされてしまう話としては、「壁あつき部屋」と同じように、戦争中に上官の命令で捕虜を刺殺した理髪店主が、戦後C級戦犯として逮捕され処刑されるまでを描いた「私は貝になりたい」('59年/東宝)があります。もともと1958年10月にテレビ放映された作品が、芸術賞受賞をきっかけに翌年4月に映画化されたもので、監督はTV版の脚本を書いた橋本忍です(橋本忍にとっての初監督作品)。
私は貝になりたい <1958年TVドラマ作品> [DVD]
私は貝になりたい」 508.jpg私は貝になりたい」tbs.jpg<1958年TV版> ラジオ東京テレビ(KRT/現TBS)(第13回芸術祭文部大臣賞受賞)〈出演〉フランキー堺/清水房江/桜むつ子/平山清/高田敏江/佐分利信(特別出演)/大森義夫/原保美/南原伸二(特別出演)/清村耕次/熊倉一雄/小松方正/内藤武敏/恩田清二郎/浅野進治郎/増田順二/坂本武/十朱久雄/垂水悟郎/河野秋武/田中明夫/ジョージ・A・ファーネス(特別出演)/佐野浅夫/梶哲也/織本順吉
「私は貝になりたい」<1959年映画作品>
私は貝になりたい 1959 vhs.jpg こちらは、主人公の理髪店主・豊松(フランキー堺)が戦後やっとの思いで家族のもとに戻り、理髪店で再び腕を揮い、やがて二人目の子供を授かったことを知私は貝になりたい 1959 01.jpgり平和な生活が戻ってきたかに思えた―その時、突然やってきたⅯP(ミリタリーポリス)に従軍中の事件の戦犯として逮捕されてしまうというもので、しかも最後は死刑になるという結末であるため、相当にヘビーです。

私は貝になりたい 1959 2.jpg いかにも橋本忍っぽい脚本に思えなくもないですが、こちらもBC級戦犯・加藤哲太郎の巣鴨獄中手記「狂える戦犯死刑囚」が一部モチーフとなっていて、そこには「私は貝になりたいと思います」という囚人の切実な叫びが綴られています(加藤哲太郎自身は、絞首刑→終身刑→有期刑と減刑されている)。

私は貝になりたい 所1.jpg私は貝になりたい 所2.jpg 「壁あつき部屋」は、北千住・シネマブルースタジオでの「戦争の傷跡特集」で観ました。「私は貝になりたい」と観比べてみるのもよいかと思います。「私は貝になりたい」はその後、1994年に所ジョージ主演でテレビドラマ・リメイク版が放送されたほか、2008年に福澤克雄監督、中居正広主演で再映画化されています。
「私は貝になりたい」<1994年TVドラマ化作品>所ジョージ/田中美佐子
私は貝になりたい 所0111.jpg私は貝になりたい vhs.jpg<1994年TV(所ジョージ)版> TBS(第43回日本民間放送連盟賞ドラマ番組部門優秀受賞)〈出演〉所ジョージ/田中美佐子/長沼達矢/瀬戸朝香/津川雅彦/春田純一/桜金造/柳葉敏郎/渡瀬恒彦/矢崎滋/石倉三郎/杉本哲太/森本レオ/三木のり平/室田日出男/すまけい/小宮健吾/小坂一也/段田安則/竹田高利/寺田農/尾藤イサオ/ラサール石井


シネマ ブルースタジオ 戦争の傷跡 特集.jpg壁あつき部屋 (1956).jpg「壁あつき部屋」●制作年:1956年●監督:小林正樹●脚本:安部公房●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:「壁あつき部屋―巣鴨BC級戦犯の人生記」●時間:110分●出演:浜田寅彦/三島耕/下元勉/信欣三/三井弘次/伊藤雄之助/内田良平/林トシ子/北竜二/岸惠子/小沢栄太郎/望月優子/小林幹/永井智雄/大木実/横山運平/戸川美子●公開:1956/10●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-10-12)(評価:★★★★)

「壁あつき部屋」巣鴨プリズン(現在は池袋サンシャインシティ)       
壁あつき部屋 巣鴨プリズン.jpg
     
「私は貝になりたい」フランキー新珠.jpg私は貝になりたい 1959 tokoya.jpg「私は貝になりたい」●制作年:1959年●監督・脚本:橋本忍●製作:藤本真澄/三輪礼二●撮影:中井朝一●音楽:木佐藤勝●原作:(物語、構成)橋本「私は貝になりたい」95.jpg忍/(題名、遺書)加藤哲太郎●時間:113分●出演:フランキー堺/新珠三千代/菅野彰雄/水野久美/笠智衆/中丸忠雄/藤田進/笈川武夫/南原伸二/藤原釜足/稲葉義男/小池朝雄/佐田豊/平田昭彦/藤木悠/清水一郎/加東大介/織田政雄/多々良純/桜井巨郎/加藤和夫/坪野鎌之/榊田敬二/沢村いき雄/堺左千夫/ジョージ・A・ファーネス●公開:1959/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(84-12-09)(評価:★★★★)
   

 
143865267608226030179_PDVD_006_20150804104437.jpg143867866083089746178_PDVD_008_20150804175741.jpg1「私は貝になりたい」笠智衆.jpg143868414555329634178_PDVD_010_20150804192906.jpg加東大介(豊松に赤紙を届ける町役場職員・竹内)/フランキー堺(清水豊松)
藤田進(豊松の元上官(軍司令官)の矢野中将)/笠智衆(教誨師の小宮)


平田昭彦(陸軍参謀)... 平田昭彦は陸軍士官学校出身
「私は貝になりたい」平田.jpg

「●小津 安二郎 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2370】小津 安二郎 「彼岸花
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後期作品の中では異彩を放つこの"暗さ"は、小津安二郎の悲観的な結婚観に符合する?

東京暮色 1957.jpg 東京暮色  1957.jpg 東京暮色 j.jpeg 東京暮色 有馬稲子 .jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「東京暮色」」「東京暮色 デジタル修復版 [DVD]」 山田五十鈴・原節子 有馬稲子
東京暮色_AL_.jpg東京暮色_640.jpg東京暮色157a.jpg 杉山周吉(笠智衆)は銀行に勤め、停年も過ぎ今は監査役の地位にある。男手一つで子供達を育て、次女の明子(有馬稲子)と静かな生活を送っている。そこへ、長女の孝子(原節子)が夫との折り合いが悪く幼い娘を連れて出戻ってくる。一方、短大を出たばかりの明子は、遊び人の川口(高橋貞二)らと付き合うようになり、その中の一人である木村憲二(田浦正巳)と肉体関係を持ち、彼の子を身籠ってしまう。憲二は明子を避けるようになり明子は彼を捜して街を彷徨う。中絶費用を用立てするため、明子は叔母の重子(杉村春子)に理由を言わずに金を借りようとするが断られ、重子からこれを聞いた周吉は訝しく思う。その頃、明子は雀荘の女主人・喜久子(山田五十鈴)が自分のことを尋ねていたと聞き、彼女こそ自分の実母ではないかと孝子に質すが、孝子は即座に否定する。喜久子はかつて周吉がソウルに赴任していたときに東京暮色8.jpg周吉の部下と深い仲になり、満洲に出奔した過去があったのだ。明子は中絶手術を受けた後で、喜久子がやはり自分の母であることを知って、自分は本当に父の子なのかと悩む。蹌踉として夜道へ彷徨い出た彼女は、母を訪ねて母を罵り、偶然めぐりあった憲二にも怒りに任せて平手打を食わせ、そのまま一気に自滅の道へ突き進んで行った。その夜遅く、電車事故による明子の危篤を知った周吉と孝子が現場近くの病院に駈けつけたが明子は既に殆ど意識を失っていた。その葬儀の帰途、孝子は母の許を訪れ、明子の死はお母さんのせいだと冷く言い放つ。喜久子はこの言葉に鋭く胸さされ東京を去る決心をする。また、孝子も自分の子のことを考え、夫の許へ帰り、家は周吉一人になった。今日もまた周吉は心侘しく出勤する―。

2018年・第68回ベルリン国際映画祭(ヴィム・ヴェンダース監督・坂本龍一氏(審査員))
Tokyo-Twilight_0 - コピー.jpgTokyo-Twilight_0.jpg第68回ベルリン国際映画祭ヴェンダース監督・坂本龍一.jpgTokyo-Twilight_4.jpg 1957年公開の小津安二郎監督で、今年['18年]開催の第68回ベルリン国際映画祭のクラシック部門で、ヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」('87年)などと併せて選出され、プレミア上映されました。小津安二郎監督作品のデジタル修復版は、2013年のベルリン国際映画祭の「東京物語」から世界三大映画祭クラシック部門で7作目の選出となり、小津安二郎の世界的な評価の高さが窺えます(ヴィム・ヴェンダースに至っては、「小津安二郎は私の師匠」と以前から公言し、同映画祭においても審査員の坂本龍一氏を前に、"天国の大島渚"にごめんなさいと謝るジョークを交え、"小津愛"を繰り返し吐露している)。

East of Eden.jpg ジェームズ・ディーンの代表作「エデンの東」('55年)の小津的な翻案とされ、どちらも父親の妻(つまり母親)が出奔していて、「エデンの東」における兄弟が原節子と有馬稲子の姉妹に置き換えられている作りですが、内容が暗いばかりでなく、実際に暗い夜の場面も多く、有馬稲子が全編を通して全く笑うことが無くて、その最期も含め作品の暗さを補強している印象です。ちょうど、「風の中の牝雞」('48年)までの小津作品に見られた"暗さ"の部分を継承している感じでしょうか。そうした暗さもあってか、一般の人気は芳しくなく、キネマ旬報のベストテンでも19位と圏外となり、小津安二郎自らも自嘲気味に「何たって19位の監督だからね」と語っていたとのことです。

東京暮色7.jpg東京暮色 nakamura .jpg しかしながら、戦後期の大女優山田五十鈴(1917-2012)が出演した唯一の小津作品であり、姉妹の実母で雀荘の女主人・喜久子を演じたそのリアルな演技はさすが。夫役の中村伸郎も、後の出演作に多く見られる会社役員や大学教授の役ばかりでなく、こういった市井の人を演じても上手いということがよく分かります(まあ、「東京物語」('57年)でも下町で美容院を営む杉村春子の夫役だったが)。加えて、小津安二郎自身が小津作品における「四番バッター」と評した杉村春子も相変わらず世話焼きおばさんぶりが上手く、こうなるとむしろ原節子の比較的パターン化された演技や笠智衆の一本調子が物足りなくなってくるほどです。

 小津映画で原節子が主演した"紀子三部作"のうち、「晩春」('49年)、「麦秋」('51)が、娘が結婚に行くか行かないかという話でしたが、この「東京暮色」は、原節子が夫と夫婦不和で、半ば出戻り状態のようになっていて、何だかそれら前作の続きのような印象も受けます(情にほだされて結婚してしまったような「麦秋」とも繋がるが、父親を同じく笠智衆が演じている「晩春」とはよりよく繋がる感じも)。前後の小津作品も、多くが主要登場人物の結婚をテーマにしながら、「晩春」にも「麦秋」にも「秋刀魚の味」('62年)にもAkibiyori (1960) 2.jpgその結婚式の場面が無いのは(「秋日和」('60年)のみ例外で、司葉子と佐田啓二の新郎新婦がそろって結婚式の記念撮影をする場面がある)、それらが何れも結果として"不幸な結婚"となることを暗示していて、小津安二郎が結婚の"現実"に対して悲観論者であったためとも言われています(小津安二郎自身、実人生において、噂のあった原節子と結婚することもなく、生涯独身を通した)。もしそうだとしたら、この「東京暮色」は、そうした小津安二郎の悲観的な結婚観に符合するともとれます。

小津安二郎 志賀直哉.jpg その意味でも興味深い作品ですが、評価が当時は芳しくなかったことに懲りたのか、小津安二郎はもうこの手の作品は撮らず、志賀直哉に「里見弴君が仕事が無くて困っているから彼の作品を使ってくれ」と言われ、里見弴の原作作品を「彼岸花」('58年)、「秋日和」、「秋刀魚の味」と3作も撮り(ただし、小津安二郎自身も10代の時から里見弴の作品を愛読していた)、「晩春」「麦秋」以来の娘が結婚に行くか行かないかという話を、これらでまた3回も繰り返すことになりました。小津安二郎自身、「俺は豆腐屋だから豆腐しか作れない」と言っているわけですが、結果としてどれも似たような感じになり、それぞれに一定の完成度は保っていますが、続けて観るとやや飽きがこなくもありません。個人的には、こうした「東京暮色」のような暗くてドラマチックな展開の小津映画ももっと観たかった気がしますが、結局この類の作品はもう作られることはなく、この「東京暮色」は、小津安二郎の後期作品の中では異彩を放つものとなったように思われます(「東京暮色」のIMDbスコアを見ると、他の小津作品に比べむしろ若干高い評価にある)。
       
小津4K 巨匠が見つめた7つの家族.jpg「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」<生誕115年記念企画>2018年6/16~6/22 新宿ピカデリー、6/23~7/7 角川シネマ新宿 有馬稲子
【上映作品】 「晩春 4K修復版」「麥秋 4K修復版」「お茶漬の味 4K修復版」「東京物語 4K修復版」「早春 4K修復版」「東京暮色 4K修復版」「浮草 4K修復版」
有馬稲子 in「やすらぎの郷」第51話(2017年6月12日放映)
有馬稲子 やすらぎの郷.jpg

山田五十鈴 in 成瀬巳喜男「流れる」('56年)/小津安二郎「東京暮色」('57年)/黒澤明「用心棒」('61年)
流れる 1シーン.jpg 山田五十鈴 東京暮色1.jpg 用心棒01.jpg

笠智衆(杉山周吉)・山村聰(友人・関口積)/杉村春子(孝子・明子の叔母・竹内重子)/高橋貞二(遊び人の川口)
東京暮色 笠智衆 山村.jpg東京暮色 杉村春子.jpg東京暮色 高橋.jpg「東京暮色」●制作年:1954年●監督:小津安二郎●製作:山内静夫●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:140分●出演:原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聰/信欣三藤原釜足 東京暮色.jpg/藤原釜足/中村伸郎/宮口精二/須賀不二夫/浦辺粂子/三好栄子/田中春男/山本和子/長岡輝子宮口精二 東京暮色21.jpg/櫻むつ子/増田順二/長谷部朋香/森教子/菅原通済(特別出演)/石山龍児●公開:1957/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):角川シネマ新宿(シネマ1・小津4K 巨匠が見つめた7つの家族)(18-06-28)((評価:★★★★)
藤原釜足(「珍々軒」の主人・下村義平)/宮口精二(判事・和田)
東京暮色 菅原通済1.jpg有馬稲子/高橋貞二/菅原通済(菅井の旦那)

    
東京暮色 ca.jpg

角川シネマ新宿  0.jpg角川シネマ新宿 .jpg角川シネマ新宿 2.jpg角川シネマ新宿(新宿3丁目「新宿文化ビル」4・5階)シ角川シネマ新宿 シネマ1.jpgネマ1(300席)・シネマ2(56席)
「角川シネマ新宿」.jpg2006(平成18)年12月9日〜旧文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」として、旧文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」として再オープン、2008(平成20)年6月14日「新宿ガーデンシネマ1・2」が「角川シネマ新宿1・2」に改称。2018(平成30)年7月7日休館、同月28日EJアニメシアター新宿カフェ・ギャラリー.jpg「角川シネマ新宿」シネマ1はアニメ作品のみを上映する「EJアニメシアター新宿」に改称、シネマ2は「アニメギャラリー」としてリニューアルオープン。2023(令和5)年8月24日「EJアニメシアター新宿」閉館。跡地(4・5階)に「kino cinéma(キノシネマ)新宿」(シアター1(294席)・シアター2(53席))が同年11月16日からオープン。
2024年3月8日撮影
Ikino cinéma(キノシネマ)新宿.jpg


●小津安二郎の1949年以降の作品(原作者)とIMDbスコア及び個人的評価
・1948年「風の中の牝雞」[7.6]★★★☆
・1949年「晩春」(広津和郎)[8.3]★★★★☆
・1950年「宗方姉妹」(大佛次郎)[7.5]★★★☆
・1951年「麦秋」[8.2]★★★★☆
・1952年「お茶漬の味」[7.9]★★★☆
・1953年「東京物語」[8.2]★★★★☆
・1956年「早春」[8.0]★★★★
・1957年「東京暮色」[8.3]★★★★
・1958年「彼岸花」(里見 弴)[8.0]★★★★
・1959年「お早よう」[7.9]★★★☆
・1959年「浮草」[8.0]★★★☆
・1960年「秋日和」(里見 弴)[8.2]★★★★
・1961年「小早川家の秋」[8.0]★★★☆
・1962年「秋刀魚の味」(里見 弴)[8.2] ★★★★

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後の「用心棒」以上に娯楽性が高いかも。観直してみて脚本の上手さを再認識。

隠し砦の三悪人e.jpgKakushi-toride no san-akunin (1958).jpg 隠し砦の三悪人 dvd.jpg
Kakushi-toride no san-akunin (1958)隠し砦の三悪人[東宝DVD名作セレクション]」藤原釜足/千秋実

隠し砦の三悪人01.jpg 百姓の太平(千秋実)と又七(藤原釜足)は、褒賞を夢見て山名と秋月の戦いに参加したが、秋月の城は落ち、山名の捕虜として秋月城で埋蔵金探しの苦役をさせられる。捕虜たちの暴動に紛れて脱走した2人は谷で薪の中から秋月の紋章が刻まれた金の延べ棒を発見、そこに秋月家の侍大将・真壁六郎太(三船敏郎)という男が現れる。男は落城後、大量の金を薪に仕込んで泉に隠し、秋隠し砦の三悪人 1.jpg月家の生き残りの雪姫(上原美佐)や重臣・長倉和泉(志村喬)らと山中の隠し砦に身を潜めていたのだった。秋月家再興のため、同盟国の早川領へ逃げ延びる方法を思案していた六郎太だが、秋月領と早川領の国境は山名に固められている。しかし太平と又七が口にした敵の山名領に入って早川領へ抜ける脱出法を聞きこれを実行することに。六郎太と隠し砦に行った2人はそこで女に出会い、六郎太は女を「俺のも隠し砦の三悪人 34.jpgのだ」と言うが、彼女が雪姫だった。女を姫と目星をつけた又七は、恩賞欲しさに町へ出かけるが、姫は打ち首になったと聞く。しかし、それは姫の身代わりだった。六郎太は、気性の激しい雪姫の正体を百姓2人にも隠し通すために唖に仕立て、太平と又七を連れて早川領を目指す。関所で怪しまれるが、六郎太は隠していた金を逆に番卒に突き出し、「褒美をくれ」と駄々をこねる内に関所を通される。夜、木賃宿で人買いに売られた隠し砦の三悪人00.jpg百姓娘(樋口年子)を見た雪姫は、彼女を買い戻させ仲間に入れる。道中、六郎太一行を怪しんだ騎馬武者(土屋嘉男)に発見され、六郎太は武者を斬り捨てるう隠し砦の三悪人03.jpgちに、かつての盟友で今は宿敵の山名の侍大将・田所兵衛(藤田進)の陣に駆け込んでしまう。2人は槍で果たし合いをし、六郎太は兵衛を打ち負かす。又七と太平は姫へ手を出そうとするが、姫と見抜いて恩義を感じている百姓娘に阻まれる。一行は火祭りの薪を運ぶ群集に紛れ込むが、監視兵が配されていて、又七と太平は祭りの火に薪をくべることを拒むが、六郎太は「燃やせ燃やせ!踊隠し砦の三悪人09.jpgれ踊れ!」と燃やしてしまい、楽しそうに踊る姫に反して、二人は情けない顔で踊る。翌朝、灰から拾い上げた金を背負って一行は進むが追手が迫り、又七と太平は逃亡、姫と六郎太と娘は山名に捕えられる。関所で囚われた3人の前に兵衛が現れる。果たし合いの件で大殿に罵られ、弓杖で顔を打たれた兵衛は六郎太を恨んでいた。雪姫は「姫は楽しかった。潔く死にたい」と言い、六郎太は男泣きする。それに心動かされた兵衛は処刑の日、「裏切り御免!」と姫と六郎太を解放し、自らも逃げる―。

隠し砦の三悪人022.jpg 1958(昭和33)年)の12月28日公開の黒澤明監督作品で、1959年・第9回ベルリン国際映画祭「銀熊賞(監督賞)」「国際批評家連盟賞」受賞作(国内では「ブルーリボン賞(作品賞)」などを受賞)。黒澤作品の中でも特に娯楽性の強い作品とされているもので、時期的には「蜘蛛巣城」('57年/東宝)と「用心棒」('61年/東宝)の間になりますが、確かに、黒澤明監督が娯楽性を徹底的に追求した作品とされる「用心棒」よりも更に娯楽性が高いかもしれません。

 初めて観た時は(雪姫を演じる上原美佐のショートパンツ・スタイルからして)時代劇というよりまるで「劇画」(漫画)みたいだなあという印象で、個人的評価は◎までは行かず○でしたが、観直してみて脚本の上手さを再認識しました。やはりジョージ・ルーカス監督が「スター・ウォーズ」('77年/米)で、太平と又七C‐3POとR2‐D2.jpgからC‐3POとR2‐D2を、雪姫からレイア姫のキャラクターを着想しただけのことはあると思わされました。ジョージ・ルーカスという宇多丸.jpg監督の(ノンポリティカルな)エンターテインメント性と合致している作品ともとれます。ラッパーで、映画評論で知られるラジオDJの宇多丸氏が、黒澤作品の中では"経年劣化"が進んでいる作品としていましたが、それとは逆に、個人的には評価を○から◎に改めました(こうしていると、日本映画の個人的ベストテンの半分くらいは黒澤作品になってしまいそう)。

隠し砦の三悪人 三船.jpg隠し砦の三悪人 藤田.jpg 真壁六郎太を演じる三船敏郎もスタントなしで派手な騎乗シーンを見せてくれているし、田所兵衛を演じる藤田進も無骨で昔風の武将らしくていい感じです。ヒロイン雪姫を隠し砦の三悪人s.jpg「隠し砦の三悪人」7.jpg演じた上原美佐も、三船敏郎と拮抗して演技にメリハリがあり、この作品の上原美佐を見る限り、"黒澤明は女性を撮るのが下手"という一部の評論家の上原美佐.jpg意見は当て嵌まらないように思いました(雪姫のキャラ自体が男勝りであるという特殊条件があるが)。雪姫役には全国から4000人もの応募が集まったが候補者は見つからず、全国の東宝系社員にも探させて、ようやく社員がスカウトしたのが当時文化女子短期大学の学生だった上原美佐だったとのこと。演技経験の無い上原美佐に対して、黒澤明は、全部自ら演技してみせ、その通りやるように指導したとのことですが、ここまで出来れば立派。但し、本人は、その後何本か映画に出演したものの、「自分には才能が無い」と言う理由で、2年で映画界を引退しています(2003年死去。満67歳没)。

 2008年に樋口真嗣監督によるリメイク作品「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(東宝)が撮られていますが、2人の百姓の内の一人を主役にして、アイドルグループ嵐の松本潤がそれを演じています(真壁六郎太役は阿部寛、雪姫役は長澤まさみ)。個人的には未見ですが、あまり観たいとも思いません。先の宇多丸氏も、オリジナルが"経年劣化"している(あくまで氏の見方だが)からこそリメイクの入り込む余地があったはずなのに、前半と後半で登場人物のキャラクターに一貫性の無い(おそらく松本潤の役柄のこと)駄作になってしまったと酷評していました。(映画雑誌「映画秘宝」主宰2008年度・第2回HIHOはくさい映画賞「最低監督賞」(樋口真嗣)受賞)。リメイクとオリジナルで格差が激しいのも、(相対評価ではあるが)オリジナルがまだ"経年劣化"していないことの一つの証しと言えるようにも思います。

大魔神.jpg大魔神 1966 32.jpg 因みに、洞窟に潜んでお家再興の機を窺うというのは、この映画の8年後に作られた安田公義監督の「大魔神」('66年/大映)などもそのパターンでした(「大魔神」の場合、潜伏期間が10年と結構長いが)。
 
「大魔神」('66年/大映)
 
 

音楽:佐藤勝

「隠し砦の三悪人」加藤武(落武者)
「隠し砦の三悪人」加藤.jpg隠し砦の三悪人042.jpg「隠し砦の三悪人」●制作年:1958年●監督:黒澤明●製作:藤本真澄/黒澤明●脚本:菊島隆三/小国英雄/橋本忍/黒澤明●撮影:山崎市雄●音楽:佐藤勝●時間:139分●出演:三船敏郎/千秋実/藤原釜足/上原美佐/藤田進/樋口年子/志村喬/三好栄子/藤木悠/土屋嘉男/高堂国典/加藤武/三井弘次/小川虎之助/田吉二郎/富田仲次郎/田島義文/沢村いき雄/大村千吉/堺左千夫/佐藤允/小杉義男/谷晃/佐田豊/笈川武夫/中丸忠雄/熊谷二良/広瀬正一/西条悦朗/長島正芳/大橋史典/大友伸/伊藤実/鈴木治夫/金沢重勝/日方一夫/中島春雄/久世竜/千葉一郎/砂川繁視/緒方燐作/山口博義/坂本晴哉/日劇ダンシングチーム●公開:1958/12●配給:東宝●最初に観た場所:大井武蔵野舘(85-02-24)(評価:★★★★☆)●併映:「生きる」(黒澤明)

(2024年1月28日NHK-BSで放映)      加藤武/千秋実/藤原釜足
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水中シーンもある、戦時中の異色の"水泳時代劇"であり、嵐寛寿郎の大映時代の代表作でもある。

河童大将 v.jpg  河童大将(1944年)2.jpg 羅門光三郎/嵐寛寿郎
「河童大将」スチール集
河童大将 スチル.jpg 海と川に囲まれた尼子氏の小城は、毛利軍に囲まれいつ攻め込まれ落城してもおかしくない状態にある。尼子氏の荒浪碇(いかり)之助(嵐寛寿郎)と早川鮎之助(羅門光三郎)は良きライバル関係にあり、敵の様子を探るため敵城への潜入を命じられるが、2人共敵に正体を見破られ、鮎之助は逃れるも、碇之助は捕らわれる。拷問のうえ緊縛されたまま水に投げ込まれた碇之助は、得意の泳法で何とか生還し、敵方の陣形を城主に伝える手柄を立て、足軽頭に出世する。新たに与えられた50人の配下と共に日夜泳法の訓練をする彼に、周囲は嘲笑するが、直属の家老だけは、周囲を水に囲まれているのだから、泳法に長けているのは重要と理解を示す。碇之助と鮎之助の幼馴染で家老の娘・小百合(橘公子)は、婚期を控え2人のライバルの狭間で気持ちが揺らいでいる。鮎之助は、敵城潜入の際に碇之助を置いて逃げたことでの周囲への負い目から、水練大会の競泳で扇り足(平泳ぎ)の日本式泳法の碇之助に対し、早抜き手(クロール)で碇之助に勝利して名誉挽回するも、鮎之助は、本当に必要な泳ぎはいかに体力を温存して水中の中にい続けることができるかだとして気に留めていない。しかし、そんな碇之助に煮え切らない思いの小百合の父は、娘の気持ちを無視して小百合の鮎之助への嫁入りを決めてしまう。やがて、敵陣からの攻勢がかかり、これに対処するには奇襲戦法しかないと、日頃鍛えた河童隊を二隊に分け、湖水を泳いで毛利軍を奇襲することに。碇之助の隊は平泳ぎ、鮎之助の隊はクロール似の早抜き手で進む。鮎之助の隊は、泳ぎは早いが水飛沫(しぶき)で敵に発見され攻撃を被る。一方、碇之助の隊は、泳ぎは遅いが静かに進むため発見されず、奇襲攻撃は成功して味方を勝利に導くとともに、手負いの鮎之助を救出する―。

 戦国時代を舞台に、水泳により水を渡り敵に奇襲をかける足軽頭の活躍を描く、水中シーンなども見られる戦時中の異色の"水泳時代劇"。1944年8月公開ということもあって、クロール隊が役に立たず、平泳ぎ(日本式泳法)隊が勝利に貢献するという設定は、日本が米英より優れていることを強調している映画とも考えられます。それにしても、毛利に攻め込まれ孤立状態となった尼子氏の城が舞台になっていることや、碇之助の、「勝とうと思えばいつでも勝てる」「負けて勝っているのだ」というセリフが、逆に当時日本軍の戦況の厳しさを物語っているようでもあり、"国策映画"としてはどうかなとも。

 山中貞夫氏によれば、"国民皆泳運動"というのが当時あって、その宣伝にも一役買っていたのではないかとのことですが(そうか、それが"水泳時代劇"が生まれるきっかけだったのか)、山中氏も、負けつつある国が奇襲戦法で勝つというストーリーは、日本人の願望を映し出しているようでもあるとしています。

 主人公・荒浪碇之助を演じた嵐寛寿郎(1902-1980)は、当時41歳。裸になるとがりがりで、まずまずのガタイの羅門光三郎(1901-没年不詳)に比べ見劣りしますが、水の中に入るとすいすいと素晴らしい泳ぎをみせます。また、剣戟においてもすごい眼光と俊敏な身のこなしでその往年のスターぶりを見せ、この作品は「海峡の風雲児」('43年/大映)と並んで彼の大映時代の代表作です。準主役の早川鮎之助を演じた羅門光三郎は戦後すぐに脇役に回りますが、嵐寛寿郎も大映から移籍した新東宝の倒産(1961年)後はどこにも所属しなかったため、晩年は殆ど脇役でした(その中でも、「網走番外地」('65年/東映)や「神々の深き欲望」('68年/日活)などでの演技が印象深い)。

山中鹿之介f.jpg 原健作演じる山中鹿之助(山中幸盛、1545?-1578)や荒木忍演じる横道兵庫助(横道秀綱、生年不詳-1570)をはじめ、吉川将監、尼子勝久あたりまでは歴史上実在した人物であり、山中鹿之助は「尼子十勇士」の筆頭であり、尼子家再興のために「願わくば我に七難八苦(艱難辛苦)を与えたまえ」と三日月に祈った逸話で知られ、横道兵庫助も「尼子十勇士」の1人とされていますが、この「尼子十勇士」の中に「荒浪碇介」「早川鮎介」などがいます。但し、このあたりになると「真田十勇士」のようなもので、架空の人物の公算が高いようです。「落ちそうで落ちない城」を舞台にしたものでは、忍城(おしじょう)を舞台にした和田竜原作「のぼう城」('12年/東宝)があり、モチーフ的には通じるものがあるように思いました。

河童大将図1.jpg 見た目、それほど"国策映画"っぽくないのは、娯楽映画であることに加え、主人公・荒浪碇之助の「友情」と「恋愛」の板挟みが描かれているせいでもあるかと思います。「友情」はともかく、「恋愛」の方は戦時下で基本的には"御法度"だったと思われますが、「時代劇」という背景と「水練」という国策運動に繋がるネタのもと、上手くお話の中に織り込んでしまったところに、制作陣のしたたかさが感じられました。

「河童大将」●制作年:1944年●監督:松田定次●製作:山口哲平●脚本:八尋不二●撮影:川崎新太郎●音楽:佐野顕雄●時間:64分●出演:嵐寛寿郎/羅門光三郎/橘公子/藤原鶏太/原健作/山口勇/荒木忍/嵐徳三郎/環歌子●公開:1944/08●配給:大映(京都)(評価:★★★☆)

嵐 寛寿郎 in「網走番外地」('65年/東映)/「神々の深き欲望」('68年/日活)網走番外地 嵐寛寿郎.jpg 神々の深き欲望.jpg

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原作者に「原作を超えた」と言わせた作品。ドラマではだんだん原作の雰囲気を伝えにくくなってきている?
07『張込み』.jpg張込み_.jpg 張込み 映画1.gif 張込み 水曜ミステリー1.jpg 張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg
<あの頃映画> 張込み [DVD]」/「『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]」/大木実・宮口精二/TX系「水曜ミステリー9」松本清張特別企画「張込み」2011年11月2日放映(若村麻由美)/『張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

張込み 映画 dvd.jpg張込み 3.jpg 警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に張込み 高峰.jpg会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。

『張込み』(1958)2.jpg 原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。

 橋本忍・野村芳太郎のコンビは以降も「ゼロの焦点」('61年)、「影の車」('70年)、「砂の器」('74年)と、この作品以降次々と松本清張作品の映画化を手掛けており、そうした一連の作品の中でもこの作品に対する原作者・松本清張の評価・満足度は高かったそうですが、個人的には、最初にこの映画「張込み」を観た際には、後年の作品ほどの演出のキレが感じられませんでした。ただ、田中小実昌などは「砂の器」よりもこっちの方がずっと傑作だと言っおり、エライ人が出てこないのがいいと。確かにそういう見方もあるかもしれないと思った次第です。

松本清張 .jpg 因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)、「砂の器」('78年/松竹)だけであったといい(3作とも脚本は橋本忍)、特に「張込み」と「黒い画集 あるサラリーマンの証言」については、 「映画化で一番いいのは『張込み』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』だ。両方とも短編小説の映画化で、映画化っていうのは、短編を提供して、作る側がそこから得た発想で自由にやってくれるといいのができる。この2本は原作を超えてる。あれが映画だよ」と述べたとのことです。(白井佳夫・川又昴対談「松本清張の小説映画化の秘密」(『松本清張研究』第1号(1996年/砂書房)、白井佳夫・堀川弘通・西村雄一郎対談「証言・映画『黒い画集・あるサラリーマンの証言』」(『松本清張研究』第3号(1997年/砂書房))。

 この「張込み」という作品は、時代劇に翻案されたものも含めると、これまでに少なくとも10回はテレビドラマ化されています。
 •1959年「張込み(KR(現TBS))」沢村国太郎・山岡久乃・安井昌二
 •1960年「黒い断層~張込み(KR(現TBS))」宇津井健・三井弘次
 •1962年「張込み(NHK)」沼田曜一・福田公子・小林昭二
 •1963年「張込み(NET(現テレビ朝日))」江原真二郎・織田政雄・高倉みゆき
 •1966年「張込み(KTV(関西テレビ))」中村玉緒・下条正巳・高津住男
張込み 吉永小百合.bmp •1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
 •1978年「松本清張おんなシリーズ1・張込み(TBS)」吉永小百合・荻島真一・佐野浅夫
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・張込み(CX)」大竹しのぶ・田原俊彦・井川比佐志
 •1996年「文吾捕物絵図 張り込み(TX)」中村橋之助・萬屋錦之介・國生さゆり
 •2002年「松本清張没後10年記念・張込み(ANB)」ビートたけし・緒形直人・鶴田真由

張込み 田村高廣/高峰秀子.jpg 女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。

映画「張込み」 田村高廣/高峰秀子

 一方、張り込む側の男優の方は、テレビドラマ版は、見張りの刑事が2人になっているものが多く、その点では映画版を踏襲していますが、だんだんベテラン刑事と若手刑事の取り合わせという風になっていき(但し、吉永小百合版は若手の荻島真一が一人で張り込み)、ベテランがメインになったり若手がメインになったりと色々バリエーションがあるようです(大竹しのぶ版では若手エリート刑事と地元の田舎刑事との取り合わせ、ビートたけし版ではビートたけしと一緒に張り込む緒形直人の方が「年下の上司」ということになっている)。

若村麻由美.bmp そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。

張込み 水曜ミステリー2.jpg 張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったかと思ってしまいます。

張込み 水曜ミステリー3 携帯.jpg 原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じでした(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。

張込み 1958.jpg張込み 映画1.jpg ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S張込み 1958汽車.pngLファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)

 大方が時代設定を現在に置き換えており、最初から原作を再現するつもりも無いわけですが、1回"原点回帰"したものも観てみたい気がするし、演出が近年の刑事ドラマのパターンをステレオタイプで踏襲しているのにはややウンザリもします(このTX系「水曜ミステリー9」版も、若村麻由美はまあまあなのだが、男優陣の演技は"全滅"に近かったように思う)。

「張り込み」00.jpg張込み タイトル.jpg 野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。

大木実/宮口精二
大木実/宮口精二 張込み.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大張込み vhs.jpg木実/宮口精二/高峰秀子/田村張込み 1958汽車2.png高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦「張込み」1958.jpg田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

田村高廣/高峰秀子


菅井きん(捜査第一課刑事・下岡雄次(宮口精二)の妻・満子)
菅井きん「張込み」(1958年).jpg  
      

若村麻由美「張り込み」(松本清張).jpg「松本清張特別企画・張込み .jpg張込み 水曜ミステリー1.jpg「松本清張特別企画・張込み」●監督:星田良子●製作:TX・BSジャパン●脚本:西岡琢也●原作:松本清張●出演:若村麻由美/小泉孝太郎/忍成修吾/渡辺いっけい/塩見三省/六平直政/田山涼成/上原美佐/田中邦衛●放映:2011/11(全1回)●放送局:テレビ東京 
若村麻由美(横川さわ子)/小泉孝太郎(警視庁刑事・柚木哲平)/渡辺いっけい(柚木の先輩刑事・下岡有作)/田中邦衛(警官・岸端正浩)
「張込み」若村麻由美.jpg 「張込み」 koizumi.jpg 「張込み」watanabe.jpg 「張込み」田中邦2衛.jpg

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主人公(姉)はストイック過ぎて2人の男性を傷つけているようにも思った。

宗方姉妹s.jpg宗方姉妹0.jpg宗方姉妹 dvd1.jpg 宗方姉妹 dvd2.jpg 
宗方姉妹 [DVD]」「宗方姉妹」田中絹代/高峰秀子

宗方姉妹3.png宗方姉妹 田中絹代 .jpg 東京に住む宗方節子(田中絹代)は、京都の大学教授・内田(斉藤達雄)を訪ねた際、父・忠親(笠智衆)はガンであと1年か半年の余命だと知らされる。節子の妹・満里子(高峰秀子)も父を訪ね、父の旧知の田代上原謙  高峰秀子 宗方姉妹.jpg宏(上原謙)と出会う。後日、満里子は神戸で家具屋を営む宏を訪ね、姉の日記を盗み読みしたため、姉がかつて宏と交際していたのを知っていると言うが、宏は笑って聞き流す。節子の夫・三村亮助(山村聰)は失業中で仕事が見つからず、同居の義妹・満里子とソリが合わない。満里子は日記を読んだことを姉にも白状し、なぜ宏と結婚しなかったのか訊ねる。節子は「当時は、あの人のことが好きかどうか分らなかった。そのうちにあの人はフランスへ行ってしまったの」と淡々と答える。節tumblr_m9hl0zPO8b1r9uoamo1_500.gif子は生計のためバー「アカシア」を経営しているが、「アカシア」に訪ねてきた宏にバーの経営が苦しいことを打ち明けると、宏は「僕に任宗方姉妹 高峰.jpgせてください」と言う。ある日、節子が満里子へ帰りの遅いことを注意すると「この家は陰気臭い」と日頃の鬱憤を吐き出す。節子は「結婚とは良いことばかりではない」と諭すが、満里子は「姉さんは古い」と言って立ち去る。後日、満里子は神戸の宏宅に行き、何故姉と一緒にならなかったか問いただすと、宏は「節子さんを幸せにする自信がなかった」と答える。満里子は宏に「満里子と結婚してくれない」と切り出し立ち去る。節子の家では、亮助が節子にバーの資金の事を訊き、「宏から借りたのか。俺には知られたくなかったのか。宏とはちょくちょく会っているのか」と問い詰める。節子は誤解だと答えるが、亮助は二階に上がってしまい、節子が追いかけて店は辞めるというと「好きなようにしろ」と冷たく言う。満里子は東京に来た宏の旅館を訪ね、「結婚してくれ」というのは本気の部分もあるが冗談だったと言い訳し、節子がバーを辞めようとしているので会ってほしいと頼む。満里子が「アカシア」で客待ちしていると亮助が来て、「明日で店は終わりよ」と言うと亮助は「知らんよ」と答える。満里子が「勝手すぎる」と言うと「酒を飲んでふらふらしているのも捨てがたい」と言い壁にコップを投げつける。数日後、亮助は節子へ「俺達は別れたほうがい宗方姉妹 山村聰、高峰秀子.jpgいのか」と切り出し、「何故」と問う節子へ「お前が一番知ってることだ」と口調を荒げて節子を叩く。そのことで節子は亮助と別れる決心をし、宏の居る旅館を訪ねるが、亮助も後から旅館に来て、「仕事が見つかった。ダム建設の仕事だ。喜んでくれ」と話し、祝杯だと言って立ち去ってしまう。その夜雨でずぶぬれになった亮助は、帰宅後心臓麻痺で死んでしまう。宏と会った節子は「亮助は普通の死ではない。そんな暗い影を背負って貴方の所へ行けない」と言い残して宏と別れ、満里子に対しても「自分に嘘をつかないことが、一番いいと思っている」と言い京都御所から山を見上げながら二人で帰宅する―。 

山村聰(節子の夫・亮助)/高峰秀子(節子の妹・満里子)

宗方姉妹 ages.jpg 1950(昭25)年8月公開で、小津安二郎にとっては初めて松竹を離れて撮った作品。原作は大佛次郎の同名小説で、古風な姉(田中絹代)と進歩的な妹(高峰秀子)が対比的に描かれている点はよく知られていますが、背景として、死期を悟っている父(笠智衆)がいて、病弱であるのに酒浸りの姉の夫(山村聰)と洋行帰りの姉の元恋人(上原謙)がいて、更にはその恋人に思いを寄せる未亡人(高杉早苗)がいてと、結構複雑な人間関係でした。

 これぞ名作と言う人もいますが、名優と言われる人たちがそれぞれに演技して、それらが何となく噛みあっていない感じで、噛み合っていないことがそのままストーリー上の人間関係とは合致しているような奇妙な"フィット感"がありました。

宗方姉妹B.jpg 一番はじけていたのは妹・宗方満里子を演じた高峰秀子(当時26歳)でしょうか(これはちょっとはじけ過ぎ)。子役時代に「東京の合唱(コーラス)」('31年)で小津作品に出演していますが、大人になって初の小津作品への宗方姉妹 takamine.jpg出演で、やはりこの人は成瀬巳喜男監督の方が相性いいのかと思ったりもしました。但し、『わたしの渡世日記』(朝日新聞社)によれば、あのコミカル過剰な演技の背景では、「瞬きの数まで指導されたばかりか、事あるごとにペロっと舌を出す演技を要求され、その舌の出し方まで厳しく演技指導を受けた」とのことです(個人的には、後年の「秋日和」('60年)の岡田茉莉子のはじけ方の方が自然だったと思う)。

宗方姉妹 tanaka.jpg ただ、その『わたしの渡世日記』によると、この作品で小津安二郎監督から最も多くダメ出しされたのは田中絹代(当時40歳)だったそうで、この頃の彼女は、例の日米親善使節として渡米した際に、出発時は小袖姿だったのが、帰国時はドレスと毛皮のコートで報道陣に「ハロー」と言い、銀座のパレードで投げ宗方姉妹 last.jpgキッスを連発したことでメディアから「アメリカかぶれ」とのバッシングを受け、自殺まで考えていた時期だったとのこと(ロケバスで隣に座った高峰秀子に死にたいと漏らしたそうな)。その割にはしっかり演技している印象ですが、彼女が演じた姉・宗方節子というのが、個人的には最後まで理解しにくかったような...。ある意味、ストイック過ぎて、2人の男を傷つけているようにも感じました。ラストは究極の"忍ぶ恋"か(彼女がそういう時期だったから小津安二郎がわざわざ意図的に古風な女性の役をあてがったとも思えないが)。

 上原謙の優柔不断気味な田代宏役は可もなく不可もなくで、良かったのは山村聰演じる三村亮助役の退廃ぶり(DVまでやっちゃう)だったでしょうか。やはり舞台出身者は上手い(山村聰はこの作品で第1回「ブルーリボン賞」の主演男優賞を受賞)。上原謙は1909年生まれ、山村聰は1910年生まれですが、山村聰の義父を演じた笠智衆は1904年生まれで、実年齢では2人とあまり差が無く、笠智衆は40代半ばで、彼らの一世代上の世代、実年齢で5歳年下の田中絹代(当時40歳)の父親役を演じていることになります。因みに、実年齢から離れた役柄を役者に演じさせるのは小津安二郎に限ったことではなく、成瀬巳喜男監督の「山の音」('54年)では、上原謙と山村聰が親子を演じています(年下の山村聰が父親役で年上の上原謙が息子役。山村聰は当時44歳で62歳の役を演じた)。

高杉早苗1938.jpg宗方姉妹R.jpg 上原謙の田代宏に思いを寄せる未亡人・真下頼子を演じた高杉早苗(1918年生まれ)は「スーパー歌舞伎」の生みの親・二代目市川猿翁(旧名:三代目市川猿之助)の"生みの親"で(香川照之は息子の三代目猿之助と浜木綿子の間にできた孫にあたる)、梨園に入って一度引退した後の出演です。女優復帰は、戦後すぐ疎開先から東京への転居費用等で借金がかさんだことからで、但し、梨園の妻としての行動に支障が出ない範囲ならという条件付きだったとのことです。引退前では、清水宏監督の「金環蝕」('34年/松竹)や「東京の英雄」('35年/松竹)に出ていました。

高杉早苗(1938(昭和13)年:雑誌「映画之友」三月號)
(背景は前年オープンの赤倉観光ホテル)

宗方姉妹 senngoku s.jpg 脇役では、松竹映画ではなく新東宝映画であるということもあって、飲み屋の給仕役で黒澤映画の常連である千石規子(1922年生まれ)が七人の刑事1.jpg堀雄二e.jpg出ていているのが小津作品としては珍しく、節子が経営するバー「アカシア」の従業員で、元特高隊員で今はギャンブルにうつつを抜かしている前島五郎七を演じた堀雄二(1922年生まれ)の演技も良かったです(この作品の前年の稲垣浩監督の「忘れられた子等」('49年/新東宝)に新任教師役で主演し、校長役の笠智衆と共演している)。この人は後にテレビドラマ「七人の刑事」('61 -'69年/TBS)で赤木係長を演じ、芦田伸介演じる沢田部長刑事ら6人を仕切っていました(警視庁からの台東署への派遣であるため、"係長"でも偉い?)。

宗方姉妹264.jpg 一人一人の役者を見ていくと結構興味深い作品。小津作品独自のカメラワークも「晩春」('49年)の翌年、「麦秋」('51年)の前年、「東京物語」('53年)の3年前ということで、ほぼ完成されていると言っていいのではないでしょうか。ただ、ストーリー的には、今の時代の人が観れば、「ラスト、これでいいのか」と思う人も結構多いように思います。穿った見方をすれば、誰かが死ぬことでハッピーエンドになるというのは、"倫理観"的にと言うより、"美学"的に映画にそぐわないということなのかも。
 
 
宗方姉妹ges.jpg宗方姉妹72.jpg「宗方姉妹(むねかたきょうだい)」●制作年:1950年●監督:小津安二郎●製作:児井英生郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:小原譲治●音楽:斎藤一郎●原作:大仏次郎「宗方姉妹」●時間:112分●出演:田中絹代/高峰秀子/上原謙/山村聡/高杉早苗/堀雄二/藤原釜足/河村黎吉/千石規子/一の宮あつ子/堀越節子/坪内美子/斎藤達雄/笠智衆●公開:1950/08●配給:新東宝(評価:★★★☆)

七人の刑事3.jpg七人の刑事2.jpg「七人の刑事」●プロデューサー:蟻川茂男●脚本:早坂暁/向田邦子/石堂淑朗/小山内美江子/長谷川公之/砂田量爾/佐々木守/内田栄一/大津皓一/ジェームス三木/山浦弘靖/本田英郎 他●演出:鴨下信一/今野勉/蟻川茂男/川俣公明/山田和也/田沢正稔/和田旭/山本脩/久世光彦/浅生憲章 他●音楽:樋口康雄(第43話まで)/佐藤允彦(第44話以降)(テーマ音楽:山下毅雄)●出演:堀雄二/芦田伸介/美川洋一郎(美川陽一郎)/佐藤英夫/城所英夫/菅原謙二/天田俊明/高松英郎●放映:1961/10~1964/05、1964/08~1969/04(全382回)●放送局:TBS七人の刑事 スチール.jpg

「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2955】 黒澤 明 「八月の狂詩曲
「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ヴェネツィア国際映画祭 男優賞」受賞作」の インデックッスへ(三船敏郎) 「●佐藤 勝 音楽作品」の インデックッスへ「●三船 敏郎 出演作品」の インデックッスへ「●笠 智衆 出演作品」の インデックッスへ「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ「●杉村 春子 出演作品」の インデックッスへ「●東野 英治郎 出演作品」の インデックッスへ「●田中 絹代 出演作品」の インデックッスへ「●土屋 嘉男 出演作品」の インデックッスへ 「●香川 京子 出演作品」の インデックッスへ「●藤原 釜足 出演作品」の インデックッスへ 「●山﨑 努 出演作品」の インデックッスへ 「●桑野 みゆき 出演作品」の インデックッスへ「●西村 晃 出演作品」の インデックッスへ「●小国 英雄 脚本作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(黒澤 明) 「●や 山本 周五郎」の インデックッスへ ○東宝DVD名作セレクション(黒澤明監督作品)

黒澤映画における最後の「白黒映画作品」「三船出演作品」「泥臭いヒューマニズム作品」。

赤ひげ ちらし.jpgAkahige(1965).jpg赤ひげ dvd.jpg  赤ひげ診療譚 (新潮文庫).jpg 
Akahige(1965)赤ひげ【期間限定プライス版】 [DVD]」『赤ひげ診療譚 (新潮文庫)』(表紙イラスト:安野光雅)
  
赤ひげ0.jpg 長崎で和蘭陀医学を学んだ青年・保本登(加山雄三)は、医師見習いとして小石川養生所に住み込むことになる。養生所の貧乏臭さとひげを生やし無骨な所長・赤ひげこと新出去定(三船敏郎)に好感を持てない保本は養生所の禁を犯して破門されることさえ望んでいた。しかし、赤ひげの診断と医療技術の確かさを知り、また彼を頼る貧乏な人々の姿に次第に心を動かされていく―。

三船敏郎/加山雄三

 黒澤明監督の1965年公開作品で、山本周五郎による原作『赤ひげ診療譚』(1958(昭和33)年発表)が所謂「赤ひげ診療所」で青年医師・保本登が体験するエピソード集(全8話の診療譚)という連作構成になっているため、映画の方も、それぞれ関連を持ちながらも概ね5話からなるオムニバスとなっています。原作の冒頭3話「狂女赤ひげ 加山雄三 東野英治郎.jpgの話」「駆込み訴え」「むじな長屋」に対応するのが映画での第1話から第3話に該当する「狂女おゆみ」「老人六助とその娘おくに」「佐八とおなか」の話で、但し、映画における続く第4話「おとよ」の話は、原作の第5話「徒労に賭ける」と設定は似てなくはないものの人物像や展開は原作と異なり、この部分はドストエフスキー『虐げられた人びと』の少女ネリーを巡る話をもとにした映画オリジナルの設定です。また、映画における第5話に当たる「長次」は、第6の診療譚「鶯ばか」の中の一少年の話を膨らませて改変した映画のオリジナルになっています。

赤ひげ9.jpg それら5話を挟むようにして、冒頭に、登が「赤ひげ診療所」に来て、保本と入れ替わりで診療所を去っていく津川玄三(江原達怡)に案内されて、診療所の凄まじい実態を突きつけられ、赤ひげこと新出医師に対して沸き起こった反発心を同僚の杉半太夫(土屋嘉男)に吐露する様と、ラストに、登とかつての登の許嫁であったちぐさ(藤山陽子)の妹であるまさえ(内藤洋子)との結婚内祝い並びに、登が診療所に留まることを赤ひげに懇願する場面がきています。
土屋嘉男/加山雄三/三船敏郎

赤ひげ01.jpg 以前観た時は、オムニバス系形式であるうえに、登の冒頭とラストの大きな変化も物語的に見れば予定調和と言えば予定調和でもあるために、ストーリー的にインパクトが弱かったような気がして、おそらく黒澤作品の中で相対評価したのでしょうが、◎ではなく○の評価でした。しかし今回観直してみて、3時間を飽きさせずに見せる要因として、話がオムニバス形式になっているのが効いているのではないかと思いました。また、昔観た時に、ちょっと話が出来過ぎているなあと思った部分も、今観ると、カタルシス効果という面でヒューマン・ドラマの王道を行っているし(しかも完成されたモノクロ映像美の雄弁さ)、この作品は、黒澤映画における最後の「白黒映画作品」「三船敏郎出演作品」「泥臭いヒューマニズム作品」とされているそうですが、"泥臭い"というのは確かに当たっているなあと思う一方で、黒澤にとって赤ひげのような人物を演じ切れる三船敏郎という役者の存在は大きかったなあと思いました(三船敏郎はこの作品で「用心棒」('61年/松竹)に続いて2度目のヴェネツィア国際映画祭主演男優賞受賞。三船敏郎は同映画祭で歴代唯一の日本人男優賞受賞者)。

 黒澤明監督はこの作品に対し「日本映画の危機が叫ばれているが、それを救うものは映画を創る人々の情熱と誠実以外にはない。私は、赤ひげ 香川.jpgこの『赤ひげ』という作品の中にスタッフ全員の力をギリギリまで絞り出してもらう。そして映画の可能性をギリギリまで追ってみる」という熱意で臨み、そのため結局完成までに2年もかかってしまったということですが、それだけに、三船敏郎ばかりでなく、各エピソードの役者の熱演には光るものがあります。

香川京子
赤ひげ03.jpg まず、「狂女おゆみ」の話の座敷牢に隔離された美しく若い狂女を演じた香川京子。告白話をしながら登に迫るインフォマニア(色情狂)ぶりは、"蟷螂女"の怖さを滲ませて秀逸でしたが、小津安二郎の「東京物語」('53年/松竹)で尾道の実家を守る次女を、溝口健二の「山椒大夫」('54年/大映)で弟思いの安寿を演じ、黒澤作品「天国と地獄」('63年/東宝)では三船演じる権藤専務の妻を演じたばかりだった彼女にしては珍しい役柄だったのではないでしょうか。

 続く「老人六助とその娘おくに」の話の診療所で死んだ六助(藤原釜足)の娘・おくにを演じた根岸明美の、父親の不幸を語る10分近い長ゼリフも凄赤ひげ 根岸明美 .jpgかったと思います(原作ではおくには既に北町奉行所に囚われていて、赤ひげは藤沢周平の「獄医・立花登」的な立場で会いに行くのだが、映画では診療所内で彼女の告白がある)。おくにを演じた根岸明美は、このシーンは本番で一発で黒澤明監督のOKを引き出したというからますますスゴイことです(ラッシュを観て、その時の苦心を思い出して居たたまれなくなり席を外したという)。

赤ひげ05.jpg 「佐八とおなか」の話は、山崎努演じる「むじな長屋」の佐八(長屋で"いい人"として慕われている)が臨終に際して自分がなぜ皆のために尽くしてきたか、それが実はかつて大火で生き別れた赤ひげ 山﨑2.jpg女房・おなか(桑野みゆき)に対する罪滅ぼしであったことを臨終の床で語るもので、この部分だけ回想シーン使われていますが、考えてみればこれもまた告白譚でした。山崎努は、「天国と地獄」の次に出た黒澤作品がこの「赤ひげ」の"臨終男"だったことになりますが、「天国と地獄」の誘拐犯役で日本中の嫌われ者になってしまったと黒澤監督にぼやいたら、「それは気の毒をした」と黒澤監督が山崎努を"超"善人役に配したという裏話があります。

「赤ひげ」5.jpg 第4話「おとよ」の話は、赤ひげが、娼家の女主人(杉村春子)の元から、二木てる赤ひげ 二木.jpg演じる少女おとよを治療かたがた"足抜け"させるもので、ここで赤ひげは娼家の用心棒をしている地廻りのヤクザらと大立ち回りを演じますが(ここだけアクション映画になっている!)、この二木てるみのデビユーは黒澤明監督の「七人の侍」('54年/東宝)で当時3歳。個人的にはこの名を知った頃には既に名子役として知られていましたが、名子役と言われた由縁は、この第4話「おとよ」と次の「長次」を観ればよく判ります。
  
赤ひげ07.jpg その映画内での第5話にあたる「長次」では、貧しい家に生まれ育ち、一家無理心中に巻き込まれる赤ひげ 頭師.jpg男の子・長次を頭師佳孝が演じていますが、二木てるみと頭師佳孝とが出逢う子役2人だけの会話で綴られる6分間のカットは、撮影現場で見ている人が涙ぐむほどの名演で、黒澤明監督も百点満点だと絶賛したそうです。個人的には、おとよが井戸に向かって長次の名を呼び、死の淵をさまよう彼を呼び戻そうとする場面は、黒澤作品全体の中でも最も"泣ける"場面であるように思います(原作では長次は死んでしまうが...)。

赤ひげ その3.jpg この作品、原作者の山本周五郎さえも「原作以上」と絶賛したそうで、原作も傑作ながら(原作では「おくめ殺し」というのが結構ミステリっぽくて面白かった)、「おとよ」は原作を大きく変えているし、「長次」に至っては全くのオリジナルですが、原作から改変しているのに原作者が「原作以上」と褒めているというのが黒澤明のスゴイところではないかと(その前に3話、ほぼ忠実に原作を再現しているというのはあるが)。
内藤洋子(まさえ)/加山雄三(保本登)/田中絹代(登の母)

赤ひげ 笠智衆.jpg ラストの登とまさとの結婚内祝いの場面で、登の母親役の田中絹代に加えて父親役で笠智衆が出てきますが、これは黒澤が先輩監督である小津安二郎と溝口健二に敬意を表して、それぞれの監督作の看板役者をキャスティングしたとのことで(田中絹代は溝口映画だけではなく小津映画にも多く出ているが)、このことからも、黒澤がこの作品にどれだけ入れ込んだかが窺い知れるように思いました。
笠智衆(登の父)/三船敏郎(媒酌人の「赤ひげ」こと新出去定)/内藤洋子(まさえ)/風見章子(まさえの母)

akahige 赤ひげ.jpg

加山雄三(保本登)/杉村春子(娼家「櫻屋」の女主人・きん)
赤ひげ 杉村春子.jpg「赤ひげ」●制作年:1965年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:井手雅人/小国英雄/菊島隆三/黒澤明●撮影:中井朝一/斎藤孝雄●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「赤ひげ診療譚」●時間:185分●出演:三船敏郎/加山雄三/山崎努/団令子/桑野みゆき/香川京子/江原達怡/二木てるみ/根岸明美/頭師佳孝/土屋嘉男/東野英治郎/志村喬/笠智衆/杉村春子/田中絹代/柳永二郎/三井弘次/西村晃/千葉信男/藤原釜足/三津田健/藤山陽子/内藤洋子/七尾伶子/辻伊万里/野村昭子/三戸部スエ/菅井長次(頭師佳孝)2.jpg長次(頭師佳孝).jpgきん/荒木道子/左卜全/渡辺篤/小川安三/佐田豊/沢村いき雄/本間文子/出雲八重子/中村美代子/風見章子/常田富士男●公開:1965/04●配給:東宝●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(10-09-04)(評価:★★★★☆)
二木てるみ(おとよ)/頭師佳孝(長次)
赤ひげ 根岸明美 2.jpg(阿部嘉典『「映画を愛した二人」黒沢明 三船敏郎』(1996/01 報知新聞社)より)

赤ひげ診療譚 (1962年) (ロマン・ブックス)』『赤ひげ診療譚 (新潮文庫)』『赤ひげ診療譚 (時代小説文庫)
赤ひげ診療譚 (1962年) (ロマン・ブックス).jpg 赤ひげ診療譚 (新潮文庫)2.jpg 赤ひげ診療譚 (時代小説文庫).jpg

『赤ひげ診療譚』...【1959年単行本[文藝春秋新社]/1962年ロマンブックス[講談社]/1964年文庫化・2019年新装版[新潮文庫]/2008年再文庫化[時代小説文庫]】

「●黒澤 明 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2191】 黒澤 明 「赤ひげ
「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ 「●小国 英雄 脚本作品」の インデックッスへ 「●佐藤 勝 音楽作品」の インデックッスへ「●三船 敏郎 出演作品」の インデックッスへ「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ「●東野 英治郎 出演作品」の インデックッスへ「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ「●中村 伸郎 出演作品」の インデックッスへ「●山﨑 努 出演作品」の インデックッスへ「●大滝 秀治 出演作品」の インデックッスへ 「●藤田 進 出演作品」の インデックッスへ 「●西村 晃 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 武 出演作品」の インデックッスへ「●土屋 嘉男 出演作品」の インデックッスへ「●香川 京子 出演作品」の インデックッスへ 「●伊藤 雄之助 出演作品」の インデックッスへ「●藤原 釜足 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(池袋文芸地下) 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(丸の内TOEI1)○東宝DVD名作セレクション(黒澤明監督作品)

優れたカメラ効果を生んでいるシーンが多くあり、特にロケシーンは貴重な映像の連続。

天国と地獄 vhs.jpg 2天国と地獄 dvd .jpg 天国と地獄 dvd.jpg
天国と地獄 [VHS]」「天国と地獄 [監督:黒澤明][三船敏郎] [レンタル落ち]」「天国と地獄<普及版> [DVD]
Tengoku to jigoku(1963)
天国と地獄 ポスター.jpg天国と地獄 チラシ.jpgTengoku to jigoku(1963).jpg 製靴会社ナショナル・シューズの常務・権藤金吾(三船敏郎)の元に、「子供を攫った」という男からの電話が入る。そこに息子の純(江木俊夫)が現れ、いたずらと思っていると、住み込み運転手である青木(佐田豊)の息子・進一がいない。誘拐犯は子供を間違えたのだが、そのまま身代金3千万円を権藤に要求したのだった。妻(香川京子)や青木は身代金の支払いを権藤に懇願するが、権藤にはそれができない事情があった。権藤は密かに自社株を買占め、近く開かれる株主総会で経営の実権を手に入れようと計画を進めていた。翌日までに大阪へ5千万円送金しなければ必要としている株が揃わず、地位も財産も、すべて失うことになる。権藤は誘拐犯の要求を無視しようとするが、その逡巡を見透かした秘書(三橋達也)に裏切られたため、一転、身代金を払うことを決意する。3千万円を入れた鞄を持って、犯人が指定した特急こだまに乗り込む。が、同乗した刑事が見たところ車内に子供はいない。すると電話がかかり、犯人から「酒匂川の鉄橋が過ぎたところで、身代金が入ったカバンを窓から投げ落とせ」と指示される。特急の窓は開かないと刑事が驚くも、洗面所の窓が、犯人の指定した鞄の厚み7センチだけ開くのだった。権藤は指示に従い、その後進一は無事に解放されたものの、身代金は奪われ犯人も逃走してしまう。非凡な知能犯の真の目的は―。

中村伸郎・伊藤雄之助・田崎潤・三船敏郎(手前)/三船敏郎・香川京子
天国と地獄 中村伸郎 .jpg天国と地獄 香川京子.jpg 今観てもつくづく凄い映画だと思います。前半部分の権藤邸での息詰まる舞台演劇のような緊張感と(製靴会社買収攻防の持株数の話はエド・マクべインの原作に基づいている)、後半の天国と地獄  01.jpg犯人と警察及び権藤との攻防のダイナミックな展開の対比がいいです。主演の三船敏郎もいいけれど、戸倉警部役の日本版FBIのような仲代達矢もいい。この映画の仲代達矢は、前半部分では観客の視線を代弁しているような面もあり、演出構成の巧さというのもあるかと思いますが、「用心棒」('61年)での役柄よりも個人的には好みです。そして、犯人・竹内銀次郎を演じる当時は新人であった山崎努もいいです。

天国と地獄03.jpg天国と地獄12.jpg 更に脇役陣として、戸倉警部の上司に警視庁・捜査本部長の志村喬と捜査一課課長の藤天国と地獄 加藤木村名古屋土屋.jpg田進、刑事に木村功や加藤武、名古屋章、土屋嘉男がいて、新聞天国と地獄 新聞記者.jpg記者には北村和夫、三井浩次、千秋実がいて(なぜかその後ろにノンクレジットの大滝秀治までいる)、権藤の社内の敵に伊藤雄之助、田崎潤、中村伸郎、工場の靴職人に東野英次郎、ゴミ焼却炉の作業員に藤原釜足、麻薬街には菅井きんといった具合に、細かい処でベテランが出ていて、しかもその内のかなりを黒澤組の常連が固めていたことが窺えます。

天国と地獄  11.jpgこだま 151系電車.jpg 「特急こだま号」の車内での撮影は、実際と同じ12両編成の特急こだま号が借り切られ、他の列車の運行の妨げにならないよう特別ダイヤで運行させていますが、限られた時間内で(当時は東京―大阪間6時間ぐらい。新幹線だったらもっとキツかっただろなあ)、しかも車中だけでなく、酒匂川での身代金の受け渡しシーンなど殆ど撮り直しがきかない条件の中、よく撮ったものだなあと。役者や撮影スタッフの緊張感がそのまま画面に表れていて、それが、緊迫した臨場感を生んでいるように思います。

天国と地獄 煙突.jpg 煙突から赤い煙が上がるシーンなども衝撃的でした。モノクロ画面に合成着色するというこの手法は、「椿三十郎」('62年)で椿の花だけカラーで映すというアイデアが実行出来なかったのをこの作品で実現したものだそうで、「踊る大捜査線 THE MOVIE」('98年)でもオマージュとして引用されました。その他にも、カメラのアングルやカメラワークなどで優れた効果を生んでいるシーンが多くあり、この作品を改めて観ると、最近の邦画はもっと先人の知恵を活かして工夫した方がいいのではないかと思ったりもします。

天国と地獄  03.jpg 山崎努演じる犯人・竹内銀次郎が歩き回る横浜の街中や店の様子も、「生きる」(52年)で志村喬が伊藤雄之助に引っ張り回されて徘徊する歓楽街の様と同様にシズル感があり、雰囲気は出ていたように思います。一方で、昭和38年頃でまだこんなアヘン窟みたいな所があったの?と思わせなくもないですが、当時の週刊誌記事(下)によると、横浜に"ハマの麻薬地帯"と呼ばれる地域が実際にあったようです。

天国と地獄  01.jpg この映画、最初に観た時の個人的評価は5つ星が満点として星3つ半という、どういうわけかそう高くないものHigh and Low(Tengoku to Jigoku).jpgになっていて、おそらく、ラストの権藤と竹内の面会シーンが自分の中で解題出来なかったのが評価のマイナス要因だったのではないかと思いますが、今観ると、自分なりに分かる気がします。

 竹内は権藤の苦しんでいる様を確認したくて彼に面会を求めたけれど、権藤は持ち前の叩き上げ精神で既に新たな一歩を踏み出していたわけで、竹内もそこまでは権藤という人物を把握していなかったわけかと。権藤は、なぜ竹内が自分を憎むのかさえ理解できず、この面会は完全に竹内の空振りで終わっています(そのことが同時に竹内の精神的瓦解に繋がる)。

天国と地獄  04.jpg 黒澤明がこの作品を撮った動機の一つに、児童誘拐犯罪の刑罰の軽さに対する憤りもあったと言われていますが、黒澤監督はここでは竹内を(死刑に対する彼の怯えも含め)容赦なく無残極まりない「敗者」として描いており、ピカレスクロマンとは一線を画しているように思いました。

天国と地獄  13.jpg天国と地獄  14.jpg この映画は'63年3月1日の公開であり、今年('13年)オリンピックの東京での2度目の開催(2020年)が決まりましたが、前の東京オリンピック('64年)の前年の公開ということになります(新幹線は未だ開通していない)。そ~かあ、今年でこの作品が公開されてから丁度50年になるのかあと。今観ると、とりわけロケシーンは貴重な映像の連続のように思え、時間の経過と共に価値が増してくる作品かもしれません。半世紀と言う年月の経過に一つの節目というものを感じますが、公開50年目に当たるこの1年間、地上波ではどの局でも放映されなかったようです(現実に誘拐事件が発生していることとの関係(配慮)もあるのか)。

天国と地獄 佐田.jpg佐田豊.jpg 権藤邸の運転手・青木がここまで責任を感じて自ら犯人の犯行拠点を探ろうとするものかという印象も最初に観た時はありましたが、見直してみて、時代背景というよりは、権藤を裏切る会社幹部との対比での描かれ方だったように思いました。その運転手役の佐田豊は1911年生まれで、2010年時点で健在であることが確認されているとのことです。今(2013年12月)現在も存命中であれば102歳になっており、かつての東宝専属俳優の中でも最長老の人物ということになります。(●その後、2017年、106歳で没したとの情報があった。)

(●2025年4月再鑑賞。やはり面白い。最近、この作品に関する1つの見解に触れた。それは、戸倉警部が竹内による誘拐に憤る余り、彼に新たな毒殺犯罪を犯させて捕らえ絞首刑にしようと意図するのは疑問点が残るというものである。「竹内を絞首刑にしたい」というのが捜査の動機づけになっているのも歪んでいるが、自らの意図の成就のために麻薬中毒の女性を一人見殺しにしただけでなく、彼女の中毒死・毒殺被害まで利用するということは恐ろしいことで、犯罪遂行のために麻薬中毒患者を殺める竹内はある種"優生"思想の持ち主だが、それを利用する戸倉の方も、正義を掲げた大悪になって、竹内と同じ"優生"思想の持ち主ではないかというものである。なるほど、仲代達矢が正義感から邁進する戸倉警部を鮮やかに演じているだけに、戸倉警部の考え方が黒澤明監督の考え方なのかと改めて考えさせられた。ただし、評価は五つ星(満点)のまま。)
     
「サンデー毎日」1962(昭和37)年
ハマの麻薬地帯.jpg

天国と地獄63.jpg 天国と地獄107.jpg 山崎努
石山健二郎(田口部長刑事)・藤原釜足(病院の焼却場の火夫)/菅井きん(麻薬中毒患者)
藤原釜足 天国と地獄.jpg 菅井きん 天国と地獄.jpg 菅井きん.jpg 菅井きん(1926-2018/享年92

石山健二郎・木村功/志村喬/東野英次郎/西村晃
天国と地獄  02.jpg天国と地獄  15.jpg「天国と地獄」●制作年:1963年●監督:黒澤明●制作:東宝/黒澤プロダクション●脚本:黒澤明/菊島隆三/久板栄二郎/小国英雄●撮影:斎藤孝雄/中井朝一●音楽:佐藤志村 喬 in 天国と地獄.jpg東野英治郎 in 天国と地獄.jpg西村 晃 天国と地獄 - 債権者.jpg勝●原作:エド・マクベイン「キングの身代金」●時間:143分●出演:三船敏郎/仲代達矢/山崎努/香川京子/佐田豊/三橋達也/木村功/志村喬/石山健二郎/伊藤江木俊夫.jpg雄之助/中村伸郎/田崎潤/名古屋章/藤田進/田口精一/千秋実/土天国と地獄64.jpg屋嘉男/三井浩次/北村和夫/東野英次郎/藤原釜足/菅井きん/江木俊夫/島津雅彦/山茶花究/浜村純/西村晃/沢村いき雄/大滝秀治(ノンクレジット)●公開:1963/03●配大滝秀治 天国と地獄.jpg給:東宝●最初に観た場所:池袋・文芸地下(80-07-03)土屋嘉男 天国と地獄.jpg●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(11-01-22)(評価:★★★★★●3回目:銀座・丸の内TOEI(25-04-13)●併映(1回目):「三十六人の乗客」(杉江敏男)
土屋嘉男(立っている刑事の右)
池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。

 
 
 
 
  

昭和100年映画祭 あの感動をもう一度2.jpg丸の内東映.jpg丸の内toei.jpg丸の内TOEI1(銀座3丁目・東映会館) 1960年丸の内東映、丸の内東映パラスオープン(1992年~丸の内シャンゼリゼ)→2004年10月~丸の内TOEI1・2 2025年7月27日閉館(東映最後の直営映画館)
(●2025年4月13日(日)、丸の内TOEIで「昭和100年映画祭 あの感動をもう一度」特集で再鑑賞。同年7月27日(日)の閉館前のプレ企画(3月28日(金)~5月8日(木))。1960年開館で、都内にある2階席のある映画館の中ではシネスイッチ銀座と並んで老舗だった。2階席かなり"急峻"な座席配置!)

昭和100年映画祭 あの感動をもう一度.jpg

天国と地獄 丸の内TOEI①.jpg

        
《読書MEMO》
小林久三.jpg小林久三(推理作家,1935-2006)の推す推理・サスペンス映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
①天国と地獄('63年、黒澤明)
②飢餓海峡('64年、内田吐夢)
③砂の器('74年、野村芳太郎)
④新幹線大爆破('75年、佐藤純彌)
⑤黒い画集・あるサラリーマンの証言('60年、堀川弘道)
⑥張込み('57年、野村芳太郎)
⑦犬神家の一族('76年、市川昆)
⑧天城超え('83年、三村晴彦)
⑨黒の試走車('62年、増村保造)
⑩赤いハンカチ('64年、舛田利雄)

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「●「ヴェネツィア国際映画祭 男優賞」受賞作」の インデックッスへ(三船敏郎) 「●宮川 一夫 撮影作品」の インデックッスへ 「●佐藤 勝 音楽作品」の インデックッスへ「●三船 敏郎 出演作品」の インデックッスへ 「●志村 喬 出演作品」の インデックッスへ「●藤原 釜足 出演作品」の インデックッスへ「●東野 英治郎 出演作品」の インデックッスへ 「●加東 大介 出演作品」の インデックッスへ 「●山田 五十鈴 出演作品」の インデックッスへ「●藤田 進 出演作品」の インデックッスへ「●西村 晃 出演作品」の インデックッスへ「●土屋 嘉男 出演作品」の インデックッスへ 「●仲代 達矢 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 武 出演作品」の インデックッスへ「●夏木 陽介 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(高田馬場パール座)○東宝DVD名作セレクション(黒澤明監督作品)

娯楽性を徹底的に追求した作品。「七人の侍」同様、劇場または大画面テレビで観たい。

用心棒 パンフ.jpg用心棒 ポスター1.jpg用心棒 dvd.jpg 用心棒03.jpg
用心棒<普及版> [DVD]」三船敏郎/加東大介/仲代達矢

「用心棒」パンフレット/ポスター        

用心棒  大.jpg 空風吹き荒ぶ上州・馬目の宿場町は、2つのやくざ勢力の対立によって墓場のように静まり返っていたが、そこへ流離の浪人(三船敏郎)が現れ、居酒屋の亭主の権爺(東野英治郎)から村を荒んだ状況にしている元凶である抗争話を聞きつけ、桑畑三十郎と名乗って両方の勢力に用心棒として売り込みつつ、巧みに相討ちを仕組んでいく。しかし、そこに伊達な雰囲気を漂わせた丑寅の弟、新田(しんでん)の卯之助(仲代達矢)が最新の短銃を手に帰郷して―。

 黒澤明(1910-1998)が映画の娯楽性を徹底的に追求した作品で、三船敏郎もいいし、宮川一夫のカメラもいいです。脚本が、ダシール・ハメットの『血の収穫』を参考にしていることはよく知られており、黒澤明本人が「『血の収穫』だけじゃなくて、本当はクレジットにきちんと名前を出さないといけないぐらいハメット(のアイデア)を使っている」と語っています。

 因みに『血の収穫』は、探偵社支局員の「私」(作中に名前が出てこない)が、ギャングの縄張り抗争で殺人の修羅場と化した町を、町の中の4つの対抗勢力を2対2に分断して抗争させ、更に残った2つを1対1に分断して争わせることで、たった一人で町を浄化してしまうというもので、この「用心棒」もコンセプトは同じで、今風に言えば、グループダイナミクスを利用してレバレッジ効果を得ることで、不可能を可能にしてしまう―といったところでしょうか。

用心棒01.jpg 馬目の名主(なぬし)絹問屋主人の多左衛門(藤原釜足)が肩入れしている女郎屋の清兵衛(河津清三郎)がこの町のやくざの親分で、清兵衛が倅の与一郎(太刀川寛)に縄張りを譲用心棒 志村喬.jpgろうとしたため、一の子分の新田の丑寅(山茶花究)が怒って袂を分かち、それを次の名主の座を狙う造酒屋の徳右兵衛(志村喬)が後押しするという構図になっていて、表向きは「多左衛門vs. 丑寅」のやくざ抗争ですが、それ用心棒 志村喬2.jpgぞれバックに絹問屋と造酒屋が付いているということになり、『赤い収穫』ほど設定は複雑ではないものの、一応枠組みを早めに理解しておいた方が楽しめます(東野英治郎演じる権爺が手短に話してはいるが)。

 両勢力が三十郎を自陣の用心棒にしたいがために、そのことを利用した三十郎の策に翻弄される中、卯之助は唯一人三十郎に疑いを抱き、その計画を見破って、三十郎を袋叩きにし、半殺しにするまでに追い詰めていきます。

 満身創痍の三十郎が権爺の助けで念仏堂に身を隠して怪我を癒す間にも、卯寅方は清兵衛一家に殴り込みをかけて皆殺しにしてしまうなど事態は進展し、三十郎の方は念仏堂で、一見所在なさげに、舞う枯葉に包丁を投げつけている―。

用心棒 ワイド.jpg でも、この包丁投げ、残る丑寅方を潰すには、卯之助さえ封じ込めれば後は何とかなり、但し、短銃を肌身離さず持っている彼を倒すには、こっちも飛び道具でいくしかないという三十郎の読みだったわけで(練習してたのかあ)、権爺が丑寅方に囚われたことを知った三十郎が単身で丑寅方へ乗り込み、「1対大勢」の決闘で三十郎が先ずやったことは―。
    
羅生門綱五郎1.jpg 役者陣が豊富と言うか、丑寅の子分役でジェリー藤尾とか、清兵衛の子分役で天本英世とか、百姓の小倅役で夏木陽介とかも出ていたんだなあと。印象に残っている脇役は、丑寅の子分・閂(かんぬき)を演じた台湾出身の元力士新高山(1940年花籠部屋に入門)こと羅生門綱五郎かな。2メートルを超える大男で三十郎を軽く投げ飛ばしてしまいますが、セリフもちゃんとあって、しっかり演技もしています。

羅生門綱五郎2.png この映画を非公式に(東宝の許諾無しに)リメイクした作品では、クリント・イーストウッドの出世作「荒野の用心棒」('64年/伊)があり(東宝は「荒野の用心棒」の製作側を訴え、勝訴している)、東宝の許諾を得てリメイクしたものには、ブルース・ウィリス主演の「ラストマン・スタンディング」('96年/米)がありますが、「ラストマン・スタンディング」にも大男が出てたなあ。

Yôjinbô (1961)_.jpgYôjinbô(1961).jpg 黒澤明にはかつて助監督時代に山本周五郎の「日日平安」を脚本化しましたが、原作通りの脆弱な人物像の主人公として描いたために映画会社に採用されず、それが、この映画「用心棒」('61年4月公開)が大ヒットして映画会社から続編に近いものを要請されて、オクラ入りになっていた脚本を桑畑三十郎のイメージに合わせて剣豪時代劇風に脚色し直したものが「椿三十郎」('62年1月公開)です。
Yôjinbô(1961)

用心棒02.jpg どちらも傑作ですが、個人的には、最初にビデオで観てしまった「椿三十郎」よりも、名画座ながらも一応は劇場で観た「用心棒」の方がインパクトあったかなあ。「七人の侍」('54年)と同じく本来は劇場で観たい映画ですが、どちらもあまり劇場でのリヴァイバルにはかからない。ただ、最近は大画面テレビもが普及しているし、せっかく大画面テレビがウチにあるなら、こういう作品こそ観るべきではないかなと。作家・吉村昭は、完成度、面白さでこの作品をベストワンに挙げています(2位が「七人の侍」)。[『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)より]

東野英治郎(居酒屋の権爺)・三船敏郎(桑畑三十郎)・渡辺篤(棺桶屋)/河津清三郎(馬目の清兵衛)・藤田進(用心棒本間先生)・山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)
用心棒-yojimbo4.png 用心棒 f.jpg
加藤武(無宿者・瘤八)・加東大介(新田の亥之吉)・西村晃(無宿者・熊)/藤原釜足(名主左多衛門(最後、発狂する))
「用心棒」62.jpg 藤原釜足 用心棒2.jpg
司葉子(小平の女房・ぬい)
司葉子 用心棒 .gif

三船敏郎v.jpg三船敏郎(1961年、「用心棒」で日本人初のベネチア国際映画祭男優賞に選ばれる)

用心棒 vhs.jpg「用心棒」●制作年:1961年●監督:黒澤明●製作:田中友幸/菊島隆三●脚本:黒澤明/菊島隆三●撮影:宮川一夫●音楽:佐藤勝●剣道指導:杉野嘉男●時間:110分●出演:三船敏郎(桑畑三十郎)/仲代達矢(新田の卯之助)/東野英治郎(居酒屋の権爺)/河津清三郎(馬目の清兵衛)/山田五十鈴(清兵衛の女房おりん)/太刀川寛(清兵衛の倅与一郎)/志村喬(造酒屋徳右衛門)藤原釜足(名主左多衛門)黒澤 明 「用心棒」3.jpg藤原釜足 用心棒3.jpg木陽介(丑寅の子分(元は百姓の小倅))/山茶花究(新田の丑寅)/加東大介(新田の亥之吉)/渡辺篤(桶屋)/土屋嘉男(百姓小平)/司葉子(小平の女房ぬい)/沢村いき雄(番屋の半助)/西村晃(無宿者・熊)/加藤武(無宿者・瘤八)/藤田進(用心棒・本間先生)/中谷一用心棒 有楽座.jpg郎(斬られる凶状持)/堺左千夫(八州周りの足軽)/谷晃(丑寅の子分・亀)/羅生門綱五郎(丑寅の子分・閂(かんぬき)/ジェリー藤尾(丑寅の子分・賽の目の六)/清水元(清兵衛の子分・孫太郎)/佐田豊(清兵衛の子分・孫吉)/天本英世(清兵衛の子分・弥八)/大木正司(清兵衛の子分・助十)●劇場公開:1961/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場パール座(81-03-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-12-25)(評価★★★★★ 
「用心棒」公開時(1961年・有楽座) 
 
夏木陽介(丑寅の子分(元は百姓の小倅))
夏木陽介(丑寅の子分.jpg
 
高田馬場パール座入口(写真共有サイト「フォト蔵」)①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス ③高田馬場パール座 ④早稲田松竹
高田馬場パール座2.jpg高田馬場パール座 地図.pngパール座.jpgパール座1.jpg高田馬場パール座(高田馬場駅西口、早稲田通り・スーパー西友地下) 1951(昭和26) 年封切館としてオープン。1963(昭和38)年の西友ストアー開店後、同店の地下へ。1989(平成元)年6月30日閉館。
 
  

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予定調和だが、それなりに楽しめた。映画の方は「スーパーの女」などと比べるとやはり...。
県庁の星2.jpg  県庁の星 桂.jpg 県庁の星 dvd.jpg県庁の星 織田 柴崎2.jpg  スーパーの女.jpg
県庁の星 (2) (ビッグコミックス)』 (全4巻) 桂 望実『県庁の星』「県庁の星 スタンダード・エディション [DVD]」柴咲コウ・織田裕二 「伊丹十三DVDコレクション スーパーの女

 Y県のエリート県庁職員である野村聡は、民間との人事交流プロジェクトに選ばれ、スーパー富士見堂で1年間の研修を受けることになるが、最初は役員根性・県庁マインド丸出しだった彼が、全く肌違いの民間の仕事を通して変質し、真の"スーパー改革"を実現するに至る―。

 公務員って、民間で言う「出向」のことを「研修」と言ってるみたいですね(「研修(出向)」と言っても、労務提供はしているわけだが、民間の「出向」と異なり、労災の請け元は官公庁のまま)。

 ということで、実質的なマンガの舞台は県庁内では無く、前半部分(1巻・2巻)はスーパーマーケット。後半部分(3巻・4巻)は、スーパーの経営を建て直した彼が、第3セクター赤字テーマパークを"潰す"ために送り込まれますが、前半からの流れで、結果はともかく、彼がどう立ち回るかは大体予想がついてしまいます。

 官庁の上層部や主人公の同期の役人の描き方はパターン化していて、事の展開もかなりご都合主義ですが、それでも、主人公とその教育係であるシングルマザーのパート女性とのやりとりも含め、結構楽しく読めました。"ギャグ的"に面白いというか、テーマパークに赴任した初日、「名刺を猿に配って終了」には思わず噴きました。

県庁の星 ポスター.jpg県庁の星1.jpg '05(平成17)年から'07(平成19)年にかけて「ビッグコミックススペリオール」に連載されたコミックで(桂望実の原作を杉浦真夕が脚色)、連載途中の'06年に織田裕二、柴咲コウ主演で映画化されていますが(実際に制作されたのは'05年。「白い巨塔」などのTVドラマを手掛けた西谷弘の映画初監督作品)、織田裕二って本気で演技してそれが丁度マンガ的になるようなそんな印象があり、こうした作品にはピッタリという感じでした。 柴咲コウ/織田裕二

スーパーの女.jpgスーパーの女2.jpg 但し、スーパーを舞台にした作品では、伊丹十三(1933-1997)監督、宮本信子主演の「スーパーの女」('96年/東宝)があるだけに、それと比べるとインパクトは劣るし、「スーパーの女」が食品偽装問題など今日的なテーマを10年以上も前から先駆的に扱っていたのに対し、「県庁の星」は映画もマンガもその部分での突っ込み度は浅く、特に映画は単なるラブ・コメになってしまったきらいも無きにしも非ずという感じ。

マルサの女.jpgマルサの女 1987.jpg 「お葬式」('84年/ATG)で映画界に旋風を巻き起こした伊丹十三監督でしたが、個人的には続く第2作タンポポ」('85年/東宝)と第3作「マルサの女」('87年/東宝)が面白かったです(「お葬式」と「マルサの女」はそれぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれている)。「マルサの女」は、山崎努がラブホテル経営者"権藤"を演じていますが、彼が新人として出演した「天国と地獄」('63年/黒澤プロ・東宝)で三船敏郎が演じていた会社社長の苗字も"権藤"でした。巧妙な手口で脱税を行う経営者らとそれを見破る捜査官たちとの虚々実々の駆け引きをテンポよく描いており、ラストに抜けてのスリリングな盛り上げ方はなかなかのものでした。

マルサの女2 三國.jpgマルサの女 .jpg それまであまり世に知られていなかった国税査察部の捜査の様子をリアルに描いたということで社会的反響も大きく、翌年には「マルサの女2」('88年/東宝)も作られましたが、山崎努に続いてこちらも、宗教法人を隠れ蓑とし巨額の脱税を企てようとする"鬼沢"に大物俳優・三國連太郎マルサの女2 dvd.jpgを配し、これもまた脇役陣を含め演技達者が揃っていた感じでした。

 伊丹十三監督は「前作はマルサの入門編」であり、本当に描きたかったのは今作であるという伊丹十三.jpg趣旨のことを後に述べていますが、確かに、鬼沢さえも黒幕に操られている駒の1つに過ぎなかったという展開は重いけれども、ラストは前作の方がスッキリしていて個人的には「1」の方がカタルシス効果が高かったかなあ。監督自身は、高い娯楽性と巨悪の存在を一般に知らしめることとの両方を目指したのでしょう。
伊丹十三(1933-1997/享年64(自死))

お葬式 映画 dvd.jpg 確かに「お葬式」で51歳で監督デビューし、高い評価を得たのは鮮烈でしたが、作品の質としてはお葬式 映画 00.jpg3作目・4作目に当たる「マルサの女」「マルサの女2」の方が密度が濃いように思いました。それが、この「マルサの女1・2」以降は何となく作品が小粒になっていたような気がしたのが、この「スーパーの女」を観て、改めて緻密かつパワフルな伊丹作品の魅力を堪能できた―と思ったら、この「スーパーの女」を撮った翌年に伊丹十三は自殺してしまった。残念。
中央:菅井きん(日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞)(1926-2018.8.10/享年92
伊丹十三DVDコレクション お葬式

企業家サラリーマン.gif 「スーパーの女」の原作は、『小説スーパーマーケット』(『小説流通産業』('81年))で、作者の「安土敏」こと荒井伸也氏は元サミット社長であり、この人の『企業家サラリーマン』('86年/講談社、'89年/講談社文庫)は、海外飲食店グループを指揮する男性と、新しい時代の経営者を目指す女性たちの生き方を描いた作品で、作者が現役役員の時点でこお小説を書いているということもあってシズル感があり面白かったですが、こちらもテレビドラマ化されているらしい。どこかで再放送しないものかなあ。

企業家サラリーマン (講談社文庫)

酒井和歌子(K県知事・小倉早百合)/石坂浩二(K県議会議長・古賀等)
「県庁の星」酒井和歌子石坂浩二2.jpg県庁の星9.jpg「県庁の星」●制作年:2006年●監督:西谷弘●製作:島谷能成/「県庁の星」井川2.jpg亀山千広/永田芳男/安永義郎/細野義朗/亀井修朗●脚本:佐藤信介●撮影:山本英夫●音楽:松谷卓●原作:桂望実「県庁の星」●時間:131分●出演:織田裕二/柴咲コウ/佐々木蔵之介/和田聰宏/紺野まひる/奥貫薫/井川比佐志/益岡徹/矢島健一/山口紗弥加/ベンガル/酒井和歌子/石坂浩二●公開:2006/02●配給:東宝(評価:★★★)


井川比佐志(スーパー「満天堂」店長・清水寛治)
柴咲コウ in「県庁の星」('06年/東宝)/「おんな城主 直虎」('17年/NHK)

県庁の星 柴咲コウ.jpg おんな城主 直虎 .jpg

中央:津川雅彦(1940-2018.8.4/享年78
スーパーの女ド.jpgスーパーの女 9.jpg「スーパーの女」●制作年:1996年●監督・脚本:伊丹十三●製作:伊丹プロダクション●撮影:前田米造/浜田毅/柳島克巳/高瀬比呂志●音楽:本多俊之●原作:安土敏「小説スーパーマーケット」●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三宅裕司/小堺一機/伊東四朗/金田龍之介/矢野宣/六平直政/高橋長英/あき竹城/松本明子/山田純世/柳沢慎吾/金萬福/伊集院光●公開:1996/06●配給:東宝(評価:★★★★)

お葬式 映画01.jpgお葬式 映画 02.jpg「お葬式」●制作年:1984年●監督・脚本:伊丹十三●製作:岡田裕/玉置泰●撮お葬式 大滝435.jpg影:前田米造●音楽:湯浅譲二●時間:124分●出演:山笠智衆 お葬式.jpgお葬式 笠智衆.jpg崎努/宮本信子/菅井きん/財津一郎/大滝秀治/江戸家猫八/奥村公廷/藤原釜足/高瀬春奈/友里千賀子/尾藤イサオ/岸部一徳/笠智衆/津川雅彦/佐野浅/小林薫/長江英和/井上陽水●公開:1984/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化 (85-11-04)(評価:★★★☆)●併映「逆噴射家族」(石井聰互)
[左]笠智衆(僧侶)/[下]高瀬春奈(侘助の愛人・良子。侘助もだだをこね、雑木林で性交する)/小林薫(火葬場職員・焼いている遺体が生き返る夢を見ることがあると吐露する)
お葬式 高瀬春奈.jpgお葬式 高瀬春奈2.jpg 「お葬式」小林薫2.jpg

菅井きん in「生きる」('52年)/「ゴジラ」('54年)/「幕末太陽傳」('57年)/「天国と地獄」('63年)/「お葬式」('84年)
菅井きん 生きる .jpg 菅井きん ゴジラ.jpg 菅井きん 幕末太陽傳 南田洋子  左幸子.jpg 菅井きん 天国と地獄.jpg お葬式8e-s.jpg 菅井きん.jpg
Marusa no onna (1987)
Marusa no onna (1987) .jpgマルサの女  .jpgマルサの女AL_.jpg「マルサの女」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/山崎努津川雅彦/大地康雄/桜金造/志水マルサの女347.jpgマルサの女 岡田ド.jpgマルサの女 津川.jpg里子/松居一代/室田日出男/ギリヤーク尼ヶ崎/柳谷寛/杉山とく子/佐藤B作/絵沢萠小沢栄太郎 マルサの女.jpg子/山下大介/橋爪功/伊東四朗/小沢栄太郎/大滝秀治芦田伸介/小林桂樹/岡田茉莉子/渡辺まちこ/山下容里枝/小坂一也/打田親五/まる秀也/ベンガル/竹内正太郎/清久光彦/汐路章/上田耕一●公開:1987/02●配給:東宝
右端:小沢栄太郎
ジョイシネマ3 .jpg新宿ジョイシネマ3.jpg●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★★)●併映「マルサの女2」(伊丹十三)

新宿シネパトス (1956年3月「新宿名画座」オープン→1987年5月「新宿シネパトス」→1995年7月「新宿ジョイシネマ5」→1997年11月「新宿ジョイシネマ3」)

2009(平成21)年5月31日閉館 


「マルサの女」ポスター
マルサの女 ポスター.jpg

「マルサの女2」三國連太郎/上田耕一
マルサの女2 三國連太郎_1.jpgマルサの女2 .jpg佐渡原:丹波哲郎.jpg「マルサの女2」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅マルサの女2 笠.jpg彦/三國連太郎丹波哲郎/大地康雄/桜金造/加藤治子/益岡マルサの女2」.jpg徹他/マッハ文朱/加藤善博/浅利香津代/村井のりこ/岡本麗/矢野宣/笠智衆/上田耕一/中村竹弥/小松方正●公開:1988/01●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★☆)●併映「マルサの女」(伊丹十三)

《読書MEMO》
映画に学ぶ経営管理論2.jpg●松山 一紀『映画に学ぶ経営管理論<第2版>』['17年/中央経済社]

目次
第1章 「ノーマ・レイ」と「スーパーの女」に学ぶ経営管理の原則
第2章 「モダン・タイムス」と「陽はまた昇る」に学ぶモチベーション論
第3章 「踊る大捜査線THE MOVIE2レインボーブリッジを封鎖せよ!」に学ぶリーダーシップ論
第4章 「生きる」に学ぶ経営組織論
第5章 「メッセンジャー」に学ぶ経営戦略論
第6章 「集団左遷」に学ぶフォロワーシップ論
第7章 「ウォール街」と「金融腐蝕列島"呪縛"」に学ぶ企業統治・倫理論

「●森田 芳光 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●是枝 裕和 監督作品」 【3179】 是枝裕和 「誰も知らない
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森田作品は出来にムラあり(?)。80年代前半の松田優作と秋吉久美子がいい。

家族ゲーム(ポスター).jpg 家族ゲーム.jpg   森田 芳光 「それから」.jpg  の・ようなもの.jpg   ウィークエンド・シャッフル.png
「家族ゲーム」チラシ/「家族ゲーム [DVD]」「それから [DVD]」 「の・ようなもの [DVD]」「映画パンフレット 「ウィークエンド・シャッフル」監督 中村幻児 出演 秋吉久美子/泉しげる/風間舞子/池波志乃/秋川リサ/渡辺えり子

家族ゲーム1.jpg「家族ゲーム」2.jpg「家族ゲーム」1.jpg 森田芳光(1950-2011)監督・脚本の「家族ゲーム」('83年/ATG)は、家族が食卓に横一列に並んで食事するシーンなど凝ったカットの多い作品でしたが、個人的には、川沿いの団地へ松田優作(1949‐1989/享年40)が演じる家庭教師が小舟に乗って赴く冒頭シーンと、教え子が無事に志望校に合格した後の家族全員の食事の席で、その家庭教師が食卓をぐちゃぐちゃにしてしまうラストが印象的でした。
Kazoku gêmu (1983)
Kazoku gêmu (1983) .jpg 冒頭シーンはアクション映画のパロディ(?)。ラストはかなり唐突な気もしましたが、おそらく家族が一緒に後かたずけをすることを余儀なくされ、その結果初めて家族が一体となる―という、ある意味、カタストロフィではなくハッピーエンドと見るべきなのかもしれません。全体を通して、松田優作のぼそぼそっと小声で早口で話す演技は、映画の家庭教師の特異なキャラクターとよくマッチしていたように思います(第57回「キネマ旬報ベスト・テン」第1位作。第5回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作。森田芳光監督は、その演出・脚色に対して「芸術選奨新人賞」を受賞)。

探偵物語 松田優作.jpg 松田優作は、翻訳家でミステリ評論家でありハードボイルド作家でもある小鷹信光(1936-2015)の原案によるNTV系ドラマ「探偵物語」や、作家赤川次郎薬師丸ひろ子のために書き下ろした小説探偵物語 パンフレット.jpg探偵物語.jpgが原作である根岸吉太郎監督の映画「探偵物語」('83年/角川春樹事務所)で見せたような、コミカルな面のある軽めのキャラクターがハマっていたように思い、また彼自身、自然体でそうした役柄を演じているように感じました。
 
 
 映画「探偵物語」('83年)予告/音楽:加藤和彦(主題歌:薬師丸ひろ子)
探偵物語 松田優作 薬師丸ひろ子11.pngtantei-thumb-240x131-8361.jpg 「探偵物語」はTV版に比べて映画の方のストーリーはイマイチで(TV版「探偵物語」とは全く別物の話。先にも述べたように、テレビは小鷹信光が原案者、映画は赤川次郎原作なので違って当然だが)、恋愛ドラマ的要素が入る分、薬師丸ひろ子の演技力不足が痛く、澤井信一郎監督の 「Wの悲劇」('84年/角川春樹事務所)より前の彼女の演技は素人並Wの悲劇.jpgみではなかったでしょうか。「セーラー服と機関銃」('82年/角川春樹事務所)では相米慎二(1948-2001)監督の魔術的演出に救われていましたが、「探偵物語」では、岸田今日子のような演技達者を起用して脇を固めようとしてはいるものの、そんな演技未熟の薬師丸ひろ子を相手に演技している松田優作の苦闘ぶりが目につきました。玉川大学文学部就学のため一時芸能活動を休止していた薬師丸ひろ子の復帰第一弾を角川事務所が企画した作品であり、あくまでも薬師丸ひろ子が主人公の探偵(ごっこ)物語であって、脇だけ固めても主役があまりに未熟では...。それでも映画はヒットし、ラストの新東京国際空港での松田優作と薬師丸ひろ子の"身長差30センチ"キスシーンは当時話題となったのは、彼女がアイドルとしていかに人気があったかということでしょう。松田優作に関して言えば、TV版の方がハードボイルド・ヒーローでありながらずっこけたような面があるという点で、より"優作らしい"演技だったと言えるかも。

Wの悲劇 薬師丸 三田.jpg 薬師丸ひろ子が舞台女優を目指す劇団員を演じた「Wの悲劇」は、夏樹静子(1938- 2016)の原作は劇中劇として用いられているだけで、ストーリーは別物です("原作者"の夏樹静子氏は、劇場にこの作品を観に行って初めてそのことを知り、唖然としたという)。劇団の演出家蜷川幸雄.jpg役で蜷川幸雄(1935-2016)が出演し、実際に劇中劇の演出も担当しています。三田佳子がベテランらしい渋い演技を見せ(日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞)、薬師丸ひろ子もそれに触発されwの悲劇 高木美保.jpg演技開眼したのか、そう悪くない演技でした(高木美保の映画デビュー作でもあり、主人公を陥れようとする敵役だった)。夏樹静子の原作は、その後、テレビドラマとしてそれそれアレンジされながら繰り返し作られることとなります('83年TBS(秋吉久美子主演)、'86年フジテレビ(高峰三枝子主演)、'01年テレビ東京(名取裕子主演)、'10年TBS(菅野美穂主演)、'12年テレビ朝日(武井咲主演))。

時をかける少女 1983 併映.jpg 因みに、「探偵物語」と「Wの悲劇」の併映作品はそれぞれ「時をかける少女」('83年/角川春樹事務時をかける少女 1983 2.jpg所)、「天国にいちばん近い島」('84年/角川春樹事務所)でした。共に大林宣彦監督、原田知世主演で、「時をかける少女」は、原作は筒井康隆が学習研究社の「中三コース」1965(昭和40)年11月号にて連載開始し、「高一コース」1966(昭和41)年5月号まで全7回掲載したものであり、原田知世の映画デビュー作でした。 筒井康隆「時をかける少女」長尾みのる.jpg配役発表の時点では原田知世は当時圧倒的人気を誇っていた薬師丸ひろ子「時をかける少女」図1.jpgのアテ馬的存在でしたが、「時をかける少女」一作で薬師丸ひろ子と共に角川映画の二枚看板の一つになっていきます。「時をかける少女」は筒井康隆の原作の舞台を尾道に移して、大林監督の「尾道三部作」(他の2作は「転校生」「さびしんぼう」)の第2作目という位置づけになっていますが、後に「SFジュブナイルの最高傑作」とまで言われるようになった原作に対し、原田知世の可憐さだけでもっている感じの映画になってしまった印象がなくもない作品でした。

「時をかける少女」主題歌作詞・作曲:松任谷由実/筒井康隆『時をかける少女』('72年/鶴書房盛光社・SFベストセラーズ)カバー:長尾みのる/挿絵:谷俊彦/解説:福島正実

大林宣彦 転校生8.jpg「転校生」vhs.jpg 「尾道三部作」の中でいちばんの秀作と思われる「転校生」('82年/松竹)に比べるとやや落ちるでしょうか。「転校生」は、原作は山中恒(この人も「高一コース」とかにちょっとエッチな青春小説を連載していた)の『おれがあいおれがあいつであいつがおれで.jpgつであいつがおれで』で、旺文社の「小6時代」に1979年4月号から1980年3月号まで連載されたもの。男の子と女の子が0転校生 1982.jpg神社の階段から転げ落ち、そのはずみで心と身体が入れ替わってしまう話ですが、二人が入れ替わるまでをモノ田中小実昌 .jpgクロで、入れ替わってからはカラーで描き分け、また8ミリ映像も効果的に挿入しながら、古き良き町・尾道を魅力的に活写していました。この作品にはまだ、自主制作映画のようなテイストがあったなあ。第4回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作(田中小実昌(1925-2000)が「喜劇映画ベスト10」に選んでいたことがある)。
山中 恒『おれがあいつであいつがおれで (旺文社創作児童文学)』['80年/旺文社]

 「転校生」は公開当時はそれほど注目されませんでしたが、「時をかける少女」の方は、角川の「探偵物語」との抱き合わせでの宣伝活動もあってヒットし、角川では'97年に白黒映画でリメイク作品が作られましたが個人的には未見、'06年には細田守監督によるアニメ映画も作られました。細田守監督のアニメ「時をかける少女」は、原作の出来事から約20年後を舞台に、原作の主人公であった芳山和子の姪である紺野真琴が主人公として繰り広げる青春ドラマになっています(原作:筒井康隆となっているが中身は別物と言っていい)。筒井康隆は「新しく付け加えられたシチュエーションというのは、突っ込もうと思えばいくらでも突っ込める」としながらも、「本当の意味での二代目」とコメントしています。また、富野由悠季は「演出が優れており、実写より上手くまとまっている」としながらも、「高校生しか出てこないのでただの風俗映画に見える、キャラクターが活かしき時をかける少女 (2006).jpg時をかける少女 2006 2.jpgれていない」としていますが、(昨年['08年]7月にCXで2度目のテレビ放映されたのを観た)個人的感想は筒井氏の前者と富野氏の後者に近いでしょうか。主人公たちの「告白したい!」という台詞が「SEXしたい!」と自分には聞こえるとまで富野由悠季は言い切りましたが、鋭い指摘だと思います('10年に更にそのアニメの実写版のリメイクが作られている(主演はアニメ版の主人公の声を務めた仲里依紗)。'16年に日本テレビでテレビドラマ化された「時をかける少女」はまたオリジナルに戻っている(主演は黒島結菜)。テレビドラマ化はこれが5回目になる)
時をかける少女 限定版 [DVD]

天国にいちばん近い島 Wの悲劇s.jpg天国に一番近い島 2.jpg 「Wの悲劇」の併映作品だった「天国にいちばん近い島」は、個人的にはイマイチもの足りない映画でしたがこれもヒットし、舞台となったニューカレドニアに初森村桂.jpgめてリゾート・ホテルが建ったとか(バブルの頃で、日本人観光客がわっと押しかけた)。原作者・森村桂(1940-2004)が行った頃はリゾート・ホテルなど無かったようです。舞台は美しいけれど、バブルは崩壊したし、原作者が自殺したということもあって、今となってはちょっと侘しいイメージもつきまとってしまいます(森村桂の自殺の原因はうつ病とされている)。

「それから」松田優作/小林薫
それから [DVD].jpgそれから 松田優作/小林薫.jpg 「家族ゲーム」の後、松田優作が森田芳光監督と再び組んだ「それから」('85年/東映)は、評論家の評価は高かったですが(松田優作は文芸作品はこれが初めてではなく、「家族ゲーム」「探偵物語」の前年、泉鏡花原作、鈴木清順監督の「陽炎座」('81年/日本ヘラルド映画)で文芸作品デビューを果たしており、既に高い評価を得ていた)、個人的にはミスキャストだったように思え(何だか肩に力入り過ぎ)、松田優作や小林薫のロボットのような独特のエロキューションもちょっと違和感が感じられたし、作品自体も漱石の原作のイメージ(勝手に自分が抱いているイメージだが)とやや食い違ったものになってしまったような気がします。

 

「の・ようなもの」(1981 ヘラルド).jpgの・ようなもの1.jpg 森田芳光監督には、「の・ようなもの」('81年/N.E.W.S.コーポレーション)というある若手の落語家の日常と恋を描いた劇場用映画デビュー作があり、映画のつくりそのものはやや荒削りな面もありましたが、落語家の世界の描写に関しては丹念な取材の跡がみてとれ(森田監督は日大落研出身)、落語家志望の青年に扮する伊藤克信のとぼけた個性もいいし、彼が通うソープ嬢エリザベス役の秋吉久美子も"軽め"のしっとりした演技で好演しています(第3回「ヨコハマ映画祭」作品賞受賞作)。

愛と平成の色男/.jpg愛と平成の色男.png 愛と平成の色男/バカヤロー2.jpg「愛と平成の色男/バカヤロー!2 幸せになりたい。」
財前直見 写真集「とってもいいよ!」.jpg武田久美子 1989 .bmp 結局、森田芳光という監督の演出力はよくわかりません。監督の力量なのか役者のお陰なのか...。「愛と平成の色男」('89年/松竹)などは、ストーリーもどうしょうもないし(石田純一にぴったりとも言えるが)、役者もみんな下手くそなのに、結果として、当時はグラビアアイドルで、役者としては殆ど新人に近かった鈴木保奈美、財前直美、鈴木京香、武田久美子の4人を女優としていっぺんに発掘したことになっているし...映画初出演だった鈴木京香などは、この映画の出演を機にNHKの朝の連ドラに抜擢されています。
とってもいいよ!―財前直見写真集』(1988/11)/『マイディア ステファニー―武田久美子写真集』(1989/09)
鈴木保奈美/鈴木京香
鈴木保奈美.jpg鈴木京香2.jpg 鈴木保奈美はカネボウのCMモデル、財前直美は東亜国内航空の沖縄キャンペーンガール、鈴木京香はカネボウの水着キャンペーンガール出身。少女モデルから歌手になった武田久美子は中学生時代の1981年11月、東大駒場祭「第2回東大生が選ぶアイドルコンテスト'81」に自身で応募し、総数1263人の中で優勝、「東大生が選んだアイドル」として一時人気を博し、後に「逆噴射家族」('84年/Aシャッフル 1983.jpgTG)を撮る石井聰亙監督の34分の短編映画「シャッフル」('81年/ATG)にヒロインとして映画初出演(製作は'81年12月、一般劇場公開は'83年秋)したりしたものの、やがてマイナーに(「シャッフル」は大友克洋の短編漫画「RUN」の映画化で、自分を裏切った女を殺したチンピラと、彼を追う刑事の話で、日本版43才でもなぜ武田久美子でいられるのか.jpg「タクシードライバー」とも言われたが、個人的にはよくわからなくてイマイチ)。それが、昭和が終わったこの年に刊行された"貝殻ビキニ"の写真集が売れに売れて人気復活。この頃は、CMもグラビアも撮影と言えば3泊4日でハワイでというのが当たり前のバブル期でした。時の流れを感じますが、武田久美子だけ今もって肉体派路線を継続中? 「シャッフル [DVD]
43才でもなぜ武田久美子でいられるのか: 美ホルモンをアップして更年期を迎え撃つ』['11年]

 因みに、「愛と平成の色男」と併映の「バカヤロー!2 幸せになりたい。」('89年/松竹)は、森田監督の製作総指揮・脚本による4人の若手監督によるオムニバスで、岩松了監督(第3話)のチェッカーズの藤井郁弥が、山のようなレコードを抱え、CD全盛の世に取り残された男に扮する「新しさについていけない」と、成田裕介バカヤロー2 幸せになりたい 新しさについていけない.jpgバカヤロー2 幸せになりたい 女だけがトシとるなんて.jpg監督(第4話)の山田邦子が再就職に苦戦するハイミスに扮した「女だけがトシとるなんて」が良かったように思います。あとの2話は、本田昌広監督(第1話)の小バカヤロー2 幸せになりたい 小林.jpg林稔侍が家族のためにとったニューカレドニア旅行のチケットを会社から顧客に回すように言われた旅行代店社員を演じた「パパの立場もわかれ」と、堤真一が深夜のバカヤロー!2 堤.jpgコンビニでバイトしてお客の扱いで頭を悩ますうちに妄想ノイローゼになっていく男を演じた鈴木元監督(第二話)の「こわいお客様がイヤだ」(堤真一にとっては初主演映画。他に爆笑問題の太田光・田中裕二が映画初出演、太田光は後に「バカヤロー!4」('91年)の第1話を監督している)でした。

ウィークエンド・シャッフル 秋吉久美子.jpgウィークエンド・シャッフル(1982) ぴあ.gif 秋吉久美子は柳町光男監督の「さらば愛しき大地」('82年/プロダクション群狼)のような重い作品でその演技力を見せつける一方、ピンク映画出身の中村幻児監督の「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)では、「の・ようなもの」以上に軽いノリで演じています。強盗(泉谷しげる)が主婦らに児童誘拐犯と間違えられ、さらに主婦(秋吉久美子)の偽夫の役回りを演じさせられるというハチャメチャなストーリーの原作は筒井康隆で、秋吉久美子、池波志乃、秋川リサら女ウィークエンド・シャッフル 秋吉久美子 泉谷しげる.jpgウィークエンド・シャッフル スチール.jpg優陣が惜しげもなく脱いでいますが、スラップスティク・コメディ調であるためにベタベタした現実感がなく、さらっと乾いた感じの作品に仕上がっています(ただ、原作のシュールな雰囲気までは出し切れていないか)。秋吉久美子って「70年代」というイメージのある女優ですが、80年代の作品を観ても、演技の幅が広かったなあと改めて思わされます。
 
「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)(秋吉久美子/泉谷しげる) 
「ウィークエンド・シャッフル」9.jpg「ウィークエンド・シャッフル」T.jpg
 

「家族ゲーム」12.jpg「家族ゲーム」●制作年:1983年●監督・脚本:森田芳光●製作:佐々木志郎/岡田裕/佐々木史朗●撮影:前田米造●原作:本間洋平「家族ゲーム」●時間:106分●出演:松田優作伊丹十三/由紀さおり/宮川一朗太/辻田順一/松金よね子/岡本かおり/鶴田忍/戸川純/白川和子/佐々木志郎/伊藤克信/加藤善博/土井浩一郎/植村拓也/前川麻子/渡辺知美/松野真由子/中森いづみ/佐藤真弓/小川隆宏●公開:1983/06●配吉祥寺パーキングプラザ.jpgテアトル吉祥寺.jpg吉祥寺ピカデリー.jpg給:ATG●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (84-02-11)(評価:★★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)
テアトル吉祥寺 (1999年〜吉祥寺ピカデリー) 1979年、吉祥寺パーキングプラザ(右写真・現)地下1階にオープン。2000(平成12)年5月22日閉館

探偵物語38.jpg探偵物語 松田優作 dvd.jpg「探偵物語」(TVドラマ)●演出:村川透/西村潔/澤田幸弘/長谷部安春/加藤彰/小澤啓一/小池要之助●制作:伊藤亮爾/紫垣達郎/山口剛●脚本:丸山昇一/那須真知子/佐治乾/柏原寛司/宮田雪●音楽:鈴木清司●原案:小鷹信光●出演:松田優作/成田探偵物語 松田優作2.jpg探偵物語 倍賞美津子.jpg三樹夫/山西道広/竹田かほり/ナンシー・チェニー/平田弘美/橘雪子/重松収/倍賞美津子/佐藤蛾次郎/中島ゆたか/片桐竜次/草薙幸二郎/清水宏/広京子/川村京子/三原玲奈/真辺了子/戸浦六宏/熊谷美由紀(松田美由紀)●放映:1979/09~1980/04(全27回)●放送局:日本テレビ

左から竹田かほり、倍賞美津子、松田優作、ナンシー・チェニー

探偵物語 熊谷美由紀.jpg
第1話「聖女が街にやって来た」 松田優作/熊谷美由紀(松田美由紀)

岸田今日子/秋川リサ
探偵物語 .jpg探偵物語 松田優作 薬師丸ひろ子ru1.jpg探偵物語 長谷沼君江/岸田今日子1.jpg秋川リサ2.jpg 「探偵物語」●制作年:1983年●監督:根岸吉太郎●製作:角川春樹●脚本:鎌田敏夫●撮影:「探偵物語」岸田.jpg仙元誠三●音楽:加藤和彦(主題歌:薬師丸ひろ子)●原作:赤川次郎●時間:106分●出演:薬師丸ひろ子/松田優作/秋川リサ/岸田今日子/北詰友樹/坂上味和/藤田進/中村晃子/鹿内孝/荒井注/蟹江敬三/財津一郎/三谷昇/林家木久蔵/ストロング金剛/山西道広/清水昭博/榎木兵衛/加藤善博/草薙良一/清水宏●公開:1983/07●配給:角川春樹事務所●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★☆)●併映:「時をかける少女」(大林宣甦れ!東急名画座3.jpg甦れ!東急名画座1.jpg東急文化会館.jpg東急名画座 1.jpg彦) 東急名画座 (東急文化会館6F、1956年12月1日オープン、1986年〜渋谷東急2) 2003(平成15)年6月30日閉館
 
 
 
Wの悲劇 [DVD].jpg「Wの悲劇」●制作年:1984年●監督:澤井信一郎●製作:角川春樹●脚本:荒井晴彦/澤井信一郎●撮影:仙元誠三●音楽:久石譲(主題歌:薬師丸ひろ子)●原作:夏樹静子●時間:108分●出演:薬師丸ひろ子/三田佳高木美保 Wの悲劇.jpg子/世良公則/三田村邦彦/仲谷昇/高木美保/蜷川幸雄/清水浩治/内田稔/草薙二郎/南美江/絵沢萠子/藤原釜足/香野百合子/志方亜紀子/幸日野道夫/西田健/堀越大史/渕野俊太/渡瀬ゆき●公開:1984/12●配給:東映/角川春樹事務所●最初に観た場所:新宿武蔵野館 (85-01-15)(評価:★★★★)●併映:「天国にいちばん近い島」(大林宣彦)
新宿武蔵野館(2019(令和元)年5月)
新宿武蔵野館42.JPG新宿 武蔵野館(1936年).jpg旧・新宿武蔵野館 (1920年武蔵野館オープン、1928年に現在の「新宿武蔵野館」の地に新築移転(モノクロ写真:新宿 武蔵野館(1936年))。1968年、武蔵野ビルを改装し7階に「新宿武蔵野館」として再オープン。1994年には同一ビルの3階にミニシアターとして「シネマ・カリテ(中黒あり)1・2・3」がオープン。2002年「新宿武蔵野館」を「新宿武蔵野館1」に改称し、同時に「シネマ・カリテ1・2・3」を「新宿武蔵野館2・3・4」に改称。2003(平成15)年9月30日「新宿武蔵野館1」閉館。それに伴い3階の「新宿武蔵野館2・3・4」を「新宿武蔵野館1・2・3」に改称し4館体制から3館体制となる。(2012年12月22日、武蔵野興業により新宿NOWAビル地下1階に2スクリーンの「シネマカリテ」がオープン)

岸部一徳 in「時をかける少女」
「時をかける少女」岸部2.jpg時をかける少女 原田c47.jpg「時をかける少女」●制作年:1983年●監督:大林宣彦●製作:角川春樹●脚本:剣持亘●撮影:前田米造●音楽:松任谷正隆(主題歌:原田知世(作詞・作曲:松任谷由実))●原作:筒井康隆●時間:104分●出演:原田時をかける少女 dvd.jpg時をかける少女 1983 3.jpg東急名画座 1.jpg知世/高柳良一/尾美としのり/津田ゆかり/岸部一徳/根岸季衣/内藤誠/入江若葉/高林陽一/きたむらあきこ/上原謙/入江たか子●公開:1983/07●配給:東映●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★★)●併映:「探偵物語」(根岸吉太郎)
時をかける少女 [DVD]」入江たか子 /上原謙
「時をかける少女」上原・入0.jpg「時をかける少女」上原・入江.jpg


転校生 [DVD]
転校生 1982 .jpg転校生 1982ド.jpg転校生 1982 01.jpg「転校生」●制作年:1982年●監督:大林宣彦●製作:森岡道夫/大林恭子/多賀祥介●脚本:剣持亘●撮影:阪本善尚●原作:山中恒「おれがあいつであいつがおれで」●時間:112分●出演:尾美としのり/小林聡美/佐藤允/樹木希林/宍戸錠/入江若葉/中川勝彦/井上浩一/岩本宗規/大転校生 1982 02.jpg山大介/斎藤孝弘/柿崎澄子/山中康仁/林優枝/早乙女朋子/秋田真貴/石橋小大林宣彦 転校生ド.jpg百合/伊藤美穂子/加藤春哉/鴨志田和夫/鶴田忍/人見きよし/志穂美悦子●公開:1982/04●配給:松竹●最初に観た場所:大井武蔵野舘 (83-07-17)●2回目:テアトル吉祥寺 (84-02-11)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「の・ようなもの」(森田芳光)/「ウィークエンド・シャッフル」(中村幻児)●併映(2回目):「家族ゲーム」(森田芳光)

「転校生」志穂美悦子/小林聡美
 
時をかける少女 文庫.jpg時をかける少女2006 1.jpg「時をかける少女(アニメ)」●制作年:2006年●監督:細田守●製作:渡邊隆史/齋藤優一郎●脚本:奥寺佐渡子●音楽:吉田潔●原作:筒井康隆●時間:98分●声の出演:仲里依紗/石田卓也/板倉光隆/原沙知絵/谷村美月/垣内彩未/関戸優希子●公開:2006/07●配給:角川ヘラルド映画(評価:★★☆)
        
天国に一番近い島 lp.jpg天国に一番近い島 dvd.jpg「天国にいちばん近い島」●制作年:1984年●監督:大林宣彦●製作:角川春樹●脚本:剣持亘●撮影:阪本善尚●音楽:朝川朋之(主題歌:原田知世)●原作:森村桂●時間:102分●出演:原田知世/高柳良一/朝川朋之/赤座美代子/泉谷しげる/高橋幸宏/小林稔侍/小河麻衣子/入江若葉/室田日出男/高橋幸宏/松尾嘉代/乙羽信子●公開:1984/12●配給:東映●最初に観た場所:新宿武蔵野館 (85-01-15)(評価:★★☆)●併映:「Wの悲劇」(澤井信一郎) 「天国にいちばん近い島 デジタル・リマスター版 [DVD]
乙羽信子(夫がニューカレドニアの海で戦死した戦争未亡人・石川貞)
乙羽「天国にいちばん近い島」.jpg

高橋幸宏(1952-2023/70歳没)in「天国にいちばん近い島」(1984)/坂本龍一(1952-2023/71歳没)in「戦場のメリークリスマス」(1983)/細野晴臣(1947- )in「居酒屋兆治」(1983)
天国にいちばん近い島 高橋幸宏.jpg戦場のメリークリスマス 6.jpg居酒屋兆冶 細野.jpg


藤谷美和子 それから.jpgそれから 笠智衆.jpegそれから.jpg「それから」●制作年:1985年●監督:森田芳光●製作:黒沢満/藤峰貞利樹●脚本:筒井ともみ●撮影:前田米造●音楽:梅林茂●原作:夏目漱石●時間:130分●出演:松田優作藤谷美和子/小林薫/笠智衆/中村嘉葎雄/草笛光子/風間杜夫/美保純/イッ「それから」1985年.jpgセー尾形/森尾由美/羽賀研二/それから 笠智衆.jpg川上麻衣子/遠藤京子/泉じゅん/一の宮あつ子/小林勝彦/佐原健二/加藤和夫/水島弘/小林トシエ/佐藤恒治/伊藤洋三郎●公開:1985/07●配給:東映●最初に観た場所:新宿ミラノ座 (85-11-17)(評価:★★☆)
 

の・ようなもの3.gifの・ようなもの2.jpg「の・ようなもの」●制作年:1981年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:渡部眞●音楽:塩村宰●原作:本間洋平●時間:103分●出演:秋吉久美子/伊藤克信/尾藤イサオ/でんでん/小林まさひろ/大野貴保/麻生えりか/五十嵐知子/風間かおる/直井理奈/入船亭扇橋/内海好江/鷲尾真知子/吉沢由起/小宮久美子/三遊亭大井武蔵野館・大井ロマン.jpg大井武蔵野館 地図.jpg楽太郎/芹沢博文/加藤治子/春風亭柳朝/黒木まや●公開:1981/09●配給:N.E.W.S.コーポレーション=日本へラルド映画●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「ウィークエンド・シャッフル」(中村幻児)
 
大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)
大井武蔵野館(閉館日)(1999年1月/ぼうすの小部屋・おでかけ写真展より)
大井武蔵野館 閉館日2.jpg
大井武蔵野館2.jpg大井武蔵野館.jpg大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館。
                                              
                         
 
                                                                                                   
鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香
鈴木保奈美.jpg財前直美.jpg武田久美子.jpg鈴木京香.jpg「愛と平成の色男」●制作年:1989年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:仙元誠三●音楽:野力奏一●時間:96分●出演:石田純一/鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香/久保京子/桂三木助/佐藤恒治●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(89-07-15)(評価:★☆)●併映:「バカヤロー!2」(本田昌広/鈴木元/岩松了/成田裕介、製作総指揮・脚本:森田芳光)

渋谷松竹1.jpg渋谷松竹sibuyatoei1.jpg渋谷東映・松竹・全線座shibuya.jpg渋谷松竹 1938年、前身の松竹系「東京映画劇場」オープン。1990(平成2)年9月16日、隣接の「渋谷東映」と共に閉館 (1985年道玄坂「ザ・プライム」6Fにオープンしていた渋谷松竹セントラル(2003年~「渋谷ピカデリー」)が後継館となる(2009(平成21)年1月30日「渋谷ピカデリー」閉館))(⑦渋谷東映/⑨渋谷松竹/⑬全線座(1977年閉館))


p映画シャッフル.jpg91syahhuru.jpg「シャッフル」●制作年:1981年大井武蔵野館・大井ロマン2.jpg●監督・脚本:石井聰亙(石井岳龍)●製作:秋田光彦●撮影:笠松則通●音楽:ヒカシュー●原作:大友克洋●時間:34分●出演:中島陽典/森達也/室井滋/武田久美子●公開:1981/12(1983)●配給:ATG●最初に観た場所:大井ロマン(89-07-15)(評価:★★☆)●併映:「レッドゾーン」(神有介)

第2話「こわいお客様がイヤだ」堤真一/第3話「新しさについていけない」竹中直人
バカヤロー2 幸せになりたい こわいお客様がイヤだ.jpgバカヤロー2 幸せになりたい 竹中.jpg「バカヤロー!2 幸せになりたい。」●制作年:1989年●製「バカヤロー!2 幸せになりたい。」2.jpg作総指揮・脚本:森田芳光●監督:本田昌広(第1話「パパの立場もわかれ」)/鈴木元(第2話「こわいお客様がイヤだ」)/岩松了(第3話「新しさについて「バカヤロー!2 幸せになりたい。」.jpgいけない」)/成田裕介(第4話「女だけがトシとるなんて」)●製作:鈴木光●撮影:栢原直樹/浜田毅●音楽:土方隆行●時間:98分●出演:(第1話)小林稔侍/風吹ジュン/高橋祐子/橋爪功/(第2話堤真一/金子美香/イッセー尾形/太田光/田中裕二/金田明夫/島崎俊郎/銀粉蝶/ベンガル/宮田早苗(第3話)藤井郁弥/荻野目慶子/尾「バカヤロー2」橋本2.jpg美としのり/柄本明/佐藤恒治/竹中直人/広岡由「バカヤロー2」柄本.jpg里子/(第4話)山田邦子/香坂みゆき/辻村真人/水野久美/加藤善博/桜金造●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(89-07-15)(評価:★★★)●併映:「愛と平成の色男」(森田芳光)

第1話「パパの立場もわかれ」小林稔侍(旅行代理店社員・岡田良介(パパ))/橋爪功(部長・笠松好司)/第3話「新しさについていけない」柄本明(電器屋・寄貝やすし)

池波志乃/秋川リサ/渡辺えり子/泉谷しげる
「ウィークエンド・シャッフル」スチール.jpgウィークエンド・シャッフル ビデオカバー.jpg「ウィークエンド・シャッフル」●制作年:1982年●監督:中村幻児●製作:渡辺正憲●脚本:中村幻児/吉本昌弘●撮影:鈴木史郎●音楽:山下洋輔(主題歌:ジューシィ・フルーツ)●原作:筒井康隆「ウィークエンド・シャッフル」●時間:104分●出演:秋吉久美子/伊大井武蔵野館 閉館日.jpg大井武蔵野館.jpg武雅刀/泉谷しげる/池波志乃/渡辺えり子/秋川リサ/新井康弘/村上不二夫/尾口康生/永井英里/野上正義/芦川誠/春風亭小朝/美保純●公開:1982/10●配給:幻児プロ=らんだむはうす●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「の・ようなもの」(森田芳光) 大井武蔵野館 閉館日(1999(平成11)年1月31日)


さらば愛しき大地3.jpgさらば愛しき大地 poster.jpg「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三/松山政路/奥村公延/草薙幸二郎/小林稔侍/中島葵/白川和子/佐々木すみ江/岡本麗/志方亜紀子/日高シネマスクエアとうきゅうMILANO2L.jpgシネマスクエアとうきゆう.jpgシネマスクウエアとうきゅう 内部.jpg澄子●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウェア東急(82-07-10)(評価:★★★★☆)
シネマスクエアとうきゅう 1981年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン。2014年12月31日閉館。

 
《読書MEMO》
筒井康隆『時をかける少女』
『時をかける少女 (ジュニアSF)』(1967年3月20日/鶴書房盛光社)(時をかける少女/悪夢の真相/果てしなき多元宇宙)/『時をかける少女 (SFベストセラーズ)』(1972年/鶴書房盛光社)/『時をかける少女』(1976年/角川文庫)
『時をかける少女』図2.jpg 時をかける少女 (SFベストセラーズ).jpg 時をかける少女 (角川文庫).jpg
『時をかける少女 (SFベストセラーズ)』奥付・目次(併録:「悪夢の真相」)
時をかける少女 目次2.jpg.png.jpg

筒井康隆『ウィークエンド・シャッフル』
『「ウィークエンド・シャッフル」』単行本.jpg『「ウィークエンド・シャッフル」』講談社文庫.jpg『「ウィークエンド・シャッフル」』角川.jpgウィークエンド・シャッフル (1974年9月24日)』(装幀:下田一貴)(佇むひと/如菩薩団/「蝶」の硫黄島/ジャップ鳥/旗色不鮮明/弁天さま/モダン・シュニッツラー/その情報は暗号/生きている脳/碧い底/犬の町/さなぎ/ウィークエンド・シャッフル)/『ウィークエンド シャッフル (講談社文庫) 』/『ウィークエンド・シャッフル (角川文庫)』(カバーイラスト:山藤 章二


田中小実昌 .jpg田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
大林宣彦 転校生ロード.jpg○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
○カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
○幕末太陽傳('57年、川島雄三)
転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)


●【文化庁メディア芸術祭アニメ部門シンポジウム】
リメーク映画の金字塔「時をかける少女」が大賞受賞
細田守監督が富野由悠季監督と公開"辛口"トーク
富野由悠季:細田守.jpg富野「僕が細田監督の『時かけ』の嫌な点は、現代の高校生を安易に描いているんじゃないのかと。主人公たちの『告白したい!』という台詞が『SEXしたい!』と僕には聞こえるんです。ただの風俗映画になっているんじゃないかという危うさを感じるんです。アニメという実写映画以上に記号的なものを使って、映画的構造の中で単に風俗映画にしてしまうのはもったいないぞと。作品としてスタイリッシュな分、若者たちが無批判で受け入れてしまう可能性があるわけです。ウラジミール・ナブコフの小説を原作にした『ロリータ』('62)や文化革命を背景にした『小さな中国のお針子』(2002)といった素晴らしい作品があります。映画をつくる人間は、これぐらいの社会的視野を持っていて欲しいんです。その点、奥寺さん脚本の『時かけ』は高校生しか出てこないのが不満なんです。せっかく叔母さんという面白いキャラクターがいるのに、活かしきれてなくもったいない。もっと社会性があってよかったと思います。演出力が優れているだけに残念です」

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何時か確実に訪れる自らの「死」を想起させる。黒澤明に「生きる」を着想させた作品。

イワン・イリッチの死4.jpgイワン・イリッチの死_iwan.jpg イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ.jpg  Ikiru(1952).jpg Ikiru(1952)   
イワン・イリッチの死 (岩波文庫)』 米川正夫:訳 ['34年/'73年改版] 『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)』 望月哲男:訳 ['06年] 

The Death of Ivan Ilyich.jpgレフ・ニコライビッチ・トルストイ.jpg レフ・ニコライビッチ・トルストイ(1828‐1910/享年82IMG_3146.JPGの中篇小説。45歳の裁判官が不治の病に罹り、肉体的にも精神的にも耐え難い苦痛を味わいながら着実に「死」に向かっていく、その3カ月間の心理的葛藤を、今まで世俗的な価値に固執し一定の栄達を得た自らの人生に対する、それがいかに無意味なものであったかという価値観の転倒からくる混乱と絶望、周囲から哀れみの眼差しを浴びながらも、あたかも自分の死が「予定調和」乃至は「ちょっとした不意の出来事」のように受け取られていることへの苛立ち、そして死の直前の苦悶と周囲への思いやりにも似た「回心」に至るまでを、まさに描き難いものを描き切ったと言える作品です。
  
 1886年3月、文豪57歳の時に完成した作品ですが、1881年に実在のある裁判官の死に接して想を得たもので、主人公の葬儀生きる 映画.jpg「生きる」1952.jpg生きる 志村喬 伊藤雄之助.jpgとその世俗的な生涯の振り返りから始まるこの作品は、黒澤明監督の「生きる」と主人公が役人である点が似ており、また映画「生きる」も、『イワン・イリッチの死』生きるA.jpgのように主人公の葬儀の場面から始まるわけではないですが、物語の後半はほとんど主人公の葬儀(通夜)の場面であり、役所の同僚たちが生前の主人公についてのエピソード語ったりしており(その都度回想シーンが挿入される)、黒澤はこの作品から「生きる」を着想したとされています。映画関連のデータベースでは、「生きる」の原作としてこの小説が記されているものがありましたが、実際のクレジットはどうだったでしょうか。最初観た時は評価★★★★でしたが、後にテレビなどで観直したりして★★★★☆に評価修正しました(●2024年1月8日のなぜか「成人の日」にNHK総合で放映されたのを再々見。自分がこの作品が重くのしかかってくる年齢になったのかということを改めて実感させられた。)
「生きる」NHK.jpg                               

「生きる」(1952・東宝/志村喬・藤原釜足/伊藤雄之助・志村喬)
藤原・志村「生きる」.jpg『生きる』.jpg 映画は映画で独立した傑作であり(第4回ベルリン国際映画祭「市政府特別賞」受賞、第26回キネマ旬報ベスト・テン第1位)、トルストイのイワン・イリッチの死』が「原作」であるというより、この作品を「翻案」したという感じに近いかもしれません(或いは、単にそこから着想を得たというだけとも言える。伊藤雄之助が演じた無頼派作家に該当しそうな人物なども『イワン・イリッチの死』には登場しないし)。

 作品テーマから捉えても、「生きる」が残された時間をどう生きるかがテーマであったのに比べ(と言うと、たいへん重い映画のように思われがちだが、志村僑と小田切みきのやり取りなどにおいて意外とコミカルな場面が多かったりする)、このトルストイ作品は、自らの死をどう受け入れるかが大きなテーマになっているように思います。

   
iイワン・イリイチの死7.jpgThe Death of Ivan Ilyich6.jpg 『イワン・イリッチの死』の主人公イワン・イリッチは、「カイウスは人間である、人間は死すべきものである、従ってカイウスは死すべきものである」という命題の正しさを信じながらも、「自分はカイウスではない」とし、死を受け入れられないでいます。一見、バカバカしいように思われますが、一歩引いて考えると、ほとんどの人がこれに近い感覚を持ち合わせているような気もします。

 彼を最も苦しめるのは、「ただ病気しているだけで、死にかかっているわけではなく、落ち着いて養生していれば治る」という「(彼をとりまく家族など)一同に承認せられた嘘」であり、それは皮肉にも彼自身が生涯奉仕してきた「礼儀」というものからくるものですが、その「嘘」に自分も加担させられていることに彼は苛立つわけです。

『イワン・イリッチの死』.JPG この作品は読む者に、日常の雑事により隠蔽されている、但し何時か確実に訪れる自らの「死」を想い起こさせるものであり、ある意味、怖いと言うか、向き合うのが苦痛に感じる面もありますが、一方で、文庫で僅か100ページ、「メメント・モリ」をテーマとしたものとしては、比較的手に取り易い、ある種"テキスト"的作品であるようにも思います。

 周囲との断絶に苦しむ主人公は、死の直前、自分の今の存在こそが周囲を苦しめており、そこから周囲を解き放つことによって自分も楽になると感じる。その時、そこには「死は無かった」―。

 死は生の側にあり、死自体は無であるということを如実に示す実存的作品であり、訳者の米川正夫(1891‐1965)はドストエフスキー作品の翻訳でも知られた人、最近刊行された光文社古典新訳文庫でも、ドストエフスキーが"専門"である望月哲男氏が翻訳にあたっています。

 尚、望月氏もそうですが、『新潮世界文学20-トルストイ5』('71年)の中で本作品を訳している工藤精一郎氏も主人公の名前を「イワン・イリイチ」としており、通常ロシア人の名前を日本語で表す際の慣例に従えば「イリッチ」となるのかもしれませんが、韻を踏むことで主人公の規則的な「役人」人生を表象しているらしく、その点からすれば、この作品においては「イリッチ」より「イリイチ」の方が相応しいのかもしれません。
      
生きる2.jpg「生きる」●制作年:1952年●製作:本木莊二郎 ●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/橋本忍小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早生きる パンフ.bmp坂文雄●原作(翻案):生きる 加東.jpgレフ・トルストイ「イワン・イリッチの死」●時間:143分●出演:ikiru03.jpgikiru04.jpgikiru05.jpg志村喬小田切みき/金子信雄/関京子/浦辺粂子/菅井きん宮口精二 生きる.jpgIMG_生きる 宮口.jpg/丹阿弥谷津子/田中春男/千秋実/左ト全/藤原釜足/中村伸郎/渡辺篤/木村功/伊藤雄之助/清水将夫/南美江/加東大介/山田巳之助/阿部九洲男宮口精二河崎堅男/勝本圭一郎/鈴木治夫/今井和雄/加藤茂雄/安芸津広/長濱藤夫/川越一平/津田光男/榊田敬二/熊谷二良/片桐常雄/田中春男/日守新一/(以下、特別出演)市村俊幸(ジャズバー・ピアニスト)/倉本春枝(ジャズバ「生きる」中村伸郎.jpg「生きる」阿部九洲男.jpgー・ダンサー)/ラサ・サヤ(ストリップ・ダン生きる 藤原釡足.jpgサー)●公開:1952/10●配給:東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館 (85-02-24)(評価★★★★☆)●併映「隠し砦の三悪人」(黒澤明)

宮口精二(ヤクザの親分)/加東大介(ヤクザ子分)
中村伸郎(市役所助役)/阿部九州男(市会議員)/藤原釡足(市民課係長)
  
菅井きん(1926-2018/享年92)(陳情の主婦)/小田切みき(1930-2006/享年76)(小田切とよ)
菅井きん(陳情の主婦).jpg 黒澤 生きる 小田切みき.jpg                                                                                                      
 
志村喬/ラサ・サヤ
生きる ラサ・サヤ.jpg
                                
大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館 閉館日.jpg大井武蔵野館.jpg「大井武蔵野館」ぼうすの小部屋 - おでかけ写真展より(左写真)

大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館(右写真・最終日の大井武蔵野館) 

大井武蔵野館・大井ロマン(1985年8月/佐藤 宗睦 氏)
大井武蔵野館・大井ロマン.jpg大井武蔵野館2.jpg

 【1934年文庫化・1973年改定[岩波文庫(米川正夫訳)〕/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(望月哲男訳『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』)〕】

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シリーズ中では充実した内容。回答者のコメントが楽しい。中上級編の注目は「十三人の刺客」。

大アンケートによる日本映画ベスト150 0_.jpg 七人の侍 志村喬.jpg  洋・邦名画ベスト1501.JPG
大アンケートによる日本映画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』/「七人の侍」/『洋・邦名画ベスト150〈中・上級篇〉』 (表紙イラスト:共に安西水丸

 『大アンケートによる日本映画ベスト150』は、同じ「文春文庫ビジュアル版」の『大アンケートによる洋画ベスト150』('88年)の続編で、この映画シリーズはこの後、

大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150  .jpg ◆『大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150』 〔'90年〕
 ◆『洋画・邦画ラブシーンベスト150』 〔'90年〕
 ◆『大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150』 〔'91年〕
 ◆『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』 〔'91年〕
 ◆『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』 〔'92年〕
 ◆『大アンケートによる男優ベスト150』 〔'93年〕
 ◆『戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100』 〔'95年〕

映画イヤーブック1994.jpgと続いています。これらの内の何冊かは、'90年代に毎年刊行されていた現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』と共に愛読・活用させてもらいました。角川文庫にも『日本映画ベスト200』('90年)などのアンケート・シリーズがありますが、「ビジュアル版」と謳っている文春文庫のシリーズの方が、掲載されているスチール、ポートレート、ポスターの量と質で、角川文庫のものを上回っています。

Shichinin no samurai(1954).jpg七人の侍 パンフ.jpg7samurai.jpg 本書『邦画ベスト150』には、赤瀬川順・長部日出雄・藤子不二雄A氏らの座談会や、映画通が選んだジャンル別のマイベスト、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」といった興味深い企画もありますが、メインの「ベスト150」は、1位が「七人の侍」で、以井上ひさしs.jpg下「東京物語」「生きる」「羅生門」「浮雲」と続く"まともな"ラインアップとなっています。また、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」も、第1位が「七人の侍」で、あと「天国と地獄」「生きる」と黒澤作品が続きます(因みに「七人の侍」は、1954年度「キネマ旬報ベストテン」第3位だったが、本書の10年後発表の「キネマ旬報オールタイムベスト・ベスト100日本映画編(1999年版)」では第1位(下段参照))
Shichinin no samurai(1954)  「七人の侍」('63年/東宝)

七人の侍 1954.jpg「七人の侍」.jpg 「七人の侍」の「1位」には、個人的にもほぼ異論を挟む余地が無いという気がします。先にジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」('60年/米)を観てオリジナルであるこの作品も早く観たいと思っていたですが、観るのなら絶対に劇場でと思い、リヴァイバル上映を待ちに待って、結局'90年代にニュープリント、リニューアル・サウンドの完全オリジナル版が15年ぶりに公開されたのを機にやっと観ました。渋谷のロードショーシアターへ、休日の昼間ではおそらく行列に並ぶことになるだろうと思い、冬の日の朝一番なら多少すいているかもしれないと思って観にいったら、観客多数のため上映館が急遽変更されていて、渋谷の街中(まちなか)を走った思い出があります。

『七人の侍』(1954) .jpg 「荒野の七人」もいい映画ではあるものの、やはりオリジナルは遥かにそれを凌ぐレベルの作品だったことを実感しました。アクション映画としても傑作ですが、脚本面でも思想性という面でも優れた作品だと思い七人の侍n.jpgます(2018年10月29日、英BBCが最も偉大な外国語映画100本を発表、世界43の国と地域の映画評論家209人が挙げたベストテンをポイント別に集計して順位が付けられているそうで、その第1位に「七人の侍」が選ばれた[当ページ再下段参照])
三船敏郎(菊千代)/土屋嘉男(利吉)

 因みに、本書における(同じくアンケートによる)「男優ベスト10」「女優ベスト10」は次の通りとなっています。
 男優ベスト10:1位・坂東妻三郎、2位・高倉健、3位・笠智衆、4位・三船敏郎、5位・三國連太郎、6位・森雅之、7位・志村喬、8位・石原裕次郎、9位・市川雷蔵、10位・緒形拳
 女優ベスト10:1位・原節子、2位・吉永小百合、3位・高峰秀子、4位・田中絹代、5位・岩下志麻、6位・京マチ子、7位・山田五十鈴、8位・若尾文子、9位・岸恵子、10位・藤純子

阪東妻三郎3.jpg(ウィキペデイアの「坂東妻三郎」の項に、「1989年(平成元年)に文春文庫ビジュアル版として『大アンケートによる日本映画ベスト150』という一書が刊行されたが、文中372人が選んだ「個人編男優ベストテン」の一位は阪妻だった。死後35年余りを経て、なおこの結果だった」とある。)

        
日本映画 洋・邦名画ベストベスト150.JPG 姉妹書である『洋画ベスト150』もそうですが、映画通と言われる特定の映画にこだわりを持った人々からアンケートをとったとしても、それらを全部を集計してしまうと、一般の映画ファンのアンケート結果とそう変わらないものになるという印象を受けます。そこで、「人目にふれにくい傑作」にテーマを絞った『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』が企画されたのは「むべなるかな」という感じがします。

Jûsan-nin no shikaku (1963)「十三人の刺客」
Jûsan-nin no shikaku (1963).jpg十三人の刺客.jpg 『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』の方では、「日本映画ベスト44」の1位が工藤栄一(1929‐2000)監督の「十三人の刺客」、「外国映画ベスト109」の1位は「マダムと泥棒」となっていて、「七人の侍」は前述の通り個人的にも大傑作だと思いますが、「七人の侍」がこれほど賞賛されるならば「十三人の刺客」ももっと注目されるべきであるし、ヒッチコック(個人的は好きな監督)の作品に人気が集まるならば、「マダムと泥棒」も見て!という印象は確か受けます。

十三人の刺客 1963ド.jpg十三人の刺客 1963 片岡 内田.jpg 「十三人の刺客」は、将軍の弟である明石藩主というのが実は異常性格気味の暴君で、事情を知らない将軍が彼を老中に抜擢する話が持ち上がったために、筆頭老中が暴君排除を決意し、暗殺の密命を旗本島田新左衛門に下すというもの。
片岡千恵蔵(島田新左衛門)/内田良平(鬼頭半兵衛)

「十三人の刺客」 ('63年/東映)
十三人の刺客s.jpg十三人の刺客dvd.jpg 片岡千恵蔵演ずる島田新左衛門が集めた刺客は12人で、参勤交代の道中の藩主を襲うが、対する明石藩士は53名。この、2勢力の武士が、何か2匹の生き物のように画面狭しと動き回って、時代劇というよりまさにアクション映画。そうした点では「七人の侍」と見比べると、また違った味があります(脚本の「池上金男」は今年['07年]5月に亡くなった、後に『四十七人の刺客』で新田次郎文学賞を受賞する池宮彰一郎(1923-2007/享年83)。音楽は「ゴジラ」の伊福部昭!)。
十三人の刺客 [DVD]

十三人の刺客 工藤栄一.jpg 本書にもあるように、アクション映画は、シチュエーションを単純にしてディテールに凝ったほうが面白いと言うその典型で、ラストの30分にわたるリアルな決戦シーンとそこに至るまでの作戦の積み重ねは、「早すぎた傑作」と呼ばれるにふさわしく、公開当時はあまり評価されなかったとのこと。大体、時代物に疎く、かなり後になってビデオで観たのですが、劇場で観たかったです(オールド・プリントで、ちょっと画面が暗い。DVDの方はどうなのだろうか(2019年にNHK-BSプレミアムで放映されたものを観たが、クリアな画像だった)

木村 功(岡本勝四郎)・土屋嘉男(利吉)・志村 喬(島田勘兵衛) /宮口精二(久蔵)/加東大介(七郎次)
「七人の侍」 志村喬 土屋嘉男 木村功.jpg宮口精二 七人の侍2.jpg七人の侍 加東大介.jpg「七人の侍」●制作年:1963年●監督:黒澤明●製作:本木莊二郎●脚本:黒澤明/橋本忍/小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄●時七人の侍』(1954年)- 勝四郎.jpg間:207分●出演:志村喬/三船敏郎/木村功/稲葉義男七人の侍 仲代達矢ekisutora .jpg加東大介/千秋実/宮口精二/藤原釜足/津島恵子/土屋嘉男/小杉義男/左卜全/高堂国典/東野英治郎/島崎雪子/山形勲/渡辺篤/千石規子/堺左千夫/千葉一郎/本間文子/安芸津広/多々良七人の侍f23.jpg純/小川虎之/熊谷二良/上田吉二郎/谷晃/中島春雄/(以下、エキストラ出演)仲代達矢(右写真)/宇津井健/加藤武●公開:1954/04●配給:東宝 ●最初に観た場所:渋谷東宝(渋東シネタワー4)(91-12-01)(評価:★★★★★
木村 功(岡本勝四郎)/東野英治郎(百姓の子供を人質にとって小屋に立て籠った盗人)

藤原釜足 七人の侍.jpg藤原釜足(志乃の父・万造)/千秋 実(林田平八)/稲葉義男(片山五郎兵衛)/山形 勲(鉄扇の浪人―腕は立つが七人には加わらない)
林田平八(千秋 実).jpg 片山五郎兵衛(稲葉義男).jpg 鉄扇の浪人(山形勲).jpg

Shibutoh_Cine_Tower.JPG渋東シネタワービル(シネタワー1・2・3・4)

渋東シネタワー 1991(平成3)年7月6日、「渋谷東宝会館」を「渋東シネタワー」と改称し、4スTOHOCINEMAS_Shibuya.JPGクリーンに増設して再オープン。シネタワー1(606席)、シネタワー2(790席)、シネタワー3(342席)、シネタワー4(248席)。2011(平成23)年、上層TOHOシネマズ渋谷 .jpg階にあったシネタワー1と2を閉鎖・改装し、同年7月15日、TOHOシネマズ渋谷スクリーン1・2・3・4がオープン。次いで下層階のシネタワー3・4を改装し、同年11月30日にTOHOシネマズ渋谷スクリーン5・6がオープン。


片岡千恵蔵 in「十三人の刺客」
十三人の刺客 片岡.jpg十三人の刺客 嵐.jpg十三人の刺客 西村.jpg「十三人の刺客」●制作年:1963年●監督:工藤栄一●製作:東映京都撮影所●脚本:池上金男●撮影:鈴木重平●音楽:伊福部昭●時間:125分●出演:片岡千恵蔵/里見浩太朗/嵐寛寿郎/阿部九州男/加賀邦男/汐路章/春日俊二/片岡栄二郎/和崎俊哉/西村晃/内田良平/山城十三人の刺客 里見.jpg新伍/丹波哲郎/月形龍之介/菅貫太郎/水島道太郎/沢村精四郎/丘さとみ/藤純子/河原崎長一郎/三島ゆり子/十三人の刺客 丹波.jpg月形龍之介.jpg「十三人の刺客」藤.jpg高松錦之助/神木真寿雄●公開:1963/12●配給:東映(評価:★★★★☆)
丹波哲郎/月形龍之介/藤純子(当時17歳)


●キネマ旬報オールタイムベスト・ベスト100日本映画編(1999年版)
1七人の侍 黒澤明

2浮雲 成瀬巳喜男
3飢餓海峡 内田吐夢
3東京物語 小津安二郎
5幕末太陽伝 川島雄三
5羅生門 黒澤明
7赤い殺意 今村昌平
8仁義なき戦い 深作欣二
8二十四の瞳 木下恵介
10雨月物語 溝口健二
11生きる 黒澤明
11西鶴一代女 溝口健二
13真空地帯 山本薩夫
13切腹 小林正樹
13太陽を盗んだ男 長谷川和彦
13となりのトトロ 宮崎駿
13泥の河 小栗康平
18人情紙風船 山中貞雄
18無法松の一生 稲垣浩
18用心棒 黒澤明
21蒲田行進曲 深作欣二
21少年 大島渚
21月はどっちに出ている 崔洋一
21麦秋 小津安二郎
21復讐するは我にあり 今村昌平
26家族ゲーム 森田芳光
26砂の器 野村芳太郎
26青春残酷物語 大島渚
26人間の条件 小林正樹
26また逢う日まで 今井正
31一条さゆり 濡れた欲情 神代辰巳
31キューポラのある街 浦山桐郎
31けんかえれじい 鈴木清順
31幸せの黄色いハンカチ 山田洋次
31Shall we ダンス? 周防正行
31にっぽん昆虫記 今村昌平
31夫婦善哉 豊田四郎
38愛を乞うひと 平山秀幸
38赫い髪の女 神代辰巳
38遠雷 根岸吉太郎
38仁義の墓場 深作欣二
38ソナチネ 北野武
38天国と地獄 黒澤明
38日本のいちばん長い日 岡本喜八
38日本の夜と霧 大島渚
38野良犬 黒澤明
38ゆきゆきて、神軍 原一男
38竜二 川島透
49安城家の舞踏会 吉村公三郎
49おとうと 市川崑
49隠し砦の三悪人 黒澤明
49十三人の刺客 工藤栄一
49近松物語 溝口健二
49もののけ姫 宮崎駿
55青い山脈 今井正
55神々の深き欲望 今村昌平
55キッズ・リターン 北野武
55櫻の園 中原俊
55青春の殺人者 長谷川和彦
55台風クラブ 相米慎二
55丹下左膳余話・百万両の壷 山中貞雄
55天使のはらわた 赤い教室 曾根中生
55楢山節考 木下恵介
55野菊のごとき君なりき 木下恵介
55宮本武蔵 五部作 内田吐夢
55竜馬暗殺 黒木和雄
67赤線地帯 溝口健二
67赤ひげ 黒澤明
67駅・STATION 降旗康男
67恋人たちは濡れた 神代辰巳
67サード 東陽一
67細雪 市川崑
67三里塚 辺田部落 小川紳介
67青春の蹉跌 神代辰巳
67日本の悲劇 木下恵介
67の・ようなもの 森田芳光
67裸の島 新藤兼人
67張り込み 野村芳太郎
67乱れ雲 成瀬巳喜男
67約束 斎藤耕一
67野獣の死すべし 村川透
82愛のコリーダ 大島渚
82赤ちょうちん 藤田敏八
82赤西蠣太 伊丹万作
82悪魔の手鞠唄 市川崑
82稲妻 成瀬巳喜男
82鴛鴦歌合戦 マキノ正博
82お葬式 伊丹十三
82影武者 黒澤明
82火宅の人 深作欣二
82カルメン故郷に帰る 木下恵介
82きけわだつみの声 関川秀雄
82CURE 黒沢清
82沓掛時次郎 遊侠一匹 加藤泰
82蜘蛛巣城 黒澤明
82狂った果実 中平康
82午後の遺言状 新藤兼人
82秋刀魚の味 小津安二郎
82次郎長三国志 マキノ雅弘
82新宿泥棒日記 大島渚
82砂の女 勅使河原宏
82素晴らしき日曜日 黒澤明
82戦場のメリークリスマス 大島渚
82Wの悲劇 澤井信一郎
82忠次旅日記・全三部 伊藤大輔
82ツィゴイネルワイゼン 鈴木清順
82椿三十郎 黒澤明
82東海道四谷怪談 中川信夫
82どついたるねん 阪本順治
82肉弾 岡本喜八
82日本春歌考 大島渚
82人間蒸発 今村昌平
82八月の濡れた砂 藤田敏八
82笛吹川 木下恵介
82豚と軍艦 今村昌平
82真昼の暗黒 今井正
82めし 成瀬巳喜男
82酔いどれ天使 黒澤明
82私が棄てた女 浦山桐郎


●英BBC・最も偉大な外国語映画100本(2018年)
日本映画の順位と全体の順位

1. 七人の侍       (黒澤明 1954)
3. 東京物語       (小津安二郎 1953)
4. 羅生門        (黒澤明 1950)
37. 千と千尋の神隠し (宮崎駿 2001)
53. 晩春       (小津安二郎 1949)
61. 山椒大夫     (溝口健二 1954)
68. 雨月物語     (溝口健二 1953)
72. 生きる      (黒澤明 1952)
79. 乱        (黒澤明 1985)
88. 残菊物語     (溝口健二 1939)
95. 浮雲       (成瀬巳喜男 1955)
 
1. Seven Samurai (Akira Kurosawa, 1954) 七人の侍
2. Bicycle Thieves (Vittorio de Sica, 1948) 自転車泥棒
3. Tokyo Story (Yasujiro Ozu, 1953) 東京物語
4. Rashomon (Akira Kurosawa, 1950) 羅生門
5. The Rules of the Game (Jean Renoir, 1939) ゲームの規則
6. Persona (Ingmar Bergman, 1966) 仮面/ペルソナ
7. 8 1/2 (Federico Fellini, 1963) 8 1/2
8. The 400 Blows (Francois Truffaut, 1959) 大人は判ってくれない
9. In the Mood for Love (Wong Kar-wai, 2000) 花様年華
10. La Dolce Vita (Federico Fellini, 1960) 甘い生活
11. Breathless (Jean-Luc Godard, 1960) 勝手にしやがれ
12. Farewell My Concubine (Chen Kaige, 1993) さらば、わが愛/覇王別姫
13. M (Fritz Lang, 1931) M
14. Jeanne Dielman, 23 Commerce Quay, 1080 Brussels (Chantal Akerman, 1975) ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン
15. Pather Panchali (Satyajit Ray, 1955) 大地のうた
16. Metropolis (Fritz Lang, 1927) メトロポリス
17. Aguirre, the Wrath of God (Werner Herzog, 1972) アギーレ/神の怒り
18. A City of Sadness (Hou Hsiao-hsien, 1989) 悲情城市
19. The Battle of Algiers (Gillo Pontecorvo, 1966) アルジェの戦い
20. The Mirror (Andrei Tarkovsky, 1974) 鏡
21. A Separation (Asghar Farhadi, 2011) 別離
22. Pan's Labyrinth (Guillermo del Toro, 2006) パンズ・ラビリンス
23. The Passion of Joan of Arc (Carl Theodor Dreyer, 1928) 裁かるるジャンヌ
24. Battleship Potemkin (Sergei M Eisenstein, 1925) 戦艦ポチョムキン
25. Yi Yi (Edward Yang, 2000) ヤンヤン 夏の想い出
26. Cinema Paradiso (Giuseppe Tornatore, 1988) ニュー・シネマ・パラダイス
27. The Spirit of the Beehive (Victor Erice, 1973) ミツバチのささやき
28. Fanny and Alexander (Ingmar Bergman, 1982) ファニーとアレクサンデル
29. Oldboy (Park Chan-wook, 2003) オールド・ボーイ
30. The Seventh Seal (Ingmar Bergman, 1957) 第七の封印
31. The Lives of Others (Florian Henckel von Donnersmarck, 2006) 善き人のためのソナタ
32. All About My Mother (Pedro Almodovar, 1999) オール・アバウト・マイ・マザー
33. Playtime (Jacques Tati, 1967) プレイタイム
34. Wings of Desire (Wim Wenders, 1987) ベルリン・天使の詩
35. The Leopard (Luchino Visconti, 1963) 山猫
36. La Grande Illusion (Jean Renoir, 1937) 大いなる幻影
37. Spirited Away (Hayao Miyazaki, 2001) 千と千尋の神隠し
38. A Brighter Summer Day (Edward Yang, 1991) 牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件
39. Close-Up (Abbas Kiarostami, 1990) クローズ・アップ
40. Andrei Rublev (Andrei Tarkovsky, 1966) アンドレイ・ルブリョフ
41. To Live (Zhang Yimou, 1994) 活きる
42. City of God (Fernando Meirelles, Katia Lund, 2002) シティ・オブ・ゴッド
43. Beau Travail (Claire Denis, 1999) 美しき仕事
44. Cleo from 5 to 7 (Agnes Varda, 1962) 5時から7時までのクレオ
45. L'Avventura (Michelangelo Antonioni, 1960) 情事
46. Children of Paradise (Marcel Carne, 1945) 天井桟敷の人々
47. 4 Months, 3 Weeks and 2 Days (Cristian Mungiu, 2007) 4ヶ月、3週と2日
48. Viridiana (Luis Bunuel, 1961) ビリディアナ
49. Stalker (Andrei Tarkovsky, 1979) ストーカー
50. L'Atalante (Jean Vigo, 1934) アタラント号
51. The Umbrellas of Cherbourg (Jacques Demy, 1964) シェルブールの雨傘
52. Au Hasard Balthazar (Robert Bresson, 1966) バルタザールどこへ行く
53. Late Spring (Yasujiro Ozu, 1949) 晩春
54. Eat Drink Man Woman (Ang Lee, 1994) 恋人たちの食卓
55. Jules and Jim (Francois Truffaut, 1962) 突然炎のごとく
56. Chungking Express (Wong Kar-wai, 1994) 恋する惑星
57. Solaris (Andrei Tarkovsky, 1972) 惑星ソラリス
58. The Earrings of Madame de... (Max Ophuls, 1953) たそがれの女心
59. Come and See (Elem Klimov, 1985) 炎628
60. Contempt (Jean-Luc Godard, 1963) 軽蔑
61. Sansho the Bailiff (Kenji Mizoguchi, 1954) 山椒大夫
62. Touki Bouki (Djibril Diop Mambety, 1973) トゥキ・ブゥキ/ハイエナの旅
63. Spring in a Small Town (Fei Mu, 1948) 田舎町の春
64. Three Colours: Blue (Krzysztof Kieslowski, 1993) トリコロール/青の愛
65. Ordet (Carl Theodor Dreyer, 1955) 奇跡
66. Ali: Fear Eats the Soul (Rainer Werner Fassbinder, 1973) 不安は魂を食いつくす
67. The Exterminating Angel (Luis Bunuel, 1962) 皆殺しの天使
68. Ugetsu (Kenji Mizoguchi, 1953) 雨月物語
69. Amour (Michael Haneke, 2012) 愛、アムール
70. L'Eclisse (Michelangelo Antonioni, 1962) 太陽はひとりぼっち
71. Happy Together (Wong Kar-wai, 1997) ブエノスアイレス
72. Ikiru (Akira Kurosawa, 1952) 生きる
73. Man with a Movie Camera (Dziga Vertov, 1929) これがロシヤだ(別題:カメラを持った男)
74. Pierrot Le Fou (Jean-Luc Godard, 1965) 気狂いピエロ
75. Belle de Jour (Luis Bunuel, 1967) 昼顔
76. Y Tu Mama Tambien (Alfonso Cuaron, 2001) 天国の口、終りの楽園。
77. The Conformist (Bernardo Bertolucci, 1970) 暗殺の森
78. Crouching Tiger, Hidden Dragon (Ang Lee, 2000) グリーン・デスティニー
79. Ran (Akira Kurosawa, 1985) 乱
80. The Young and the Damned (Luis Bunuel, 1950) 忘れられた人々
81. Celine and Julie go Boating (Jacques Rivette, 1974) セリーヌとジュリーは舟でゆく
82. Amelie (Jean-Pierre Jeunet, 2001) アメリ
83. La Strada (Federico Fellini, 1954) 道
84. The Discreet Charm of the Bourgeoisie (Luis Bunuel, 1972) ブルジョワジーの秘かな愉しみ
85. Umberto D (Vittorio de Sica, 1952) ウンベルト・D
86. La Jetee (Chris Marker, 1962) ラ・ジュテ
87. The Nights of Cabiria (Federico Fellini, 1957) カビリアの夜
88. The Story of the Last Chrysanthemum (Kenji Mizoguchi, 1939) 残菊物語
89. Wild Strawberries (Ingmar Bergman, 1957) 野いちご
90. Hiroshima Mon Amour (Alain Resnais, 1959) 二十四時間の情事
91. Rififi (Jules Dassin, 1955) 男の争い
92. Scenes from a Marriage (Ingmar Bergman, 1973) ある結婚の風景
93. Raise the Red Lantern (Zhang Yimou, 1991) 紅夢
94. Where Is the Friend's Home? (Abbas Kiarostami, 1987) 友だちのうちはどこ?
95. Floating Clouds (Mikio Naruse, 1955) 浮雲
96. Shoah (Claude Lanzmann, 1985) ショア
97. Taste of Cherry (Abbas Kiarostami, 1997) 桜桃の味
98. In the Heat of the Sun (Jiang Wen, 1994) 太陽の少年
99. Ashes and Diamonds (Andrzej Wajda, 1958) 灰とダイヤモンド
100. Landscape in the Mist (Theo Angelopoulos, 1988) 霧の中の風景

(The 100 greatest foreign-language films)

《読書MEMO》
個人的に特に良かった日本映画49本['22年]
良かった映画49.jpg

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「雨あがる」の主人公と似ている「日日平安」(「椿三十郎」の原作)の主人公。

雨あがる 山本周五郎短篇傑作選.jpg 日日平安.jpg    椿三十.bmp 「椿三十郎」1962.jpg
雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』 〔'99年〕/『日日平安』 新潮文庫/「椿三十郎 [DVD]

 『雨あがる―山本周五郎短篇傑作選』('99年/角川書店)は、山本周五郎(1903‐1967)の時代小説のうち、「日日平安」「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」「雨あがる」の4編を所収し、これらは何れも黒澤明(1910-1998)監督が映画化した、或いは映画化しようとして脚本化していたものにあたります。

椿三十郎 三船 仲代.jpg椿三十郎パンフ.jpg 「日日平安」は、映画「椿三十郎」('62年/黒澤プロ=東宝)の原作('54(昭和29)年7月「サンデー毎日涼風特別号」発表)で、城代家老を陥れようとする次席家老ら奸臣たちに対し、城代の危難を救うべく起ち上がった若い侍たちを素浪人が助太刀するというストーリーは映画と同じ。但し、原作の助太刀浪人・菅田平野は、映画の椿三十郎のような神がかり的剣豪ではなく(映画の中の三船敏郎と仲代達矢の"噴血"決闘シーンは有名だが、原7 椿三十郎.jpg作にこうした決闘場面は無い)、どちらかと言うと、切羽詰ると知恵を絞って苦境を乗り切るタイプで、未熟な若侍たちをリードしながらも、結構自分自身も窮地においては焦りまくっていたりします。

「椿三十郎」 (黒澤プロ=東宝)
「椿三十郎」.jpg『椿三十郎』(1962).jpg 城代のグループを手助けすることになったついでに、あわよくば仕官が叶えばと思っているくせに、城代の救出が成ると自ら姿を消すという美意識の持ち主で、それでも一方で、誰か追っかけて来て呼び止めてくれないかなあなんて考えている、こうした等身大の人物像がユーモラスに描かれていて、読後感もいいです。
小林佳樹 椿三十郎.jpg 小林桂樹
Tsubaki Sanjûrô(1962)
椿三十郎ポスター.jpg椿三十郎 mihune.jpg 黒澤明は最初は原作に忠実に沿って、やや脆弱な人物像の主人公として脚本を書いたのですが、映画会社に採用されず、その後映画「用心棒」('61年)が大ヒットし椿三十郎 shimura.jpgたためその続編に近いものを要請されて、一度はオクラになっていた脚本を、「用心棒」で三船が演じた桑畑三十郎のイメージに合わせて「剣豪」時代劇風に脚色し直したそうで、ついでに主人公の名前まで「菅田平野」→「椿三十郎」と、前作に似せたものに変えたわけです(映画の中では、主人公が自分でテキトーに付けた呼び名とされている)。

 原作に大幅に手を加えて原作をダメにしてしまう監督や脚本家は多くいますが、黒澤明の場合は第一級のエンタテインメントに仕上げてみせるから立派としか言いようがなく(この作品は昭和47年のお正月映画だった)、「原作を捻じ曲げて云々...」といった類のケチをつける隙がありません。

雨あがる.jpg 黒澤明の没後に小泉堯史監督により映画化された「雨あがる」('99年/東宝)の原作「雨あがる」('51(昭和26)年7月「サンデー毎日涼風特別号」発表)の主人公・三沢伊兵衛(みさわいへい)も浪人ですが、こちらは柔術などもこなすホンモノの剣豪で、ただし、腕を生かして仕官したいのはやまやまだが、人を押しのけてまで仕官するぐらいなら妻のおたよと仲良く暮らせればそれでいいという人物。人助けの際に見せた自分の腕前が見込まれて士官が叶いそうになるが...。

雨あがる 特別版 [DVD]

雨あがる 00.jpg 映画化作品の方は、28年間にわたって黒澤の助手を務めたという経歴を持つ小泉堯史監督の監督デビュー作で、スタッフ・キャストを含め「黒澤組」が結集して作った作品でもあり、冒頭に「この映画を黒澤明監督に捧げる」とあります。

雨あがる01.jpg 元が中編でそれを引き延ばしているだけに、良く言えばじっくり撮っていると言えますが、ややスローな印象も。伊兵衛を演じた寺尾聡は悪くなかったけれど、脇役陣(エキストラ級の端役陣)のセリフが「学芸会」調だったりして、黒澤明監督ならこんな演技にはOKを出さないだろうと思われる場面がいくつかありました。
  
i雨あがる.jpg 日本アカデミー賞において最優秀作品賞、最優秀脚本賞(故・黒澤明)、最優秀主演男優賞(寺尾聡)、最優秀助演女優賞(原田美枝子)、最優秀音楽賞(佐藤勝)、最優秀撮影賞(上田正治)、最優秀照明賞(佐野武治)、最優秀美術賞(村木与四郎)の8部門の最優秀賞を獲得。但し、個人的には、セリフの一部が現代語っぽくなっている部分もあり、それが少し気になりました。これは黒澤作品でもみられますが(そもそも、この作品の脚本は黒澤自身)、黒澤監督作品の場合、骨太の演出でカバーして不自然さを感じさせないところが、この映画では、先のエキストラ級の端役陣の「学芸会」調のセリフも含め、そうした勢いが感じられませんでした。そのため、そうした不自然さが目立った印象を受けたように個人的には感じました。

44『道場破り』.jpg 因みに、この「雨あがる」は、60年代に内川清一郎監督により「道場破り」('64年/松竹)として映画化されており、脚本は「椿三十郎」と後の「雨あがる」の両作品にも関与している小国英雄。三沢伊兵衛役はこの作品が映画初主演だった長門勇。主人公の三沢伊兵衛は藩主の側室になるよう無理強いされていた家老の息女・妙(たえ)(岩下志麻)を連れて逐電し、追っ手に狙われながらも関所を越えられず宿場に潜み、剣の腕前を利用して、悪い心得と知りながらも道場破りを行い、関所越えにつかう賄賂のためにまとまった金子(きんす)をつくろうとする―という話に改変されていて、原作から大幅改変と言っていいかと思いますが、三沢伊兵衛という人間の精神性といったものは活かされていたように思います。
内川 清一郎 「道場破り」 (1964/01 松竹) ★★★★

 映画の「椿三十郎」と「雨あがる」の主人公は、剣豪という意味では同じであるものの人物造型はかなり違っている感じがしましたが、それぞれの原作においては、片や脆弱、片や剣豪、ただし、ついつい人助けをする人の良さや、自分の腕前や手柄に自分自身何となく気恥ずかしさのようなものを持っている点で、かなり通じる部分があるキャラクターだと言えるのではないでしょうか。また、こうした人物像に対する愛着が、山本周五郎と黒澤明の共通項としてあるような気がします。

三船敏郎、土屋嘉男、加山雄三、田中邦衛  
椿三十郎4b0.jpg仲代達矢 椿三十郎.jpg「椿三十郎」●制作年:1962年●製作:東宝・黒澤プロダクション●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/菊島隆三/小国英雄●撮>影:小泉福造/斎藤孝雄●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「日日平安」●時間:96分●出演:三船敏郎/仲代達矢/司葉子/加山雄三/小林桂樹/団令子/志村喬/藤原釜足/入江たか子/清水将夫/伊藤雄之助/久伊藤雄之助 椿三十郎.jpg仲代達矢・三船敏郎 椿三十郎o.jpg三船三十郎と仲代.jpg明/太刀川寛/土屋嘉男/田中邦衛/江原達怡/平田昭彦/小川虎之助/堺左千夫/松井鍵三/樋口年子/波里達彦/佐田豊/清水元/大友伸/広瀬正一/大橋史典●劇場公開:1962/01●配給:東宝(評価★★★★☆)

三船敏郎/仲代達矢

「椿三十郎」若侍.jpg
     
雨あがる-Press01.JPG雨あがるes.jpg「雨あがる」●制作年:2000年●製作:黒澤久雄/原正人●監督:小泉堯史●脚本:黒澤明/菊島隆三/小国英雄●撮影:上田正治●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「雨あがる」●時間:96分●出演:寺尾聰/宮崎美子/三船史郎/吉岡秀隆/仲代達矢/原雨あがる 辻月丹 仲代達矢1.jpg田美枝子/井川比佐志/檀ふみ/大寶智子/松村達雄/奥村公延/頭師孝雄/山口馬木也/森塚敏/犬山半太夫/鈴木美恵/児玉謙次/加藤隆之/森山祐子/下川辰平●劇場公開:2000/01●配給:東宝(評価★★★)
仲代達矢(剣豪・辻月丹)
「雨あがる図1.jpg

 「雨あがる」...【1956年単行本〔同光社〕/2008年文庫化[時代小説文庫]】 「日日平安」...【1958年単行本〔角川書店〕/1965年文庫化・1989年・2003年改版〔新潮文庫〕/2006年再文庫化[ハルキ文庫→時代小説文庫]/2020年文庫化[講談社文庫(『雨あがる―映画化作品集』)]】

《読書MEMO》
●「日日平安」...1954(昭和29)年発表 ★★★★
●「つゆのひぬま」「なんの花か薫る」...1956(昭和31)年発表 ★★★
●「雨あがる」...1951(昭和26)年発表 ★★★★

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佐野周二主演では川島雄三監督の「とんかつ大将」と同じくらい泣けたかも。

「大阪の宿」00.jpg
大阪の宿 [DVD]
「大阪の宿」0.jpg 東京の保険会社に勤める独身の三田(佐野周二)は、組合側に加担して重役を殴り、大阪に左遷された。彼が首にならなかったのは、親友の田原(細川俊夫)が多額な保険金を契約しているからであった。三田が下宿した安旅館「酔月荘」にはおりか(水戸光子)、おつぎ(川崎弘子)、お米(左幸子)という三人の女中がいた。甲斐性のない亭主を持つおりかは、同宿人「大阪の宿」2.jpgの金を盗み酔月荘を追放されるが、三田は就職等いろいろ面倒をみてやった。おつぎは忙しく働かされて一人息子に会う暇もない。十四の時から男を知っているというお米は、三田を口説きにかかるが、とっつき難さに愛想をつかす。毎夜遅くまで内職の飜訳をしている三田の許へ南地の芸者うわばみ(乙羽信子)が訪ねてきて、大酒を飲む。田原に誘われて飲みに行って以来の知り合いで、彼女は三田を愛していた。しかし二人の関係は友「大阪の宿」3.jpg人以上には発展しない。三田には秘めた片想いの恋人がいたのだ。通勤の途中、御堂筋のポストの所で必ず会う女事務員である。彼女・井元貴美子(恵ミチ子)は田原の先輩で大洋々行を経営する井元(北沢彪)の娘である事をつきとめるが、井元は三田の会社の支店長に浮貸を取立てられて自殺し、大洋々行も閉鎖したので、貴美子も行方知れずとなった。憤慨したうわばみは或る酒席でこれを暴露し、三田は再び支店長と喧嘩して東京の本社へ追放されることとなる。酔月荘も時流に抗しきれず、おかみは温泉マークの連れ込み宿に改造する決心をし、おつぎは迫出され、お米は女中とも商売女ともつかず働く。止宿人も宿変えを迫られる。三田は商業都市・大阪の生んだ不幸な庶民、おつぎ、おりか、うわばみ等に見送られながら、感慨をこめて大阪を後にする―。

「大阪の宿」8.jpg 五所平之助監督の1954年公開作で、原作は水上滝太郎。同じ三田派の久保田万太郎が監修し、八住利雄と監督の五所平之助の共同脚本作です。

 東京から大阪に左遷された佐野周二演じる主人公の会社員・三田が下宿する「酔月荘」という安旅館で働く3人の女中(演じるのは水戸光子・川崎弘子と当時23歳と若い左幸子)が良く、"うわばみ"というあだ名の大酒飲みの芸者を演じた乙羽信子も当然のことながらいいです。

 三田が突き付けられる"貧困"の現実は厳しいですが、リアリズムと並行して、女性たちの喜怒哀楽が、慈しみのこもったタッチで描かれているは、五所平之助監督のきめ細い演出の賜物です。監督の戦後の作品の中でも秀作とされているようです。

「大阪の宿」6.jpg「大阪の宿」7.jpg 佐野周二が演じる三田は、女性たちの生き方を描く際の狂言回し的な位置づけですが、悪くないです。「今の世の中、カネ、カネ、カネだ。一体「人」はどこへ行ってしまったんだろう」と嘆き、本当に彼女たちが困っている時は助けますが、どちらかというとそう積極的に行動を起こす方ではなく、最後には乙羽信子演じるうわばみに対しても「君とは住む世界が違う」と言ってしまいます。言われた方は傷つくだろうなあ(この辺りに反発を抱き、この映画を評価しない人もいるようだ)。

「大阪の宿」5.jpg それでも、三田が東京に戻ることになった前夜の送別会には女たちが集い(まさに彼が皆から愛されていた証拠!)、盟友であり、正論を主張して重役を首になった田原も相席して、「月が~出た出た~月が~出た~三池炭鉱の~上に出た~」と皆で歌うシーンには涙腺が緩みます。

「大阪の宿」4.jpg その席に一つだけ座る者の居ない座布団があって、来なかったのは当時19歳の安西郷子演じる薄幸の少女です。でも、彼女も缶工場で活き活きと働いている姿があって良かった! ただ1つ欠けていたピースを最後に嵌めたという感じしょうか。その工場の傍を三田が乗っていると思われる列車が駆け抜けていくラストが旨いです。

 佐野周二主演では川島雄三監督の「とんかつ大将」('52年/松竹)と同じくらい泣けたかもしれません(この2作、エリートから見た庶民という点で、少し似ている面がある)。

藤原釜足(おっちゃん)
「大阪の宿」ポスター.jpg「大阪の宿」f.jpg「大阪の宿」●制作年:1954年●監督:五所平之助●監修:久保田万太郎●脚本:八住利雄/五所平之助●撮影:小原譲治●音楽:団伊玖磨●原作:水上滝太郎●時間:122分●出演:佐野周二/細川俊夫/乙羽信子/恵ミチ子/水戸光子/川崎弘子/左幸子/三好栄子/藤原釜足/安西郷子/多々良純/北沢彪/十朱久雄/中村彰/水上貴夫/若宮清子/城実穂●公開:1954/04●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★★)<.font>


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