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観ている観客が主人公と同じ"記憶喪失"状態を体験していたという作りが画期的。

エターナル・サンシャイン  2005.jpg エターナル・サンシャイン01.jpg エターナル・サンシャイン02.jpg
エターナル・サンシャイン [DVD]」ジム・キャリー/ケイト・ウィンスレット
「エターナル・サンシャイン」01.jpg バレンタイン目前のある日、ジョエル(ジム・キャリー)は、最近ケンカ別れした恋人のクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)が、自分との記憶を全部消してしまったという不思議な手紙を受け取る。ショックを受けたジョエルは、自らもクレメンタインとの波乱に満ちた日々を忘れようと、記憶除去を専門とするラクーナ医院の門を叩く。ハワード・ミュージワック博士(トム・ウィルキンソン)が開発したその手術法は「エターナル・サンシャイン」2.jpg、一晩寝ている間に、脳の中の特定の記憶だけを消去できるというもの。さっそく施術を受けるジョエル。技師のパトリック(イライジャ・ウッド)、スタン(マーク・ラファロ)、メアリー(キルスティン・ダンス「エターナル・サンシャイン」3.jpgト)が記憶を消していく間、無意識のジョエルは、クレメンタインと過ごした日々を逆回転で体験する。しかしやがて、ジョエルは忘れたくない素敵な時間の存在に気づき、手術を止めたいと思うようになるが、そのまま手術は終わる。そして朝。家を出たジョエルは、衝動的に仕事をさぼって海辺へと向かい、そこでクレメンタインと出会う。二人は互いに惹かれ合うが、彼らのもとに、消された記憶について二人がそれぞれ語っているテープが届く。自分と博士との不倫の記憶を消されたと知ったメアリーが、彼らに送ったのだ。テープから聞こえてくるお互いの悪口。しかし二人は、それでも改めて恋に落ちるのだった―。

エターナル・サンシャインdoctor.jpgエターナル・サンシャイン 2005.jpg 2004年公開のミシェル・ゴンドリー監督作で、アカデミー賞脚本賞、放送映画批評家協会賞作品賞などを受賞していますが、確かに脚本が巧みでした。「記憶除去」を扱った映画SFでもあり、サターン賞の最高賞である「SF映画賞」も受賞していますが、SFチックな部分はわざとキッチュに作っている感じで、やはり、サターン賞も含め、評価されたのは脚本の面白さだったのではないでしょうか(映像も、金をかけないなりに撮り方に凝っていた)。

「エターナル・サンシャイン」r.jpg 冒頭にジム・キャリー演じるジョエルとケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインの列車での出会いの場面があります。朝、家を出て職場に向かおうとしたジョエルは、衝動的に仕事をさぼってロングアイランドの果て「モントーク」の海辺へと向かい、そこでクレメンタインと出会う―クレメンタインがかなり積極的にジョエルにアプローチしていて、ちょっとエキセントリックですらありましたが、これ全部、伏線があったのだなあ。思えば、映画の構成自体が、推理小説で言うところの"叙述トリック"と言うか、観客に対する一つのトリックみたいになって、そのことに気づいたのは観始めてかなり経ってからでした。

エターナル・サンシャイン30.jpg 二度目の二人の出会いのシーンが出てきて、「えっ、何これ」という感じになりましたが、それこそがこの映画の画期的にユニークな点だったわけです。要するに、観ている観客がいつの間にか主人公と同じ"記憶喪失"状態を体験していたということです(「何、言っているか分からない」って、分からない方が幸せ。実際に映画を観て味わって欲しい)。コレ、この方法が使えるのはこの作品1回きりだろなあという気がします。誰かが後から真似ようと思っても、この映画から「盗んだ」という捉え方しかされないのではないでしょうか。

「エターナル・サンシャイン」7.jpg ラブ・ストーリーとしても良く出来ていますが、ジム・キャリー演じるジョエルとケイト・ウィンスレット演じるクレメンタインでは、後者の方が完全に"キャラ立ち"しており、ケイト・ウィンスレットはこの作品で、ロンドン映画批評家協会賞「英国主演女優賞」、放送映画批評家協会賞「主演女優賞」などを受賞しています(アカデミー「主演女優賞」、ゴールデングローブ賞「主演女優賞(ドラマ部門)」にもノミネート)。彼女は2年後の「愛を読むひと」('08年/米・独)で、アカデミー「主演女優賞」とゴールデングローブ賞「助演女優賞」を受賞することになります(「タイタニック」('97年)で共演したレオナルド・ディカプリオより7年早くアカデミー俳優になった)。

エターナル・サンシャイン .jpg「エターナル・サンシャイン」●原題:ETERNAL SUNSHINE OF THE SPOTLESS MIND●制作年:2004年●制作国:アメリカ●監督:ミシェル・ゴンドリー●製作:スティーヴ・ゴリン/アンソニー・ブレグマン●脚本:チャーリ「エターナル・サンシャイン」es.jpgエターナル・サンシャイン hair.jpgー・カウフマン●撮影:エレン・クラス●音楽:ジョン・ブライオン●時間:107分●出演:ジム・キャリー/ケイト・ウィンスレット/イライジャ・ウッド/キルスティン・ダンスト/マーク・ラファロ/トム・ウィルキンソン/デヴィッド・クロス●日本公開:2005/03●配給:ギャガ=ヒューマックス●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-02-26)(評価:★★★★)

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ハーレクイン・ロマンスみたいでも、演じる役者が上手ならば、王道を行く恋愛劇作品に。
いつか晴れた日に dvdL.jpg いつか晴れた日に dvdド.jpg いつか晴れた日に 00.jpg アン・リー.jpg
いつか晴れた日に[DVD]」「いつか晴れた日に[DVD]」ケイト・ウィンスレット/エマ・トンプソン アン・リー監督  

いつか晴れた日に_1.jpg 貴族のダッシュウッド氏(トム・ウィルキンソン)が亡くなった後、ダッシュウッド夫人と3人の娘、エリノア(エマ・トンプソン)、マリアンヌ(ケイト・ウィンスレット)、マーガレットは、年500ポンドの遺産しか残されなかったことに愕然とする。ダッシュウッド氏は妻と娘たちの身を案じ、死ぬ間際に彼女たちを頼むと先妻との間の息子ジョン(ジェームズ・フリート)に頼んでいたにもかかわらず、ジョンの妻ファニー(ハリエット・ウォルター)がそれを阻止してしまったのだった。ジョンとファニーは母娘が住んでいたノーランド・パーク邸に乗り込み、彼女たちを邪険に扱うようになる。エリノアは、屋敷を訪れたファニーの弟エドワード(ヒュー・グラント)と互いに好感を抱く。ダッシュウッド母娘はミドルトン卿(ロバート・ハーディ)の厚意でバートン・コテージへ移り住む。マリアンヌは年の離れたブランドン大佐(アラン・リックマン)から愛情を寄せられるが、彼女は青年貴族ウィロビー(グレッグ・ワイズ)と恋仲になってしまう。しかし、ウィロビーは理由も告げずにロンドンへ去り、マリアンヌは悲しみに沈む。一方、エリノアはエドワードの秘密の婚約者ルーシー(イモジェン・スタッブス)の存在に大きな衝撃を受ける。ジェニングス夫人(エリザベス・スプリッグス)の招待で、失意のエリノアとマリアンヌ姉妹、そしてルーシーはロンドンを訪れるが、そこでは思いがけない事態が待っていた―。

Alan Rickman with Ang Lee's Goldener Bär.jpg 1995年製作のアン・リー(李安)監督による米・英合作映画で、アン・リー監督にとっては、本格的にハリウッド進出を果たした第1作。ジェーン・オースティンの『分別と多感』が原作であり、原題は原作と同じです(Sense and Sensibility)。1996年・第46回ベルリン国際映画祭で、アン・リー監督としては「ウェディング・バンケット」('93年/台湾・米)に次ぐ2度目の「金熊賞」を獲得したほか(複数回の金熊賞受賞は2017年現在アン・リー監督のみ)、主演のエマ・トンプソンが脚本を担当しており、第68回アカデミー賞にて脚色賞を受賞しています。

Alan Rickman with Ang Lee's Goldener Bär (Berlinale, 1996)
 
いつか晴れた日に  03.jpg ジェーン・オースティン作品では『高慢と偏見』が2005年にジョー・ライト監督によるイギリス映画としてキーラ・ナイトレイ主演で映画化されていますが(「プライドと偏見」)、文学全集などによく収められているのは『高慢と偏見』の方だけれども(或いは『エマ』か)、この「いつか晴れた日に」の原作『分別と多感』もなかなか面白いのではないでしょうか(個人的には未読だが、2009年に英国ガーディアン紙が発表した「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」に『高慢と偏見』と共に入っている)。『高慢と偏見』の最初の映画化作品は、ローレンス・オリヴィエ主演の「高慢と偏見」('40年/米)で、当時ハリウッドで流行したスクリューボール・コメディの影響を受けた作りになっているそうですが、ジェーン・オースティンの小説に登場する姉妹(『高慢と偏見』の場合は5人姉妹)は、いい男が現われる度にどんどん恋にいつか晴れた日に1.jpg陥っていくので、何となく分かる気がします。

 この「いつか晴れた日に」も、原作はハーレクイン・ロマンスかと思ってしまうくらい、エリノア、マリアンヌ姉妹の前にエドワード、ブランドン大佐、ウィロビーいい男が次々と3人現れ、そこから紆余曲折の恋愛模様が展開されていきます。たとえハーレクイン・ロマンスみたいでも、演じる役者がしっかりしていて上手に演じていれば、王道を行く恋愛劇作品となり、さすがオースティン原作ということになる―ということではないでしょうか。
 
いつか晴れた日に エマ・トンプソン.jpg 長女エリノア役のエマ・トンプソンはイングランド出身で、ジェームズ・アイヴォリー監督の「ハワーズ・エンド」('92年/英・日)でアカデミー主演女優賞を受賞済み、同じくエマ・トンプソン グレッグ・ワイズ2.jpgジェームズ・アイヴォリー監督の「日の名残り」('93年/英)の演技でもアカデミー主演女優賞ノミネートされています(この「いつか晴れた日に」では英国アカデミー賞主演女優賞を受賞)。因みに、エマ・トンプソンは私生活では、1995年にケネス・ブラナーと離婚した後、同年この「いつか晴れた日に」で共演した、次女マリアンヌの想い人ウィロビー役のグレッグ・ワイズと交際を始め、2003年に再婚しています。

いつか晴れた日に    09.jpgいつか晴れた日に ケイト・ウィンスレット.jpg 次女マリアンヌ役のケイト・ウィンスレットもイングランド出身で、この作品の後、ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」('97年/米)でレオナルド・ディカプリオと共演し、スティーブン・ダルドリー監督の「愛を読むひと」('08年/米・独)でアカデミー主演女優賞を受賞することになります。レオナルド・デカプリオより1歳年下ですが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりも、彼女の方が受賞は7年早かったことになります。(この「いつか晴れた日に」では英国アカデミー賞主演女優賞を受賞)。

いつか晴れた日に ヒュー・グラントSense-and-Sensibility-emma-thompson-.jpgいつか晴れた日に ヒュー・グラント.jpg エドワード役のヒュー・グラントは、こうした英国風映画には欠かせないイングランド出身の俳優で(個人的には ジェームズ・アイヴォリー監督の「モーリス」('87年/米)の演技が印象的だった)、英国アカデミー賞主演男優賞を受賞した「フォー・ウェディング」('94年/英)の時もそうでしたが、この映画でもちょっと優柔不断なところがある"いい人"が似合っています。
    
いつか晴れた日に アラン・リックマン.jpg ブランドン大佐役のアラン・リックマンは、この人もイングランド出身で、映画初出演だった「ダイ・ハード」('88アラン・リックマン .jpgダイハード 1988 アラン・リックマン2.jpg年/米)の冷酷無比なテロリスト集団のリーダー・ハンス役で一気に有名になりましたが、元々は英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身の舞台俳優であり、この映画を観ているとそのことが感じられます。「ハリー・ポッター」シリーズのセブルス・スネイプ役も印象的でしたが、2016年に膵臓癌により69歳で死去したのが惜しまれます。

ヒュー・グラント/エマ・トンプソン    ケイト・ウィンスレット/アラン・リックマン
いつか晴れた日に l1.jpgいつか晴れた日に l2.jpg 脇役もいいですが、やはりこの4人の演技力が映画の完成度に寄与している部分が大きいです。ハリウッド映画ですが、グレッグ・ワイズまで含めて主要な配役の5人ともイングランド出身で、彼らの演技力を引き出したのが、台湾出身のアン・リー監督であるというのが興味深いです。
Sense and Sensibility (1995)
いつか晴れた日に_0.jpgSense and Sensibility (1995).jpg
「いつか晴れた日に」●原題:SENSE AND SENSIBILITY●制作年:1995年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:アン・リー(李安)●製作:リンゼイ・ドーラン●製作総指揮:シドニー・ポラック●脚本:エマ・トンプソン●撮影:マイケル・コールター●音楽:パトリック・ドイル●原作:ジェーン・オースティン「分別と多感」●時間:136分●出演:エマ・トンプソン/ケイト・ウィンスレット/ヒュー・グラント/アラン・リックマン/グレッグ・ワイズ/ジェマ・ジョーンズ/エミリー・フランソワ/ジェームズ・フリート/ハリエット・ウォルター/トム・ウィルキンソン/ロバート・ハーディ/エリザベス・スプリッグス/イモジェン・スタッブス/イメルダ・スタウントン/ヒュー・ローリー/リチャード・ラムズデン●日本公開:1996/06●配給:コロンビア・ピクチャーズ(評価:★★★★)

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主人公が "彼女の秘密"に気づく場面はミステリの謎が明かされるようで白眉。

愛を読むひとdvd 2008.jpg 愛を読むひと .jpg 朗読者 新潮文庫.jpg タイタニック bvd.jpg
愛を読むひと<完全無修正版> [DVD]」ケイト・ウィンスレット ベルンハルト・シュリンク『朗読者 (新潮文庫)』「タイタニック(2枚組) [AmazonDVDコレクション]
愛を読むひと 01.jpg 第二次世界大戦後のドイツ。15歳のマイケル(ダフィット・クロス)は、体調が優れず気分が悪かった自分を偶然助けてくれた21歳も年上の女性ハンナ(ケイト・ウィンスレット)と知り合う。猩紅熱にかかったマイケルは、回復後に毎日のように彼女のアパートに通い、いつしか彼女と男女の関係になる。ハンナはマイケ愛を読むひと 03 2.jpgルが本を沢山読む子だと知り、本の朗読を頼むようになる。彼はハンナのために『オデュッセイア』や『犬を連れた奥さん』などを朗読する。ある日、ハンナは働いていた市鉄での働きぶりを評価され、事務職への昇進を言い渡されると、マイケルの前から姿を消愛を読むひと80.jpgしてしまう。理由がわからずにハンナに捨てられて8年が経ったある日、ハイデルベルク大学法学部生となったマイケルは、ロール教授(ブルーノ・ガンツ)のゼミ研究のためにナチスの戦犯を裁くアウシュビッツ裁判を傍聴し、被告席の一つにハンナの姿を見つける。彼女は第二次世界大戦中に強制収容所で看守をしていたのである。裁判はハンナに不利に進み、彼女は無期懲役の判決を受ける―。
 
Der Vorleser(ドイツ語paperback)/Bernhard Schlink
Der Vorleser.jpgベルンハルト・シュリンク.jpg 2008年のアメリカ・ドイツ合作映画で、監督は英国人のスティーブン・ダルドリー、原作は1995年に出版されたベルンハルト・シュリンク(Bernhard Schlink)の長編小説『朗読者』('00年/新潮社、原題:Der Vorleser/The Reader)です。映画は(終盤に主人公がニューヨークへ行く場面を除き)ドイツで撮影されていますが、英語による製作であるため、主人公の名前も、原作のミヒャエルからマイケルになっています。但し、少年時代のマイケルを演じたダフィット・クロスはドイツの俳優、母親を演じたズザンネ・ロータもドイツ人女優、法学部のロール教授はスイス出身のブルーノ・ガンツが演じていてます。ハンナ役のケイト・ウィンスレットは英国人女優、成人してからのマイケルを演じたレイフ・ファインズも英国人俳優、アウシュヴィッツの生存者母子ローゼ・マーターとイラーナ・マーターの二役を演じたレナ・オリンはスウェーデン出身、若き日のイラーナを演じたアレクサンドラ・マリア・ララはルーマニア人、成人したマイケルの娘を演じたハンナー・ヘルツシュプルングは、これまたドイツ人女優です(アメリカ人、いないね)。

愛を読むひとes.jpg 先に原作を読みましたが、かつて齋藤美奈子氏が「包茎小説」と呼んでいたのを思い出しました。15歳のミヒャエルと21歳年上のハンナが出会い、男女の関係を持って別れるまでを描いた第1章だけならば、確かに"筆おろし"小説と言えなくもなく、元判事で法学部教授である作者がこういうの書くのが興味深いと思いました。しかし、第2章の裁判の場面はまさにキャリアに裏打ちされたもので、作品に深みを与えることにも繋がっているように思いました。小説はこれに、裁判以降の主人公とハンナの話を描いた第3章を加えた3つの章から成ります。

レイフ・ファインズ(現在のマイケル)/ダフィット・クロス(少年時代のマイケル)
愛を読むひとralph_fiennes_in_the_reader.jpg愛を読むひと kurosu.jpg 一方の映画の方は、1995年の主人公マイケルの「現在」を軸に、1958年の15歳の時にハンナと出会った少年期、1966年のハンナの裁判を偶然傍聴することになった法学部生愛をよむ人 s.jpg時代、1976年のマイケルが本を朗読しテープに録音して、それを獄中のハンナに送ることを思いついた時期、1980年のハンナから届いた短い文章の礼状にマイケルが感動した出来事、1988年の20年の刑に減刑されたハンナが釈放されることが決まった時などとの愛を読むひと ブルーノ・ガンツ.jpg間を行き来する形をとっていますが、概ね原作に忠実であるといっていいでしょう(マイケルが離婚して娘となかなか会えないでいるといった現況は映画のオリジナル。あとは、ブルーノ・ガンツ演じる教授のウェイトが原作より大きくなって、主人公に精神的に導き支えるという点で、原作における主人公の父親である哲学教授の役割を一部代替していたりする)。

ブルーノ・ガンツ(後ろ)

愛を読む人aioyomu.jpg 原作でも言えるのは、ハンナが幾つか謎を抱えている女性であるという点であり、①なぜマイケルと交わるようになったのか?(単なる気まぐれ?)、②なぜ裁判で不利になることを承知で自らの"秘密"を明かさなかったのか?(主人公がその"秘密"に気づく場面は、ミステリの謎が明かされるようで、原作でも映画でも白眉)、③そして最後に彼女がとった行動の理由は?―等々。映画を観て、①の理由は、マイケルが彼女にとっての癒しとなる"朗読者"であり、自らを成長させるパートナーであったことが窺えましたが心と響き合う読書案内2.jpg新潮文庫 20世紀の100冊.jpg、②については、映画を観てもまだ解らない部分が残りました。小川洋子氏は、「彼女は疲れ切っていたに違いない。彼女は裁判で闘っていただけではなかった。彼女は常に闘っていたのだ。何ができるかを見せるためではなく、何ができないかを隠すために」としています(『心に響き合う読書案内』('09年/PHP新書)。この原作は、関川夏央氏の『新潮文庫20世紀の100冊』('09年/新潮新書)にも取り上げられている)。

愛を読む人 ウィンスレット.jpg こうした"秘密"を持つ女性を演じるのは難しいだろうなあと思いますが、それだけ魅力的でもあり、ケイト・ウィンスレット(1975年生まれ)はそこに上手く嵌ったように思います(ニコール・キッドマンが妊娠で降板し、当初の候補だったケイト・ウィンスレットが結局演じることになった)。ケイト・ウィンスレットは、この作品で「タイタニック」('97年)以来4度目のアカデミー賞主演女優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと6度目)にして、初の受賞を果たしています。「タイタニック」で共演したレオナルド・ディカプリオ(1974年生まれ)も、「レヴェナント:蘇えりし者」('15年)で4度目のアカデミー賞主演男優賞ノミネート(「助演賞」ノミネートを含むと5度目)にして初受賞していますが、若い頃から演技の天才などと呼ばれたレオナルド・デカプリオよりもケイト・ウィンスレットの方が受賞は7年早かったことになります。
  
タイタニック vhs.jpgタイタニック.jpg 「タイタニック」でケイト・ウィンスレット演じるローズは1等客室の客、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックは3等客室の客でした。「船」って階層社会の縮図だなあと思いました(それは現在の豪華クルーズ船の旅などでも同じかも)。階級差を超えた恋という定番の設定ですが、意外と感情移入できたのは、振り返ってみれば二人の演技がしっかりしていたのかもしれません。個人的には、昔、八戸と苫小牧間のフェリーで1等の個室部屋がとれなくて2等の部屋に雑魚寝部屋にいったん入ったのを思い出しました。すぐに1等のキャンセル待ちに並んで、窓ありの個室部屋に移りましたが、やはり天と地の差があったなあ(笑)。学生時代は、雑魚寝部屋で伊豆大島に行ったりしていましたが、その頃は全然抵抗なかったけれど...。

 「タイタニック」の興行収入は、全米で6.6億ドル、日本で262.0億円(配給収入160.0億円)、全世界で21.9億ドルに達し、「ジュラシック・パーク」('93年)を抜いて当時の世界最高興行収入を記録し、この記録は同じジェームズ・キャメロン監督作品の「アバター」('09年)に抜かれるまで保持され、日本でも「もののけ姫」('97年)を抜いて日本歴代興行収入記録を更新し、「千と千尋の神隠し」('01年)に抜かれるまで記録を保持していました。逆に、これほどヒットすると劇場に観に行かなかったりして、結「アビス」00.jpg局ビデオで観てしまいましたが、「タイタニック」の監督と言うより「アビス」('89年)の監督によるCG映画だと思って軽く見ていました(「アビス」は海洋SFだが、夫婦愛がテーマのひとつになっている。なのに、キャメロン監督はこの映画の撮影中に、製作者で妻でもあるゲイル・アン・ハードと離婚したという皮肉。'89年公開作に30分の未公開部分を付加した完全版も観たが、話題になっていた大津波来襲のSFXはイマイチ。メッセージ性が前面に出た分だけ説教臭くなったし、いずれにせよ、異星人の船は海底から浮上させない方が良かった)。

アバター.jpg それが、さほど期待していなかった「アバター」を実際観てみると、結構ドラマ部分もしっかりしていて、事前の予想よりも良かったです。主人公のジェイク・サリー(サム・ワーシントン)は、アバターと一体化し、先住民族であるナヴィの一員として彼らの地パンドラで生きることを選びますが、ああ、これって、ケビン・コスナーが監督し、自身で主演した「ダンス・ウィズ・ウルブズ」('90年)年と同じで、「こちら側」にいた人間が「あちら側」の世界と接し、最後はあちら側に行く話だなあと思いました。ネットで調べたら、大筋には共通点があるとの見方が幾つか見ダンス・ウィズ・ウルブズ 1990.jpgダンス・ウィズ・ウルブズ22.jpg受けられ、「『アバター』では,『ダンス・ウィズ・ウルブズ』と同様の方法によって観客の評価や解釈が誘導されます」とする大学の先生の論考(神戸市外国語大学・山口治彦教授「談話研究室にようこそ―第56回 『アバター』における観客の誘導」)もあって、自らも納得しました。「ダンス・ウィズ・ウルブズ」もいい映画ですので(「アカデミー作品賞」「ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)」「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞」の各「作品賞」などを受賞)、未見の人は観比べてみるのもいいかと思います(「アバター」162分、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」181分(オリジナル版)とそれぞれやや長めだが)。
  
  
愛を読むひig.jpg「愛を読むひと」●原題:THE READER●制作年:2008年●制作国:アメリカ・ドイツ●監督:スティーブン・ダルドリー●製作:アンソニー・ミンゲラ/シドニー・ポラック/ドナ・ジグリオッティ/レッドモンド・モリス●脚本:デヴィッド・ヘアー●撮影:クリス・メンゲス●音楽:ニコ・マーリー●原作:ベルンハルト・シュリンク「朗読者」●時間:124分●出演:ケイト・ウィンスレット/レイフ・ファインズ/ダフィット・クロス/ブルーノ・ガンツ/レナ・オリン/アレクサンドラ・マリア・ララ/ハンナー・ヘルツシュプルング/ズザンネ・ロータ●日本公開:2009/06●配給:ショウゲート●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(17-09-19)(評価★★★★)

ブルーノ・ガンツ in「ヒトラー~最期の12日間~」('04年)/「愛を読むひと」('08年)
「ヒトラー」ガンツ.gif ガンツ the reader.jpg

タイタニック (1997年3.jpgタイタニック (1997年0.jpg「タイタニック」●原題:TITANIC●制作年:1997年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:ラッセタイタニック (1997年2.jpgル・カーペンター●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:セリーヌ・ディオン「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」●時間:194分●出演:レオナルド・ディカプリオ/ケイト・ウィンスレット/ビリー・ゼイン /デビッド・ワーナー/フランシス・フィッシャー/ダニー・ヌッチ/ジェイソン・ベリタイタニック (1997年1.jpgー/エイミー・ガイバ/ビル・パクストン/グロリア・スチュアータイタニック3.jpgト/スージー・エイミス/ルイス・アバナシー/キャシー・ベイツ/バーナード・ヒル /ジョナサン・ハイド/ヴィクター・ガーバー/マーク・リンゼイ・チャップマン/ヨアン・グリフィズ/エドワード・フレッチャー /エリック・ブレーデン/マイケル・エンサイン/バーナード・フォックス●日本公開:1997/12●配給:20世紀フォックス(評価★★★★)
ケイト・ウィンスレット in「いつか晴れた日に」('95年)/「タイタニック」('97年)
いつか晴れた日に ケイト・ウィンスレット2.jpg 「タイタニック」デカプリオ・ウィンスレット.jpg

映画 アビス cg.jpg「アビス」●原題:THE ABYSS●制作エド・ハリス アビス.jpg年:1989年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ゲイル・アン・ハード●撮影:ミカエル・サロモン●音楽:アラン・シルヴェストリ●時間:140分(公開版)/171分(完全版)●出演:エド・ハリス/メアリー・エリザベス・マストラントニオ/マイケル・ビーン/レオ・バーメスター/トッド・グラフ//キ映画 アビス  last.jpgジョン・ベッドフォード・ロイド/J・C・クイン/キンバリー・スコッャプテン・キッド・ブリューワー/マイケル・ビーチ/ディック・ウォーロック/ジョージ・ロバート・クレック/クリス・エリオット/クリストファー・マーフィ/アダム・ネルスン/ジミー・レイ・ウィークス/J・ケネス・キャンベル/ケン・ジェンキンス/ピーター・ラトレイ/ジョー・ファーゴ●日本公開:1990/03●配給:20世紀フォックス映画(評価★★★)

アバター1.jpg「アバター」●原題:AVATAR●制作年:2009年●制作国:アメアバター2.jpgリカ●監督・脚本:ジェームズ・キャメロン●製作:ジェームズ・キャメロン/ジョン・ランドー●撮影:マウロ・フィオーレ●音楽:ジェームズ・ホーナー(主題歌:レオナ・ルイス「I See You」●時間:162分●出演:サム・ワーシントン/ゾーイ・サルダナ/シガニー・ウィーバー/ステアバター シガニーウィーバー.jpgアバター 2シガニーウィーバー.jpgィーヴン・ラング/ミシェル・ロドリゲス/ジョヴァンニ・リビシ/ジョエル・デヴィッド・ムーア/ディリープ・ラオ/ラズ・アロンソ/ウェス・ステュディ/CCH・パウンダー●日本公開:2009/12●配給:20世紀フォックス映画(評価★★★★)
シガニー・ウィーバー「アバター」(2009)(植物学者グレイス・オーガスティン博士)/「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」(2022)博士の娘キリ(14歳)、オーガスティン博士の2役

ダンス・ウィズ・ウルブズ 4.jpg「ダンス・ウィズ・ウルブズ」●原ダンス・ウィズ・ウルブズ 3.jpg題:DANCES WITH WOLVES●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督:ケビン・コスナー●製作:ケビン・コスナー/ジェイク・エバーツ●脚本:マイケル・ブレイク●撮影:ディーン・セムラー●音楽:ジョン・バリー●原作:マイケル・ブレイク●時間:181分(オリジナル版)/236分(完全版)●出演:ケビン・コスナー/メアリー・マクドネル/グラハム・グリーン/ロドニー・A・グラント/モーリー・チェイキン/ロバート・パストレリ/ラリー・ジョシュア/トム・エヴェレット●日本公開:1991/05●配給:東宝東和(評価★★★★)


朗読者 (Shinchosha CREST BOOKS)2.jpg新湯 朗読者.jpg朗読者 (Shinchosha CREST BOOKS).jpg
朗読者 (Shinchosha CREST BOOKS) 』['00年]
2025.6.7 蓼科新湯温泉にて

【2003年文庫化[新潮文庫]】

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