Recently in 小泉 悠 Category

「●まんが・アニメ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●日本のTV番組」 【1845】 円谷プロダクション 『円谷プロ全怪獣図鑑 
「●こ 小泉 悠」の インデックッスへ 「●文春新書」の インデックッスへ 「●宮崎 駿 監督作品」の インデックッスへ 「●日本のアニメーション映画」の インデックッスへ 「●久石 譲 音楽作品」の インデックッスへ(「紅の豚」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

率直に面白かった。「ゴジラ-1.0」は高評価。"虚構"と"現実"、戦争の本質は変わらない―。

ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」01.jpgゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」02.jpg ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」03.jpg 紅の豚 宮崎.jpg
ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」 (文春新書 1480)』['25年]「紅の豚 [DVD]
小泉悠氏/高橋杉雄氏/太田啓之氏/マライ・メントライン氏
ゴジラvs.自衛隊 アニメの「戦争論」04.jpg 東京大学先端科学技術研究センター准教授の小泉悠氏(1982年生まれ)、防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏(1972年生まれ)、朝日新聞記者の太田啓之氏(1964年生まれ)、独テレビ東京支局プロデューサーで「職業はドイツ人」を自称するマライ・メントライン氏(1982年生まれ)という4人がアニメ・特撮を語ったもの。今、小泉悠氏と高橋杉雄氏の対談と言えば、小泉氏の『終わらない戦争』('23年/文春新書)や高橋氏の『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか』('23年/文春新書)に見るようにウクライナ戦争になるわけですが、軍事の専門家に往々にして見られるように二人とも軍事・アニメオタクで、ここは忌憚なく自分の好きなん分野のことを語っているのがいいです(率直に面白かった)。

「ゴジラ-1.0」[.jpg 個人的には、小泉氏、高橋氏、太田氏の第2章「ゴジラvs.自衛隊」が読みどころでした。この章だけはアニメ論というよりゴジラ論ですが、タイトルの前半分を占めるだけのことはあります。3人とも「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」('23年/東宝) の評価が高いですが、冒頭に出てくる零戦の脚の開き方だけで興奮してOK出ししているのが面白いです。ただし、「ゴジラ-1.0」に関しては、ドラマ部分の分析・評価も、そこらの中途半端な映画評論より深いです。話は、なぜ米ソはゴジラと戦わず、相手はいつも自衛隊なのかといった国際政治論から、ゴジラを倒すにはどうしたらよいかといった戦術論にまで及び、こういった対戦や戦いが観たいという希望もどんどん入ってきます。そして最後は、ゴジラはなぜ「畏きあたり」を狙わないのかと。確かに!(小泉氏の「朕・ゴジラ」には笑った。言われてみれば、確かにゴジラはいつも皇居をよけて通る)。

On Your Mark0.jpg 小泉氏、高橋氏、太田氏の第1章「アニメの戦争と兵器」で、太田氏が宮崎駿監督のセリフ無しの約6分半の短編アニメ「On Your Mark」('95年/東宝)を取り上げていますが、「95年年7月公開なのに、ほとんどオウムみたいな新興宗教のアジトに警官隊が乗り込んで、虐殺するってところから始まりますから。宮崎さんこんなやばいの作るんだ」と思ったと。まさに時代を反映していたのだなあ。結末が翼を持つ妖精っぽい少女が救われるものだったので、あまり前の方の暗いイメージが残らなかったけれど、今思えばあの少女は《教団二世》で、テーマは彼女の《真の救済》だったということでしょうか。紅の豚5.jpg宮崎アニメについては、第4章「宮崎駿のメカ偏愛」でも触れていますが、個人的には「紅の豚」('92年/東宝)とかをもっと語って欲しかったけれども、あれは飛行機乗りの話だけれども戦争アニメではないということでしょう。「ルパン三世~カリオストロの城」('79年/東宝)、「風の谷のナウシカ」('84年/東宝)などでアニメ映画界の頂点に立った宮崎駿監督の6本目の長編アニメ作品で、個人的には宮崎駿監督作品の中でも好きな方なのですが(久石譲のピアノがいい。声優の森山周一郎、加藤登紀子らも。評価は★★★★)、宮崎駿監督はあの映画を「疲れて脳細胞が豆腐になった中紅の豚6.jpg年男のためのマンガ映画」と定義しています(自分が観たのは中年になりかけの頃か(笑))。因みに、Wikipediaによれば、脚本家の會川昇、映画監督でアニメーション演出家の押井守、おたく評論家の岡田斗司夫の3氏ともこの作品に対して批判的です(會川昇氏が指摘するように、最後はキャラクター同士に殴り合いさせることで戦争を回避しているともとれる。確かに甘いっちゃ甘いが、観ている側の方の"疲れて豆腐になった脳細胞"にはちょうど良かったかもしれず(笑)個人的評価は変えないでおく)。
 
新世紀エヴァンゲリオン1.jpg 共に80年代生まれの小泉氏とマライ・メントライン氏が第3章「日独『エヴァンゲリオン』オタク対決」で対決し、さらに第5章「『エヴァンゲリオン』の戦争論」で高橋氏、太田氏が加わって、全体として「機動戦士ガンダム」より「新世紀エヴァンゲリオン」の方がやや比重がかかっているでしょうか(もちろん「宇宙戦艦ヤマト」なども出てくるが、「ヤマト・ガンダム世代」は太田氏のみか)。第6章「佐藤大輔とドローンの戦争」がある意味いちばん戦争論っぽいですが、佐藤大輔ってどれぐらい読まれているのでしょう。この辺りは狭く深いです。

 ということで、マニアック過ぎてついていけない部分もありましたが、版元の口上にもあるように、"虚構"と"現実"、戦争の本質は変わらない―ということを感じさせてくれる本でした。

SFアニメと戦争.jpgSFアニメと戦争.jpg 因みに、高橋杉雄氏は『SFアニメと戦争』('24年/辰巳出版)という本も出しており、その中で「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」「超時空要塞マクロス」「新世紀エヴァンゲリオン」などを取り上げながらも「機動戦士ガンダム」の富野由悠季監督との対談もあったりして、こっちでは相対的に「機動戦士ガンダム」に比重がかかっているのでしょうか? 読んでみようかな。


SFアニメと戦争』['24年]


 

「ゴジラ-1.0」2023.jpg「ゴジラ-1.0」1.jpg「ゴジラ-1.0(マイナスワン)」●英題:GODZILLA MINUS ONE●制作年:2023年●監督・脚本:山崎貴●監督・特技監督:山田兼司/岸田一晃/阿部豪/守屋圭一郎●撮影:柴崎幸三●音楽:佐藤直紀/伊福部昭●時間:125分●出演:神木隆之介/浜辺美波/山田裕貴/田中美央/遠藤雄弥/飯田基祐/永谷咲笑/須田邦裕/谷口翔太/鰐渕将市/三濃川陽介/日下部千太郎/赤妻洋貴/千葉誠太郎/持永雄恵/市川大貴/吉岡秀隆/藤田啓介/苅田裕介/松本誠/伊藤亜斗武/保里ゴメス/阿部翔平/仲城煎時/青木崇高/安藤サクラ/佐々木蔵之介●公開:2023/11●配給:東宝●最初に観た場所:TOHOシネマズ日本橋(23-12-20)(評価:★★★★)

宮崎駿監督作品 On Your Mark CHAGE&ASKA[][Laser Disc]
On Your Mark.jpgOn Your Mark3.jpgOn Your Mark1.jpg「On Your Mark」●制作年:1995年●監督・脚本・原作:宮崎駿●製作:Real Cast Inc.(制作はスタジオジブリ)●撮影:奥井敦●音楽:飛鳥涼(主題歌:CHAGE&ASKA「On Your Mark」●時間:6分48秒●公開:1995/07●配給:東宝(評価:★★★☆)

ジブリがいっぱいショートショート.jpgジブリがいっぱいSPECIAL ショートショート 1992-2016 [DVD]

紅の豚 [DVD]
紅の豚 宮崎.jpg紅の豚 宮崎01.jpg紅の豚 宮崎05.jpg「紅の豚」●制作年:1992年●監督・脚本・原作:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:加藤登紀子「さくらんぼの実る頃」)●時間:93分●出演(声):森山周一郎/古本新之輔/加藤登紀子/岡村明美/桂三枝/上條恒彦/大塚明夫/関弘子/稲垣雅之●公開:1992/07●配給:東宝(評価:★★★★)

《読書MEMO》
●目次
はじめに 小泉悠
第1章 アニメの戦争と兵器
小泉悠(東京大学准教授) 
高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長) 
太田啓之(朝日新聞記者)
 『宇宙戦艦ヤマト』の多層式空母と空母「赤城」/ザクしか出すつもりがなかった『ガンダム』のリアリティ/冷戦期のソ連の設計局は仲が悪いだけ/『パトレイバー2』のGCIとの通信シーンのリアル/トルメキアのバカガラスはMe-321ギガント/「イングラム」ナンバープレートとペイントの日常との地続き感/軍が民間人を守る話の魅力/「バカメと言ってやれ!」はバストーニュの「Nuts!」がモデル/『新世紀エヴァンゲリオン』のソ連の存在感/『エヴァ』と終末論/『この世界の片隅に』の片渕須直と宮崎駿/『王立宇宙軍』を子どもに観せたら奥さんに怒られた
第2章 ゴジラvs.自衛隊 
小泉悠 高橋杉雄 太田啓之
 零戦の脚だけで大興奮/16インチ砲ならゴジラに勝てるのか!?/ゴジラを生き物としてリアルに描くと怖くなくなっていく/ゴジラは水圧で死ぬようなタマじゃない/ゴジラ対戦艦「大和」/震電の脱出装置にオタクはみんな気づいていた!?/「高雄」型重巡4隻で巡洋艦戦隊を組んでゴジラに勝つ/ファンタジーに向かう段取りが「リアル」を生む/無人在来線爆弾とソ連原潜の戦略的共通点/アメリカはどんな悪役にしてもOK?/ゴジラは榴弾砲でアウトレンジして倒すべし
第3章 日独『エヴァンゲリオン』オタク対決
小泉悠 マライ・メントライン(職業はドイツ人)
 『エヴァ』は両親に見られたらマズい!?/ロシア人は「早くエヴァに乗れや!」と銃を突きつける/「脳内ドイツ」を生ドイツ人に肯定してもらう/じつはドイツ語をしゃべれなかったアスカ/ゼンガーの宇宙爆撃機のガンギマっている感じ/ソ連萌えと人類補完計画/『新劇場版』でアスカがドイツ語をしゃべってくれない!?/ショルツ首相の黒い眼帯は中二病/アスカのドイツ語はかなり変
第4章 宮崎駿のメカ偏愛
小泉悠 高橋杉雄 太田啓之 ゲスト 大森記詩(彫刻家)
 宮崎駿は黄海海戦を映像化したかった/「ガンシップ」の燃料は水!?/「車輪が付いた飛行機出さねぇぞ」みたいな謎のこだわり/機体は汚れているほうがかっこいい/「鳥」は宮崎駿の飛行機の原点/宮崎作品とタバコとロシア人の倫理観/80年前のナチスドイツの超技術/アメリカ人には「連続モノアニメ」という概念がなかった/「トゥールハンマー」「グランドキャノン」「ソーラ・レイ」......巨砲兵器の戦場/宇宙ではチョークポイントがないと戦争が発生しない
第5章 『エヴァンゲリオン』の戦争論
小泉悠 高橋杉雄 太田啓之 マライ・メントライン ゲスト 神島大輔(マライの夫)
 宮崎駿の『雑想ノート』でデートの約束/『エヴァ』が嫌いで大好き/日本の国歌『残酷な天使のテーゼ』/パパと一緒に「松」型駆逐艦を作ろう/小泉さんはアスカがお好き/『エヴァ』の兵器の使い方は特撮/『ゴジラ−1.0』と『シン・ゴジラ』のフェチの差/アスカがリアルヨーロッパ人だったら?/ドイツ人は効率重視で人類補完計画に賛同する!?
第6章 佐藤大輔とドローンの戦争
小泉悠 高橋杉雄
 佐藤大輔『遙かなる星』は完結している!?/"冷戦"に持っていた憧憬/佐藤大輔とアメリカとバブル日本/『クレヨンしんちゃん』の自衛隊考証がすごい/二足歩行ロボットは格闘戦で使うべし/『ガンダム』世界の階級は  テキトー!?/今のXのトレンドが、まるで90年代アニメみたい/自衛隊が反乱する可能性/ ChatGPT の哲学的ゾンビ問題/プーチンの補佐官が書いた小説で見えた未来
おわりに 小泉悠

「●国際(海外)問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3513】 宮田 律 『ガザ紛争の正体
「●こ 小泉 悠」の インデックッスへ 「●文春新書」の インデックッスへ

なぜ長引くのか、終わらせることはできるのかを問うた対談集。

終わらない戦争.jpg 小泉 悠.jpg ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか.jpg
終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来 (文春新書 1419) 』['23年] 小泉 悠 氏(東京大学 先端科学技術研究センター准教授) 『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか デジタル時代の総力戦 (文春新書 1404)』['23年]
ウクライナ戦争の200日 (文春新書 1378) 』['22年]
ウクライナ戦争の200日.jpg ウクライナ戦争の情勢分析で定評があり、メディアへの露出も多い小泉悠氏の本ですが、前著『ウクライナ戦争の200日』('22年9月/文春新書)同様に対談集で、3人の識者との対談が6本収められています。2022年2月24日のロシアによるウクライナへの本格的な軍事侵攻から始まった戦争から200日を過ぎ、さらに500日が過ぎるまでの期間の対談集で、当初は『ウクライナ戦争の500日』というタイトルにするつもりだったのが、500日を過ぎても停戦の気配がないため、このようなタイトルになったようです。

小泉悠×千々和泰明が.jpg 第Ⅰ章「ウクライナ戦争を終わらせることはできるのか」は、防衛研究所の千々和泰明・主任研究官との、「文藝春秋ウェビナー」での対談「なぜ太平洋戦争の"終戦"は特殊だったのか」(2022年9月9日)を活字化したもの。朝鮮戦争など二十世紀以降の主要な戦争終結をヒントに、ウクライナ戦争の「出口戦略」を考えていますが、「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」という戦争終結の二つの極のどちらも困難さを孕むとし、「現在の犠牲」と「将来の危機」のどちらを取ってっも、双方はなかなか武器を置けないだろうと。また、日本の安全保障(これは小泉氏の継続的な講演テーマでもある)をどう考えるかにも言及しています。

プーチンと習近平.jpg 第Ⅱ章「プーチンと習近平の急所はどこにあるのか?」は、中国研究が専門の法政大学の熊倉潤教授との「中央公論」(2023年3月号)での対話で、戦争の長期化はプーチン政権に打撃を与えるのか、中露の権威主義体制の比較をもとに検討したもので、小泉氏が「今回の戦争で、仮にクーデターが起きてプーチンが排除されたとしても、それはあまり解決にならないと思っているんです。先に触れたように、プーチンはロシア社会の中から出てきた存在ですから、プーチンがいなくなっても今のロシアは変わらないと思います。」(p58)と述べているのが興味深いです。

小泉悠×高橋杉雄.jpg 第Ⅲ章「ウクライナ戦争「超精密解説」」、第Ⅳ章「逆襲のウクライナ」、第Ⅴ章「戦線は動くのか 反転攻勢のウクライナ、バイタリティ低下のプーチン」、第Ⅵ章「戦争の四年目が見えてきた」は、防衛研究所の高橋杉雄氏との対談で、2023年春から夏にかけて4回にわたり行われたもの(第Ⅲ章、第Ⅳ章、第Ⅴ章はそれぞれ「文藝春秋」2023年5月号7月号、8月号に掲載のものを加筆修正、第Ⅵ章は「文藝春秋ウェビナー」での対話「ウクライナ侵攻『超マニアック』戦場・戦術解説⑥」(2023年7月25日)を活字化したもの)。焦点化するバフムトの戦い、プリゴジンの存在感(ワグネルの反乱)、2023年6月に始まったウクライナの反攻など、この時期における戦争のタイムラインとして読め、「激しくも停滞した戦争」という印象は、現在(2024年7月)まで続いているように思います。

 因みに、本書刊行準備中の2023年8月23日、モスクワ北西部のトヴェリ州で墜落したビジネスジェットの乗客名簿にプリゴジンの名前があったことは周知の事実で、このことは、「プリゴジンは大衆人気が高いので、なかなか手が出せない」という小泉悠氏の言葉の後に「註」として付記されています(さすがに"暗殺"までは読めなかったか)。

Su-34.jpg あとがきに、自分は「我々が目指すべき秩序、とかいう話」よりは「シリアに派遣された『Su-34』は迷彩が褐色していてかっこいいですねグフフ」みたいなことばっかり言っている人間で「高邁な話には適任ではない」としていますが、こうした兵器オタク的な気質を隠さないところにも、この人の人気の秘密があるのかも(同じくオタク気質の高橋杉雄氏との対談で、パトレイバー、エヴァ、ナウシカ、ガンダム、ヤマトといったアニメや戦争の中の「戦争と兵器」を論じてもいる)。
ロシア軍Su-34戦闘爆撃機


小泉・高橋.jpg 『ウクライナ戦争の200日』からのメインの対談相手で、今回も対談の半分以上を占める高橋杉雄氏もメディアの露出が多いですが(二人ともBSフジの「プライムニュース」でよく見かけたが、高橋杉雄氏はその後防衛本省との併任となった関係でメディア露出を控えるようになり、小泉悠氏との対談もこれ(『終わらない戦』第Ⅵ章)が最後となった)、その高橋氏は本書に先行して『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか―デジタル時代の総力戦』('23年6月/文春新書)を出しており、こちらは共著で、下記の通り第2章から第4章はそれぞれ、笹川平和財団の福田純一・主任研究員、防衛研究所の福島康仁・主任研究官、中曽根康弘世界平和研究所の大澤淳・主任研究員が担当しています。

 第1章 ロシア・ウクライナ戦争はなぜ始まったのか 高橋杉雄
 第2章 ロシア・ウクライナ戦争―その抑止破綻から台湾海峡有事に何を学べるか 福田潤一
 第3章 宇宙領域からみたロシア・ウクライナ戦争 福島康仁
 第4章 新領域における戦い方の将来像―ロシア・ウクライナ戦争から見るハイブリッド戦争の新局面 大澤淳
 第5章 ロシア・ウクライナ戦争の終わらせ方 高橋杉雄
 終 章 日本人が考えるべきこと       高橋杉雄

 両著に共通しているのは、この戦争が「国家のアイデンティティーを巡る対立」であるということで、『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか』の方は、この戦争を「デジタル時代の総力戦」とし、ハイブリッド戦争として捉えている傾向が強いように思いました。ただ、その点は多くの論者が述べていることでもあり、むしろ小泉悠氏がこの戦争を「古い戦争」と捉えていることがユニークで、それがまた本質を突いているように思います(単なるオタクではない)。(●「古い戦争」であることを象徴するような報道があった。[下記])

《読書MEMO》
ロシア軍のオートバイ大集団が肉弾突撃、19台爆破され血の海に(2024.07.04 Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) )
ロシア軍はウクライナで装甲車両を大量に失っており、その数はウクライナ国防省の発表に従えば戦車以外の装甲戦闘車両だけで1万6000両近くにのぼる。その補充に苦労しているロシア軍はこの春、窮余の一策として突撃部隊に安価なオフロードバイクを配備し始めた。
ロシアがウクライナで拡大して2年4カ月あまりたつ戦争のおよそ1000kmにおよぶ戦線で、ウクライナ側は小型の自爆ドローン(無人機)を1日に何千機と投入している。ロシア軍の思いついたアイデアは、兵士をオートバイですばやく移動させれば、自爆ドローンの攻撃を浴びる前に目的地点までたどり着けるのではないか、というものだった。
この戦術は功を奏することもある。ロシア軍は、5月9日にウクライナ北東部で始めた新たな攻勢では国境から数kmの小都市ボウチャンシクですぐに失速することになったが、この間、ほかのいくつかの正面では数km前進を遂げている。現在、ウクライナに展開しているロシア軍の兵力は50万人近くにのぼる。
しかし、たいていの場合、オートバイによる突撃はうまくいかない。これは、第一次大戦中や戦間期に突撃バイクを試験した欧州各国の軍隊にとっては驚くような結果ではないだろう。
オードバイ突撃はそれどころか、ロシア兵の血の海になることもある。6月28日、数十台規模とみられる突撃バイクの大集団が、ウクライナ東部ドネツク州南部の小都市ブフレダルでウクライナ軍の第72独立機械化旅団を攻撃した。
ロシアの戦争特派員アレクサンドル・スラドコフによれば、作戦の目的は、ウクライナ側の陣地の背後に回り込み、孤立化させることだった。攻撃前にスラドコフは「ウクライナ側に背後から、より正確に言えば後方から打撃を加えることが計画されている」と報告していた。
だが、それは実現しなかった。オートバイのほか、T-80戦車を含む装甲車両からなるロシア軍の車列をウクライナ側はドローンなどで攻撃した。ミサイルや大砲も使われたもようだ。地雷も破壊に一役買ったのかもしれない。
煙が晴れると、残されていたのは残骸と死体の山だった。第72旅団は、ロシア側の戦車16両、それ以外の戦闘車両34両、オートバイ19台などを撃破し、人員800人あまりを死傷させたと主張している。

「●国際(海外)問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3504】 岩波ジュニア新書編集部 『10代が考えるウクライナ戦争
「●こ 小泉 悠」の インデックッスへ 「●ちくま新書」の インデックッスへ 「●「新書大賞」(第10位まで)」の インデックッスへ

今回の戦争を俯瞰するには良い。「古い戦争」であるとの指摘がユニーク。

ウクライナ戦争 (ちくま新書 1697).jpg小泉悠.jpg 小泉 悠 氏 講演中の小泉 悠 氏.jpg 講演・質疑応答中の小泉氏('24.7.10 学士会館)講演テーマ「ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障」
ウクライナ戦争 (ちくま新書 1697)』['22年]

 2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、ウクライナ戦争が始まりました。同年11月刊行の本書は、今やマスコミ・講演会等で引っ張りだこの軍事研究者(自分も来月['24年7月]その講演を聴きに行く予定)が、このウクライナ戦争について'22年末に書き下ろしたものです(本書では、2014年3月のロシアによるクリミア侵攻を「第一次ウクライナ戦争」とし、今回の侵攻を「第二次ウクライナ戦争」としている)。2024(令和6)年・第17回 「新書大賞」第8位。

 第1章(2021年1月~5月)で2021年春の軍事的危機を扱い、第2章(2021年9月~2022年2月21日)で開戦前夜の状況を振り返って、戦争への道がどのように展開していったかを解説しています。

 第3章(2022年2月24日~7月)で開戦からロシアの「特別軍事作戦」がどのように進行したかを、第4章(2022年8月~)で本書脱稿の2022年9月末まで、戦況がどのように推移していったか、そこで鍵を握った要素は何であったかを分析しています。

 そして第5章では、この戦争をどう理解すべきか、この戦争の原因なども含め考察しています。

 このように、開戦前の状況を含め、開戦から半年後までのウクライナ情勢が良くまとめられており、開戦から2年強を経た今見返すと、今回の戦争というものをある程度〈体系的〉に把握できます。今回の戦争を俯瞰するには良い本だと思います。

プーチン.jpg 読んでみて思ったのは、これはやはりプーチンが起こした戦争であるということ、また、いろいろな不確定要素(特にアメリカの姿勢など)があり、先を読むのが難しいということです。

 興味深いのは、世間ではこの戦争は、戦場での戦いと「戦場の外部」をめぐる戦い(非正規戦、サイバー戦、情報戦)が組み合わさった「ハイブリッド戦争」であると言われているが、戦争自体は、極めて古典的な様相を呈する「古い戦争」であるとしている点です。

 無人航空機などのハイテク技術は使われているものの、戦争全体の趨勢に大きな影響を及ぼしたのは、侵略に対するウクライナ国民の抗戦意識、兵力の動員能力、火力の多寡といった古典的要素だとしています。

 そうなると、なおさらのこと、NATOやアメリカの、この戦争に対する関わり方というのがかなり今後の戦況に影響を及ぼすのではないかとも思います(結局、「戦場の外部」の概念を拡げれば、広い意味での「ハイブリッド戦争」ということにもなるか)。

ドナルド・トランプ.jpg 因みに、ドナルド・トランプは、今年['24年]11月のアメリカ大統領選に向けたテレビ討論会では、「これは決して始まってはならなかった戦争だ」と言い、ロシアのプーチン大統領の尊敬される「本物の米大統領」がいれば、プーチン氏は開戦しなかったとして、ウクライナ危機はバイデン氏の責任だとする一方、ウクライナのゼレンスキー大統領を「史上最高のセールスマン」と述べ、米国はウクライナに巨額の資金を費やしすぎだとし、自らが当選すれば、大統領に就任する前に、戦争を止めてみせると豪語しています(これまた大風呂敷のように思える)。

About this Archive

This page is an archive of recent entries in the 小泉 悠 category.

アガサ・クリスティ is the previous category.

小出 裕章 is the next category.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1