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「東京物語」「雨月物語」を抑えてキネマ旬報ベスト・テン第1位に輝いた作品。

にごりえ 1953.jpgにごりえt1.jpg にごりえt2.jpg にごりえ・たけくらべ (新潮文庫).jpg
独立プロ名画特選 にごりえ [DVD]」『にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)』(にごりえ・十三夜・たけくらべ・大つごもり・ゆく雲・うつせみ・われから・わかれ道)

 1953年公開の文学座・新世紀映画社製作、今井正(1912-1991)監督作で、樋口一葉の短編小説「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」の3編を原作とするオムニバス映画です。

十三夜
大つごもり・十三夜 (岩波文庫.jpgにごりえ1 - コピー.jpg 夫の仕打ちに耐えかね、せき(丹阿弥谷津子)が実家に戻ってくる。話を聞いた母(田村秋子)は憤慨し出戻りを許すが、父(三津田健)は、子供と別れて実家で泣き暮らすなら夫のもとで泣き暮らすのも同じと諭し、車屋を呼んで、夜道を帰す。しばらく行くと車屋が突然「これ以上引くのが嫌になったから降りてくれ」と言いだす。月夜の明かりで顔がのぞくと、それは幼なじみの録之助(芥川比呂志)だった―。
大つごもり・十三夜 (岩波文庫 緑 25-2)

大つごもり
にごりえ 2 - コピー.jpg 女中・みね(久我美子)は、育ててくれた養父母(中村伸郎・荒木道子)に頼まれ、奉公先の女主人・あや(長岡輝子)に借金2円を申し込む。約束の大みそかの日、あやはそんな話は聞いていないと突っぱね、急用で出かけてしまう。ちょうどその時、当家に20円の入金があり、みねはこの金を茶の間の小箱に入れておくように頼まれる。茶の間では放蕩息子の若旦那・石之助(仲谷昇)が昼寝をしていたが、思いあぐねたみねは、小箱から黙って2円を持ち出し、訪ねてきた養母に渡してしまう。主人の嘉兵衛(竜岡晋)が戻ると、石之助は金を無心し始める。あやは、50円を石之助に渡して追い払う。その夜、主人夫婦は金勘定を始め、茶の間の小箱をみねに持ってこさせる。みねが自分が2円持ちだしたことを言いだせないまま、あやが引き出しを開けると―。

にごりえ
にごりえ  3- コピー.jpg 銘酒屋「菊乃井」の人気酌婦・お力(淡島千景)に付きまとう源七(宮口精二)は、かつてお力に入れ上げた挙句、仕事が疎かになって落ちぶれ、妻(杉村春子)と子(松山省二)と長屋住まいしている。お力とにごりえ たけくらべ 岩波.jpg別れてもなお忘れられず、仕事は身が入らず、妻には毎日愚痴をこぼされ、責められる日々だった。お力も一度は惚れた男の惨状を知るゆえに、鬱鬱とした日を送り、店にやって来て客となった朝之助(山村聰)に、自身の生い立ちなどを打ち明ける。ある日、源七の子が菓子を持って家に帰る。お力にもらった菓子と知り、妻は怒り、子を連れて家を出る。妻が戻ってみると源七の姿がない。菊乃井でもお力が行方不明で騒ぎになっていた―。
にごりえ・たけくらべ (岩波文庫 緑25-1)

 1953年度・第27回キネマ旬報ベスト・テンの第1位に輝いた作品で、この年の同ベスト・テン第2位が小津安二郎監督の「東京物語」で第3位が溝口健二「雨月物語」ですから、考えてみたらスゴイことです(因みにこの年は、4位以下も「煙突の見える場所」「あにいもうと」「日本の悲劇」「ひめゆりの塔」「」などの傑作揃い)。

映画「小林多喜二」.png 製作が文学座で、監督が「小林多喜二」('74年/多喜二プロ)などを撮っている今井正となると左翼系的な色合いを感じるかもしれませんが、今井正監督が樋口一葉の原作に何か手を加えたわけではなく、忠実に原作を映像として再現しています。それでいて、プロレタリア文学的な雰囲気を醸すのは、3作とも「貧困」がモチーフになっているからでしょう。また、そこには、樋口一葉の市井の人々への共感があり、実際に見聞きしたことを素材にして書いていることによるリアリズムがあるかと思います。
  
511にごりえ.jpg 原作の、ああ、実際こういうことがあったかもしれないなあ、と思わせるような感覚が、原作を忠実に再現することで映画でも生かされて、それが高い評価につながったのではないかと思います。ただし、時間が経つと、これって、そもそも原作の良さに負うところが大きいね、ということで、後に、「東京物語」や「雨月物語」ほどには注目されなくなったのではないでしょうか。でも、イタリア映画におけるネオ・リアリズムの影響を受けたという今井正監督ならではのいい映画だと思います。《十三夜》

にごりえ 映画 大つごもり.jpg 最近の映画では再現不可能な明治の雰囲気を濃厚に映し出している作品であるとともに、文学座の俳優が(ノンクレジットも含め)多数出演しているため、誰がどこにどんな役で出ているかを見るのも楽しい映画です。《大つごもり》

《にごりえ》
にごりえages.jpg「にごりえ」●制作年:1953年●監督:今井正●製作:伊藤武郎●脚本:水木洋子/井手俊郎●撮影:中尾駿一郎●音楽:團伊玖磨●原作:樋口一葉『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』●時間:130分●出演:《十三夜》田村秋子/丹阿弥谷津子/三津田健/芥川比呂志/久門祐夫(ノンクレジット)《大つごもり》久我美子/中村伸郎/竜岡晋/長岡輝子/荒木道子/仲谷昇(山村石之助(ノンクレジット))/岸田今日子(山村家次女(ノンクレジット))/北村和夫(車夫(ノンクレジット))/河原崎次郎(従弟・三之助(ノンクレジット))《にごりえ》淡島千景/杉村春子/賀原夏子/南美江/北城真記子/文野朋子/山村聰/宮口精二/十朱久雄/加藤武(ヤクザ(ノンクレジット))/加藤治子/松山省二/小池朝雄(女郎に絡む男(ノンクレジット))/神山繁 (ガラの悪い酔客(ノンクレジット))●公開:1953/11●配給:松竹(評価:★★★★)

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夫婦の危機と再生。昭和サラリーマンの悲哀。小津にはこういう映画をもっと撮って欲しかった。

「早春」dvd.jpg 早春 (ラーメン.jpg 早春 dvd.jpg 早春 淡島千景 池部良.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 「早春」」岸恵子・池部良「早春 デジタル修復版 [DVD]」池部良・淡島千景  

早春 1956 通勤.jpg 杉山正二(池部良)は蒲田から丸ビルの会杜「東亜耐火煉瓦」に電車通勤するサラリーマンで、結婚後8年の妻昌子(淡島千景)とは、子供を疫痢で失って以来互いにしっくりいかないものを感じている。毎朝同じ電車に乗り合わせることから親しくなった通勤仲間に、青木(高橋貞二)、辻(諸角啓二郎)、野村(田中春男)たち、それに「キンギョ」という綽名の金子千代(岸惠子)がいて、正二は退社後は男仲間で麻雀にふけるのが日課のようになっていた。昌子は毎日の単調を紛らわすため、荏原中早春 1956.jpg延の実家に帰り、小さなおでん屋をやっている母のしげ(浦邊粂子)に愚痴をこぼしていた。杉山は、通勤仲間で日曜に江ノ島へハイキングに出かけたのを機に千代と急接近し、千代の誘惑に屈して一夜を共にしてしまう。それが他の仲間早春 (1956年の映画)awasihima.jpgに知れて、千代は仲間に吊し上げられ、その辛さを杉山の胸に縋って訴えるが、杉山はそれを持て余す。一方、夫と千代の秘密を見破った昌子は家を出る。その日、杉山は会社の同僚で前夜に見舞ったばかりの三浦(増田順二)の早春 池部良 笠智衆 山村聰.jpg死を聞かされ、サラリーマン人生に心から希望を託していた男だっただけに、その死は杉山に暗い影を落とす。仕事面でも家庭生活でも杉山はこの機会に立ち直りたいと思い、丁度話に出た岡山県三石の工場への転勤内示を受諾し、千代との関係を清算して田舎へ行くのもいいかもしれないと考える。一方、昌子は家を出て以来、旧友の婦人記者の富永栄(中北千枝子)のアパートに同居して、杉山からの電話にさえ出ようとしない。杉山は三石の工場に単身で赴任する途中に大津に寄り、仲人の小野寺(笠智衆)を訪ね助言を得る。山に囲まれた侘しい三石に着任して幾日目かの夕方、杉山が工場から下宿に帰ると―。

早春 1956 .jpg 小津安二郎監督の1956年監督作で、当時の若者向けに撮ったと言われているそうです。サラリーマンとして自宅と会社を往復するだけの生活だった杉山(池部良)が、ちょっとしたきっかけから通勤仲間の千代(岸恵子)と関係を持ってしまう、などといったことは今でもありそうですが、密会を重ねるうちに、二人の関係が社内で噂となり、(社内不倫ではないのに)同期社員らに詰問されてしまうというのは、昭和的かもしれません(今の若者はプライバシー問題を気にしてそこまでおせっかい焼かないのでは)。そもそも、通勤仲間でハイキングに行ったのが契機になったというのにも昭和的なものを感じます。

早春 岸恵子 池部良.jpg

 この映画には、もう一人、戦後のニュータイプの女性が出てきて、それは、昌子が家を出てそのアパートに駆け込んだ旧友の婦人記者(中北千枝子)で、夫に早く死なれて一人住まいを余儀なくされながらも、経済的には自立している女性です。基本的には"伝統的"な家庭女性と思われる昌子も、彼女のバイタリティに感化されてか、家を出てもそう暗くならず、杉山からの電話も出ようとしません。

 これらに比べると、杉山の方は、前夜に見舞ったばかりの会社の同僚に死なれるなどして、そこへ妻に出奔されて終始暗い感じ。更にそこへ、会社からの地方への転勤の打診といった具合に、内憂外患の状況に。もともと、大恋愛で結婚したらしい夫婦ですが、昌子が何年か前に産んだ子が死産だったこともあり、夫婦仲が淡泊になっていたところに、杉山の不倫問題があって(千代に「奥さん、怖い?」と訊かれて「ああ、怖い」と答えているのに不倫してしまった)、これはまさに離婚の危機と言えるでしょう。

 でも、家庭のことを考えながら、仕事のことも考えなければならないのがサラリーマン。杉山は今の会社で出世コースなのか、ゴルフをやる総務部長(中村伸郎)から声をかけられる存在です。一方、違った生き方をする人物もいて、それが会社の先輩で仲人もやってもらった小野寺(笠智衆)と同期の阿合(山村聰)で早春 山村聡.jpg早春 東野英治郎2.jpg、彼は会社を辞めて今は喫茶店・バーを経営していて(常連客に定年間際の東野英治郎!)、要するに「脱サラ」したのだと思われますが、会社一筋とは違った男の生き方もこの映画では見せています。

山村聰(杉山のかつての上司・阿合豊)/東野英治郎(阿合の店の客・服部東吉)/[下右]中村伸郎(杉山の会社の総務部長)

早春 1956 中村.jpg 興味深く観ることが出来ました。不倫を扱っていますが、最後はハッピーエンドというか「雨降って地固まる」と言えるのでは(そう言えば、「風の中の牝雞」('48年)も「お茶漬の味」('52年)も「雨降って地固まる)」的映画だった)。娘が嫁にいくかいかないかといった話よりは起伏があり、小津にはこういう作品をもっと撮って欲しかった気もします。興味深く観ることが出来た理由の一つとして、当時のサラリーマン事情がよく分かる映画だったということがあります。杉山の勤務する会社が丸ビルにあるということは、当時で言えば一流会社なのでしょう。杉山に転勤の内示が出てからほどなくして、複数名の労働組合の幹部が杉山のところへ来て「(転勤命令を)受けるかどうかよく考えて」とアドバ早春 池部良 笠智衆.jpgイスするというのにも時代を感じました(内示の段階で組合に知らされているのか?)。仲人をしてもらった人に人生相談するというのもある意味昭和的かも。

笠智衆(杉山の仲人・小野寺) 

 描写がしっかりしている小津映画を観るということは、「昭和」という時代を確認することにもなると思いますが、後期の作品は、家庭内のことはよく描かれているものの、会社のことは、この人たち(主に重役たち)仕事しているの? みたいな印象もあります。そうした中で、この作品は、昭和のサラリーマン悲哀物語とも言え(もちろん今のサラリーマンに通じるところもある)、小津映画の中ではちょっと面白い位置にあるように思います。

杉村春子(杉山家の隣人・田村たま子)   三井弘次・加東大介(杉山の戦友)
早春 杉村春子.jpg 早春 加東大介 三井弘次.jpg
宮口精二(たま子の夫・精一郎)      中村伸郎(総務部長)
早春宮口精二.jpg 早春 中村伸郎.jpg
岸惠子(「キンギョ」こと金子千代)
早春 岸恵子.jpg早春 (1956年の映画).jpg「早春」●制作年:1956年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎 ●撮影:‎厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:144分●出演:池部良/淡島千景/浦辺粂子/田浦正巳/宮口精二/杉村春子/岸惠子/高橋貞二/藤乃高子/笠智衆/山村聰/三宅邦子/織田順二/長岡輝子/東野英治郎/中北千枝子/加賀不二男/田中春男/糸川和広/長谷部朋香/諸角啓二郎/荻いく子/山本和子/中村伸郎/永井達郎/三井弘次/加東大介/菅原通済/村瀬禅/杉田弘子/山田好一/川口のぶ/竹田法一/島村俊雄/谷崎純/長谷部朋香/末永功/南郷佑児/佐々木恒子/千村洋子/佐原康/稲川善一/鬼笑介/今井健太郎/松野日出夫/峰久子/鈴木康之/叶多賀子/井上正彦/千葉晃/山本多美/太田千恵子/中山淳二●公開:1956/01●配給:松竹(評価:★★★★)

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新たに発見された続編と併せ、当初からストーリー性の高い構想だったのではないか。

夫婦善哉 決定版 新潮文庫.jpg夫婦善哉 (新潮文庫)旧.jpg 夫婦善哉 DVD.jpg 夫婦善哉 森繁久弥・淡島千景.jpg
夫婦善哉 決定版 (新潮文庫)』['16年]『夫婦善哉 (新潮文庫)』['50年/'00年改版]「夫婦善哉 [DVD]」淡島千景/森繁久彌
夫婦善哉19.JPG 大正時代の大阪。貧乏な天ぷらやの娘・蝶子は、17歳で芸者になり、陽気でお転婆な人気芸者に成長する。そして化粧問屋の若旦那・柳吉といい仲になり、駆け落ちをする。ところが熱海で関東大震災に出くわした二人は、大阪に戻り、黒門市場の裏路地の2階に間借り生活をはじめる。蝶子は職のない柳吉に代わり、ヤトナ芸者(コンパニオン)で稼ぎに出るが、柳吉はその金でカフェに出かけたりしていた。柳吉は実家の父親から勘当され、蝶子が苦労して貯めた金に手をつけて放蕩を繰り返す。蝶子はなんとか柳吉を一人前の男にして、実家から認めてもらおうと、商売を始める。剃刀屋、関東煮屋、果物屋、カフェなど転々と商売をするが、結局は柳吉の浪費で失敗に終わる。蝶子の苦労はなかなか報われず、柳吉も腎臓結石を患い、実家から廃嫡される。ある日、柳吉は蝶子を法善寺境内の「めおとぜんざい」に誘い、二人仲良くぜんざいをすする。蝶子はめっきり肥えて座布団が尻に隠れるほどになった―。(「夫婦善哉」)

 「夫婦善哉」は、織田作之助(1913-1947/33歳没)が1940(昭和15)年4月に同人雑誌「海風」に発表し、作者が世に出る契機となった作品です。新潮文庫の旧版(1950年刊)は、この他に「木の都」「六白金星」「アドバルーン」「世相」「競馬」の五編を所収していましたが、2007年に「続 夫婦善哉」の未発表原稿が発見されて刊行され(『夫婦善哉 完全版』雄松堂出版)、この文庫「決定版」は、旧版に「続 夫婦善哉」を加えたものです(新版の解説は石原千秋・早稲田大学教授だが、旧版の作家・青山光二の解説も載せている)。

映画 夫婦善哉0.jpg 「夫婦善哉」は、前記の通り、北新地の人気芸者で陽気なしっかり者の女・蝶子と、化粧問屋の若旦那で優柔不断な妻子持ちの男・柳吉が駆け落ちし、次々と商売を試みては失敗し、喧嘩しながらも別れずに一緒に生きてゆく内縁夫婦の物語であり、豊田四郎監督、森繁久彌、淡島千景主演の映画('55年/東宝)でも知られています。映画は森繁久彌主演ということもあって結構ユーモラスに描かれていますが、原作を読むと、見方によっては、頑張り屋の女性がダメ男に惚れたばっかりに、共に破滅に向かっていく、その予兆の部分まで描いた作品ととれなくもないように思いました。

「夫婦善哉」('55年/東宝)

 ところが、2007年に見つかった「続 夫婦善哉」では、二人は別府に渡り、そこで例のごとく商売を始め、前と同じく起伏がありながらも何とか見通しがついたところへ、隆吉の娘から、自分が結婚することになったので、二人で式に対会ってもらいたいとの速達が届く―という結末になっています(ハッピーエンドと言っていいのでは)。

夫婦善哉 映画 自殺未遂.jpg 実は、本編の終盤で、柳吉の父親が亡くなった際に、蝶子が葬式に出ることを実家から拒まれ、紋付を二人分用意していた蝶子は、いまだに隆吉の実家に自分が受け容れてもらえないのかと絶望し、ガス自殺未遂を起こすという事件があり(この事件は映画にも描かれて、原作同様に新聞記事になっている。この事件のため、柳吉は結局、父の位牌を持つことさえ許されなかったというのは映画のオリジナル)、こうしたことが、文学的には傑作だが、現実的に考えると、一人の女性が破滅に向かう話ともとれるのではないかと個人的に危惧するところであったのですが、ちゃんと話に続きがあって、前は「葬式に呼ばれなかった」けれど、今度は「結婚式に呼ばれる」という相対する結末が「続 夫婦善哉」には用意されていたのだなあと。

 決定版解説の石原千秋氏は、「夫婦善哉」を書いたのは私たちのイメージの中にある「織田作之助」その人であって、「続 夫婦善哉」を書いたのは、人間織田作之助であり、「夫婦善哉」には文学があって、「続 夫婦善哉」には織田作之助がいるとしていますが、なるほど、そうい夫婦ぜんざい.jpgう見方もあるのかなあと。ただし、旧版解説の青山光二(1913-2008)は、「結末のオチがうかばぬうちは作品を書き出さないというのが、短編小説の名手とされた織田作之助の基本的態度でもあった」としており、青山光二は、柳吉と蝶子が法善寺境内の「めおとぜんざい」に行き、二人でぜんざいを食べるという結末のイメージは早くから作者の頭の中にあったようだとしていますが、もしかしたら、更にその先までストーリーはできていたのかも、と思ってしまいます。
夫婦ぜんざい

 青山光二は、「若書きの『夫婦善哉』には、「文章に未熟な個所が目立ち、構成にも起伏が乏しい」といった弱点があるとしながらも、「この作品が今日まで多くの読者を獲得しつづけ、名品の風格さえ高いと思えるのは、題材と渾然たる調和をなす斬新な文体と、それによって一分の弛みもなく作品を支えている高度の緊張感、さらに作品の根底にある、作者の煮つまった情熱が、そくそくと伝わってきて、読者の心をうつからである」と評しています。

 確かに、戦後書かれた「世相」や「競馬」の方が、完成度自体は高いのかも。「世相」は作者の分身と思しき作家が世相を見ながら作品のネタを漁る、虚実皮膜譚のような構成でオチは無いのですが、真面目男がふとした契機から競馬に嵌ることになる「競馬」は、ストーリー性も高いように思います。ただし、「夫婦善哉」が「続 夫婦善哉」と当初からセットで構想されていたとしたら、ストーリー性においても後の作品と遜色なく、青山光二の言うように、「結末のオチがうかばぬうちは作品を書き出さない」というのは、デビュー当時からそうだったのではないかと思わせます。

 最初に読んだ時は、「世相」や「競馬」は「夫婦善哉」と並ぶ傑作だと思いましたが、読み返してみると、1940(昭和15)年の夏に(つまり「夫婦善哉」のすぐ後に)書かれた、作者と同じ六白水星の星まわりの少年・楢雄を主人公とする「六白水星」が傑作と言うか、愛おしい作品のように思えてきました(因みに、この作品は書いたときは発表が許されず、戦後に改稿して発表されている。織田作之助は、「夫婦善哉」の次作「青春の逆説」が発禁処分になっていて、このことはそのまま「世相」の中に話として出てくる)。「六白水星」は、何となくオチが無いように見えますが、読み返してみると、青山光二の言うように、「結末のオチがうかばぬうちは作品を書き出さない」という法則が当て嵌まるかのように、ラストが決まっているなあと思いました。

映画 夫婦善哉1.jpg 映画「夫婦善哉」は、森繁久彌演じる柳吉と淡島千景演じる蝶子が熱海の温泉旅館に駆け落ちと洒落込んだところへ関東大震災に見舞われるというのが出だしでしたが、森繁久彌のアドリブっぽい演技もあって(原作に無い台詞が結構あったように思う)ユーモラスに淡島千景 森繁久彌 夫婦善哉.jpg描かれていたし、あの映画で一番気持ちがいいのは、淡島千景演じる蝶子が、「あの人を一人前の男に出世させたら、それで本望や」と言い切るところですが、原作ではこうした啖呵を切る場面はありません。

 淡島千景は、この作品の演技で1955年・第6回ブルーリボン賞・主演女優賞を受賞。デビュー作でいきなりブルーリボン賞・主演女優賞を受賞した渋谷実監督の「てんやわんや」('50年/松竹)に続く2度目の受賞で、1955年度(1956(昭和31)年)・第4回「菊池寛賞」も受賞しています。また、森繁久彌も1955年・第6回ブルーリボン賞・主演男優賞を初受賞、淡島千景とのコンビで、この作品以降、「駅前シリーズ」など多くの作品で夫婦役を演じることになります。
  
映画 夫婦善哉 awasima.jpg 淡島千景(1924-2012、享年87)は生涯を独身で通しています。森繁久彌(1913-2009、享年96)が生前に「ずっと手が出なかった」と語ったように、男性を寄せつけないオーラがあったそうです。映画は、豊田四郎監督とこの二人のコンビで「新・夫婦善哉」('63年/東宝)が作られただけでリメイク作品はありません。一方、1966年以降10回ほどTVドラマ化されていて、扇千景、中村玉緒、榊原るみ夫婦善哉 森山未來 尾野真千子.jpg、泉ピン子、森光子、浜木綿子、三林京子、黒木瞳、田中裕子、藤山直美らが蝶子(またはそれに相当する役)を演じていますが、淡島千景を超えるものはなかったとの世評のようです。2013年の織田作之助生誕100年を機に、新たに発見された続編を含む新解釈でNHKが初めてテレビドラマ化しています(全4回)。柳吉と蝶子は森山未來と尾野真千子が演じましたが、残念ながら未見です。どろっとした役を演じても透明感のあるのが淡島千景でしたが、尾野真千子はどこまでそれに迫れたのでしょうか。

NHK土曜ドラマ「夫婦善哉」(2013年)森山未來/尾野真千子
 
映画 夫婦善哉es.jpg映画 夫婦善哉ド.jpg「夫婦善哉」●制作年:1955年●監督:豊田四郎●製作:佐藤一郎●脚本:八住利雄●撮影:三浦光雄●音楽:團伊玖磨●原作:織田作之助●時間:121分●出演:森繁久彌/淡島千景/司葉子/浪花千栄子/小堀誠/田村楽太/三好栄子/森川佳子/山山茶花究 夫婦善哉.jpg茶花究/万代峰子●公開:1955/09●配給:東浪花千栄子 夫婦善哉.jpg宝●最初に観たふたりぼっちの物語.jpg場所:神保町シアター(14-01-18)(評価★★★★)
 
山茶花究/浪花千栄子

 
夫婦善哉 正続 他十二篇_.jpg織田作之助 (ちくま日本文学全集).jpg【1950年文庫化・2000年改版[新潮文庫(『夫婦善哉』)]/1993年再文庫化[ちくま文庫(『織田作之助 (ちくま日本文学全集)』)]/1999年再文庫化[講談社文芸文庫(『夫婦善哉』)]/2013年再文庫化[岩波文庫(『夫婦善哉 正続 他十二篇』)]/2013年再文庫化[実業之日本社文庫(『夫婦善哉・怖るべき女 - 無頼派作家の夜』)]】

夫婦善哉 正続 他十二篇 (岩波文庫)』['13年]/『織田作之助 (ちくま日本文学全集)』['93年](※「続 夫婦善哉」は所収しておらず)カバー絵:安野光雅   
    
夫婦善哉 (講談社文芸文庫) 文庫.jpg夫婦善哉 (講談社文芸文庫)』['99年]
「夫婦善哉」のほか、「放浪」「勧善懲悪」「六白金星」「アド・バルーン」、評論「可能性の文学」所収(※「続 夫婦善哉」は所収しておらず)

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当初画期的だったものが今やオーソドックスに。文庫1400ページが一気に読める面白さ。

赤穂浪士 改造社.jpg 赤穂浪士 大佛次郎 角川文庫.jpg 赤穂浪士 大佛次郎 新潮文庫.jpg
赤穂浪士 (上巻)』/『赤穂浪士〈上巻〉 (1961年) (角川文庫)』『赤穂浪士〈下巻〉 (1961年) (角川文庫)』/『赤穂浪士〈上〉 (新潮文庫)』『赤穂浪士〈下〉 (新潮文庫)
大佛次郎(1897-1973)
大佛次郎.jpg (上巻)元禄太平に勃発した浅野内匠頭の刃傷事件から、仇討ちに怯える上杉・吉良側の困惑、茶屋遊びに耽る大石内蔵助の心の内が、登場人物の内面に分け入った迫力ある筆致で描かれる。虚無的な浪人堀田隼人、怪盗蜘蛛の陣十郎、謎の女お仙ら、魅力的な人物が物語を彩り、鮮やかな歴史絵巻が華開く―。(下巻)二度目の夏が過ぎた。主君の復讐に燃える赤穂浪士。未だ動きを見せない大石内蔵助の真意を図りかね、若き急進派は苛立ちを募らせる。対する上杉・吉良側も周到な権謀術数を巡らし、小競り合いが頻発する。そして、大願に向け、遂に内蔵助が動き始めた。呉服屋に、医者に姿を変え、江戸の町に潜んでいた浪士たちが、次々と結集する―。[新潮文庫ブックカバーあらすじより]
Jiro Osaragi(1925)
Jiro_Osaragi_1925.jpg大佛 次郎  赤穂浪士 東京日日.jpg 大佛次郎(1897-1973)の歴史時代小説で、1927(昭和2)年5月から翌年11月まで毎日新聞の前身にあたる「東京日日新聞」に岩田専太郎の挿絵で連載された新聞小説です。1928(昭和3)年10月に改造社より上巻が発売されるや15万部を売り切って当時としては大ベストセラーとなり、中巻が同年11月、下巻が翌年8月に刊行されています。

 これまで4回の映画化、3回のテレビ映画化、1回の大河ドラマ化が行われ(いちばん最近のものは1999年「赤穂浪士」(テレビ東京、主演:松方弘樹))、今でこそ最もオーソドックスな"忠臣蔵"小説であるかのように言われていますが、当時としては、それまでの忠臣蔵とはかなり違った画期的な作品と受け取られたようです。

 どこが画期的であったかと言うと、まず赤穂四十七士を「義士」ではなく「浪士」として捉えた点であり、また、赤穂浪士の討入りに至る経緯を、非業の最期を遂げた幕吏を父に持つ堀田隼人や怪盗蜘蛛の陣十郎といった第三者的立場の視点で捉えている点です(いずれも架空の人物)。

 とりわけ、大石内蔵助をはじめとする四十七士をアプリオリに「義士」とするのではなく、内蔵助自身からして、何が「義」であるか、何が「武士道」の本筋であるか、それらは全てに優先させてよいものか等々悩んでいる点が特徴的です。

 そうした中で、吉良上野介の首級を取ることが最終目的ではなく、吉良の上にいる柳沢吉保らに代表される官僚的思想に対する武士道精神の反逆を世に示すことが内蔵助の狙いであることが次第に暗示されるようになります。それに関連して、内蔵助が、上野介の首級を挙げた後の泉岳寺へ向けた行軍において、上野介の息子・上杉綱憲が米沢藩の藩主であることから、米沢藩の藩士らと一戦を交えて討死することで"本懐"が遂げられると想定していたような書きぶりになっています。

 しかし、史実にもあるよう、米沢藩の藩士らはやってきません。それは、この小説のもう1人の主人公と言ってもいい米沢藩家老・千坂兵部(愛猫家であった作者と同じく猫好きという設定になっている)が、堀田隼人や女間者お仙を遣って赤穂浪士の動向を探り、自藩の者を上野介の身辺護衛に配しながらも、赤穂浪士が事を起こした時には援軍を差し向けぬよう後任の色部又四郎に託していたからだということになっています。千坂兵部は内蔵助の心情を深く感知し、内蔵助に上野介の首級を上げさせたものの、米沢藩の藩士らと一戦を交えるという彼の"本懐"は遂げさせなかったともとれます。

 これも作者オリジナルの解釈でしょう。近年になって、千坂兵部は赤穂浪士の討入りの2年前、浅野内匠頭の殿中刃傷の1年前に病死していたことが判明しています。上杉綱憲に出兵を思い止まらせたのは、幕府老中からの出兵差止め命令を綱憲に伝えるべく上杉邸に赴いた、遠縁筋の高家・畠山義寧であるとされており、また、討入り事件は綱憲にとっては故家の危機ではあっても、藩士らには他家の不始末と受けとめられたに過ぎず、作中の千坂兵部のような特定個人の深慮によるものと言うより、自藩を断絶の危機へと追い込む行動にはそもそも誰も賛成しなかったというのが通説のようです。

 大佛次郎のこの小説を原作とした過去の映画化作品は、
 「赤穂浪士 第一篇 堀田隼人の巻」(1929年/日活/監督:志波西果、主演:大河内伝次郎)
 「堀田隼人」(1933年/片岡千恵蔵プロ・日活/監督:伊藤大輔、主演:片岡千恵蔵)
 「赤穂浪士 天の巻 地の巻」(1956年/東映/監督:松田定次、主演:市川右太衛門)
 「赤穂浪士」(1961年/東映、監督:松田定次、主演:片岡千恵蔵)
赤穂浪士 1961 .jpgで、後になればなるほど"傍観者"としての堀田隼人の比重が小さくなって、"もう1人の主人公"としての千坂兵部の比重が大きくなっていったのではないで赤穂浪士1961 _0.jpgしょうか。'61年版の片岡千恵蔵が自身4度目の大石内蔵助を演じた「赤穂浪士」では、堀田隼人(大友柳太郎)はともかく、蜘蛛の陣十郎はもう登場しません。但し、1964年の長谷川一夫が内蔵助を演じたNHKの第2回大河ドラマ「赤穂浪士」では、堀田隼人(林与一)も蜘蛛の陣十郎(宇野重吉)も出てきます。
片岡千恵蔵 in「赤穂浪士」(1961年/東映)松田 定次 (原作:大佛次郎) 「赤穂浪士」(1961/03 東映) ★★★☆
長谷川一夫 in「赤穂浪士」(1964年/NHK)
NHK 赤穂浪士5.jpgNHK 赤穂浪士.jpg このNHKの大河ドラマ「赤穂浪士」は討ち入りの回で、大河ドラマ史上最高の視聴率53.0%を記録しています。因みに、長谷川一夫は大河ドラマ出演の6年前に、渡辺邦男監督の「忠臣蔵」('58年/大映)で大石内蔵助を演じていますが、こちらは大佛次郎の原作ではなく、オリジナル脚本です(大河ドラマで吉良上野介を演じた滝沢修も、この映画で既に吉良上野介を演じている)。
      
尾上梅幸(浅野内匠頭)・滝沢修(吉良上野介)
滝沢修/尾上梅幸 NHK赤穂浪士.jpg

 この大佛次郎の小説が作者の大石内蔵助や赤穂浪士に対する見解が多分に入りながらも"オーソドックス(正統)"とされるのは、その後に今日までもっともっと変則的な"忠臣蔵"小説やドラマがいっぱい出てきたということもあるかと思いますが、堀田隼人や蜘蛛の陣十郎を巡るサイドストーリーがありながらも、まず四十七士、とりわけ大石NHK 赤穂浪士_6.JPG内蔵助の心情やそのリーダーシップ行動のとり方等の描き方が丹念であるというのが大きな要因ではないかと思います(映画化・ドラマ化されるごとに堀田隼人や蜘蛛の陣十郎が脇に追いやられるのも仕方がないことか)。

 '61年版「赤穂浪士」を観た限りにおいては、映画よりも原作の方がずっと面白いです。文庫で1400ページくらいありますが全く飽きさせません。一気に読んだ方が面白いので、また、時間さえあれば一気に読めるので、どこか纏まった時間がとれる時に手にするのが良いのではないかと思います。


赤穂浪士 1964 nhk2.jpg「赤穂浪士」(NHK大河ドラマ)●演出:井上博 他●制作総指揮:合川明●脚本:村上元三⑥芥川 也寸志.jpg●音楽:芥川也寸志●原作:大佛次郎●出演:長谷川一夫淡島千景/林与一/尾上梅幸/滝沢修志村喬/中村芝鶴/中村賀津雄/中村又五郎/田村高廣岸田今日子/瑳峨三智子/伴淳三郎/芦田伸介/實川延若/坂東三津五郎/河津清三郎/西村晃/宇野重吉/山田五十鈴/花柳喜章/加藤武/舟木一夫/金田竜之介/戸浦六宏/鈴木瑞穂/藤岡琢也/嵐寛寿郎/田村正和/渡辺美佐子/石坂浩二●放映:1964/01~12(全52回)●放送局:NHK

田村高廣 NHK大河ドラマ出演歴
・赤穂浪士(1964年) - 高田郡兵衛
・太閤記(1965年) - 黒田孝高
・春の坂道(1971年) - 沢庵
・花神(1977年) - 周布政之助
0 田村高廣 NHK大河.jpg

【1961年文庫化[角川文庫(上・下)]/1964年再文庫化・1979年・1998年・2007年改版[新潮文庫(上・下)]/1981年再文庫化[時代小説文庫(上・下)]/1993年再文庫化[徳間文庫(上・下)]/1998年再文庫化[集英社文庫(上・下)]】

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講談調で娯楽性が高く、伝説的虚構性を重視。「忠臣蔵」の初心者が大枠を掴むのに良い。

忠臣蔵(1958).jpg
忠臣蔵 1958_0.jpg
忠臣蔵 [DVD]」(2004) 主演:長谷川一夫

忠臣蔵 [DVD]」(2013)

滝沢修 忠臣蔵1958.jpg 元禄14年3月、江戸城勅使接待役に当った播州赤穂城主・浅野内匠頭(市川雷蔵)は、日頃から武士道を時世遅れと軽蔑する指南役・吉良上野介(滝沢修)から事毎に意地悪い仕打ちを受けるが、近臣・堀部安兵衛(林成年)の機転で重大な過失を免れ、妻あぐり(山本富士子)の言葉や国家老・大石内蔵助(長谷川一夫)の手紙により慰められ、怒りを抑え役目大切に日を過す。しかし、最終日に許し難い侮辱を受けた内匠頭は、城中松の廊下で上野介に斬りつけ、無念にも討忠臣蔵(1958)市川.jpgち損じる。幕府は直ちに事件の処置を計るが、上野介贔屓の老中筆頭・柳沢出羽守(清水将夫)は、目付役・多門伝八郎(黒川弥太郎)、老中・土屋相模守(根上淳)らの正論を押し切り、上野介は咎めなし、内匠頭は即日切腹との処分を下す。内匠頭は多門伝八郎の情けで家臣・片岡源忠臣蔵  昭和33年.jpg右衛門(香川良介)に国許へ遺言を残し、従容と死につく。赤穂で悲報に接した内蔵助は、混乱する家中の意見を籠城論から殉死論へと導き、志の固い士を判別した後、初めて仇討ちの意図を洩らし血盟の士を得る。その中には前髪の大石主税(川口浩)と矢頭右衛門七(梅若正二)、浪々中を馳せ参じた不破数右衛門(杉山昌三九)も加えられた。内蔵助は赤穂城受取りの脇坂淡路守(菅原謙二)を介して浅野家再興Chûshingura(1958).jpgの嘆願書を幕府に提出、内蔵助の人物に惚れた淡路守はこれを幕府に計るが、柳沢出羽守は一蹴する。上野介の実子で越後米沢藩主・上杉綱憲(船越英二)は、家老・千坂兵部(小沢栄太郎)に命じて上野介の身辺を警戒させ、兵部は各方面に間者を放つ。内蔵助は赤穂退去後、京都山科に落着くが、更に浅野家再興嘆願を兼ねて江戸へ下がり、内匠頭後室・あぐり改め瑤泉院を訪れる。瑤泉院は、仇討ちの志が見えぬ内蔵助を責める侍女・戸田局(三益愛子)とは別に彼を信頼している。内蔵助はその帰途に吉良方の刺客に襲われ、多門伝八郎の助勢で事なきを得るが、その邸内で町人姿の岡野金右衛門(鶴田浩二)に引き合わされる。伝八郎は刃傷事件以来、陰に陽に赤穂浪士を庇護していたのだ。一方、大石襲撃に失敗した千坂兵部は清水一角(田崎潤)の報告によって並々ならぬ人物と知り、腹心の女るい(京マチ子)を内蔵助の身辺に間者として送る。江戸へ集った急進派の堀部安兵衛らは、出来れば少人数でもと仇討ちを急ぐが、内蔵助は大義の仇討ちをするには浅野家再興の成否を待ってからだと説く。半年後、祇園一力茶屋で多くの遊女と連日狂態を示す内蔵助の身辺に、内蔵助を犬侍と罵る浪人・関根弥次郎(高松英郎)、内蔵助を庇う浮橋(木暮実千代)ら太夫、仲居姿のるいなどがいた。内蔵助は浅野再興の望みが絶えたと知ると、浮橋を身請けして、妻のりく(淡島千景)に離別を申渡す。長子・主税のみを残しりくや幼い3人の子らと山科を去る母たか(東山千栄子)は、仏壇に内蔵助の新しい位牌を見出し、初めて知った彼の本心にりくと共に泣く。るいは千坂の間者・忠臣蔵  昭和33年tyu.jpg小林平八郎(原聖四郎)から内蔵助を斬る指令を受けるがどうしても斬れず、平八郎は刺客を集め内蔵助を襲い主税らの剣に倒れる。機は熟し、内蔵助ら在京同志は続々江戸へ出発、道中、近衛家用人・垣見五郎兵衛(二代目中村鴈治郎)は、自分の名を騙る偽者と対峙したが、それを内蔵助と知ると自ら偽者と名乗忠臣蔵e.jpgって、本物の手形まで彼に譲る。江戸の同志たちも商人などに姿を変えて仇の動静を探っていたが、吉良方も必死の警戒を続け、しばしば赤穂浪士も危機に陥る。千坂兵部は上野介が越後へ行くとの噂を立て、この行列を襲う赤穂浪士を一挙葬る策を立てるが、これを看破した内蔵助は偽の行列を見送る。やがて、赤穂血盟の士47人は全員江戸に到着し、決行の日は後十日に迫るが、肝心の吉良邸の新しい絵図面だけがまだ無い。岡野金右衛門は同志たちから、彼を恋する大工・政五郎(見明凡太朗)の娘お鈴(若尾文子)を利用してその絵図を手に入れるよう責められていて、決意してお鈴に当る。お鈴は小間物屋の番頭と思っていた岡野金右衛門を初めて赤穂浪士と覚ったが、方便のためだけか、恋してくれているのかと彼に迫り、男の真情を知ると嬉し泣きしてその望みに応じ、政五郎も岡野金右衛門の名も聞かずに来世で娘と添ってくれと頼む。江戸へ帰ったるいは、再び兵部の命で内蔵助を偵察に行くが、内蔵助たちの美しい心と姿に打たれる彼女は逆に吉良家茶会の日を14日と教える。その帰途、内蔵助を斬りに来た清水一角と同志・大高源吾(品川隆二)の斬合いに巻き込まれ、危って一角の刀に倒れたるいは、いまわの際にも一角に内蔵助の所在を偽る。るいの好意とその最期を聞いた内蔵助は、12月14日討入決行の檄を飛ばす。その14日、内蔵助はそれとなく今生の暇乞いに瑤泉院を訪れるが、間者の耳目を警戒して復讐の志を洩らさChûshingura (1958) .jpgず、失望する瑤泉院や戸田局を後に邸を辞す。同じ頃、同志の赤垣源蔵(勝新太郎)も実兄・塩山伊左衛門(竜崎一郎)の留守宅を訪い、下女お杉(若松和子)を相手に冗談口をたたきながらも、兄の衣類を前に人知れず別れを告げて飄々と去る。勝田新左衛門(川崎敬三)もまた、実家に預けた妻と幼児に別れを告げに来たが、舅・大竹重兵衛(志村喬)は新左衛門が他家へ仕官すると聞き激怒し罵る。夜も更けて瑤泉院は、侍女・紅梅(小野道子)が盗み出そうとした内蔵助の歌日記こそ同志の連判状であることを発見、内蔵助の苦衷に打たれる。その頃、そば屋の二階で勢揃いした赤穂浪士47人は、表門裏門の二手に分れ内蔵助の采忠臣蔵 1958_1.jpg配下、本所吉良邸へ乱入。乱闘数刻、夜明け前頃、間十次郎(北原義郎)と武林唯七(石井竜一)が上野介を炭小屋に発見、内蔵助は内匠頭切腹の短刀で止めを刺す。赤穂義士の快挙は江戸中の評判となり、大竹重兵衛は瓦版に婿の名を見つけ狂喜し、塩山伊左衛門は下女お杉を引揚げの行列の中へ弟を探しにやらせお杉は源蔵を発見、大工の娘お鈴もまた恋人・岡野金右衛門の姿を行列の中に発見し、岡野から渡された名札を握りしめて凝然と立ちつくす。一行が両国橋に差しかかった時、大目付・多門伝八郎は、内蔵The Loyal 47 Ronin (1958).jpg忠臣蔵 _V1_.jpg助に引揚げの道筋を教え、役目を離れ心からの喜びを伝える。その内蔵助が白雪の路上で発見したものは、白衣に身を包んだ瑤泉院が涙に濡れて合掌する姿だった―。[公開当時のプレスシートより抜粋]
若尾文子(お鈴)・鶴田浩二(岡野金右衛門)

忠臣蔵 1958 長谷川一夫.jpg 1958(昭和33)年に大映が会社創立18年を記念して製作したオールスター作品で、監督は渡辺邦男(1899-1981)。大石内蔵助に大映の大看板スター長谷川一夫、浅野内匠頭に若手の二枚目スター市川雷蔵のほか鶴田浩二、勝新太郎という豪華絢爛たる顔ぶれに加え女優陣にも京マチ子、山本富士子、木暮実千代、淡島千景、若尾文子といった当時のトップスターを起用しています。当時、赤穂事件を題材とした映画は毎年のように撮られていますが、この作品は、その3年後に作られた同じく大作である松田定次監督、片岡千恵蔵主演の「赤穂浪士」('61年/東映)とよく比較されます。「赤穂浪士」の方は大佛次郎の小説『赤穂浪士』をベースとしています。

 "忠臣蔵通"と言われる人たちの間では'61年の東映版「赤穂浪士」の方がどちらかと言えば評価が高く、一方、この'58年の大映版「忠臣蔵」は、「戦後映画化作品の中で最も浪花節的かつ講談調で娯楽性が高く、リアリティよりも虚構の伝説性を重んじる当時の風潮が反映されている作品であり、『忠臣蔵』の初心者が大枠を掴むのに適していると言われている」(Wikipedia)そうです。概ね同感ですが、東映版「赤穂浪士」にしても、大佛次郎の小説『赤穂浪士』を基にしているため、史実には無い大佛次郎が作りだしたキャラクターが登場したりするわけで、しかも細部においては必ずしも原作通りではないことを考えると、この大映版「忠臣蔵」は、これはこれで「伝説的虚構性を重視」しているという点である意味オーソドックスでいいのではないかと思いました。

 「赤穂浪士」の片岡千恵蔵の大石内蔵助と、3年先行するこの「忠臣蔵」の長谷川一夫の大石内蔵助はいい勝負でしょうか。「赤穂浪士」が浅野内匠頭に大川橋蔵を持ってきたのに対し、この「忠臣蔵」の浅野内匠頭は市川雷蔵で、「赤穂浪士」が吉良上野介に月形龍之介を持ってきたのに対し、この「忠臣蔵」の吉良上野介は滝沢修です。この「忠臣蔵」の長谷川一夫と滝沢修は、6年後のNHKの第2回大河ドラマ「赤穂浪士」('64年)でも忠臣蔵 1958.jpgそれぞれ大石内蔵助と吉良上野介を演じています(こちらは大佛次郎の『赤穂浪士』が原作)。また、「赤穂浪士」が「大石東下り」の段で知られる立花左近に大河内傳次郎を配したのに対し、こちら「忠臣蔵」は立花左近に該当する垣見五郎兵衛忠臣蔵 1958 中村.jpg二代目中村鴈治郎を配しており、長谷川一夫が初代中村鴈治郎の門下であったことを考えると、兄弟弟子同士の共演とも言えて興味深いです。但し、この場面の演出は片岡千恵蔵・大河内傳次郎コンビの方がやや上だったでしょうか。
二代目中村鴈治郎(垣見五郎兵衛)

勝新太郎(赤垣源蔵)
忠臣蔵_V1_.jpg この作品は、講談などで知られるエピソードをよく拾っているように思われ(このことが伝説的虚構性を重視しているということになるのか)、先に挙げた内蔵助が武士の情けに助けられる「大石東下り」や、同じく内蔵助がそれとなく瑤泉院を今生の暇乞いに訪れる「南部坂雪の別れ」などに加え、赤垣源蔵が兄にこれもそれとなく別れを告げに行き、会えずに兄の衣服を前に杯を上げる「赤垣源蔵 徳利の別れ」などもしっかり織り込まれています。赤垣源蔵役は勝新太郎ですが、この話はこれだけで「赤垣源蔵(忠臣蔵赤垣源蔵 討入り前夜)」('38年/日活)という1本の映画になっていて、阪東妻三郎が赤垣源蔵を演じています。また、浪々中を馳せ参じた不破数右衛門(杉山昌三九)もちらっと出てきますが、この話も「韋駄天数右衛門」('33年/宝塚キネマ)という1本の映画になっていて、羅門光三郎が不破数右衛門忠臣蔵 1958 simura.jpgを演じています。こちらの話ももう少し詳しく描いて欲しかった気もしますが、勝田新左衛門の舅・大竹重兵衛(演じるのは志村喬)のエピソード(これも「赤穂義士銘々伝」のうちの一話になっている)などは楽しめました(志村喬は戦前の喜劇俳優時代の持ち味を出していた)。
志村喬(大竹重兵衛)

 映画会社の性格かと思いますが、東映版「赤穂浪士」が比較的男優中心で女優の方は脇っぽかったのに対し、こちらは、山本富士子が瑤泉院、京マチ子が間者るい、木暮実千代が浮橋太夫、淡島千景が内蔵助の妻りく、若尾文子が岡野金右衛門(鶴田浩二)の恋人お鈴、中村玉緒が浅野家腰元みどりと豪華布陣です。それだけ、盛り込まれているエピソードも多く、全体としてテンポ良く、楽しむところは楽しませながら話が進みます。山本富士子はさすがの美貌というか貫禄ですが、京マチ子の女間者るいはボンドガールみたいな役どころでその最期は切なく、若尾文子のお鈴は、父親も絡んだ吉良邸の絵図面を巡る話そのものが定番ながらもいいです。
1山本・京・鶴田.jpg忠臣蔵 鶴田浩二 若尾文子.jpg
山本富士子(瑤泉院)/京マチ子(女間者おるい)/鶴田浩二(岡野金右衛門)  若尾文子(お鈴)・鶴田浩二

山本富士子 hujin.jpg「婦人画報」'64年1月号(表紙:山本富士子)

忠臣蔵 1958es.jpg忠臣蔵(1958)6.jpg滝沢修(吉良上野介)・市川雷蔵(浅野内匠頭)

 渡辺邦男監督が「天皇」と呼ばれるまでになったのはとにかく、この人は早撮りで有名で、この作品も35日間で撮ったそうです(初めて一緒に仕事した市川雷蔵をすごく気に入ったらしい)。でも、画面を観ている限りそれほどお手軽な感じは無く、監督の技量を感じました。ストーリーもオーソドックスであり、確かに、自分のような初心者が大枠を掴むのには良い作品かもしれません。松田定次監督、片岡千恵蔵主演の「赤穂浪士」('61年)と同様、役者を楽しむ映画であるとも言え、豪華さだけで比較するのも何ですが、役者陣、特に女優陣の充実度などでこちらが勝っているのではないかと思いました。
 
【新企画】二大大型時代劇映画「忠臣蔵1958」「赤穂浪士1961」を見比べてみた。(個人ブログ「映画と感想」)


「忠臣蔵」スチール 淡島千景(大石の妻・りく)/長谷川一夫(大石内蔵助)/木暮実千代(浮橋太夫)
淡島千景『忠臣蔵』スチル1.jpg
淡島千景/東山千栄子(大石の母・おたか)
淡島千景『忠臣蔵』スチル5.jpg

小沢栄太郎(千坂兵部)・京マチ子(女間者おるい)    船越英二(上杉綱憲)
忠臣蔵 小沢栄太郎・京マチ子.jpg 忠臣蔵 船越英二.jpg

Chûshingura (1958)
Chûshingura (1958).jpg忠臣蔵 1958 08.jpg「忠臣蔵」●制作年:1958年●監督:渡辺邦男●製作:永田雅一●脚本:渡辺邦男/八尋不二/民門敏雄/松村正温●撮影:渡辺孝●音楽:斎藤一郎●時間:166分●出演:長谷川一夫/市川雷蔵/鶴田浩二/勝新太郎/川口浩/林成年/荒木忍/香川良介/梅若正二/川崎敬三/北原義郎/石井竜一/伊沢一郎/四代目淺尾奥山/杉山昌三九/葛木香一/舟木洋一/清水元/和泉千忠臣蔵 1958 10.jpg太郎/藤間大輔/高倉一郎/五代千太郎/伊達三郎/玉置一恵/品川隆二/横山文彦/京マチ子/若尾文子/山本富士子淡島千景/木暮実千代/三益愛子/小野道子/中村玉緒/阿井美千子/藤田佳子/三田登喜子/浦路洋子/滝花久子/朝雲照代/若松和子/東山山本富士子『忠臣蔵(1958).jpg千栄子/黒川弥太郎/根上淳/高松英郎/花布辰男/松本克平/二代目澤村宗之助/船越英二/清水将夫/南條新太郎/菅原謙二/南部彰三/春本富士夫/寺島雄作/志摩靖彦/竜崎一郎/坊屋三郎/見明凡太朗/上田寛/小沢栄太郎/田崎潤/原聖四郎/志村喬/二代目中村鴈治郎/滝沢修●公開:1958/04●配給:大映(評価:★★★★)

山本富士子(瑤泉院)・三益愛子(戸田局)

2020年2月20日NHK-BSプレミアム
千坂兵部(小沢栄太郎)と女間者おるい(京マチ子)/岡野金右衛門(鶴田浩二)と大工の娘・お鈴(若尾文子)
忠臣蔵_0182.JPG 忠臣蔵_0183.JPG
立場を転じて内蔵助に秘密情報を漏らすおるい(京マチ子)/「徳利の別れ」赤垣源蔵(勝新太郎)
忠臣蔵_0185.JPG 忠臣蔵_0186.JPG
娘婿・勝田新左衛門(川崎敬三)を叱る大竹重兵衛(志村喬)/「南部坂雪の別れ(後段)」瑤泉院(山本富士子)
忠臣蔵_0189.JPG 忠臣蔵_0190.JPG

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唯一の阪妻版「丹下左膳」。単独で観ればそれなりに面白いが、他と比べると...。

丹下左膳 1952 dvd.jpg丹下左膳 [DVD]」 丹下左膳 (1952年、日本).jpg 淡島千景・阪東妻三郎

丹下左膳 (1952年)_1.jpg 徳川八代将軍吉宗(夏川大二郎)は、日光東照宮の改修工事を柳生藩に下命した。小藩の柳生家ではその費用に困窮したが、藩の生き字引の百余歳の一風宗匠が、柳生家では非常時のために莫大な埋蔵金があり、その在り処の地図は「こけ猿の茶壷」に納めてあると言う。その壷は、柳生家の息子・源三郎(高田浩吉)が、江戸に道場を持つ司馬一刀斎の娘・萩乃(喜多川千鶴)の許への婿入りの引出物に持って行っており、源三郎を道場に入れまいとする師範代・峰丹波(大友柳太朗)と一刀斎の後妻お蓮(村田知栄子)は、こそ泥・鼓の与吉(三井弘次)に源三郎から壷丹下左膳 (1952年、2).jpgを盗ませる。壺を盗んだ与吉は柳生の侍らに追われて、トコロテン売りの小僧ちょび安(かつら五郎)にそれを渡す。ちょび安は丹下左膳(阪東妻三郎)と櫛卷お藤(淡島千景)の夫婦に可愛がられ養子になる。その時ちょび安の持っていた壷は、長屋に住む浪人・蒲生泰軒に盗まれるが、左膳は泰軒を斬ってそれを取り戻す。更に幕府の隠密の総師・愚樂(菅井一郎)により再び盗み去られるが、盗まれた壷は偽物で、本物の壷は与吉によってお蓮の許へ運ばれていた。司馬道場へ婿入りした源三郎だが、お蓮に川船に誘い出され無理に口説かれる。源三郎が靡かないと見ると、船の底に穴をあけ船を沈められる。泳ぎが不得手の源三郎を助けるため左膳が川に跳び込むが、源三郎も左膳もこけ猿の壷もろとも水門へと流される。長屋の住人らは二人の葬式を挙げるが、実は二人は何とか生きていて壷も無事だった。そこで丹波はちょび安を誘拐し、左膳をおびき出して騙し討ちにしようとする―。

丹下左膳 百万両の壺 101.jpg 1952年公開の松田定次監督、阪東妻三郎主演作。戦前の山中貞雄監督、大河内傳次郎主演の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)と同じく、林不忘(1900-1935/享年35)の『丹下左膳・こけ猿の巻』が原作であり、おそらくこちらの方が原作に近いのでしょう。"こけ猿の壷"を巡って、柳生家、峰丹波一味、幕府隠密、鼓の与吉とお連などが四ツ巴の争奪戦を繰り広げ、しかも最後にちょび安の意外な出自が明かされるという、いわば何でもありの(林不忘らしい?)ストーリーです。

大河内傳次郎「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)

 と言うことで、この作品単独で観れば相当に面白いのですが、どうしても山中貞雄・大河内傳次郎版「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」と比べてしまい、そうなると、出身地の豊前訛りで「シェイハタンゲ、ナハシャゼン」と名乗る大河内傳次郎の左膳のアクの強さに比べると、「姓は丹下、名は左膳」と正しい滑舌で名乗る阪東妻三郎の左膳はややキャラ的に弱かったかも。「無法松の一生」「王将」的な庶民肌のところは充分に出ていますが、昭和初期、「サイレント映画では、虚無的な浪人者をやらせては妻三郎の右に出るものなし」と謳われた、そのニヒルさは影を潜めてしまっているように思います。

 阪東妻三郎の殺陣の腕前は、同じく剣戟スターだった市川右太衛門、月形竜之介などよりも一段上だったようで、松竹が阪東妻三郎で丹下左膳を撮ることになった時、大河内傳次郎側が「丹下左膳は自分の作品だから、やめてほしい」と松竹に抗議したそうですが、大河内傳次郎もバンツマのカリスマ性に脅威を感じていたのでしょうか。

魔像 dvd 1952.jpg ところが、この作品での阪東妻三郎の殺陣はイマイチで、最後の刀を持たずに出向いた峰丹波(大友柳太朗)一派の所での決闘でも、追って刀を届けたお藤(淡島千景)から刀をなかなか受け取れずやきもきさせますが、これってわざとコメディ調に作っているのでしょうか。50歳を過ぎて年齢的にキツイ殺陣は出来なくなっていたの説もありますが、同年の大曾根辰夫監督の「魔像」('52年/松竹/原作:林不忘)では、かなり鋭い剣戟を見せています。

丹下左膳 大友.jpg 残念ながら、阪東妻三郎は本作の翌年(1953年)51歳で脳内出血により急死し、阪東妻三郎の丹下左膳はこの1作のみです。逆に大河内傳次郎がマキノ雅弘監督の「丹下左膳」('53年/大映)にて55歳で左膳役に復帰し、「続・丹下左膳」('53年/大映)、「丹下左膳 こけ猿の壺」('53年/大映)まで3作を撮っているほか、この作品で悪役の峰丹波を演じた大友柳太朗が、松田定次監督「丹下左膳」('58年/東映)に主演、「丹下左膳 乾雲坤竜の巻」('62年/東映)まで5作で左膳役を演じています。

大友柳太朗「丹下左膳」('53年/大映)(左は松島トモ子)

 山中貞雄監督、大河内傳次郎主演の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)は、それまでの怪異的存在であった丹下左膳像をモダンな明るい作風にパロディ化してしまったため、原作者の林不忘が、これは左膳ではないと怒ってしまったことからタイトルに「餘話」とあるそうですが、林不忘がその年に35歳で早逝したため、そうしたことを言う人がいなくなって(山中貞雄監督の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」以降の作品の左膳は全て好人物になってしまったらしい)、そのためどこまでが本物でどこまでがパロディなのか分からなくなったような気もします

 そうした意味では、「丹下左膳」('58年/東映)で豪放磊落な丹下左膳を演じた大友柳太朗の戦略は賭けの要素はあったものの結果的に「当たり」で、それに比べるとこの阪東妻三郎版「丹下左膳」('52年/松竹)は、同じ松田定次監督作でありながら、(あくまでも他と比べてだが)ちょっと中途半端だったかもしれません(繰り返すが、この作品そのものはそれなりに面白い)。

丹下左膳 (1952 松竹)s.jpg丹下左膳 (1952年)5.jpg丹下左膳 (1952年) .jpg「丹下左膳」●制作年:1952年●監督:松田定次●製作:小倉浩一郎●脚本:菊島隆三/成澤昌茂●撮影:川崎新太郎●音楽:深井史郎●原作:林不忘●時間:91分(現存90分)●出演:阪東妻三郎/淡島千景/つら五郎/三井弘次/高田浩吉/加賀邦男/富本民平/藤間林太郎/海江田譲二/戸上城太郎/喜多川千鶴/村田知栄子/大友柳太朗/夏川大二郎/菅井一郎●公開:1952/08●配給:松竹(評価:★★★☆)

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説明不足にはケチをつけたくなるが、大友柳太朗を楽しめる分、DVD化する価値はある?

酒と女と槍002.jpg酒と女と槍 vhs.jpg 酒と女と槍 title.jpg
酒と女と槍【ワイド版】 [VHS]」大友柳太朗

 秀吉(東野英治郎)の怒りにふれた関白秀次(黒川弥太郎)は高野で切腹、半月後には秀次の妻妾38人が三条河原で斬られ、伏見城大手門の前にこんな建札が立つ。「われらこと、故関白殿下諫争の臣として数年酒と女と槍 20花園ひろみ (2).jpgまかりあり候ところ、此の度不慮の儀これあり候ところ、われら職分怠たりの為と申訳なく存じ候。さるによって来る二十八日未の刻を期して切腹仕可」。建札の主は"槍の蔵人"の異名をもつ富田蔵人高定(大友柳太朗)。高定は死ぬまでの数日を心おきなく過すため、豪商・堺屋宗四郎(十朱久雄)の別荘に身を寄せ、贔屓の女歌舞伎太夫・左近(淡島千景)と妥女(花園ひろみ)を呼ぶ。建札を見て高定の心を知った妥女は一人残るが、一夜明けた朝「殿様は女というものの心がお分酒と女と槍 10大友柳太郎 (3).jpgりではございません」という言葉を残して迎えに来た左近と去る。千本松原には多くの見物人が集まったが、高定は乱酔のた酒と女と槍 40大友柳太郎 (4).jpgめ切腹の定刻を過ごし、介錯人(南方英二)に合図したところで秀吉の使者に切腹を止められる。高定は西山の村里に妥女と住むことになる。慶長3年(1598)、秀吉が亡くなる。兄の知信(原健策)は高定に再び切腹を迫るが、高定は兄を追い返し、仕官を勧めて訪れる前田利長(片岡千恵蔵)の家臣・内藤茂十郎(徳大寺伸)の言にも取り合わない。秀吉の死により家康(小沢栄太郎)の野望は高まり、関ケ原で豊臣徳川両家が興亡を賭け対峙する。今度は酒と女と槍 50大友柳太郎 (2).jpg高定の庵に利長本人が訪れて再度仕官を促す。高定に忘れ去ったはずの酒と女と槍 60花園ひろみ.jpg侍魂を呼び起したのは槍だった。子供が生れるとすがりつく妥女を残して、高定は利長の後を追うが、これは同時に左近との約束も破ることであった。関ケ原の本陣で、家康の本営に呼ばれた高定の酒と女と槍 70大友柳太郎 (5).jpg前に突き出されたのは、三成(山形勲)に内通したという兄・知信の首だった。利長のとりなしで陣営に帰った高定に、左近が迫る。女の一念酒と女と槍 90大友柳太郎 (7).jpgをこれで計れと高定を斬りつけ、返す刃でわが胸に懐剣を突き立てる。知信、左近の土饅頭を前に夜を明かした高定。家康の本陣から三成の陣へ。高定の目にはもう敵も味方も生も死もなかった―。

 「飢餓海峡」('65年/東映)で知られる内田吐夢監督の1960年公開作で、原作は海音寺潮五郎の「酒と女と槍と」(『かぶき大名―歴史小説傑作集〈2〉』('03年/文春文庫)などに所収)であり、文庫でおおよそ35ページの短編です。文庫解説の磯貝勝太郎(1935-2016)によれば、海音寺潮五郎は『野史』(嘉永4年、1851)に略述された高定に関する記述に拠ってこの短編を書いており、高定が秀次切腹事件の後、殉死しようと京都の千本松原を死に場所に定めるも、死装束で大勢の群衆や友人等と別れの杯を重ねていくうちに泥酔して切腹を果たせぬまま昏倒、それを秀吉に咎められ、濫りに殉死を試みた者は三族を誅すとの命令が出されため、自ら京都西山に幽居したというのは史実のようです。その後、前田利長がその将才を惜しんで1万石で召し抱え、関ヶ原の戦いでは、侍大将として東軍の前田勢の先陣を務めて加賀国に侵攻、西軍の山口宗永・弘定親子が籠城する大聖寺城を攻めて戦死していますが、その闘いぶりが功を奏して敵城は陥落しています。

 海音寺潮五郎はこれに妥女との逸話の潤色を加えた以外はほぼ史実通りに書いており、最後は前田利長が高定の見事な先陣ぶりと武士らしい最期を称え、自分の眼に狂いは無く、「臆病者に一万石くれるなぞ阿呆の骨頂」と言っていた者は「高定の死体にわびを言えい!」と涙声で怒鳴るところで終わっています。先の磯貝勝太郎によれば、前田家の連中は高定を手助けせず、わざと見殺しにしたようですが、それでも高定は前田利長に忠誠を尽くしたことになります。

 ところが映画では、ラストで大友柳太朗が演じる高定は、まず家康の本陣を襲って家康の心胆を寒からしめ、今度は馬首を翻して三成の陣に馳け登ってこれをこれを突き崩すという動きをみせています。主の前田利長は東軍・家康側についていますから、本来は家康を襲うというのはおかしいのですが、この辺りは、兄を家康に殺された憤りを表しているのでしょうか。

 これまでも高定は、切腹しようとしたら「もし切腹すれば親類・縁者を処罰する」との突然の上意があり、つい先刻まで切腹を迫っていた富田一族が一転して逆に「富田の家のためだ」とこれを制止するという事態のあまりの馬鹿馬鹿しさに高笑いする他はなかったのですが、秀吉が死んだら今度はまた一族が切腹を迫ってきて、もう武家社会の名誉だとか面子だとかにほとほと愛想が尽きたのかも。そうした武家社会に対する抵抗ならば、臆病者の汚名を晴らせないままでも、愛妻と庵暮らしをするのも抵抗の一形態だったようにも思いますが、やはり、戦場で能力を発揮する者は戦場に出たがるのでしょうか(利長が「男を捨てた者が槍を持っているのは妙だ」と指摘し、高定が鉈で槍を斬ろうとするが果たせないというのは原作と同じ)。でも一旦戦場に出たら、あくまで利長の臣下であって、そこを単なる自己顕示したり私憤を晴らしたりする場にしてしまってはマズイのでは。

酒と女と槍 30淡島千景.jpg 秀次の愛妾の中に家康の密偵として送り込まれた左近(淡島千景)の実の妹がいて、誰が密偵か分からない秀吉側は、秀次切腹後、冷酷な三成の進言により(山形勲かあ)妻妾38人全員を処刑しますが、同じく冷酷な家康の方も(小沢栄太郎かあ)そのことを特に何とも思わない―そうしたことに対する左近の怒りと悲しみというのも説明不足でしょうか。妥女と高定を張り合って、自ら降りて後見人的立場に引き下がっただけみたいな描かれ方をしています。

酒と女と槍 80大友柳太郎 (6).jpg このようにいろいろケチはつけたくなりますが、豪放磊落な高定を演じる大友柳太朗を楽しめ、ラストの(滅茶苦茶な)戦場シーンも、馬上で槍を振り回すその豪快さは見所と言えるでしょう。しかも、馬を急旋回させながらそれをやっているからすごいです。これだけでもDVD化する価値はあると思うけれど、現在['16年]のところまだされていません。

 因みに、事の発端となった関白秀次の切腹については、秀次に関する千人斬りなどの暴君論(所謂「殺生関白説」)や秀吉に対する「謀反説」は後から作られたものであり、秀次は秀吉の政治的戦略に翻弄された犠牲者であり、死後も秀吉の引き立て役として歴史上否定され続けてきたが、実は城下繁栄や学問・芸術振興における功績があり、思慮・分別と文化的素養を備えた人物だったという説が近年有力のようです(小和田哲男氏など)。今年['16年]の大河ドラマ「真田丸」では、2013年に国学院真田丸 秀次 .jpg真田丸 秀次 切腹.jpg関白秀次の切腹0_.jpg大の矢部健太郎准教授(当時)が発表した「秀吉は秀次を高野山へ追放しただけだったが、意図に反し秀次が自ら腹を切った」という新説を採用していました(新しいもの好きの三谷幸喜氏?)。
「真田丸」新納慎也(豊臣秀次)/第28話「受難」より/矢部健太郎『関白秀次の切腹』(2016)

東野英治郎(豊臣秀吉)        小沢栄太郎(徳川家康)
『酒と女と槍』。秀吉が東野英治郎.jpg 『酒と女と槍』家康が小沢栄太郎.jpg

酒と女と槍_0.jpg「酒と女と槍」●制作年:1960年●監督:内田吐夢●製作:大川博●脚本:井出雅人●撮影:鷲尾元也●音楽:小杉太一郎●原作:海音寺潮五郎「酒と女と槍と」●時間:99分●出演:大友柳太朗/淡島千景/花園ひろみ/黒川弥酒と女と槍003.jpg太郎/山形勲/東野英治郎/原健策/須賀不二夫/織田政雄/徳大寺伸/小沢栄太郎/片岡栄二郎/高松錦之助/松浦築枝/赤木春恵/水野浩/有馬宏治/十朱久雄/香川良介/楠本健二/浅野光男/舟橋圭子/近江雄二郎/大崎史郎/尾上華丈/石南方英二.jpg丸勝也/村居京之輔/南方英二(後のチャンバラトリオ)/泉春子/片岡千恵蔵●公開:1960/05●配給:東映(評価:★★★☆)

大友柳太朗(1912-1985/享年73、自死)

 
真田丸 title.jpg真田丸  dvd.jpg「真田丸」●演出:木村隆文/吉川邦夫/田中正/小林大児/土井祥平/渡辺哲也●制作:屋敷陽太郎/吉川邦夫●脚本:三谷幸喜●音楽:服部隆之●出演:堺雅人/大泉洋/草刈正雄/長澤まさみ/木村佳乃/平岳大/中原丈雄/藤井隆/迫田孝也/高木渉/高嶋政伸/遠藤憲一/榎木孝明/温水洋一/吉田鋼太郎/草笛光子/高畑淳子/内野聖陽/黒木華/藤本隆宏/斉藤由貴/寺島進/西村雅彦/段田安則/藤岡弘、/近藤正臣/小日向文世/鈴木京香/竹内結子/新納慎也/哀川翔●放映:2016/01~12(全50回)●放送局:NHK

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映画は「本日休診」+「遥拝隊長」(+「多甚古村」?)。
本日休診 DVD.jpg 本日休診_3.jpg  本日休診 文庫 .jpg
<あの頃映画>本日休診 [DVD]」 岸惠子・柳永二郎 『遙拝隊長・本日休診(新潮文庫)

本日休診 01柳永二郎.jpg 三雲医院の三雲八春(柳永二郎)は戦争で一人息子を失い、甥の伍助(増田順二)を院長に迎えて戦後再出発してから1年になる。その1周年記念日、伍助院長は看護婦の本日休診 04岸惠子.jpg瀧さん(岸惠子)らと温泉へ行き、三雲医院は「本日休診」の札を掲げる。八春先生がゆっくり昼寝でもと思った矢先、婆やのお京(長岡輝子)の息子勇作(三國連太郎)が例の発作を起こしたという。勇作は軍隊生活の悪夢に憑かれており、時折いきなり部隊長となって皆に号令、遥拝を命じるため、八春先生は彼の部下になったふりをして本日休診 三國.jpg気を鎮めてやらなければならなかった。勇作が落着いたら、今度は警察の松木ポリス(十朱久雄)が大阪から知り合いを頼って上京したばかりで深夜暴漢に襲われ本日休診 03角梨枝子.jpgたあげく持物を奪われた悠子(角梨枝子)という娘を連れて来る。折から18年前帝王切開で母子共八春先生に助けられた湯川三千代(田村秋子)が来て、悠子に同情してその家へ連れて帰る。が、八春先生はそれでも暇にならず、砂礫船の船頭の女房のお産あり、町のヤクザ加吉(鶴田浩二)が指をつめるのに麻酔を打ってくれとやって来たのを懇々と説教もし本日休診 06鶴田浩二.jpgてやらねばならず、悠子を襲った暴漢の連本日休診 02佐田啓二.jpgれの女が留置場で仮病を起こし、兵隊服の男(多々良純)が盲腸患者をかつぎ込んで来て手術をしろという。かと思うとまたお産があるという風で、「休診日」は八春先生には大変多忙な一日となる。悠子は三千代の息子・湯川春三(佐田啓二)の世話で会社に勤め、加吉はやくざから足を本日休診 05淡島千景.jpg洗って恋人のお町(淡島千景)という飲み屋の女と世帯を持とうと考える。しかしお町が金のため成金の蓑島の自由になったときいて、その蓑島を脅本日休診 10.jpg迫に行き、お町はお町で蓑島の子を流産して八春先生の所へ担ぎ込まれる。兵隊服の男は、治療費が払えず窓から逃げ出すし、加吉は再び賭博で挙げられる。お町は一時危うかったがどうやら持ち直す。そんな中、また勇作の集合命令がかかり、その号令で夜空を横切って行く雁に向かって敬礼する八春先生だった―。

本日休診』d.jpg本日休診●井伏鱒二●文芸春秋社●昭和25年4刷.jpg 1952(昭和29)年公開の渋谷実(1907-1980/享年73)監督作で、原作は第1回読売文学賞小説賞を受賞した井伏鱒二(1898-1993/享年95)の小説「本日休診」であり、この小説は1949(昭和24)年8月「別冊文芸春秋」に第1回発表があり、超えて翌年3回の発表があって完結した中篇です。

本日休診 (1950年)』(1950/06 文藝春秋新社) 収載作品:遥拝隊長 本日休診 鳥の巣 満身瘡痍 貧乏徳利 丑寅爺さん

 町医者の日常を綴った「本日休診」は、井伏鱒二が戦前に発表した田舎村の駐在員の日常を綴った「多甚古村」と対を成すようにも思われますが、「多甚古村」は作者の所へ送られてきた実際の田舎町の巡査の日記をベースに書かれており、より小説的な作為を施したと思われる続編「多甚古村補遺」が後に書かれていますが(共に新潮文庫『多甚古村』に所収)、作家がより作為を施した「多甚古村補遺」よりも、むしろオリジナルの日記に近いと思われる「多甚古村」の方が味があるという皮肉な結果になっているようも思いました。その点、この「本日休診」は、作家としての"作為"の為せる技にしつこさがなく、文章に無駄が無い分キレを感じました。

 医師である主人公を通して、中篇ながらも多くの登場人物の人生の問題を淡々と綴っており、戦後間もなくの貧しく暗い世相を背景にしながらもユーモアとペーソス溢れる人間模様が繰り広げられています。こうしたものが映画化されると、今度はいきなりべとべとしたものになりがちですが、その辺りを軽妙に捌いてみせるのは渋谷実ならではないかと思います。

本日休診 12.jpg 主人公の「医は仁術なり」を体現しているかのような八春先生を演じた柳永二郎は、黒澤明監督の「醉いどれ天使」('48年/東宝)で飲んだくれ医者を演じた志村喬にも匹敵する名演でした。また、「醉いどれ天使」も戦後の復興途上の街を描いてシズル感がありましたが、この「本日休診」では、そこからまた4年を経ているため、戦後間もない雰囲気が上手く出るよう、セットとロケ地(蒲田付近か)とでカバーしているように思本日休診5-02.jpgいました。セット撮影部分は多分に演劇的ですが(本日休診m.jpgそのことを見越してか、タイトルバックとスチール写真の背景は敢えて書割りにしている)、そうい言えば黒澤明の「素晴らしき日曜日」('47年/東宝)も後半はセット撮影でした(「素晴らしき日曜日」の場合、主演俳優が撮影中に雑踏恐怖症になって野外ロケが不能になり後半は全てセット撮影となったという事情がある)。

「本日休診」スチール写真(鶴田浩二/淡島千景)

本日休診 title.jpg本日休診 title2 .jpg クレジットでは、鶴田浩二(「お茶漬の味」('52年/松竹、小津安二郎監督))、淡島千景(「麦秋」('51年/松竹、小津安二郎監督)、「お茶漬の味」)、角梨枝子(「とんかつ大将」('52年/松竹、川島雄三監督))ときて柳永二郎(「魔像」('52年/東映))となっていますが、この映画の主役はやはり八春先生の柳永二郎ということになるでしょう。その他にも、佐田啓二、三國連太郎、岸恵子など将来の主役級から、増田順二、田村秋子、中村伸郎、十朱久雄、長岡輝子、多々良純、望月優子といった名脇役まで多士済々の顔ぶれです。

本日休診 07三国連太郎.jpg この作品を観た人の中には、三國連太郎が演じた「遥拝隊長」こと勇作がやけに印象に残ったという人が多いですが、このキャラクターは遙拝隊長youhaitaichou.jpg原作「本日休診」にはありません。1950(昭和25)年発表の「遥拝隊長」(新潮文庫『遥拝隊長・本日休診』に所収)の主人公・岡崎悠一を持ってきたものです。彼はある種の戦争後遺症的な精神の病いであるわけですが、原作にはその経緯が書かれているので読んでみるのもいいでしょう。また、映画の終盤で、警察による賭場のガサ入れシーンがありますが、これは「多甚古村」にある"大捕物"を反映させたのではないかと思います。

淡島千景鶴田浩二角梨枝子『本日休診』スチル.jpg 脚本は、「風の中の子供」('37年/松竹、坪田譲治原作、清水宏監督)、「風の中の牝鶏」('48年/松竹、小津安二郎監督)の斎藤良輔(1910-2007/享年96)。原作「本日休診」で過去の話やずっと後の後日譚として描かれている事件も、全て休診日とその翌日、及びそれに直接続く後日譚としてコンパクトに纏めていて、それ以外に他の作品のモチーフも入れ、尚且つ破綻することなく、テンポ良く無理のない人情喜劇劇に仕上げているのは秀逸と言えます(原作もユーモラスだが、原作より更にコメディタッチか。原作ではお町は死んでしまうのだが、映画では回復を示唆して終わっている)。

鶴田浩二/淡島千景/角梨枝子

本日休診 スチル.jpg この映画のスチール写真で、お町(淡島千景)らが揃って"遥拝"しているものがあり、ラストシーンかと思いましたが、ラストで勇作(三國連太郎)が集合をかけた時、お町は床に臥せており、これはスチールのためのものでしょう(背景も書割りになっている)。こうした実際には無いシーンでスチールを作るのは好きになれないけれど、作品自体は佳作です。その時代でないと作れない作品というのもあるかも。過去5回テレビドラマ化されていて、実際に観たわけではないですが、時が経てば経つほど元の映画を超えるのはなかなか難しくなってくるような気がします(今世紀になってからは一度も映像化されていない)。
     
本日休診 vhs5.jpg本日休診 1952.jpg「本日休診」●制作年:1939年●監督:渋谷実●脚本:斎藤良輔●撮影:長岡博之●音楽 吉沢博/奥村一●原作:井伏鱒二●時間:97分●出演:柳永二郎/淡島千景/鶴田浩二/角梨枝子/長岡輝子/三國連太郎/田村秋子/佐田啓二/岸恵子/市川紅梅[本日休診 08中村伸郎.jpg(市川翠扇)/中村伸郎/十朱久雄/増田順司/望月優子/諸角啓二郎/紅沢葉子/山路義人/水上令子/稲川忠完/多々良純●公開:1952/02●配給:松竹(評価:★★★★)
中村伸郎(お町の兄・竹さん)

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茂吉(佐分利信)は最後、泣かなかったのではないか(妙子(木暮実千代)が話を作っている?)。

お茶漬の味poster.jpgお茶漬けの味 dvd.jpg お茶漬けの味.jpg お茶漬の味00.jpg
お茶漬の味 [DVD]」「お茶漬の味 [DVD] COS-023」 佐分利信/木暮実千代

お茶漬の味36.jpg 会社勤務の佐竹茂吉(佐分利信)は長野出身で質素な生活を好む。妻の妙子(木暮実千代)とはお見合い結婚だが、上流階級出身の妙子にとって夫の質素さが野暮にしか見えず、学生時代の友人たちである雨宮アヤ(淡島千景)、黒田高子(上原葉子)、姪っ子の山内節子(津島恵子)らと遊び歩いて憂さをはらしている。茂吉はそんな妻の気持ちを知りながらも、あえて触れないようにしていた。ところが、節子がお見合いの席から逃げ出したことをきっかけに、茂吉と妙子が衝突する。妙子は口をきかなくなり、あげくのはてに黙って神戸の友人のもとへ出かけてしまう。一方の茂吉はウルグアイでの海外勤務が決まって羽田から出発するが、それを聞いても妙子は帰ってこない。茂吉が発った後、家に帰ってきた妙子にさすがの友人たちも厳しい態度をとる。平然を装う妙子だったが、茂吉の不在という現実に内心は激しく動揺していた。そこへ突如茂吉が夜中になって帰ってくる、飛行機のエンジントラブルだという。喜ぶ妙子に茂吉はお茶漬けを食べたいという。二人で台所に立って準備をし、お茶漬けを食べる二人。お互いに心のうちを吐露し、二人は和解する。夫婦とはお茶漬なのだと妙子を諭す茂吉。妙子は初めて夫のありがたさ、結婚生活のすばらしさに気づく。一方、お見合いを断った節子は若い岡田登(鶴田浩二)にひかれていくのだった―(「Wikipedia」より)。

お茶漬の味 vhs0.jpg 1952(昭和27)年公開の小津安二郎監督作で、野田高梧、 小津安二郎のオリジナル脚本ですが、小津が1939年に中国戦線から復員したあとの復帰第一作として撮るつもりだったのが「有閑マダム連がいて、亭主をほったからしにして遊びまわっている」という内容が内務省の検閲に引っ掛かってお蔵入りになっていたのを、戦後に再度引っ張り出して改稿したものであり、その際に、主人公夫婦がよりを戻す契機となったのが夫の戦争への応召であったのを、ウルグアイのモンテビデオ赴任に変えるなどしています。
          
お茶漬の味 saburi1.jpg 木暮実千代の演技の評価が高い作品ですが、茂吉を演じた佐分利信もいい感じではないでしょうか。奥さんの言いなりになっているようで、実は全て分かった上での行動や態度という感じで、最後の和解のシーンも良かったです。その後、木暮実千代演じる妙子が雨宮アヤ(淡島千景)ら女友達に夫婦和解の様子を伝え、妙子自身大泣きした一方で、茂吉の方も「わかっている」と言って目に涙を溜めて泣いたと夫婦2人で泣いたような話をしますが、この辺りは妙子が話を作っているのではないかなあ(彼女の性格上、自分だけが泣いたことにはしたくなかったのでは)。

お茶漬の味 鶴田・津島2.jpg 個人的には、この打ち明け話のシーンが無く、そのまま節子(津島恵子)と岡田(鶴田浩二)が連れだって歩くシーンで終わっても良かったようにも思いましたが、この"のろけ話"ともとれる話を節子が実質2度も聞かされるところが軽くコメディなのだろなあ。妙子から"旦那さんの選び方"の講釈を受けた上で(そうなったのは偶々なのだが)、ラストの岡田と連れだって歩くシーンに繋がっていきます。

津島恵子/鶴田浩二

お茶漬の味 野球観戦2.jpgお茶漬の味 パチンコ.jpg 女性3人でのプロ野球観戦(後楽園球場でのパ・リーグ試合でバッターボックスには毎日オリオンズの別当薫が。後楽園球場は当時、毎日オリオンズなど5球団の本拠地だった)や、競輪観戦(後楽園競輪場。1972年に美濃部亮吉都知事の公営ギャンブル廃止策により休止)、パお茶漬の味 笠智衆.jpgチンコなど(パチンコは当時立ったまま打つものであり、「東京暮色」('57年)でも笠智衆が立ったまま打つシーンがある)、昭和20年代後半当時の風俗をふんだんに盛り込んでいるのもこの作品の特徴で、パチンコ屋で偶然再会した茂吉の戦友・平山定郎役の笠智衆が、パチンコ屋の親爺でありながらパチンコが流行るのを「こんなもんが流行っている間は世の中はようならんです。つまらんです。いかんです」と言っているのもおかしいです(しかし、笠智衆は軍歌しか歌わないなあ。あと詩吟か(「彼岸花」('58年)))。

 歌舞伎座でお見合いというのも、当時としては、こういうセッティングの仕方はよくあったのではないでしょうか。節子(津島恵子)はその見合いをすっぽかして茂吉と岡田の競輪観戦に勝手に合流し、仕舞にはパチンコにまでついてきてしまうわけですが...(お茶漬の味 鶴田・佐分利・津島.jpg競輪レースの模後楽園球場 競輪場.jpg様を"執拗に"撮っているのが興味深い。「小早川家の秋」('61年/東宝)に出演した森繁久彌が、競輪シーンが台本にあるの見て「小津には競輪は撮れない」と言ったそうだが、ここで既にしっかり撮っている。この作品では、隣り合っていた後楽園球場と後楽園競輪場の両方でロケをやったことになる)。
後楽園球場・後楽園競輪場(1976年)

津島恵子/鶴田浩二    司葉子/佐田啓二(「秋日和」('60年))
お茶漬の味 津島・鶴田.png秋日和 司葉子 佐田啓二.jpg その後、パチンコに夢中で帰りの遅くなった岡田(鶴田浩二)と節子(津島恵子)がラーメン屋のカウンターで並んでお茶漬の味 カロリー軒.jpgラーメンを食べる場面は、夫婦でお茶漬けを食べるメインストーリーの方のラストの伏線と言えなくもありません。男女が並んでラーメンを食べる場面は後の「秋日和」('60年)におけるアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)も同様であり、この2人はやがて結婚することから、岡田と節子もそうしたことが暗示されているのでしょうか。因みにラーメン屋の名前は「三来元」で両作品に共通しています(とんかつ屋「カロリー軒」も小津映画の定番の店名)。

津島恵子/淡島千景   佐分利信/鶴田浩二
お茶漬の味2.jpgお茶漬の味 佐分利・鶴田.png 木暮実千代の他、淡島千景、上原葉子(上原謙の妻)、津島恵子らの演技も楽しめるし、ちょい役ながら当時19歳の北原三枝(後の石原裕次郎夫人)もバーの女給役で出ていて、鶴田浩二や笠智衆らの演技も同様に楽しめます。でも、やはり、真ん中にいる佐分利信が安心して見ていられるというのが大きいかも。何のことはないストーリーですが、観終わった後の印象はそう悪くはない作品でした。

お茶漬の味 0.jpg

Ochazuke no aji (1952)
Ochazuke no aji (1952) .jpg「お茶漬の味」●制作年:1952年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤一郎●時間:115分●出演:佐分利信/木暮実千代/鶴田浩二/笠智衆/淡島千景/津島恵子/三宅邦子/柳永二郎お茶漬けの味 dvd_.jpg/十朱久雄/望月優子/設お茶漬の味 北原.jpg楽幸嗣/志賀直津子/石川欣一/上原葉子/北原三枝●公開:1952/10●配給:松竹●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(90-08-19)(評価:★★★☆)併映:「東京の合唱(コーラス)」(小津安二郎)お茶漬の味 [DVD]」 鶴田浩二/北原三枝(バーの女給役)
 

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「晩春」より幅のあるテーマ。深みがあり、号泣があり、ユーモアもあり。

麦秋 dvd90.jpg 麦秋 dvd V.jpg
麦秋 [DVD] COS-022」「麦秋 [DVD]

 北鎌倉に暮らす間宮家は三世帯家族で、初老の植物学者・周吉(菅井一郎)とその妻・志げ(東山千栄子)、長男で医師の康一(笠智衆)とその妻・史子(三宅邦子)と幼い息子たち2人、それに長女で会社員の紀子(原節子)が生活している。紀子は28歳独身で、その嫁ぎ先が家族の懸念材料になっている。周吉の兄・茂吉(高堂國典)が大和から上京し、なかなか嫁に行かない紀子を心配する一方、周吉にも引退して麦秋 00.jpg大和へ来るよう勧めて帰っていく。紀子の会社の上司である佐竹(佐野周二)も彼女に、商社の常務で旧家の次男、という男性を紹介するという。家族はそれを歓迎するが、年齢が数えで42歳だと分かると志げと史子は不満を口にし、康一はそれを「贅沢は言えない」と非難する。康一の勤務先の医師・矢部謙吉(二本柳寛)の母親・たみ(杉村春子)の耳にもこの話が入る。矢部は戦争で亡くなった間宮家の次男麦秋 sugimura.jpg・省二とは高校からの友人だが、妻が一昨年に幼い娘を残して亡くなっており、たみが再婚相手を探していた。やがて、矢部が秋田の病院へ転任することになり、出発前夜、矢部家に挨拶に訪れた紀子は、たみから「あなたのような人を息子の嫁に欲しかった」と言われ、それを聞いた紀子は「あたしでよ麦秋 笠智衆 .jpgかったら...」と、矢部の妻になることを承諾する。急な展開に間宮家では皆が驚き、緊急家族会議が開かれ、紀子は詰問されるが、彼女は自分の決意を示して譲らず、皆も最後には諒解する。紀子の結婚を機に、康一は診療所を開業し、周吉夫婦は大和に隠居することにし、間宮家はバラバラになることとなった。初夏、大和の家で、周吉と志げが豊かに実った麦畑を眺めながら、これまでの人生に想いを巡らせていた―。

笠智衆(中央)/原節子(背中)

麦秋 1951 hara.jpg 1951(昭和26)年10月公開の小津安二郎監督作で、原節子が「紀子」という名の役(同一人物ではない)を演じた所謂「紀子三部作」の第1作「晩春」('49年)に続く2作目(3作目は「東京物語」('53年))。「晩春」が広津和郎「父と娘」を原作としていたのに対し、この作品は原作が無く、野田高梧、小津安二郎の共同脚本。「東京物語」も同じパターンですが(特定の原作無しの共同脚本)、野田高梧は「『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う」と言っていたそうです。

麦秋 0.jpg 「晩春」同様、行き遅れの娘が嫁に行くまでを描いた話ですが、同時に、戦前型の大家族の終焉を描いており、そうした意味では、テーマが拡がっていて(テーマに幅が出て)、「東京物語」にも通じるものがあります。また、大家族の終焉は"幸福な時"の終わりとも重なり、それはそのまま、家長夫婦には後に残されたものは、人生を振り返ることしかない、つまり「死」しかないという無常感にも連なるものがあります。小津自身も、本作において「ストーリーそのものより、もっと深い《輪廻》というか《無常》というか、そういうものを描きたいと思った」と発言しています(幅と併せて、深みのあるテーマと言っていいか)。

麦秋  hara.jpg 原節子を美しく撮っています。この映画が公開された時、小津安二郎と原節子は結婚するのではないかという予測が週刊誌などに流れたそうですが、結局、小津安二郎は生涯独身を通しました。小津自身は後に、結婚しようと思った相手がいなくはなかったが、(シャイな性格で)この映画のようなきっかけを与えてくれる人がいなかったという発言もしていたように思います。ということは、(映画の中では)原節子の方に自分を重ねているのでしょうか。因みに、小津は自分の母親が死ぬまで母親と一緒に暮らし、母親が亡くなった翌年に自らも亡くなっていますが、そう考えると、「晩春」における原節子演じる"紀子"にも自分を重ねていたような気がしなくもないです。

麦秋 原節子.jpg麦秋における原節子の号泣.jpg この映画の原節子演じる紀子は、終始誰に対しても明るいです。それだけに、ラスト近くで一人号泣する場面は重かったです(このそれまでの感情の抑制が一気に剥がれたように急変する手法は「東京物語」でも使われた)。この場合、幸福な大家族の終焉というこの作品のテーマを一人で負ってしまった感じでしょうか。逆『麦秋』(1951年) .jpgに言えば、テーマを原節子の号泣に象徴的に集約させた小津の手腕は見事だと言うべきでしょう。

 小津作品のベストテンでは、「晩春」と上位を争う作品ですが、「晩春」は理屈を論じる上で興味深い作品であるものの("壺"は何を意味するのか、とか)、結局のところ自分自身もよく分からないという部分もあり、一方、この「麦秋」にも、なぜ紀子は突然結婚を決意したのかという大きな謎がありますが、すでに指摘されているように、戦争に行ったきりの次兄の不在とその次兄と親しかった寡夫、彼が語る次兄からの最後の手紙のエピソードとその手紙を譲ってもらえないかという紀子―といった具合に考えると、繋がっていくように思えます。その手紙に麦の穂が同封してあったというのが、タイトルにも絡んで象徴的であり、個人的には「晩春」よりもやや上、「東京物語」に匹敵する評価です。

「麦秋」笠智衆.jpg 但し、「紀子三部作」の中では個人的には後の方で観たため、最初は、笠智衆が紀子(原節子)の兄(職業は医師)を演じているというのが、原節子の父親を演じた「晩春」と比べるとやや意外な感じもして、更には東山千栄子と老夫婦を演じた「東京物語」に対して、ここでは笠智衆は東山千栄子の長男ということになっているため、笠智衆が出てくる度に、そのギャップ修正に慣れるのにコンマ何秒か要したかも。三宅邦子と夫婦で男の子が2人というのは、この作品で子供達が演じるコミカルな様子ごと「お早よう」('59年)に引き継がれています。

笠 智衆

麦秋 2.jpg 他にもコミカルな要素はあって、例えば、紀子とその結婚を知らされた友人・田村アヤ(淡島千景)との会話で、アヤが、紀子が秋田に行くことになったことに「よく思いきったわね。あんたなんて人、とても東京を離れられないんじゃないかと思ってた」といい、「だって、あんたって人、庭に白い草花かなんか植えちゃって、ショパンかなんかかけちゃって、タイルの台所に、電気冷蔵庫かなんか置いちゃって、こう開けるとコカ・コーラかなんか並んじゃって、そんな奥さんになるんじゃないかと思ってたのよ」と早口でまくしたてるのが可笑しいです。彼女が言ってるのが、昭和26年の女性の「憧れる結婚のイメージ」だったのでしょうか(因みに、日本でテレビ放送が始まる2年前)。それに比べると、謙吉との結婚は、医者との結婚とはいえ、子持ちの勤務医でしかも赴任先が秋田ということで、やはりアヤには意外だったのだろなあ。

麦秋 杉村春子.jpg この映画でもう1人号泣したのが、杉村春子演じる謙吉の母親で、紀子の結婚の承諾で信じられない僥倖とばかりに泣くわけですが、やはりこの人の演技はピカイチでした。こうした演技があるから、やや突飛とも思える展開にもリアリティが感じられるのかも。号泣して「ありがとう」のすぐ後に「ものは言ってみるもんね、もし言わなかったらこのままだったかもしれなかった」と思わず本人の前で言ってしまうところは、それを言わせている脚本の妙でもありますが、杉村春子が演じることを前提にこうした台詞を入れているのでしょう。杉村春子は出演しているどの作品でも上手いですが、この作品における彼女は「東京物語」の彼女以上にいいです。
杉村春子

麦秋 1.jpg「麦秋」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田麦秋 1951  .jpg雄春●音楽:伊藤宣二●時間:124分●出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛/佐野周二/村瀬禪/城澤勇夫/高堂国典/高橋とよ/宮内精二/井川邦子/志賀真津子/伊藤和代/山本多美/谷よしの/寺田佳世子/長谷部朋香/山田英子/田代芳子/谷崎純●公開:1951/03●配給:松竹(評価:★★★★☆)
佐野 周二/原 節子/淡島 千景            佐野 周二           笠 智衆/宮口 精二
麦秋 佐野 周二 原節子 淡島千景 .jpg麦秋 佐野 周二 .jpg笠智衆 宮口精二 小津安二郎【麦秋】スチール写真.jpg

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その後10年間隔で繰り返される日経新聞連載の"脱力"小説。
化身 上.jpg 化身 下.jpg    
化身〈上・下〉 (集英社文庫)』〔'89年〕 東陽一監督「化身」(1986)藤竜也/黒木瞳/阿木曜子
単行本(上・下)
化身 (上・下).jpg 妻と別れ独り身である中年の文芸評論家・秋葉は、銀座のクラブに勤める若いホステス・霧子を知ってから、次第に彼女を自分の好みの女に変身させることに夢中になっていく―。

 一種のピグマリオン小説で、田舎臭さが消えすっかり女に磨きがかかった霧子は、キャリア意識にも目覚め、当然の帰結として秋葉のもとを去っていくのですが、その結末に至るまでが、主人公の前の愛人・史子という女性をキーパーソンとして噛ませてミステリ調にしているものの、結構だらだらしていて、著者の初期作品のような緊張感が感じられませんでした。

 東京在住の主人公は、京都の大学の講師もしていて、月に何度か霧子を伴って京都に行ったり、仕舞いには文化評論の取材にかこつけて 彼女とヨーロッパを旅行する―。しゃれた宿に泊まって旨いもの食って...、合間に主人公の専門分野である世阿弥の話やフランス文学の講釈が入って、この"小洒落た"雰囲気は、中年男性向けハーレクインロマンスなのだろうか。霧子が鯖の味噌煮が好きだからと言って、それを銀座や赤坂で食べるということになると、「通」を気取っているようにしか思えない、と突っ込みを入れるとキリがなくなります。

0映画「化身」.jpg東陽一監督、藤竜也、黒木瞳主演「化身」ド.jpg 「やさしいにっぽん人」('71年)、「サード」('78年)の東陽一監督、「愛のコリーダ」('76年)の藤竜也、宝塚を退団した黒木瞳主演で「化身」('86年/東映)として映画化されています。テレビで観たため印象が薄く、昼メロが映画になったようなイメージしかないのですが、黒木瞳(「黒木瞳」という芸名は同郷の五木寛之が命名した)は宝塚退団後の最初の映画出演で、この主演デビュー作で同年の日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しています。映画評論家の水野晴郎氏(1931-2008/76歳没)が「熟年、実年、男なら誰しもどこかで心にふれる映画。東陽一監督、風俗描写をひと波こえて、これは男心を語ったいい映画です。東映の女優裸シリーズの中ではいちばんいい出来」などと評し、興行的にも当初の予想を上回る大ヒット作となったようですが、個人的には原作がイマイチに思えるので...(黒木瞳はともかく、どうして阿木燿子までベッドシーンを演じなければならなのか)。

 原作小説は'85年に日本経済新聞に連載されたもので、'95年連載の『失楽園』、'05年連載の『愛の流刑地』に先行するパターンです(ちょうど10年間隔)。そして、『失楽園』も森田芳光監、役所広司、黒木瞳(11年を経て再登場)主演で映画化されています('97年/東映)。(『愛の流刑地』も、鶴橋康夫監督、豊川悦司、寺島しのぶ主演で映画化された('07年/東宝)。)

 日経の朝刊の最終面に「愛ルケ」(と略すらしい)が掲載されているのを見て、毎朝いつも軽い脱力感を覚えていた自分としては、読者の年齢層は同じでも、20年の歳月の間に読者そのものは入れ替わっているはずなのに何れもベストセラーになっていることを思うと、こうした小説に惹かれる男性の精神構造というのはあまり変わっていないのだなあという気がしました。

「化身」●制作年:1986年●監督:東陽一●●脚本:那須真知子●撮影:川上皓市●音楽:加古隆(主題歌:髙橋真梨子「黄昏人」)●原作:渡辺淳一●時間:105分●出演:藤竜也/黒木瞳/梅宮辰夫/淡島千景/三田佳子/阿木燿子/青田浩子/永井秀和/加茂さくら/小倉一郎●公開:1986/10●配給:東映(評価:★★)

 【1989年文庫化[集英社文庫(上・下)]/1996年再文庫化[講談社文庫(上・下)]/1996年単行本[角川書店]/2009年再文庫化[集英社文庫(上・下)]】

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ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞作。家族をテーマにその心情の機微を描くのは日本映画の得意分野?

「黄色いからす」台湾.jpg「黄色いからす」1957.jpg 「黄色いからす」21.jpg
黄色いからす」[Prime Video]
台湾版DVD

「黄色いからす」22.jpg 吉田一郎(伊藤雄之助)が15年ぶり中国から戻った時、妻マチ子(淡島千景)は鎌倉彫の手内職で息子・清(設楽幸嗣)と細々暮していた。博古堂の女経営者・松本雪子(田中絹代)は隣家のよしみ以上に何かと好意を示していたが、雪子の養女・春子(安村まさ子)と清は大の仲良し。一郎は以前の勤務先・南陽「黄色いからす」cs.jpg商事に戻り、かつて後輩だった課長・秋月(多々良純)の下で、戦前とまるで変った仕事内容を覚えようと必死。清は甘えたくも取りつくしまがない。一年が過ぎ、吉田家には赤ん坊が生れ、光子と名付けられたが、清は一郎の愛情が移ったのに不満。小動物小昆虫の飼育で僅かにうさを晴らすが、一郎にそれまで叱られる。ある日、清らは上級生と喧嘩の現場を担任の靖子先生(久我美子)に見つかる。その晩、会社の不満を酒でまざらして一郎が戻った処に、喧嘩仲間の子のお婆さん(飯田蝶子)が孫がケガしたと文句をつけてきた。身に覚えのない清だが、一郎に防空壕へ閉め込まれてしまう。翌日は清と雪子、春子3人のピクニックの日。猟銃で負傷したカラスの子を幼い2人は自分らの〈動物園〉に入れようと約束した。留守中、吉田家を訪れた靖子は、清の絵に子供の煩悶と不幸が現われていると語り、マチ子は胸をつかれる。その夜は機嫌のいい一郎、清も凧上げ大会に出す大凧をねだるが、カラスのことは話せなかった。次の日、靖子先生が近く辞めると聞いた清は落胆。加えて留守番中、上級生の悪童らにからかわれて喧嘩となり、赤ん坊の光子まで傷を負う。マチ子の驚き、一郎の怒り、揚句の果て可愛いカラスまで放り出され凧の約束も無駄、清は「お父さんのうそつき、死んじまえ」と書いた紙を残し、大晦日の晩、靖子先生に貰ったオルゴールを抱いて家出し、林の中や海辺を彷徨う―。
  
「黄色いからす」31.png 1957年公開の五所平之助監督作で、1958年・第15回「ゴールデングローブ賞」の「外国語映画賞」受賞作。木下惠介の「二十四の瞳」('54年/松竹)や市川崑監督の「鍵」('59年/大映)が同賞を獲った時もそうですが、この頃のゴールデングローブ賞の「最優秀」外国語映画賞は(賞のワールドワイドな権威づけを図ってのことと思うが)一時に4作品から5作品に与えられることがあり、この「黄色いからす」も受賞作3作のうちの1作。それでも凄いことには違いありません、ただし、日本映画でこのレベルのものはまだまだ多くあるように思われ、それだけ、家族をテーマにその心情の機微を描いてみせるのは、昔から日本映画の得意分野(?)だったのかなとも思ったりします。

 30代の淡島千景(1924年生まれ)、40代の田中絹代(1909年生まれ)、20代の久我美子(1931年生まれ)の3人の女優の演技が楽しめる映画でもありますが、淡島千景の夫を気遣いながら、夫と子の会話の橋渡しを(時におろおろしながら)する演技は、妻と母の心情を旨く表現できていたと思いました。田中絹代は磐石の安定感、久我美子は女学生役から脱して今度は先生に、といったところでしょうか。

 伊藤雄之助(黒澤明監督「生きる」('52年/東宝)の小説家役が印象的)は役者としては強面な感じで、この父親の役はどうかなと思いましたが、観ているうちに次第に嵌っているように思えてきました。会社に戻ってきたら、かつての自分の部下が上司になっていて、彼の言うには仕事の「システム」がもう昔とは違うと。何だか、今の企業社会の「年上の部下」(「年下の上司)問題や「デジタルデバイド」の問題とダブるところがあるようにも思えました(現代で15年仕事から遠ざかったら、完全復帰は絶対無理かも)。

「黄色いからす」23.jpg この作品も、最後は何とかハッピーエンド。親たちの方が自分たちの非を悟るという、「子どもの権利」という意味でも、わりかし今日的課題を孕んだ映画でした(昔は「教育ママ」と言われて揶揄のレベルだったものが、今日では「教育虐待」として虐待の一類型とされる時代だからなあ)。

 とまれ、妻が夫に戦争の傷痕から来た家庭の危機を涙と共に訴えたことで、お隣の雪子に連れられ清が戻って来た時、一郎も始めて清を力強く抱きしめることに。明けて元旦、靖子先生に送る、と清の描く画も今は明るい色調となり、凧上げに急ぐ一郎と清の足どりも軽く弾む―。やや甘い気もしますが、この映画を観た神保町シアターの特集のタイトルが「叙情派の巨匠―映画監督・五所平之助」とのことで、この監督らしい作品と言えばそういうことになるのかもしれません。

「黄色いからす」32.jpg「黄色いからす」●制作年:1957年●監督:五所平之助●製作:加賀二郎/内山義重●脚本:館岡謙之助/長谷部慶次●撮影:宮島義勇●音楽:芥川也寸志●時間:103分●出演:淡島千景/伊藤雄之助/設楽幸嗣/田中絹代/安村まさ子/久我美子/多々良純/高原駿雄/飯田蝶子/中村是好/沼田曜一●公開:1957/02●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-19)(評価:★★★☆)

淡島千景...吉田マチ子
伊藤雄之助...夫一郎
田中絹代...松本雪子
久我美子...芦原靖子


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