【2094】 △ 黒澤 明 「素晴らしき日曜日 (1947/07 東宝) ★★★

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黒澤映画唯一のホームドラマ。映像的には興味深いが、映画的にはイマイチか。

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素晴らしき日曜日【期間限定プライス版】 [DVD]

素晴らしき日曜日 02.jpg 戦争の傷跡が残る東京で、職についてはいるが友人宅に居候中の雄造(沼崎勲)と、大家族の姉の家に同居中の(中北千枝子)のカップルは、一緒に住むこともままならず、週に一度日曜日に会えることだけが唯一の楽しみだった。手持金僅か35円ながらも、楽しいランデヴーを計画する2人の前に、切なく惨めな現実が立ちはだかる。真面目に生きることの虚しさに失望しそうになりながらも、2人は喫茶店を開く夢を語り合う―。

 映画における35円は、現在の貨幣価値に換算すると約3,500円だそうですが、昌子が「これなら入場無料よ」と言って雄造を引き連れて入った「新興模範住宅」の展示場、建売が10万円になっているなあ。部屋の中で未来の生活を夢見て浮き浮きしている昌子と、「夢じゃ腹は膨れない」と浮かない気分の雄造とが対照的です。

 結局2人は聞きつけた話から賃貸住宅へ回りますが、こちらは終日陽の当たることのない最悪の部屋で、それでも家賃600円。2人の給料を合せても1,200円なので、どのみち借りるのは難しい。雄造は何とか気を取り直して、子どもたちの野球に混ぜてもらうと、打球が饅頭屋を直撃して、饅頭代10円を賠償させられて残金は25円に。友人が経営するキャバレーに行ってみると、今度はタカリに間違われる始末となります。

素晴らしき日曜日 03.jpg キャバレー(ダンスホールのような感じ)に出入りする羽振りの良さそうな人たちと、雄造が通された部屋にいたタカリ屋、街を見下ろす高台で持参のおにぎり昼食を取る2人の前に現れた少年浮浪者、等々、"戦後復興"も人によってその歩みに早い遅いがあったことを改めて窺わせます。

素晴らしき日曜日 アパート.jpg 気分を変えて上野動物園に行く2人ですが、入園料を払うと残りは23円で、しかも突然の雨降り。昌子が10円で鑑賞できるという東京公会堂でのコンサートのポスターを見つけて上野駅から国電に飛び乗って会場に駆け込むも、安いチケットはダフ屋に買い占められており、頭に来た雄造は喧嘩騒ぎまで起こし、絶望感からアパートに引き籠って不貞腐れる羽目に。

素晴らしき日曜日 仮想コンサート.jpg 昌子もそんな彼を見ているのが辛くて一旦はアパートを出ていきます。しかし、また戻って来て、2人で喫茶店で将来の夢を語り合うも、コーヒー1杯5円、茶菓子1個5円のはずがミルクコーヒーは10円だったみたいで、遂には所持金不足に―といった具合に、話は明るくなったり暗くなったりしながらも、所持金の消費と共に結局はどんどん暗くなっていって、この後どうなるかと思ったら、最後で思い切った演出の転換が行われています(それまでのホームドラマ的な演出が、途中から完全に舞台劇のような演出及び場面設定に切り替わる)。

素晴らしき日曜日 ラスト.jpg 黒澤明が撮った唯一のホームドラマとも言われている作品で、黒澤明と小津安二郎の映画の作りや演出の違いを比べようと思っても、片や歴史物や社会物或いはスペクタル娯楽作品だったりし、片や"その時点での"現代物ホームドラマばかりで、状況設定が違い過ぎて比較しにくのですが、この作品だと比較可能かもしれません。

素晴らしき日曜日 01.jpg素晴らしき日曜日02.jpg この作品を観て思うのは、やはり黒澤は小津のように淡々とした感じでは終わらないなあと。むしろ"終われない"のかも。最後、まさに交響楽を編むようなドラマにしないと収まらないのでは。ラストの無人のコンサート広場での仮想演奏会の場面もそうだし、中北千枝子演じる昌子がスクリーンの中から観客に向かって拍手を求めるシーンなどはまさにそのように思いました。

 このシーン及び演出の終盤からの切り替えは、主演の沼崎勲が撮影中に雑踏恐怖症になったのも一因としてあるようですが(コンサート広場も日比谷の野外音楽堂を模したセットらしい)、個人的には、前半から中盤にかけての街中のロケシーンの素晴らしき日曜日 上野公園1.jpg方が、時代の雰囲気やシズル感があって良かったように思います。走る2人を追いかけるカメラの躍動感が黒澤映画っぽいです。また、上野公園の入り口階段傍の石垣や、上野駅の入り口付近の様子が今とあまり変わっていないことにも気付かされました。

素晴らしき日曜日 日比谷公会堂.jpg この作品を"感動作"として推す人も多いかと思いますが、自分としては、「映像」的には貴重なシーンが多くあり興味を引いたものの(当時流行った「街頭写真屋」などは当然のことながら役者が演じているのだが)、「映画」的には黒澤作品としてはイマイチで、あまり上野公園.jpg彼の得意ではないジャンルの作品だったような気がします。

「素晴らしき日曜日」●制作年:1947年●監督:黒澤明●製作:本木荘二郎●脚本:植草圭之助●撮影:中井朝一●音楽:服部正●時間:108分●出演:沼崎勲/中北千枝子/渡辺篤/中村是好/内海突破/並木一路/菅井一郎/清水将夫/小林十九二/水谷史朗/日高あぐり/有山緑/堺左千夫/河崎堅男/森敏●公開:1947/06●配給:東宝●最初に観た場所:銀座並木座 (91-04-07)(評価:★★★)●併映:「野良犬」(黒澤明)

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