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原作の雰囲気は伝えていたか。勝新は熱演、伊藤雄之助は怪演。
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とむらい師たち [DVD]」 勝新太郎/藤村有弘

 区役所戸籍係(藤本有弘)の窓口を訪ねた"ガンめん(顔面)"(勝新太郎)は、死亡届が来るなり死者の元に駆けつける。火葬場従業員の伜に生れたデスマスク屋のガンめんは、死人の顔に石膏をちぎっては投げつけ、できたデスマスクを葬式で飾る。そこに葬儀屋の正葬社・米「とむらい師たち」伊藤雄之助.jpg倉(遠藤辰夫)と安楽社・稲垣(財津一郎)が駆けつけ仕事の取り合いを始める。ガンめんの家にはこれまでに取ったデスマスクが陳列されている。ガンめんは助手の霊柩車運転手"ラッキョ"(多賀勝)に加え、戦地ガダルカナル帰りの美容整形医 "センセ"(伊藤雄之助)を新たに仲間に加え、死顔美容を施す商売を興して軌道に乗せる。正葬社から賄賂を貰って優先的に死亡先の連絡をしていたことが判明して区役所を辞めた"ジャッカン"(藤村有弘)もマネージャー役で加わり、「死んだらルンペンも大統領も一緒や」というガンめんの考えに共感した金持ちの社長も支援者になる。死顔美容、デスマスクを備えた「国際葬儀協会(国葬)」を設立、事業は順調に発展、生前の葬儀予約も"社長"(藤岡琢也)から取る。 ある日、センセが人を殺したと電話して、服飾屋とく(西岡慶子)に中絶手術を施して罪の意識に悩むセンセを見たガンめんは、水子供養イベントを思いつく。この計画は雑誌社の取材も受け、本番でヘリコプターから落として膨らました特大ビニール製水子「とむらい師たち」007.jpg地蔵は効果満点、中之島公園での水子供養の一大イベントがは大成功し、ガンめんたちは大儲けし、勢いに乗ってテレビで葬儀コマーシャルも流す。ラッキョ、センセ、ジャッカンは次にサウナ風呂もある葬儀会館を建て、葬儀を完全なビジネスにする計画を立てるが、ガンめんは「葬式は心でするもの」という自分の信念に背いていくこの計画に乗れず、3人と別れて出直す決心をする。ほとんど一文無しになったガンめんは、'70年に大阪で予定されている万国博の向こうを張ることを思いつき、死者の祭典である葬儀博を開催しようとする。しかし、資金提供者を得られず、協力者も紙芝居の絵描きだけ。ガンめ「とむらい師たち」01.jpgんは地下に広場を作り、デスマスクの陳列や戦没者絵図、地獄絵作りなど死の世界の再現に打ち込む。一方、ジャッカンが館長となった国葬会館では冷凍室まで設置され、センセは併せて立ち上げた「死顔様教団」の教祖となっていた。ある日、地下のガンめんは大衝撃を感じて地上に出た。地上は水爆でも落ちたのか、一面瓦礫と化していた。世界全部が葬博や、と狂ったように叫びながら飛び出したガンめん。その姿もいつしか消えて、あたり一面に死の静寂が包んでいた―。

「とむらい師たち」02.jpgとむらい師たち 野坂昭如y.jpg野坂昭如11.jpg '68(昭和43)年公開の三隅研次監督作で、'66(昭和41)年発表の野坂昭如の原作は、高度成長期において人の「死」というものが社会から隠蔽されようとされている風潮にアンチテーゼを投げかけた作品であり、「エロ事師たち」('63年発表)同様、スペシャリスト集団の男たちの奮闘をユーモアと哀切を込めて描いています。

藤本義一 2.jpg 脚本は藤本義一。映画の中で、「国際葬儀協会」の略称が「国葬」で、"ガンめん"(勝新太郎)が「この間あった元総理"国葬"とは違いまっせ」と客に説明するのは、1967年10月31日、吉田茂元総理が亡くなって11日後に行われた戦後初の(閣議決定で行われることになった)国葬のことで、原作発表の時点では吉田元総理は存命のため、原作には無いセリフです(今年['22年]9月27日に銃撃された安倍晋三元総理の国葬が(これも閣議決定で)55年ぶりに行われた)。

 原作では、ガンめんが新興宗教を立ち上げ、先生の助言のもと運営していくのですが、映画ではガンめんは"センセ"や"ジャッカン"らの金儲け主義に反発して、途中から独自行動をとるようになっていて、この辺りは脚本の藤本義一の考えが入っているのでしょうか。それとも、勝新太郎の世間的イメージを考慮したのか。

「とむらい師たち」勝5.jpg それでも、原作の雰囲気は伝えていたかと思います。基本的に喜劇であり、"ガンめん"の死人の顔に石膏をちぎっては投げつけるデスマスク作りは、現実にはちょっとあり得ないものですが、それを勝新太郎が生き生きとと熱演しています。また、「国葬」の電話番号が「307-4942(みんな、よく死に)」)というのが笑えます。伊藤雄之助が国葬で教祖的存在である"センセ"を怪演し、藤村有弘(この人の真っ先に思い浮かぶイメージは、NHK人形劇「ひょっこりひょうたん島」(原作:井上ひさし、山元護久)のドン・ガバチョ)が区役所職員からいけいけの国葬マネージャーに転じた"ジャッカン"を演じていて、いずれもハマリ役。水爆でも落ちたのか、すべてが灰塵と化すというカタストロフィ的結末は原作通りです(ただ、このシーンは当時の映像技術的にやや弱いか)。

辛口喜劇のススメ.jpg 先に取り上げた山本周五郎原作、川島雄三監督の「青べか物語」(1962年/東宝)と同じく神保町シアターの特集「辛口喜劇のススメ」で観ましたが、こちらもなかなかDVD化されず、2014年にやっとDVD化された作品です。

 因みに、野坂昭如原作の映画化作品には、今村昌平監督の「『エロ事師たち』」より 人類学入門」('66年/日活、2004年DVD化)、千野皓司監督の「極道ペテン師」(原作は『ゲリラの群れ』)('69年/大映、未DVD化)、石田勝心監督の「頑張れ!日本男児」(原作は『アメリカひじき』)('70年/東宝、未DVD化)、増村保造監督の「遊び」(原作は『心中弁天島』)('71年/大映、2001年DVD化)などがありますが、高畑勲監督のアニメ映画「火垂るの墓」('88年/東宝)の高い認知度に比べると未DVD化のものがあったりして観る機会が得にくく、認知度は落ちるというのが実態かと思われ、やや残念です。

「とむらい師たち」勝.jpg「とむらい師たち」●制作年:1968年●監督:三隅研次●製作:田辺満●脚本:藤本義一●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:野坂昭如●時間:89分●出演:森繁久彌/東野英治郎/南弘子/丹阿弥谷津子/左幸子/紅美恵子/富永美沙子/都家かつ江/フランキー堺/千石規子/中村メイコ/池内淳子/加藤武/中村是好/桂小金治/市原悦子/山茶花究/乙羽信子/園井啓介/左卜全/井川比佐志/東野英心/小池朝雄/名古屋章●公開:1968/04●配給:大映●最初に観た場所:神保町シアター(22-11-10)(評価:★★★☆)

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原作を新藤兼人がサスペンス時代劇風に。宮川一夫のカメラが映す肌が4Kで映えた。

刺青(1966).jpg刺青1966.jpg 刺青 4K デジタル修復版.jpg 刺青 若尾.jpg
「刺青」チラシ/「刺青 [DVD]」/「刺青 4K デジタル修復版 [Blu-ray]」若尾文子

刺青 satou1.jpg 質屋の娘・お艶(若尾文子)は、ある雪の夜、手代の新助(長谷川明男)と駈け落ちした。この二人を引き取ったのは、店に出入りする遊び人の権次夫婦(須賀不二男・藤原礼子)だった。優しい言葉で二人を迎え入れた夫婦だったが、権次は実は悪党で、お艶の親元へ現われ何かと小金を巻きあげた挙句に、お艶を芸者として売り飛ばし、新助を殺そうとしていた。そんなこととは知らないお艶と新助は、互いに求め合うまま狂おしい愛欲の日々を送っていた。しかし、そんなお艶の艶めかしい姿を、権次の下に出入りする刺青師の清吉(山本學)は焼けつくような眼差しで見ていた。ある雨の夜、権次は計画を実行に移し、殺し屋・三太(木村玄)を新助にさし向けるが、必死で抵抗した新助は、逆に三太を短刀で殺してしまう。同じ頃、土蔵に閉じこめられていたお艶は、清吉に麻薬をかがさ刺青 1966es.jpgれて気を失い、その白い肌に巨大な女郎蜘蛛の刺青を施される。やがて眠りから醒めたお艶は、刺青によって眠っていた妖しい血を呼び起こされたように瞳が熱を帯びて濡れていた。それからというものお艶は辰巳芸者・染吉と名を改め、次々と男を酔わせてくが、お艶を忘れ切れない新助は嫉妬に身を焦がし、お艶と関係を持った男を次々と殺害、遂にある晩、短刀を持ってお艶に迫る。だが新助にはお艶を殺せず、逆にお艶が新助を刺す。一部始終を垣間見ていた清吉は、遂に耐え切れず自らが彫った女郎蜘蛛を短刀で刺し、自らも命を絶つ―。

刺青 籾山書店.jpg 原作「刺青(しせい)」は、1910(明治43)年11月、同人誌の第二次『新思潮』に発表された谷崎潤一郎の短編小説で、作者本人が処女作だとしていたという作品です(単行本は、翌1911(明治44)年12月に籾山書店より刊行)。皮膚や足に対するフェティシズムと、それに溺れる男の性的倒錯など、その後の谷崎作品に共通するモチーフが見られます。

『刺青』[1911年/復刻版](刺青/少年/麒麟/幇間/秘密/象/信西)

刺青・秘密 (新潮文庫).jpg刺青・秘密 (新潮文庫)』[1966年](刺青/少年/幇間/秘密/異端者の悲しみ/二人の稚児/母を恋うる記)

 原作は文庫で十数ページしかなく、主人公の清吉が少女に刺青を施すことで宿願を果たし、「男と云う男は、みんなお前の肥料(こやし)になるのだ」という清吉の予言通り、少女がこれから多くの男を酔わせるであろう妖艶な女に変身したところで終わっています(少女は清吉に「お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」とも言っている)。この少女が刺青を施されたことで劇的な変化を遂げたところですぱっと終わっている、この終わり方が作品の印象を非常に強いものにしているように思います。

増村保造(1924-1986)/新藤兼人(1912‐2012/享年100)
刺青 若尾 映画祭.jpg増村保造.jpg新藤兼人2.png 一方、増村保造監督の映画「刺青(いれずみ)」は、「刺青」の他に同じ谷崎の短編小説「お艶殺し」も基にしていて、映画の方で展開されるサスペンス時代劇風のストーリーは、「お艶殺し」に拠るか、または脚本家としての新藤兼人(1912-2012)のオリジナルということになります。強いて言えば、谷崎の原作における刺青を施され魔性を覚醒された少女がその後どうなったかを、イメージを膨らませて描いた後日譚ともとれます。ただし、映画で、若尾文子演じるお艶が山本學演じる清吉に刺青を掘られるのは物語の中盤なので、10ページほどしかない谷崎の原作に、プロローグとエピローグの両方を足したという感じでしょうか。

 とは言え、そのプロローグとエピローグで大方を占めるので(黒澤明の「羅生門」が、芥川の「羅生門」を基にしているのは冒頭部分くらいで、あとはほとんど芥川の「藪の中」を基にしていたのを想起させる)、原作の「刺青」とは別物という見方もできます。となると、あとは、「お艶殺し」に拠った新藤兼人の脚本が、どれだけ谷崎の耽美主義的な世界を表現することが出来ているかということになりますが、ちょっとストーリー性があり過ぎて、テレビの時代劇ドラマみたいになった印象もなくもないです。それでも最後まで見せるのは、増村保造の演出と宮川一夫のカメラのお陰でしょうか。

 このパターンでいく場合、大概のケースでは原作の雰囲気をぶち壊してしまうものですが、原作を超えたとは言わないまでも、何とか持ちこたえたような気がします。実際、谷崎作品の映画化ということを考えず、若尾文子の映画という風に見れば、まずまずであったように思います。

角川シネマ有楽町200306_0216.jpg刺青 映画&文庫 2.JPG 角川シネマ有楽町での「若尾文子映画祭2020」で観ましたが、全41作品を上映する中で、この「刺青」の4K修復版が世界初上映されることが映画祭の最大の目玉であったようです。率直な感想として、映像のきめ細やかさは予想していた以上でした。宮川一夫のカメラが映す若尾文子の肌が4Kで映え、彼女が動くと背中の蜘蛛も妖しく蠢くという、映画祭の目玉として打ち出すだけのことはあるものでした。

「若尾文子映画祭」@角川シネマ有楽町(同館公式Twitterより)
「若尾文子映画祭」@角川シネマ有楽町.jpg刺青 1966 4.jpg「刺青(いれずみ)」●制作年:1966年●監督:増村保造●脚本:新藤兼人●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:谷崎潤一郎「刺青(しせい)」「お艶殺し」●時間:86分●出演:若尾文子/長谷川明男/山本學/佐藤慶/須賀不二男/内田朝雄/刺青_143716.jpg藤原礼子/毛利菊枝/南部彰三/木村玄/岩田正/藤川準/薮内武司/山岡鋭二郎/森内一夫/松田剛武/橘公子●公開:1966/01●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(20-03-24)(評価:★★★☆)


2刺青810.jpg 刺青 satou1.jpg 佐藤慶

【1950年文庫化[新潮文庫(『刺青』)]/1969年文庫化[新潮文庫(『刺青・秘密』)]/2012年再文庫化[集英社文庫(『谷崎潤一郎フェティシズム小説集』)]/2021年再文庫化[文春文庫(『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄―現代日本文学館』)]】

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急逝した天知茂の遺作(シリーズ最高視聴率)。美女役は新型コロナで亡くなった岡江久美子。

25話)/黒真珠の美女 dvd.jpg 25話)/黒真珠の美女 t1.jpg  25話)/黒真珠の美女 t2.png 25話)/黒真珠の美女 t3.jpg
黒真珠の美女~江戸川乱歩の「心理試験」~ [DVD]」天知茂/岡江久美子

25話)/黒真珠の美女 4シーン.png ある絵画の展示会で、明智探偵(天知茂)は黒真珠のイヤリングをしていた美女(岡江久美子)に出会う。その後、ゴッホの「星月夜」を画商の蕗屋裕子が手に入れたと発表され、西洋美術館が入手しようと名乗りを上げていると噂されていた。明智は展覧会場で、同級生で東京美術大学の教授・北原(久富惟晴)から蕗屋裕子を紹介してもらうが、彼女が例の黒真珠の美女だった。そこには蕗屋画廊の顧客で美術収集家の徳田礼二郎(高橋昌也)と、画商の宍戸(長塚京三)も来ていた。その後、明智の事務所に無記名の封筒が届き、文代(藤吉久美子)が開けると、中には百万円が入っていて、絵は偽物に違いないので入手経路を調べてほしいとあった。明智は、裕子を訪ねるが、彼女は絵の入手経路25話)/黒真珠の美女 4人.pngを明かさない。一方、この絵を前にして、徳田は「偽物だよ」と呟く。宍戸は、あの絵が本物なら時価十億は下らず、そんな大金を裕子がどうやって工面したか謎であり、偽者の可能性が高いことを明智に説明する。明智は宍戸を尾行し、ホテルで徳田の家のお手伝い・ユミエ(東千晃)と関係を持っていることを知る。彼女は聖ヨハネ病院の元看護婦で、同じ病院に勤める元恋人の小池(伊藤克信)から復縁を迫られていた。徳田邸ではカメラマン志望の恋人・富山(貞永敏)との交際を反対された徳田の一人娘・ユカ(代日芽子)が徳田と口論の末、家を飛び出し車で出かけていった。徳田と約束をしていた裕子から仕事が長引いてまだ京都駅にいるという電話が入り、それを受けたユミエが徳田に知らせに行くと徳田が血を流して倒れていた―。

 この「美女シリーズ」で天知茂の遺作となった作品で、天知茂は1985年7月27日にクモ膜下出血により54歳で亡くなっており、この第25話は、8月3日に放映されています。したがって、この回は、結果的に初放映が"追悼放映"になったかたちで、視聴率はシリーズ最高の26.3%を記録しています(以降、北大路欣也主演で6話、西郷輝彦主演で2作作られたが、天知茂の明智探偵像が強烈だったせいか長続きしなかった)。

テレビ朝日・土曜ワイド劇場 「江戸川乱歩 美女シリーズ(第25話)/黒真珠の美女」オープニング(天知繁追悼の意を表する南美希子アナウンサー)

そして誰もいなくなった 渡瀬_.jpg 2017(平成29)年に、テレビ朝日で渡瀬恒彦主演の「アガサ・クリスティ そして誰もいなくなった」が放送された際、3月25日・26日の2夜連続ドラマの各冒頭で、3月14日に亡くなった渡瀬恒彦が出演した「最後の作品」であることを伝えるテロップが表示され、しかも、末期がんの役で出ているのがかなり衝撃的でしたが、当時の視聴者も似たような印象を持ったのではないでしょうか。この「黒真珠の美女」では、渡瀬恒彦の場合と異なり、天知茂本人も自分が死ぬと志村けん エール.jpg志村けん  .jpgは思っていないと思いますが、明智がその喫煙を制止する文代の目を盗んでタバコを美味そうに吸う場面があったりして、ひやっとします。もっと最近では、今年['20年]3月30日放送開始のNHKの朝ドラ「エール」でテレビドラマ初出演の志村けんが、3月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなり、山田耕筰をモデルとする役で5月1日放映分から登場して、これも実質"追悼放映"になってしまったということがありました。
    
別冊スコラ 岡江久美子写真集「華やかな自転」.jpg岡江久美子 死去  NHK.jpg そして、同じく新型コロナウイルスによる肺炎のため4月23日に亡くなったのが、この「黒真珠の美女」の"美女"こと岡江久美子です。近年ではTBS「はなまるマーケット」の総合司会(1996年~2014年)のイメージが強く、また、かつてはNHKの「連想ゲーム」での名解答者(1978年~1983年)ぶりから「才女」のイメージがありますが、別冊スコラで『岡江久美子写真集 華やかな自転』を出したのが'82年で、フォトジェニックな女優でもありました(写真集は当時25歳。翌年、大和田獏と結婚)。

別冊スコラ 岡江久美子写真集「華やかな自転」』['82年]
岡江久美子
25話)/黒真珠の美女 岡江.jpg この「黒真珠の美女」の撮影時の岡江久美子は28歳で、若くして着物も似合うからなかな心理試験 春陽堂文庫.jpgかのもの。最後まで凛としていて、天知茂と拮抗しているか、むしろそれを凌いでいた印象です。内容的には、原作の「心理試験」はもうどっか飛んでしまっている感じですが(このシリーズ、後になればなるほど原作から離れていったようだ)、犯人捜しというより、絵の真贋の謎やその背後にある復讐劇、トラベルミステリー的なプロットなど、プロセスが愉しめ、ラストも明智探偵が最後に変装して登場し犯人を暴くというお決まりの型にもう一つ捻りが入っていて、いろいろと愉しめる佳作に仕上がっているように思います。

必殺仕掛人 春雪仕掛針ド.jpg 監督の貞永方久(さだなが まさひさ、1931-2011/79歳没)は九州大学法学部出身。卒業後、松竹京都撮影所演出部に入社して映画監督になっていますが、こうしたテレビ映画の演出も多数あり、特にABCテレビの「必殺シリーズ」では第2作(中村主水シリーズの第1作)である「必殺仕置人」('73年、全26話、山﨑努、藤田まこと主演)から参加し、劇場版「必殺仕掛人 春雪仕掛針」('74年/松竹)では監督も務めています。TVシリーズの「必殺仕掛人」('72~'73年、全33話、林与一、緒形拳主演)は「必殺シリーズ」の第1作で、「必殺仕置人」の前番組にあたり、第1作「必殺仕掛人」の原作は池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」ですが、後番組の「必殺仕置人」の方は「必殺仕掛人」の枠組みだけ踏襲したTVオリジナルでした。「必殺仕掛人」は、当時のフジテレビの笹沢佐保原作の「木枯し紋次郎」(1972/01~05、1972/11~1973/03)の人気に押されていた朝日放送が対抗策として打ち出したもので、中村敦夫が撮影中の事故で一時離脱したタイミングを見計らい'72年9月に放送開始、放送時間も「紋次郎」の30分前の22時開始にするなどの策が練られました。因みに、緒形拳が演じた藤枝梅安は、当初は天知茂が想定されていたとのことです。

『必殺仕掛人 春雪仕掛針』.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針ges.jpg 映画「必殺仕掛人 春雪仕掛針」は、「必殺仕掛人」('73年/松竹、田宮二郎主演)、「必殺仕掛人 梅安蟻地獄」('73年/松竹、緒形拳主演)に続く「必殺仕掛人」シリーズ第3作(最終作)で、第1作と第2作の監督は松本清張原作の「黒の奔流」('72年/松竹)の渡邊祐介監督でした。第2作「梅安蟻地獄」に続き、梅安=緒形拳、十五郎=林与一、半右衛門=山村聰のキャスティングで、仇役の盗賊の女棟梁役に岩下志麻を迎えていますが、このキャラクター造形は同じ池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」の登場人物の「猿塚の千代」(「女賊」)をそのまま引いており、原作が池波正太郎であるには違いないですが、ただし、それらを融合させて映画オリジナルのストーリー構成となっています。
<あの頃映画> 必殺仕掛人 春雪仕掛針 [DVD]
必殺仕掛人 春雪仕掛針ku.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針s.jpg

[下]林与一・緒形拳/山村聰
必殺仕掛人 春雪仕掛針 緒形・林.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針 山村.jpg 岩下志麻演じる千代を堕落させる悪役・勝四郎を夏八木勲が演じていたりして、今観るとなかなかのキャスティング、林与一ばかりか、TV版では直接手を下すことがほとんどない仕掛人の元締め・音羽屋半右衛門役の山村聰も立ち回りをやるし、岩下志麻は「きつい女」役がもうすでに板についている感じでした。ただ、哀しい話ではあるのですが、今一つ哀しみが伝わってきにくいのは、千代が必殺仕掛人 春雪仕掛針HL.jpg梅安に「あんたが私を捨てなければ私は今頃...」と恨み節ばかり言っているせいもあるでしょうか(千代にとって梅安は"最初の男"だった)。梅「必殺仕掛人 春雪仕掛針」 3.jpg安は第1作と違って原作通り、かつて自分が結果的に自分の妹を殺してしまったことを自覚している作りになっているので、自分には所帯を持つ資格はないと思ったのではないでしょうか(と思ったら、「あの頃映画 松竹DVDコレクション」のキャッチに「私は人殺しですからね、人並みの夢を持っちゃいけねえ...」とあった)。それくらい梅役の心の闇は深く、ここにきてまた悪の世界に堕ちてしまった千代を...。シリーズで一番暗い作品かもしれませんが、この陰の深さは映画的には悪くないように思います。

代日芽子(徳田の一人娘・ユカ)/東千晃(徳田の家のお手伝いのユミエ)
25話)/黒真珠の美女 貞永.png25話)/黒真珠の美女 入浴.png「江戸川乱歩 美女シリーズ(第25話)/黒真珠の美女」●制作年:1985年●監督:貞永方久●プロデューサー:川田方寿/佐々木孟●脚本:山下六合雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「心理試験」●時間:92分●出演:天知茂/藤吉久美子/小野田真之/荒井注/岡江久美子/高橋昌也/久富惟晴/長塚京三/東千晃/代日芽子/貞永敏/堀之紀/伊藤克信/北町嘉朗/秋山武史●放送局:テレビ朝日●放送日:1985/08/03(評価:★★★☆)
  
必殺仕掛人 春雪仕掛針 pp.jpg必殺仕掛人 春雪仕掛針1.jpg「必殺仕掛人 春雪仕掛針」●制作年:1974年●監督:貞永方久●製作:織田明●脚本:安倍徹郎●音楽:鏑木創●撮影:丸山恵司●原作:池波正太郎●時間:89分●「必殺仕掛人 春雪仕掛針」74.jpg出演:緒形拳/林与一/山村聰/岩下志麻/夏八木勲/高橋長英/竜崎勝/地井武男/高畑喜三/花澤徳衛/佐々木孝丸/村井国夫/ひろみどり/荒砂ゆき/相川圭子●公開:1974/02●配給:松竹(評価:★★★☆)

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必殺仕掛人 テレビ11.jpg「必殺仕掛人」●監督:深作欣二(1)(2)(24)/三隅研次(3)(4)(9)(12)(21)(33)/大熊邦也(5)(8)(14)(16)(27)(30)、松本明(6)(7)(15)(19)(23)(32)/松野宏軌(10)(11)(13)(17)(20)(25)(28)/長谷和夫(18)(22)(26)(29)(31)/ほか●プロデューサー:山内必殺仕掛人 テレビ22.jpg久司(朝日放送)/仲川利久(朝日放送)/櫻井洋三(松竹)●脚本:池上金男(池宮彰一郎)(1)(4)(5)(28)/国弘威雄(國弘威雄)(2)(10)(11)(18)(25)(31)(33)/安倍徹郎(安部徹郎)(3)(8)(12)(20)(21)(28)/山田隆之(6)(7)(9)(13)(15)(19)(23)(32)/石堂淑朗(14)(27)/ほか●音楽:(オープニング)作曲:平尾昌晃「仕掛けて仕損じなし」●原作:池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』より●出演:緒形拳/林与一/山村聡/津坂匡章/太田博之/中村玉緒/松本留美/岡本健/ 野川由美子/(ナレーション(オープニング、エンディング))睦五郎(作: 早坂暁)●放映:1972/09~1973/04(全33回)●放送局:朝日放送


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丸尾作品に特徴的なウエット感が無く、スコーンと突き抜けている感じ。

パノラマ島奇談 丸尾末広.jpg  パノラマ島綺譚 光文社文庫.jpg パノラマ島奇談他4編 春陽文庫.jpg 天国と地獄の美女.jpg
パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集〈第2巻〉 (光文社文庫)』['04年]『パノラマ島奇談 (1951年) (春陽文庫〈第1068〉)』(装画:高塚省吾)
パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX)』['08年]「天国と地獄の美女~江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」~ [DVD]

 2009(平成21)年・第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞作。

江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚.jpg 「月刊コミックビーム」の2007(平成19)年7月号から翌年の1月号にかけて連載された作品に加筆修正したもの。「エスプ長井勝一漫画美術館主催事業」として、「江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚」展が今年(2011年)3月に宮城県塩竈市の「ふれあいエスプ塩竈」(生涯学習センター内)で開催されており(長井勝一氏は「月刊漫画ガロ」の初代編集長)、3月12日に丸尾氏のトークショーが予定されていましたが、前日に東日本大震災があり中止になっています。主催者側は残念だったと思いますが、原画が無事だったことが主催者側にとってもファンにとっても救いだったでしょうか。

 原作は、江戸川乱歩が「新青年」の1926(大正15)年10月号から1927(昭和2)年4月号にかけて5回にわたり連載した小説で、売れない小説家だった男が、自分と瓜二つの死んだ大富豪に成り替わることで巨万の富を得て、孤島に人工の桃源郷を築くというものです。

 光文社文庫版にある乱歩の自作解説(昭和36年・37年)によると、発表当初はあまり好評ではなく、それは「余りに独りよがりな夢に過ぎたからであろう」とし、「小説の大部分を占めるパノラマ島の描写が退屈がられたようである」ともしていますが、一方で、萩原朔太郎にこの作品を褒められ、そのことにより、対外的にも自信を持つようになったとも述べています。

江戸川乱歩名作集 春陽堂.jpg『江戸川乱歩名作集』.jpg 個人的には、昔、春陽堂の春陽文庫で読んだのが初読でしたが、ラストの"花火"にはやや唖然とさせられた印象があります。原作者自身でさえ"絵空事"のキライがあると捉えているものを、漫画として視覚的に再現した丸尾末広の果敢な挑戦はそれ自体評価に値し、また、その出来栄えもなかなかのものではないかと思われました。

 前半部分は、原作通り、主人公がいかにして死んだ大富豪に成り替わるかに重点が置かれ、このトリック自体もかなり無理がありそうなのですが、視覚化されると一応納得して読み進んでしまうものだなあと。

丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚』1.jpg 但し、本当に描きたかったのは、後半のパノラマ島の描写だったのでしょう。海中にある「上下左右とも海底を見通すことのできる、ガラス張りのトンネル」などは、実際に最近の水族館などでは見られるようになっていますが、その島で行われていることは、一般的観念から見れば大いに猟奇変態的なものです。

 しかしながら、丸尾末広の他の作品との比較においてみると、独特の猥雑さが抑えられ、ロマネスク風の美意識が前面に押し出されているように思いました("妻"の遺体があるところが明智小五郎にバレるところなどは、原作の方が気持ち悪い。丸尾版では、明智小五郎が"ベックリンの絵"なる意匠概念を持ち出すなどして、ソフィストケイトされている)。
丸尾 末広 (原作:江戸川 乱歩) 『パノラマ島綺譚』12.jpg
 でも、やはり、ここまでよく描いたなあ。乱歩が夢想した世界に寄り添いながらも、それでいて、丸尾パワー全開といった感じでしょうか。但し、丸尾作品に特徴的なウエット感が無く、逆に、スコーンと突き抜けてしまっています。個人的には、これはこれで楽しめました。

 光文社文庫版にある江戸川乱歩の自作解説によると、原作は、昭和32年に菊田一夫がこれをミュージカル・コメディに書き換えて、榎本健一、トニー谷、有島一郎、三木のり平、宮城まり子、水谷良重などの出演で、当時の東宝劇場で上演したとのことです。一体、どんな舞台だったのでしょうか。


天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」 [DVD]
天国と地獄の美女 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」.jpg 1977(昭和52)年から1994(平成6)年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間33回にわたり放送されたテレビドラマシリーズ「江戸川乱歩 美女シリーズ」(内、天知茂版が1977年から1985(昭和60)年までの25回)の中で、第17話として1982(昭和57)年にジェームス三木の脚色によりドラマ化され江戸川乱歩 美女シリーズ 天国と地獄の美女01.jpgたことがあり(タイトルは「天国と地獄の美女」)、正月(1月2日)に3時間の拡大版(正味142分)で放映されています。明智小五郎役は天知茂、パノラマ島を造成する人見広介役は伊東四朗で(山林王・菰田源三郎と二役)、菰田千代江戸川乱歩 美女シリーズ 天国と地獄の美女02.jpg子(源三郎の妻)役が叶和貴子(当時25歳)、その他に小池朝雄、宮下順子、水野久美らがゲスト出演しています。パノラマ島64 天国と地獄の美女.png自体は再現し切れていないというのがもっぱらの評価で、実際観てみると、特撮も駆使しているものの、ジャングルとか火山とかの造型が妙に手作り感に溢れています(特撮と言うより"遠近法"?)。ただ、逆にこの温泉地の地獄巡り乃至"秘宝館"的キッチュ感が後にカルト的な話題になり、シリーズの中で最高傑作に推す人もいます(叶和貴子は第21話「白い素肌の美女」(原作『盲獣』(実質的には『一寸法師』)('83年)、北大路欣也版第3話「赤い乗馬服の美女」(原作『何者』)('87年)でも"美女役"を務めた)。
図1天国と地獄の美女.png
天国と地獄の美女 叶.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第17話)/天国と地獄の美女」●制作年:1982年●監督:井上梅次●プロデューサ:佐々木天国と地獄の美女95_.jpg孟/植野晃弘/稲垣健司●脚本:ジェームス三木●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「パノラマ島奇譚」●時間:142 分●出演:天知茂/叶和貴子/伊東四朗/荒井注/五十嵐めぐみ/小池朝雄/宮下順子/水野久美/柏原貴/原泉/東山明美/草薙幸二郎/北町嘉朗/松本朝夫/出光元/加瀬慎一/相原睦/渡辺憲悟/本田みちこ/喜多晋平/山本幸栄/小田草之介/加島潤/近藤玲子バレエ団●放送局:テレビ朝日●放送日:1982/01/02(評価:★★★☆)

江戸川乱歩 美女シリーズ3.jpg江戸川乱歩 美女シリーズ2.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(天知茂版)」●監督:井上梅次(第1作-第19作)/村川透/長谷和夫/貞永方久/永野靖忠●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次/長谷川公之/ジェームス三木/櫻井康裕/成沢昌茂/吉田剛/篠崎好/江連卓/池田雄一/山下六合雄●撮影:平瀬静雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩●出演:天知茂/五十嵐めぐみ(第1作-第19作)/高見知佳(第20作-第23作)/藤吉久美子(第24作・第25作)/大和田獏(第1作)/柏原貴(第6作-第19作)/小野田真之(第20作-第25作)/稲垣昭三(第1作)/北町嘉朗(第1作・第4作-第9作)/宮口二郎(第2作・第3作)/荒井注(第2作-第25作)●放映:1977/08~1985/08(天知茂版25回)【1986/07~1990/04(北大路欣也版6回)、1992/07~1994/01(西郷輝彦版2回)】●放送局:テレビ朝日


江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他.jpgパノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション (6).jpg【1951年文庫化[春陽文庫(『パノラマ島奇談 他4編―江戸川乱歩名作集2』)]/1987年再文庫化・2015年改版[春陽堂書店・江戸川乱歩文庫(『パノラマ島奇談 他4編』)]/1987年再文庫化[講談社・江戸川乱歩推理文庫(『パノラマ島奇談』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集第2巻』)]/2009年再文庫化[角川ホラー文庫(『パノラマ島綺譚―江戸川乱歩ベストセレクション (6)』)]/2016年再文庫化[文春文庫(桜庭 一樹 (編)「パノラマ島綺譚」--『江戸川乱歩傑作選 獣』)]/2018年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他』)]】
パノラマ島綺譚 江戸川乱歩ベストセレクション (6) (角川ホラー文庫)』['09年]
江戸川乱歩作品集III パノラマ島奇談・偉大なる夢 他 (岩波文庫)』['18年]


●「江戸川乱歩の美女シリーズ」(全33話)放映ラインアップ
(天知茂版)

話数 放送日 サブタイトル 原作 美女役 視聴率
江戸川乱歩シリーズ 浴室の美女.jpg1 1977年8月20日 氷柱の美女 『吸血鬼』 三ツ矢歌子 12.6%
2 1978年1月7日 浴室の美女 『魔術師』 夏樹陽子 20.7%
3 1978年4月8日 死刑台の美女 『悪魔の紋章』 松原智恵子 15.6%
4 1978年7月8日 白い人魚の美女 『緑衣の鬼』 夏純子 14.5%
5 1978年10月14日 黒水仙の美女 『暗黒星』 ジュディ・オング 15.3%
6 1978年12月30日 妖精の美女 『黄金仮面』 由美かおる 14.0%
7 1979年1月6日 宝石の美女 『白髪鬼』 金沢碧 13.0%
8 1979年4月14日 悪魔のような美女 『黒蜥蜴』 小川真由美 15.4%
9 1979年6月9日 赤いさそりの美女 『妖虫』 宇津宮雅代 16.9%
10 1979年11月3日 大時計の美女 『幽霊塔』 結城しのぶ 23.4%
岡田奈々の「魅せられた美女」.jpg11 1980年4月12日 桜の国の美女 『黄金仮面II』 古手川祐子 15.9%
12 1980年10月4日 エマニエルの美女 『化人幻戯』 夏樹陽子 19.5%
13 1980年11月1日 魅せられた美女 『十字路』 岡田奈々 20.0%
14 1981年1月10日 五重塔の美女 『幽鬼の塔』 片平なぎさ 21.6%
15 1981年4月4日 鏡地獄の美女 『影男』 金沢碧 19.7%
16 1981年10月3日 白い乳房の美女 『地獄の道化師』 片桐夕子 20.1%
17 1982年1月2日 天国と地獄の美女 『パノラマ島奇談』 叶和貴子 16.6%
18 1982年4月3日 化粧台の美女 『蜘蛛男』 萩尾みどり 17.6%
19 1982年10月23日 湖底の美女 『湖畔亭事件』 松原千明 16.0%
20 1983年1月1日 天使と悪魔の美女 『白昼夢』(『猟奇の果て』) 高田美和 12.6%
江戸川乱歩シリーズ 禁断の実の美女.jpg21 1983年4月16日 白い素肌の美女 『盲獣』(『一寸法師』) 叶和貴子 13.3%
22 1984年1月7日 禁断の実の美女 『人間椅子』 萬田久子 18.9%
23 1984年11月10日 炎の中の美女 『三角館の恐怖』 早乙女愛 22.4%
24 1985年3月9日 妖しい傷あとの美女 『陰獣』 佳那晃子 24.7%
25 1985年8月3日 黒真珠の美女 『心理試験』 岡江久美子 26.3%
(北大路欣也版)
1 (26) 1986年7月5日 妖しいメロディの美女 『仮面の恐怖王』 夏樹陽子 19.9%
2 (27) 1987年1月10日 黒い仮面の美女 『凶器』 白都真理 17.0%
3 (28) 1987年8月15日 赤い乗馬服の美女 『何者』 叶和貴子 17.9%
4 (29) 1988年5月14日 日時計館の美女 『屋根裏の散歩者』 真野響子 16.4%
5 (30) 1989年8月26日 神戸六甲まぼろしの美女 『押絵と旅する男』 南條玲子
6 (31) 1990年4月14日 妖しい稲妻の美女 『魔術師』 佳那晃子 15.8%
(西郷輝彦版)
1 (32) 1992年7月4日 からくり人形の美女 『吸血鬼』 美保純 15.5%
2 (33) 1994年1月8日 みだらな喪服の美女 『白髪鬼』 杉本彩 13.4%

ジェームズ三木.jpgジェームズ三木 脚本家、作家、演出家、元歌手。
2025年年6月14日、肺炎のため死去。91歳没。
映画脚本「赤い鳥逃げた?」(1973年)、「ブラックジャック 瞳の中の訪問者」(1977年)、「ふりむけば愛」(1978年)、「善人の条件」(1989年)(※監督も務める)、テレビドラマ脚本「西遊記」(1979年、日本テレビ)、「天国と地獄の美女 江戸川乱歩のパノラマ島奇譚」(1982年、テレビ朝日)- 原作:江戸川乱歩、「けものみち」(1982年、NHK総合)- 原作:松本清張、連続テレビ小説「澪つくし」(1985年、NHK総合)など。

(●2025年6月、ジェームズ三木が亡くなった。映画やドラマの脚本家として知られたが、「善人の条件」(1989年)で映画監督デビューし、原作・脚本も担当した。話は、とある田舎の市長選挙を舞台に、ひとりの立候補者が、クリーンな選挙活動を目指しながらも、様々な要因によって政治の裏のドブにハマって破滅していくというもの。ジェームス三木は、真剣な気持ちで選挙戦の腐敗問題を描こうとしたのだろう。ただ、その思い余ってか、クドクドとした会話シーンばかりがダラダラと続き、どんどん沈滞感が増して行くばかり。芸達者の役者が多く出ていて、主演の津川雅彦よりも選挙屋を演じた丹波哲郎や橋爪功らの怪演が光った。ビデオで観たが、その後DVD化されていない。)

善人の条件 1989.jpg善人の条件1.jpg「善人の条件」●制作年:1989年●監督・脚本・原作:ジェームス三木●撮影:坂本典隆●音楽:羽田健太郎●時間:123分●出演:津川雅彦/すまけい/小林稔侍/橋爪功/井上順/イッセー尾形/山下規介/森三平太/浪越徳治郎/柳生博/松村達雄/丹波哲郎/小川真由美/桜田淳子/山岡久乃/野際陽子/汀夏子/守谷佳央理/野村昭子/小竹伊津子/鷲尾真知子/松金よね子/浅利香津代/泉ピン子/黒柳徹子●公開:1989/05●配給:松竹(評価:★★★)

善人の条件3.jpg善人の条件 [VHS]
善人の条件4.jpg

善人の条件5.jpg

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アニメ技術そのものはいいのだが、カタルシス不全を起こしそうな結末。

安寿と厨子王丸 dvd.jpg  安寿と厨子王丸 面子0.jpg 安寿と厨子王丸 面子1.jpg 厨子王丸2.jpg 安寿と厨子王丸 面子4.jpg 安寿と厨子王丸 面子5.jpg  山椒大夫・高瀬舟.jpg
安寿と厨子王丸 [DVD]」/「安寿と厨子王丸」面子(メンコ)シリーズ/『山椒大夫・高瀬舟 他四編 (岩波文庫)

山椒大夫.jpg安寿と厨子王丸 vhs.jpg田中澄江.jpg 森鷗外の「山椒大夫」を原作とした溝口健二監督の映画化作品「山椒大夫」('54年/大映)はよく知られていますが、同じく森鷗外の作を原作として、溝口作品の7年後に田中澄江(1908-2000/享年91)の脚本のもと)としてアニメ化されていて、オープニングに東映の「創立十周年記念」とあります。

高畑 勲.jpg 声の出演が、安寿が佐久間良子、厨子王(成人後)が北大路欣也、母が山田五十鈴、山椒太夫が東野英治郎、その長男が平幹二朗という錚々たる布陣であり(厨子王の少年時代担当の「住田知仁」は後年の風間杜夫、「わんぱく王子の大蛇退治」('63年/東映)でも主人公の声を担当)、実際に人が演技した映像をなぞってアニメ化するという手法がとられていて、アニメーション自体も美しい出来栄えであるには違いないと思います(若き日の高畑勲(1953-2018/82歳没)が演出助手として携わっている)。

安寿と厨子王丸1.jpg 安寿と厨子王のお供の動物キャラが出てくるのは子供向けアレンジですが、山椒大夫の2人の息子の内、弟の三郎が安寿に想いを寄せるという恋愛話も挿入されていたりします。

 安寿が焼き鏝を顔に当てられそうになるところを三郎が救うので、当然のことながら、やけどが菩提像の加護で癒えるという、鷗外の原作にあるはずの場面は無く、映像化しようとすると、やはりヒロインについては忌避される場面なのでしょうか(ましてや子供向けであるし)。

 安寿が入水自殺を遂げるのは鷗外の原作通りですが(オリジナルの説話「さんせい太夫」では刑死または拷問死なのだが)、成人した厨子王が都で化け物退治をするなどのオリジナル・エピソードがあり、何よりも原作と異なるのは、安寿を供養するため出家した三郎の願いで厨子王が山椒大夫親子を許してしまうという点で、やや拍子抜けしてしまいそうなまでの厨子王の寛容さ。

 しかも、ラストの母子再会でも、溝口作品同様に母の眼は「明かない」という...、アニメーション技術そのものはいいのだけれど、何だかカタルシス不全を起こしそうな結末とも言えるかと。

安寿と厨子王丸 面子7.jpg安寿と厨子王丸 面子6.jpg安寿と厨子王丸 面子8.jpg安寿と厨子王丸 面子10.png 子供向けということもあったと思いますが(当時の面子(メンコ)にもなっているぐらいだから、それなりに多くの子供が観たのではないか)、山椒大夫が処刑を免れたのは、権力を握った者が旧敵を罰するという構図に反発した当時の東映労組の(言わば"大人たちの")意向も反映されているようです(2019年度前期NHK連続テレビ小説でアニメーターの奥山玲子をモデルにした「なつぞら」(広瀬すず主演)に出わんぱく牛若丸 なつぞら1.jpgわんぱく牛若丸 なつぞら2.jpgてくる「東洋動画」で作られるアニメ映画「わんぱく牛若丸」は、この東映長編カラーアニメ第4作「安寿と厨子王丸」と第2作「少年猿飛佐助」('59年)、第6作「わんぱく王子の大蛇退治」('63年)あたりをハイブリッドしたものと思われる)

佐久間良子2.jpg風間杜夫2.jpg北大路欣也.jpg「安寿と厨子王丸」●制作年:1961年●監督(演出):藪下泰司●製作:大川博●脚本:田中澄江●演出:藪下泰司/芹川有吾●演出助手:高畑勲●撮影:大塚晴郷/中村一雄/東喬明●音楽:木下忠司/鏑木創●原作:森鷗外「山椒大夫」●時間:83分●声の出演:佐久間良子/住田知仁(風間杜夫)/北大路欣也/山田五十鈴/東野英治郎/平幹二朗/宇佐美淳也/水木襄/山村聡/松島トモ子/三島雅夫/花沢徳衛●公開:1961/07●配給:東映(評価:★★★)
東野英治郎(山椒太夫)/平幹二朗(山椒太夫の長男・次郎)/山田五十鈴(安寿・厨子王丸の母・八汐)
東野英治郎.jpg安寿と厨子王丸 1.jpg平幹二朗.jpg安寿と厨子王丸 長男・次郎.jpg山田五十鈴.jpg八汐(山田五十鈴) 3.jpg

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現代劇にもぴったりハマった市川雷蔵の「ある殺し屋」。カルト的珍品?「初春狸御殿」。

ある殺し屋 poster.jpgある殺し屋 dvd2.jpg ある殺し屋の鍵 dvd.jpg  初春狸御殿.jpg
ある殺し屋 [DVD]」「ある殺し屋の鍵 [DVD]」「初春狸御殿 [DVD]」(市川雷蔵/若尾文子/勝新太郎)

0ある殺し屋.jpg 「ある殺し屋」('67年/大映)は、普段は一杯飲屋の主人で刺身魚を自ら捌いたりしているというありきたりの市井の男だが、実はその裏の正体は、大物ヤクザの親分の暗殺などの仕事を大金で請け負い、それがどんな困難なものであっても完遂するプロの殺し屋(武器としても用いるのは太い針)―という主人公「新田」の役どころを、市川雷蔵(1931-1969/享年37)がニヒルかつスマートに演じている作品で、続編が1作だけ作られています。

「ある殺し屋」1.jpg「ある殺し屋」2.bmp 助けてやった女(野川由美子)に付きまとわれてもそれを一向に相手にせず、仲間のフリをして寄ってくるヤクザ(成田三樹夫)に裏切られても、全て織り込みで既に手は打ってある―「ある殺し屋」.jpgあまりにストイックかつクールで、ストーリーだけで見ると非現実的なB級(C級とでも言うか)作品になりそうなものですが、市川ある殺し屋dvd.jpg雷蔵が演じると、殺し屋稼業をしている時でも何だかサラリーマン風にも見えたりして、そうしたステレオタイプのハードボイルド・ヒーローとのギャップ感がなかなかいいリアリティを醸していて、時にはそれが却って凄みになったりもしています。ある殺し屋.jpg 口数は少ないが男気も秘めており、結局、女よりもむしろ男が惚れる男というのはこういうものかと納得させられる(勿論、新田の場合は女性にもモテるのだが)、心地よいハードボイルド作品となっています。
ある殺し屋 [DVD]

「ある殺し屋の鍵」チラシ/「ある殺し屋の鍵 [DVD]
ある殺し屋の鍵 チラシ.jpgある殺し屋の鍵 dvd.jpg 因みに、同年12月に公開された同じく藤原審爾原作・森一生監督の「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)では、市川雷蔵が演じる主人公の新田の表向きの職業は、一杯飲屋の主人から日本舞踊の師匠に替わっており(新田は、流れ包丁だったのか? それにしてもビックリの職替え)、脱税王(内田朝雄)とか建設会社の社長(西村晃)とか政財界の黒幕(山形勲)とか色々出できて話はスケールアップしていますが(3人とも新田に殺される役!)、新田のニヒルでスマートな様は変わっていません。原ある殺し屋の鍵 title.jpgある殺し屋の鍵 1シーン.jpg作ストーリーもしっかりしていますが、ストーリーもさることながら、演じている「市川雷蔵」そのものを楽しめる作品ではないかと思います (両作品とも撮影は宮川一夫)。
「ある殺し屋の鍵」市川雷蔵/佐藤友美

「ある殺し屋」1.bmp 市川雷蔵は映画史上最高の時代劇スターと謳われた名優で、映画も「眠狂四郎シリーズ」や「大菩薩峠シリーズ」など数的には時代劇の方の出演が主なのですが、現代劇でもこんなにしっくり来る歌舞伎界出身の俳優は少ないのではないかと思われ、37歳でガンのため夭折したことが惜しまれます(それでも160本近い映画に出演したのだが)。現代劇に出ている時は歌舞伎役者的なニオイがキレイさっぱり無くなるタイプで、そうした系統では、同じく眠狂四郎を演じた片岡孝男(現・片岡仁左衛門)などがいましたが(田村正和も演じていたなあ)、ちょっとそれらと比較にならないかも(早逝したことも、イメージが損なわれないという意味ではプラスに働いているが)。

木村 恵吾 「初春狸御殿」.jpg初春狸御殿 poster.jpg この人の時代劇の方は劇場ではあまり観ていないのですが、木村恵吾監督の「初春狸御殿」('59年/大映)というのは"珍品"。所謂"マゲものミュージカル"という類で、時代劇なのに若尾文子が演じるお姫様が着物にネックレスをしているというのが可笑しく、市川雷蔵と比較されることの多い、あの勝新太郎が、完璧な二枚目役者として出演し、美声を披露しています。木村恵吾監督はこれ以前にも「狸御殿」「歌う狸御殿」「春爛漫狸祭」「花くらべ狸御殿」を撮っていて(「初春狸御殿」はシリーズ最終作)、50年代にこうした陽気な大衆映画が受けた時期があったことを知っている人がどれぐらいいるか分かりませんが、今の若い人にとってはある種のカルトムービー的位置づけになるのかも。

 ニップレスと腰巻るだけのほぼ裸の河童娘2人も登場(意外と今風)。そのうちの一人を演じた毛利郁子は、グラマー女優と称され、100本近くの映画に出演したほかテレビの時代劇でも活躍しましたが、1969(昭和44)年12月、当時交際していた妻子持ちの男性(交際は7年越し、毛利との間に当時3歳の男児を儲けていた)を包丁で刺殺、翌日自供毛利郁子.jpgし逮捕されています。現役の女優が殺人を犯すのは初めてで、裁判の際には大映社長の永田雅一、俳優の勝新太郎らは減刑嘆願書を提出し、懲役5年の刑で服役、模範囚として減刑され、3年後の1973年に仮釈放されています(その間、1971(昭和46)年12月までには大映は破産していた)。
「鳴門の花嫁」(1959年8月13日公開)勝新太郎・中村玉緒・毛利郁子/「初春狸御殿」(1959年8月23日公開)毛利郁子・勝新太郎
勝新太郎 in「初春狸御殿」
初春狸御殿bb.jpg 初春狸御殿77.jpg
毛利郁子 in「座頭市あばれ凧」(1964年7月11日公開)
毛利郁子 座頭市.jpg


市川雷蔵 in「ある殺し屋」
「ある殺し屋」森一生 1967.jpgある殺し屋3.jpg「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村小林幸子 3.jpg保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/ある殺し屋小林幸子.jpg小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/「ある殺し屋」4.bmp「ある殺し屋」3.bmp浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
市川雷蔵/佐藤友美 in「ある殺し屋の鍵」
「ある殺し屋の鍵」森一生 1967.jpgある殺し屋の鍵 vhs.jpg「ある殺し屋の鍵」●制作年:1967年●監督:森一生●構成:増村保造●脚本:小滝光郎●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤1ある殺し屋の鍵 山形.jpgある殺し屋の鍵 山形ド.jpg原審爾「消される男」●時間:82分●出演:市川雷蔵/西村晃/佐藤友美/山形勲/中谷一郎/金内吉男/ 伊達三郎/伊東光一/内田朝雄/玉置一恵/森内一夫/伊東義高/志賀明●公開:1967/12●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋」(森一生)
山形勲


若尾文子/市川雷蔵 in「初春狸御殿」
初春狸御殿_3.jpg木村 恵吾 「初春狸御殿」2.jpg「初春狸御殿」●制作年:1959年●監督・脚本:木村恵吾●製作:三浦信夫●撮影:今井ひろし●音楽:吉田正●時間:95分●出演:市川雷蔵/若尾文子/若尾文子 市川雷蔵 初春狸御殿a.jpg大井武蔵野館 1989.jpg勝新太郎/中村玉緒/金田一敦子/仁木多鶴子/水谷良重/中村雁治郎/真城千都世/近藤美恵子/楠トシエ/トニー・谷/菅初春狸御殿20.jpg井一郎/江戸屋猫八/三遊亭小金馬/左卜全/藤本二三代/神楽坂浮子/松尾和子/小浜奈々子/岸正子/美川純子/大和七海路/小町瑠美子/毛利郁子/嵐三右衛門●公開:1959/12●配給:大映●最初に観た場所:大井武蔵野館 (86-11-15)(評価:★★★?)●併映:「真田風雲録」(加藤泰)

《読書MEMO》
● 桂 千穂 『カルトムービー本当に面白い日本映画 1945→1980』['13年/メディアックス]
IMG_7ある殺し屋.JPG

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