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カンヌでの5作品連続受賞作。格差社会をテーマにしたものがカンヌで賞を獲る傾向が強まった。

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少年と自転車 [DVD]
少年と自転車 ps.jpg少年と自転車1.jpg 施設に預けられている11歳の少年シリル(トマ・ドレ)は、父親に捨てられたという現実を受け入れられず、孤独の中で反抗的な態度を取り続けている。そんなシリルと偶然知り合った美容師の独身女性サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)は、シリルに週末の里親になって欲しいと頼まれると、それを受け入れたばかりか、シリルの父親の行方探しを手伝う。サマンサのおかげでようやく父ギイ(ジェレミー・レニエ)と再会できたシリルだったが、自分の生活で手一杯のギイは二度と会いに来るなとシリルを追い返す。ショックを受けたシリルだったが、それから後も週末はサマンサの家で過ごすようになる。サマンサの家で穏やかに過ごしていたシリルだったが、近所の不良少年ウェス(エゴン・ディ・マテオ)に気に入られたことから彼の言いなりになる。サマンサからウェスと付き合わないように言われても耳を貸さないばかりか、止めるサマンサにケガを負わせてまでウェスとの関係を優先したシリルは、ウェスに言われ少年と自転車2.jpgるまま強盗を働く。しかし、シリルが被害者に顔を見られたことを知ったウェスが激昂し、全ての罪をシリルになすりつけようとしたことから、シリルはようやくウェスがシリルを利用していただけだったことを知る。傷ついたシリルは父のもとに行き、盗んだ金を渡そうとするが、父からも見捨てられる。結局、シリルはサマンサの元に戻り、サマンサと警察に出頭する。事件は、サマンサが被害者に損害を賠償し、シリルが被害者に謝罪することで示談で収まる。サマンサと再び穏やかな生活を送るようになったシリルだったが、被害者の息子で自身もシリルに殴られた少年マルタンがシリルを見つけて襲いかかる。逃げ出したシリルは木に登って逃れようとするが、マルタンが投げた石が当たって地面に落ちて気を失う。慌てたマルタンとその父親はシリルが勝手に落ちたことにして、救急車を呼ぼうとするが、そこでシリルの意識が戻る。そして、シリルは自転車に乗ってその場を後にする―。

少年と自転車 w.jpg ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の2011年作品で、第64回カンヌ国際映画祭のグランプリ(審査員特別グランプリ)受賞作であり、タルデンヌ兄弟はこの作品で、「ロゼッタ」('99年)での最高賞のパルム・ドールと女優賞受賞、「息子のまなざし」('02年)での男優賞受賞、「ある子供」('05年)でのパルム・ドール受賞、「ロルナの祈り」('08年)での脚本賞受賞に次ぐ"カンヌでの5作品連続での主要賞の受賞"を達成し、これは史上初のことです。いずれも若者や少年少女の貧困を描いており、この頃から格差社会をテーマにしたものがカンヌで賞を獲る傾向が強まったように思います(是枝裕和監督の「万引き家族」('18年/ギャガ)、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」('19年/韓国)がパルム・ドールを受賞したのもその流れか)。

少年と自転車es.jpg この作品は、ダルデンヌ監督が来日した際に日本で開催された少年犯罪のシンポジウムで耳にした育児放棄の実話("赤ちゃんの頃から施設に預けられた少年が、親が迎えに来るのを屋根にのぼって待ち続けていた"という話)に衝撃を受け、そこから着想したとのことで、親にも社会にも見捨てられた少年シリルが、初めて信用できる大人であるサマンサに出会うことで心を開き、人を信じ成長していく様が描かれています。11歳という年齢で、サマンサに「里親になってほしい」と自分か言うところに、彼の芯の強さと愛情への渇望の強さの両面を見たように思います。

少年と自転車3.jpg この作品の優れている点は、サマンサもまたシリルに愛情を与えることで自分の内にある母性に気づき、人を守ることの責任と喜びを知っていく、そのプロセスが描かれていることにもあります。サマンサにとってシリルは、診療所か何かの待合室で偶然出会っただけの少年だったはずなのに、彼の心の叫び声が聞こえたのでしょうか。シリルが再び罪を犯し、サマンサ自身の心身をも傷つけたにも関わらず、再び「いいわ」と彼を受け入れる場面は、考えさせられます。

少年と自転車 f.jpg 一方、自分の再就職と新しい恋人のためにシリルを捨て(シリルのために恋人と別れたサマンサと対照的)、それまで恐らくシリルを養育していたであろう母親が亡くなると、自分には子育てに自信が持てず、1か月生活が落ち着くまでの辛抱だからとシリルを児童養護施設に入れて姿をくらまし、その後はシリルが何とか会いにきても追い返してしまう父親は、実はシリルの少しでも父に接していたいという気持ちに気づいていながら、優柔不断のまま逃げまくているように見え、その背景には低賃金で子どを養っていけるまでには稼げないという、格差社会の問題があるように思えました。

少年と自転車 b.jpg この作品におけるシリルの自転車は、自分が外の世界と繋がるための手段としての象徴であるように思えました。以上述べてきたこれらをすべてを、説明的描写を排してドキュメンタリータッチで描いているところが、この作品に限らずタルデンヌ監督作品の特徴であり、どこに着眼するか観る人によって微妙に異なってくる作品かと思います。ただ、これまで、いきなり唐突に終わる(結果としてバッドエンドになる)作品が多かった中では、シリルが自分の信頼できて心休まる対象を獲得していく、ハッピーエンド的な作品だったかもしれません。

少年と自転車6.jpg「少年と自転車」●原題: LE GAMIN AU VELO●制作年:2011年●制作国:ベルギー・フランス・イタリア●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ドゥニ・フロイド●撮影:アラン・マルコァン●時間:87分●出演:トマ・ドレ/セシル・ドゥ・フランス/ジェレミー・レニエ/ファブリツィオ・ロンジョーネ/エゴン・ディ・マテオ/オリヴィエ・グルメ●日本公開:2012/03●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-12-03)(評価:★★★★)

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「人を受け入れることから、愛が生まれる。」―罪を犯した者を赦せるかがテーマ。

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息子のまなざし [DVD]」オリヴィエ・グルメ
息子のまなざし  1.jpg息子のまなざし  2.jpg 職業訓練所で働くオリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は、自身が受け持つ木工クラスにある日一人の少年フランシス(モルガン・マリンヌ)が新しく入ってくる。フランシスの顔にハッとしたオリヴィエは仕事を終えた後、離婚した元妻マガリ(イザベラ・スパール)に会って「"あの少年"が訓練所の生徒としてやって来た」と話す。5年前オリヴィエと元妻は、まだ子供だったフランシスに幼い息子を殺されており、少年院を出た彼は指導員が被害者の父親とは知らずに訓練所に訪れたのだった。オリヴィエは元妻の「彼に関わらない方がいい」との意見も聞かず、訓練所で他の少年たちと同じく彼にも木工技術を教え始める。フランシスが息子を殺した状況や動機を知りたくなるオリヴィエだが、とりあえず作業の様子や帰りに一緒に食事をするなどして彼の現在の様子をうかがう。フランシスに事件当時の話をそれとなく聞くことを決めたオリヴィエは、「木の種類を覚えるための勉強」と称してクルマで2人きりで製材所に材木を買いに行くことに。翌日その車中フランシスの方から数年前に盗みなどをして少年院に入ったことを打ち明けた後、オリヴィエに後見人になってくれるよう持ちかける。これに乗じてオリ息子のまなざし  3.jpgヴィエは盗みの話を詳しく聞くと、フランシスは「クルマからカーラジオを盗もうとしたら後部座席にいた子供に見つかり、もみ合ってる内に殺してしまった」と告白する。オリヴィエは息子が殺された当時の話にショックを受けながらも、製材所に着いた後フランシスと必要な材木の長さを計測して持ち帰る作業にかかる。しかしオリヴィエが「お前が殺したのは俺の息子だ」と真実を告げた途端、フランシスが高く積まれた材木置き場に身を隠してしまう。材木の上に登ったフランシスは棒きれをオリヴィエに投げつけて抵抗するが、その後興奮状態で少年を捕まえたオリヴィエは彼の上にまたがり首に両手をかける―。

LE FILS 2002 in Cannes.jpg ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の2002年の作品で、同年のカンヌ国際映画祭「主演男優賞」(オリヴィエ・グルメ(左写真中央))受賞作。日本公開時のキャッチコピーは「人を受け入れることから、愛が生まれる。」で、まさに「赦し」をテーマにした映画でした。

Cannes film festival 2002 - Morgan Marinne/Jean-Pierre Dardenne/Olivier Gourmet/Luc Dardenne/Isabella Soupart

息子のまなざし 7.jpg オリヴィエ・グルメは演じる、職業訓練所の木工クラスの指導員で、生徒たちから先生と呼ばれている、その名もオリヴィエがいいです。あまり感情を表に出すことがなく、いつもぶっきらぼうなものの言い方で、自宅のイスを使って腹筋を鍛えるのが日課。仕事柄5ⅿ程度までの距離なら目視で長さを言い当てることができるというまさに職人。心の中では過去に息子を殺してしまったフランシスに怒りの感情を抱きながらも、表向きはただの先生と生徒として交流を続けますが、そのことで元妻からは尋常ではないと批判されます。

The Son (2002) -.jpg オリヴィエ自身も、最初から確信をもって彼のことを赦すつもりだったようには見えず、どうして、またどうやって彼が息子を殺害したのか知りたい、彼の口から聞きたいという気持ちから、彼を生徒として受け入れたように見えますが、愛情に恵まれない生活を送ってきたと思しき彼を見るうちに、次第に彼に愛情を抱くようになったように見えます。説明を排除したドキュメンタリー風のタッチで撮っているため(さらにはオリヴィエが感情をあまり表に出さないため)、観る側がそうとるしかないのですが...。

 罪を犯した者を許せるかがテーマの作品だと思いますが、それを被害者家族の立場から描き、"果たして人間は最も憎いと思われる人間を受け入れることが出来るのか?"という問いになっているのがポイントです。

 例えば、日本は死刑制度の存置国ですが、欧州先進諸国では死刑制度を残している国はもうありません。死刑制度の意義について、「再犯防止」「犯罪抑止」「遺族感情」などが挙がりますが、犯人による再犯防止は本来なら"更生"させる努力をすべきであり、更生しなければその間は社会から隔離すればよいのであって、また、犯罪全般の抑止効果については、「死刑が他の刑罰に比べて効果的に犯罪を抑止する」という確実な証明は国内でも海外でもなされていません。となると、あと一つは、死刑が廃止されては被害者や遺族の感情が納得いかないという「遺族感情」の問題が残るだけで、実際、同程度の重さの犯罪であっても、被害者や遺族の処罰感情の強弱の違いで刑罰の重さが変わってくるということがあるのが、日本の裁判制度の実態です。

 しかし、犯罪者が死刑になったところで被害者や遺族の感情が癒えるかというと、"処罰感情"という感情の端的な部分においては解消されるにしても、気持ち全体として何か救われるといったことは無かったというのが、大方の被害者や遺族の意識のようです。そう考えると、重罪人に対して死刑を科すのはやむ得ないとし、死刑制度の存置を支持する世論が8割を占めるのが日本の現状ですが、罪を犯した者を許せるかどうかということをもっと考える方向に行くべきではないかと個人的には思います。

 話が死刑制度の方に行ってしまいました。フランシスはまだ16歳の少年であり、映画そのものは、貧困社会と少年犯罪の関係や、いったん犯罪を犯した者の社会復帰の難しさなど様々な社会的問題を内包していますが、"赦し"ということに関して、ちょっとそんなことも考えさせられた作品でした。

息子のまなざし (2002) モルガン・マリンヌ/イザベラ・スパール/オリヴィエ・グルメ
息子のまなざし (2002).jpgLE FILS 2002 Isabella Soupart.jpg「息子のまなざし」●原題:LE FILS●制作年:2002年●制作国:ベルギー・フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●撮影:アラン・マルクーン●時間:103分●出演:オリヴィエ・グルメ/モルガン・マリンヌ/イザベラ・スパール/レミー・ルノー/ナッシム・ハッサイー/クヴァン・ルロワ/フェリシャン・ピッツェール/アネット・クロッセ/ファビアン・マルネット/ジミー・ドゥルーフ/アンヌ・ジェラール●日本公開:2003/12●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-10-07)(評価:★★★★)

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イゴールが〈約束〉を守ろうとするのは、そのことが「父親離れ」「父親超え」に重なったからではないか。
イゴールの約束 1997.jpg イゴールの約束01.jpg イゴールの約束02.jpg
イゴールの約束 [DVD]
イゴールの約束 f1.jpg ベルギー。自動車修理工場の見習工のイゴール(ジェレミー・レニエ)は、父ロジェ(オリヴィエ・グルメ)の命令ですぐに仕事を抜けてしまう。ロジェは不法移民の斡旋が仕事で、イゴールは大事な助手なのだ。彼はほどなくクビに。不法移民宿泊施設。ブルキナファソ出身で古株のアミドゥ(ラスマネ・ウエドラオゴ)とその妻アシタ(アシタ・ウエドラオゴ)が赤ん坊を連れてやってくる。ある日、アミドゥが建築現場で作業中、突然移民局の抜き打ち査察があった。アミドゥは重傷を負うが、ロジェは警察沙汰を恐れて医者も呼イゴールの約束 00.jpgばない。傷の手当てもされず、アミドゥはイゴールに妻子の世話を頼んで死ぬ。深夜、ロジェはイゴールに手伝わせて、アミドゥの遺体をコンクリートの土台に埋め込む。翌朝、アシタは夫のことでイゴールを問い詰める。彼女のところには、男たちがアミドゥがギャンブルで作った借金の取り立てに来ていた。イゴールは彼女を助けようと金を渡すが、ロジェに知られて殴られる。ロジェはアシタを追い出そうとしていた。ロジェはアシタにアミドゥの名前で偽の電報を打つ。アシタを騙して連れ出し、イゴールの約束 3.jpg娼婦として売ろうというロジェの企みを知ったイゴールは、母子を連れて家出する。イゴールが勤めていた修理工場に3人は泊まるが、夜中に赤ん坊が熱を出し、アシタは半狂乱に。病院に転がり込むと、親切な係官と、アシタと同じアフリカ系のロザリー(クリスチャン・ムシアナ)が世話を焼いてくれた。アシタは赤ん坊を連れてイタリアの叔父さんの元へ行こうと決心。身分証明書はロザリーが借してくれた。イゴールはロジェからもらった指輪を売って旅費を作る。翌朝、ロジェが工場に現れ、イゴールに家を戻ってアシタ母子を引き渡せと命令する。イゴールは父親の言いつけを初めて拒絶し、ロジェを鎖で繋いで、アシタと駅へ急ぐ。ホームへ向かう途中、イゴールはアシタにアミドゥは亡くなったと真実を明かすと―。

LA PROMESSE a.jpg ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の1996年の作品で、長編第3作。カンヌ映画祭「ある視点」部門で注目され、パリで小規模公開ながらロングランを記録しています。

 この映画には幾つか感想や意見があるようで、一つは、仕事場で客の財布を盗むような素行の良くない不良で、父親の言いなりになってその不法移民の斡旋を手伝っていた、そんなイゴールが、死んだアミドゥが最期に「女房と息子を頼む」と彼に言い残した、その〈約束〉をなぜそんなにまでして守ろうとしたのかよくわからなかったというもの。世の中の格差と不正の犠牲になって喘ぐ人に感情移入し、正義感に目覚めたとするとあまりにキレイごと過ぎるのではないかというものです。

イゴールの約束 f2.jpg 個人的には、確かに彼の行動の動機として正義感みたいなものが無かったわけではないと思いますが、むしろ、今まで父親に言いなりになっていたのが、そこから逃れようとする"第二の自我"のようなものが生まれてきたということではないかと思います。つまり、アミドゥとの〈約束〉を守ることが、彼にとっては「父親離れ」乃至は「父親超え」に重なったからではないかと思います。

ジェレミー・レニエ/オリヴィエ・グルメ

 イゴールがあちこちへと奔走する中で、少しずつ彼の価値観が変化していく姿がよく、それでも事はスンナリはいかず、アミドゥの死をアシタに「正直に話そうよ」と父親に言いって争いになる一方、自身もアミドゥの妻にはなかなか事実を告げられないもどかしさを抱えて葛藤します。そしてラスト、アシタ母子を海外に逃がしてハッピーエンドかと思ったら、この兄弟監督はそう甘くなかったです。

 「えっ」と言うような終わり方。このラストでイゴールがアシタにアミドゥは亡くなったことを明かした行為についても様々な意見があるようです。果たしてそれが良かったのかということですが、良かったどうかは彼の判断能力の限界を超えていて、ただ彼の心の中ではアミドゥの妻に嘘をつき続けるのは後ろめたく、本当のことを言わずにはおれなかったということでしょう。

 彼女を海外に逃がすことを優先して、今はアミドゥが亡くなったことは言わないでおく―といったことは、子どもであるイゴールには出来かねたというのがまさにリアリズムであり、この"苦い"結末は、ドキュメンタリー出身の監督らしいとも言えます

LA PROMESSE 1996.jpgイゴールの約束 5.jpg「イゴールの約束」●原題:LA PROMESS●制作年:1996年●制作国:ベルギー・フランス・ルクセンブルク●監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ハッサン・ダルドゥル クロード・ワリンゴ ジャクリーヌ・ピエルー●脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/レオン・ミショー/アルフォンソ・バドロ●撮影:アラン・マルクーン●時間:93分●出演:ジェレミー・レニエ/オリヴィエ・グルメ/アシタ・ウエドラオゴ/フレデリック・ボドソン/ラスマネ・ウエドラオゴ●日本公開:1997/05●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-09-20)(評価:★★★★)

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ブレッソンの「少女ムシェット」「ラルジャン」を想起させられた。エミリー・デュケンヌは好演。

ロゼッタ 1999.jpgロゼッタ dvd.jpg  ロゼッタ カンヌ.jpg
ロゼッタ [DVD]」ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督とエミリー・デュケンヌ in 第52回カンヌ国際映画祭(1999)
ロゼッタ es.jpg 16歳の少女ロゼッタ(エミリー・デュケンヌ)は、働いていた工場から突然解雇され、暴れながら警備員につまみ出される。彼女はバスに乗り、住まいであるトレーラーハウスがあるキャンプ場に、いつもの秘密の入り口から入る。トレーラーハウスにはアル中でセックス依存症の母親(アンヌ・イェルノー)がいて、ロゼッタに隠れて酒を飲んでは男を連れ込むため、ロゼッタとはいつも喧嘩に。ロゼッタも持病の腹痛に悩まされている。管理人に隠れてキャンプ場の中の池で釣りをするロゼッタ。町で母親が繕い直した古着を売るが大した金にはならず、役所に届け出た休ロゼッタ09.jpg職届も受け取ってもらえない。いつも立ち寄るワッフル・スタンドで、新顔の店員リケ(ファブリツィオ・ロンギオーヌ)と知り合う。リケのお蔭でワッフル製造の仕事を得たロゼッタだが、社長(オリヴィエ・グルメ)はすぐに自分の息子に仕事を渡してしまい、彼女はまたも失職。リケは彼女に自分が密ロゼッタ 映画ages.jpgかに作っているワッフルを売ることを勧めるが、仕事が欲しいロゼッタはそのことを社長に密告、クビになったリケの替わりに職を得る。問いつめるリケにロゼッタは仕事のためと素っ気なく答える。だが、家に戻り泥酔して眠り込む母親を見た彼女は、社長に電話し仕事を辞めることを伝える。そのことを知らないリケはキャンプ場にやってきて彼女を追い回す。何もかもうまくいかず、倒れ込み泣き出すロゼッタ。リケはロゼッタを黙って抱き起こす―。

ロゼッタ 5zj.jpeg 1999年公開のジャン=ピエール&ダルリュック・ダルデンヌの兄弟の監督によるベルギー・フランス映画で、第52回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しており(審査委員長はデヴィッド・クローネンバーグ監督)、更に主演のエミリー・ドゥケンヌが女優賞を獲得しています。ダルデンヌ兄弟はその後「ある子供」('05年/ベルギー・仏)で2度目のパルム・ドールを受賞することになりますが、個人的には「ある子供」の方を先に観ました。「ある子供」が終始ドキュメンタリー・タッチであったこともあって、おそらくこの映画もいきなり終わったりするのだろうなあと思っていましたが、確かに「ある子供」以上に"いきなり"終わりました。ドキュメンタリーでも、最後は何かまとめ的な終わり方をするのが通常であり、ドキュメンタリー出身のダルデンヌの兄弟の場合、むしろ"いきなり"終わるところが映画的なのかもしれません。

 ロベール・ブレッソンの影響を強く感じました。ラストは、ロゼッタが窓の隙間に詰め物をしたり、プロパンガスのボンベのガスが無いので管理人の所へ行って新しいボンベを買ったりしているので何をしているのかなと思いましたが、これも、恵まれない境遇にある少女が最期に自殺を遂げるブレッソンの「少女ムシェット」('67年/仏)が想起され、ああ、これから自殺しようとしているのだと気づきました。

ロゼッタages.jpg その(自死に向けて)重たいプロパンボンベをトレーラーハウスまでよろけながら運ぶロゼッタのところへ、ロゼッタに裏切られて自らの職を奪われたリケがやってきて、すでにロゼッタがリケから奪った仕事も辞めていることを知らずに、彼女の周りをバイクでぐるぐり回ります。彼はロゼッタの現在の行動の意味がわからず、ただ彼女がなぜ自分を裏切ったのか知りたかっただけだと思いますが、ロゼッタがよろけた際に彼が手を差し伸べたところで映画は終わります。その際に、ロゼッタが初めて見せる誰かに救いを求めるような表情―これが、これまで自らの境遇とたった独り闘い続け、外に対して心を閉ざしきたロゼッタの"救い"の兆しなのかもしれません(「ある子供」では男性に対して女性の存在が救いとなっていて、男女の位相がちようど逆になっている感じか)。

ロゼッタ 映画es.jpg そこに至るまでにも、リケと知り合うもトレーラーに住んでいることをリケに知られたくなかったロゼッタが、仕事の空きを知らせに来たリケに殴りかかるといったこともありました。一方で、トレーラーハウスに帰るのが嫌なロゼッタを、ロゼッタに仕事をみつけてくれたリケが自分の家に泊めた際に、寝る前にロゼッタが彼女自身に「ロゼッタ、仕事も見つけた」「ロゼッタ、友達もできた」「まっとうに生きる」と話しかけるシーンもありました(これが唯一ロゼッタの心象を描いたシーン)。それでいてロゼッタの新たな仕事が社長の息子に奪われてしまうと、リケがこっそり自分用にワッフルを作っていることを社長に密告してその仕事を奪ってしまうわけであって、フツーに考えれば彼女は人としてやってはいけないことをやっていることになりますが、それくらのことをするまでのロゼッタの仕事への執念とも取れるし、それだけ彼女の心の闇が深いことを物語っているとも言えます。

ロゼッタ 映画ges.jpg ロゼッタがその後どうなるかは殆ど示唆されておらず、この映画を観る側に委ねられていうようにも思われ、個人的にはロベール・ブレッソン監督の「ラルジャン」('83年/年/仏・スイス)とダルデンヌの兄弟自身の「ある子供」の中間的な終わり方になっているようにも思いました。カンヌ映画祭ではパルム・ドール受賞に関して賛があったようですが("上から目線"的だという批判もあった?)、先にも述べた通り兄弟は「ある子供」で2度目のパルム・ドールを受賞することになり、また、映画初出演で女優賞を獲得したエミリー・デュケンヌ(当時17歳だが好演。むしろこちらの受賞の方がすんなり受け入れられたのではないか)も、2009年にはアンドレ・テシネ監督映画の「La fille du RER」でカトリーヌ・ドヌーヴと共に主演を務めるなど女優として活躍しています。

ロゼッタ 映画ド.jpg「ロゼッタ」●原題:ROSETTA●制作年:1999年●制作国:ベルギー・フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ローラン・ペタン/マイケル・パティン●撮影:アラン・マルクーン●時間:93分●出演:エミリー・ドゥケンヌ/ファブリッツィオ・ロンギーヌ/アンヌ・イェルノー/オリヴィエ・グルメイ●日本公開:2000/04●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-02-25)(評価:★★★★)

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ブレッソンっぽい。ドメンタリーの手法を上手く生かし、最後まで貫き通すことで成功している。

ある子供 2005 dvd.jpgある子供01.jpg ダルデンヌ兄弟 58回カンヌ国際映画祭パルム・ドール.jpg
ある子供 [DVD]」デボラ・フランソワ/ジェレミー・レニエ  ダルデンヌ兄弟 in 第58回カンヌ国際映画祭(2005)(プレゼンター:モーガン・フリーマン/ヒラリー・スワンク)
ある子供00.jpg 20歳のブリュノ(ジェレミー・レニエ)と18歳のソニア(デボラ・フランソワ)のカップルは、生活保護給付金と、ブリュノある子供02.jpgが14歳の少年スティーヴ(ジェレミー・スガール)らと盗みを働きながら得た金で食いつなぐ、その日暮らしの生活を送っていた。二人に赤ん坊が出来たとき、ソニアはブリュノに真面目に働くようにと紹介ある子供04.jpgされた仕事を教えるも、相変わらずブリュノに定職に就く気はなく、職業斡旋所に並ぶ列から離れた彼は、赤ん坊と二人っきりになった隙に、闇取引業者に赤ん坊を養子として売ってしまい、それを聞いたソニアは卒倒し病院に運ばれる。ブリュノは闇取引業者から赤ん坊を取り返したものの、意識を戻したソニアは警察に事の次第を話していた。怒りの収まらないソニアに家を追い出されたブリュノは、再び手下の少年スティーヴを使って、スクーターによるひったくり強盗を働くが、私服刑事に追われることに―。

ダルデンヌ兄弟Dardenne-brothers.jpg 2005年公開のジャン=ピエール&ダルリュック・ダルデンヌの兄弟の監督によるベルギー・フランス映画で、第58回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞作。ダルデンヌ兄弟は1999年に「ロゼッタ」('99年/ベルギー・仏)で第52回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞しており、この作品で、パルム・ドールを2度受賞した5組目の監督となりました(日本人では今村昌平監督が2度受賞している)。

Dardenne-brothers

ラルジャン.jpg 元々ドキュメンタリー映画出身の兄弟監督ですが、この作品はそのドメンタリーの手法を上手く生かしているよう思いました。音楽は一切なく、1つのシーンにおける時間の流れも出来るだけ切らないようにして撮っているのが感じられました。すでに言われているように、ロベール・ブレッソンの映画を強く受けていることが窺え、ブリュノの犯行の犯行の手口を克明に追う様などは「スリ」('59年/仏)を、ブリュノが転落して行く様や、ラストでソニアがブリュノに面会に来る場面などは、「ラルジャン」('83年/仏・スイス)を想起させられました。

ある子供03.jpg 子どもがが生まれたことによって、母性に目覚め、いち早く今までの生活から抜け出そうと考えるようになったソニアと、何とその子どもを他人に売ってしまい、一時的に大金を得て喜んでいるブリュノ―という2人が対比的に描かれていて、「その子供」とは、2人の間に生まれた赤ん坊("子ども")を指すというよりも、むしろ、貧困と無知ゆえに、常人ならば備えているはずの倫理道徳観を持たないブリュノ("子供")を指していることが窺えます。どうしてソニアがもっと早くにブリュノに見切りをつけないのかなと思ってしまいますが、"子ども"が生まれるまではソニア自身も"子供"であったということなのでしょう。

ある子供06.jpg 最後にブリュノは、共に私服刑事に追われ、冷たい川に逃れたために低体温症となった末警察に捕まったスティーヴを救うために、自分が首謀者だと警察に自首するという初めてまともな行動をし、更に、刑務所を訪れて再びブリュノの気持ちに寄り添うソニアと共に涙を流します。それが、この作品の救いとなっていますが、この2人が本当にこれから一緒にやっていけるのか、また一緒にやっていくことがソニアにとっていいことなのか、それは誰にも分からない―といった終わり方になっているところが、ヨーロッパ映画らしいと言うか、この監督らしいと言えます(少なくともハリウッド映画的ではない)。

L'enfant (2005).jpg もしこれが、ソニアの愛情によってブリュノが《心底改悛し、将来立直ることが誰の目にも明らかに分かる》終わり方だったら、これまでずっと緊迫したドメンタリー・タッチできたものが、最後の部分だけとって付けたように"お話"になってしまうため、そうならないようにしたのではないかと思います。

Deborah_François_César_2016.jpg 但し、観る人によっては、ストレートに感動作ととる人、一歩引いて"お涙頂戴"ではないかとる人もいれば、ラストがはっきりしない(二人がこの先どうなるか分からない)のを不満に思う人もいるかもしれません。この加減が難しいところですが、個人的には、先に述べた通り、ドメンタリー・タッチを最後まで貫き通しているように思われ、そのことによって成功している作品だと思います。

L'enfant (2005) デボラ・フランソワ Deborah_François__2016(ベルギー出身)

ある子供 ges.jpg「ある子供」●原題:L'ENFANT●制作年:2005年●制作国:ベルギー・フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデン/デニス・フレイド●撮影:アラン・マルコァンツ●時間:95分●出演:ジェレミー・レニエ/デボラ・フランソワ/ジェレミー・スガール/ファブリツィオ・ロンジョーネ/オリヴィエ・グルメ/ステファーヌ・ビソ/ミレーユ・バイ●日本公開:2005/12●配給:ビターズ・エンド(評価:★★★★)

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