【3283】 ○ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」 (72年/西独) (2023/06 セテラ・インターナショナル) ★★★☆

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根底にはユーモアがあるものの、痛みが多く感じられる映画。監督の最高傑作とれながら、公開が遅れた。
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「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」

「ペトラ・フォン・カント01.jpg ドイツ・ブレーメン。女性ファッション・デザイナーのペトラ(マルギット・カルステンセン)は、2度の結婚に失敗していて、最初の夫との間には娘がいた。今の彼女は、アシスタントのマレーネ(イルム・ヘルマン)を下僕のように扱いながら、アトリエ兼アパルトマンの部屋で生活している。ある日、友人のシドニー(カトリン・シャーケ)が部屋を訪れ、彼女に若い女性カーリン(ハンナ・シグラ)を紹介する。ペトラは美しいカーリンに心奪われ、彼女と同棲を始めるが―。

「ペトラ・フォン・カント絵.jpg ニュー・ジャーマン・シネマの鬼才ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(1945-1982/37歳没)が1972年に手掛けた、女性同士の愛を描いたメロドラマ。1972年のドイツ映画賞で主演女優賞、助演女優賞、撮影賞を受賞。この映画の男性版リメイク作品である、フランソワ・オゾン監督の、男性の映画監督が野心的な青年に惚れ嫉妬に身を狂わせていくという「苦い涙」('22年/仏)が今年['23年]6月に公開されたのを機に公開されましたが、DVDは'18年に発売されていました(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督、フランソワ・オゾン監督ともにゲイである)。

「ペトラ・フォン・カント02.jpg 映画は主人公ペトラのアパルトマンの一室で終始、あたかも演劇のように展開され、部屋の美術装飾がちょっと過剰なぐらい凄まじいです。宗教画のような絵画に加えて、衣装や部屋を区切る窓や梁の独特な構図や、実験的演出が取り入れられています。

 2度目の夫と離婚したばかりのペトラは、自分の成功が夫を傷つけたと友人に語り、そこに突然カーリンが現れ、彼女はカーリンをスターにすることに情熱を注ぎますが、結局のところカーリンにとってペトラは成功の踏み台でしかなかった―。

「ペトラ・フォン・カント03.jpg でも結局カーリンは自堕落で奔放な女で、じきにペトラを見限り夫のもとへと戻ってしまったため、そのショックからペトラは常軌を逸してしまいますが、やがて彼女は、自分を支配しようとする男(過去の夫)たちに絶望していた自分が、結局は自分もカーリンを支配したがっていたことに気づき、それが「苦い涙」ということになるのでしょう。しかし、その時はしすでに時遅く、アシスタントのマレーネ(彼女の支配欲の対象であると同時に潜在的同性愛の対象?)も彼女の下を去っていきます。

 相手に依存し、同時に支配下に置きたがるという異性愛でよくあることを同性愛で描いた作品であり、自分が男優のギュンター・カウフマンと同性愛関係にあり、それを女性同士に置き換えたことで映画はより複雑になっています。さらに、それにペトラと娘の確執なども絡んできて(「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」 ('22年/米)か(笑))、映画の根底にはユーモアがあるものの、痛みが多く感じられる映画でした。そのキツさもあるし、ペトラの「支配したい願望」にもちょっと感情移入しにくかったかもしれません(ファスビンダー監督の最高傑作と評価されながら、公開が遅れたのもそのせいか)。 

 ペトラを演じたマルギット・カルステンセン(1940年生まれ)は「マルタ」('74年/西独)などファスビンダー作品の常連でしたが、今年['23年]6月、83歳で亡くなっています。一方、カーリンを演じたハンナ・シグラ(1943年生まれ)も「マリア・ブラウンの結婚」('79年/西独)などファスビンダー作品の常連で、今はフランソワ・オゾン監督の常連、同監督の「すべてうまくいきますように」 (21年/仏・ベルギー)やこの作品のリメイク作「苦い涙」('22年/仏)に出演しています。

「ペトラ・フォン・カント 1972.jpg「ペトラ・フォン・カントの苦い涙」●原題:DIE BITTEREN TRANEN DER PETRA VON KANT/(英)THE BITTER TEARS OF PETRA VON KANT●制作年:1972年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・原作:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●製作:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー/ミハエル・フェングラー●撮影:ミヒャエル・バルハウス●音楽:プラターズ●時間:124分●出演:マルギット・カルステンセン/ハンナ・シグラ/カトリン・シャーケ/エーファ・マッテス/ギーゼラ・ファッケルディ/イルム・ヘルマン●日本公開:2023/06(DVD発売:2018/12)●配給:セテラ・インターナショナル●最初に観た場所:新宿武蔵野館(スクリーン2)(23-06-23)(評価:★★★☆)

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