【3292】 ○ ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー 「不安は魂を食いつくす(不安と魂)」 (74年/西独) (2023/07 マーメイドフィルム=コピアポア・フィルム) ★★★☆

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愛に起因する苦悩や残酷さと人種差別批判のダイレクトなメッセージを併せ持つ。

『不安は魂を食いつくす』000.jpg
不安は魂を食いつくす【DVD】
(不安と魂)01.jpg 掃除婦として働きながら一人暮らしをしている60代のドイツ人女性エミ(ブリギッテ・ミラ)は、雨宿りに入ったアラブ系のバーで20歳以上も年下のモロッコ人の自動車工アリ(エル・ヘディ・ベン・サレム)と出会う。ダンスをし、話をして意気(不安と魂)02.jpg投合した二人は一緒に暮らし始め、結婚する。外国人に対する偏見が強いその町で、アラブ人の外国人労働者と一緒にいることで、隣人、同僚、家族をはじ(不安と魂)03.jpgめ、行く先々の人々から差別と偏見に満ちた扱いを受ける。エミはアリを守り、アリはそうした人種差別者に対して寛容にふるまい、二人は幸せに暮らしていたが、ある日エミがアリの自尊心を傷つけるようなことをしたため、アリは家を出る。アリを求めてエミは二人が出会ったバーに行き、最初に踊ったダンスの曲をかける。二人はまたダンスを踊り始めるが、突然アリが腹痛で倒れ、病院に運ばれる。医師から、日常的な差別によるストレスからくる胃潰瘍であることを告げられたエミは横たわるアリに静かに寄り添う―。

 ニュー・ジャーマン・シネマを牽引したライナー・ベルナー・ファスビンダー(1945-1982/37歳没)監督の1974年作で、1955年製作のダグラス・サーク監督作「天はすべて許し給う」の物語を下敷きに、愛に起因する苦悩や残酷さを描いたドラマ。昨年['23年]全国的に実施された「ライナー・ベルナー・ファスビンダー傑作選」上映会での上映が日本初の劇場公開でした(この時、「天はすべて許し給う」も上映されている)。

(不安と魂)04.jpg 第27回カンヌ国際映画祭で「国際批評家連盟賞」「エキュメニカル審査員賞」を受賞しています。今から半世紀前ににこうした人種的偏見を批判するダイレクトなメッセージを持った映画を撮っていることもスゴイですが、それでちゃんと愛とそれに起因する苦悩の物語に仕上げているのはファスビンダーらしく、そのため押しつけがましい印象がないのがいいです(近年では、同じくゲイであることを公表しているフランソワ・オゾンジ監督の作品などがこの系譜ではないか)。

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(左端)

(不安と魂)05.jpg 余談になりますが、モロッコ人移民アリを演じたエル・ヘディ・ベン・サレムは、当時のファスビンダーの同性愛パートナーです。モロッコ出身の彼をパリのゲイ向けサウナで見つけたファスビンダーは一目惚れしてミュンヘンへと連れ帰り、俳優でもなく、ドイツ語も話せない黒人男性を初めて自らの映画の主役級の役柄で出演させたのが本作です。

(不安と魂)06.jpg しかし、そのサレムには酒乱癖があり、本作完成後に酒場で酔って暴れ、3人の男性を次々に刺して指名手配され、逮捕を恐れファスビンダーに無断でフランスへと逃亡、結局フランス当局に逮捕され独房で自殺しています。後に彼の最期を知ったファスビンダーは強い衝撃を受け、遺作「ケレル」をサレムに捧げています。

 因みに、ファスビンダーはサレムに去られた1974年以降は、"ドイツの秋"の語源となった共作映画「秋のドイツ」(1978年公開)のファスビンダーの担当パートに出演したアルミン・マイアーと恋愛関係にありましたが、この新たな恋人のマイヤーも大量の睡眠薬を飲んで1978年5月に自殺しています。

(不安と魂)00.jpg 何だか、映画よりもファスビンダーに纏わる裏話の方がスゴそうですが、この話にはまだ続きがあり、かけがえのない友人でありパートナーを相次いで失ったショックから、ファスビンダーは徐々に麻薬へと手を染めていくようになり、1982年、コカインの過剰摂取により37歳で死去しています。それまでの16年間で44本の映画、14本の戯曲、6本の脚色戯曲、4本のラジオドラマを発表しており、もしもっと生きていたら何本映画を撮っただろうかとも考えてしまいますが、むしろ当時はオーバーワークが常態化していて、そのまま続けていてもどこかで限界にぶつかっていたようにも思います。

 作品の方に戻ると、多作にもかかわらす、この作品もカット割りとか構図などはしっかり計算されていて、さすが「マリア・ブラウンの結婚」と並ぶファスビンダー美学の極致と言われる作品だけあるなあと思いました。ただ、ややメロドラマ的なところが、個人的には好みに合わなかったとまではいかないですが、キレを欠いたようにも思えました。

「不安は魂を食いつくす((不安と魂))」●原題:ANGST ESSEN SEELE AUF●制作年:1974年●制作国:西ドイツ●監督・製作・脚本・音楽:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー●撮影:ユルゲン・ユルゲス●時間:95分●出演:ブリギッテ・ミラ/エル・ヘディ・ベン・サレム/バーバラ・ヴァレンティン/イルム・ヘルマン●日本公開:2023/07●配給:マーメイドフィルム=コピアポア・フィルム●最初に観た場所:Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(23-08-02)(評価:★★★☆)●同日上映:「マリア・ブラウンの結婚」(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)

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