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読み物を読むように読ませ、結果として記憶にも残るようになっていた。

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労働法入門―がっぽり給料をもらうために (1968年) (カッパ・ビジネス) 』(イラスト:笠間しろう)『労働法入門―がっぽり給料をもらうために』[新カバー版]

『労働法入門』佐賀1-2.jpg 弁護士作家・佐賀潜(1909 - 1970)の『商法入門』『民法入門』などの「法律入門書シリーズ」の1冊であり、1973(昭和48)年4月刊行。1つの見開き1項目で、読み易いものとなっています。

 各項目は所謂「労働三法」の括りになっていて、第1部が「労働基準法」で1~49の49項目、第2部が「労働組合法」で50~101の52項目、第3部が「労働関係調整法」で102~113の12項目となっています。これはバランスが良いように見えますが、現在の労働法のテキストでは「労働基準法」など「個別的労働法」の記述が主で、「労働組合法」「労働関係調整法」など「集団的労働法」にはさほどページを割かないのが、本書では「個別的労働法」と「集団的労働法」の比率が49:64 ≒ 43:57と「集団的労働法」が「個別的労働法」を上回っているところに、隔世の感を覚えます。

 第1部「労働基準法」では、第1項が、労基法第1条(労働条件の原則)「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」の解説で、タイトルが「給料は、妻子を養うのに十分なものを要求していい」というくだけた表現になっているのが著者らしいです。

 第3項は、労基法第3条(均等待遇)「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」の解説で、「学生運動に熱中していたのを理由に、就職試験で落とされても、文句は言えない」と。採用条件は労働条件に当たらないというのは、均等法などは別として、労基法上の解釈としては今も変わっていません。文中に羽田事件や佐世保事件といった言葉が出てきますが、学生運動を経験していたことを理由とする本採用拒否の是非が争われた「三菱樹脂事件」の最高裁判決のことは書かれていないなあと思ったら、当該判決は本書が刊行された年の昭和48年の12月に出ていました。

 第11項は、労基法第16条(賠償予定の禁止)「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」の解説で、俳優が「他社の映画に出演したら違約金をとるという約束は、違法になることがある」としており、これは当時の映画界の「五社協定」を意識して書かれているのでしょう。

 第12項は、労基法(前借金相殺の禁止)「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」の解説で、自身が旅先で美人芸者から相談を受け、前借金を理由に彼女の体を縛って歌いた置屋の女将を諭した経験談が出てきて、これなんか凄いなあ、こんな弁護士の体験談が書いてある本って今は無いのではと思います。

『労働法入門―0.jpg 第22項、労基法第34条(休憩)「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。(中略)③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない」の解説のタイトルが、「昼休みに愛人と同伴ホテルに行っても、かまわない」(笑)、第25項、労基法第39条(年次有給休暇)の解説タイトルが、「一年分の有給休暇を一度にとっても、かまわない」、とかなり極端な表現もありますが、分かりやすくするためのことでしょう。

 第31項、労基法第62条(深夜業)(現61条)の解説で、「映画女優やスチュワーデスには、深夜残業がみとめられている」とありますが、当時は女性の深夜業が一部の例外を除き認められていませんでした。著者が深夜番組「イレブンPM」のレギュラー出演者だった時、藤本義一の初代アシスタントを務めた安藤孝子や番組に出ていたカバーガールの話が出てきます。

 「バスガールの月経不順も、業務上の疾病である」(労基法第75条(療養補償))とか「業務上の負傷で、睾丸を失ったら、平均賃金五百六十日分の補償をとれる」(労基法第77条(障害補償))とか、「妾には遺族補償がない」(労基法第79条(障害補償))とか。とにかく面白く、読み物を読むように読ませ、結果として記憶にも残るようになっていたと改めて思いました。

商法入門1.jpg

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楽しく読めて、商法や会社法の考え方を大筋で知る上では、今でも役立つ。

民法・商法入門・56.JPGI商法入門.jpg商法入門/佐賀潜.jpg   民法入門.jpg
商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために (1967年)』/『商法入門』 改版版/『民法入門―金と女で失敗しないために (1967年) (カッパ・ビジネス)

法律(昭和43年)▷「刑法入門・民法入門・商法入門.jpg 佐賀潜の法律入門書シリーズの1冊であり、学生時代に法律を勉強したことが無かった自分には、例えば、商法における「商人」とは何かについて、「売春婦は商人ではないが、売春宿の主人は商人である」といった説明の仕方で入る点などは興味を引かれるとともに、条文解釈が懇切丁寧で、全体を通して非常にわかり易かったです。

 今は別立ての法律となっている会社法の部分が含まれており、株式会社とは何か、取締役とは何かといったことのアウトラインも掴め、細部は法改正などで変わっている部分もありますが、商法や会社法の考え方を大筋で知るための入門書としては、今でも役立つのではないでしょうか。

 社長は取締役を解任できないが、「取締役の過半数が結託すれば、社長をクビにできる」などといったことは、本書で初めて知りましたが、その後、三越の岡田社長解任劇など、そうしたことが本当に起きるような時代になっていきました。取締役は原則として労働基準法ではなく商法(会社法)の適用を受けるので、企業法務に携わる仕事をする人にとっては、商法(会社法)の知識は必須のものと言えるでしょう。

佐賀潜.jpg 佐賀潜(1914‐1970/享年56)は、中央大学法学部在学中に司法試験に合格し、検事として活躍した後、弁護士に転じた、所謂"ヤメ検"でした(最近では 大澤孝征弁護士・元東京地検検事などがそう)。弁護士時代もやり手だったようで、それでいて、推理作家としても華々しいデビューをし、多くの娯楽作品を手掛けた人で、父親を含め先祖代々佐賀鍋島藩の出身ですが、ペンネームはその"佐賀"に「犯人をなかなか"捜せん"」を懸けたものです。

民法入門02.jpg この作家の、小説ではないところの「法律シリーズ」は、『民法入門-金と女で失敗しないために』(これもかなり面白い。お薦め!)、『刑法入門-臭い飯を食わないために』が'68(昭和43)年にベストセラー2位と3位になったほか、『商法入門』、『道路交通法』も同年の7位と9位にランクインしていて、これはかなりスゴイことではないでしょうか。

商法入門1.jpg 表紙カバーの推薦の辞を、『商法入門』が作家の梶山李之、『民法入門』が経済評論家の三鬼陽之助が担当しているのも、時代を感じさせます(佐賀潜自身は、三島由紀夫の『葉隠入門』('67年/光文社カッパブックス)に推薦の辞を寄せている)。

 【1974年・1986改版/1990年新版[カッパビジネス『新版 商法入門―安全・確実に儲けるために』]】

《読書MEMO》
●1968年(昭和43年)ベストセラー
1.『人間革命(4)』池田大作(聖教新聞社)
2.『民法入門―金と女で失敗しないために』佐賀 潜(光文社)
3.『刑法入門―臭い飯を食わないために』佐賀 潜(光文社)
4・『竜馬がゆく(1~5)』司馬遼太郎(文藝春秋)
5.『頭の体操(4)』多湖輝(光文社)
6.『どくとるマンボウ青春記』北杜夫(中央公論社)
7.『商法入門―ペテン師・悪党に打ち勝つために』佐賀 潜(光文社)
8.『愛(愛する愛と愛される愛) 』御木徳近(ベストセラーズ)
9・『道路交通法入門―お巡りさんにドヤされないために』佐賀 潜(光文社)
10.『Dの複合』松本清張(光文社)

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