【3302】 ○ 菊本 治男/本多 藤男 『新労働法入門―堂々と主張し、がっちりもらうために』 (1975/03 サンポウ・ブックス) ★★★☆

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3分の2が「集団的労働法」関係であるところに時代を感じる。

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新労働法入門―堂々と主張し、がっちりもらうために (1975年) (サンポウ・ブックス)』/佐賀潜『労働法入門―がっぽり給料をもらうために (1968年) (カッパ・ビジネス)

 先に取り上げた佐賀潜の『労働法入門』('68年/カッパビジネス)から7年後の、1975(昭和50)年刊行で、やはり、1見開き1項目で読み易いです。

 佐賀潜の『労働法入門』は第1部が「労働基準法」で1~49の49項目、第2部が「労働組合法」で50~101の52項目、第3部が「労働関係調整法」で102~113の12項目で、「個別的労働法」と「集団的労働法」の比率が43:57となっていましたが、こちらはどうでしょうか。

 第1章「労働条件」が1~12の12項目、以下、「労働三権」の内の2つ、第2章「争議権」が13~34の22項目、第3章「団結権」が35~57の23項目、第4章「解雇・配転」が58~73の16項目、さらに第5章「労使関係」として74~92までの19項目です。最後の「労使関係」の中身を見ていくと、75の「10人以上の事業所の就業規則作成義務」、83の「職務外行為による解雇」、91の「出向命令」の3つ以外はほぼすべて労働組合や不当労働行為等について述べたものであり、「集団的労働法」に関わるものとみていいでしょう。

個別集団.jpg そうすると、「個別的労働法」に関わる項目が12+16+3=31、「集団的労働法」に関わる項目が22+23+19-3=61となり、個別的労働法:集団的労働法の百分比は31:61 ≒ 34:66と、何と7年前刊行の佐賀潜『労働法入門』を上回る、ほぼ3分の2が集団的労働法関係ということになります。当時労働法と言えば、まだかなりの部分、「集団的労働法」が含まれていたことが窺えます。

『新労働法入門』02.jpg 佐賀潜版は、カバー表表紙折り返しに当時の合化労連委員長(前総評議長)の太田薫が、カバー裏表紙に当時の都労委員長・塚本重頼が推薦文を寄せていましたが、こちらも、カバー裏表紙折り返しに太田薫、カバー裏表紙に塚本重頼が推薦文を寄せています。

 第4章「解雇・配転」の第72項で、「定年退職には本人の同意が必要か」として、「労働条件が不利益に改正されても、それが合理的なものであるかぎり、個々の労働者が同意しないからといって、その適用を拒否できない」という「秋北バス事件」の最高裁判決が出てきますが、当時、この会社の一般従業員は定年が50歳だったのだなあ。そこに、従来は定年の無かった管理職に55歳定年を導入したことによる不利益変更の合理性が争われ、「合理性あり」と判示された事件でした。

 この有名な判例の話が佐賀潜の『労働法入門』には出てなかったなあと思ったら、当該判決は佐賀潜『労働法入門』刊行年の昭和48年の暮れ、12月25日に出されていました。因みに、これも有名事件である「三菱樹脂事件」の最高裁判決も昭和48年12月12日に出されていて、佐賀潜の『労働法入門』の方では触れられていません(間に合わなかった)。裁判例は年月の経過とともに積み上げられていくものだなあと改めて思わされます。

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