【3301】 ○ 佐賀 潜 『労働法入門―がっぽり給料をもらうために』 (1968/04 カッパ・ビジネス) ★★★★

「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3302】菊本 治男/本多 藤男 『新労働法入門
「●さ 佐賀 潜」の インデックッスへ

読み物を読むように読ませ、結果として記憶にも残るようになっていた。

『労働法入門』佐賀1.jpg 『労働法入門』佐賀-2.jpg 『労働法入門』佐賀2.jpg
労働法入門―がっぽり給料をもらうために (1968年) (カッパ・ビジネス) 』(イラスト:笠間しろう)『労働法入門―がっぽり給料をもらうために』[新カバー版]

『労働法入門』佐賀1-2.jpg 弁護士作家・佐賀潜(1909 - 1970)の『商法入門』『民法入門』などの「法律入門書シリーズ」の1冊であり、1973(昭和48)年4月刊行。1つの見開き1項目で、読み易いものとなっています。

 各項目は所謂「労働三法」の括りになっていて、第1部が「労働基準法」で1~49の49項目、第2部が「労働組合法」で50~101の52項目、第3部が「労働関係調整法」で102~113の12項目となっています。これはバランスが良いように見えますが、現在の労働法のテキストでは「労働基準法」など「個別的労働法」の記述が主で、「労働組合法」「労働関係調整法」など「集団的労働法」にはさほどページを割かないのが、本書では「個別的労働法」と「集団的労働法」の比率が49:64 ≒ 43:57と「集団的労働法」が「個別的労働法」を上回っているところに、隔世の感を覚えます。

 第1部「労働基準法」では、第1項が、労基法第1条(労働条件の原則)「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」の解説で、タイトルが「給料は、妻子を養うのに十分なものを要求していい」というくだけた表現になっているのが著者らしいです。

 第3項は、労基法第3条(均等待遇)「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」の解説で、「学生運動に熱中していたのを理由に、就職試験で落とされても、文句は言えない」と。採用条件は労働条件に当たらないというのは、均等法などは別として、労基法上の解釈としては今も変わっていません。文中に羽田事件や佐世保事件といった言葉が出てきますが、学生運動を経験していたことを理由とする本採用拒否の是非が争われた「三菱樹脂事件」の最高裁判決のことは書かれていないなあと思ったら、当該判決は本書が刊行された年の昭和48年の12月に出ていました。

 第11項は、労基法第16条(賠償予定の禁止)「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」の解説で、俳優が「他社の映画に出演したら違約金をとるという約束は、違法になることがある」としており、これは当時の映画界の「五社協定」を意識して書かれているのでしょう。

 第12項は、労基法(前借金相殺の禁止)「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」の解説で、自身が旅先で美人芸者から相談を受け、前借金を理由に彼女の体を縛って歌いた置屋の女将を諭した経験談が出てきて、これなんか凄いなあ、こんな弁護士の体験談が書いてある本って今は無いのではと思います。

『労働法入門―0.jpg 第22項、労基法第34条(休憩)「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。(中略)③ 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない」の解説のタイトルが、「昼休みに愛人と同伴ホテルに行っても、かまわない」(笑)、第25項、労基法第39条(年次有給休暇)の解説タイトルが、「一年分の有給休暇を一度にとっても、かまわない」、とかなり極端な表現もありますが、分かりやすくするためのことでしょう。

 第31項、労基法第62条(深夜業)(現61条)の解説で、「映画女優やスチュワーデスには、深夜残業がみとめられている」とありますが、当時は女性の深夜業が一部の例外を除き認められていませんでした。著者が深夜番組「イレブンPM」のレギュラー出演者だった時、藤本義一の初代アシスタントを務めた安藤孝子や番組に出ていたカバーガールの話が出てきます。

 「バスガールの月経不順も、業務上の疾病である」(労基法第75条(療養補償))とか「業務上の負傷で、睾丸を失ったら、平均賃金五百六十日分の補償をとれる」(労基法第77条(障害補償))とか、「妾には遺族補償がない」(労基法第79条(障害補償))とか。とにかく面白く、読み物を読むように読ませ、結果として記憶にも残るようになっていたと改めて思いました。

商法入門1.jpg

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1