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良かった。村上春樹作品がモチーフだが、もう一つの原作は「ワーニャ叔父さん」か。

「ドライブ・マイ・カー」2021.jpg「ドライブ・マイ・カー」01.jpg 「ドライブ・マイ・カー」02.jpg
「ドライブ・マイ・カー」(2021)西島秀俊/三浦透子
「ドライブ・マイ・カー」12.jpg 舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)は、妻・音(霧島れいか)と穏やかに暮らしていた。そんなある日、思いつめた様子の妻がくも膜下出血で倒れ、帰らぬ人となる。2年後、演劇祭に参加するため広島に向かっていた彼は、寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会い、これまで目を向けることのなかったことに気づかされていく―。

 2021年公開の濱口竜介監督の商業映画3作目となる作品で、妻を若くして亡くした舞台演出家を主人公に、彼が演出する多言語演劇の様子や、そこに出演する俳優たち、彼の車を運転するドライバーの女性との関わりが描かれています。

『ドライブ・マイ・カー』文庫.jpg「ドライブ・マイ・カー」22.jpg 村上春樹の短編集『女のいない男たち』('14年/文藝春秋)所収の同名小説「ドライブ・マイ・カー」より主要な登場人物の名前と基本設定を踏襲していますが、家福の妻・音が語るヤツメウナギや女子高生の話は同短編集所収の「シェエラザード」から、家福が家に戻ったら妻・音が見知らぬ男と情事にふけっていたという設定は、同じく「木野」から引いています(家福の妻・音はクモ膜下出血で急死するのではなく、原作では、物語の冒頭ですでにガンで亡くなっている設定となっている)。

「ドライブ・マイ・カー」ws2021.jpg 映画は、原作では具体的内容が書かれていないワークショップ演劇に関する描写が多く、そこで演じられるアントン・チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」の台詞を織り交ぜた新しい物語として構成されていて、村上春樹作品がモチーフではあるけれど、もう一つの原作は「ワーニャ叔父さん」であると言っていいくらいかもしれません。

「ドライブ・マイ・カー」32.jpg テーマ的にも、喪失感を抱きながらも人は生きていかねばならないという意味で、「ワーニャ叔父さん」に重なるものがあります。原作は短編であるためか、家福が、妻・音の内面を知り得なかったことに対して、みさきが「女の人にはそういうところがあるのです」と解題的な(示唆的な)言葉を投げかけて終わりますが、映画ではこのセリフはなく、より突っ込んだ家福の心の探究の旅が続きます。

 それは、演劇祭での上演直前にしての主役の高槻の事件による降板から、上演中止か家福自身が主役を演じるか迫られたのを機に、どこか落ち着いて考えられるところを走らせようと提案するみさきに、家福が君の育った場所を見せてほしいと伝えたことから始まり、二人は広島から北海道へ長距離ドライブをすることに。このあたりはまったく原作にはない映画のオリジナルです。

「ドライブ・マイ・カー」6jpg.png 北海道へ向かう車中で、家福とみさきは、これまでお互いに語らなかった互いの秘密を明かしますが、何だか実はみさきの方が家福より大きな秘密を追っていたような気がしました。それを淡々と語るだけに、重かったです。母親の中にいた8歳の別人格って、「解離性同一性障害」(かつては「多重人格性障害」と呼ばれた)だったということか...。

 喪失感を抱えながらも生きていかねばならないという(それがテーマであるならば、村上春樹からもそれほど離れていないと言えるかも)、ちゃんと「起承転結」がある作りになっていて、商業映画としてのカタルシス効果を醸しているのも悪くないです(この点は村上春樹が短編ではとらな「ドライブ・マイ・カー」7.jpgいアプローチか)。言わば、ブレークスルー映画として分かりやすく、ラストのみさきが韓国で赤いSAABに乗って買い物にきているシーンなどは、彼女もブレークスルーしたのだなと思わせる一方で、映画を観終わった後、「あれはどういうこと?」と考えさせる謎解き的な余韻も残していて巧みです。

 演出が素晴らしいと思いました。もちろん脚本も。絶対に現実には話さないようなセリフを使わないということで、脚本を何度も書き直したそうですが、「演技」させない演技というのも効いていたように思います。演劇ワークショップ(原作にはワークショップの場面は無い)での家福の素人出演者に対する注文に、濱口監督の演出の秘密を探るヒントがあったようにも思いますが、濱口監督自身、これまで素人の出演者に対してやってきた巷で"濱口メソッド"といわれるやり方が、プロの俳優でも使えることを知ったと語っています。韓国人夫婦の存在も良くて、原作の膨らませ方に"余計な付け足し"感が無かったです。「手話」を多言語の1つと位置付けているのも新鮮でした。

「ドライブマイカー」カンヌ・アカデミー.jpg 第74回「カンヌ国際映画祭」で脚本賞などを受賞、第87回「ニューヨーク映画批評家協会賞」では日本映画として初めて作品賞を受賞、「全米映画批評家協会賞」「ロサンゼルス映画批評家協会賞」でも作品賞を受賞(これら3つ全てで作品賞を受賞した映画ととしては「グッドフェローズ」「L.A.コンフィデンシャル」「シンドラーのリスト」「ソーシャル・ネットワーク」「ハート・ロッカー」に次ぐ6作品目で、外国語映画では史上初。「全米映画批評家協会賞」は主演男優賞(西島秀俊)・監督賞・脚本賞も受賞、「ロサンゼルス映画批評家協会賞」は脚本賞も受賞)、第79回「ゴールデングローブ賞」では非英語映画賞(旧外国語映画賞)を日本作品としては市川崑監督の「」(1959)以来62年ぶりの受賞、第94回「アカデミー賞」では、日本映画で初となる作品賞にノミネートされたほか、監督賞(濱口)・脚色賞(濱口、大江)・国際長編映画賞の4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞しています。また、アジア圏でも第16回「アジア・フィルム・アワード」を受賞、国内でも「キネマ旬報ベスト・テン」第1位で、「毎日映画コンクール 日本映画大賞」や「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」、「芸術選奨」(濱口監督)を受賞しました。

 まさに、一気に映画界のホープとなった感がありますが、この1作をだけでも相応の実力が窺える作品でした。原作者の村上春樹にとっては、やっと自分の作品を映画化するに相応しい監督に巡り合ったという感じではないでしょうか。
「ドライブ・マイ・カー」朝日2.jpg 
「朝日新聞」2022年3月28日夕刊

「ドライブ・マイ・カー」パンフレット.jpg「ドライブ・マイ・カー」●英題:DRIVE MY CAR●制作年:2021年●監督:濱口竜介●製作:山本晃久●脚本:濱口竜介/大江崇允●撮影:四宮秀俊●音楽:石橋英子●原作:村上春樹●時間:179分●出演:西島秀俊/三浦透子/霧島れいか/岡田将生/パク・ユリム/ジン・デヨン/ソニア・ユアン(袁子芸)/ペリー・ディゾン/アン・フィテ/安部聡子●公開:2021/08●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:TOHOシネマズ上野(スクリーン7)(22-03-17)(評価:★★★★☆)

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いい映画だったが、原作をヒントに「東京物語」を撮った? という印象も。

「息子」 山田洋次1991.jpg『息子』1991.jpg 「息子」 山田洋次図1.jpg  ハマボウフウの花や風200_.jpg
あの頃映画 「息子」 [DVD]」『ハマボウフウの花や風

「息子」 山田洋次 11.jpg バブル景気時の1990年7月、東京の居酒屋でアルバイトをしている浅野哲夫(永瀬正敏)は、母の一周忌で帰った故郷の岩手でその不安定な生活を父の昭男(三國連太郎)に戒められる。その後、居酒屋のアルバイトを辞めた哲夫は下町の鉄工所にアルバイトで働くようになる(後に契約社員へ登用)。製品を配達しに行く取引先で川島征子(和久井映見)という美しい女性に好意を持つ。哲夫の想いは募るが、あるとき彼女は聴覚に障害があることを知らされる。当初は動揺する哲夫だったが、それでも征子への愛は変わらなかった。翌年の1月に上京してきた父に、哲夫は征子を紹介する。彼は父に、征子と結婚したいと告げる―。

 1991年公開の山田洋次監督作で、原作は椎名誠の短編小説「倉庫作業員」です(『ハマボウフウの花や風』('91年10月刊/文藝春秋)所収で、単行本が出たのと映画が公開されたのが同時期ということになる)。第15回「日本アカデミー賞」で「最優秀作品賞/最優秀主演男優賞/最優秀助演男優賞/最優秀助演女優賞」を受賞し、第65回「キネマ旬報ベスト・テン」でも「日本映画部門第1位/監督賞/主演男優賞/助演男優賞/助演女優賞」を受賞しているので、"Wで四冠"といったところでしょうか(そのほかに「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「報知賞 作品賞」「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」なども受賞)。「日本アカデミー賞」の演技賞受賞対象者は、主演男優賞は三國連太郎、助演男優賞は永瀬正敏、助演女優賞は和久井映見ですが、とりわけ永瀬正敏はこれ以外にも多くの賞を受賞し、飛躍の契機となった作品になります。

「息子」 山田洋次 wkakui e1.jpg いい映画だと思いました。原作は短編で、哲夫の家族は登場せず(従って、哲夫が母の一周忌で帰省する場面で、その際に兄弟・家族関係を明らかにするといった描写もない)、哲夫が日雇い労働をしていたのが、より安定した仕事を求めて伸銅品問屋に臨時社員として就職するところから始まります。そして、仕事を通して知り合った川島征子に好意を抱き、不器用ながらもアプローチする中で彼女が聾唖者であること知って、この恋を貫こうと決意するところで終わるので、映画で言えば、哲夫が「それがどうしたっていうんだ!いいではねぇか!」と心中で叫ぶところで終わっていることになり、あとは原作の後日譚ということになります。

「息子」 山田洋次 8.jpg 戦友会の集まりに出るために哲夫の父・昭男が上京し、哲夫の兄の家に泊まるりますが、哲夫の生活が心配な昭男は哲夫の元を訪れます。外食でもしようと哲夫を誘う昭男でしたが、哲夫は断り自宅で料理するため昭男とスーパーへ買い物に。そして、哲夫の部屋で昭男は哲夫から征子を紹介されます。耳の聞こえない征子のためにFAXを購入している哲夫。哲夫から、征子と真面目に付き合っていて、結婚することを告げられる昭男。いくら反対したって無駄だからと昭男に言う哲夫。昭男は征子に向かって「本当にこの子と一緒になってくれるのですか?」と訊き、頷く征子を見て「有難う。有難う」と感謝する。哲夫に対しては「もしお前がこの子の事を傷つけるようなことがあれば、俺はこの子の両親の前で腹を切らなきゃならないからな」と覚悟を問い、哲夫は当たり前だと答える―。いい場面だったなあ。仲睦まじい二人を見て昭男が素直に喜び、心配していた哲夫が立派になっていることに胸を撫でおろす様がいいです。

「息子」 山田洋次 5.jpg こうして息子のことを気に掛ける父と、一人暮らしになった父をどうするかに悩む哲夫の兄夫婦や姉などが描かれますが、どちらかと言うと後者の方が色合いが強く、誰の世話にもならないと言い張る父親に周囲が戸惑っているといった感じです。それでも、一番ふらふらしていたように見えた息子・哲夫の成長を見届けて、昭男自身は安心して息子が買ったファックスを持ってまた岩手に戻っていく―。ああ、核家族社会における親離れ・子離れの話で、山田洋次監督が「家族」('70年)以来追求し続けてきたテーマの映画だったのだなあと思いました。

東京物語 小津 笠・原2.jpg さらに言えば、田中隆三演じる息子長男とはまともに話ができないけれども、原田美枝子演じる血縁関係のないその嫁とはしみじみと本音で語り合えるというのは、これはもう小津安二郎の「東京物語」の笠智衆(周吉)と原節子(周吉の次男の妻)の世界。そう思うと、一人になった父をどうするか悩む兄や妹らも、一方で自分たちの生活の事情があって、父親の存在を「処理すべきやっかいな問題」として捉えているという点で、これまた「東京物語」で山村聰(長男)や杉村春子(長女)、中村伸郎(長女の夫)が演じた役に通じるところがあります。原作をヒントに「東京物語」を撮った?みたいな感じの映画で、原作者も「感動的な映画でした」と苦笑するしかないのでしょう。主人公が、原作には出てこない父・昭男に哲夫から代わり、その昭男を演じた三國連太郎が〈主演男優賞〉で、永瀬正敏の方は〈助演男優賞〉ですから。

「息子」 山田洋次 21.jpg 三國連太郎の自然な演技もさることながら、賞を総嘗めした永瀬正敏は、実際いい演技でした。この映画での高評価を機に、テレビドラマにはあまり出ず、映画出演を専らとする、言わば"映画「息子」 山田洋次 wakui.png俳優"になっていったのではないでしょうか(日本にはあまりいないタイプ。浅野青天を衝け 和久井映見.jpg忠信あたりが後継者か)。和久井映見もとても感じが良かったです。彼女も、この作品からちょうど30年を経た今年['21年]のNHK大河ドラマ「青天を衝け」で吉沢亮演じる渋沢栄一の母・渋沢ゑい役を演じるなど、息の長い女優になってきました。
「青天を衝け」('21年)和久井映見(渋沢栄一の母・渋沢ゑい)

「息子」 山田洋次 41.jpg あと、鉄工所のおっさん役のをいかりや長介や、トラック運転手タキさん役の田中邦衛をはじめ、梅津栄、佐藤B作、レオナルド熊、松村達雄といった脇を固める面々の演技が手堅く、演技の下手な人が出てこない映画とも言えるのではないでしょうか。とりわけ、黒澤明監督が前年「息子」ikariya.jpgに「」('90年)で役者としては実質的に初めて映画に起用したいかりや長介に、「夢」の時は単に絵的な使われ方だったのに対し、この作品できちっり演技させているのは、後のいかりや長介の俳優としての活躍のことを思うと慧眼だったと思います。後に藤山直美が阪本順治監督の「」('00年)で、映画初出演・初主演にして演技賞を総嘗めしたということがありましたが、舞台をやっていた人は、それがドタバタコントや定番喜劇であろうと、映画の方でもすっとと役に入り込んで力を発揮することがままあるように思います(映画に限らず、テレビドラマの方に行っても同じ。あの荒井注でも、ドリフターズ「江戸川乱歩美女シリーズ」荒井注.jpg脱退後に出演した「土曜ワイド劇場・江戸川乱歩の美女シリーズ」(テレビ朝日)に1978年の第2話より明智小五郎の盟友の波越警部役で出演し、新人助演男優賞のような演技賞をもらっていた記憶があります(明智役の天知茂が他界する1985年の最終・第25話まで演じ通した)。
永瀬正敏/いかりや長介/田中邦衛
映画「息子」00.jpg

「息子」パンフ.jpg「息子」●制作年:1991年●監督:山田洋次●製作:中川滋弘/深澤宏●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:高羽哲夫●音楽:松村禎三●原作:椎名誠「倉庫作業員」●時間:121分●出演:三國連太郎/永瀬正敏/和久井映見/田中隆三/原田美枝子/浅田美代子/山口良一/浅利香津代/ケーシー高峰/いかりや長介/田中邦衛/梅津栄/佐藤B作/レオナルド熊/松村達雄●公開:1991/10●配給:松竹(評価:★★★☆)

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スター男優、スター女優、名優・名脇役で辿る昭和邦画史。選ばれた100本はオーソドックスか。

邦画の昭和史_3799.JPG邦画の昭和史_3798.JPG邦画の昭和史.jpg   フラガール 映画  蒼井.jpg
邦画の昭和史―スターで選ぶDVD100本 (新潮新書)』映画「フラガール」       北日本新聞 2018.10.25
長部 日出雄.jpg 昨年['18年]10月に亡くなった作家の長部日出雄(1934-2018/84歳没)が雑誌「小説新潮」の'06年1月号から'07年1月号に間歇的に5回にわたって発表したものを新書化したもの。'73年に「津軽じょんから節」で直木賞を受賞していますが、元は「週刊読売」の記者で、その後、雑誌「映画評論」編集者、映画批評家を経て作家になった人でした。個人的には『大アンケートによる洋画ベスト150』('88年/文春文庫ビジュアル版)の中での、赤瀬川準、中野翠氏との座談が印象に残っています(赤瀬川隼も1995年に「白球残映」で直木賞作家となったが、この人も2015年に83歳で亡くなった)。

 本書は全3章構成で、第1章ではスター男優を軸に(いわば男優篇)、第2章ではスター女優を軸に(いわば女優篇)、第3章では名優・名脇役を軸に(いわば名優・名脇役篇)、それぞれ昭和映画史を振り返っています。

銀嶺の果て 中.jpg 第1章「戦後のスーパスターを観るための極め付き35本」(男優篇)で取り上げているのは、三船敏郎、石原裕次郎、小林旭、高倉健、鶴田浩二、菅原文太、森繁久彌男はつらいよ・知床慕情.jpg、加山雄三、植木等、勝新太郎、市川雷蔵、渥美清らで、彼らの魅力と出演作の見所などを解説しています。この中で、昭和20年代の代表的スターを三船敏郎とし、昭和30年代は石原裕次郎、昭和40年代は高倉健、昭和50年代は渥美清としています。章末の「35本」のリストでは、その中に出演作のある12人の俳優の内、三船敏郎が9本と他を圧倒し(黒澤明監督作品8本+黒澤明脚本作品(「銀嶺の果て」))、石原裕次郎は2本、高倉健は3本、渥美清も3本入っていて、さらに渥美清+三船敏郎として、「男はつらいよ・知床慕情」を入れています(したがって最終的には三船敏郎10本、渥美清4本ということになる)。

 第2章「不世出・昭和の大女優に酔うための極め付き36本」(女優篇)で取り上げているのは、原節子、田中絹代、高峰秀子、山本富士子、久我美子、京マチ子、三原葉子、藤純子、宮下順子、松阪慶子、浅丘ルリコ、吉永小百合、岸恵子、有馬稲子、佐久間良子、夏目雅子、若尾文子などで、彼女らの魅力と出演作のエピソードや見所を解説しています(京マチ子、先月['19年5月]亡くなったなあ)。文庫化にあたり、「大女優篇に+1として、破格ではあるが」との前置きのもと書き加えられたのが「フラガール」の蒼井優で(青井優と言えば、この映画で南海キャンディーズの山崎静代と共演した縁から、今月['19年6月]南海キャン蒼井優 フラガール.jpg蒼井優 山里亮太.jpgディーズの山里亮太と結婚した)、本書に出てくる中で一番若い俳優ということになりますが、著者は彼女を絶賛しています。章末の「36本」のリストでは、原節子、田中絹代、高峰秀子の3人が各4本と並び、あとは24人が各1本となっていて、男優リストが12人に対して、こちらは27人と分散度が高くなっています。

 第3章「忘れがたき名優たちの存在感を味わう30本」(名優・名脇役篇)では、一般に演技派とか名脇役と呼ばれる人たちをを取り上げていますが、滝沢修、森雅之、宇野重吉、杉村春子、伊藤雄之助、小沢栄太郎、小沢昭一、殿山泰司、木村功、岡田英次、佐藤慶などに触れられていて、やはり前の方は新劇など舞台出身者が多くなっています。章末の「30本では、滝沢修、森雅之、宇野重吉、小沢栄太郎の4人が各2本選ばれており、残り22人が各1本となっています。

乾いた花  jo.jpeg 先にも述べたように、スター男優・女優や名優・名脇役を軸に振り返る昭和映画史(殆ど「戦後史」と言っていいが)であり、『大アンケートによる洋画ベスト150』の中での対談でも感じたことですが、この人は映画の選び方が比較的オーソドックスという感じがします。したがって、エッセイ風に書かれてはいますが、映画の選び方に特段のクセは無く、まだ日本映画をあまり見ていない人が、これからどんな映画を観ればよいかを探るうえでは(所謂「観るべき映画」とは何かを知るうえでは)、大いに参考になるかと思います。と言って、100本が100本メジャーな作品ですべて占められているというわけでもなく、女優篇の「36本」の中に三原葉子の「女王蜂と大学の竜」('03年にDVD化されていたのかあ)なんていうのが入っていたり、名優編の「30本」の中には、笠智衆の「酔っぱらい天国」(こちらは「DVD未発売」になっていて、他にも何本かDVD化されていない作品が100本の中にある)や池部良の「乾いた花」(本書刊行時点で「DVD未発売」になっているが'09年にDVD化された)など入っているのが嬉しいです(加賀まりこ出演作が女優篇の「36本」の中に入っていないのは、彼女が主演したこの「乾いた花」を男優篇の方に入れたためか。「キネマ旬報助演女優賞」を受賞した「泥の河」は、田村高廣出演作として名優篇の方に組み入れられている)。

フラガール 映画0.jpgフラガール 映画s.jpg 因みに、著者が元稿に加筆までして取り上げた(そのため「100本」ではなく「101本」選んでいることになる)「フラガール」('06年/シネカノン)は、個人的にもいい映画だったと思います。プロデューサーの石原仁美氏が、常磐ハワイアンセンター創設にまつわるドキュメンタリーをテレビでたまたま見かけて映画化を構想し、当初は社長を主人公とした「プロジェクトX」のような作品の構想を抱いていたのがフラガール 映画1.jpg、取材を進める中で次第に地元の娘たちの素人フラダンスチームに惹かれていき、彼女らが横浜から招かれた講師による指導を受けながら努力を重ねてステージに立つまでの感動の物語を描くことになったとのことで、フラガールび絞ったことが予想を覆すヒット作になった要因でしょうか。主役の松雪泰子・蒼井優から台詞のないダンサー役に至るまでダンス経験のない女優をキャスティングし、全員が一からダンスのレッスンを受けて撮影に臨んだそうです。ストーリー自体は予定調和であり、みうらじゅん氏が言うところの"涙のカツアゲ映画"と言えるかもしれませんが(泣かせのパターンは「二十四の瞳」などを想起させるものだった)、著者は、この映画のモンタージュされたダンスシーンを高く評価しており、「とりわけ尋常でない練習フラガール 映画6.jpgと集中力の産物であったろう蒼井優の踊り」と、ラストの「万感の籠った笑顔」を絶賛しています。確かに多くの賞を受賞した作品で、松雪泰子・富司純子・蒼井優と女優陣がそれぞれいいですが、中でも蒼井優は映画賞を総嘗めにしました。ラストの踊りを「フラ」ではなく「タヒチアン」で締めているのも効いているし、実話をベースにしているというのも効いているし(蒼井優が演じた紀美子のモデル・豊田恵美子は実はダンス未経験者ではなく高校でダンス部のキャプテンだったなど、改変はいくつもあるとは思うが)、演出・撮影・音楽といろいろな相乗効果が働いた稀有な成功例だったように思います。
[フラガール 松雪1.jpg [フラガール 松雪2.jpg [フラガール 松雪4.jpg
松雪泰子(平山まどか(カレイナニ早川(早川和子)常磐音楽舞踊学院最高顧問がモデル))
「フラガール」岸部.jpg 「フラガール」富司.jpg
岸部一徳(吉本紀夫(中村豊・常磐炭礦元社長がモデル))/富司純子

富司純子・蒼井優(第30回「日本アカデミー賞」最優秀助演女優賞受賞)/富司純子・豊川悦司         
「フラガール」富司。蒼井.jpg「フラガール」富司。豊川.jpg
      
蒼井優(谷川紀美子(常磐音楽舞踊学院1期生・小野(旧姓 豊田)恵美子がモデル))・山崎静代
フラガール 映画d.jpgフラガール 映画2.jpg「フラガール」●制作年:2006年●監督:李相日(リ・サンイル)●製作: シネカノン/ハピネット/スターダストピクチャーズ●脚本:李相日/羽原大介●撮影:山本英夫●音楽:ジェイク・シマブクロ●時間:120分●出演:松雪泰子/豊川悦司/蒼井優/山崎静代(フラガール ダンサー.jpg南海キャンディーズ)/岸部一徳/富司純子/高橋克実/寺島進/志賀勝/徳永えり/池津祥子/三宅弘城/大河内浩/菅原大吉/眞島秀和/浅川稚広シネカノン有楽町1丁目03.jpg/安部智凛/池永亜美/栗田裕里/上野なつひ/内田晴子/田川可奈美/中浜奈美子/近江麻衣子/千代谷美穂/直林真里奈/豊川栄順/楓●公開:2006/09●配給:シネカノン●最初に観た場所:有楽町・シネカノン有楽町(06-09-30)(評価:★★★★☆)

内田晴子/田川可奈美/栗田裕里/豊川栄順/池永亜美

蒼井優が演じた紀美子のモデル・レイモミ豊田(小野(旧姓豊田)恵美子)/常磐ハワイアンセンター最後のステージ
レイモミ豊田.jpg 

【お悔み】初代フラガール、小野恵美子さん死去 79歳 いわきにフラ文化築く福島民友新聞 2023年8月5日
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シネカノン有楽町1丁目(2010年1月28日閉館)/角川シネマ有楽町(2011年2月19日オープン)
シネカノン有楽町1丁目.jpg角川シネマ有楽町2.jpgシネカノン有楽町1丁目 2004年4月24日角川シネマ有楽町.jpg有楽町「読売会館」8階に「シネカノン有楽町」オープン。2007年10月6日「シネカノン有楽町1丁目」と改称。㈱シネカノン社の民事再生法申請により2010年1月28日閉館。2011年2月19日に角川書店の映像事業のフラッグシップ館として居抜きで再オープン(「角川シネマ有楽町」)

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 「鉄道員」は降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、昔劇場で観た、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が、倉本聰が高倉健のために書き下ろした脚本だったためか、何だか高倉健のプロモーション映画みたいで、日本映画ワースト・テンに名を連ねることも多く、個人的にも、自殺した円谷選手の遺書のナレーションを映画の中で使うことなどに抵抗を感じ、いいと思えませんでした(小谷野敦氏が「日本語をローマ字読みしてくっつけた作品のタイトルはダサい」と言っていた(『頭の悪い日本語』('14年/新潮新書))。先にそのイメージと何となくあって、結局「鉄道員」の方は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか。志村けん志村けん.jpg自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたとのこと。志村けんが俳優として映画出演したのは、ドリフターズの付き人時代に志村康徳名義で端役出演した「ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険」('68年/東宝)、「ドリフターズですよ!特訓特訓また特訓」('69年/東宝)の2作以外ではこの作品のみとなります(志村けんは山田洋次監督の「キネマの神様」に菅田将暉とダブル主演の予定だったが、'20年に新型コロナウイルスによる肺炎で急逝したため叶わなかった)

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえも、けっして上手いとは言えませんが、そう悪くもなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう(高倉健は'99年モントリオール世界映画祭で主演男優賞受賞)。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

「鉄道員(ぽっぽや)」●.jpg鉄道員 s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信鉄道員  1s.jpg/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)
    
高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg
吉岡 秀隆            撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健
鉄道員 吉岡 秀隆1.jpg撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健.jpg


「駅 STATION」●.jpg駅station dvd.jpg「駅 STATION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童(主題歌のみ坂本龍一)●時間:132分●出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高駅station 01.jpg橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/田中邦衛/竜雷太/小林念侍/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良/平田昭彦/阿藤海/室田日出男●公開:1981/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平)
駅 STATION [DVD]
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駅 STATION 池部良.JPG 駅station 06.jpg 駅Station 大滝秀治2.jpg
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【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っている?

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おくりびと [DVD]」 山崎努・本木雅弘
Okuribito (2008)

おくりびと2.jpg チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻・美香(広末涼子)を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、"旅のお手伝い"という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、"旅立ち"をお手伝いする"納棺師"というものだった。社長の佐々木生栄(山崎努)に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが―。

おくりびと アカデミー賞.jpg 2008年公開の滝田洋二郎監督作で、脚本は映画脚本初挑戦だった放送作家の小山薫堂。第32回「日本アカデミー賞」の作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(本木雅弘)・助演男優賞(山崎努)・助演女優賞(余貴美子)・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞の10部門をを独占するなど多くの賞を受賞しましたが(第63回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第33回「報知映画賞 作品賞」、第21回「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」も受賞)、その前に第32回モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞しており、更に日本アカデミー賞発表後に第81回米アカデミー賞外国語映画賞の受賞が決まり、ロードショーが一旦終わっていたのが再ロードにかかったのを観に行きました(2009年(2008年度)「芸術選奨」受賞作。脚本の小山薫堂は第60回(2008年)「読売文学賞」(戯曲・シナリオ賞)、本木雅弘と映画製作スタッフは第57回(2009年)「菊池寛賞」を受賞している)。

滝田洋二郎監督、本木雅弘、余貴美子、広末涼子(第81回アカデミー賞授賞式/2009年2月23日(日本時間))

おくりびと3.jpg 主演の本木雅弘のこの映画にかけた執念はよく知られていますが、"原作者"に直接掛け合ったものの、原作者から自分の宗教観が反映されていないとして「やるなら、全く別の作品としてやってほしい」と言われたようです。もともとは、本木雅弘が20歳代後半に藤原新也の『メメント・モリ―死を想え』('83年/情報センター出版局)を読み、インドを旅して、いつか死をテーマにしたいと考えていたとのことで、まさに「メメント・モリ」映画と言うか、いい作品に仕上がったように思います(結局、原作者も一定の評価をしているという)。

おくりびと4.jpg 特に、前半部分で主人公が"納棺師"の仕事の求人広告を旅行代理店の求人と勘違いして面接に行くなどコメディタッチになっているのが、重いテーマでありながら却って良かったです(逆に後半はややベタか)。技術的な面や宗教性の部分で原作者に限らず他の同業者からも批判があったようですが、それら全部に応えていたら映画にならないのではないかと思います。こうした仕事に注目したことだけでも意義があるのではないかと思いますが(ジャンル的には"お仕事映画"とも言える)、米アカデミー賞の選考などでは、同時にそれが作品としてのニッチ効果にも繋がったのではないでしょうか(アカデミーの外国語映画賞が、前3年ほど政治的なテーマや背景の映画の受賞が続いていたことなどラッキーな要素もあったかも)。

おくりびと5.jpg Wikipediaに「地上波での初放送は2009年9月21日で21.7%の高視聴率を記録したが、2012年1月4日の2回目の放送は3.4%の低視聴率」とありましたが、2回目の放送は日時が良くなかったのかなあ。こうした映画って、ブームの時は皆こぞって観に行くけれど、時間が経つとあまり観られなくなるというか、《無意識的に忌避される》ことがあるような気がしなくもありません。そうした傾向に反発するわけではないですが、個人的には、最初観た時は星4つ評価(○評価)であったものを、最近観直して星4つ半評価(◎評価)に修正しました(ブームの最中には◎つけにくいというのが何となくある?)。「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っているかもしれません。

 これもWikipediaに、「本作では、一連の死後の処置(エンゼルメイク)を納棺師が行っているが、現在では、臨終全体の8割が病院死であり、実際には、看護師が病院で行うことが多い」(小林光恵著『死化粧の時―エンゼルメイクを知っていますか』('09年/洋泉社))とありましたが、病院側がやるエンゼルメイクとは別に葬儀会社に「湯灌」などを頼めば、有料の付加サービスとしてやってくれるでしょう。納棺師と湯灌師の違いの厳密な規定はないそうですが、そうした人たちもある意味"おくりびと"であるし(最近若い女性の湯灌師が増えているという)、エンゼルメイクする看護師もその仕事をしている時は、広い意味での"おくりびと"であると言えるのではないでしょうか。

木村家の人びとド.jpg 滝田洋二郎監督は元々は新東宝で成人映画を撮っていた監督で、初めて一般映画の監督を務めた「コミック雑誌なんかいらない!」('86年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ)でメジャーになった人です。個人的には、鹿賀丈史、桃井かおり主演の夫婦で金儲けに精を出す家族を描いた「木村家の人びと」('88年/ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画)を最初「木村家の人びと」0.jpgに観て、部分部分は面白いものの、全体として何が言いたいのかよく分からなかったという感じでした(ぶっ飛び度で言えば、石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)の方が上)。その後、東野自圭吾原作の「秘密」('99年/東宝)、浅田次郎原作の「壬生義士伝」('03年/松竹)を観て、比較的原作に沿って作る"職人肌"の監督だなあと思いました(結果として、映画に対する評価が、原作に対する好き嫌いにほぼ対応したものとなった。「木村家の人びと」の原作は未読)。「おくりびと」はいい作品だと思いますが、このタイプの監督が米アカデミー賞の表彰式の舞台に立つのは、やや違和感がなくもないです。菊池寛賞も、「本木雅弘と映画製作スタッフ」が受賞対象者となっていて、その辺りが妥当な線かもしれません(まあ、アカデミー外国語映画賞も監督にではなく作品に与えられた賞なのだが)。因みに、「木村家の人びと」はビデオが絶版になった後DVD化されておらず[2017年現在]、ファンがDVD化を待望しているようですが、個人的にはどうしても観たいというほどでもありません。
   
おくりびとes.jpg「おくりびと」●制作年:2009年●監督:滝田洋二郎●製作:中沢敏明/渡井敏久●脚本:小山薫堂●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:130分●出演:本木雅弘/広末涼子/山崎努/杉本哲太/峰岸徹/余貴美子/吉行和子/笹野高史/山田辰夫/橘ユキコ/飯森範親/橘ゆかり/石田太郎/岸博之/大谷亮介/諏訪太郎/星野光代/小柳友貴美/飯塚百花/宮田早苗/白井小百合●公開:2008/09●配給:松竹●最初に観た場所:丸の内ピカデリー3(09-03-12)(評価:★★★★☆)

本木雅弘(2009年アジアン・フィルム・アワード」(主演男優賞))
「アジアン・フィルム・アワード」本木2.jpg.png 

丸の内ルーブル.jpg丸の内ピカデリー3.jpg丸の内ピカデリー3ド.jpg丸の内ブラゼール4.jpg丸の内ブラゼールes.jpg丸の内松竹(丸の内ピカデリー3) 1987年10月3日「有楽町マリオン」新館5階に「丸の内松竹」として、同館7階「丸の内ルーブル」とともにオープ「丸の内ピカデリー ドルビーシネマ」.jpgン、1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) (「丸の内ルーブル」は2014年8月3日閉館)
「サロンパス ルーブル丸の内/丸の内ブラゼール」(2008)
2018(平成30)年12月2日休館、2019(令和元)年10月4日~ドルビーシネマ専用劇場「丸の内ピカデリー ドルビーシネマ」として再オープン。
 
   
木村家の人びと vhs.jpg木村家の人びとf5.jpg「木村家の人びと」●制作年:1988年●監督:滝田洋二郎●脚本:一色伸幸●撮影:志賀葉一●音楽:大野克夫●原作:谷俊彦●時間:113分●出演:鹿賀丈史/桃井かおり/岩崎ひろみ/伊崎充則/柄本明/木内みどり/風見章子/小西博之/清水ミチ木村家の人びと4.jpg「木村家の人びと」柄本明.jpgコ/中野慎/加藤嘉/木田三千雄/奥村公延/多々良純/露原千草/辻伊万里/今井和子/酒井敏也/鳥越マリ/池島ゆたか/上田耕一/江森陽弘/津村鷹志/竹中木村家の人びと 加藤嘉_0.jpg直人/螢雪次朗/ルパン鈴木/山口晃史/三輝みきこ/小林憲二/野坂きいち/江崎和代/橘雪子/ベンガル●劇場公開:1988/05●配給:東宝 (評価★★★)

秘密DVD2.jpg映画 秘密2.jpg「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)

壬生義士伝(DVD).jpg壬生義士伝m.jpg「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)

「●是枝 裕和 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●濱口 竜介 監督作品」【3131】 濱口 竜介 「親密さ
「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ(「そして父になる」)「●「芸術選奨(監督)」受賞作」の インデックッスへ(是枝裕和「そして父になる」)「●夏八木 勲 出演作品」の インデックッスへ(「そして父になる」「のぼうの城」)「●風吹 ジュン 出演作品」の インデックッスへ(「そして父になる」)「●あ行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●は行の日本映画の監督」の インデックッスへ 「●佐藤 浩市 出演作品」の インデックッスへ(「のぼうの城」)「●前田 吟 出演作品」の インデックッスへ(「のぼうの城」)「●柄本 明 出演作品」の インデックッスへ(「万引き家族」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(三軒茶屋シネマ) 「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(是枝裕和)「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ(「万引き家族」)「●「アジア・フィルム・アワード」受賞作」の インデックッスへ(「万引き家族」)「●「ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「万引き家族」)「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ(「万引き家族」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「万引き家族」) 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ(「万引き家族」)「●池脇 千鶴 出演作品」の インデックッスへ(「万引き家族」)「●「朝日賞」受賞者作」の インデックッスへ(細野晴臣)

「三軒茶屋シネマ」ラストショー2本立て―といっても、通常のラインアップと変わらないが...。

そして父になる tirasi.jpg 万引き家族 通常版DVD.jpg のぼうの城 tirasi.jpg
そして父になる DVDスタンダード・エディション」映画チラシ/万引き家族 通常版DVD(特典なし) [DVD]」/のぼうの城 通常版 [DVD]」映画チラシ
0三軒茶屋シネマ.jpg三軒茶屋シネマ ラストしおり.JPG 今月['14年7月]20日で60年の歴史を閉じた「三軒茶屋シネマ」の最終上映作品がこの「そして父になる」と「のぼうの城」の邦画2本立てであり、結構急な閉館だったせいか、通常の「二番館」的プログラムであって「さよならフェスティバル」的なプログラムではないのがやや唐突な気もします。それでも、最終日に観に行くと、午後の上映からは155席が満席になっていました(一応、前々週の「イタリア映画・不朽の名作2本立て」(「ニュー・シネマ・パラダイス」「ひまわり」)と前週の「モノクロ・サイレント映画の傑作2本立て」(「街の灯」「アーティスト」)と併せてフェスティバル的な上映とのことらしいが)。

そして父になる 1.jpg 是枝裕和監督の「そして父になる」('13年/ギャガ)は、夫(福山雅治)と妻(尾野真千子)の間にいる6歳の一人息子が、実は出生時に子どもの取り違えがあって実の息子ではなかったことが判明し、そこから始まるその夫婦の苦悩と、取り違えられた子を育ててきたもう1つの夫婦(リリー・フランキー・真木よう子)とのやり取りを描いた作品(2014年「芸術選奨」受賞作)。

そして父になる 2.jpg 子どもの取り違えが判明してからその次にどういう手順になるのかがきっちり取材されていて、加えて、河瀬直美監督に見出され「萌の朱雀」('97年)でデビューしたd尾野真千子、「無名塾」出身の真木よう子、スピルバーグがその演技を絶賛したリリー・フランキーなど、演技陣も充実していました。第66回カンヌ国際映画祭の審査そして父になる カンヌ.jpg員賞(パルムドール、(審査員特別)グランプリに次ぐ賞)を受賞した作品ですが、国内では、尾野真千子、真木よう子の2人はそれぞれ第37回「日本アカデミー賞」の優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞を受賞、福山雅治、リリー・フランキーもそれぞれ優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞を受賞しています(電気屋夫婦の方が「最優秀」を獲っていることになる。因みに真木よう子は、同年の「さよなら渓谷」での最優秀主演女優賞とのW受賞)。

 ある種、アンチ・クライマックス映画で、問題提起型作品の多い是枝裕和監督らしい作品。尤も、このテーマで安易な落とし所を設けて「感動物語」風にしてしまったら是枝監督作らしくはなくなるし、おそらく何人もいるであろう同種の事件の当事者に対する冒涜になってしまうのでしょう。それに代わるカタルシス効果がどこかに欲しかった気もしますが、カンヌでは上映後にスタンディングオベーションがあったというから、これでよしとすべきでしょうか(カンヌで観ていた人たちは概ね娯楽性を求めているわけではないだろうが)。子役までも上手だったことから、監督の演出力を率直に評価したいと思います。

万引き家族t.jpg(●是枝裕和監督の「万引き家族」('18年)が、第71回カン万引き家族 カンヌ.jpgヌ国際映画祭においてパルム・ドールを獲得した(日本人監督作品としては、1997年の今村昌平監督の「うなぎ」以来21年ぶり)。やはりリリー・フランキーを使万引き家族ド.jpgったかあ。でも彼は「そして父になる」以上の演技だった。この映画、Amazon.comのレビューなどでみると「どこがおもしろいのか、わからない」という人も結構多いようだが、個人的には良かったと思った。「お父さん」「お母さん」と呼んでほしいと願う主人公の想いが核になっていて、終わり方も良0万引き家族3.jpgかった。家族っていなくなると切ないものである。これで、是枝監督にとって「家族」というのが大きなテーマであることがよく分かった。それでは小津安二郎や山田洋次と変わらないと思われるフシもあるかもしれないが、ステップファミリーを通して「家族」というものを描いているのが大きな特徴であり、「そして父になる万引き家族ges.jpg」からの流れで見ると繋がっている。ハッピーエンドにせず、問題投げかけ型で終わるのも同じ。今回は中流家庭ではなく、下流家庭(疑似家族)を描いている点で、明らかに小津安二郎の後期作品とも異なる。何となく是枝監督のスタンスが見えてきた気がする。パルム・ドールは、ベルギー移民の少女や若者の貧困を描いたダルデンヌ兄弟の作品が2度受賞しているなど、格差社第13回アジア・フィルム・アワード.jpg会を描いたものが近年では賞を獲り易い傾向にあり、「万引き家族」の受賞も意外性はなかった(「万引き家族」の翌年2019年には、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」がパルム・ドール受賞。やっぱりという感じ)。因みに本作は、2019年・第13回アジア・フィルム・アワードも作品賞と作曲賞(細野晴臣)を受賞しているほか(この賞の作品賞受賞は日本映画では初)、第44回ロサンゼルス映画批評家協会賞の外国語映画賞なども受賞している。)

第13回アジア・フィルム・アワード(左から細野晴臣(音楽)・是枝裕和・安藤サクラ・三ツ松けいこ(美術))


のぼうの城 1.jpg 犬童一心、樋口真嗣共同監督の「のぼうの城」('12年/東宝)は、北条氏の支城で、周囲を湖に囲まれ浮城とも呼ばれる忍城(おしじょう)の領主・成田氏一門の成田長親(野村萬斎)と、その城を攻め落とそうとする豊臣方・石田三成(上地雄輔)の攻防を描いた作品で、2時間超ですがあまり長さを感じさせず、予想以上に面白かったです(この面白さは、和田竜氏の直木賞候補となった原作の面白さによるものではないかとも思うが、原作を読んでいないので、素直に「面白かった」としておきたい。台詞が一部、「○○的」など現代語になっているのが気になったが、脚本も原作者によるもの)。

のぼうの城 佐藤.jpg 歌舞伎や狂言の俳優が、日頃その世界で伝統芸能の継承・研鑽に励みつつも、現代劇や時代劇に出てすんなりそれにフィットした演技が出来てしまうのにはいつも感心させられますが、この映画の野村萬斎の場合、狂言の演技をそのまま成田長親のキャラに活かしていることにより、映画を自分の作品にしている点で、起用に充分応えているように思いました。また、近習の正木丹波守利英を演じた佐藤浩市の演技がオーソドックスな映画的演技であることも、対比的な効果を醸しているように思われます。この2人はそれぞれ第36回「日本アカデミー賞」の優秀主演男優賞、優秀助演男優賞を受賞しています。

のぼうの城 野村.jpg ストーリー的には、最後は、北条氏の本城である小田原城が落城してしまうことから、支城を巡って争う理由がなくなり、これ以上は戦わずして成田氏は忍城を豊臣方・石田三成に明け渡すことになってしまうという点では、これもまた、アンチ・カタルシス的な作品と言えるかもしれません(M&Aで大企業に吸収される関係会社みたい)。それでも「こういう武将もいたのだ」という面白さによってさほどカタルシス不全を感じさせないのは、これはやはり、原作の目の付け所の良さに拠るものかと思われます。

「のぼうの城」gennsaku.jpg 僅か500の兵で2万の大軍から城を守り和議に持ち込んだというのはやはりスゴイことだと思われ、今までほとんど時代小説の素材になっていないのが不思議なくらい(風野真知雄の『水の城 いまだ落城せず』では主人公の成田長親は、際立った武勇や才覚はなく、捉えどころのない人物として描かれているそうだ)。近年の研究では、もともと水攻めに向かない城に対して水攻めに固執した秀吉のミスだったとの説が有力なようで、実戦経験の乏しい石田三成に配慮した作戦が裏目に出たのか。逆に三成が書状の中で「諸将は完全に水攻めと決め込んで全く攻め寄せる気がない」と嘆く事態となったわけですが、水攻めの決定に三成軍の武将たちのモチベーションががたんと低下する場面はこの作品の中でも描かれています。

 観る前は、60年の歴史を持つ名画座のラストショーとしてはややもの足りないラインアップのようにも思えましたが、実際に観てみたらまあ思ったより良かったという感じでしょうか(でもやっぱり、基本的には通常のラインアップと変わらない組み合わせだった? 後に知ったことだが、劇場管理者は野々宮良輔(夏八木勲).jpg夏八木勲 のぼう.jpg敢えて長年二番館として営業してきた三茶シネマらしいラインアップを選んだらしい)。ラストショーと思って思い入れを込めて観た分、評価はやや甘くなっているかもしれません。昨年['13年]5月に亡くなった夏八木勲(1939-2013/享年73)が両方の作品に脇役で出ています('12年の秋から膵癌を患い、闘病を続けていた)。

三軒茶屋シネマ8.JPG 名画座に降りてくる前にDVDがレンタルショップに並んでしまうというのはやはり名画座にとってはキツイことかも。「三軒茶屋シネマ」の閉館により、都内23区に残る名画座は「飯田橋ギンレイホール」「池袋新文芸坐」「早稲田松竹」「目黒シネマ」「下高井戸シネマ」「新橋文化劇場」「キネカ大森」「三軒茶屋シネマ70.JPGシネマヴェーラ渋谷」「神保町シアター」「ラピュタ阿佐ヶ谷」の10館となるそうですが(日本芸術センター運営の「シネマブルースタジオ」や「東京国立近代美術館フィルムセンター」などの公的施設は除く)、この内「新橋文化劇場」は、来月['14年8月]末閉館することが決まっています。
三軒茶屋シネマ6.jpg

三軒茶屋シネマ (1955年「三軒茶屋東映」オープン、1973年建て替え、1997年~「三軒茶屋シネマ」) 2014(平成26)年7月20日閉館日に撮影(左写真手前右:2013(平成25)年2月14日閉館「三軒茶屋中央劇場」(右写真右奥)跡)

Soshite chichi ni naru (2013) 樹木希林(1943-2018)/尾野真千子
Soshite chichi ni naru (2013) .jpgそして父になる 樹木希林.jpg「そして父になる」●英題:LIKE FATHER,LIKE SON●制作年:2013年●監督・脚本:是枝裕和●製作:亀山千広/畠中達郎/依田翼●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松0そして父になる 3.jpg原毅●時間:120分●出演:福山雅治/尾野真千子/真木よう子/リリー・フランキー/二宮慶多/黄升炫/中村ゆり/高橋和也/田中哲司/井浦新/ピエール瀧/大河内浩/風吹ジュン/國村隼/樹木希林/夏八木勲●公開:2013/09●配給:ギャガ●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「のぼうの城」(犬童一心/樋口真嗣)
0そして父になる.jpg 風吹ジュン(野々宮のぶ子(良多の義母))
                
万引き家族2.jpg万引き家族t2.jpg「万引き家族」●英題:SHOPLIFTERS●制作年:2018年●監督・脚本・原案:是枝裕和●製作:石原隆/依田巽/中江康人●撮影:近藤龍人●音楽:細野晴臣●美術:三ツ松けいこ●衣裳デザイン:黒澤和子●時間:120分●出演:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林/緒形直人/森口瑤子/山田裕貴/片山萌美/柄本明/笠井信輔(ニュースキャスター)/三上真奈(ニュースキャスター)●公開:2018/06●配給:ギャガ(評価:★★★★☆)
0万引き家族ages.jpg 0万引き家族e.jpg
柄本明(柴田家の近隣の駄菓子屋の店主・山戸頼次)/池脇千鶴(治と信代の取り調べを担当する警察官・宮部希衣)
「万引き家族」柄本.jpg  「万引き家族」池脇.jpg
細野晴臣「日本アカデミー賞」最優秀音楽賞
細野晴臣「日本アカデミー賞」.jpg


のぼうの城 31.jpg「のぼうの城」.jpg「のぼうの城」●制作年:2012年●監督:犬童一心/樋口真嗣●製作:久保田修●脚本:和田竜●撮影:瀧本幹也●音楽:松本淳一/森敬/松原毅●時間:145分●出演:野村萬斎/榮倉奈々/成宮寛貴/佐藤浩市/山口智充/上地雄輔/前田吟/中尾明慶/尾野真千子/ピエール瀧/前田吟/山田孝之/平岳大/市村正親/西村雅彦/鈴木保奈美/平泉成/夏八木勲●公開:2012/11●配給:東宝●最初に観た場所:三軒茶屋シネマ(14-07-20)(評価:★★★★)●併映:「そして父になる」(是枝裕和)

前田吟(下忍村のたへえ)/中尾明慶(たへえの娘婿・ちよの夫・かぞう)/尾野真千子(たへえの娘・かぞうの妻・ちよ)
「のぼうの城」前田.jpg のぼうの城 32.jpg

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力のある作家がしっかり取材して書いた作品。素直に上手だなあと思った。

舟を編む10万.jpg舟を編む30万.jpg 
舟を編む』(2011/09 光文社) 「舟を編む」2013年映画化(監督:石井裕也/主演:松田龍平・宮﨑あおい・オダギリジョー)

 2012(平成24)年・第9回「本屋大賞」第1位作品。

 大手出版社・玄武書房の営業部に勤務する馬締(まじめ)は、営業部では変人としてお荷物扱いだったが、辞書編集一筋の荒木に後任として見込まれ辞書編集部に異動、言葉の捉え方における鋭い天性を発揮し、新しい辞書『大渡海』の編纂にのめり込んでいく。定年後嘱託として勤務する荒木や日本語研究に人生を捧げる老学者の松本先生、チャラいが外回りに才能を発揮する西岡、ファッション誌編集部から異動してきたキャリア系の岸辺―問題山積の辞書編集部において、馬締をはじめとするこれらの人々の努力により『大渡海』は完成の日の目を見ることができるのか―。

舟を編む00.jpg 素直に上手いなあと思いました。『まほろ駅前多田便利軒』('06年/文藝春秋)で直木賞を受賞した際に(29歳での直木賞受賞は、平岩弓枝(27歳)、山田詠美(27歳)に続く歴代3位の若さ)、選評で平岩弓枝氏が「この作者の年齢の時、私はとてもこれだけの作品は書けなかった」と一番褒めていたけれど、そこからまた進化した感じ。

 特に、前半の真締と西岡の関係がいい。『まほろ駅前多田便利軒』もそうだけど、男同士の関係を描いて巧み(直木賞選考の際に阿刀田高氏は、作者は男性だと思っていたらしい)。コミカルだけど、『まほろ駅前多田便利軒』に比べると、ギャグ調はむしろ抑え気味ではないかと。

 前半は馬締の香具矢に対する恋物語もあって青春小説のようにもなっていて、前半と後半で十数年の時を置くことで、後半が前半の後日譚のようにもなっている。それでいてダラダラ長くなく、気楽に読めるエンタテインメントに仕上がっているし、前半部では西岡を、後半部では岸辺の眼を通して、真締を主として「見られる側」の存在として描いているのも成功していると思いました。

 辞書が編まれるように、馬締、香具矢、荒木、松本先生、西岡、岸辺といった登場人物の人生が編まれていく―今時、全ての辞書がこうした編纂のされ方をしているのかという疑問も残りましたが、普通は小説の主人公にはならないような人たちに着眼したこと自体が一つの成功要因。そのうえで、もともと力のある作家がしっかり取材して書いた作品とみていいのではないでしょうか。

映画「舟を編む」1.jpg映画「舟を編む」2.jpg(●2013年に石井裕也監督、松田龍平主演で映画化され、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞をはじめ6部門の最優秀賞を受賞、石井裕也監督は芸術選奨新人賞も受賞したほか、主演の松田龍平をはじめとするキャストやスタッフも多くの個人賞を得た。原作では年代を特定していないが、映画では松田龍平演じる主人公・馬締が辞書編集部に配転になったのが1995年で、原作で後日譚として扱われている部分が船を編む_n.jpg舟を編むeb.jpg舟を編む2d.jpgその12年後となっている。細部での改変はあるが、全体としては原作のストーリーを比較的忠実に追っている感じで、松田龍平、宮﨑あおい、オ「舟を編む」12.jpgダギリジョー、黒木華といった若手の俳優陣も頑張っているが、加藤剛、小林薫、伊佐山ひろ子、八千草薫といったベテランが脇を固めているのが大きく、特に、加藤剛の「先生」は印象的だった。そもそも、原作が、その後数多く世に出た"お仕事系"小説のどれと比べても優れているため、原作の良さに助けられている部分もあるが、少なくとも原作の持ち味を損なわずに活かしているという点で良かったと思う。)


舟を編む 映画.jpg舟を編む_l.jpg「舟を編む」●制作年:2013年●監督:石井裕也●プロデューサー:土井智生/五箇公貴/池田史嗣/岩浪泰幸●脚本:渡辺謙作●撮影:藤澤順一●音楽:渡邊崇●時間:133分●出演:松田龍平/宮﨑あおい/オダギリジョー/黒木華/渡辺美佐子/池脇千鶴/鶴見辰吾/伊佐山ひろ子/八千草薫/小林薫/加藤剛/宇野祥平/森岡龍/又吉直樹/斎藤嘉樹/波岡一喜/麻生久美子●公開:2013/04●配給:松竹=アスミック・エース(評価:★★★★)
 
【2015年文庫化[光文社文庫]】

「●映画」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【975】 竹内 博 『東宝特撮怪獣映画大鑑 [増補版]』
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'97年は「もののけ姫」ヒットの年。宮崎駿監督のお陰で映画産業界は底を脱した?
  
映画イヤーブック 1998.jpg もののけ姫 1997 dvd.jpg もののけ姫 0.jpg となりのトトロ dvdes.jpg
映画イヤーブック (1998) (現代教養文庫)』「もののけ姫 [DVD]」「となりのトトロ [DVD]」('88年/東宝)

映画イヤーブック.JPG 1997年の劇場公開作品、洋画344本、邦画191本の計535本の全作品データと解説を収録し、ビデオ・ムービー、未公開洋画、テレビ映画ビデオのデータなども網羅、このシリーズは8冊目となり、巻末に'91年版から'98年版までの全巻を通しての索引が付いていますが、結局このシリーズはその後刊行されることなく、2000年代に入って版元の社会思想社は倒産しています。

 本書での最高評価になる「四つ星」作品は、「シャイン」「イングリッシュ・ペイシェント」「浮き雲」「コンタクト」「世界中にアイ・ラブ・ユー」「タイタニック」の6作品、邦画は、「うなぎ」(今村昌平監督)、「もののけ姫」(宮崎駿監督)、「バウンズ ko GALS」(原田眞人監督)、「ラヂオの時間」(三谷幸喜監督)の4作品。

 トム・クルーズ主演の「ザ・エージェント」('96年)やブルース・ウィリス主演の「フィフス・エレメント」('97年)、ハリソン・フォード主演の「エアフォース・ワン」('97年)、トミー・リー・ジョーンズ主演の「メン・イン・ブラック」('97年)と、ハリウッド・スター映画もそれなりに頑張っていたけれど(本書評価は何れも「三つ星」)、この頃からビデオ化されるサイクルがどんどん早くなってきたので、個人的にもこうした作品はビデオで観てしまうことが多くなりました。

もののけ姫.jpg 世間一般でもこうした「ビデオで観る」派が増えて、'96年の映画館の入場者数が1億1,957万人と史上最低だったわけですが、翌年は、この年'97年7月公開の「もののけ姫」('97年/東宝)のヒットを受けて、邦画の映画館入場者数は前年比2千万人増、さらに12月公開のジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」('97年)のヒットが、翌年の洋画の映画館入場者数を前年比2千万人以上押し上げ、映画業界は何とか底を脱したかたちになりました。

 ちなみに、'90年から'98年までの年度別映画興行成績(配給収入)ベストワンは、  
  1990年 「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」 (UIP) 55.3億円  
  1991年 「ターミネーター2」(東宝東和) 57.5億円   
  1992年 「紅の豚 」(東宝) 28億円   
  1993年 「ジュラシック・パーク」 (UIP) 83億円   
  1994年 「クリフハンガー」 (東宝東和) 40億円  
  1995年 「ダイ・ハード3」 (20世紀フォックス) 48億円   
  1996年 「ミッション:インポッシブル」 (UIP) 36億円  
  1997年 「もののけ姫」 (東宝) 113億円
  1998年 「タイタニック」 (20世紀フォックス) 160億円
となっています。
Sen to Chihiro no kamikakushi (2001)
Sen to Chihiro no kamikakushi (2001).jpg 2001年には宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」が304億円、2003年には「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」が173.5億円、2004年には宮崎駿監督の「ハウルの動く城」が196億円、2008年には同じく宮崎駿監督の「崖の上のポニョ」が155億円、2010年にはジェームズ・キャメロン監督の「アバター」が156億円と、それぞれ年間で150億円以上の興行成績を打ち立てていますが、この(社)日本映画製作者連盟による統計のとり方は、90年代までは「配給収入」をみていたのが、2000年以降は海外(米国)の基準に沿って「配給収入」ではなく「興行収入」でみています

 「興行収入」は映画館の入場料の総和そのもので、「配給収入」はそこから映画館(興行側)の取り分を差し引いた、配給会社の収益ですので、「興行収入」の方が「配給収入」よりも数字は大きくなり(配給収入=興行収入×50~60%、洋画メジャー大作の場合は×70%)、2000年代に入り、数字上は100億円超の"興行成績"を収める映画が出やすくなっているというのもあります。

 そうした観点からしても、90年代の"100億円"映画というのは大ヒット作ということになり(「もののけ姫」を「興業収入」でみると193億円になる)、90年代後半にそうした作品が出てきたところで、本書のような評論家による作品評価やマイナー作品の映画情報も入った「総合映画事典」的な文庫の刊行が途絶えたことはやや残念でした。

 確かに、一発「お化けヒット」した作品が出れば映画業界は活気づくけれども、皆が皆、宮崎駿やジェームズ・キャメロンの監督作品、或いは「ハリー・ポッター」シリーズ(このシリーズも殆どが興行収入100億円超)に靡いて劇場の前に列を作るというのもどうかと―(と言いつつ、自分もこの頃にはすでにあまり劇場に行かず、専らビデオで映画を観ることが多くなっていたのだが)。

もののけ姫2.jpg 「もののけ姫」は、それまでの宮崎駿監督の作品の集大成とも言える大作で、作画枚数は14万枚以上に及び、これは後の「千と千尋の神隠し」の11.2万枚をも上回る枚数です。時代の特定は難しいですが、室町後期あたりのようで、室町時代にしたのはこれ以上遡ると現実感が希薄になって自分自身もイメージが湧きにくくなるためだというようなことを、宮崎監督が養老孟司氏との対談で言っていました(『虫眼とアニ眼』 ('08年/新潮文庫))。自然と人間の対決というテーマは「風の谷のナウシカ」('84年)にも見られましたが、こちらはより深刻かつ現実的に描かれているような気もします。バックボーンになっているのは明らかに網野善彦(1928-2004)の展開する非農業民に注目した日本史観であり、映画全編を通して様々な要素が入っていて、その解釈となると結構難解もののけ姫 1.jpgな世界とも言え、歴史学の知識に疎もののけ姫e.jpgい身としては、その辺りが今一つ解らなかったもどかしさもありました(その網野善彦からは、当時の女性は皆ポニーテールだったとの指摘を受けている)。「となりのトトロ」('88年)みたいに、深く考えないで観た方が良かったのかも。

天空の城ラピュ dvd.jpgKaze no tani no Naushika (1984).jpg 因みに、スタジオジブリはこの「もののけ姫」からプロデューサーに鈴木敏夫氏を据え、企画、宣伝、興行全てを鈴木プロデューサーが取り仕切り、徹底的なメディア戦略を行ったそうです。そのことにより、先に述べたように作品はヒットし、初期作品「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」の15倍から18倍の観客を動員しています。「千と千尋の神隠し」となると、更にその1.5倍ほどの差になるわけですが、だからと言って、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」が「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」より優れているということには必ずしもならないでしょう。

Kaze no tani no Naushika (1984)

千と千尋の神隠しド.jpg千と千尋の神隠し 01.jpg 「千と千尋の神隠し」が記録的な興行成績となったのは、第75回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、海外でも評価されたということで、普段アニメを観ない人も映画館に行ったという事情もあったのではないで千と千尋の神隠し アカデミー.jpgしょうか。但し、米国アカデミー賞受賞は、先に第52回ベルリン国際映画祭で「金熊賞」を受賞したことと(アカデミー賞外国映画賞がその典型だが、アカデミー賞が外国映画に与えられる場合、すでに海外の映画祭などで賞を獲って高評価を得ているものに与えられることが多い)、もう1つ、宮崎駿監督の友人である映画監督ジョン・ラセターの尽力によって北米で公開されたということが大きな要因としてあったように思います。内容は"夢落ち"ですが、予めそのことが示唆されていて、観ていてだまされたという感じはしません(「もののけ姫」みたいに網野史観が分からないと映画が読み解けないといったプレッシャーもない?)。

となりのトトロes.jpg 「風の谷のナウシカ」が出たての頃、この作品にすごく注目していた友人がいて、薦められてその友人の家でレーザーディスクで観たことがありますが(彼は当時パイオニアに勤務していた)、彼は先見の明があったのかもしれません。また、「となりのトトロ」については、この作品が出た時期に限らず、その後もビデオやDVDの普及で繰り返し多くの家庭で観られ、幅広い世代の幼年期の記憶に残ったのではないでしょうか(個人的には「となりのトトロ」がスタジオジブリの最高傑作だと思っている)。こうした初期作品の方が好きな人も結構いるように思います。

「となりのトトロ」('88年/東宝)

もののけ姫  .jpgもののけ姫11.jpg「もののけ姫」●制作年:1997年●監督・脚本:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:米良美一「もののけ姫」)●時間:133分●声の出演:松田洋治/石田ゆり子/美輪明宏/渡辺哲/小林薫/森繁久彌/田中裕子/佐藤允/森光子/上條「もののけ姫」ジコ坊.jpg恒彦/島本須美/名古屋章/近藤芳正/飯沼慧●公開:1997/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)
0小林薫.jpg ジコ坊(声:小林薫

「もののけ姫」乙事主.jpg 森繁久彌.jpg 乙事主(おっことぬし)(声:森繁久彌

風の谷のナウシカ1.jpeg風の谷のナウシカ DVD.jpg「風の谷のナウシカ」●制作年:1984年●監督・脚本・原作:宮崎駿●製作:高畑勲●撮影:白神孝始●音楽:久石譲●時間:116分●声の出演:島本須美/松田洋治/榊原良子/家弓家正/永井一郎/富永み~な/京田尚子/納谷悟朗/辻村真人/宮内幸平/八奈見乗児/矢田稔●公開:1984/03●配給:東映●最初に観た場所:下高井戸京王(84-08-25)(評価:★★★☆)●併映:「未来少年コナン」(佐藤肇)
風の谷のナウシカ [DVD]

となりのトトロ 1.jpgとなりのトトロ DVD.jpg「となりのトトロ」●制作年:1988年●監督・脚本・原作:宮崎駿●製作:原徹●撮影:白井久男●音楽:久石譲(主題歌:井上あずみ「となりのトトロ」)●時間:88分●声の出演:日高のり子/坂本千夏/糸井重里/島本須美/高木均/北林谷栄/丸山裕子/鷲尾真知子/鈴木れい子/広瀬正志/雨笠利幸/千葉繁●公開:1988/04●配給:東宝 (評価:★★★★☆)
となりのトトロ [DVD]

千と千尋の神隠し 03.jpg千と千尋の神隠し 02.jpg「千と千尋の神隠し」●制作年:2001年●監督・脚本・原案・原作:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:木村弓「いつも何度でも」)●時間:124分●声の出演:柊瑠美菅原文太 千と千尋の神隠し.jpg菅原文太 .jpg/入野自由/夏木マリ/中村彰男/玉井夕海/内藤剛志/沢口靖子/神木隆之介/我修院達也/大泉洋/小野武彦/上條恒彦/菅原文太●公開:2001/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)

釜爺(声:菅原文太
     
《読書MEMO》
●ジブリ作品の興行収入(1984-2011) 
作品 公開年度  興行収入   観客動員
「風の谷のナウシカ」  1984年 14.8億円 91万人
「天空の城ラピュタ」   1986年 11.6億円 77万人
「となりのトトロ」  1988年 11.7億円 80万人
「魔女の宅急便」  1989年 36.5億円 264万人
「おもひでぽろぽろ」   1991年 31.8億円 216万人
「紅の豚」  1992年 47.6億円 304万人
「平成狸合戦ぽんぽこ」 1994年 44.7億円 325万人
「耳をすませば」  1995年 31.5億円 208万人
「もののけ姫」  1997年 193億円 1,420万人
「千と千尋の神隠し」  2001年 304億円 2,350万人
「猫の恩返し」  2002年 64.6億円 550万人
「ハウルの動く城」 2004年 196億円 1,500万人
「ゲド戦記」  2006年 76.5億円 588万人
「崖の上のポニョ」  2008年 155億円 1,200万人
「借りぐらしのアリエッティ」2010年 92.5億円 750万人
「コクリコ坂から」  2011年 44.6億円 355万人

森卓也.jpg森卓也(映画評論家)の推すアニメーションベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』(1989年/文春文庫ビジュアル版))
○難破ス物語第一篇・猿ヶ島('30年、正岡憲三)
くもとちゅうりっぷ('43年、正岡憲三)
○上の空博士('44年、原案・横山隆一、演出:前田一・浅野恵)
○ある街角の物語('62年、製作構成:手塚治虫、演出:山本暎一・坂本雄作)
殺人(MURDER)('64年、和田誠)
○長靴をはいた猫('69年、矢吹公郎)
ルパン三世・カリオストロの城('79年、宮崎駿)
うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー('84年、押井守)
○天空の城ラピュタ('86年、宮崎駿)
となりのトトロ('88年、宮崎駿)
森卓也(映画評論家)の日本アニメ映画ベストテン(『オールタイム・ベスト 映画遺産 アニメーション篇』(2010年/キネ旬ムック)
○難船ス物語 第一篇・猿ヶ島(1931)
○くもとちゅうりっぷ(1943)
○上の空博士(1944)
桃太郎 海の神兵(1945)
○長靴をはいた猫(1969)
○道成寺(1976)
○ルパン三世 カリオストロの城(1979)
○うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(1984)
となりのトトロ(1988)
○東京ゴッドファーザーズ(2003)

「●よ 吉田 修一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1359】 吉田 修一 『横道世之介
「●「毎日出版文化賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」 (10位まで)」の インデックッスへ「●や‐わ行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「山路ふみ子映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ 「●「芸術選奨(演技)」受賞作」の インデックッスへ(柄本明)「●久石 譲 音楽作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●妻夫木 聡 出演作品」の インデックッスへ「●柄本 明 出演作品」の インデックッスへ「●井川 比佐志 出演作品」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(CINE QUINTO(シネクイント))

面白かった。作者が読者に対して仕掛けた読み方の「罠」が感じられた。

悪人  吉田修一.jpg 悪人 吉田修一.jpg 吉田 修一 『悪人』 上.jpg 吉田 修一 『悪人』下.jpg 映画 「悪人」3.jpg
悪人』['07年]『悪人(上) (朝日文庫)』『悪人(下) (朝日文庫)』['09年] 映画「悪人」['10年](妻夫木聡/深津絵里主演)

 2007(平成19)年・第61回「毎日出版文化賞」(文学・芸術部門)並びに2007(平成19)年・第34回「大佛次郎賞」受賞作。

 保険外交員の女性・石橋佳乃が殺害され、事件当初、捜査線上に浮かび上がったのは、地元の裕福な大学生・増尾圭吾だったが、拘束された増尾の供述と、新たな目撃者の証言から、容疑の焦点は一人の男・清水裕一へと絞られる。その男は別の女性・馬込光代を連れ、逃避行を続けている。なぜ、事件は起きたのか? なぜ2人は逃げ続けるか?

 出版社の知人が本書を推薦していたのですが、書評などを読むと、これまでの作者の作品と同様に、人と人の「距離」の問題がテーマになっているということを聞き、マンネリかなと一時敬遠していたものの、読んでみたら今まで読んだ作者の作品よりずっと面白かったし、それだけでなく、作者が読者に対して仕掛けたトラップ(罠)のようなものが感じられたのが興味深かったです。

 最初は、あれっ、これ「ミステリ」なのという感じで、芥川賞作家がミステリ作家に完全に転身したのかと。ところが、真犯人はあっさり割れて、今度は、その清水裕一と馬込光代という心に翳を持つ者同士の「純愛」逃避行になってきて、最後は、裕一が光代をあたかも"犠牲的精神"の発露の如く庇っているように見えるので、これ、「感動的な純愛」小説として読んだ人もいたかも。

 自分としては、清水祐一は「純愛」を通したというより、「どちらもが被害者にはなれない」という自らの透徹した洞察に基づいて行動したように思え、そこに、作者の「悪人とは誰なのか」というテーマ、言い換えれば、「誰かが悪人にならなければならない」という弁解を差し挟む余地の無い"世間の掟"が在ることが暗示されているように思いました。

 馬込光代の事件後の熱から覚めたような心境の変化は、彼女自身も「世間」に取り込まれてしまうタイプの1人であることを示しており、それは、周囲の見栄を気にして清水裕一を「裏切り」、増尾圭吾に乗り換えようとした石橋佳乃にとっての「世間」にも繋がるように思えました(作者自身は、「王様のブランチ」に出演した時、石橋佳乃を「自分の好きなキャラクター」だと言っていた)。

 そうして見れば、増尾圭吾が憎々しげに描かれていて(石橋佳乃の父親が読者の心情を代弁をしてみせて、読み手の感情にドライブをかけている)、清水祐一が彼に読者の同情が集まるように描かれているのも(母親に置き去りにされたという体験は確かに読み手の同情をそそる)、作者の計算の内であると思えます。

 これをもって、本当に悪いのは増尾圭吾のような奴で、清水祐一は可哀想な人となると、これはこれで、作者の仕掛けた「罠」に陥ったことなるのではないかと。
 石橋佳乃の「裏切り」も、その父親の「復讐感情」も、清水祐一の過去の体験による「トラウマ」も、注意して読めば、今まで多くの小説で描かれたステレオタイプであり、作者は、敢えてそういう風な描き方をしているように思いました。

 そうした「罠」の極めつけが、清水裕一と馬込光代の「純愛」で、これも絶対的なものではなく(本書のテーマでもなく)、ラストにある通り、最終的には相対化されるものですが、それを過程においてロマンスとして描くのではなく、侘びしくリアルに描くことで、読み手自身の脳内で「純愛」への"昇華"作業をさせておいて、最後でドーンと落としているという感じがしました。

 時間的経過の中で、人間同士の結ぼれや相反など全ての行為は相対化されるのかも知れない、但し、「世間」はその場においては絶対的な「悪人」を求めて止まないし、同じことが、「純愛」を求めて読む読者にも、まるで裏返したように当て嵌まるのかも知れないという印象を抱きました。

悪人 スタンダード・エディション [DVD]
映画 「悪人」dvd.jpg映画 「悪人」1.jpg(●2010年9月に「フラガール」('06年)の李相日(リ・サンイル)監督、妻夫木聡、深津絵里主演で映画化された。第84回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワンに選ばれ、第34回日本アカデミー賞では、最優秀主演男優賞(妻夫木聡)、最優秀主演女優賞(深津絵里)、最優秀助演男優賞(柄本明)、最優秀助演女優賞(樹木希林)、最優秀音楽賞(久石譲)を受賞。海外では、深津絵里が第34回モントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞している。原作者と監督の共同脚本だが、意識的に前半をカットして、事件が起きる直前から話は始まり、尚且つ、回想シーンをできるだけ排除したとのこと。その結果、祐一(妻夫木聡)が一緒に暮らそうとアパートまで借りた馴染みのヘルス嬢の金子美保や、石橋佳乃(満島ひかり)の素人売春相手の中年の塾講師である林完治などは出てこない。そうしたことも含め、主要登場人物のバックグラウンドの描写が割愛されている印象を受けた。加えて、光代を演じた深津絵里と、佳乃を演じた満島ひか映画 「悪人」満島.jpg映画 「悪人」柄本.jpgりの二人の演技派女優の演技の狭間で、主人公である妻夫木聡が演じる祐一の存在が霞んだ。さらに後半、柄本明が演じる佳乃の父や樹木希林が演じる祐一の祖母が原作以上にクローズアップされたため、祐一の影がますます弱くなった。原作者映画 「悪人」4.jpgはインタビューで「やっぱり樹木さん、柄本さんのシーンは画として強かったと思いますね。シナリオも最初は祐一と光代が中心でしたが、最終的に、樹木さんのおばあちゃんと、柄本さんのお父さんが入ってきて、全体に占める割合が大きくなったんですよね。あれは、僕らが最初に考えていたときよりも分量的にはかなり増えていて、自分たちでは逆に上手くいったと思っているんです」と語っている。柄本明は助演でありながら芸術選奨も受賞している(助演では過去に例が無いのでは)。この作品の主人公は祐一なのである。本当にそれでいいのだろうか。李相日監督は6年後、同作者原作の「怒り」('16年/東宝)も監督することになる。

李相日監督/深津絵里/妻夫木聡   深津絵里(モントリオール世界映画祭「最優秀女優賞」受賞)   
深津絵里(第34回モントリオール世界映画祭最優秀女優賞).jpg深津絵里 モントリオール世界映画祭最優秀女優賞1.jpg「悪人」●制作年:2010年●監督:李相日(リ・サンイル)●製作:島谷能成/服部洋/町田智子/北川直樹/宮路敬久/堀義貴/畠中達郎/喜多埜裕明/大宮敏靖/宇留間和基●脚本:吉田修一/李相日●撮影:笠松則通●音楽:久石譲●原作:吉田修一●時間:139分●出演:妻夫木聡/深津絵里/岡田「悪人」00.jpg将生/光石研/満島ひかり/樹木希林/柄本明/井川比佐志/宮崎美子/中村絢香/韓英恵/塩見三省/池内パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpg万作/永山絢斗/山田キヌヲ/松尾スズキ/河原さぶ/広岡由里子/二階堂智/モロ師岡/でんでCINE QUINTO tizu.jpgん/山中崇●公開:2010/09●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・CINE QUINTO(シネクイント)(10-09-23)(評価:★★★☆)
   
   
   
CINE QUINTO(シネクイント) 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「PARCO PART3」8階に「PARCO SPACE PART3」オープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


朝日文庫「悪人」新装版.jpg映画 悪人ド.jpg 【2009年文庫化[朝日文庫(上・下)]/2018年文庫新装版[朝日文庫(全一冊)]】 
         
悪人 新装版 (朝日文庫)』新装版(全一冊)['18年]

「●さ行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2384】 杉江 敏男 「黒い画集 ある遭難
「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」) 「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」)「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●「芸術選奨新人賞(監督)」受賞作」の インデックッスへ(周防正行「Shall We ダンス?」) 「●「ヨコハマ映画祭 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」) 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」)「●「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」受賞作」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」)「●本木 雅弘 出演作品」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●竹中 直人 出演作品」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」)「●柄本 明 出演作品」の インデックッスへ(「シコふんじゃった。」「Shall We ダンス?」) 「●役所 広司 出演作品」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」) 「●香川 京子 出演作品」の インデックッスへ(「Shall We ダンス?」)「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

すっかりハマってしまった「シコふんじゃった。」。取材がしっかりしている。
シコふんじゃった。.jpg シコふんじゃった 6.jpg Shall We ダンス?.jpg Shall We ダンス22.jpg
シコふんじゃった。 [DVD]」本木雅弘 「Shall We ダンス? [DVD]」役所広司/草刈民代Shall we ダンス? [DVD]

シコふんじゃった2.jpgシコふんじゃった.jpg 就職先も決まっていた教立大学4年の秋平(本木雅弘)は、ある日、卒論指導教授の穴山(柄本明)に呼び出され、授業に一度も出席しなかったことを理由に、卒業と引き換えに穴山が顧問をする相撲部の試合に出るよう頼まれる―。

 「シコふんじゃった。」('91年/東宝)は、ひょんなことから相撲部に入ることになった大学生の奮闘を描いたもので、スポ根モノとして良くできている"佳作"―と言うより、観ていてすっかり嵌ってしまった自分を振り返れば、個人的には"大傑作"だったということになるでしょうか(第70回「キネマ旬報ベスト・テン」第1位、第47回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第35回「ブルーリボン賞 作品賞」、第17回「報知映画賞 作品賞」、第5回「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」受賞作品。第16回「日本アカデミー賞」で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞(周防正行)、最優秀主演男優賞(本木雅弘)、最優秀助演男優賞(竹中直人)の5部門制覇)。

シコふんじゃった8.jpgシコふんじゃった2.jpg 何故そんなに面白かったのかを考えるに、劇画チックではあるけれど、スポ根モノとしては極めてオーソドックな展開で、観る側に充分なカタルシス効果を与えると共に、きっちりした取材の跡が随所に窺えること、何よりもそのことが大きな理由ではないかと思いました。

 大学相撲部(それも弱小の)という特殊な世界に関して、その背景が細部までしっかり描き込まれているから、"8年生"部員を演じる竹中直人のオーバーアクション気味の演技も、線画のしっかりしたマンガのようにすっと受け容れることが出来、楽しめたのかも知れません。

Shall We ダンス.jpg 同じく周防監督の「Shall We ダンス?」('96年/東宝)も、充分な取材の跡が感じられ、内容的にみても、多くの賞を受賞し(第70回「キネマ旬報ベスト・テン」第1位作品)、ハリウッド映画としてリメイクされるぐらいですからそう悪くはないのですが、この監督のカタルシス効果の編成方法が大体見えてきてしまったというのはある...。

 それと、「シコふんじゃった。」で竹中直人が演じていたコミカルな部分を、今度は竹中直人と渡辺えり子(最近、美輪明宏の助言で「渡辺えり」に改名した)の2人が演じていて、片や役所広司と草刈民世のストイックなメインストーリーがあるにしても、2人分に増えたオーバーアクション(加えて竹中直人分は「シコふんじゃった。」の時より増幅されている)にはやや辟易させられました。

Shall We ダンス.jpg 但し、草刈民世を(演技的には無理させないで)キレイに撮っているなあという感じはして、外国の映画監督でもそうですが、ヒロインの女優が監督の恋愛対象となっている時は、女優自身の魅力をよく引き出しているということが言えるのでは。

 キャリアの初期に、ユニークで面白い、或いは骨太でパワフルな作品を撮っていた監督が、メジャーになってから、大作ながらもその人らしさの見えない、誰が監督しても同じようなつまらない作品ばかり撮っているというケースは多いけれども、この監督は、綿密な取材を通しての自分なりの映画づくりの路線を堅持するタイプに思え、引き続き期待が持てました。(渡辺えり子/竹中直人

Shall We ダンス 01.jpg 因みに「Shall we ダンス?」は、第20回「日本アカデミー賞」において史上最多の13冠を獲得しています。主要7部門に限っても、最優秀作品賞、 最優秀監督賞、 最優秀脚本賞(周防正行)、最優秀主演男優賞(役所広司)、最優秀主演女優賞(草刈民代)、最優秀助演男優賞(竹中直人)、最優秀助演女優賞(渡辺えり子)と7冠全て制覇して他の作品の共同受賞さえ許さなかったのは('09年現在)この作品だけです(残り6冠は、音楽・撮影・証明・美術・録音・編集。残るは新人賞や外国作品賞だから、実質完全制覇と言っていい)。「キネマ旬報ベスト・テン」第1位のほか、「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「報知映画賞 作品賞」「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」も受賞しています。「シコふんじゃった。」がこれらに加えて受賞した「ブルーリボン賞 作品賞」は受賞していませんが、英「ロンドン映画批評家協会賞 作品賞」、米「ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞 外国語映画賞」など、海外で賞を受賞しています(2004年にアメリカにて「Shall We Dance?」のタイトルで、リチャード・ギア、ジェニファー・ロペス、スーザン・サランドンらが出演するアメリカ版のリメイク作品が製作された)

「シコふんじゃった」0「.jpgシコふんじゃった9.jpg「シコふんじゃった。」●制作年:1991年●監督・脚本:周防正行●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:105分●出演:本木雅弘/清水美砂/柄本明竹中直人/水島かおり/田口浩正/六平直政/宝井誠明/ロバート・ホフマン/梅本律子/松田勝/宮坂ひろし/村上冬樹/桜むつ子/片岡五郎/佐藤恒治/みのすけ●公開:1992/01●配給:東宝(評価:★★★★☆
「シコふんじゃった」09.jpg 「シコふんじゃった」柄本2.jpg

Shall We ダンスes.jpg「Shall We ダンス?」●制作年:1996年●監督・脚本:周防正行●製作:徳間康快●撮影:栢野直樹●音楽:周防義和/おおたか静流●時間:136分●出演:役所広司/草刈民代/竹中直人/田口浩正/徳井優/宝井誠明/渡辺えり子/柄本明/原日出子/草村礼子/森山周一郎/本木雅弘/清水美砂/上田耕一/宮坂ひろし/井田州彦/田中英和/峰野勝成/片岡五郎/大杉漣/石山雄大/本田博太郎/香川京子/田中陽子/東城亜美枝/中村綾乃/石井トミコ/川村真樹/松阪隆子/馬渕英俚可●公開:1996/01●配給:大映(評価:★★★☆)
(上段)役所広司/草刈民代/竹中直人/渡辺えり子/柄本明
(下段)森山周一郎/上田耕一/大杉漣/本木雅弘/香川京子
「Shall We ダンス?」.jpg
《読書MEMO》
●1997(平成9)年・第20回日本アカデミー賞
最優秀作品賞    「Shall We ダンス?」(周防正行)
最優秀監督賞    周防正行 - 「Shall We ダンス?」
最優秀脚本賞    周防正行 - 「Shall We ダンス?」
最優秀主演男優賞  役所広司 - 「Shall We ダンス?」
最優秀主演女優賞  草刈民代 - 「Shall We ダンス?」
最優秀助演男優賞  竹中直人 - 「Shall We ダンス?」
最優秀助演女優賞  渡辺えり子 - 「Shall We ダンス?」
※「Shall We ダンス?」は史上最多の13冠を獲得

「●ふ 藤沢 周平」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1905】 藤沢 周平 『麦屋町昼下がり
「●山田 洋次 監督作品」の インデックッスへ 「●「キネマ旬報ベスト・テン」(第1位)」の インデックッスへ「●「毎日映画コンクール 日本映画大賞」受賞作」の インデックッスへ「●「ブルーリボン賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「報知映画賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ「●「山路ふみ子映画賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」」受賞作」の インデックッスへ 「●「芸術選奨(演技)」受賞作」の インデックッスへ(真田広之)「●冨田 勲 音楽作品」の インデックッスへ「●真田 広之 出演作品」の インデックッスへ「●岸 惠子 出演作品」の インデックッスへ「●丹波 哲郎 出演作品」の インデックッスへ「●小林 稔侍 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

隠れた剣客というだけではなく、自分なりの価値観を持つ男たち。

たそがれ清兵衛 映画タイアップカバー.jpgたそがれ清兵衛2.jpg たそがれ清兵衛 dvd.jpg m020937a.jpg
たそがれ清兵衛』 単行本新装改訂版 ['02年] 「たそがれ清兵衛 [DVD]」 (松竹/監督:山田 洋次/出演:真田広之, 宮沢りえ)
たそがれ清兵衛 (新潮文庫)』(カバー:村上 豊)  Tasogare Seibei (2002)
Tasogare Seibei (2002).JPG

 表題作「たそがれ清兵衛」のほか、「うらなり与右衛門」「ごますり甚内」「ど忘れ万六」「だんまり弥助」「かが泣き半平」「日和見与次郎」「祝い人助八」の全8編を収録。

 一見すると情けないほど貧相だったり頼りなさげだったりするため普段は侮られているのだけれど、いざという時には毅然とした行動をとる男たちの話。彼らは何れも、しがない宮仕えの下級武士なのですが、実は知られざる(知る人ぞ知る)凄腕の剣客なのである―こうした「スーパーヒーロー」と言うよりむしろ「アンチヒーロー」達による剣豪小説は、サラリーマンの心をくすぐるものがあるのかも知れません。

 表題作「たそがれ清兵衛」のように、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうといった話が多いのですが、命令には従い、そしてやり遂げる。しかし、そのことを足掛かりに出世しようなどという気は毛頭ない―。 "逆刺客"を倒した直後も番所へ届けず、とっとと家路を急ぐ主人公の姿に、夫婦愛というより、自分なりの価値観を持った人間が描かれていると思いました。

 「うらなり与右衛門」「日和見与次郎」などは義憤による敵討ちの話で、外見や日頃の立ち振る舞いでは窺えない主人公の心意気が伝わってきます。風呂敷包みに隠されていた"うらなり"与右衛門のしたたかさ、黒幕を絶対に許さない"日和見"与次郎の徹底ぶりが、"うらなり"や"日和見"といった外見とは対照的であり、強く印象に残りました。 

たそがれ清兵衛 0.jpg 「たそがれ清兵衛」は2002年に山田洋次監督によって映画化され、同監督初の時代劇でしたが、第76回キネマ旬報ベスト・テンの第1位に選ばれるなど多くの賞を受賞しました(「毎日映画コンクール 日本映画大賞」「ブルーリボン賞 作品賞」「報知映画賞 作品賞」「山路ふみ子映画賞」「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」など作品賞を総嘗めした)。

宮沢りえ(朋江)/真田広之(清兵衛)

 元が短編であるだけに、他と短編と組み合わせて話を膨らませている部分があり、真田広之演じる清兵衛は、最近妻に死なれ、認知症の母と幼い娘2人を抱えており、残業しないのも無理はないという感じで(しようと思っても出来ない)、 宮沢りえ演じるヒロインの朋江は、夫の家庭内暴力で出戻りとなった親友の妹という設定になっています(何だか現代的)。

田中泯(一刀流の使い手・余吾善右衛門)/真田広之
たそがれ清兵衛 殺陣.jpg 清兵衛と朋江の相互の切ない想いの描き方は感動的でしたが、原作はもっと軽い感じだったという印象。但し、意図せずに上意討ちの討ち手に選ばれてしまうというのは原作通りで、真田広之と田中泯の殺陣シーンはなかなかリアリティがありました。こうした、テレビ時代劇などにある従来のお決まりの殺陣シーンとは違った演出ばかりでなく、時代考証も細部に行き届いているようで、山田洋次監督の初時代劇作品への意気込みが感じられ、真田広之、宮沢りえの演技も悪くなかったです(真田広之、宮沢りえそれぞれ日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞・女優賞を受賞。映画デビュー作の田中泯は最優秀助演男優賞、新人俳優賞のW受賞)。
   
丹波哲郎(清兵衛の本家の叔父・井口藤左衛門)/岸恵子(清兵衛の娘・井口以登(壮齢期))
たそがれ清兵衛 丹波哲郎2.pngたそがれ清兵衛 岸恵子2.jpg でも、恋愛を描いたことで、完全に原作とは別物の作品になった印象もありました。話の枠組みを岸恵子(壮齢となった清兵衛の娘)の語りにする必要もなかったし(岸恵子は「男はつらいよ 私の寅さん」('73年/松竹)以来の山田洋次監督作品への出演)、その語りによるエピローグで清兵衛を戊辰戦争で死なせる必要も無かった―更に言えば、どうせここまで改変するならば、2人を結婚させず悲恋物語にしても良かったように思います。
     
たそがれ清兵衛 01.jpg「たそがれ清兵衛」●制作年:2002年●製作:大谷信義/萩原敏雄/岡素之/宮川たそがれ清兵衛 丹波哲郎.jpg智雄/菅徹夫/石川富康●監督:山田洋次●脚本:山田洋次/朝間義隆●撮影:長沼六男●音楽:冨田勲●原作:藤沢周平「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」●時間:129分●出演:真田広之/宮沢りえ/田中泯/小林稔侍/大杉漣/吹越満/深浦加奈子/神戸浩/伊藤未希/橋口恵莉奈/草村礼子/嵐圭たそがれ清兵衛   .jpg史/岸惠子/中村梅雀/赤塚真人/佐藤正宏/桜井センリ/北山雅康/尾美としのり/中村信二郎/丹波哲郎たそがれ清兵衛   .jpg/佐藤正宏/水野貴以●劇場公開:2002/11●配給:松竹(評価★★★☆)
[右写真]小林稔侍/宮沢りえ/山田洋次監督/真田広之/丹波哲郎

 【1988年単行本・2002年新装版[新潮社]/1991年文庫化・2006年改版[新潮文庫]】

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