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説明を排した映画作りによって、14歳の少女の自死の意味を切実に問う。
「少女ムシェット」DVD /ポスター/映画チラシ Mouchette(1967)
「少女ムシェット [DVD]」['10年]
原作は、1926年に発表されたフランスのカトリック作家ジョルジュ・ベルナノス(1888‐1948) の『悪魔の陽の下に』の第1部にあたる「少女ムーシェット」を元に、ベルナノス自身が単独の物語として翻案したもの。病気の母、乱暴な父のいる貧しい家庭で、同年代の少年や少女たちからも侮蔑され、身勝手な大人たちには弄ばれ、生の暗闇の中で喘ぐ孤独な少女を描いたものです。すべてに絶望した少女は最後に自殺しますが、カトリックは自殺を容認しないはずで、カトリック作家がこうした作品を書いていること自体がある意味驚きと言えるかもしれません。この作品は1967年フランス映画批評家協会賞(ジョルジュ・メリエス賞)を受賞しているほか(ロベール・ブレッソンはその前年も「バルタザールどこへ行く」('66年)で同賞を受賞している)、第20回カンヌ映画祭で「国際カトリック映画事務局賞」も受賞しています。
これを映画化したロベール・ブレッソン(1901‐1999)監督は、主演のムシェット役のナディーヌ・ノルティエをはじめ殆ど素人の俳優だけを使って、貧困と孤独、更に大人たちの偽善と無慈悲に晒され、「絶望」が日常と化している14歳の少女の境遇と、彼女が自死に至るまでを、モノクロームの映像で淡々と描いています。
ラストで少女が池のそばの草の上を何度か転がるシーンがあり、一体何をしているのかと思ったら、その後で水音が聞こえて波打つ水面が映り、そしてそのまま暗転しエンドマークという流れで終わり、「えっ、そうなの」という感じで、初めて観た時はショックを受けました。
彼女が死というものをどこまで認識し、またそれなりの覚悟があってのことなのか(彼女が纏った美しい布は、彼女の死への憧憬の象徴ともとれる)。
但し、ベルナノスの原作のコンテクストからすれば、自らの命を絶つことに彼女なりの1つの、唯一の救いがあり、それを神も受容するであろうということになるのでしょう。この映画は、それだけの説得力を持った作品です。
ムシェットが遊園地のバンピング・カーで遊ぶ場面では、少女らしい歓びが奔出しているように見えましたが、それだけにラストとの対比で、そのシーンも切なく甦ってきます。
この映画の中で、少女は多くを語りはしないし、そもそも、語る相手もいません(殆ど無言の演技が延々と続くシーンが多い)。とにかくブレッソンは、こうした、いわゆる物語的説明を徹底的にそぎ落とした映画の作り方をよくする監督で、そのお陰でこの映画も通俗的な"薄幸少女物語"に堕することなく、原作の本題である、「死」は14歳の少女にとって唯一の救いであったと言えるのでないかという問いを、観る者に切実に突きつけてきます。
多分10年以上の上映権切れの期間があったはずで、まさかそんな状況から復活してDVDになるとは思ってもみませんでしたが(ブレッソン監督の前作「バルタザールどこへ行く」('66年/仏・スウェーデン)も'70年に劇場初公開された後、四半世紀ほど空いて、'95年にフランス映画社配給で再公開された)、「子供の自死」というのは、ある意味で今日的テーマでもあるかも知れません。
「MOUCHETTE」(仏語版)
(●2020年にシネマカリテで再見。デジタルリマスター版で画面の静謐さが増したような気がする。最初に見た頃は知らなかったが、この作品はイングマール・ベルイマン、ジャン・リュック・ゴダール、アンドレイ・タルコフスキー、ジム・ジャームッシュといった映画監督たちを魅了したとのこと。「バルタザールどこへ行く」ではベルイマンとゴダールで評価が割れ、ベルイマンは批判的だったが、この「少女少女ムシェット」は両者とも絶賛したようだ。分かる気がする。)
シネマカリテ「ロベール・ブレッソン監督『バルタザールどこへ行く』『少女ムシェット』デジタルリマスター版特集」
ロベール・ブレッソン(Robert Bresson)
「少女ムシェット」●原題:MOUCHETTE●制作年:1967年●制作国:フランス●監督:ロベール・ブレッソン●撮影:ギスラン・クロケ●音楽:クラウディオ・モンテヴェルディ/ジャン・ウィエネル●原作:ジョルジュ・ベルナノス 「少女ムーシェット」●時間:80分●出演:ナディーヌ・ノルティエ/ポール・エベール/マリア・カルディナール/ジャン=クロード・ギルベール/ジャン・ヴィムネ●日本公開:1974/09●配給:エキプ・ド・シネマ●最初に観た場所:池袋文芸坐 (78-06-22) ●2回目:池袋文芸坐 (78-06-23)●3回目:新宿シネマカリテ(20-11-05)(評価★★★★★)●併映(1・2回目):「白夜」(ロベール・ブレッソン)●併映(3回目)(同日上映):「バルタザールどこへ行く」(ロベール・ブレッソン)
池袋文芸坐 1956(昭和31)年3月20日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館/2000(平成12)年12月12日〜「新文芸坐」
『観ずに死ねるか!傑作絶望シネマ88』 (2015/06 鉄人社)
《読書MEMO》
●スアンドレイ・タルコフスキーが選ぶベスト映画10(from 10 Great Filmmakers' Top 10 Favorite Movies)
①『田舎司祭の日記』"Diary of a Country Priest"(1950/仏)監督:ロベール・ブレッソン
②『冬の光』"Winter Light"(1962/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
③『ナサリン』"Nazarin"(1958/墨)監督:ルイス・ブニュエル
④『少女ムシェット』"Mouchette"(1967/仏)監督:ロベール・ブレッソン
⑤『砂の女』"Woman in the Dunes"(1964/米)監督:勅使河原宏
⑥『ペルソナ』"Persona"(1966/瑞)監督:イングマール・ベルイマン
⑦『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日)監督:黒澤明
⑧『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日)監督:溝口健二
⑨『街の灯』"City Lights"(1931/米)監督:チャーリー・チャップリン
⑩『野いちご』"Smultronstället"(1957/瑞)監督:イングマール・ベルイマン