【1482】 ○ 島 耕二 「風の又三郎」 (1940/10 日活) ★★★☆ (○ 宮澤 賢治 「風の又三郎」― 『童話集 風の又三郎 他十八篇』 (1951/04 岩波文庫)《『風の又三郎』 (1961/07 新潮文庫)/『宮沢賢治全集〈7〉銀河鉄道の夜・風の又三郎・セロ弾きのゴーシュほか』 (1985/12 ちくま文庫)》 ★★★★)

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原作より訓話的かつ現実的(解説的)。大人の鑑賞にも耐え得る作品にするための戦略か。

風の又三郎 vhs.jpg風の又三郎 映画1.jpg風の又三郎 片山明彦.jpg 童話集  風の又三郎.bmp
「風の又三郎」'40年 日活 /片山明彦(又三郎) 『童話集 風の又三郎 他十八篇 (岩波文庫)

風の又三郎 [VHS]」日活文芸コレクション(1997)

風の又三郎 1940vhs.jpg 北海道から東北の山間の小学校へ転校してきた5年生の少年・高田三郎(片山明彦)に、地元の子供達は、転校してきた日が二百十日であったため「風の又三郎」という綽名を付ける。新参者に興味を示し、一緒に遊んだりしながらも距離を置く子供達―ある日、ガキ大将の一郎(大泉滉)が相撲を挑み、三郎少年は投げ飛ばされてしまう。調子に乗ったガキ大将が「くやしかったら風を呼んでみろ」とからかった直後、本当に大風が吹き、台風が来襲する。そして、その翌日、彼は別の学校へ転校していったため、子供達は少年が本物の「風の又三郎」だったのだと確信する―。

『風の又三郎』2.jpg  宮澤賢治(1896‐1933)による原作は、作者没後の1934(昭和9)年に発表されたもので、大正年中に書いたものをコラージュして1931(昭和6)年から1933(昭和8)年の間に成ったものとされており、これまで何度か映画化されていますが、最初に映画化された島耕二(1901‐1986)監督のこの作品が、最も原作の雰囲気を伝えているとされているようです。

『風の又三郎』1.jpg風の又三郎1940年.jpg 前半部分は野山を廻って遊ぶ子供達を生き生きと描いた野外シーンが殆どで、そうした中、子供達は三郎(片山明彦)との距離を狭めたり(子供達が三郎少年を守ろうとする場面もある)、また遠ざけたりを繰り返します。

風の又三郎 1940.bmp 最初、教師が詰襟っぽい制服姿で出てきたので、時代設定を映画制作時の昭和15年に置き換えたのかと思いましたが、そうではなく原作通りでした(学校も藁ぶき屋根! 但し「分校」なのだが)。洋服の三郎少年に対し地元の子供達は着物姿であるため、映像で観るとよりその対比が際立ち、冒頭で既に三郎少年と子供達は一つになることはないような予感がしてしまいました。実際に原作も、子供達が自らのコミュニティ(「地元の子供」という1つの村社会)で結束して部外者を排除したプロセスを描風の又三郎ro.jpgいたととれなくもありません(その場合「又三郎」そのものに"魔的"な意味合いが加味される)。

 映画でも、「台風」が子供の成長の通過儀礼としての象徴的役割を果たしているように思いましたが、"魔的"な体験をくぐり抜けた(三郎少年と同学年の嘉助(星野和正)については特にそのことが言える)ことと併せて、三郎少年が去った後の子供達の「もっと一緒に遊びたかった」という言葉の中に自責の念のようなものも感じられ、その分、"大人になった"という捉え方もできるかもしれません(ある意味、訓話的。まさか、疎開してきた子とは仲良くしましょうという意味ではないと思うが-この映画は太平洋戦争勃発の前年に作られているわけだし)。

 映像技術的には、子供達が牧場で悪戯して馬群が野を駆けだすシーンは圧巻、モノクロ映画の良さが滲み風の又三郎d6.jpg風の又三郎L.jpg風の又三郎Z.jpg出ています。一方で、嘉助が霧の中で迷って昏倒した際に、三郎少年がガラスのマントを着て空を飛ぶ姿を見る場面で、「ガラスのマント」が濡れたビニールにしか見えなかったりもしますが、とにかく特撮からアニメまで駆使して頑張ってるなあという感じ。

風の又三郎 (新潮文庫.jpg宮沢賢治全集〈7〉銀河鉄道の夜・風の又三郎.jpg【映画チラシ】風の又三郎島耕二注文の多い料理.jpg 最も原作と異なると感じたのは、原作は、三郎少年は「風の又三郎」だったかも知れない的な、子供達の心象に沿った捉え方も出来る終わり方をしていますが、映画では、例えば、「風を呼んでみろ」と言われた時に三郎少年がちらっと空模様を窺ったりする演出があるなど(『三国志』吉川英治版「諸葛孔明」か)、彼が「風の又三郎」ではないことをはっきりさせている点でしょうか(言わば単なる頭のいい子に過ぎない)。

新編 風の又三郎 (新潮文庫)』['89年(初版'61年)]/『宮沢賢治全集〈7〉銀河鉄道の夜・風の又三郎・セロ弾きのゴーシュほか (ちくま文庫)』(「ちくま文庫」1985/12/1創刊ラインアップ)

 彼が2週間足らずでまた転校していたのも、その地のモリブデン(当時日本の軍用ヘルメット等の素材として需要があった)の鉱脈がさほどのものでなかったことが判明したため鉱山技師の父が次の調査地へ赴任することになったのが理由であることが教師の言葉から解り、賢治は後期作品ほどリアリズムの色彩が濃くなりますが(三郎少年のような垢抜けた子が、こんな田舎の子と接触することになる状況設定としては巧み)、映画は更に現実的(解説的)に作られていると言えるかも。

 そのことと、子供達、とりわけ嘉助が「又三郎」信奉を深めていくこととは別に描いており(最後は一郎(大泉滉)も"信奉者"に巻き込み、この部分はある意味原作に近い)、大人の鑑賞にも耐え得る作品に仕上げながら、子供の夢をも壊さないという1つの戦略かなとも思いました。

 賢治が教え子(沢里武治)に作曲を頼んだが成らなかったという「どっどどどどうど」の唄(ピアニスト・杉原泰蔵による作曲)が聴けます(NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」の野村萬斎のとは随分違うなあ)。

風の又三郎 映画2.jpg『風の又三郎』.jpg大泉 晃.gif 三郎少年を演じた片山明彦(1926-2014/享年86)は島耕二監督の実子、子供達のリーダーで学校で唯一の6年生の一郎を演じているのは大泉滉(1925‐1998/享年73)、そのほか、嘉助の姉(原作には出てこない)役で風見章子(1921‐2016/享年95)が出演しています。

左:大泉滉(一郎)/右:片山明彦(三郎)

 1957(昭和32)年に村山新治監督、1989(平成元)年に伊藤俊也監督によりリメイク作品が撮られています。

風の又三郎y8sA.jpg神保町シアター.jpg「風の又三郎」●制作年:1940年●監督:島耕二●脚本:永見隆二/池慎太郎●撮影:相坂操一●音楽:杉原泰蔵●時間:98分●出演:片山明彦/星野和正/大泉滉/風見章子/中田弘二/北竜二/林寛/見明凡太郎/西島悌四朗/飛田喜佐夫/小泉忠/久見京子/中島利夫/南沢昌平/杉俊成/大坪政俊/河合英一/田中康子/南沢すみ子/川島笑子/美野礼子●公開:1940/10●配給:日活●最初に観た場所:神保町シアター(10-07-24)(評価:★★★☆) 神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン

片山明彦

「風の又三郎 ガラスのマント」(1989年/監督:伊藤俊也)
「風の又三郎」1940年 日活.jpg 風の又三郎 [VHS]500_.jpg

童話集 風の又三郎 他十八篇.jpg童話集 風の又三郎 他十八篇 (岩波文庫)
■収録作品(十九篇)
風の又三郎 どっどど どどうど どどうど どどう 青いくるみも吹きとばせ......
セロひきのゴーシュ ゴーシュは町の活動写真館でセロをひく係りでした.けれども......
雪渡り 雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり,空も冷たいなめらかな......
蛙のゴム靴 松の木や楢の林の下を,深い堰が流れておりました.岸には......
カイロ団長 あるとき,三十匹のあまがえるがいっしょにおもしろく仕事を......
猫の事務所 軽便鉄道の停車場の近くに,猫の第六事務所がありました.......
ありときのこ 苔いちめんに,霧がぽしゃぽしゃ降って,蟻の歩哨は鉄の帽子......
やまなし 小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です.......
十月の末 嘉っこは小さなわらじをはいて,赤いげんこを二つ顔の前に......
鹿踊りのはじまり そのとき西のぎらぎらのちぢれた雲のあいだから,夕日は赤く......
狼森と笊森,盗森 小岩井農場の北に,黒い松の森が四つあります.いちばん南が......
ざしき童子のはなし ぼくらのほうの,ざしき童子のはなしです. あかるいひるま......
とっこべとら子 おとら狐のはなしは,どなたもよくご存じでしょう. おとら狐にも......
水仙月の四日 雪婆んごは遠くへ出かけておりました. 猫のような耳をもち......
山男の四月 山男は金色の目を皿のようにし,せなかをかがめて,西根山の......
祭りの晩 山の神の祭りの晩でした. 亮二は新しい水色のしごきをしめて......
なめとこ山の熊 なめとこ山の熊のことならおもしろい.なめとこ山は大きな山だ......
虔十公園林 虔十はいつも縄の帯をしめて,わらって森の中や畑の間をゆっくり......
グスコープドリの伝記 グスコープドリは,イーハトーヴの大きな森の中に生まれました......

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