【1916】 ○ 島 耕二 (原作:下村湖人) 「次郎物語 (1941/12 日活) ★★★☆

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戦前最後の日本の田舎の風景美。夜間シーンにも撮影の工夫が。次郎をとりまく人びとが暖かい。

島耕二「次郎物語」vhs.jpg 次郎物語 [VHS].jpg   NHKグラフ1965.jpg
映画「次郎物語」(1941)VHS/「次郎物語 [VHS]」/連続テレビドラマ「次郎物語」(「グラフNHK」1965/05)

 本田家の次男として生まれた次郎は里子として、ばあやと呼ぶお浜に育てられたが、やがて実家に戻され、父親の俊亮、母親のお民、祖父の恭亮とお民の実家の正木家の人々に見守られながら成長していく。しかし恭亮が死に、お民は結核に侵され、俊亮も連帯保証人になった相手が破産したため、次郎はお民の療養を兼ねて正木家に引き取られる。お民はすでに自分の死期が近いことを悟り、次郎と短いながらも濃い母子の時間を持つ―。

次郎物語3.jpg下村湖人『次郎物語』.jpg 原作は下村湖人の同名長編小説で、この未完の教養小説(全7部作の構想で第5部まで。1941年から1954年刊行)の映画化作品は、この島耕二監督の作品('41年/日活)以降にも、清水宏監督の作品('55年/新東宝)、野崎正郎監督の作品('60年/松竹)、森川時久監督の作品('87年/東宝)がありますが、一般的評価はこの島耕二監督の作品が高いみたいで、子供の世界の描き方においては、清水宏監督の作品の評価も高いようです。

 4つの映画化作品の内、森川時久監督作品を除く3つは次郎の子供時代しか描いていないわけですが(その方が、ビルドンクスロマンの原点としての普遍性があるとも言えるかもしれないが)、児童文学として翻案されているものも、少年時代しか描いていないものが多いです。

 この島耕二の作品は、映画の制作年が原作第1部の刊行年ですから、子供時代しか描かれていないのは当然なのですが、個人的には、同監督の前作「風の又三郎」('40年/日活)よりもこちらの方が、演出的にも映像的にも洗練されているように思いました。

島耕二「次郎物語」.jpg 衛生劇場の「大林宣彦のいつか見た映画館」で'12年4月に放映され、大林監督自身この作品を、昔観てそんなに感じなかったけれど、今観直して、「名作」であると思ったと―。「映画に映っている日本の風景が、今は無い名作なんですよね。あの山、あの野原、あの川、そこに通る道、そこを歩く人々とのふれあい、語らい、そして交し合う情の深さ、美しさ...それは今より貧しくて、不便や我慢がいっぱいあった暮らしだとは思うんですが、今半世紀を過ぎて観直すと、あの頃の日本は、そこに暮らす人々は、それ自体が何と名作であったか...という事を実感させられるんですよね。非常に実直に淡々と当時の日本を丁寧に描いた映画なんです」と述べています。

次郎物語5.jpg 長回しで映し出す原っぱや藪林と、そこを走る子供の撮り方などは、「風の又三郎」の時から上手かったなあ、この監督。それに加えて、夜の野外のシーンなども、丁度、昼間の世界を反転させたような感じで「光と影」がくっきりしているけれど、これ、まともに夜に撮影したら当時の技術ではこうはならないわけで、昼間に明かりを絞り込んで擬似夜景で撮っているそうです。

 この作品が真珠湾攻撃の3日後に封切られているという意味でも、戦前の最後の日本の田舎の風景を撮った作品と言え、その点でも、大林監督は、この作品に戦前の「日本の美」を見ているようです、失われゆく最後の...。

次郎物語 杉村.jpg二郎物語 杉浦2.jpg お浜役の杉村春子が、昔から演技が上手かったことが分かりますが(イ音を発音する際の口元に特徴がある)、少年期の次郎役の子役も悪くないし、作品全体としても、次郎の周囲の人々が次郎を見守っているという感じがよく出ていました。
 
次郎物語k.jpg でも、NHK版の「次郎物語」のイメージが個人的には強くあって、苛められないと"次郎"じゃない―というふうに、自分の中でイメージが出来上がってしまっているかも。NHKでドラマ化されたのは'64年から'66年にかけてで、池田秀一(この人、俳優歴より声優歴の方が長くなったのでは)演じる次郎が実家で祖母に苛められるエピソードが繰り返され、次郎が可哀そう過ぎるぐらいで(これはこれで、後のペギー葉山s.jpg同じく佐賀を舞台にした連続テレビドラマ「おしん」('83年から'84年)のような人気効果を生んでいたとも言えるが)、ペギー葉山が歌う主題歌も、「一人ぼっちの次郎はころぶ」なんて、ちょっと物悲しいものでした(でも、やっぱり名作ドラマと言えるのではないか)。
NHK連続ドラマ「次郎」物語」('64年~'66年)

次郎物語4.jpg それ比べるとこの映画の方は、祖母の冷たい仕打ちは殆ど端折られていて、むしろ、母親と共に暮らす年月が少なくとも、誰かしらの愛情を受けることによって、次郎がまっすぐ生きていく様にウェイトが置かれていたように思われ、更に、終盤の母親との生活は、母子の絆の修復ともとれます(原作者自身が掲げた第1部のテーマは「教育と母性愛」)。

島耕二「次郎物語」vhs.jpg 次郎は母親の死に際してお浜にすがって泣きはするものの、母の思いを胸に「立派な人」になると星空に誓います(因みに、この星空も、黒い天幕に"星穴"を空けて昼間に撮ったものだそうで、とてもそうは見えない)。

次郎物語 1941.jpg この時、次郎が言った「立派な人」というのを、下村湖人はどう構想していたのか。これ、現実の時代の進行と完全にはリアルタイムではないけれど、それと重なり合う部分もあったかもしれない大河物語だったんだなあと思いました。
8次郎物語.jpg 
「次郎物語」(映画)●制作年:1941年●監督:島耕二●製作:小倉武志●脚色:館岡謙之助●撮影:岡野薫 ●音楽:服部正●原作:下村湖人●時間:84分●出演:杉幸彦(次郎・幼年時代)/杉裕之(次郎・少年時代)/井染四郎/村田知栄子/杉村春子/轟夕起子/北竜二/杉狂児●公開:1941/12●配給:日活(評価:★★★☆)

「次郎物語」tv.jpg「次郎物語」(TV版)2.jpg「次郎物語」NHK.jpg「次郎物語」(TV版)●演出:地挽重俊●脚本:横田弘行●主題歌:(唄)ペギー葉山●原作:下池田秀一.jpg村湖人●出演:池田秀一/久米明/日高ゆりゑ/浅野寿々子/加藤道子/渡辺文雄/折原啓子/二木てるみ/宮城熙松●放映:1964/04~1966/03(全9?回)●放送局:NHK  
          
次郎物語 t.jpgペギー葉山
ペギー葉山 s.jpg

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ペギー葉山(ペギー・はやま、本名・森シゲ子〈もり・しげこ〉)2017年4月12日、肺炎のため、東京都内の病院で死去。83歳。

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This page contains a single entry by wada published on 2013年7月 2日 23:54.

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