【1122】 ○ 清水 邦夫/田原 総一朗 「あらかじめ失われた恋人たちよ (1971/11 ATG) ★★★★ (○ 神代 辰巳 (原作:中上健次) 「赫い髪の女 (1979/02 にっかつ) ★★★★)

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ...」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。
あらかじめ失われた恋人たちよ(ポスター).jpg あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg  「赫い髪の女」.jpg 赫い髪の女.jpg
あらかじめ失われた恋人たちよ」 DVD/チラシ 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

arakajime.jpgあらかじめ失われた恋人たちよド.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していたあらかじめ失われた恋人たちよ.jpg青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする聾唖者の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。(加納典明桃井かおり石橋蓮司

「アートシアター 90 あらかじめ失われた恋人たちよ」より
あらかじめ失われた恋人たちよ0.JPG 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一朗(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりの実質的なデビュー作であり(桃井かおりは藤田敏八監督の「赤い鳥逃げた?」('73年/東宝)でも、シロクロ・ショーをしながら旅する女という役だった)、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納典明・桃井かおりが喋らないので石橋蓮司の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやるシロクロ・ショーなどは何となく土俗的)。加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 
石橋蓮司

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は'71年で、もう既に70年安保という"政治の季節"が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

「赫い髪の女」英語版.jpg赫い髪の女 poster.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上赫い髪の女35.jpg健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません。DVD化されているので、再見しようと赫い髪の女3.jpg赫い髪の女2.jpg思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。
石橋蓮司宮下順子山口美也子 

 
 
あらかじめ失われた恋人たちよv.jpg映画・あらかじめ失われた恋人たちよ.jpgあらかじめ失われた恋人たちよ4.png「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●企画:葛井欣士郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/豊田紀雄/井上博一/吉田潔/竹之内弾/秋浜悟史/井田邦明/キムカンザ/佐藤重臣/大文芸坐休館.jpg池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg森直人/蜷川幸雄/佐々倉英雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
池袋・文芸地下 1955(昭和30)年12月27日オープン、1997(平成9)年3月6日閉館。
 
『赫い髪の女』.bmp「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:75分●出演:宮下順子石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男/石堂洋子/高橋明/庄司三郎/佐藤了一●公開:1979/02●配給並木座.jpg並木座閉館.jpg:にっかつ●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)
銀座並木座  1953年10月7日オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

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清水邦夫(しみず・くにお)劇作家
2021年4月15日、老衰のため死去。84歳。
早大在学中、「署名人」でデビュー。1969年の「真情あふるる軽薄さ」を皮切りに演出家の蜷川幸雄とコンビを組み、話題を呼んだ。74年、「ぼくらが非情の大河をくだる時」で岸田国士戯曲賞を受賞。76年から妻で女優の松本典子と演劇企画「木冬社」で活動を始め、現代演劇を代表する劇作家として作・演出をてがけた。

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