【3226】 ◎ 奥田 英朗 『リバー (2022/09 集英社) ★★★★☆

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「テーマパーク」ではなく「自然の森」を描いた作品。リアリティがある意外性。

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 群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で若い女性の遺体が相次いで発見された。首を絞められて殺害されたとみられるふたりの遺体は全裸で、両手を縛られているという共通点があった。刑事たちは胸騒ぎをおぼえる。両県ではちょうど十年前にも同じ河川敷で若い女性の全裸遺体が発見されていたからだ。十年前の未解決連続殺人事件と酷似した手口が、街を凍らせていく。かつて容疑をかけられた男、取り調べを担当した元刑事、執念深く犯人捜しを続ける十年前殺された娘の父親、若手女性新聞記者。一風変わった犯罪心理学者。新たな容疑者たち。犯人は十年前と同一犯か? 十年分の苦悩と悔恨は真実を暴き出せるのか―。

 前著『罪の轍』('19年/新潮社)は「吉展ちゃん事件」がモデルになっていましたが、今回は特にモデルはないようです。ただし、作者がインタビューで「テーマパーク」ではなく「自然の森」を書きたいと述べていましたが、実際、架空の事件を描いた小説でありながら、強烈なリアリティが感じられました。

 群像劇的あり、主要登場人物だけで6人いて、群馬県警の若手刑事の斎藤一馬、栃木県警の野島昌弘、元栃木県警の滝本誠司、中央新聞の千野今日子、十年前の事件の被害者遺族の松岡芳邦、スナック「リオ」の吉田明菜の6人です。彼らはいわば「視点人物」であり、それぞれの視点で描かれる時は「一馬」というように下の名で表されます。犯罪心理学者の篠田なども極めて興味深い人物ですが、篠田の視点で書かれた箇所はないため、下の名前も表されていません。でも、群像劇でありながら、「視点人物」が6人って多くない?

 容疑者は3人で、それは、元刑事・滝本誠司が十年前の殺人事件から追い続けている、元暴力団員で警察を挑発し続けるサイコパス男・池田清(45歳)、県会議員の息子の引きこもり男で、今は昼間は自宅に引きこもり、夜は車で走り回っている、且つ解離性人格障害(多重人格)でもある平塚健太郎(31歳)、工場寮に居住する期間工で、配送トラックの運転手だが、死体遺棄現場の河川敷で犯行前に下見をするような行動をしていた姿が複数回目撃されて容疑者に浮上した刈谷文彦(32歳)の3人です。

 登場人たちはそれぞれの考えで犯人を推理しますが、読者の立場としては、読んでいくうちに物語の中盤あたりで8割方、犯人は3人のうちの1人に絞られてきます。しかし、この8割の確証つまり80%程度のものを、99%乃至100%まで持っていくまでの道程がたいへんであり、実際の事件の捜査もこのような感じなのだろうなあと、その辺りにリアリティを感じました。

『罪の轍』の時のは、容疑者がそのまま単独犯の真犯人でしたが、本作では、すっかり読者に真犯人への筋道を見せておきながら、最後の最後に、予想外の事実も明らかになるという流れであり、「あり得ないどんでん返し」とはまた違った展開で、これはこれで意外性も十分でした。リアリティのある意外性とでも呼べるでしょうか。

 犯人の内面への踏み込みが浅いとの指摘もあるかもしれませんが、敢えてその部分はよく分からないまま終わらせたのではないでしょうか。実際の重大犯罪事件もそうしたことが多いのではないかと思います(本心が明かされないまま刑場の露と消えた元死刑囚は多い)。描かれていないことによって、その点でもリアリティを感じました。

 作者の作品では、(『沈黙の町で』('13年/朝日新聞出版)が個人的には一番ですが、本作も『罪の轍』に勝るとも劣らない骨太の犯罪小説でした

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This page contains a single entry by wada published on 2023年1月 3日 01:38.

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