【543】 × 渡辺 淳一 『化身 (上・下)』 (1986/03 集英社) ★★ (△ 東 陽一 「化身 (1986/10 東映) ★★)

「●わ 渡辺 淳一」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒  【1505】 渡辺 淳一 『孤舟 
「●は行の日本映画の監督」の インデックッスへ「●梅宮 辰夫 出演作品」の インデックッスへ「●淡島 千景 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ

その後10年間隔で繰り返される日経新聞連載の"脱力"小説。
化身 上.jpg 化身 下.jpg    
化身〈上・下〉 (集英社文庫)』〔'89年〕 東陽一監督「化身」(1986)藤竜也/黒木瞳/阿木曜子
単行本(上・下)
化身 (上・下).jpg 妻と別れ独り身である中年の文芸評論家・秋葉は、銀座のクラブに勤める若いホステス・霧子を知ってから、次第に彼女を自分の好みの女に変身させることに夢中になっていく―。

 一種のピグマリオン小説で、田舎臭さが消えすっかり女に磨きがかかった霧子は、キャリア意識にも目覚め、当然の帰結として秋葉のもとを去っていくのですが、その結末に至るまでが、主人公の前の愛人・史子という女性をキーパーソンとして噛ませてミステリ調にしているものの、結構だらだらしていて、著者の初期作品のような緊張感が感じられませんでした。

 東京在住の主人公は、京都の大学の講師もしていて、月に何度か霧子を伴って京都に行ったり、仕舞いには文化評論の取材にかこつけて 彼女とヨーロッパを旅行する―。しゃれた宿に泊まって旨いもの食って...、合間に主人公の専門分野である世阿弥の話やフランス文学の講釈が入って、この"小洒落た"雰囲気は、中年男性向けハーレクインロマンスなのだろうか。霧子が鯖の味噌煮が好きだからと言って、それを銀座や赤坂で食べるということになると、「通」を気取っているようにしか思えない、と突っ込みを入れるとキリがなくなります。

0映画「化身」.jpg東陽一監督、藤竜也、黒木瞳主演「化身」ド.jpg 「やさしいにっぽん人」('71年)、「サード」('78年)の東陽一監督、「愛のコリーダ」('76年)の藤竜也、宝塚を退団した黒木瞳主演で「化身」('86年/東映)として映画化されています。テレビで観たため印象が薄く、昼メロが映画になったようなイメージしかないのですが、黒木瞳(「黒木瞳」という芸名は同郷の五木寛之が命名した)は宝塚退団後の最初の映画出演で、この主演デビュー作で同年の日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しています。映画評論家の水野晴郎氏(1931-2008/76歳没)が「熟年、実年、男なら誰しもどこかで心にふれる映画。東陽一監督、風俗描写をひと波こえて、これは男心を語ったいい映画です。東映の女優裸シリーズの中ではいちばんいい出来」などと評し、興行的にも当初の予想を上回る大ヒット作となったようですが、個人的には原作がイマイチに思えるので...(黒木瞳はともかく、どうして阿木燿子までベッドシーンを演じなければならなのか)。

 原作小説は'85年に日本経済新聞に連載されたもので、'95年連載の『失楽園』、'05年連載の『愛の流刑地』に先行するパターンです(ちょうど10年間隔)。そして、『失楽園』も森田芳光監、役所広司、黒木瞳(11年を経て再登場)主演で映画化されています('97年/東映)。(『愛の流刑地』も、鶴橋康夫監督、豊川悦司、寺島しのぶ主演で映画化された('07年/東宝)。)

 日経の朝刊の最終面に「愛ルケ」(と略すらしい)が掲載されているのを見て、毎朝いつも軽い脱力感を覚えていた自分としては、読者の年齢層は同じでも、20年の歳月の間に読者そのものは入れ替わっているはずなのに何れもベストセラーになっていることを思うと、こうした小説に惹かれる男性の精神構造というのはあまり変わっていないのだなあという気がしました。

「化身」●制作年:1986年●監督:東陽一●●脚本:那須真知子●撮影:川上皓市●音楽:加古隆(主題歌:髙橋真梨子「黄昏人」)●原作:渡辺淳一●時間:105分●出演:藤竜也/黒木瞳/梅宮辰夫/淡島千景/三田佳子/阿木燿子/青田浩子/永井秀和/加茂さくら/小倉一郎●公開:1986/10●配給:東映(評価:★★)

 【1989年文庫化[集英社文庫(上・下)]/1996年再文庫化[講談社文庫(上・下)]/1996年単行本[角川書店]/2009年再文庫化[集英社文庫(上・下)]】

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 17:10.

【542】 ○ 渡辺 淳一 『冬の花火』 (1975/11 角川書店) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【544】 ○ 又吉 栄喜 『豚の報い』 (1996/02 文芸春秋) ★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1