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「●「芥川賞」受賞作」の インデックッスへ
ホステスたちと南の島へ厄払いに。楽天的なパワーを感じる"亜熱帯"小説。
『豚の報い』 (1996/02 文芸春秋) 1999年映画化 (監督:崔洋一)
1995(平成7)年下半期・第114回「芥川賞」受賞作。
大学生の正吉(しょうきち)は、沖縄・浦添のスナックのホステスたち3人と、生まれ故郷の真謝島にウガン(御願=祈祷)にいくことになる。
それは、ある日スナックに闖入した豚のためにホステスの1人が失神してしまい、マブイ(魂)を落としたために、ユタ(霊能者)のことに詳しい正吉を伴って、島のウタキ(御獄=霊場)でその厄払いをしようというものだ。
他の女たちもそれぞれに過去の問題を抱えて、まとめて皆で厄落としをしようというのだ。
しかし、正吉にとってそれは、12年前に漁で亡くなり、島の風習で風葬された父の骨を拾いにいく旅でもあった―。
ホステスたちがケバケバしくかつ騒々しく、そのうえ負っているものが重くて、読み始めはちょっと引いてしまいます。
しかも、現地で豚の内臓料理を食べて全員下痢状態になってしまう―猥雑さに、さらに汚辱がプラスされる。
でも逆に、このあたりから女たちの弱さや強さが見えてきて、みんな一生懸命生きているのだという健気さのようなものを感じるようになってきました。
一方、正吉は父の遺骨と対面し、12年間海を見てきた骨を見て、父は神になったと感じ、ここを御獄(霊場)にしようとする―。その心理、なんとなく感覚的にわかりました。
ホステスらに、行こうとしている霊場が父の遺骨の場所であることをつい正直に話してしまうが、彼女らもそれでいいという...。みんないい人たちなのだなあ。
ラストのユーモラスな掛け合いは、お祓いがうまくいくことを予感させます。
著者のこの作品に限って言えば、沖縄文学というより、楽天的なパワーを感じる"亜熱帯"小説という印象を受けました。
崔洋一監督・脚本、小澤征悦主演で映画化もされていますが、ビデオ化された後DVD化された途端に廃盤になったのは、評判の方が今一つだったためか?
【1999年文庫化[文春文庫]】