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「●ちくま新書」の インデックッスへ
「あちら側」「こちら側」の2つの世界を軸にウェブ・ビジネスの状況がわかりやすく解説。
『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』 ちくま新書 〔'06年〕
シリコンバレーに住んで10年以上というIT企業経営コンサルタントが、今ウェブ・ビジネスがどういう状況にあるかを解説したもので、ネットバブル崩壊後のこの分野のビジネス動向を探る上では必読書かもしれません。
ただし、こうした内容のものはどんどん身近になり目新しさがなくなるため(例えば「グーグル・マップ」などは普段使っている人も身近に多いし、「グーグル・アース」の"旅行ガイド"は書店に多く出ている)、将来予測というより'05年時点での現状分析という感じ。
「インターネット」「チープ革命」に加えて「オープンソース」(リナックスが想起しやすい)の3つを「次の10年への三大潮流」とし、その相乗効果がもたらすインパクトを、「Web 2.0」や「ロングテール」などといった言葉に絡めてわかりやすく説いていますが、本書で最も秀逸なのは、ネットの世界を「あちら側」、リアルの世界を「こちら側」と呼び、この2つの世界を対比させて描いているユニークな視点でしょう。
「あちら側」をホームグラウンドとする企業の代表として「グーグル」をあげ、「こちら側企業」であるマイクロソフトなどとのもともとの土俵の違いやその優位性、さらに、同じ「Web 2.0企業」とされながらも内部で閉じていてオープンソースとは言えないアマゾンやヤフーとの違いを述べています。
そして、「情報発電所」構築競争という意味では、マイクロソフトやヤフーがグーグルを追撃するのは難しいと言い切っています。
グーグルのような検索エンジンを"ロボット型"と言いますが、本書を読んで、ある意味、グーグルの思想が反映されている言葉でもあるなあと感じました。
情報を「あちら側」でオープンにすると「不特定多数無限大」の存在によって伝播され、より優れた正確なものへと醸成されるという(本書にあるように「ウィキペディア」などもその例だが)、こうしたグーグルのある種の楽天主義に対する著者の共感がよく伝わってきますが、「グーグル八分」なんてことも報じられている昨今、グーグルのある種脅威の部分を想うと、「著者自身がそんな楽天的でいいの?」とい気がしないでもありません。
ただし、本書でも終わりの方で、グーグルという企業が、会社としてはいかに外部に対し閉鎖的な風土であるかということに少しだけ触れていて、ただし、あえて本書ではそれ以上突っ込んでネガティブ要素に触れていない気もします。
それはまた少し異なるテーマであり、テーマを絞った入門書として読めばこれはこれでいいのかも。
全体として論文形式であり、部分的には体感していないとわかりにくい先進事例もありますが、ポイントとなる概念は丁寧に解説されていてわかりやすく(アマゾンの本の売り上げ順位と部数を恐竜の体高ラインに喩えたロングテールの解説など)、この人、両親とも脚本家で、そうした資質を受け継いでいるのかも。