【720】 ○ 佐々木 俊尚 『グーグル Google ―既存のビジネスを破壊する』 (2006/04 文春新書) ★★★☆

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ネット社会の「司祭」? グーグル。入門書または啓蒙書としても読めるが...。

グーグルGoogle.bmpグーグル―Google 既存のビジネスを破壊する 文春新書』 ウェブ進化論.jpg 『ウェブ進化論』 

google news.bmp 梅田望夫氏の『ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』('06年/ちくま新書)が、ビジネス分析の視点は面白いもののグーグルに対するあまりの絶賛ぶりに満ちていたのが少し気になっていたところ、本書ではグーグルの怖い部分が書かれているということで手にしましたが、もともとの視点が異なる本だったという感想です。

 「グーグルニュース」の編集権問題の経緯から始まる話は、これをホームページに置いている自分には馴染みやすく、また新たに知る事実があって興味深いものでした。

 グーグルがとっている「アルゴリズムによるニュース記事の編集」という手法(メディアから編集許諾を得て、生身の人間が記事選択したり編集しているのではないということ)に、当初は編集権の問題で抵抗していた各メディアが、グーグルの影響力の大きさに押され次第に譲歩していく過程が描かれています。

 『ウェブ進化論』が鳥瞰的なビジネス進化論とすれば、こちらは"グーグル現象"を、地を這うようなジャーナリストの目線でとらえているという感じで、"ロングテール"戦略についても、実際に著者が取材した零細の駐車場やメッキ工場の成功例で説明しています。

 ただし、グーグルは一体何で企業収入を得ているのかということは、わざわざ本書中盤まで引っぱらなくとも答えが「キーワード広告」(アドワーズ)であることは多くの人が知るところであり、むしろその先において指摘している、個人のホームページに対する広告配信システム(アドセンス)を投入して「巨大な広告代理店」化していること、「アテンション」(注目されること)をキーワードに無料サービスと有料広告の組み合わせによる収益構造を構築していることなどが注目されるべき点であり、この辺りにもう少しページを割いてもよかったのでは。

 世界中のありとあらゆる情報を集め、ネット社会の「司祭」と化しているグーグル―、ただし「グーグル八分」(本書では司祭による「宗教的追放」に喩えられている)というような話は、本書刊行後1年余りの間にNHKスペシャルなどでより具体的な例をもって紹介されているのでさほど新味はなく、この辺りが、既成の報道や既刊の書物からの引用に多く依存している本書後半部分の弱みか。

 それでも、「グーグルマップ」の利用者などが、そのまま地域広告などのターゲットになっているという構造は、確かに近未来小説を想わせるちょっと気味悪い面ではあるなあと。
 「グーグル」という固有名詞にこだわらければ、ネット社会の近未来についての入門書または啓蒙書としても読めます(どちらの意味でも新味やインパクトが少し弱いが)。

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