【3249】 ○ 中平 康 (原作:伊藤 整) 「誘惑 (1957/09 日活) ★★★☆ (△ 齋藤 武市 (原作:中村八朗) 「知と愛の出発 (1958/06 日活) ★★★)

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芦川いづみ出演2作。タイトル=解題だった「誘惑」。青春メロドラマ「知と愛の出発」。

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誘惑」(1957)千田是也/左幸子/芦川いづみ
「知と愛の出発」000.jpg
「知と愛の出発」(1958)芦川いづみ/川地民夫
「誘惑」p.jpg「誘惑」左.jpg「誘惑」千田.jpg 杉本省吉(千田是也)は銀座の洋品店主。娘の秀子(左幸子)とやもめ暮しで、店の二階を画廊に改造しようと考えていた。洋品店には無愛想で化粧嫌いな竹山順子(渡辺美佐子)がいた。順子は他人の迷感も顧みない貧乏画家・田所草平(安井昌二)にその美貌を指摘されるや、一転してお化粧に専念し、草平を恋するようになる。省吉の画廊が完成する。画廊のお披露目パーティの日に、草平の絵が有名画家の岡本太郎らの目にとまり、彼は一躍有名となり、発表会は連日盛況を極める。秀子は、松山小平「誘惑」芦川9.jpg(葉山良二)の妹・章子(芦川いづみ)のもとに草平の画が4、5点埋れているというので、それを持って章子と画廊に来た。章子を見た省吉は、彼女が初恋の人(芦川いづみ、二役)に瓜二つであることに驚く。その後、彼女はその娘で、初恋の人本人は亡くなったということを知る。順子と草平の結婚式の夜、祝酒に深酔した章子は秀子の家に泊まる。いつしか省吉は章子の寝顔が初恋の人と重なって見える。熱い思いを前に衝動を抑えきれない省吉は、三十年前に果せなかった接吻を章子にする。章子の目には涙が浮んできたが、それは母と省吉の秘密を知っている章子の歓びの涙だった―。

 「誘惑」は1957年公開の中平康監督作。原作は、伊藤整(1905-1969 、伊藤整は個人的には『文学入門』('54年/カッパブックス))を思い浮かべる)が1957年の1月から6月にかけて朝日新聞に連載したもので、7月に『誘惑』として新潮社刊、同年9月にこの映画化作品が公開されているから、連載当時から注目されていたのでしょう。

「誘惑」1.jpg 全体としては、銀座すずらん通りの洋品店を舞台にしたちょっと洒落たコメディです。千田是也が演じる寡夫の父・省吉と、左幸子が演じるその娘・秀子と同世代の仲間たちの恋模様―といった群像劇風ですが、終盤で芦川いづみ演じる小平の妹・章子が登場して、これが省吉の秘められた過去の恋の相手の娘であったところから、ミステリアスな要素も入ってきます。

「誘惑」111.jpg 実は、当の章子は、母がかつて省吉から接吻されることを望んでいたことを知っていて、母に代わって自分が亡くなった母の願いを叶えたということになるのでしょう。そうなると、章子が酒に酔って秀子の家に泊まったのも、寝苦しそうに咳をして省吉に介抱させたのもすべて計画の内だったということになります。つまり、章子は母に代わって省吉を計画的に「誘惑」したわけであり、タイトルが即ち"解題"だったのだなあと思いました(ある意味スゴイね。これ、かなり特殊な心理だと思う。当時、母の望みが叶っていたら、自分は生まれてなかったのではないか)。

「誘惑」岡本.jpg 岡本太郎、東郷青児らが本人役で出ていて(映画.comではそれぞれ山本次郎、西郷赤児の役名になっているが、映画に中では本名で呼ばれていた)、岡本太郎などはしっかり草平の絵を褒める演技していました。その草平の絵が岡「さか屋」岡本風呂.jpg本太郎が描いたっぽいのが可笑しいです。そう言えば、中伊豆の吉奈温泉に「さか屋」という岡本太郎が贔屓にしていた旅館があって、そこには岡本太郎がデザインした風呂があります。個人的には、「さか屋」の向かいにある「東府や」を使うようにしているのですが(庭園が広い。初夏は蛍、秋は紅葉が楽しめる)、「さか屋」も日帰り入浴ができたのではないかと思います。岡本太郎って、「芸術は爆発だ!」から「グラスの底に顔があっても良いじゃないか」まで様々なキャッチで知られているけれど、映画に出て自分の絵を褒めたり、温泉に泊まって風呂をデザインしたり、いろんなことをやってるなあ。

  
「知と愛の出発」p.jpg「誘惑」11.jpg 諏訪湖のほとりの町に住む高校生・綾部桃子(芦川いづみ)は、同級生で病院長の令嬢・川野恵美(白木マリ)と湖に遊びに来たが、恵美の同性愛的な愛撫を拒んだため、ひとり湖の真中にある小さな島に取り残されてしまう。困り果てた桃子を同級生の南条靖(川地民夫)がボートで救ってくれ、桃子は彼と親しくなる。二人は大学進学の夢を語り合った。「知と愛の出発」12.jpgところが桃子の家は経済的に苦しく、寡の父・健司(宇野重吉)は大学進学を諦めろと告げる。女は大学など行く必要が無いという父に反発し、桃子はアルバイトをしてでも大学に行くことを決意する。靖は厳しい父の監視を受けながら、受験勉強を続けていた。桃子への同性愛に破れた恵美は、若い医師・三樹(小高雄二)と遊び、学友であるバーの娘・津川洋子(中原早苗)の家で、夫婦雑誌や実話雑誌を読んで性の世界に興味を抱いていた『知と愛の出発』.jpg。一方、三樹は恵美の若い母・順子(利根はる恵)をも狙っていた。夏休みに桃子と洋子は湖畔のホテルでアルバイトを始める。祭りの夜、桃子と靖は湖のほとりで月光の下、唇を触れ合った。洋子は都会から来た不良青年らに純潔を奪われてしまい、恵美の病院に担ぎ込まれた後、服毒自殺する。桃子は盲腸炎になり、三樹の手術を受けたが、靖の輸血で快方へ向かう。しかし輸血が靖からと知らぬ桃子は、他人の血が体に入ったことに不潔感を覚えた。そして三樹は桃子に迫る―。

『知と愛の出発』 .jpg 「知と愛の出発」は、1958年公開の齋藤武市監督作で、原作は中村八朗(1914-1999)の『知と愛の出発』('58年/小壷天書房)。中村八朗は、1954年まで直木賞候補に挙がること7回の記録を作ったものの最後まで受賞に至らず、1956年頃からは青春小説やジュニア小説をメインに執筆、昭和40年代のジュニア小説ブームの中で、十代を主人公に設定した小説を多く発表したとのこと。かなり人気はあったようで、この作品も刊行と同時に映画化されています。

 青春メロドラマといった感じでしょうか。人物造型もパターナルな印象。純真な主人公は道を踏み外しそうで外さずに、おそらくこの後大学進学(お茶女かあ、優秀なんだ)を目指すだろうし、意地悪な同級生はあくまで意地悪だし、プレイボーイの医師はとことんプレイボーイだし。

「知と愛の出発」芦川.jpg 芦川いづみがのセーラー服姿がよくて(当時22歳だが)、ウェイトレス姿も可憐。これらが見られるだけでこの作品の価値があるという人も結構いるのではないかと思わせます。ただし、この主人公の女性、純潔の証明を自分を犯そうとした医師に求めたり、自分の躰に他人の血が輸血されたことに不潔感を覚えたり、ちょっと今の時代からすると理解しにくい部分もありました。

「芦川いづみ特集」.jpg 神保町シアターでカラーDVD上映。当時コニカラーというシステムでカラー作品として製作公開されましたが、現在では復元が難しく、長らくモノクロでの視聴しか叶わなかったものを、白黒プリントから4Kスキャンを行い、疑似カラーによって復元したもの。 神保町シアターで2015年に「恋する女優 芦川いづみ」特集で上映された際は、当時まだ白黒版での上映でしたが、今回の2023年版「恋する女優 芦川いづみ」特集でカラー上映となりました。

 美しい諏訪湖の自然がカラーで見られるほか、芦川いづみの入浴シーンの肌の色などもまずまず。一方で、室内シーンなどが意図せずにセピア調になってしまっていて色の出がイマイチだったりし、芦川いづみのセーラー服のスカートが風に舞うごとにその色がブルーに見えたり茶色に見えたりして、もう少し色ムラの補正もして欲しかった気もしました。

「誘惑」1957.jpg「誘惑」2.jpg「誘惑」●制作年:1957年●監督: 中平康●製作:高木雅行●脚本:大橋参吉●撮影:山崎善弘●音楽:黛敏郎●原作:伊藤整●時間:91分●出演:左幸子/芦川いづみ/千田是也/渡辺美佐子葉山良二/安井昌二/轟夕起子/中原早苗/殿山泰司/小沢昭一/二谷英明/宍戸錠/(以下、本人役)岡本太郎/東郷青児/勅使河原蒼風/徳大寺公英●公開:1957/09●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-11)(評価:★★★☆)

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「知と愛の出発」d.jpg「知と愛の出発」●制作年:1958年●監督:齋藤武市●企画:高木雅行●脚本:植草圭之助●撮影:姫田真佐久●音楽:鏑木創●原作:中村八朗●時間:93分●出演:芦川いづみ(綾部桃子)/川地民夫(南条靖)//宇野重吉(桃子の父・綾部健司)/中原早苗(桃子の親友・津川洋子)/白木マリ(同・河野恵美)/小高雄二(医師・三樹)/永田靖(靖の父・南条茂人)/夏川静江(靖の母・南条夏江)/「知と愛の出発」p2.jpg永井智雄(恵美の父、河野病院院長・河野秀樹)/利根はる恵(恵美の妻・河野順子)/廣岡三栄子(洋子の母・津川咲江)/二谷英明(雑誌記者)/清水マリ子(諏訪湖ホテルのアルバイトの少女A)/鎌倉はるみ(同B)/江端朱実(靖の妹・南条春子)/近藤宏(咲江の愛人・吉川)/河上信夫(雑誌記者の上司)/河合健二(記者)/鴨田喜由(バー「ナポリ」の客)/弘松三郎(自動車会社のセールスマン)/長尾敏之助(諏訪湖ホテルの支配人)/阪井幸一朗(ボーイ頭)/小柴隆(バー「ナポリ」の客)/堀江勇(都会の青年)/柳瀬志郎(同)/大須賀更生(同)/須藤孝(記者)/亀谷雅敬(桃子の弟・綾部満)/松原光一(都会の青年)/清水千代子(看護婦)/高田栄子(同)/菅乃梨子(同)/鈴木俊子(同)/佐川明子(同)●公開:1958/06●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-11)(評価:★★★)

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This page contains a single entry by wada published on 2023年4月28日 00:07.

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