【3469】 ◎ 佐宗 邦威 『理念経営2.0─会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』 (2023/05 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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「企業理念」の作り方、活かし方。教科書であると同時に、啓発書として読める本。

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理念経営2.0 ── 会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』['23年]

『理念経営2.0 }.jpg 本書は、会社の理想と戦略をつなぐ7つのステップとして、6つの経営資源(①ビジョン、②バリュー、③ミッション/パーパス、④ナラティブ、⑤ヒストリー、⑥カルチャー)とその生態系(⑦エコシステム)に着目しながら、自社なりの「理想」を現実的な「戦略」に落とし込むにはどうすればよいかを説いた本です。

 序章で、現代では、創業者が作った理念を一方的に浸透させようとしても社員にはなかなか響かず(理念経営1.0)、これからの企業理念は、「社長の誓い」ではなく、「みんなの物語」の源泉としての性格を持つようになるとしています(理念経営2.0)。その上で、企業理念とされるミッション、ビジョン、バリューとは何か、さらに、最近注目を集めているパーパスとは何かを概説し、以降、各章において、それらを含めた冒頭の7つのステップを詳しく述べていきます。

『理念経営2.0 1.jpg 第1章では、「ビジョン」とは「夢」であり、「私たちは将来、どんな景色をみたいか?」ということであるとして、ビジョンを具体化する上で効果的な要素を挙げ、それぞれ解説しています。第2章では、「バリュー」とは組織が大切にしたい価値観であり、「私たちがこだわりたいことは何か?」ということであるとして、バリューを言語化する際のポイントを紹介しています。

 第3章では、「ミッション/パーパス」とは「私たちは何のために存在しているのか?」ということであり、自分たちが社会に対して変わらず果たし続ける役割の意思表明なのだとして、それを作る際に重視すべき要素を挙げています。ここまでが、〈企業理念の作り方パート〉であり、第4章以降は、〈企業理念の活かし方パート〉になります。

 第4章では、「ナラティブ」とは理念を「自分ごと」として語り直すことであるとし、「個人のナラティブ」と「組織のナラティブ」を接続させるための5つのステップを紹介しています。第5章では、「ヒストリー」とは会社に埋蔵された「原点」を掘り起こすことであるとし、組織の歴史を定義し直して、新たな未来へのナラティブを生むことを奨めています。

 第6章では、「カルチャー」とは理念を体現する文化であるとし、組織文化を可視化する方法、理想的な組織文化を定義する方法、その行動への落とし込み方法を説明しています。第7章では、「エコシステム」とは理念を育てる「生態系」であるとし、それをどう作っていくか解説しています。

 理念経営1.0が創業者や組織の「答え=正解」を示すものだったとすれば、理念経営2.0の核心は「問い」にあるとし、ミッション、ビジョン、バリュー、パーパスなどの企業理念がすぐれたものであるかは、それが社員に対する「問い」として機能しているかどうかにかかっているというスタンスは、腑に落ちるものでした。

『理念経営2.0 2.jpg ミッション、ビジョン、バリューの相関関係をわかりやすく示しています。また、最近「パーパス祭り」とまで揶揄されるほど「パーパス経営」をテーマにした書籍などが多く刊行されていることを受け、その背景を探るとともに、ミッションとパーパスは似通っているとしながらも、その違いも解説しているのもわかりよかったです。

 企業が「利益を生み出す場」から「意義を生み出す場」にシフトしていくことが重要であるとし、企業理念こそが経営資源の核となり、社員が共感し、活かせる価値を生み出す源泉となるとしている点も示唆的です。教科書であると同時に、啓発書としても読める本でした。

《読書MEMO》
●ビジョン・バリュー・ミッション
①ビジョン:私たちは将来、どんな景色をつくり出したいか?
社員1人1人が、ビジョンを実現した状態をありありとイメージできて、それにワクワクし、毎日仕事に行くのが楽しみになる。それが本当の意味で「ビジョン」があるという状態だ。ビジョンを具体化するには、次の3つの要素を考えて、研ぎ澄ましていく。
解像度:人の生活の細部まで、未来の景色の解像度を上げる
広がり:様々な関係者にとって自分ごと化してもらえるものにする
時間軸:10年後より先の未来を考えてみる
②バリュー:私たちがこだわりたいことは何か?
バリューは組織を束ねる規範として機能する。様々な価値観を持つ人が組織の中で、優先させる価値観を明確にすることが必要になる。バリューは、未来の理想の価値観というよりは、現在の自分たちがありのままに心から信じていて、これからも信じ続けていきたい価値観を引き出して言語化する方が機能する。
価値観とは、人や組織が積み重ねてきた成功体験によって次第に形成されていく。そのため、自分たちの価値観にアクセスするには次の問いに答える。
組織における「最高の体験」は何か?
その際にどのように行動をしたか?
その行動を選んだのは、どんなことを大事にしているからか?
③ミッション/パーパス:私たちは何のために存在しているのか?
変化し続けるが、変わらない芯を持つ。そんな矛盾を解決するために必要なのが、自分たちが社会に対して変わらず果たし続ける役割の意思表明としての、ミッションやパーパスだ。ミッションの効用は、経営者自身も社員も、意思決定の優先順位で迷った時に立ち戻る原点になるということ。
ミッションをつくるには、自分たちの会社の事業が様々なステークホルダーに対して果たしてきた価値貢献を洗い出し、自分たちが最も大事だと思うコアの価値貢献を整理するプロセスが必要になる。そのためには次の3つが重要な要素となる。
どんな世界に価値があると信じているか?
どの領域で活動するか?
どんな役割を果たすか?


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