【3364】 ○ 内藤 琢磨 『デジタル時代の人材マネジメント― 組織の構築から人材の選抜・評価・処遇まで』 (2020/07 東洋経済新報社) ★★★★

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DX(デジタルトランスフォーメーション)実現のための人事・人材マネジメントモデル変革を提唱。

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デジタル時代の人材マネジメント: 組織の構築から人材の選抜・評価・処遇まで』['20年]

 本書の著者によれば、過去、日本企業は経営・事業のグローバル化や低成長経済下における事業構造改革の各局面において、日本型人材マネジメントモデルの抜本的な改革を先送りしてきたとのこと。一方でDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するために、高度なデジタルスキルを有するデータサイエンティストやAIエンジニアの処遇制度だけではなく、デジタル化による変化を主導するリーダー人材の育成や調達の仕組みはもはや待ったなしの状況にあるとしています。本書は、変革を先送りしてきた日本企業が、今後デジタル化を進める上でどのように人事・人材マネジメントモデル変革を進めていくのかを、豊富な事例を交えながら示したものであるとのことです。

 第1章では、デジタル化の現状を人材視点から総括し、デジタル化に対する多くの企業の取組みはまだ成果につながっておらず、そこには改革を拒む組織とヒトの問題があるとしています。

 第2章では。デジタル人材をめぐる処遇の勘所を取り上げています。デジタル人材を「ビジネス系デジタル人材」と「IT系デジタル人材」の2区分に分類し、ワークモチベーション調査の結果をもとに、デジタル人材のモチベーション要因や思考特性を分類ごとに分析しています。また、日本型人事制度を職能型・職務型・役割型に分類し、それぞれのデジタル人材の人材マネジメントとの親和性を考察しています。そして、職能型人事制度のような純日本型人材マネジメントモデルは既に機能不全化しており、見直しが迫られているとしています。また、デジタル化への不安から生じるコンフリクトを乗り越えるには、経営者のリーダーシップが鍵になるとしています。

 第3章では、DXを実現するために必要な組織・人材とは何かを深耕しています。エンジニアを獲得するだけではDXは実現できず、デジタルで経営のかじ取りができる「経営人材」、デジタルテクノロジーとビジネスを繋ぎ、ビジネスモデルの創出や業務プロセスの抜本的改革をリードする「ブリッジ人材」、そしてAIやビッグデータを操ることのできる人材を幅広く確保するための「デジタルビジネスの下地づくり」のすべてがこれからの企業には必要であるとし、そうした考えのもとに人材獲得戦略を繰り広げている先進・萌芽企業の例を紹介しています。

 第4章では「処遇制度」について述べています。デジタル人材の処遇においては、内部の既存の非デジタル人材との公平性やバランスの問題が生じることに直結しがちで、この困難な問題に対して、職務型の人事制度によって仕事に給与を払うことで、報酬水準を外部市場価値に連動させることが可能となるとする「外部市場価値連動型」職務給制度の導入をアプローチとして提案しています。また、有期雇用契約や業務委託などの形態も考えられること、さらには職務給と能力給のハイブリッド型の報酬制度などを、実際にそうした仕組みを取り入れている企業例も交えて紹介しています。因みに、事業の状況別アプローチとして、デジタル事業の創業期には、デジタル人材の質的充実のために「有期雇用形態」の活用を、成長・成熟期には、"出島組織"で「外部市場価値連動型の報酬制度」を、全社的にデジタルを志向する状況においては「職務給と能力給のハイブリッド型の報酬制度」を導入することを推奨しています。

 第5章では、「組織開発手法を活用した人事改革ステップ」について具体的に説明しています。そのステップとは
  Step1.トップが想いとコミットメントを持つ
  Step2.役員層を全体最適視点へ転換する
  Step3.経営陣でありたい姿から描く
  Step4.現場MG.共鳴型で巻き込む
  Step5.現場MGが双方向マネジメントへ転換する
  Step6.人事部がエンゲージメントをモニタリングする、
の6ステップであるとし(Step1~3がフェーズ1、Step4~6がフェーズ2)、それぞれのスッテプについて解説しています。

 本書を読んで、DXの実現に向けて人事面で対応していくということは、突き進んでいけば、これまで抜本的な改革を先送りしてきた日本型人材マネジメントモデルの見直しに自ずと繋がっていくとの思いを強くしました。デジタル人材を「ビジネス系デジタル人材」と「IT系デジタル人材」に分類して、特性の違いを分析しているのが興味深かったです。ともすると抽象論になりがちなテーマですが、SAP、サイバーエージェント、コニカミノルタ、大日本印刷など先進企業の制度事例が多く織り込まれていて、イメージを掴みやすく、具体的な示唆が得られやすかったように思います。そのまま、どの企業でも使えるというものでもありませんが、ひとつの示唆にはなるかと思います。

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