【3365】 ○ リセット・サザーランド/カースティン・ジャニーン=ネルソン (上田勢子:訳) 『リモートワーク―チームが結束する次世代型メソッド』 (2020/08 明石書店) ★★★☆

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社員の自律性と快適さを重視する新しい働き方としての「リモートワーク」を提示。

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リモートワーク――チームが結束する次世代型メソッド』['20年]

 本書は、リモートワークは欧米のIT業界が長く牽引してきたもので、そこで蓄積された膨大なメソッドは、他業種にも多くのヒントを与えてくれるとし、初級者、中級者、マネジャーにその方法論を伝えることを目的としたものです。

 第Ⅰ部「リモートワークの前提条件」では、なぜリモートワークをするのかについて述べ、リモートワークは職場に柔軟性をもたらし、時間志向ではなく成果志向の働き方を促進するとし(第1章)、さらに、リモートワークが雇用主にもたらす利益として、競争力強化のために必要な人材が確保しやすくなることなどを挙げています(第2章)。また、バーチャル領域でどう効果を発揮すればよいかについてのよくある質問に回答するともに、職場勤務の重要なメリットをオンラインでも再現する方法について紹介しています(第Ⅰ部番外編)。

 第Ⅱ部「リモートワーク実践ガイド」では、リモートで働く人に焦点を当てています。まずリモートワーク初心者について、リモートワークを始める前にどのようなスキルセット、ツールセット、マインドセットが必要かを述べ(第3章)、さらに中級者がリモートワークに磨きをかけるにはどうすればよいか、どうすれば自分でも、そして他者ともうまく働けるのかを述べています(第4章)。最後に、リモートワークの準備が整っているかどうかを決める手助けにする質問票を示し、その結果から、準備を整えるためには、具体的に何をすべきかが明確になるとしています。また、上司(やチーム)を説得する方法や、リモートの職探しといった、次の段階へ続く助言もあります(第Ⅱ部番外編)。

 第Ⅲ部「リモートチームのマネジメント入門編」では、経営者やマネジャーの視点から見たリモートワークについて検討しています。バーチャル領域に初めて踏み込もうとする企業や部署のために、それに備える方法を説明しています(第5章)、また、リモートワーカーを雇う方法についても説明しています。ここでは、トップリモートワーカーは、協調性があり、フィードバックを前向きに受け取れる優れたチームワーカーであるとして、そうした資質を面接でどう見抜くか、サンプル質問票を提示しています(第6章、第Ⅲ部番外編)。

 第Ⅳ部「リモートチームのマネジメント中級編」では、リモートワークにおいて効果的なコラボレーションを実現するにはどうすればよいか、リモートチームのマネジメントについて述べています。ここではまず、マネージャーがコミットしてチームの成功を信じ、メンバーが期待通りに仕事を成し遂げると信頼することの重要性を説いています(第7章)。さらに、チームを成功に導くためにはどのようなリーダーシップや方向性、ツールが必要か(第8章)、チーム間で効果的なコミュニケーションをするためにはどのようなルール決めをすればよいか(第9章)、効果的なオンラインミーティングを実施するにはどうすればよいか(第10章)、それぞれ述べています。そして最後に、各章で説明されている行動の手順を〈マネジャーの行動計画〉としてまとめています(第Ⅳ部番外編)。

 上意下達・ピラミッド式の従来の日本企業像をそのままに踏襲する「テレワーク」ではなく、社員の自律性と快適さを重視する新しい働き方としての「リモートワーク」を提示している点は評価できるかと思います。テクニカルな問題にも触れていますが、それ以前に、リモートワークの前提となるマインドセットの必要性を強調しています。

 ただし、結果的に、周囲との価値観の共有や配慮が重要であるといった、一般的な組織論、チームワーク論と変わらないものになったような気もします。たとえば、上司(やチーム)を説得する方法を説いている箇所(第Ⅱ部番外編)や、トップリモートワーカーは、協調性があり、フィードバックを前向きに受け取れる優れたチームワーカーであるとしている点(第6章、第Ⅲ部番外編)などがそうです(かつてのグローバルリーダー論が一般のリーダー論とそう変わらないものであったのと相似関係になっている)。

 また、インタビューの引用が多く、インタビューした人のリストだけで30ページ近く、英文の「註」も含めると60ページ近くあって、それらが全部文中に入っているため、"引用過多"のきらいも。その割には、皆、言っていることは「同僚に感謝を示そう」「同僚との関係性を強化しよう」といった抽象的な精神論であったりするので、今一つ読後の印象が弱かったようにも思います。

 と言うことで、メリット、デメリットが半々みたいな本でしたが、帯に「いま、仕事の質を変えるとき」とありょうに、職場勤務の重要なメリットをリモートワークでも再現するにはどういう問題を克服すべきかを論じることによって、日本企業における人々のこれまでの働き方をリフレクション(内省)するための気づきを与えてくれるという副次的効果はあったように思います。

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