【3401】 ◎ サンフォード・M・ジャコービィ (鈴木良始/堀 龍二/伊藤健市:訳) 『日本の人事部・アメリカの人事部―日本企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係』 (2005/10 東洋経済新報社) ★★★★☆

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組織重視指向の日本企業、市場重視指向の米国企業。今後、人事部の目指すべきは?

日本の人事部・アメリカの人事部2.jpg日本の人事部・アメリカの人事部.jpg日本の人事部・アメリカの人事部: 日米企業のコーポレート・ガバナンスと雇用関係』['05年]

 本書は、日米両国の大企業の事例研究および大規模調査をもとに、日本企業の人事部とアメリカ企業の人事部の、企業におけるその役割や位置づけの違いを検証したものです。

 第1章では、日米の大企業における雇用構造とガバナンス構造を比べています。日本企業は相対的に組織志向的であり、長期雇用、低い離職率、広範な教育訓練、平等、年功といった組織内配慮が、賃金や採用・昇進・異動の決定に大きな影響を与え、ステークスホルダー型ガバナンスと企業別組合がその組織志向性を支え、これらが日本企業の人事機能の高い集権的性格を補強してきたとし、一方、アメリカは、雇用慣行はより市場志向的になる傾向があり、短期雇用、高離職率、少ない教育訓練、市場水準など外部基準に基づいて決める賃金や採用・昇進・異動が特徴で、コーポレートガバナンスは株主を特権的に扱い、人事機能は日本のような集権性と影響力を欠いていたとしています。

 第2章では、巨大日本企業の人事部のこれまでの実態を探っています。アメリカの企業と比べ、日本企業はこれまでも現在も集権的であり、人事部は「影の実力者」としての地位と権力を有し、それは、組織志向の雇用の雇用政策、集権的な組織、企業別組合、ステークスホルダー型のガバナンスによってもたらされたとしています。

 第3章では、現代日本企業の内実を、6つの業界の代表的企業7社を通して見ていきます。そして、本社機能の縮小、株主志向のコーポ―レートガバナンス、雇用調整の実施など様々な変化が見られるものの、本社人事部の役割にはかなり安定性が残っているとしています。つまり、人事部は60~70年代に比べれば力を失っているが、依然として特権的な地位を占めているとしています。

 第4章では、アメリカにおける人事管理のこれまでを振り返っています。アメリカ企業の人事管理者の立場は、これまで強弱の揺れ幅はあったにせよ日本企業ほど強くはないままできたとしています。ただし、現在は、人事担当役員の権力強化に向けた2つのアプローチがあり、1つは、ビジネスパートナー・モデル(人的資源管理担当役員は役員室にいる財務担当者やそれ以外の分野を担当する役員と連携し、市場への配慮によって雇用政策は左右されるものの、分権化した事業部にオン・デマンドでサービスを提供)、もう1つは、資源ベース・アプローチ(高い熟練を持つ従業員が競争上の優位をもたらし、雇用政策は比較的組織志向で、人的資源管理は雇用に関して全社規模で同時に進行する特有のアプローチに基づきつつ、戦略的な結果を確保する役割を演じるもので、知的資本の重要性の増大などにより登場)で、敵対的買収の危険が小さい企業は、資源を従業員に向ける傾向が強くなるとしています。

 第5章では、二つのモデルがアメリカ企業の内部でどのような役割を果たしているか、5つの業界の5社を通して見ていき、アメリカでは人事担当役員の役割や本社人事部機能が多様であり、標準的なパターンは存在しないとしています。

 第6章では、(第3・5章がケース・スタディであったのに対し)日米両国の人事担当役員を対象とした大規模調査の結果を分析しています。調査データ比較による結論は、①アメリカでは、ステークホルダー志向の人事担当役員と株主志向人事担当役員との間には明確な隔たりがあり、後者は強い影響力を持つ、②日本の人事担当役員は、株主志向であっても見返りがあまり期待されず、この事実がアメリカへの収斂プロセスを遅らせる、③取締役構成などコーポレート・ガバナンスと人事政策のありようとの間には関係がある、としています。

 第7章では、日本では、近年市場重視への移行、株主重視のコーポレート・ガバナンス、上級人事管理者の役割の縮小が起きているが、経路依存性からその移行は緩慢であり、アメリカもまた、市場志向の極へ向かって移動しており、その変化はより広範囲で、二国間の格差はより拡大しているとしています。

 アメリカ企業の人事部と日本企業の人事部を、その歴史的推移から最近の傾向まで独自のアプローチにより分析したものでした。結論的には、人事戦略の面でも企業統治の面でも、日本企業が組織重視指向なのに対し、米国企業はより市場重視指向であり、日本企業にも市場重視指向の動きはあるがそれは遅いものであり、この傾向の差は広がりつつあるということになります。しかしながら、人事管理には、財務基準を重視して従業員をコストとみなす考え方だけではなく、知識社会化の進展の下、人的資本の高度化が競争上の優位性をもたらすとする資源ベース・アプローチがあるとし、このような側面をより強く持つ日本的経営を必ずしも否定的に評価していない点が興味深いところです。今後の日本企業の人事部の役割(今のままでいいのか)を考える上で、一読をお勧めします。

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