【3465】 ◎ 川村 孝 『職場のメンタルヘルス・マネジメント―産業医が教える考え方と実践』 (2023/03 ちくま新書) ★★★★☆

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メンタルヘルスに関する実務的知識を整理・点検、ブラッシュアップする上でお薦め。

『職場のメンタルヘルス・マネジメント』.jpg   川村孝.jpg 川村 孝 氏(京都大学名誉教授)
職場のメンタルヘルス・マネジメント ――産業医が教える考え方と実践 (ちくま新書 1714) 』['23年] 

 ベテラン産業医による本書は、精神医学の最新の知見をもとに、職場のメンタルヘルス問題にどう対応したらよいか、その予防も含め、実務から考え方まで、管理職や人事担当者が押さえておくべきポイントを解説しています。

 第Ⅰ部では、第1章で、会社側には安全配慮義務があり、労働者側には自己保健義務あることを確認した上で、第2章で、上司が部下に対して普段からどのように接するべきか、「笑顔で接する」「話をよく聞く」など8つのポイントを掲げています。この部分は、部下を持つ人が自身を振り返ってみるのにもよいかと思います。

 第3章では、著者の経験から得られた健康的な仕事術として、「とりあえず手をつける」「残業は朝やる」など7つのコツを紹介し、第4章では、就業管理に関する会社側への提案として、勤務形態に多様性を持たせることや役職を任期制すること、さらには、課長補佐をケア要員にするといったことなども提言しています。

 第Ⅱ部では、人間の心理特性について解説しています。第5章で、メランコリー親和型、神経発達症(いわゆる発達障害)、自閉症、注意欠如性などについて解説し、職場におけるそうした人への対応策を述べています。また、親の養育などによって生じるパーソナリティの歪みとその類型や、それによる周囲との軋轢から本人が病んでしまう「パーソナリティ症」について紹介し、どう対処すべきかを説いています。

 第6章では、抑鬱、躁、妄想、不安、不眠、ストレスなど、職場で見られるさまざまな精神症状について述べ、第7章では、不眠症や自律神経失調症、適応障害といった診断名からそれらを解説していますが、そうした診断名はあくまでも便宜的に用いられるにすぎないとも述べています。

 第Ⅲ部では、職場の制度としてどのようなものがあるか解説しています。第8章では、休職とは何か、復職の申請やその際の産業医との復職面談、試し出勤、リワーク・プログラムなどについて解説しており、いずれも人事担当者が押さえておきたい事項です。第9章では、労働安全衛生推進のために法律はどうなっているか、最近言われる「健康経営」とは何か、などについて解説しています。

 第10章では、一般健康診断、特殊健康診断、ストレスチェック、長時間労働対応など、企業が行う健康管理の実務について解説し、最終第11章では、産業医の特性とスタンス、その職務などについて述べています。


 第Ⅰ部では、上司が部下に対して普段からの接し方を通してケアを提供することの重要性が説かれていました。第Ⅱ部では、メンタルヘルス・マネジメント上、人事担当者が知っておきたい精神医学的な知識・知見が解説されており、第Ⅲ部では、職場におけるメンタルヘルス・マネジメントの実務について述べられていたように思います。

 上司とそれを支える人事担当者の両方を読者層として想定し、さらには、職場のメンタルヘルス問題に対応するためには医学と法律の知識が欠かせないという著者の考え方に沿った構成となっていました。精神医学の最近のトレンドも反映しており、メンタルヘルスに関する実務的知識を整理・点検、ブラッシュアップする上でお薦めです。

《読書MEMO》
●著者プロフィール
川村孝(かわむら・たかし)/1954年岐阜県生まれ。名古屋大学医学部卒業。社会保険中京病院、日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院、静岡済生会総合病院で内科診療に従事した後、愛知県総合保健センターで健診・健康増進業務に携わる。1993年より名古屋大学医学部予防医学教室助教授、1999年より京都大学保健管理センター所長・教授。現在、京都大学名誉教授。

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