【3483】 ◎ マイケル・ユシーム (鈴木主税:訳) 『九つの決断―いま求められているリーダーシップとは』 (1999/02 光文社) ★★★★☆ (○ ロン・ハワード (原作:ジム・ラヴェル/ジェフリー・クルーガー) 「アポロ13」 (95年/米) (1995/07 ユニヴァーサル映画=UIP) ★★★★)

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成功事例だけではなく、失敗したリーダーの事例もあるのがいい。

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九つの決断: いま求められているリーダーシップとは』['99年]

 本書は、それぞれのおかれた危機的局面で、重要な決断をし9人のリーダーをドキュメント風に紹介したものです。成功事例だけではなく、失敗したリーダーの事例も含まれているのが特徴的で、さまざまな立場でのリーダーたちの判断や行動を通して、企業リーダーなどに求められるリーダーシップについての示唆が得られるものとなっています。

 第1章で取り上げているのは、アフリカの風土病オンコセルカ症の撲滅に貢献した製薬会社メルク社のCEOロイ・ヴァジェロスの話です。彼は、開発中の難病特効薬が、研究費がかさむ一方で、それを必要とする人々には購買力がなく、会社に損失をもたらすかもしれないという状況下で、「健康を利益より優先させる」というメルク社の伝統的原則に沿って薬を開発して多くの人命を救い、最終的には社業の発展にも貢献しました。リーダーは「己(の役割)を知る」ことが、とるべき道を確信できるということです。

大村智 2.png 因みに、本書に特効薬の研究開発者としてその名が出てくるウィリアム・キャンベルとともに、共同開発者として'15年にノーベル生理学・医学賞が授与されたのが(残念ながら本書にその名前が出てこないが)大村智・北里大特別栄誉教授です。本書では、4万種のバクテリアの抗寄生虫性を確かめたところ、効果があったものは1種類だったとありますが、それが、大村博士が伊東市の川奈ホテルゴルフ場近隣の土から採取した新種の放線菌でした。
 
マクリーンの渓谷.jpg 第2章では、1949年にモンタナ州マン渓谷で起きたで起きた大規模な森林火災に立ち向かった森林消防隊長ワグナー・ドッジの話です。彼は、15人の部下とともに火の海に取り囲まれますが、"向かい火"というあえて足元に火を放つ手法で2人の部下と窮地を脱します。ただし、無口な性格から部下に自分の考えを説明しておらず、離反した残り13人の部下が焼死しました。リーダーには「己(の考え)を語る」ことが求められるということです。

 因みに、この話は、ノーマン・マクリーン著『マクリーンの渓谷 若きスモークジャンパー(森林降下消防士)たちの悲劇』という本になっていて、原著(原題:YOUNG MEN AND FIRE)は全米批評家協会賞を受賞しています。

マクリーンの渓谷 若きスモークジャンパー(森林降下消防士)たちの悲劇』('97年/集英社)

アポロ13 n.jpg 第3章では、1970年のアポロ13号の宇宙飛行で、故障した宇宙船を無事地球に帰還させるために全権を与えられた管制官ユージン・クランツの話です。ここでは、困難だが失敗が許されない状況で、解決策が見つかるという揺るぎない信念で危機を耐え抜いた例を引いて、あらゆる状況で最善をつくすことがリーダーの要件であることを伝えています。

アポロ13 .jpgアポロ13 2.jpg この話はアポロ13号の船長だったジム・ラヴェルらが『失われた月』(未訳)という本に著しており、ロン・ハワード監督により「アポロ13」('95年)というタイトルで映画化され、ラヴェル船長はトム・ハンクス、飛行主任ユージン・クランツはエド・ハリスが演じています。

 第4章では、1978年に女性の遠征隊を率いてアンナプルナの登頂を目指したアーリン・ブルームの話であり、最終的に頂上に挑むメンバーを誰にするかという彼女の決断を通して、メンバーの同意を得ることがリーダーの務めであることを伝えています。「大切なのは、私たちの誰かが頂上に登って、全員が無事下山すること、それだけだ」「普通の人びとが集まったグループでも、ビジョンを共有すれば、信じられないような挑戦ができ、実力をはるかに超えたことができる」という彼女の言葉が印象に残ります。

 第5章では、南北戦争のゲティスバーグの戦いの北軍指揮官ジョシュア・ローレンス・チェンバレンの話で、部下が全員札付きの上官反抗者であった状況において、彼が何から着手し、どのように部下の信頼を得たかが紹介されています。

クリフトン・ウォートン.jpg 第6章では、危機に瀕した米国最大の年金基金(教職員退職年金)を再建したクリフトン・ウォートンが、旧態依然とした巨大組織でのリストラをどのように進めたのか、第7章では、ソロモン社(ソロモン・ブラザーズ)のトップ(会長兼CE0)として部下の不正の報告を受けたジョン・グッドフレンドが、迅速な行動を怠ったためにその経営権を失い、ウォーレン・バフェットCEOに経営再建をゆだねることになった経緯が、第8章では、第三世界の女性のための銀行を設立したナンシー・バリーが、いかにして「自分の人生はこの仕事をするためにあった」との己れの天分を知るに至ったか、第9章では、エルサルバドルの大統領に選ばれたアルフレッド・クリスティアニが、内戦続きで荒廃した国を、交渉による同意を得ることで内戦を終結させた経緯が描かれています。

Privilege and Prejudice: The Life of a Black Pioneer』['15年]

 最後の結びで著者は、これらの事例から得られる最も重要な教訓は、ビジョンと行動がもつ圧倒的な意義であるとしています。また、「何人の部下をもっているかというだけの問題ではなく、部下のなかから何人のリーダーをつくれるかということも重要なのだ」とも述べています。

 先にも述べたように、成功事例だけではなく、失敗したリーダーの事例もあるのがいいです。〈凖古典〉となりつつある本で、もしかしたら入手が難しいかもしれませんが、小説を読むように読める本でもあり、リーダーシップの本質とは何かを探る上で一読をお薦めします。


アポロ13 う.jpg 映画「アポロ13」は、アポロ13号の打ち上げシーンがとにかく凄い迫力だった印象があります(レンタルビデオ全盛期で、映画館ではなくビデオで観たのだが)。熱風による遠景の揺らぎや船体から剥がれ落ちる無数の氷片など、当時の先端のCGテクニックがふんだんに使われていました(燃料の液体酸素と液体水素が冷たいため、燃料注入後の機体は冷たくなり、発射までの間にまわりに氷がつく。それが発射の時に船体から剥がれ落ちるのを、一つ一つをCGを使って表現したそうだ)。ドラマ部分では、NASA指令センターのエド・ハリスが良かったです。

アポロ13 (4K ULTRA HD + Blu-rayセット) [4K ULTRA HD + Blu-ray]
アポロ13 d4k.jpgアポロ13 4.jpg「アポロ13」●原題:APOLLO 13●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ロン・ハワード●製作:ブライアン・グレイザー●脚本:ウィリアム・ブロイルス・Jr./アル・レイナート●撮影: ディーン・カンディ●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作:ジム・ラヴェル/ジェフリー・クルーガー●時間:140分●出演:トム・ハンクス/ケヴィン・ベーコン/ビアポロ13 3.jpgル・パクストン/ビル・パクストン/ゲイリー・シニーズ/エド・ハリス/キャスリーン・クインラン/ローレン・ディーン/ミコ・ヒューズ/ジーン・スピーグル・ハワード/トレイシー・ライナー/メアリー・ケイト・シェルハート/クリス・エリス/ザンダー・バークレー/クリント・ハワード/ベン・マーリー●日本公開:1995/07●配給:ユニヴァーサル映画=UIP(評価:★★★★)

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)

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